本部

半魚人と後悔と

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/27 10:23

掲示板

オープニング

●予知夢にて
 暗闇の中、赤い血が飛び散る。
 逃げ回る人達が傷つき倒れていく。
 どの顔も恐怖に歪み助けを求める声が響き渡る。
 一週間前に見たのと同じ光景。
 これはまだ起こっていない光景。
 だから目を逸らさない。
 どんな小さなことも見逃さない。
 だけど、今回も襲い掛かる者達の姿は見えない。
 複数いるのは分かる。
 同じような影が幾つか見え、そのうち一つは一回り大きいように見える。
 だけど、その姿は闇に紛れて判然としない。
 聞こえるのはその影が砂を蹴る微かな音と、肉を裂き骨を砕く咀嚼音。
 それに、襲われた人達の悲鳴と断末魔。
 それでも目を逸らさず、耳を塞がず見続ける。
 今度は助けるために。
 やがて暗闇に光が差し込む。
 それは月光だろうか?
 その微かな光が大きな影に光を投げかける。
 うっすらと輪郭が見える。
 二本の足に二本の腕、人のように見えるがその体は闇に沈むような影の色をしていて、その顔は人とは似ても似つかない。
 耳元まで開きそうな大きな口には何でも噛み砕けそうな鋭い歯が並び、首元にはまるで襟飾りのような目立つ魚のエラが見える。
 頭髪の無いつるりとした顔に埋まった二つの瞳はまるでビー玉のように無表情で何を考えているのか見出すことは出来ない。
 その瞳がこちらを向いたように思う。
 そいつが手にした銛の様な武器を持ち上げる。
 銛の先端は真っ直ぐにこちらを向いている。
 投げられた銛が私の体を通り抜けて私の背後で悲鳴が聞こえた。

●移動する船上にて
「最初の事件は一週間前でした」
 高速艇の中に設置されたブリーフィングルーム。
 案内役のオペレーターの女性、イリス・アーネットがそう言ってスクリーンに写真を展開する。
 木造の小屋は壊され見渡す限り赤黒い血の海が広がっている光景。
「被害者はこの島と……隣の島に住む五家族、五十三名」
 イリスの声がほんの僅かに震えたように思えるが、その表情は固まったように動かない。
「わずかに残っていた肉片と事前情報を合わせて検討した結果、骨まで残さらず食べ尽されたのだろうという結論に至りました」
 切り替わったスクリーンには一握りにも満たない僅かな肉片と骨片が映し出される。
 従魔がライヴスを得る方法は様々だ。中にはこうして食べることでライヴスを得る物も存在している。
 映し出された映像に一度も視線を動かさないままイリスは言葉を続ける。
「確実に分かっているのは敵が夕暮れから夜明けまでの間に村を襲った事だけです」
 目撃者も残されていない今の状態では他の情報はどれも推測に基づくものであると断ってイリスは言葉を続ける。
「敵は半魚人のような従魔と考えられています。水中陸上共に活動できる体を持つようです」
 画面に様々な人型の半魚人の姿が映し出される。
 それは伝承であったり、過去に別の場所で討伐された愚神や従魔であったりの資料画像ばかりである。
「闇に紛れるような黒い体色をしている可能性が高いですが、これも予測にすぎません」
 最後に一枚だけ表示されたのは誰かが描いた手書きの半魚人であった。
 大きな口と無表情な丸い瞳、首元に目立つエラを持つ黒い半魚人。
「これも非確定情報ですが、敵は指揮官と思われる大きな個体一体と、複数の一回り小さな個体の集団のようです」
 さらに、その大きな個体は武器を持っている可能性もあるという。
 実際、現場に残された痕跡からも何か刃物のような物が使われたような事も分かってはいる。
「前回」
 そう口にした瞬間、今まで崩れることの無かったイリスの表情が崩れる。
 彼女は前の作戦にもオペレーターとして参加していたという。
「前回は、誰も守れませんでした」
 震えを抑え込むように両の手を握りしめてイリスは平静な顔を作る。
 その表情はさっきよりも固く、ぎこちない。
 詳しくは知らされていないが、前回も予知夢という形で事件は予言されていたらしい。
「島民を全て避難させ、その島で迎え撃つ体制を整えていました」
 必死に平静の仮面を保とうとしているがその顔に後悔と恐怖が徐々に滲んでくる。
「ですが、敵は来ませんでした」
 予知夢では元々どの島かは分からなかったそうだが、見えていた島民から島を特定した段階で全員がある勘違いを起こしたのだ。
 
 その島が襲われる、と。
 
 予知夢を正確に解釈すれば島が襲われるのではなく島民が襲われるのだと気付けたはずだった。
 彼女の顔に浮かぶのはその後悔だろう。
「そして、翌朝。私達が避難先の島を訪れた時にはもう誰も残ってはいませんでした」
 敵はその避難先の島を襲った。
 彼女らは誰一人助けられなかったどころか、もしかしたら死なないはずだった人すら殺したのかもしれない。
 予測された未来を最悪の形に変えてしまったのかもしれない。
 その罪の意識はその時関わった全員の心に傷を残した。
「今回は誰も死なせたくありません」
 平静の仮面を保つことが出来なくなりイリスは顔を伏せるように視線を落としてそう口にする。
「今回の保護対象者は全部で二十三名、島は絶壁に囲われていて、村のある入り江以外には普通に上陸する場所はありません」
 心の変化を声に乗せないままイリスは言葉を繋いでいく。
 画面が切り替わり島の外形を映し出す。
 ほぼ丸い島の南東部に虫食いのような形の小さな入り江がある。
 砂浜の長さは約二百メートル、小型の船しか入れないような小さな入り江だ。
 その入り江のすぐ側に村はあり、島の大部分を覆う森から採れる僅かな恵みと漁で生活しているのだという。
「島に電気は通っていません。発電機と投光器、それに夜間戦闘用の暗視ゴーグル等出来る限りの装備はこちらで準備しています」
 平坦な声と肩を落とし視線を俯けたままの姿が彼女の大きな後悔と覚悟を物語っているように思える。
「島への到着は昼過ぎになります。日没まで数時間しかありません。出来る事は限られるかもしれませんが、私達も協力します」
 映像が再び切り替わる。
 それは、島の資料写真だった。
 上空から移した青い太平洋に浮かぶ小さな島の姿。
 絶壁と言っていい高さが二十メートルは有りそうな島を囲む崖に巣をつくる鳥の群れ。
 緩く湾曲した浜辺に引き上げられた船の傍らで漁に使う網を繕う男達。
 簡素な木の小屋の外で談笑する女達。
 砂浜から続く岩場に登って数メートル下の海へと飛び込んで遊ぶ子供達。
 透き通るような青い水の入り江の中を泳ぐ男の子。
 村の背後に迫る島を覆う森で遊ぶ女の子達。
 順に映し出される島の地形や様子の写真にはどれも穏やかな光景が写り込んでいる。
「もうあんな後悔はしたくないんです」

解説

●目標
・島民を敵から守る。

●敵
・半魚人型の従魔。
・指揮官タイプ:体が一回り大きく、投擲できる銛を装備。
・兵隊タイプ:海賊のような曲刀装備と銛装備が半数ずつ。
・兵隊タイプは参加PLと同数です。指揮官は一体なので全部でPL数より一体多い事になります。
・水陸両用で水の中も陸上も同じように活動できる。
※敵に関する情報はOPで公開した物以外は全てPL情報ですが、戦闘が始まればすぐに分かる事です。
 OPの予知夢の内容は同じ物を資料として読んでいます。

●イリス・アーネット
・H.O.P.E.一般職員。二十五歳
・前回の作戦時もオペレーターだった。

●予知夢
・予知夢にエージェントの姿はありません。よってすでに未来は変わり始めています。
※襲撃先が変わる未来は想定しなくて構いません。

●島
・周囲を高さ二十メートル前後の崖に囲われた小さな島。
・人の上陸手段は南東部の入り江のみ。
・砂浜の周りは木もまばらで人が生活するに適しているが、島の大部分は森のように木に覆われている。
・村のある浜から森は徐々に高くなっていくので島の端の断崖の上には森を抜ければ容易に行くことが可能である。
・砂浜の両端は岩場になっているがそこから断崖に登ることは難しい。

●村
・木造の簡素な小屋が三つ。
・村の住民は二十三名、全員予知夢に姿が見えている。
・エージェント達の集合前に出発したH.O.P.E.スタッフにより説明は済んでおり協力的である。

●持ち込み品
・夜間戦闘に必要な装備、及び発電機や投光器といった物は全て準備されています。
 ショップで手に入る物はAGW類を除き一通り手に入ります。
・発電機はガソリンタイプです。一晩使用できるだけの燃料は有りますが、それなりの騒音もします。
※発電機と投光器以外はプレイングにない限り使用した事となりませんので注意してください。

リプレイ

●待ち伏せ
『主、敵です』
 隠鬼 千(aa1163hero002)の声に三ッ也 槻右(aa1163)が顔を向けると海から上がって来る魚人の姿が見える。
「来ました。数は五体です」
 森の中に身を潜めたまま暗視ゴーグル越しに見える敵を確認して通信機を通じて仲間たちに呼びかける。
 ギョロリと丸い無表情な目で周囲を警戒するように見回しながら魚人達が浜に上がる。
「武器は曲刀が二、銛が三です。情報通り銛を持った者のうち一体は他より大きな体をしています」
 三ッ也の敵発見の報告を受けて
「鷹の目を使います」
 紫 征四郎(aa0076)が確認と警戒をかねて鷹の目を使う。
『クマタカであるな、あれが一番速い』
 ユエリャン・李(aa0076hero002)の言葉に従い紫はクマタカを作り出し飛び立たせる。
 浜辺に上がった敵の数は五、それ以外には浜辺に魚人の姿は無い。
「海岸に他の敵の姿はありません。崖の方を確認します」
 クマタカを浜の上で旋回させた後、島の岸壁の警戒に向かわせて紫は魚人に近い小屋の影に身を潜ませる。
「こっちも見えた」
 魚人に一番近い南側の小屋の近くの木の上に隠れている荒木 拓海(aa1049)もその姿を確認する。
『警戒……されてるわよね』
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)の言う通り一定の間隔を取って周囲に視線を向けながら移動する様子は無防備な獲物に襲い掛かるといった感じではない。
「やはり、見られていたのだろうな」
 北側の小屋の周りを警戒しながら海神 藍(aa2518)はそう言って昼間に聞いた話を思い出す。
 島民たちに聞き込みをして得た情報の中に子供達が海で見た黒い人影が有った。
 泳ぐのが早く詳細は不明だったが、おそらくそれが魚人達の斥候だったのだろう。
「警戒はされていても見つかってはいないみたいです。こちらから仕掛けます」
 小屋に近づく魚人達との距離を確認して荒木が声をかける。
 魚人たちが向かう南側の小屋だけは明かりが洩れている。
「ライトアイを使います」
 シールス ブリザード(aa0199)の言葉に暗視ゴーグルを外し、発動したライトアイに視界が明るくなると同時に荒木がSVL-16を発砲する。
 奇襲となったその狙撃が先頭の一体を撃ちぬく。
 その一撃で致命傷とはならなかったが足を止めさせるには充分だった。
 荒木の潜む木の方へ視線を向けた敵の側面へ小屋の陰に隠れていた紫が飛び出す。
『後悔は苦い。排除しよう、今のこれを教訓にする必要は無い』
 ユエリャンの言葉に
「はい! ここにいる皆で、明日を迎える為に!」
 そう応えて紫はスカーレットレインを大きな魚人へと向ける。
 撃ち出される銃弾は魚人の鱗を穿つがすぐに別の魚人が紫に斬りかかって来る。
「せいちゃん!」
 その攻撃をスカーレットレインで受け止めた紫に荒木が声をかけて木の上から飛び出す。
 荒木の声に紫は組み合った曲刀を弾きスカーレットレインを傘のように広げ、高強度特殊繊維の生地で投げられた銛を弾く。
 魚人達の真ん中に着地した荒木が魔剣「カラミティエンド」で中央の大きな魚人に斬りかかる。
 だが、その攻撃は割り込んできた魚人の曲刀に遮られる。
 組み合うのを嫌うように下った荒木に誘われるように曲刀の魚人が前に出る。
 荒木と紫、正面に注意の向いた魚人の背後から三ッ也が襲い掛かる。
 だが、三ッ也の礼装剣・蒼華の刃は振り返った大きな魚人の銛によって受け止められた。

●不安
 聞こえてきた戦闘の音に島民たちが不安そうに顔を上げる。
「大丈夫ですよ。彼らが守ってくれます」
 不安そうな島民たちにイリスが声をかけるが、そのイリス自身の声も震えている。
 昼間、この小屋で
「大丈夫、絶対守っちゃうんだから!」
 そう言って話をするだけで不安を取り除き落ち着かせていた木霊・C・リュカ(aa0068)とは大違いである。
「大丈夫だよ、イリスお姉ちゃん」
 腕に触れた小さな手の感覚に視線を向けると女の子がイリスを見上げて笑顔を見せている。
「征四郎お姉ちゃんが絶対に守ってくれるよ。そう言ってたもん」
 明りが外に漏れないように小屋の内側に張った模造紙は子供達と紫が一緒に描いた絵に覆われている。
「怖かったらこれに話せばいいんだよ」
 別の子がスマートフォンをイリスに差し出す。
 たった数時間の間一緒にいただけなのに紫はこんなにも子供達に信用されている。
「俺達だってお姉様といっしょに罠をしかけたんだ。絶対大丈夫だって」
 男の子の言葉にイリスは島に来た時に話していた紫とユエリャン達の会話を思い出す。

「こういう時ユエリャンは何て呼ぶのが自然ですかね。父さまではないし……」
 敵に気付かれない様に観光客を装うことにした紫の言葉に
「お姉様であるぞ」
 ユエリャンがそう応える。
「お姉……?」
 思わず声を上げてしまった紫の言葉には取り合わず。
「美人姉妹だと噂されてしまうな! そう思うだろう、色男」
 ユエリャンはリュカに声をかける。
「じゃぁ、お兄さんはせーちゃんのお兄様ですね」
 リュカの言葉に今度は別の意味で慌てたように紫が言葉を失う。
「マスターが兄とか、征四郎さんが困っているでしょう」

 あの時、凛道(aa0068hero002)の言葉に慌てたように何か言おうとした紫の姿を思い出してイリスにも笑みがこぼれる。
「そうね、大丈夫ね。ありがとう」
 イリスはそう言って小屋の外、見えない戦場に視線を向ける。

●分断
『小屋に近づく奴がいる。注意してくれ』
 99(aa0199hero001)が紫と荒木の間を抜けてくる魚人の姿に通信機に呼びかける。
「僕が行きます。シールスさんも藍さんもそのまま警戒をお願いします」
 そう声をかけて小屋を回って飛び出す凛道にシールスのリジェネーションが届く。
『さ、ここが背水の陣ってやつだね。気合入れてくよ!』
 思考の中に響くリュカの声に
「了解しました、マスター。全力をもって首を撥ねます」
 そう応えて凛道が体に下げた懐中電灯の明かりをつけて目に入った魚人にグリムリーパーを振るう。
 小屋の影から突然現れた凛道の大鎌に驚いたように魚人が大きく跳び下がるがオーバーランスの効果により出現したライヴス刃がその胴に横一文字の傷をつける。
『火も光も恐れないみたいだね』
 小屋の前に置かれた松明の篝火に目を向けてリュカの意識が凛道に声をかける。
 松明の明かりの中に姿をさらしている魚人の黒い体に刻まれた傷からは血が流れ出る様子は無い。

『兄さん、今何か光りませんでした?』
 禮(aa2518hero001)の言葉に海神が示された方向に視線を向けると、シールスが島民達と設置していた監視用ブイが放つ光が見える。
 距離はかなり遠く、浜の南の端の辺りである。
「……既に島内に潜伏されている可能性も捨てきれない、か」
 光るブイの位置はかなり浜に近い。
『ええ、海だけ見てると危ないです、陸の方も警戒しましょう』
 禮の言葉に海神は森の方へ目を向けて通信機に別動隊の可能性を伝える。

「分が悪いですね……」
 二体の魚人が繰り出す攻撃を凛道は何とか防いでいるが手数の違いで既に体には幾つもの傷が刻まれている。
 さらに大きな魚人と対峙する三ッ也だけでなく紫と荒木も魚人に誘導されるように小屋から引き離されつつある。
「ライトアイ、効果切れるよ!」
 シールスの警告が響くが暗視ゴーグルに切り替える時間は与えてもらえそうにはない。
『主、投光器です』
 大きな魚人の攻撃を受け流す三ッ也に隠鬼が声をかける。

●誓い
「……という物を作りたいんですけど、どうですか?」
 ワイヤーと投光器を連動させた罠の説明をした三ッ也にH.O.P.E.のスタッフが考え込むように宙を見つめる。
「船の部品を使えば何とか……」
 H.O.P.E.スタッフや島民達と一緒に相談を始めた三ッ也の側から隠鬼が離れる。
 その気配に気づき三ッ也が視線を向けると荷物を運ぶイリスを追いかけていく隠鬼の姿が目に入った。
 立ち止まったイリスにどう声をかけるか迷うように一度立ち止まって隠鬼はイリスの服の裾を引く。
「隠鬼さん……何か?」
 じっと見つめる隠鬼にイリスが困ったように首を傾げる。
「私、まだ分からない事多くて……見ている辛さ想像してみたけど、想像しきれませんでした」
 話しはじめた隠鬼の言葉にイリスは少し驚いたように表情を変える。
「私は……貴女みたいな人の”刀”でありたいです。全力、尽くします」
 そう言った隠鬼にイリスは優しく微笑むと
「お願いします。私に代わって島の人達を救ってください」
 そう応えて頭を下げる。
 そのイリスにどうしていいか分からない様子で隠鬼がこちらを向くのを三ッ也は気付かない振りで横目で見ながら
「頼もしくなったなぁ」
 そう呟いて自分の白い機械の足に目を向ける。
「うん、犠牲者なんてもう二度と……」
 その足を見つめながら三ッ也も心に誓うように言葉を口にする。

●決意
 視界の端に投光器の罠へ続くワイヤーを捉えて三ッ也はロストモーメントを発動する。
 魚人の銛が体を傷つけるのを無視して幾つも展開した武器が魚人の体を穿つ。
 その攻撃で押し返すように強引に魚人から離れると
「明かりをつけます!」
 声を上げて三ッ也が張り巡らされたケーブルを引く。
 森の中の投光器が一斉に点灯して村を照らす。
 急激な明かりに目が眩むように魚人の攻撃の手が緩み、紫と荒木も一度魚人から距離を取って小屋の前に戻る。
 逆に凛道と戦っていた二体の魚人は不利な状況を避けるように小屋の前を離れる。
「まるで、誘っているようですね」
 紫の言うように魚人達はすぐには攻めて来ずに待ち構えるように対峙している。
「別動隊も気になりますし、僕達も動けません」
 シールスの言う通り別動隊の可能性も有る以上戦力は分けざるを得ない。
「敵の思惑の中で動く必要はないのではないか?」
 構えていたスカーレットレインを傘を持つように持ち直してそう言った紫の雰囲気が大人びた色気に代わる。
「守るべきは人であって、その住処ではないではないのだろう?」
 ユエリャンの言葉に背にかばう小屋に視線を向ける。
 その小屋からは今も穏やかな話し声や人の動く音が流れてきている。
「敵は小屋よりもこちらを優先して襲ってきています。もしかしたらバレていて利用されているのかもしれません」
 凛道の言葉に判断を下すよりも先に森の中で鳴子のなる音が響く。
 その音に反応した凛道の動きを遮るように銛が飛んでくる。
 さら救援に向かうのを妨害するように魚人達が突然襲い掛かって来る。

「やはり別動隊がいたのですね」
 シールスは音のした方に視線を向ける。
 森の中は闇に沈んで見えないが昼間子供達と一緒に鳴子を仕掛けながら森を歩き回って地理は把握している。
『このルートなら罠が有る』
 99の言うようにユエリャンと島民が設置した罠の位置を記した地図には音のした付近に印がある。
「藍さん、北側の小屋付近に出てきます」
 罠でダメージを与えることは出来ないが進路を誘導することは出来る。
「了解だ」
 シールスに応えて海神は走り出す。
 横を駆け抜けた小屋の中にはこの島の島民たちが隠れている。
 ここを襲わせるわけにはいかない。

●誇り
「いい島だね」
 この島に降り立った海神の最初の感想はそれだった。
「兄さん、すごい綺麗ですよ!」
 海を覗き込んではしゃいだように声を上げる禮の様子に海神の表情も緩む。
「……禮、護ろう」
 どこか不安げな島民たちの表情に視線を向けて海神が禮に声をかける。
「ええ、止めて見せます、絶対に」
 思いの外強い口調で返って来た禮の言葉に海神はその頭の上の銀の冠に目を向ける。
 銀の冠と同じようにその言葉には禮の誇りが詰まっているようだった。

●暗闇
「必ず、護ろう」
 もう一度口にして海神は森の暗闇の中の気配に意識を凝らして魔導銃50AEを構える。
 突然海神の左腕が跳ね上がる。
 森の暗闇から飛び出してきた銛を青春のグローブが受け止めたのだ。
 どこからともなく響く「バックホーム!」という叫びに体が勝手に銛を投げ返す。
 丁度その軌道上に飛び出してきた魚人がいた。
 その魚人が銛を曲刀で弾き足を止める。
「敵確認、二体だ」
 通信機に声をかけて対峙する。
 弾かれた銛は後から出て来た魚人が拾い上げて構える。
「黒い魚人……黒鱗の人魚がお相手しましょう」
 零れ落ちたその禮の言葉は戦士の気配が満ちている。
「伏兵の警戒を頼んだ」
 シールスに声をかけて海神は魔導銃を曲刀の魚人に向けて放つ。
 その銃弾を横に避けた曲刀の魚人と銛の魚人の位置が近づく。
「あまり時間を掛けられないのでね」
 二体の魚人を巻き込んでブルームフレアが炸裂する。
 燃え盛る炎が魚人の黒い体を炙り、続けて飛来した矢が魚人の足を射抜く。
「援護しますよ」
 屋根の上から周囲に目を配りながらシールスが九陽神弓に矢を番える。
『小屋を狙っている!』
 99の声が響く。
 足を射抜かれた魚人が小屋に向かって銛を放つ。
「必ず僕たちが傍で守ります。そう言ったんです!」
 屋根から飛び降りたシールスが銛をその体で受け止める。
「ぐぅ……」
 体を貫いた銛の痛みに溢れそうになった悲鳴を噛み殺す。
 ここで声を上げれば小屋の中に届いてしまう。
 魔導銃で魚人達を牽制しながら海神がシールスに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
 かけられた言葉に
「僕は男ですからね」
 そう言いながら自身にケアレイをかけてシールスは立ち上がる。
 完治とはいかなくてもこれで動くことに支障はない。
 二体の魚人はその間に森に戻ると投光器の電気線へと手をかける。

 突然明かりが消える。
「線を切られた!」
 シールスの声を聞きながら紫は暗視ゴーグルを装備する。
 その僅かな間に迫って来た魚人の曲刀をスカーレットレインを広げて弾き、傘の影を利用して紫は大きな魚人と組み合った荒木に向かって飛び出す。
 凛道と三ッ也は間に合ったようだが、荒木の暗視ゴーグル上がったままである。
 鍔迫り合いのように組み合って動けなくなった荒木に背後から迫る魚人を猛爪『オルトロス』の蹴りで牽制するが、それで紫の足も止まる。

「鮫が元の従魔なら動けなくなると窒息とか……」
 噛み合った魔剣と銛の柄の押し合う悲鳴のような音を聞きながら荒木が言葉を零す。
 暗闇に視界を奪われた今の状態で離れれば不利だがこうして組み合ったままでも埒が明かない。
『ここ陸よ? それよりも鼻先が弱点かも』
 メリッサの言葉に荒木は目の前のぼんやりと見える魚人の鼻先に目を向ける。
「それなら……!」
 その鼻先に荒木が頭を叩き付ける。
 予想外の攻撃に魚人の力が僅かに緩む。
 その隙を逃さず魔剣を大きく振り抜いて荒木は魚人を押し下げる。
「世界蝕以降、従魔に喰うか喰われるかは、自然が新たに作った節理だと思う」
 暗視ゴーグルの視界に浮かぶ魚人に向けて荒木が声をかける。
「だけど、食われる側にも意思があって生き方は選べるんだ。黙って餌になる気はないし、見逃す気もない」
 そう言いながら荒木はメリッサとイリスの会話を思い出す。

●心
「それじゃぁ、願いします」
 小屋の偽装に必要な物のリストを渡した荒木に
「分かりました」
 と応えたイリスの表情はどこか暗く硬い。
 これから襲われる島民たちの緊張や恐怖は誤魔化すことも出来るが後悔はそう簡単にどうにかなる物ではない。
「あなたは折れなかったわ」
 沈んだ顔のイリスにメリッサが声をかける。
 その言葉に顔を向けたイリスにメリッサは微笑んで見せる。
「だから今から23の命が助かるのよ」
 その自信に満ちた言葉に少しだけイリスが笑顔を見せた。

●討滅
『本能に従い食べる事が、人に向くなら止めるわ。……あの子達が怖いと震えず済むように』
 メリッサの言葉に荒木は剣を持つ手に力を込める。
「そして、皆がもうあんな顔をしなくて済むように」
 期せずして一か所に寄る形になった五体の魚人に荒木が怒涛乱舞を叩き付ける。
「オレがこっちを引きつけます。先ずはあっちをお願いします!」
 荒木の言葉に
「お願いします」
 即座に凛道が身を翻して北側の小屋の方に駆けだす。
「すぐに戻ります。無茶はしないでください!」
 その後を追って紫も駆け出す。
「拓海!」
 三ッ也のインタラプトシールドが荒木の背後から斬りかかった魚人の攻撃を弾く。
 荒木は親友である三ッ也に少しだけ視線を向けると正面の魚人に切り込む。
 何も言わずともその背後をカバーするように三ッ也が動く。

 投光器の明かりが消えると同時に森から魚人が飛び出してきた。
 シールスのライトアイのおかげで大きく開いた魚人の口に並ぶ鋭い牙まではっきりと見える。
 海神の魔導銃が魚人の体を穿つが勢いは止まらず覆いかぶさるように魚人はシールスに組み付いた。
「行ってください! こっちは囮です」
 海神に向けてシールスが声をかける。
 その視線の先にもう一体の魚人が小屋へと向かう姿がある。
 一瞬だけ迷うように動きを止めたが海神はすぐにもう一体の魚人へ向けて走り出す。
「やらせはしない、たとえお前たちが存在する為であろうとな」
 小屋に迫る魚人に走る勢いを止めないまま海神はトリアイナ【黒鱗】を突き立てる。
 だが、三叉の間に挟まれた魚人の曲刀により僅かに致命傷に届かない。
「そのまま抑えてください!」
 聞こえた声に逃げようとする魚人を海神の腕が掴む。
 海神の背後から跳躍した紫の蹴りが上から突き刺さるように魚人を頭部を粉砕した。

 迫る魚人の咢を押し返すシールスの腕に魚人の爪が喰い込み血を滲ませる。
 大きく開いた口の中はまるで虚無のように見通すことが出来ない。
 仄かに照らしていた月光に暗い影が差した。
 魚人が背後の気配に意識を取られほんの少しだけ力が弱まった隙にシールスは体の間に足を入れて魚人を引き剥がす。
 押し上げられるように立ち上がった魚人の上半身から背後に立った影、凛道のグリムリーパーが首を断ち斬った。

 五体の敵が繰り出す攻撃を荒木と三ッ也は何とか避けていたが、さっきまで守っていた小屋は壁が破られ中に転がるマネキンと壊れたラジカセが見える。
 その小屋は荒木が提案した囮の小屋で住民は全員他の二つの小屋に隠れてる。
 繰り出される銛を受け流した三ッ也の前を淡い輝きを放つ幻影の蝶が横切る。
 いつの間にか辺りに何匹もの蝶が舞っていた。
 月光の浜辺に舞う幻想的な蝶が弾け、魚人達が狼狽するように注意を散らす。
 それは海神の幻影蝶だった。
 大きな魚人がまとわりつく蝶を振り払うように頭を振り、狼狽する別の魚人から曲刀を奪う。
 その目の前に幾つもの刃が浮かび上がる。
 次々と攻め寄せる刃を魚人は曲刀と銛で防ぐが、その数に対応しきれなくなり曲刀が弾き飛ばされ銛も弾き上げられる。
 エリアルレイヴにより防御を崩した魚人の胴を凛道がグリムリーパーで切り裂く。
 だが、魚人はまだ立っていた。
 その額の真ん中に矢が突き刺さる。
 半ばまで頭蓋を貫いたシールスの矢に魚人はゆっくりと仰向けに倒れた。
「今度は人を襲わず生きれる形で生まれておいで」
 幻影蝶により我を失った最後の魚人を荒木の魔剣が斬り倒し戦闘は終了した。

●日出
 朝日が昇り浜に陽光が差し込む。
「終わったんだよね?」
 シールスが疲れたように呟く。
 予知夢の襲撃は夜だった。
 少なくとも予知夢の再現だけは回避できたと考えてよかった。
「だが、53名も食らうにしては数が少ない。……本当にこれで全てなのだろうか?」
 海神がそう口にする。
「何にせよ、依頼は果たした。後の事は後で考えればよいだろう」
 共鳴を解いたユエリャンの隣の紫は眠いのを我慢するように目をこすっている。
「そうですね。とりあえずは無事に守れたと言う事を喜びましょう」
 そう言ったシールスの視線の先には小屋から出て来る人達の無事な姿があった。

●供養
「……予知夢が今日の話では無かったら寝覚めが悪いな、本部に警戒を具申してみようか」
 小屋の修理を手伝いながら海神がそう口にする。
 傷は回復薬で癒したが徹夜の眠気が消える訳では無い。
「そうですね。せめて恐怖が薄れる時期までは滞在して助けたいですね」
 すぐ隣で作業していた荒木もそう応える。
 全員何か話していないと寝てしまいそうなのだ。
「鳴子みたいな罠だけでもこのまま続けた方が良いだろう」
 凛道もそう同意するよう口にする。
 穏やかな島の空気は誰にも等しく眠気を運んでくる。
「敵の接近に気付けば逃げる事も出来る」
 99もそれに同意するように頷く。
 他の者は今仮眠をとっている。
 船から取り出して罠に利用したパーツを戻すまで数日はこの島に足止めなのだ。
 安全が確認できるまでしばらくは交代で夜も警戒することになっていた。
「そろそろ、代わりますよ」
 会話をしながら手を動かす四人に先に仮眠をとっていた三ッ也が声をかける。
「助かる。何かあったら起こしてくれ」
 そう言って海神が三ッ也と入れ替わりに小屋へと向かう。
 その背の向こうに森から出て来た隠鬼の姿を三ッ也が見つける。
「千、敵の武器集めてたって聞いたけど……?」
 こちらに歩いて来る隠鬼に三ッ也が声をかける。
「埋めました。もう、こんな事に使われない様に」
 それは太刀のカオティックブレイドである隠鬼だからこその行動だろう。
「武器の供養か……」
 そう口にしたのはユエリャンだった。
 もの問いたげにじっと見つめる隠鬼の視線には応えずにユエリャンは
「吾輩も交代しよう。寝てくるといい」
 凛道たちに声をかけた。

●写真
「これをイリス・アーネットさんに渡してもらえますか?」
 H.O.P.E.支部の受付に海神が封筒を差し出す。
「これは?」
 受付スタッフがたずねる。
「写真です。先日の依頼の時の」
 それは島に滞在していた間に海神が撮った写真の焼き増しだった。
「分かりました。届けておきます」
 写真を預けて受付を離れた海神の隣に禮が並ぶ。
「こういうのは最高の報酬だと思いませんか?」
 さっき渡したのと同じ写真の入った自分のポケットの辺りを叩いて嬉しそうにそう言った禮に
「全くだ。さて、帰ってケーキでも食べようか」
 海神も写真の笑顔を思い浮かべてそう応えた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 希望の守り人
    シールス ブリザードaa0199
    機械|15才|男性|命中
  • 暗所を照らす孤高の癒し
    99aa0199hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 分かち合う幸せ
    隠鬼 千aa1163hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
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