本部

英雄が夢見る世界はーー

東川 善通

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/11/26 23:38

掲示板

オープニング

●終わりの始まり
「ただただ、死に逝くだけでは、面白くない」
 君たちに阻まれ、死に逝く愚神はそういって口角を上げた。君たちは最期に大きな攻撃が来るかと思い、身を構えるが、そんなものは一切来なかった。ただただ、一陣の風が君たちの周りを吹きぬけていっただけだった。
「……惑え」
 愚神はそれだけ告げると静かに崩れ落ちた。そうして、君たちは普通の日常に戻っていった。しかし、すぐに君たちは病院で再会することになる。

 あの時、共に戦った英雄が昏睡状態に陥った。最初はただ、眠っているだけかと思ったが、いつになっても起きない彼らに君たちは慌てて病院に駆け込んだのだ。大部屋に寝かされた彼ら。その様子はというと穏やかな者、苦痛に顔を歪めている者など様々。
「原因不明ですね」
 そして、医師から下った言葉はそんな言葉。それに君たちはベッドに横たわる英雄を見つめた。その後、唯一の共通項である「同愚神との戦闘」ということから、愚神によるものであることが推測された。もしかしたら、このまま眠ったままかもしれないという事実に君たちは彼らを起こすため、気合を入れる。

●その世界は平穏か、地獄か
 そこはかつての世界だった。かつての世界? いや、かつても何も自分はこの世界しか知らない。ただ、誰かが隣にいる不思議な夢を見ていた気はする。人それぞれの世界、平穏に家族に囲まれている人、戦場を駆ける者、労働を強いられる者など。そこは彼らの人生だった。
『――――』
「?」
 突然、誰かに呼ばれた気がした。けれど、彼らは首を傾げるだけで、気にすることはない。時折、手が何かに包まれたかのように暖かくなることもあったし、頬が叩かれたような感覚もあった。けれど、そこに広がるのは自分たちがいるべき世界。今の彼らには君たちの声は届いていなかった。

解説

英雄を呼び戻しましょう
※このシナリオは連れて行っていない英雄の描写もできます。尚、昏睡状態に陥るのは連れて行っている英雄となりますのでご注意ください。
※超プレイング重視。
※無理矢理起こしても、身体的悪影響はありません。

死にゆく愚神が最後に力を振り絞り、英雄たちの意識を深い眠りの底に閉じ込め、昏睡状態に。
声も痛みも届きますが、不思議に思う程度になってます。また、一時的にこちらの世界のことを忘れています。ただ、もしかしたら、ひょんなことで目を覚ますかもしれないですし、覚まさないかもしれません。
目覚めた際は、ぼんやりとそれを覚えている程度。

プレイングには英雄の元世界でのことを書いていただけると幸いです。基本的にはそれを基にリプレイを作成いたします。ただし、字数制限もありますので、削らせていただく場合ないしアドリブで追加させていただく場合もあります。
また、現実世界での能力者の起こし方もお願いします。ただし、他の方に迷惑になる起こし方をすると病院側から怒られるかもしれません。
なお、PC同士の絡みは極少となります。

リプレイ

●英雄は夢を見る
 H.O.P.Eの管轄に入る病院の大部屋。そこには八人の英雄が白いベッドの上に横たわっていた。医師は心配そうに見つめるリンカーたちに考えられることを告げた。
「何かのきっかけで起きることがあるかもしれません。ですので、出来るだけ傍にいて声をかけるなり、してあげてください」

●黒き人魚の消えた童話
「前にもこんなことがあったね、禮」
 以前にもこんなことがあったねとそう言いながら、禮(aa2518hero001)の隣に腰を下ろし、その手を静かに握る海神 藍(aa2518)。
「夢をみてるのかな?」

 日が浅く差し込む水底には多くの人魚たちが暮らしていた。色とりどりの鱗を持つ人魚たちの中にただ一人黒い鱗を持つ人魚――禮。一種の突然変異種として、生を受けた彼女。そんな彼女は人魚の仲間にも、近くに住む人間たちにも愛されていた。
 愛してくれる人たちを禮は愛していた。だからこそ、彼女はそんな彼らが生きる世界を守るために音のない歌を歌う。
 例え、それが何者かに狂わされただけの罪なき存在だったとしても、禮は帰る場所のために歌い続けた。
「皆、気づいてないといいんですけど」
 岩場に腰を掛け、剣を手に握りしめる禮。はるか遠くの海原から届けられる不穏な気配。それは戦が近いことを示していた。とはいえ、今までは不戦敗であり、今回も不戦敗となるのだが……。
「この町に住むヒトにも、沢山助けてもらいました」
 彼女の故郷の近くにある人の住む島国。ただ、今はそこに誰もいない。戦が近いと皆船で避難しているからだ。そして、故郷の人魚たちもその船を護衛するためにこの近海から離れている。
「……温かい」
 背には希望を乗せた船、眼前には攻め寄せる脅威。そして、左手には優しく包むようなぬくもり。そのぬくもりが一体何なのか禮にはわからない。ただ、凄く勇気をもらった。
(黒い人魚なんてわたししか居なかったけれど。それでも同じように愛してくれた、故郷を、皆を守ろうと誓ったんです)
 ギュッと剣をぬくもりを感じる手に握り、キッと驚異の方角へと目を向ける。
「故郷や世界が滅ぶなんて悲劇は、わたしが持って逝きましょう。……絶対返してあげません」
 例え、それがわたしたちの運命だとしても、そう呟き、禮は海に飛び込み、脅威へと運命を変えるためにただ一人向かっていく。
 愛した人達に幸せを願う手紙を残して……。

 険しくなった顔に藍は少しでも和らげればと握る手はそのままに空いた手で頬を撫でる。
「……禮」
 その声が届いたのか握っていた手に力が篭った。そして、ゆっくりと目を開けた禮。
「おや……おかえり」
「ただいま……とても懐かしい夢を見た気がします」
 優しく覗き込む藍に禮はそう答えた。
「わたしは守れたでしょうか」
「きっと、守れてるよ」
 彼女が見た夢がどんな夢だったかは想像できない。だが、彼女の零した言葉に藍は大丈夫だと笑みを零した。

●胸に掻き抱く思い
 スーッと白い頬を伝い、布団へと落ちる滴。それに加賀谷 ゆら(aa0651)は動揺した。何故なら、彼女が横たわる男――シド(aa0651hero001)の涙を見たのは初めてだったからだ。
「どんな夢を見ているの? シド……」
 ゆらは布団から出ているシドの手に自分の手を重ね合わせる。女性の自分よりも大きな男らしい手。その温かく大きな手に支えられてきた10年。彼が目覚めないなんてことはーー。
(大丈夫。シドは絶対戻ってくる)
 このぬくもりがそこにまだあるのだから。

 爽やかな風が吹き抜ける草花の生い茂る丘。そこに背が高く、全身を黒い服に包んだ男は佇んでいる。男は気配を感じ、振り向けばそこには彼に近づく一人の女。印象的なのは日の光を受けて眩いばかりに輝く美しい黄金の髪。ただ、それがなくても十分に美しい女性だった。そんな彼女に一瞬、眩しそうに男は目を細めた。
「シドさま」
 彼女に呼ばれ、微笑みを浮かべる。
「――――」
 シドもまた彼女の名を音に乗せる。二人は体を引き寄せ合い、その腕を互いの体へと回した。
「――――、息災でな」
 シドの短く告げた言葉に、女は目を見張る。しかし、すぐに内心の動揺を抑え、シドの胸へと美しい顔を寄せた。
「お待ちしております」
 静かに返す恋人の手は別れを惜しむように震えていた。それにシドは僅かに力を込める。
「厳しい戦いになるだろう。私もどうなるかわからない」
 そう告げれば、女は頷くように静かに目を閉じる。
「待っていてくれとは、言わない」
「お待ちしています。いつまでも。ですから、存分にお働き下さいませ」
「――――」
 彼女の名を呼ぶと、顔を近づける。必ず戻ると心に誓い、影を重ねる――。

 戦況は良いとも悪いとも判断のつかない状態だった。炎に包まれる城砦に立つシドは外装をぼろぼろに、仮面に覆われた顔は煤で汚れていた。あちらこちらで立ち上る黒い煙の立ち上る空を見上げれば、影のようなものが縦横無尽に飛んでいた。国の中枢に迫る異形のモノ。それに対抗すべく、国を統べる一族のものとしてシドも最前線に立っていた。
 地上の人々を嘲笑うかのようにシドの頭上を飛んでいくそれ。そんな状況下の中、シドの胸には「愛する者の幸せ」があった。愛しい人の顔を思い浮かべ、一瞬とはいえ、意識が散漫となる。
 ズドンと音を立てて降り立ったのは壁のようなもの。急にできた影に顔を上げた瞬間、シドは青白い炎に包まれる。
(――――!)
 愛しい人の名を呼んだ声は彼女には届かず、伸ばした手もまた触れることはなかった。

 涙を零し、誰かの名を呼ぶように小さく動いた唇。ゆらはそれをただ手を重ね、見守っていた。そして、うっすらと空いた目にゆらは「シド!」と言って、声をかける。どこかを呆然と見つめていた彼だがすぐにゆらに気づき、小さく「ゆら」と名を返した。

●時を見つめるもふもふ
「起きろよ……むすび……」
 むにゃむにゃと言いながら眠るむすび(aa0054hero002)に多々良 灯(aa0054)は心配そうに覗き込む。その隣では灯のもう一人の英雄であるリーフ・モールド(aa0054hero001)の姿もある。その手にはむすびの大好きなおむすびが入ったお弁当。
「私もむすびちゃんにお弁当作ってきたんですよ。おやつにはお饅頭も用意してますからね」
「そうだぞ。今日は特別に重箱いっぱいのおむすびなんだからな」
 おまんじゅうちゃんもお前と遊べなくて寂しがってるんだ。だから、起きてくれと灯はむにゃむにゃと口を動かすむすびの前におにぎりを差し出す。

 シーサーと表現するのが相応しいか白い毛に覆われたむすびは畳に敷かれた温かい布団で目を覚ました。そして、どこか夢を見てた気がするもふと自分の掌を見つめる。
「肉球を見るの、久しぶりな気がするもふね~」
 久しぶりではないはずなのに自分の体がもふもふであるのも、四つ足で歩くのも、今、目に映る景色も当たり前であるはずなのに無性に懐かしく感じていた。
 忍びや侍は勿論、精霊や鬼、忍犬が当然のように歩き、空には今日もまたどこかに向かうのか空飛ぶ船が浮かんでいた。それを一巡、眺めるとむすびの鼻が美味しそうな香りを感知する。
「もふ、朝ごはんの香りもふ~! 相棒の作るおむすびもふ」
 黒い猫耳と尻尾の武僧な青年がむすびの前におむすびを置き、むすびはそれに喜んで食い付いた。そして、いつものように「今日もおいしいもふ~!」と感激の声を上げた。朝食が終われば、むすびは相棒の青年にどこかに出かけるのか尋ねる。ただ、それに青年は首を振る。
「開拓者の仕事も随分と平和になったみたいもふね~」
 そんな感想を抱きつつ、「お団子を吐く依頼だったら行きたいもふぅ」と青年にじゃれつく。それとも別のところに行くのか、と青年とじゃれ合う。頭を撫でてくれる温かい手にむすびは嬉しそうに声をあげる。
「もふふ、相棒と遊ぶの楽しいもふ~。明日もあさっても、ずーっと先も一緒もふ~!」
 散歩がてら相棒の友人である狐耳の少女とその相棒であるむすびとそっくりな外見の白詰草(aa0088hero002)を連れて遊びに来たり、一緒にご飯を食べたり、散歩にもでかけた。

 ただ、気が付くとむすびは一人になっていた。
「もふ、――――ちゃん、おはようもふ」
「……ああ、**ちゃんは一緒もふね、おはようもふ」
 相棒がいなくなったと悲しみに暮れるむすび。
「会いたいもふ~!」
 そう叫んでも、再び相棒は現れてくれない。それに涙がぽろぽろと溢れ出し、「もふ~もふ~」と大きな声を上げ、泣いた。うわんうわんと泣いていると微かに香る懐かしい匂いがむすびの鼻をくすぐった。

「むすび、どうしたんだ? おむすびならここにあるぞ」
 先程までは幸せに緩んでいた顔。しかし、突然、ぽろぽろと大粒の涙を零し始めたむすびに灯は慌てておむすびを顔の前に差し出した。すると、鼻をスンスンとした後、「おむすびの匂いもふ!」と泣き顔のままむすびが飛び起きた。
「……もふ~?」
 何が起こったわからないむすびに灯はよかったと崩れ落ち、リーフは彼と同じように安心したように笑みを浮かべた。

●世界は違えどファミリー
「つーちゃん起きないなー、大丈夫かな?」
 綺麗な黒髪を弄ってみたり、白磁の頬をつんつんとつついてみる。しかし、そんな葉月 桜(aa3674)の行為など意味がないように伊集院 翼(aa3674hero001)は表情を変えることなく眠っていた。

「たく、しつこい」
「翼、こっちっす」
 翼は銃を放ち、敵が建物の陰に隠れたところで、パートナーである五十嵐渚(aa3674hero002)が見つけた道へと入る。敵が追ってきていないことを確認すると今のうちにと新しい銃弾を装填する。
 翼と渚はファミリーだった。とはいえ、弱小マフィアのとつくが。ただ、この二人はそれなりの戦力を擁しており、組織を潰したい人間からしたら邪魔者でしかなかった。それが、いつもなら、だ。
「なんだ、あれは」
「それは自分も聞きたいっす」
 翼の零した言葉に同感とばかりに渚も頷く。いつもなら、意見が違え、喧嘩するところなのだが、そんなことをやっている暇などない。
 二人の目に現れたのは異形。その後ろに腐れ縁と言ってもいい敵勢力がいたから、彼らが呼び出したのかもしれない。しかし、そんなことを考えている時間など与えないとばかりに異形が翼たち二人を察知するのが早い。
「逃げきれないか」
「ま、しょーがないっすね」
 二人は銃を構え、応戦の形をとる。自分たち二人が潰されてしまえば、人使いは荒いけどボスである彼女の許へ行くことを許してしまうことになる。それは、なんとしても避けなければいけないこと。
 ただ、翼は我慢していた。なにやら、自分の顔や足を触る感触があることを。これを渚に言ったところでどうにかなるものでもない。だから、無表情を貫き、敵へそれをぶつけていた。
 一人が装填すれば、それを補うように一人が銃撃する。犬猿の仲でつかみ合いの喧嘩をするほどの二人だが、こういう時はコンビネーションよく、敵を撃ち抜く。
「!!」
 もふっと音が付きそうな顔面を覆った温かさに驚き、敵の攻撃に気づくのが遅れた。体に一撃を喰ら時、頭に過ったのはボスと似た少女の顔だった。

「……重い」
 目を開ければ、見慣れたボリュームがあった。それにぽつりと零せば、「つーちゃん、起きた?」と明るい声が掛かる。
「いいから、どけてくれ」
 そういうとしょうがないなと桜は翼の顔面に乗せていたご自慢の胸をのける。それにふぅと一息を吐いた翼はゆっくり体を起こし、自分の体に異変がないか確かめた。
「つーちゃんはどんな夢を見たの?」
「……あんまり覚えてないな」
 思い出そうにも靄がかかったようにあまり思い出せない。ただ、隣に渚がいたのははっきりと覚えていた。

●神とて害となれば……
「風架さん……絶対に……」
 零月 蕾菜(aa0058)は十三月 風架(aa0058hero001)の手を握り、祈るように風架の名前を呼び続ける。かつての風架の誓約者がいなくなったことを思い出しながら、祈る。その傍ではニロ・アルム(aa0058hero002)が不安そうに二人を見つめる。
「ししょー……あるじ……」

 ちちちっと聞こえてきた小鳥の歌声に巨大な獣は目を覚ます。その獣の姿たるや四神を模した四肢を持ち、龍と獣を足して割ったような頭と胴体。さらには背には右腕と対となる片翼を持っていた。
 獣――風架はゆっくりと巨大な体を起こすと己の守る集落のある方角を見つめた。
 そして、森の木々たちから伝えられた不穏な空気に駆け出す。伝えられた場所に体を滑り込ませれば、そこにいたのは集落を脅かす敵対者たちの姿。
「三下が……攻めてきた以上覚悟ができているな?」
 そう問えば、敵対者たちは「この、死神が」と苦々しく言葉を零す。それに対し、風架は何とも思わないようで、五行――自然の全てを味方につけ、敵を圧倒し、他にいないことを確認するとまた森の奥へと戻った。
 以前、敵対者たちは“神”と呼ばれるものを引き連れてきたこともあった。しかし、風架にとって、それが敵対者である限り、神であろうと容赦するつもりはない。例え、そのせいで敵対者から『神殺』と呼ばれようとも関係なかった。
「――――」
 いつもと違う温かな手にふいに自分が呼ばれる感じを受ける。それは獣であったとしても顔に出ているようで、遊びに来ている子供たちが首を傾げ心配する。
「アウラ、どうしたのー?」
「大丈夫、少し考え事をしていただけですよ」
 親しいものからはアウラ、敬うものからはクロス様、そう呼ばれるもの。そうであるにも関わらず、脳に直接届く音は何故か懐かしく温かい。

 穏やかな顔をして眠る風架にもしかしてと不安が嫌でも過る。
「ししょー、起きてー」
 そういって、風架の体にぼふんと体を乗せるニロ。しかし、その衝撃にも風架は目を覚まさない。それにますます不安になっていく蕾菜。両手で風架の手を包み、自分の額に当てる。
「……アウラ」
 それは小さく近くにいるニロにすら聞こえないほどの声。教えてもらった風架の本当の名前。小さな希望だった。
「……その名前は、人前で呼ばないように言ったはずですよ」
 帰ってきた言葉に蕾菜はバッと顔を上げれば、そこにはしょうがない子ですねと言わんばかりの風架。
「風架!」
「ししょー!」
 嬉しくて抱き着けば、風架は「心配をかけましたね」と呟いた。

●白亜の神の悦び
 楠葉 悠登(aa1592)は他のリンカーたちよりも楽観していた。きっと、ナイン(aa1592hero001)のことだから、すぐに起きるだろうと。
 近くにテレビを持ってきて、ナインの好きな番組を流してみるが、ピクリとも反応がない。それに偶々、反応がないだけと、次は食べ物を持ってきて、ドーナツを顔の近くに近づけてみる。だが、反応はない。ナインのためにとやればやるほど、起きないナインに次第に不安と寂しさを募らせる。それは段々と自分だけがこの世界に残されるイメージへと繋がっていった。

 超高度文明と原始的な文明が同時に存在する世界。その相対する文明の中にナインはいた。最初は超高度文明の都市に。ただ、ある時、その中のセキュリティの隙をついて、都市の外へと逃げ出した。しかし、一歩、都市を出れば、世界を包んでいるのは濃密な自然。ナインはその中で生きる術を持っていなかった。
 温かなぬくもりにあぁ、死んだのかと目を開ければ、ゆらりと揺らめく火。そして、パチパチと燃える音が耳に届く。ゆっくりと体を起こせば、部屋の住人らしい男が起きたのかと声をかけてきた。聞けば、狩りに行った先にナインが倒れていたということだった。仲間と協力して、家まで運んだということで、ナインはお礼とばかりに彼らの前でESP能力を披露して見せた。そんな力とは無縁の彼らはナインのことを神様だと祭った。ただ、ナインはそれは違うというものの彼らには届かず、村の神様として生活するようになった。
「神様、今日は大漁だよ」
「神様がいてくれるおかげで、豊作だ」
 ナインが歩けば、村のいたるところから気さくに声をかけられる。神として崇めているはずなのに、ノればナインの肩を抱き、背中を力いっぱい叩く。とても、崇めているように思えないその行為だが、ナインにとってとても温かいものだった。
 生活してナインが知ったのは自然の中で生きてきた人々は食べ物は勿論だが、自然から恵みを貰い、返す術を十分に把握していた。だからこそ、自然に寄り添い、楽しく生きている。
「……」
 記憶にあった白い壁の部屋、同じ髪の色の同胞、研究所は村での楽しい穏やかな日々によってどんどんと脳裏の隅へと追いやられていった。ただ、その一方で自分の中の不安が作りだした幻影か、白亜の都市から銀の防護服に身を包んだ人々が村を焼きに来るという映像が流れる。だが、今はそんな兆しなど見られなかった。ずっとこの穏やかな日常を繰り返すのだと嬉しさからか微笑みを浮かべた。
「……雨?」
 自分の頬に流れるその感触に首を傾げ、空を見上げたが、そこは晴天。雨の降る様子など一切ない。でも、確かに自分の頬を伝うものがあった。そんなナインに道を示すようにちらりと視界に美しく輝く蝶飛び込んだ。

「ナイン、起きて……俺を置いてかないで……!」
 普段は見せない心の奥底にあった気持ちが、今涙と共にぽろぽろと零れ落ち、零れ落ちたものはナインの頬を濡らした。
「まるで雨みたいだ」
 今まで返ってこなかった声。それが耳を擽るとくしゃりと悠登は泣きながら笑みを浮かべた。

●時を見つめる精霊
「シロちゃん? 今日ももふもふしに来たのにどうして目を開けないの?」
 すやすやと眠る白詰草に清原凪子(aa0088)は悲しそうに眉を下げ、隣で必死に声をかけている幼馴染に目を向けた。
「灯ちゃんのところもなんだ」
 寂しいよ、起きてと願う。

 むすびと同じ世界で白詰草は目を覚ました。ただ、まだまだ不本意な転寝だったようで目をこしこしと手で擦る。
「いつもより視線低いもふね? ってこれが当たり前もふ?」
 地面に近い視線に首を傾げるも、当たり前なのになにか懐かしいと笑う。そして、近づいてきた主人である少女に嬉しいと尻尾を振るう。
「え、毛がはねちゃってるもふ? いやもふー、櫛でといてもふー!」
 少女にそう我儘を言って、真っ白な体に櫛を通してもらう。そのあとは、少女と張り切ってお散歩にむかったり、少女の友人である青年の家にお邪魔したりと、はしゃぎまわった。
 はしゃいではしゃいで振り返ると、そこには少女はいなくなっていた。どこだろうと探すけれど、少女の姿はなく、はたと気づく。
「……ああ、そういえば、“あれ”から、もう何年たったもふ?」
 長年、相棒を務めていたとはいえ、“人”と“精霊”の間には大きな時間の違いがある。いなくなったあの日、ずっと泣いてて、励ましてくれたのはむすびだったと覚えている。ずっとずっと昔の楽しい頃のことをどうして今、思い出してしまったのかわからない。
 けれど、思い出してしまうと、奥底にしまったはずの寂しさが止めどなく溢れて、零れ落ちた。
「――――」
 誰かが呼ぶ声がする。それはかつての主人であった少女の声ではなく、むすびやその相棒の声でもない。でも、間違いなく自分を呼ぶ声。とても懐かしくて、とても温かく、優しい。
 会いたいもふ、そう思うと場所なんてわからないが、自分が思った方へ、歩き始めた。

「しろちゃん、起きないもふね」
「むすびが起きたんだから大丈夫だ」
「うん、大丈夫だよね」
 先に起きたむすびはおにぎりを頬張りながら、友人の目覚めを待つ。灯は凪子を励ましつつ、目覚めを祈った。
 そして、突然、バッと起き上がった白詰草。きょろきょろとあたりを見回し、「今日は視点が高いもふ」と呟き、傍で泣きそうになったいる凪子に気づくと、「おはようもふ!」そう声をかけた。
「うん、おはよう!」
 凪子は嬉し涙を零しながら、白詰草の小さな体に抱き着いた。

●おはようと声をかけて
 目が覚ました英雄たちはすぐに医師たちにより検査が行われた。突然起きたものたちもいるし、コレが愚神の能力によるものであったのであれば、何かしら障害が残ってしまうという可能性を考慮してのことだった。しかし、それは杞憂に過ぎなかった。
 所詮、死に際の抗いだったのだろう。ただ、それが長く続いていたらリンカーたちの精神に傷を深くつけていたかもしれないと考えると恐ろしいことでもあったわけだが。
 とりあえず、体に異変が起こった時にはすぐに病院に来るようにと医師は口にするが、起きたことに喜ぶリンカーたちは聞いている様子がない。それにやれやれと溜息を吐くと、きっとまぁ大丈夫だろうと部屋を後にした。

「あ、シドの泣き顔、撮っておけばよかった」
「撮らなくていい」
 そういい合うゆらやシド。他にはたくさん作ってもらったおにぎりを皆に配って、美味しそうに頬張るむすび。おにぎりをもらったから、代わりに自慢のドーナツを振る舞う悠登。ぎゃあぎゃあと楽しい声が響く病室。
 はしゃぎすぎて、元気になったのなら、さっさと出ていけと病院を医師によって笑顔で追い出されるまであと少しーー。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃
  • もっふもふにしてあげる
    むすびaa0054hero002
    英雄|10才|?|バト
  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • しっかり者のお姉ちゃん
    清原凪子aa0088
    人間|15才|女性|生命
  • 回れ回れカップ
    白詰草aa0088hero002
    英雄|8才|?|ブレ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
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