本部

救いなる願い

gene

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/12 20:03

掲示板

オープニング

●トクベツナチカラ
 痛い。
『死ねよ。クズ』
 痛い。
『問題を起こすなよ』
 痛い。
『面倒かけないでよね』
 痛い。
 俺の世界は泥のような色をしている。
 友達などいない。
 教師など信用できない。
 親という存在ほどの極悪はない。
 俺の存在が消えても、きっとこの泥の世界は泥のままだ。
 だけど、俺はそんな泥の世界を見なくてもよくなる。
 それだけでも死ぬことの価値はある。
 自分を消滅させるほどの価値がある。
「そうだろうか?」
 ふいにそんな声が聞こえてきた。
「君が消える価値など、本当にあるだろうか?」
「……」
 どこから入ってきたのか、部屋に一人の長身の男が立っていた。
「お前は誰だ……」
 スーツを着て洒落た帽子を被ったセールスマン風の男は名乗る。
「私は霧谷キリヤです」
「……変な名前だな」
「話を戻しますが、君が消滅したところで泥の世界は泥のままです」
「なんで……」
「君が考えていることがわかるかって? それは、私が特別だからです」
「特別……」
「特別な人間が虐げられているところなど、見たことがありますか?」
「……知らないけど、ないんじゃないのか?」
「そう。だから、君も特別になればいいのです」
「……え?」
「泥の世界を消滅させたらいいじゃないですか?」
「そんなこと……」
「できます」
「……」
「私が、その力を与えてあげましょう」
 そう男はにぃっと口角を上げた。

●優先事項
「夕日ヶ丘中学校が霧の従魔に飲み込まれた」
 沼津は神妙な面持ちで、会議室に集まっているエージェントたちを見た。
「霧の従魔だけならミーレス級であるから、退治するのはそう難しいことではないが、我々はこれまで二度、この霧の従魔を使った愚神に出会っている。愚神の名は霧谷、ケントゥリオ級の愚神だ。この愚神が誰かに憑依し、学校を霧の従魔で覆った可能性も非常に高い」
 沼津は説明を続ける。
「学校には今、生徒や教師などの職員、それと授業参観に来ていた保護者がいる。従魔を消滅し、一般市民を救出することを優先し、愚神の対応は慎重かつ柔軟に行ってくれ」

解説

●目標
・学校内の一般市民の救出

●登場
・愚神:霧谷(キリヤ) ケントゥリオ級
・霧谷自身は、サラリーマンのような出で立ち。書類が入る程度のカバンの中に、カバンのサイズに見合わない長い刀を入れています。
・霧谷は霧の従魔(ミーレス級)を自由自在に扱うことができます。

●場所と時間
・夕日ヶ丘中学校
・十五時頃

●状況
・夕日ヶ丘中学校が霧の従魔で覆われています。
・中学校内にいる生徒、先生、保護者はライヴスを奪われ、意識を失っている状態です。
・霧谷が絡んでいるかどうかの確証はまだ掴めていません。

※オープニングの前半及び以下はPL情報となります。
・霧谷に憑依されている少年は自分の意思で霧谷の力を使っています。
・少年は隠れたりはせず、自分の教室にいます。

リプレイ

●秋晴れに霧の塊
 今年の秋は天候が乱れやすいと言われているけれど、この日は秋晴れだった。
 午後十五時。真っ青な空の下、真っ白な雲が地表に漂うような見るからに異常な光景。
「見事に校舎をすっぽりと覆っているでござるな」
 校門から一歩足を踏み入れ、霧の塊を見上げて白虎丸(aa0123hero001)が呟く。
「校舎が覆われてから一時間ほどか……」
 レイ(aa0632)がスマートフォンで時刻を確認する。
「もしも霧谷ってやつのせいならすっごく危ない、よな? 残ってる人達早く助けないと……!」
 緊張感を高める会津 灯影(aa0273)の隣で楓(aa0273hero001)は楽しげに口元を緩める。
「願いを叶える、か……なかなか趣味の合いそうな男よ」
 藤咲 仁菜(aa3237)はぎゅうっとその華奢な手を強く握る。
「たくさんの人の命がかかってるんだから気合入れてかないと……」
 自分の恐怖を胸のずっと奥に閉じ込めようとする。
「強い敵だって、怖くなんかないんだから!」
 リオン クロフォード(aa3237hero001)がそんな仁菜の手に優しく触れる。
「ニーナ、まず深呼吸して落ち着こう。顔青いし、手も震えてる……」
 それでも、誰かのために頑張ろうとする仁菜をリオンは守りたいと思う。
「仲間もいるから、大丈夫!」
「リオンの言う通りだよ。俺たちもいるから、頼ってよ」
 荒木 拓海(aa1049)が仁菜を安心させるように笑いかけると、その背後からメリッサ インガルズ(aa1049hero001)が顔を出した。
「拓海じゃ頼りないかもしれないけど、私がちゃんと守ってあげるからね!」
「みんな、スマホは持ってるな?」
 虎噛 千颯(aa0123)の言葉にそれぞれが返事を返す。
「中は視界も悪いと思われるでござるからな。一人では行動せず、連絡は密に取り合うでござるよ」
 白虎丸の言葉を受けて、エージェント達は二組ずつに分かれた。
「それじゃ」
 行こっか! と、カール シェーンハイド(aa0632hero001)が言おうとしたその時、大宮 朝霞(aa0476)のほうがすこし早かった。
「たくさんの生徒さんや先生、父兄の人達が私達の助けを待ってるわ!」
「いくわよニック!」と朝霞は勢い込んでニクノイーサ(aa0476hero001)を振り向く。そのどこか劇っぽい表情とセリフにニクノイーサはげんなりとした表情を見せた。
「変身! ミラクル☆トランスフォーム!!」
 ビシィッ! と、変身ポーズを決めて、朝霞とニクノイーサは共鳴する。そして、朝霞は『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』(自称)となった。

●救出挑戦
 校舎入り口前を覆う霧を朝霞はよくよく見つめる。
「この霧が従魔なのね」
「ライヴスの炎などが有効らしいな」
 ニクノイーサの脳内アドバイスに従い、朝霞はちゃっかふぁいあーくん1号を構える。
「朝霞、周りに注意して使えよ」
「わかってる! うまく火力を調整して使うわ!」
 ちゃっかふぁいあーくん1号の炎が霧を晴らしていき、校舎の入り口の扉が見えた。
 白虎丸と共鳴した千颯は校舎内に入ると、豪炎槍インフリートを振るって玄関付近の霧を一掃した。
「俺ちゃん達は沼津のおっさんが授業中だって言ってた二年の教室がある三階から見てくるぜ」
 千颯は本部からもらった学校の見取り図をみんなに配りながら言った。
「二年生の教室に行く途中に音楽室がありますね。もしかすると、部活動をやっている子達がいるかもしれませんから、ここも見てみましょう」
 見取り図を確認して朝霞が言う。千颯と朝霞は階段を目指して霧の中を走って行った。
 メリッサと共鳴した拓海は見取り図の一階部分を指差して、仁菜と共鳴しているリオンに視線を向けた。
「俺とリオンは一階の職員室から見ようか」
「リョーカイッ!」と、リオンが元気よく返事をした。
「では、我らは二階からだな」
 灯影と共鳴している楓の言葉に、カールと共鳴したレイが「ああ」と頷く。
 エージェント達はそれぞれの武器を手に、霧の従魔を対処しながら廊下を進む。

 拓海は職員室を見つけると扉を開けた。教師と思われる人間が十数名倒れていた。床に倒れている者、机に伏せている者の姿に、拓海は「換気、換気」と窓を開けた。
 しかし、室内の霧の動きには変化がない。
「あんま効果ないみたいね」とメリッサの声が頭の中に響いた。
「廊下の窓も開けてみたけど、流れていっている感じはないよ」
 リオンが報告する。
「……風がないとか?」
 拓海の言葉にメリッサは外の様子を思い出して言う。
「あったわよ。今もちょっとすーすーするし」
「だな」と、頷く拓海。
「……ただの霧じゃなく、従魔ということが関係してるのかもしれないね」
 リオンの頭の中に仁菜の声がした。
「AGWで起こした風は、ライヴスを伴っているから効くってことかもしれないわね」
 メリッサの言葉に拓海は肩を落とす。
「そっか……外気で霧を散らせればって思ったんだけど」
「地道にやるしかないな!」
 リオンはジャック・オ・ランタンを掲げるとライヴスを込めて火球を作った。その火球は霧の中を飛び、霧を消滅させていく。
 拓海はイグニスを構えてライヴスの火炎を発射した。

「おお……以外に部員いるな」
 美術室にも生徒たちが倒れていた。その惨状に楓が笑うと、頭の中で灯影が「不謹慎、そしてなんか失礼だぞ!」と注意した。
「こやつらをちまちまと運び出すより、元凶を探し出したほうが早そうだな……」
 楓の言葉に、灯影の気持ちが沈んだのが楓にはわかった。
「仕方ないとはいえ放置することになるのは心苦しいな……」
「救出が主題でなければ我は放置するがな。人の生死等興味も無い」
 そんな冷たいことを言いながらも楓は見取り図の美術室のところに数字を書き込んだ。
「十二……って、ここにいる人数?」
「他階の者にも聞き記入しておくか」
「……後で救助しやすい様に?」
「報酬は多い方が良いからな。貴様もそう望むなら我はそうするだけよ」
「楓が優しい……槍でも降りそうだな」
「そんな槍、我の劫火で一掃してくれるわ!」
 灯影は楓が軽くしてくれた気持ちでふふっと笑った。

 千颯と朝霞が音楽室の扉を開けると、二十名ほどの生徒と若い女性教員が倒れていた。
「さて……ここからどう運び出すか……」
「往復して運び出すとかしてる間に重篤者が出そうですしね……」
 朝霞の言葉に、ニクノイーサが提案する。
「窓から……」
「ダメ! ゼッタイ!!」
 ニクノイーサの提案は最後まで言うことも許されずに朝霞の強い言葉で却下された。
「こういう場合は非情かもしれないけど……先に元凶を断つ方が結果的には被害を最小に抑える事が出来るんだぜ!」
 千颯は走り、二年一組の教室の扉を開いた。そこには多くの生徒と保護者が意識を失って倒れていたが、元凶となりそうなものを見つけることはできなかった。二組と三組も同じような状況だった。

 理科室や視聴覚室、時に廊下にいる生徒や教師、保護者の人数を書きながら、霧の従魔を減らしつつ楓とレイは二階の教室を回っていた。
 霧が薄れたことにより意識を取り戻した人間がいれば、どこかに愚神がいる可能性も考慮してとりあえずはその場で待機するように伝えた。
 レイはスマートフォンを確認する。
「念のために呼んでおいた消防車と救急車が到着したみたいだ」
「む? フツーの人間では意味がないのではないか?」
 楓の疑問にレイが答える。
「H.O.P.E.に登録しているエージェントではないが、能力者が複数名いるらしい。英雄と共鳴して避難用滑り台を設置してくれるそうだ」
「レイさんがいてくれてよかった!!」
 レイには聞こえないものの、灯影は叫んだ。
「我以外の者を賛美するとは、主はなにもわかっていないの?」
 楓は月欠ノ扇を軽やかに仰ぎ、霧を消滅させる。
「我こそが最強なのだと!」
 そう見栄を張る楓の隣でレイは消防士が来た時に速やかに作業ができるようにイグニスで淡々と霧の従魔を消滅させている。
 灯影は小さな声で呟いた。
「やっぱり、レイさんがいてくれてよかった」

 職員室内の霧がだいぶ薄まると、机に伏していた若い男性教員が意識を覚ました。
「……君達は?」
「俺達はH.O.P.E.のエージェントです」
 拓海が答える。
「大丈夫ですか?」
「……そうか、霧が入ってきて……」
「その時のこと覚えてますか?」
「えっと……濃い霧が職員室に入ってきて……その前に、山本先生が慌てて職員室に飛び込んできて、二階から霧がって……」
「山本先生?」
 男性教員は職員室の入り口付近へ視線を向けた。
「あそこに倒れている女性の先生です」
 リオンは女性教員を抱きかかえると、男性教員のところまで運んだ。
 男性教員は女の子の姿のリオンを驚いた表情で見る。
「あ、エージェントの能力のひとつだとでも思ってください」
 倒れていたところよりもより霧が薄まった場所に移り、女性教員も目を覚ます。
「意識を失う前、なにか見たんですか?」
「二階の、三年生の教室から霧が溢れてくるのが見えて……あ、生徒を避難させないと!」
「大丈夫です」と、拓海は女性教員を安心させるために優しく微笑んだ。
「それは俺達の仕事ですから。先生達は先に避難してください」
 リオンが窓を開けて、外に向かっていくつかの火球を放ち、霧を消滅させる。
「弱い従魔なら侵攻を防げるかも!」
 リオンはライヴスフィールドを展開し、教師達の避難路を確保した。
 意識を取り戻した教師達を集め、リオンは窓の外へと出る。まだ体がふらついている教員には拓海とリオンが手を貸して、窓の外へと出した。
「校門のところまで出れば霧はありませんから、ついてきてください」
 霧の中に火球で穴を掘るように道を広げ、リオンは教師達を誘導する。

●少年説得
 二階の三年生の教室から霧が発生したという目撃情報があったことを拓海は他のエージェント達に連絡した。
 三年一組、二組の教室にはほんの数人の生徒しか残っていなかったのに対して、レイが三年三組の扉を開くと、その教室にはまだ多くの生徒と保護者が残っていた。
「三年の授業は終わっている筈じゃ……」
 カールの言葉がレイの頭の中に響く。
 さらに、その教室は他の場所よりもずっと霧が濃かった。
 机に伏していた一人の少年がむくりとその体を動かした。
「……この霧のなか、意識があるのはお前だけか?」
 レイが聞いた。
「そうだよ……あとはこの通り、みんな寝ちゃってる」
 少年は立ち上がり、感情のない目で言う。
 楓がブルームフレアで教室内の霧を消滅させるも、意識を取り戻す者はいない。
「濃い霧の中に長くいたから、すぐには目覚めないよ……あんた達がH.O.P.E.のエージェント?」
「ああ。そうだ。三年の授業は終わっていると聞いていたが」
 レイの言葉に少年は頷く。
「授業は、終わってたよ」
 拓海とリオンも教室に着き、重い空気の中、リオンが努めて明るく言う。
「こんにちは少年! この霧の中で平気なんて、凄いね! よかったら君の名前を教えてくれる?」
 少年は「吉野明」と名乗った。
 千颯と朝霞も教室に到着する。
「貴様がこれをやったのか?」
 明と名乗った少年は楓の言葉に頷いた。
「愚神の……霧谷の力を借りて?」
 拓海の言葉にも明は素直に頷く。
「自分の意思でやったってことは何が目的だ?」
 千颯の問いかけに明は答える。
「この泥の世界を消滅させるために」
「……泥? んー、まず落ち着いて深呼吸してみようか!」
 リオンは見本を見せるように少し大げさに深呼吸をした。明はリオンに冷めた視線を向けたが、すぐにその視線をそらす。
「君は、騙され利用されてるだけだ。愚神を自分から追い出せ!」
 拓海の言葉に、明の口元は少し笑った。
「利用されているだけ……それでも、構わない。彼は、俺に特別な力をくれたのだから」
「なぜ、そんな力が必要だったんだ?」
 レイが聞く。
「強く特別なあんた達にはわからないだろ……いじめられる者の弱さ、虚しさ、やるせなさなんか……」
「だから」と、明はその体に見合わない長い日本刀を構えた。
「邪魔をするな」
 刀を大きく振りかぶって向かってくる明の懐に拓海はグレイプニールを放ち、明を捕らえようとした。明は瞬時に体を反転させてそれを避けた。
 しかし、その隙をついてリオンが明の体に飛びつき、そのままの勢いで教室の窓ガラスを破って、地面に向かって落下する。
 自分よりも年下の少女だと思っていたリオンからの不意打ちに明は驚いていたが、リオンが明の体をかばって地面に着地すると、明はリオンを蹴り上げて自分の体から離し、距離を置いて再び刀を構えた。
「動きは素人だが、能力者を蹴り上げるとは……まだ、その体に霧谷が憑依しているのか?」
 リオンと明の後を追って、窓から降りたレイが聞いた。三階の教室から他のエージェント達も飛び降りてきた。
「消滅させた霧が増えなかったから、霧谷は違うところにいるのかもしれないと思ったけど……」
 朝霞がつぶやく。
「彼なら俺の中で力を与えてくれている」
「明くん、心を強く持って! 愚神の言うことなんか聞いちゃダメよ!」
 朝霞の叫びに、明の目にココロが映る。それは、悲しみ。深い、深い、悲しい闇だ。
「彼の言葉を聞かなければ、俺は今頃……俺自身を消滅させていた」
 明が刀を振るう。扱い慣れてはいないが、霧谷の身体能力を使い、速度ははやい。
「お前さんは本当にこれでいいのか? これがしたかったことなのか?」
 千颯がイフリートで明の刀を受け止めながら語りかける。
「苛めはする方が100%悪い。だが、それをこんな力で復讐するのは間違っている。これではお前もお前を苛めていた奴らと同じ。特別でも何でもない、ただの苛めっ子だ!」
 明は千颯の言葉を鼻で笑う。
「それは強い人達の言葉だ。正しいことはいつだって強い人達しか言う権利を得ない」
 リオンも語りかける。
「そんな下ばっかり向いてたら、泥しか見えないよ。もっと周りを見渡そう、上を見てみよう。花が咲いている世界もある、綺麗な空もある。泥が世界の全てじゃない!」
「それだって、あなた達が強いからですよ……どんな逆境にも立ち向かえる、特別な人達だから、美しいものを探す余力だってある」
「力で変えたことは力で覆されるだろう?」
 拓海の言葉に明は「だから」と言った。
「だから、こうして今、覆しているんだ!!」
 明の悲痛な叫びに言葉を失いそうになりながらも、拓海はなんとか言葉をつなげる。
「……辛かったんだろう? 自分の世界を変えたいと思ったんだろう? ……周りにその気持ちを伝えて来たか?」
「なぜ、あの教室だけ生徒も保護者も残っていたのか教えてやるよ」
 明の目がまた冷めていく……死んでいく。
「……それは、俺が緊急会議を提案したからだ。最後に、賭けたんだ……いじめがこのクラスにはあるって、伝えたんだ。真正面から」
 拓海は緊張する。明は目を伏せた。
「そうしたら、俺をいじめていた首謀者達がそんなものはありませんって笑った。それに担任も俺の親も賛同した。傍観者たちも頷いた……それで、俺は覚悟を決めたんだ。泥の世界を消滅させる覚悟を」
「……もう一度……もう一度、挑戦しよう! 一人ではさせない、オレも付き合う!」
 拓海の言葉に、明の目は閉じられる。
「まだ俺に苦しめと? もう……充分だろう?」
 刀が大きく振られる。
「それでもだ! それでも、戦わない奴に未来は来ないんだぜ!」
 千颯の言葉に明は目を開け、そして自嘲する。
「未来など、とうに諦めている!」
「もー!」
 リオンが叫んだ。
「君にいなくなってほしくないから、頑張ってんの! 泥から出れないなら俺達が引っ張り上げるから! 何度だって助けにくるから!!!」
 リオンは少年の手をとって引っ張り、力任せに抱きしめた。
 そんなリオンの背に、明は腕をまわし……刀でその華奢な背を斬った。
「っ!」
 リオンは息を飲む。他のエージェント達も一瞬、言葉を忘れる。
「……っく……さ、刺されたって……離すもんか! 俺達の思い、を……甘く、みるな!!」
 リオンは明の体を離さない。
 背から血が溢れて流れ落ちる。
「くっ……ふふ、ふはは……」
 明の口が歪み、そして大きく開き、笑い声がその場に響いた。

●霧谷想定外
 顔を上げ、リオンの体を地面に投げ捨てるように放した明の目はもうココロの死んだ彼のものではない。
「……霧谷、お前……」
 その目は、この状況を心から楽しんでいる者のそれだった。
 拓海は明の姿のままの霧谷に魔剣カラミティエイドで切り掛かり、その刃を刀で受け止めた霧谷を真正面から睨んだ。
「相変わらず、愚かですね……貴方達は」
 にぃっと霧谷は口角を上げる。
「あやつは危険でござる……。ここで倒すでござるよ!」
 白虎丸の言葉に千颯は「ああ」と、決意を抱いて頷いた。
「明くん、聞こえる? 絶対に、君を助けるからね! 俺たちは、諦めないから!!」
 拓海は霧谷の意識の奥にいるはずの明へと語りかける。
「そういうの……若輩者の人間は『ウザイ』って言うんじゃないですか?」
「ウザがられても構わない……俺達は、彼を守りに来たんだから!」
 拓海の剣と霧谷の刀が激しくぶつかり合い、音を立てる。
 霧谷が幻影である可能性を考えて、しばらく冷静に状況を見ていたレイも、九陽神弓を放ち、霧谷を後退させる。
 霧谷をリオンから引き離したところで、千颯がリオンにケアレイをかける。
「っく!」
 長い刀の刃が拓海の頬に一筋の傷を作り、霧谷は「さて」と口角を持ち上げた。
「そろそろ、彼らの命ももう灯火でしょうから、明の体は完全に私がもらってもいいでしょう」
「……彼ら?」
 朝霞が聞き返すと、霧谷は校舎の三階……明がいた教室を見上げた。
「明が消滅させたい泥は、私の霧達が今も着実に侵蝕しています」
 エージェント達が教室を見上げても、校舎を覆う霧で中の様子ははっきりとは見えない。
「まさか、あの教室の霧……」
「明の考えなんですよ? 他の場所の霧を増やさなければ、きっと貴方達は油断してくれるだろうという。なかなかに賢いと思いませんか?」
「霧谷とか言ったか」
 霧谷同等の不敵な笑みで楓が言う。
「人の望みを叶えてやると言い、端末を楽しむ神の真似事は実に愉しい余興よな。しかし、不本意ながら今の我はその位置ではない。故に貴様の余興も終演だ」
 楓が幻影蝶を放つと、美しい蝶が舞い、霧谷へ迫る。それと同時に朝霞もパニッシュメントを放つ構えをとる。
「そんなもの……」
 無駄だ。
 霧谷がそう言おうとした唇が動かない。それどころか、明の体から追い出されそうな感覚がした。
「はやく、俺の体から逃げろ!」と、明の声が霧谷の意識に響く。
 この人間はなにを言っているのだろうか? と、霧谷は眉間に皺を寄せた。
「俺は、あんたに救われた……もう十分、満足したから、俺は死んでもいい」
 だから、あんたは逃げてくれ……。
「……」
 明の思いに、霧谷はめまいを覚える。この自分が人間なんかに負けるわけがないのに、不要な心配をされているという呆れと驚きに、くらりとした。
 そして、妙な気が起こった。これまで一度も考えたことのない考え……。
「仕方ないですね……愚かな子羊も、連れて行ってあげましょう」
 霧谷は楓の幻影蝶と朝霞が「ウラワンダー☆フラッシュ!」と叫び放ったパニッシュメントが届くすんでのところでそれらを交わし、走り出した。
「っ!? 霧谷!!」
 拓海が叫ぶ。
 霧谷はグラウンドの外灯の上に飛び上がると、エージェント達を見下ろして機嫌よくニタリと笑った。
「人間とは、実に面白いものですね」

●救出完了
「……」
 校舎内の霧を消滅させ、消防員と協力して校内にいた者達を避難させた後、拓海は胸のうちのやるせない思いを吐き出すように息を吐いた。
「悔しいわね」
 メリッサの言葉に拓海は頷く。
「悔しいですね!」
 朝霞は頬を膨らませる。
「あいつは倒したいけど、あの姿にはもうなりたくない……」
 うんざりとした表情を浮かべるニクノイーサ。
「まぁ、そう気を落すでない」
 楓が拓海の背中を叩いた。
「あの後、霧谷が明を殺すとか……そういうことはきっとないと思います」
 灯影も拓海を励ますように言う。
「次こそは、俺ちゃん達で倒そうぜ?」
「きっと、すぐにまたチャンスがあるでござるよ!」
 千颯と白虎丸も気合いを入れる。
「……そうですね。次こそは……」
 拓海はぐっと拳を作る。
 その拓海の手に、華奢な手が触れた。
「今度こそ、みんなで明さんを助けましょう!」
 仁菜が真剣な目で拓海を見上げる。
「次も全力でいくぜ!」
「あんな目にあったのに、元気だね〜」
 千颯のおかげですっかり元気になっているリオンの姿に、カールは微笑む。
 リオンの背を斬った明ではあったが、力は込められず、傷は浅かった。
「とりあえず、任務は達成したんじゃないか?」
 救急車を見送り、レイは言った。
 三年三組にいた数名はライヴスを失いすぎて、まだ目を覚まさないが、命に別条はない。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
  • Sound Holic
    レイaa0632

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
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