本部

スイートなデートはいかが?

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/11/05 19:48

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掲示板

オープニング

●OPEN!
 東京某所に今秋誕生した新名所。その名は『スイートパーク』。古今東西のスイーツを楽しむことができる屋内型テーマパークである。
「クレープエリアへようこそ! 焼きたてをご用意しますよ~!」
「オリジナルのパフェ作りはいかがですか~? 秋限定の具材もお試しくださ~い!」
「シャンゴリラTOKYOからやってきたシュークリーム専門店『FUーWA』で~す。プリンクリーム、新発売となっておりま~す!」
「お団子の十五屋、本日限定出店ですよ~! 一本からお気軽に! 白玉あんみつもオススメで~す!」
 盛んな呼び込みの声が聞こえるだろうか。スイーツ好きたちの歓喜の声が聞こえるだろうか。
 今日だけは過酷な任務を忘れて、スイーツに溺れてみようではないか。恋人と、友人と、家族と、そして大事な相棒と――。
 どんなスイーツだってお任せ! スイーツが苦手な方は屋台メシでお出迎えします! 『スイートパーク』にいらっしゃいませ!


●館内説明
1パフェエリア
 目玉はオリジナルパフェ作り。調理スペースで好きな具材を入れたパフェを製作できます。具材はカット済なので、お子様にもオススメです。容器は小さめなので数種類作って食べ比べもできます!

・具材例:いちご、バナナ、桃、栗、パイン、マンゴー、白玉、あんこ、ミニシュー、ウエハース……その他いろいろ!
・クリーム&ソース例:生クリーム、チョコクリーム、イチゴクリーム、抹茶クリーム、チョコソース、キャラメルソース、黒蜜……その他いろいろ!
・アイス例:バニラ、チョコ、ストロベリー、ミント、チョコチップなど常時30種類以上!
・おすすめ具材(いずれも秋季限定):さつまいもアイス、さつまいもコンポート、かぼちゃアイス、かぼちゃペースト(絞り袋)

調理例:
『秋味さつまいもパフェ』
(下から)コーンフレーク+生クリーム+さつまいもコンポート+生クリーム+さつまいもアイス&りんごコンポート&さつまいもコンポート&ミント

『ハロウィンかぼちゃパフェ』
(下から)砕いたビスケット+かぼちゃペースト+クリームチーズ+生クリーム+かぼちゃアイス&ジェリービーンズ&骨型クッキー&かぼちゃチップス
※かぼちゃアイスにチョコソースで顔を書こう! マジパン(砂糖菓子)の帽子もあります。
※ホラー好きなあなたには、目玉キャンディーと血のように真っ赤なラズベリーソースもオススメ☆

 定番のいちご、チョコバナナ、フルーツのパフェを注文することもできます。こちらはスタッフがお作りしますので、料理に自信がない方も安心です。


2クレープエリア
 クレープはスタッフがお焼きします。ご希望があればスタッフが好きな具材を包みますが、自分で材料を包むのも楽しいのでオススメ。調理台とカット済みの具材があります。アイスクレープ、おかずクレープの具材も充実。

・具材例:パフェエリアを参照
・おかず具材例:レタス、トマト、きゅうり、ハム、ウインナー、鳥の照り焼き、ゆで卵、ツナ……その他いろいろ!


3ケーキエリア
 一口サイズのケーキをビュッフェ形式で食べ放題!
ケーキ例:苺のショートケーキ、チーズケーキ(スフレ、ベイクド、レア)、チョコレートケーキ、ティラミス、抹茶ムース、紅茶シフォン、さつまいものケーキ、アップルパイ、かぼちゃタルト、マスカットのタルト、モンブラン……その他いろいろ!
※バースデーなどのお祝いケーキは事前か入場時に要予約。サプライズ演出も協力いたします。


4チョコフォンデュコーナー
 大きなチョコレートファウンテンをご用意! 立食形式でお召し上がりください。


5屋台エリア
 デパートの物産展のような雰囲気で、様々なスイーツを味わえます。人気店からの出張もあり。
 石やきいも、団子、マカロン、クッキー、チョコレート、シュークリーム、ワッフルなど多数出店。
※たこやき、やきそば、お好み焼き、ポテト、唐揚げなどの屋台飯もあり。


☆カップルシートについて☆
店内に数か所、カップルシートをご用意しております。ショッキングピンクのハート型の背もたれで注目されること間違いなし。ちょっと狭めのシートで、恋人や気になるあの子と密着できちゃいます。記念撮影の際はお気軽にスタッフをお呼びください。自撮り棒の貸し出しもあります。

解説

スイーツ食べ放題のテーマパークで楽しく過ごしてください。(通貨は消費しません)

【注意】
・全館食べ放題形式となりますので、メニューはすべてパーク内で召し上がってください。
・実在のお店の名前を出すのはNGとなりますので、お気を付けください。

【メニューについて】
・パフェ、クレープの具材については、例の中に書いていないものでも、存在していることにしてOKです。
・出店についても食べたいものがあれば登場させてOKです。
・各エリアにドリンクのショップもありますので、飲み物の登場はご自由にどうぞ。
・誕生日、記念日などをお祝いしたい方は、ケーキエリアでホールケーキやメッセージつきのチョコなどを用意することができます。(事前に予約済という設定にしていただければ、ケーキの具材を指定する、相手に似せたマジパン人形を載せるなど準備に時間のかかる演出も可能です)

【席について】
・椅子とテーブルを並べたフードコート風のゾーンがパークの中心にあり、それを取り囲むように各エリアがあります。また、ケーキエリアには専用のお席があります。(出入り自由)
・パフェ、クレープ、出店エリアの隅にも簡易なベンチがあります。
・屋外にもベンチや、シートを広げられる芝生がありますが、スイーツを取りに行きづらいため人気はあまりありません。庭は西洋風の可愛らしいものになっています。

リプレイ

●甘味の園へようこそ!
「さぁてと、今日は久々のデートだから気合入れないとね?」
 文殊四郎 幻朔(aa4487)の言葉に、まだ寝間着姿の黒狼(aa4487hero001)が首を傾げる。
「げんしゃく……でーと?」
「そ、デートよ。クロちゃんも一緒ね」
「クロも……でーと?」
 『デート』の相手は銀 初雪(aa4491)だ。彼は紫ノ眼 恋(aa4491hero001)にどやしつけられながら準備をしていた。
「おい雪! デートの時は待ち合わせには早めに着くものだぞ」
「わかってる……いや、今日はデートやない。新店舗の視察や」
 あくまでデートは偵察の隠れ蓑だ――と初雪は主張する。手伝っている喫茶店の新メニューの参考にするため、先輩の幻朔とともにスイートパークに行くことになっただけなのだ、と。
「幻朔殿を待たせてはならんぞ。歯は磨いただろうな? 身嗜みは……」
「……あかんわ、聞いてくれへん」
 幸か不幸か、相手の幻朔は恋人ごっこを楽しむ気満々だった。パークの入口で待っているとにこやかに手を振りながら現れた。
「雪ちゃん、今日はよろしくね。楽しみましょ」
「あ、はい。今日は宜しゅうお願いします……っ」
 気心が知れた先輩とはいえ、綺麗な年上の女性とデートスポットへ。どぎまぎとしながら初雪はパークの門をくぐった。
 約束まであと15分。布野 橘(aa0064)はそわそわと独り言を言う。待ち合わせ場所はパーク近くの時計台だった。
「……これ、デートになるんだよな。そういう関係になったワケじゃねぇし、違う、のか? いや、どうなんだろう」
 待ち人は約束の5分前に現れた。『橘』の花にちなんだ白のニットに自分の瞳と同じ菫色のスカートというコーディネートがいじらしい。乙女心に気づく余裕のない橘は緊張を紛らわせるように、明るく言う。
「時々さ、料理作ってくれるだろ。俺は何も作ってやれないけど、ちょっとでもお返しができたらと思ってさ。……あっ、甘いもの、苦手じゃなかったよな?」
「ええ、好きよ」
 ミラルカ ロレンツィーニ(aa1102)は微笑んで橘の眼を見つめ返す。人生初の監視無しの外出は楽しくなりそうだった。
「おお……おおお……!!」
(こんなにキラキラしてるジスプくん初めてみた)
 子供の体になってから、甘いものにとても弱くなってしまったジスプ トゥルーパー(aa0575hero002)。恥を忍んでシエロ レミプリク(aa0575)へお願いしたのは、スイートパークへのお出かけだった。
「主様! あちらに! あちらにチョコレートの滝が!」
 香りに誘われ、ジスプは主と慕う少女の腕をぐいぐいと引っ張る。はたから見たら姉弟にしか見えないだろう。
「ほらほらー、急ぎすぎると転んじゃうよー?」
 真面目なジスプのからの初めてのおねだりは、シエロの機嫌をも良くした。今日は遠慮深い彼の嬉しそうなシーンを心(とカメラ)のメモリーに収めるチャンスなのだ。
 パークに行こうと持ち掛けたのは狒村 緋十郎(aa3678)だった。レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)に尊大な態度で蹂躙された愚神諸氏は意外に思うかもしれないが、彼女には甘いお菓子が好きな可愛らしい一面がある。パーク行きを楽しみにするレミアにご満悦の緋十郎だったが、彼女にも思惑があった。
「レミア、何が食べたい? パフェでもクレープでも、俺の血でも何でも好きなだけ……」
「ケーキがいいわ。行くわよ」
 いつもなら罵倒の一つもくれるレミアが妙に淡白だ。物足りなさを感じながら緋十郎はその背を追った。
 入口には黒金 蛍丸(aa2951)と橘 由香里(aa1855)の姿もあった。
「急にOFFになってしまったのでどうかと思ったけれど、一人だと来辛いから黒金くんがOKしてくれてよかったわ」
「いえ……。こちらこそ誘ってもらえて嬉しいです」
 蛍丸はカップルの多さに緊張する。由香里の好意には薄々と気付いてはいるのだが、今の彼らは何とも名づけようのない微妙な関係にある。
 用事の代わりと言う割に、由香里の服装とメイクは気合が入っていた。リボンタイ付きの白ブラウスに、紺のタイトスカート、そして伊達眼鏡。知的で大人っぽいコーディネートが良く似合っている。前日、5時間も迷い倒した甲斐はあっただろう。
「何余裕ぶっこいとるんじゃ……わらわは前日から浮かれたお主に付き合わされておなかいっぱいじゃ……」
 飯綱比売命(aa1855hero001)は鬱憤を晴らすかのように屋台ブースに走っていき、和物系スイーツを物色し始めた。
「い、飯綱さま……?」
 詩乃(aa2951hero001)は常になく荒れる彼女の背中を呆然と見送った。

●目移り歓迎、屋台村!
 チョコレートフォウンテンでひとしきり歓声を上げた後、シエロたちは多種多様な甘味を求めて屋台コーナーへ向かった。早速ジスプが団子屋の前で足を止める。
「和菓子に慣れてないならきなこ団子はどうかな?」
 シエロと同年代の少女が手渡してくれる。
「これは……とても優しい甘さです! 食感もしっとりと……」
 もちもちの団子を咀嚼する。
「ふふん、それはジャパニーズ和菓子と言うものだよ」
「ワガシ……素晴らしいです主様……!」
 続いての組は洋菓子党だ。
「話には聞いていたが、凄いな……」
「な……何ですか、これは!? 楽園はここにあったんですね!」
 ケーキとウイスキーをこよなく愛する男、海神 藍(aa2518)と、彼の焼いたケーキにほれ込み誓約内容にまでしてしまった禮(aa2518hero001)。『楽園』というのはあながち誇張表現ではないのかもしれない。
「さて。どこから回ろうか?」
「え……? 手前からです」
「計画性が行方不明だ、まずはパンフレットを貰おうか」
 場所が場所だけに酒類の用意はない。ブランデーを利かせたパウンドケーキなら人気店が店舗を出しているようだから、寄ってみるのも良いだろう。
「楽しみですね! 見たことないお菓子もありそうです!」
「ああ、楽しみだ……ところでどうして魔導書を?」
 藍は禮が抱きしめているものに目を止める。
「『メンサ・セクンダ』ですよ、お菓子がたくさん載ってるんです! ほら、このページの……『かぬれ・ど・ぼるどー』? とか美味しそうじゃないですか?」
「なるほど、探してみようか」
 きょろきょろとする禮。藍はフランスコーナーという看板を見つけた。だが。
「待て、禮あれは!」
「わ! FUーWAですよ! 兄さん!」
「プリンクリーム……だと!?」
 二人の心は一つになった。計画性は、一旦置いておこう。
「2つ、頂けますか?」
「兄さん、ベンチは確保しておきます!」
 胸に片手を当てお辞儀をすると、藍は無駄のない動きで人込みを抜け禮の元へ。微笑ましい光景が店員たちにも笑顔を与えたことを彼らは知らない。

●パフェグラスに幸せ重ねて
「こっちは腹膨れればいいから、好きなとこ行きな」
「分かりました」
 そう答えて東宮エリ(aa3982)は思案する。
(私の場合、パフェだけでいい気がするけど……さすがにアイギスさんに悪いし、できるだけ全部かな)
 各種フルーツの名を挙げて呼び込みをする店員。自分の食生活を知るアイギス(aa3982hero001)はパフェエリアへ誘ってくれる。
「とりあえず少なめにしておきますね」
 アイギスの前にミニパフェが置かれる。エリは傍から見れば無表情に、アイギスからすれば怯えた眼でこちらを見る。今日はエリの慰安のために訪れた訳だが前途多難のようだ
「美味い」
 そう言うとエリはようやく自分の分を食べ始める。果物だけを少しずつとった、パフェと呼べるのかわからない代物。フレークやチョコは彼女にとって無駄なものでしかないのだ。
(果物オンリーって、原価的に店は嫌だろうな)
 呆れつつパフェを食べるが、果物を好む彼女の見立てだけあって本当に美味しい。腹の膨れそうなクレープエリアはパスして、次へ向かうことにした。
「ぱっふぇ! 綺麗だな、これは美味そうだ」
 恋はキラキラした眼で尻尾をぶんぶん振っている。
「……自分で作れるのは、おもろい、かもですね」
 初雪はこっそり珍しい材料などのメモを取る。幻朔は落ち着いているように見えるが、メルヘンチックな内装や宝石箱を広げたような具材たちに内心ワクワクしている。
「わぁ……」
 小さな相棒はぴょんぴょん跳ねて、材料たちを見ようとする。
「げんしゃく……これぜんぶクロの?!」
「ええ、好きなだけ食べていいのよ」
 いつになくテンションの高い黒狼。初雪は微笑ましい気分になる。
「手ぇ、届く? 届かへん時は言うんやで」
「ゆき! あれとって! クロいぱいたべりゅ!」
 調理台へ移ると、雑談しながら作業を進める。
「こういうんがハイカラ言うんですかね」
 初雪は、桃と葡萄とアイスクリーム、それから生クリームとコーンフレークを使って秋の味覚パフェを作る。
「幻朔殿! 幻朔殿はどのようなものを作られるつもりだ?」
 恋が問うと幻朔は自信なさげに苦笑する。
「パフェって私に似合うかしら?」
「もちろんだ! 幻朔殿のパフェ、見てみたいぞ!」
「ありがとう。柄じゃないけど折角だからやってみるのも楽しいわね」
 動物の絵の描かれたクッキーやハートや星を象ったチョコレートが可愛らしいが、自分で使うのは我慢だ。バニラアイスに桃や梨を乗せて、生クリームとウエハースをトッピングする。大人の女性ならば控えめなくらいのパフェが丁度良いだろう。
「あら、みんな可愛らしい感じに作ったのね」
「俺はさっぱりと食べやすい感じがええかなと思って、シンプルなんにしました。先輩は?」
「私は無難な感じかしら?」
 黒狼も完成したようで、幻朔の服を引っ張る。
「クロの!! クロのいぱい!!」
「クロちゃんはどんなの出来たかしら?」
 桃・梨・パイン・マンゴー・葡萄・林檎が小さな容器の中でひしめき合う。収まりきらなかったバニラ・チョコ・ストロベリーのアイスは奇跡的なバランスで安定を保ち、頂点に鎮座しているのは白玉だ。
「クロちゃん……大盛りね。食べられるかしらね?」
 黒狼は自信たっぷりに頷いた。隣では恋が仕上げに入っている。
「器が小さいな! これでは溢れてしまいそうだぞ」
 白玉、アイスクリーム、生クリーム、コーンフレーク、ウェハースとここまでは順調なようだ。最後に餡子をうまく盛り、栗を生卵に見立て――。
「配置で私の大好きな牛丼を真似た」
「なんで見立ててしもたんや……」
 初雪はがくっと肩を落とす。材料だけなら美味しい和風パフェができそうだったのに。
「あらあら、恋ちゃんのは面白いわね。私好きよ」
 優しく褒めてくれる先輩は本当に大人だと初雪は思う。
「あ、荷物持ちくらいします。貸してください、幻朔先輩」
「あら雪ちゃんありがとうね。ふふ、じゃあお願いしようかしら」
 初雪はバイトの時よりもいくらか緊張しながら、個性豊かなパフェを運んだ。
「季節限定だってさ。マロンパフェ、行ってみるか?」
 材料を眺めミラルカは問う。
「サツマイモ、と言うのも秋の味覚なのね? 橘は好き?」
「ああ!」
 橘は頭が働かず、生返事をしてしまう。
「紫芋? これは何かしら?」
「それもいいな!」
 ミラルカは怪訝そうに橘の名を呼ぶ。
「……悪い」
「ねぇ、橘。……言葉が出てこないのなら、私の眼を見て頷いて。きっと伝わるから」
 余計な力が抜けた。人混みでのエスコートは橘が、代わりにスイーツの見立ては彼女の力を借りることにした。
 パフェを持った4人組は手早く席を見つけ、食べ始める。
(先輩、普通やったらまずお付き合いできへん別嬪さんやし、なんや不思議な感じやわ……)
 幻朔は小さく一口食べて、上品なしぐさで口元を拭く。その笑顔はちょっとだけ子供みたいで、珍しく隙のある表情だった。だから油断したのだ。
「雪ちゃん、はい、あーん♪」
 思わず言葉を失くす。
「も、からかわないでください」
 ぽつりと言い返すのがやっとだ。
「ふふ、雪ちゃん何考えてるの?」
(ちょっと意地悪かしらね?)
 そう思いつつも、幻朔は悪戯っぽく微笑む。
「こい! あーん!」
 黒狼は幻朔をまねて力作をおすそ分けする。
「おいしいぞ、黒狼殿!」
「こい、クロもあーん」
「あーん」
 黒狼は小さな口いっぱいにパフェを頬張りご満悦だ。可愛いものに目のない幻朔にとっては、この笑顔もまたご褒美だろう。黒狼を優しい眼で見やりながら彼女は言う。
「じゃあ、『あーん』は次のデートまで取っておくわ。いいでしょ、雪ちゃん?」
 ずるい人。こんがらがった初雪の頭は、そんな単語を繰り返していた。格好良くて綺麗な人。なのに時々やけに人懐っこくて可愛らしい。殊勝で純情な後輩は「偵察、です」とささやかに反抗した。

●クレープに包んだ想い
 由香里、蛍丸、詩乃はクレープエリアにやってきた。蛍丸に促されて詩乃がイチゴのクレープを注文する。
「僕も同じものを……」
「待って。私、作ってみたいわ」
 店員から皮を受け取って調理スぺースへ移動する。
(まずは自分のクレープで練習ね)
 たっぷりの生クリームにバナナ、仕上げにチョコソースをかけて包む。
「美味しそうですね」
「意外とうまくできたわね。黒金君はクリームの量、どのくらいにする?」
 包むだけとはいえ相手のために料理できたり、食べてくれる姿が見られたりするのは楽しい。
「詩乃ちゃんはどう?」
 由香里は、詩乃の前では恋愛感情を隠してお姉さんらしく接するつもりだ。
「私、くれーぷを食べるのは初めてで……橘さまにお任せしても良いでしょうか?」
「わかったわ」
 由香里は得意げに微笑んだ。
 ミラルカは橘をイメージしてクレープを注文する。レモンムースとクランチクッキー、ミントの組み合わせは爽やかで明るいイメージ。次はタンドリーチキンと新鮮なレタスとトマト。こちらは熱っぽく活力のある感じ。自分には栗と薔薇のジャムと紅茶を使ったスイーツを。
「ジェノバやローマにはすぐ行けないけど……ジェラートどう?」
 口直しは名作映画を気取って。ブラッドオレンジとミルクのハーフがミラルカの生まれたジェノバ流だ。自分は王女じゃないけれど、代わりに涙のラストシーンもない。この幸せを享受できる今が愛しい。
「美味しいです! 私、気に入りました!」
「よかった。ここへ来るの楽しみにしてたもんね」
 お揃いのイチゴのクレープを頬張る蛍丸と詩乃の姿は微笑ましい。
「詩乃ちゃん、クリームがついてるわ。少しじっとしてて」
「あ、すみません……」
 詩乃は恥ずかしさに頬を染めるが、表情は柔らかいままだ。彼女ははしゃいだ様子で、飯綱にもクレープを持って行ってあげたいと去って行った。
 ベンチに腰掛けた二人を詩乃はこっそり振り返る。
(本当は……私がいたら、橘さまが蛍丸様と気軽にお話しにくいかなと思ったのですが……)
 蛍丸が投げかけた言葉に由香里が破顔する。無邪気な、可愛らしい笑顔だった。――妬けないと言ったら嘘になるけれど、由香里の恋路を邪魔する気にはなれない。もやもやを振り切るように通路に出ると、クレープエリアの景色はマジックミラーに遮られた。鏡を見て口角を上げてみる。飯綱に心配されるような表情はしたくない。
 気づくと驚くほど美しい少女が隣に立ち、鏡に見入っている。うっとりとその口が開きかけたとき、長身の女性が美少女を引きずっていった。
「コイツ、学校生活普通だったって嘘だろ……」
 詩乃はなんだかおかしくなった。和菓子コーナーに向かうと探し人は山盛りの団子と餡蜜を食べていた。
「お主……」
「くれーぷをお裾分けに参りました。橘さまおすすめの『ばななちょこ』です」
 飯綱は詩乃を隣に座らせた。説明は要らないようだ。
「屋台エリアって色々なお店があって面白いですね! 飯綱さま、どのお店に行ってみましょうか?」
 分けてもらったわらび餅をつつきながら詩乃が言う。
「和菓子はどれも見事であったぞ。しかし洋菓子も悪くないものじゃな」
 カラフルなマカロン、香ばしい香りのクッキー、行列のできているチョコレート。皆、「私を食べて」と自信満々な様子で陳列されている。
「今わらわは機嫌が良い。お主のわがままに付き合ってやっても良いぞ」
 詩乃は声を詰まらせる。
「……ありがとうございます。では手当たり次第に参りましょう。まずはあの、べるぎぃわっふるです」
「承知した」
 残された二人の間にも和やかな時間が流れていた。
「橘さん、最近、笑顔が多くなってきましたね。僕、橘さんの笑顔、大好きですよ」
 由香里の頬が染まる。過剰反応とわかっていても、顔が、耳が、熱い。なんとかして距離を詰めたい。そう思うのに、そのための行動も気の利いた言葉も思いつかない。
「あ、それ……」
「僕の誕生日プレゼントにいただいたお守り、いつも持ってるんですよ?」
 蛍丸は由香里に微笑みかける。
「また、どこかに誘ってくださいね? 約束ですよ?」
 彼女の想いにどんな答えを返せるのか、今はまだわからないけれど――。指切りをしようと提案すると、なぜだか由香里の肩の力が抜ける。おかしなことを言ったかと蛍丸は焦るが、彼女は優しく笑って小指を差し出した。

●非日常デコレーション
「ケーキが……ケーキがこんなに……!」
「しかも一口サイズ、これは食べ比べが捗りそうだねえ?」
 ジスプはキラキラの瞳でシエロを見上げて言う。
「美味しい……主様の作るおやつと同じぐらい美味しいです!」
(ぐうかわ)
 あまりの可愛らしさにテーブルをバンバンしたくなる衝動を抑える。チャンス到来の予感だ。
「……主様、その機械はなんですか?」
「……これをかざすとお菓子が美味しくなります」
 カメラを初めて見る彼にシエロはしれっと嘘情報を話す。
「なん……だと……!」
「そのお皿、手の平にのっけてくれる? 目線はこっちに。ハイ笑って~」
 ジスプは疑うことなく指示に従う。
(うちの子マジピュア)
 思わずグヘヘと漏れそうになる笑いをこらえる。可愛らしい写真が撮れた。
「主様はどれにしますか!」
「んーじゃあ、おすすめちょうだい?」
 からかうつもりであーん、と口を開けたのだが。
「ではこちらなどいかがでしょう!」
 真っ赤な苺の乗ったショートケーキを差し出した。
(ありゃ、いい意味で予想外!)
 驚いたが、嬉しい。新たな相棒との距離が縮まった気がしてシエロは心が温まるのを感じた。
「ねぇ、緋十郎。……わたし、あの椅子に一緒に座りたいわ」
 レミアは照れ臭さに耐えつつ、細く白い指でカップルシートを指す。
「なっ?! いや、れ、レミアの希望とあれば、俺には是非も無いが……!」
 照れがないではないが緋十郎にとっても魅力的なお誘いだ。ましてやレミアの方から言って貰えるとは夢にも思わなかった。自然、目じりが下がり、顔は熱くなっていく。
「何を興奮しているの、この変態。何なら緋十郎だけ床でもいいわよ」
「それはそれで! ……いや、やはり俺はレミアの隣に座りたい」
 密着する体。冷たい体温や柔らかな肌の感触を感じて、緋十郎は天にも昇る気持ちだ。
「それだけで足りるか? 何か取ってこよう」
「ゆっくり食べたいから良いのよ。黙って座っていなさい」
 レミアが至近距離から睨み付けて来る。真っ赤な瞳はイチゴよりもチェリーよりも鮮やかで目が離せなくなる。甘い香りが鼻腔を満たすのはケーキたちのせい? 否、我が美しき主の芳香に決まっているのだ! 大興奮する緋十郎の肩に絹糸のような髪がはらりと垂れ、そのまま頭を預けられる。求めたのは、温かな体温と筋肉質な体の感触。心地よさを感じているのは彼女も同じだった。
「……こうして並んで座るのも、悪くないものね」
 衆目などもうどうでも良い。寄り添い、二人の時間を過ごす彼らを邪魔する者はいない。
「おっと……あれはケーキより甘いな」
 かぼちゃのソフトクリームを持った禮が不思議そうに見るのを体で遮り、藍は足早にその場を去る。口の中の生キャラメルが存在感を増していた。
 思い思いのケーキたちを選び、庭園へ。風はなく、秋らしい控えめな日差しが降り注いで心地良い。陽光がきらめく小さな噴水も寒々しくない。ティーポットから温かい紅茶を注ぐ。藍は懐からブランデーを取り出して自分のカップに少し注いだ。
「ケーキと言えばわたし達が出会った時のクラフティは格別でしたね、兄さん」
「あれは我ながらいい出来だったね……英雄が釣れるなんて思わなかったが」
 ケーキに釣られた黒い人魚はスフレチーズケーキを、その『兄』はガトーショコラを、小さな三叉槍でつつく。
「ああ、そうだ……ありがとう、禮。あの日私のもとに君が現れなかったら、私はもっと空虚に生きていたことだろう」
 不思議そうに藍の眼を見つめて、禮がまばたきをふたつ。
「私が居なくとも、いずれ何かを得ていたと思いますよ? 兄さんなら」
「買い被りすぎだと思うけどね」
 藍は目を伏せる。黙って頭を撫でると、禮はふと思いついたように言う。
「乾杯、しませんか?」
「お茶会なのにか? ……ま、いいか」
 陶器が軽くぶつかる繊細な音。あどけなき天性の戦士も、空虚の味を知る騎士も、今は戦いという『日常』を忘れて――。
 お茶会が楽しめる平穏に、この小さな幸せに乾杯を。

●ビタースイートコミュニケィション
 色とりどりのケーキを以てしても、エリの緊張が緩むことは無い。桃のムースケーキに巨峰タルト、ミニフルーツ杏仁を皿にのせて戻って来る。
「……御嬢様の食い方じゃねェよなァ」
「え、駄目ですか?」
「いや」
 ケーキ本体は勿論、タルトを覆う薄いゼラチンまでもが剥がされ、取り残される。悲惨だ。
(親御さんは躾ちゃんとしてそうなんだけど)
 悲惨と言えば、一挙一動ごとに怯えられてしまう自分の境遇もそうだろう。
「俺が残り食うわ。腹膨れりゃいいし、満腹超えても辛くないし」
「嫌じゃないですか」
「ん。……えっと、選ぶの面倒だし」
 その眼がほんの少し安堵を宿した。「怒られずに済んだ」という意味だろうが、無駄に気を使わせるよりはましだ。主役なのに置き去りにされた杏仁豆腐を口に運ぶ。
「あっちも随分人気だな。見てきたらどうだ?」
 チョコレートフォウンテンだ。決して命令口調ではないのにエリはさっと立ち上がる。
「流れてるチョコにつけるのか。子供は好きそうだ……あ」
 エリは串にフルーツを刺し、チョコにつけずに食べている。
(人目が!)
 アイギスは珈琲を吐き出しそうになった。案の定、店員に声を掛けられている。
「ただいま戻りました」
 帰ってきた彼女の皿にはカットフルーツが盛られていた。
「割と何でもありだな」
 急にニコチンが恋しくなった。ガラス張りの喫煙所が近くに見えていたせいか。
「少し外す。食ってろ」
 人気のない室内。疲労困憊の身にはありがたい。
(どっちが遠慮してんだか)
 それでも、なぜだろう。例え昏い眼のままでも、嬉しそうにするエリを見ると少しだけ頬が緩んでしまう。
(よく情が湧くもんだ。あんな面倒なガキ相手に)
 苦くて、苦くて、苦くて、時々ほのかに甘い。彼女との時間は不思議な思いをこの胸にもたらすのだ。
 銀の蓋を載せた皿を持って店員が来る。緋十郎が人違いではと問う前に、レミアが言った。
「ハッピーバースデー、緋十郎」
 当日は愚神の出現によって祝うことができなかった。せめて、と彼女は夫の好きなチョコレートのホールケーキを特注していた。
「黒と赤を基調にということで、ラズベリー風味のザッハトルテをご用意しました」
 メッセージカードや人形は恥ずかしくて頼めなかったが、代わりに赤いラズベリーソースがたっぷりとかかっている。歳の数は大小の蝋燭で表現されている。
「……いつもわたしのために色々してくれて、ありがとね、緋十郎」
「レミア……! す、好きだ……!! 大好きだ……!!!」
「そんな大声で言わなくても、知ってるわ。でも……ありがと」
 カットを終えた店員が去って行く。一口食べると、表面をコーティングするビターチョコが甘く煮詰められたソースと絡み合う。血のように赤いソースが滴り、チョコ味のスポンジケーキに染み込んでいく。
「緋十郎」
 完食後、レミアの声に全てを察した緋十郎は、人気のない庭の片隅でその血を愛しき主に捧げた。

●食べ残しは無いかな?
 飯綱は詩乃を連れて戻って来るや否や、呆れ顔で二人を見た。
「折角席を外しておったのに、お主らはどうしようもないのう。そうじゃ、折角でーとに来たのじゃから二人であっちのかぽーしーとへ座るがよい。わらわがしゃめを撮ってやろうぞ」
 ショッキングピンクのハートが二人を歓迎していた。
「……あれ? ちょ、ちょっとあれに二人で座るのは抵抗ありすぎない? い、嫌よ!?」
「お客様、お撮りしますよ~」
 店員がカメラを受け取る。飯綱と詩乃は二人を挟んでシートの両側に立ち、にっこりと笑う。
「お二人の指でハートを作ってみましょうか。はい、チーズケーキ!」
 照れつつも店員の合図を復唱すると、少しだけぎこちないけれど笑顔の写真が撮れた。由香里は画面を見て小さく笑った。
「幸せなひと時でした……名残惜しいほどに」
「うーん、全部は無理だけど」
 しょんぼりと尻尾を垂らす仔犬のようなジスプに、シエロは言う。
「いっぱい食べたからおやつのレパートリー増やせるかもね」
「あ……主様ぁ!」
 ジスプは感激の声を上げる。そろそろ林檎が旬だ。寒くなってきたから温かいパイやお汁粉なども良いだろうか――シエロは可愛い可愛いパートナーのために、レシピ研究を心に誓った。
 パークを離れゆっくりと歩く。遠回りの道を選んだのにミラルカは何も言わない。浮かれる心を抑えて「いい思い出になったよな」なんて言ってみる。
「まだ時間は平気?」
 彼女が言わなければ自分が言うつもりだった。
「もう少し一緒にいたくて……楽しかったから」
 ミラルカは真新しいハンカチを橘に手渡す。包まれていたのはお土産用のマカロンだ。
「ほら、夢じゃない証拠。良かったらハンカチは持ってて」
 ハンカチには橘のイニシャルが刺繍されている。
「橘……ありがとう」
 ベンチに腰掛けると彼女が言う。
「初めて何かを素直に『好き』と言える自由を、ありがとう」
「好きって……菓子を?」
 そう。それが幸せなのだ。――橘の好きなものを教えて。どんなふうに笑ってはしゃぐの? 次々言葉が溢れる。話しながら、彼女は橘の肩に舞い降りた落ち葉をそっと鞄にいれた。次は彼のための一日を自分が叶えたいと願いながら。
 帰り道が分かれる場所。橘はもう一つの名前でミラルカを呼び止める。
「なぁほたる」
 本当は、この言葉が言いたくて誘ったのかもしれない。色んな建前もあるけれど、伝えたかったのかもしれない。
「前に、俺には気になる人がいるって言っただろ。まだ、誰のことか教えてなかったよな」
 まっすぐな瞳が彼女を射抜く。
「……お前のことだ、ほたる」
 返事は、まだ、なくていい。そう言って彼は駆けていく。「明日にはお別れかもしれないのよ」――それが彼女の在り方だった。冷たい風に急かされて、彼女は家路に就く。今考えることは――『明日』、彼に何と伝えようか。

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結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 信念を抱く者
    布野 橘aa0064
    人間|20才|男性|攻撃



  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • 解放の日
    ジスプ トゥルーパーaa0575hero002
    英雄|13才|男性|バト
  • エージェント
    ミラルカ ロレンツィーニaa1102
    機械|21才|女性|攻撃



  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • エージェント
    東宮エリaa3982
    人間|17才|女性|防御
  • エージェント
    アイギスaa3982hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 開拓者
    文殊四郎 幻朔aa4487
    人間|26才|女性|攻撃
  • エージェント
    黒狼aa4487hero001
    英雄|6才|男性|カオ
  • 牙の誓約者
    銀 初雪aa4491
    機械|20才|男性|命中
  • 天儀の英雄
    紫ノ眼 恋aa4491hero001
    英雄|25才|女性|カオ
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