本部

【秋食】おいもとりんご

玲瓏

形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/10/24 20:41

掲示板

オープニング


 そろそろ樹木の葉が赤や黄に色づきだす。
 野山が秋色に染まるには暫しの月日が必要だがそれよりも早く、秋を感じさせるものがいくつかある。
 夏の日射しをたっぷりと浴びた作物がたわわな実をつけていた。厳しい冬に備える野生動物達がそれらを食らって肥え太っていく。
 豊富な穀物と果実、そして脂がのったジビエ。それらを黙って見過ごせるほど人の食欲は軽いものではない。
 秋のある日に収穫したばかりの食材が調理されて食卓に並べられる。家族や友人知人で囲み、舌鼓を打って心を潤すひとときもあるに違いなかった。
 穀物や果実はときに酒となる。肉も長い冬に耐えるためのハムやソーセージ、燻製肉、塩漬け肉に加工されることもあるだろう。
 人の営みに欠かせないのが自然の恵みだが、一年を通じて秋の季節は格別のご褒美といえた。

「せっかくですし、一般の方に迷惑がかからない範囲で許可しましょう。但し、強力すぎるのはダメですからね」
 ここは大英図書館の館長室。H.O.P.E.ロンドン支部長、キュリス・F・アルトリルゼインは目を通したばかりの書類に判を押す。それは支部が所有しているオーパーツの貸し出し要望書であった。
「ほ、本当によろしいのですか?」
「もちろんですよ」
 駄目元で要望をだしたH.O.P.E.女性職員はキュリスの前で両の瞳を大きく見開く。余程信じられなかったらしく、何もない絨毯の上で転げそうになりながら退室していった。
 期間限定なものの、こうしてリンカー主催の宴やピクニック等のプライベートな催しにオーパーツが持ち出せるようになるのだった。


「なんじゃこりゃ」
 送られてきた映像を見て、H.O.P.Eオペレーター、坂山純子は呆れて、そうとしか言えなかった。背もたれに重心をかけて、どうにか頭で混乱を理解しようと試みるが、想像を超えていて上手くいかない。
「お祭りだね。サツマイモの」
 隣に座って、斜めからモニターを凝視していた彼女の英雄、ノボルが言った。
「素っ頓狂な奴らなこと。これは何に分類されるのかしら。従魔? 愚神?」
「さあ……なんなんだろう」
 モニターの映像を努力して理解しようとした結果がこうだ。
 人間大の大きさのサツマイモが列を成して商店街を歩いている。彼らには足がないから浮遊しているのだろう。そして所々に成人男性二人分の大きさのさつまいもが、人間サイズさつまいもに担がれて運ばれている。
 ――なんじゃこりゃ。坂山は額に手を当てて、結局理解に諦めた。仕方がない、もう何が起きてもおかしくない世界なのだ。だからサツマイモが列になって浮遊しながら進んでいても現実である。
「これ、食べられるのかな」
「さあね……。あれ、まだなんか来てる」
 更にモニターが送られてきて、それを見た坂山はまたぞろ唸った。
「流行ってんの? コレ」
 続けざまにきたのはまた大名行列だった。今度はさつま芋ではなく、果物の林檎だ。こちらもさつま芋と全く同じ状況である。坂山は眠そうに目を擦っていたが、ノボルは美味しそうなリンゴをひたすら見つめていた。
「これ、なんていってエージェントを呼べばいいと思う?」
「そのままいえばいいんじゃないかな。なんか、サツマイモが行列作ってるって」
「頭がおかしくなったって思われそうだけれどね」
 結局、坂山はエージェント達の事を、そのままの状況を伝えて招集した。ひとまず対処するしかない。
「別の場所ではオーパーツとか使って催しを開いてるのに、私はサツマイモとリンゴの相手よ」
「幻想的だよね」
「そうね。これでリンゴに顔が書いてあったら、昔あったゲームの野菜の国のなんちゃらかんちゃらって感じだったわ」
「知ってる人いるのかな?」
「さてね」

解説

●目的
突如として出現した二種類の行列の動きを止める。

●対処方法
 サツマイモとリンゴは攻撃をしたら砕けるが、すぐに修復される。
 しかし、「食べる」という行為に対しては修復されない。毒は持っていないので、全ての食料を食べきる事が一番の対処方法である。

●リンゴとサツマイモ
 林檎は人間の腰まであるサイズで、十一匹存在する。その中の一人は二倍の大きさをしており、行列の中央に陣取って座っている。
 サツマイモは人間大の大きさ。こちらも十一匹存在して、その内の一人はまた二倍の大きさをして、中央にいる。
 この列は人間や環境に被害を与える事はなく延々と歩き続けているだけだが、道路の上などを平気で渡るという報告があるために交通網に支障をきたす恐れがある。
 二つともエージェントに何をされても動きを止めないので、食べるのは苦労するかもしれない。だが力は弱いので、無理やり押さえつけて移動を阻害できる。味は滅茶苦茶美味しい。
 ※サツマイモは土から取り出した状態なので、炎のスキル等で焼くと美味しく召し上がれます。

●原因
 欲張りなリンカー「レミルー」が未発見の物体、オーパーツを使ってサツマイモとりんごを大きくしてしまった。彼は騒ぎが大きくなり街のどこかに潜んでいるが、彼の英雄「蟋蟀(コオロギ)」が彼の居場所をリンカー達に伝える。

リプレイ


 今日は待ちに待ったリンゴ狩り。ついでに美味しい薩摩芋もご馳走してもらえるみたいだ。これは期待せざるをえないと音無 桜狐(aa3177)は現場に足を運んだ。想像ではこうだ。ビニールハウスの中で丸く膨らんだ林檎を鎌か鋏で切り取って、皆で齧ったり料理したりして楽しむイベント。
「なんじゃ、これは」
 口と目を半開きにして音無は隣にいる猫柳 千佳(aa3177hero001)を、罪を与えんとする目で見た。
「確かに食べられる依頼じゃが、歩き回る林檎と薩摩芋とは聞いておらんかったのじゃがの……」
「にゃははは、う、嘘は言ってないにゃよ? 情報が一部抜けてただけにゃよー。さ、頑張ろー!」
「どう頑張ればいいのじゃろうか」
 林檎の行列が、音無の方に向かっていた。上下に小さく揺らめきながら呑気だ。
 従魔や愚神とは違って、この物体を前にするとどうも気が抜けてしまう。それでも林檎達はゴトゴトと互いにぶつかる音を発しながら近隣住民の邪魔になる行進をしているために退治しなければならない。
「おぉー」とまた、何処からか気の抜けるような声が聞こえた。鹿島 和馬(aa3414)が音無の後ろに来ていたのだった。俺氏(aa3414hero001)も一緒である。
「坂山氏のいった通りだね。林檎と薩摩芋が行列を作ってるって。これ、食べられるのかな?」
「どうじゃろうな」
 この軍団は非常識なほどに邪魔だが、ただ行進しているだけで人畜無害だった。猫柳が面白がって行進に割り込んだが、それでもスルーだった。鹿島は試しに剣で切り傷を入れた。果汁が良い香りを発して地面に滴る。
「ははーん」
 切られた林檎は元に戻った。傷が無くなったというそれは、自己治癒能力を持っているのだ。
「ある意味そこいらの従魔よりも厄介かもしれねーなあ。回復するだなんて聞いてねえや」
 鹿島は朝から何も食べていなかった。無論、林檎狩りを楽しむためだった。動いているとは聞いていないが……。腹が減っていた鹿島は細かい事情は一切考えず、齧りついた。
 瑞々しい歯応えと一口噛んだ時に生ずる爽快感は類がなかった。全く劣らない、良い味を出してその感想を鹿島は長々と説明したかった。
「うにゃ?」
 猫柳がまず始めに気づいたのだった。鹿島が齧った跡は回復をしない。
「どういうこっちゃ。食べれば回復しないんか」
 鹿島は口を動かしながら現状を確認した。
「摩訶不思議じゃな。どういう原理じゃ?」
「僕も食べるのにゃー!」
 空気を退けて、猫柳は林檎に跨ると食べ進めた。
 例えば鹿島が、大きくなった動く林檎の自己回復能力を阻止するという局地的な能力を持っているならば猫柳が林檎を食べても回復しなかっただろうが、やはり林檎は復元されなかった。食べれば良いのだ。
「対処法はわかった。じゃが、動いたままじゃ食べづらいじゃろうに。どこかに追い詰めた方が良さそうじゃな」
 周辺にどこか、袋小路とよべそうな場所はないか鹿島は携帯の地図機能を使って探した。その間も林檎達は行進を続けるので、置いていかれないよう四人は行進につづいていた。猫柳は延々とかじり続けていた。


 石焼き芋~と聞き慣れた音声が走っていた。その音源は車に取り付けられたスピーカーからである。車は商店街の近くの住宅街を走っていた。家の中から出てくる人はいないが、出てきたとしてもまだ芋を販売できないから、僥倖だ。
 薩摩芋の行列は住宅街を歩いていた。その行列の進行を妨害する位置に車は停車され、後部座席から餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)が飛び降りた。
「生き生きしてるね。今時の薩摩芋って動くんだ~」
「技術の発展ってすごいね」
 つっこみ役は不在らしい、今の所。
 お互いにぶつかりあう鈍い音をバックミュージックにして行進を続ける薩摩芋達がこんがり焼きあがる姿をいち早く想像した二人は、待ちきれずに二人して地団駄を踏んだ。待ちきれないといった様子だ。
 運転席からは九字原 昂(aa0919)が姿を出した。いつも肝が座っていて滅多に怯まない彼でもさすがに目を瞠ったようだった。
「……偶に、大きいものに思う存分齧り付きたいと思うことは有りますけど、ここまで大きくなくてもいいですよね」
 九字原は車内で、音無達からの通信をもらっていた。この食べ物達を食べ切らなければ任務は必ず終わらないのだと、そのためにはまず袋小路を探さなければならない。
 焦る望月と百薬の肩を叩いて、九字原は食べるのは後回しだよと伝えた。
「近くに良い空き地があってね。最近コンビニが取り壊されたとかで、結構広い土地だよ。そこに薩摩芋達を誘導しよう。多分、途中林檎達とも合流すると思うよ」
「はーい」
 九字原は車に乗り込んで、その空き地に誘導するためにゆっくりと走った。 
 道中、薩摩芋達は車についていかず、左に曲がる所を右に曲がろうとしたそんな時は望月と百薬がフラメアで突いて強引にルートを変更させる。大きさの割に薩摩芋達は軽いために、二人の力だけで簡単に方向転換が可能となった。
「こっちじゃないよーあっちだよー」
 薩摩芋を誘導するという、人生で奇跡的な経験は今日だけだと、どうでもいい事を望月は考えていた。


 二つの大名行列は無事、空き地の中に収まった。
 こうとだけ書くと簡単に思えるだろうが、空き地の中に収めるだけで一苦労だった。林檎達の方向転換役は音無が引き受けていたのだが、林檎は結構な重さがあって音無が押される事もあった。望月達と合流してからは望月が槍で林檎一つを串刺して百薬と分け合って食べていた。
 猫柳は食休みに、もはや林檎を布団のように扱っていた。
 空き地には赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)を中心に、バリケードが建てられていた。御神 恭也(aa0127)等がバリケードを設置するために空き地にいたのだった。土地主には一応、許可を貰っている。
「何つーか、スッゲーシュールな光景だな、コレ……」
 古賀 佐助(aa2087)、彼もバリケードの設置を手伝っていた。
 シュールな光景とは的を射た言葉だ。リア=サイレンス(aa2087hero001)はしかし、愛おしそうに、入り口から入ってくる林檎達を見つめていた。
「……薩摩芋……林檎……美味しそう……」
「こっちはこっちで目がスゲー輝いてるし……」
 古賀は目を輝かせるリアと、食材達、二つを呆れを帯びた目で見ていた。
 秋の味覚を楽しむ、それを最優先にしていた葉月 桜(aa3674)はどんな風に調理をすべきか考えていた。
「食べるには大きいと思うからばっさり斬らないとね! どんな料理にしたら美味しいかな?」
 敷地内を自由に歩き回る林檎に、先手を得たのは御神だ。彼はドラゴンスレイヤーを両手で掴んでから振るうと、器用にもうさぎ型の林檎が完成した。
「何でこんな形に斬ったの?」
 伊邪那美(aa0127hero001)の指摘は厳しい。
「いや、これなら殲滅の為の攻撃では無く食する為の切り分けと認識するかと思ってな」
「……これで、復元したら間抜けな行動だよね?」
 林檎は復元しなかった。うさぎ型の林檎が歩く姿は可愛らしかった。
「復元しないって、それじゃあ本当に食べるために切れば大丈夫なんだね」
「そうみてえだな」
 続いて赤城も兎を作った。二匹の兎が列の中に入り込む。
「何事もやってみるものですわ」
 これならば存分に味覚の秋を堪能できると、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は喜びに顔を明るくしていた。複雑な考えは一切せず、純粋に秋を楽しむのだ。
「問題は薩摩芋じゃな」
 音無は薩摩芋を手で、ノックするように叩いていた。
「林檎は齧られるが、薩摩芋は火を通す必要があるじゃろうな」
「ワタシに任せてっ」
 リアはイグニス、要するに火炎放射器を構えていた。
 薩摩芋の食べ方といえば、色々種類あるが、火の下に焚べて自然の力で温めて蒸して食べるという方法がある。リアはそれを、火炎放射器で実現させようと試みていた。薩摩芋を火炎放射器で焼く。普通なら一瞬で黒焦げであり、食べられた物ではないが。
「まて、直接火に入れる奴がいるか。最低でも熾火を使うかアルミホイールと濡れ新聞紙で巻いてから火に晒せ」
 御神が言ったが、伊邪那美はこう言い返した。
「うん? 焼き林檎と焼き芋なんだから火にくべれば良いんじゃないの?」
「そんな事をしたら炭化す――」
 言いかけて、御神は黙った。リアはいつでも火炎を出せるよと準備を万端にしている。
「ここまでデカいと周囲は炭化しても中心部は調度良い感じなるかも知れんか?」
 横に長く、火が噴射された。火は行列の芋達を包み込んだ。適当に頃合いを読んだリアは炎を止めた。目の前の芋達はこんがり焼きあがっていて、尚歩みを止めなかった。
 良い香りがしていた。御神の想像通り、炭になる部分はあったが元の形を保っていた。
「林檎も、焼き林檎にしたら美味しいんじゃないかな?」
 望月の提案を、リアは二つ返事ですぐに取り掛かった。
 美味しい焼きリンゴの出来上がり。だが全ての林檎が焼かれてはいなかった。その林檎を食べて、百薬が一言。
「これは、素材の味が生きてるね」
「素材が生きてるからね」
 さて、兎の数は大分増えていた。犯人は九字原だった。
「さっきはこんなに兎さんいたかな?」
 葉月の問いかけに、九字原が申し訳なさそうにしていた。
「すみません、勢いが余りすぎて……」
「兎りんごの行進みたいになってて、かわいいね! それじゃあボクも綺麗に切らないと」
 葉月はヘヴィアタックを林檎に決めて吹き飛ばすと、バリケードで跳ね返ってきた林檎を八等分に刻んだ。見事な腕前だった。
 落ちてきた林檎を皿の上に乗せたのは鹿島だった。いつの間に持ってきたのだろう? そんな大皿を。
「ナイス剣裁き。俺も頑張んねえとな!」
 鹿島は大皿を俺氏に渡して焼き芋と焼きリンゴが入り乱れた中心部に立った。――それは刹那の輝き。菩薩のように精神を研いだ鹿島の手には、天叢雲剣が握られていた。それだけの筈だった。剣は動かない、それなのになぜ、彼の周りに立ちふさがる物共は斬れているのだ。おそらく、物共も理解に追いつかないだろう。いつの間に、自分たちが斬られていたのだろうと。
 林檎と薩摩芋は俺氏の皿の上に綺麗に乗っかった。
「投げた林檎を早業で斬れるのがセイバーマスタリーならば、その上のスキル・エクストラセイバーは自由意志で動く林檎をも容易く斬れるスキルだぜ」
「違うと思うけど」
 薩摩芋を焼き芋にする作業は赤城とヴァルトラウテも手伝っていた。これが難しい作業なのだ。最初リアはそのセンス故か一度目で良い焼き加減になったが、いざ真似しようとするとほとんど食べられなくなってしまう物も完成した。
「焼き時間と、位置も関係してんのか。料理ってもっと単純だと思ってたぜ」
「これを切っ掛けに、料理という趣味も始めてみたらどうでしょう? 火傷の耐性がつくと思いますわ」
 二回目はようやく焼き芋が完成した。一回目に完成した悲劇的な焼き芋はすでに動かなくなって倒れている。焼くという行為は食べるための行為として認識され、結果的に食べられなくなったら彼らにとって死なのだろう。


 いつ誰がそこにテーブルを設置したのか。それは用意周到な鹿島の計らいで、立ち食いをするのは遠慮がちな彼が持ってきていたのだった。細かい話は一切なしにして、全員がテーブルに座っていた。
 先程まで行われていた食べ物達のカーニバルは終わっていた。身動きするおいも、林檎は一人もおらず、そのほとんどはしっかりと調理されていた。伊集院 翼(aa3674hero001)は先程まで動いていた平和な食材達が調理されていく様を見て、何やら我々がりんごとお芋の国のお祭りを妨害した悪の手先みたいだと妄想して腕を組んだ。
「うーむ」
 挙げ句の果てには唸ってしまった。彼女の険しい表情に誘われて、機嫌取りに出たのは古賀だった。彼が近づいてくるのを見た伊集院は顔を伏せがちにした。あんまり、顔を見られたくはない。自信がないから。その行動が更に、古賀の心に触れた。
「どうしたんだ? 今御神さんがアップルパイを作ってくれてるんだけどさ。一緒にどうよ」
「結構だ」
「さっきまで動いてたから、食べにくいとか?」
 真理に触れる古賀の推測。
「伊邪那美ちゃんだったかねぇ、あの子も最初はちょっと戸惑ってたぜ。だからもしかしたら翼ちゃんもそうなんじゃないかって」
「ちょっとかわいそうじゃないか」
 葉月はたくさんある林檎とお芋を美味しそうに食べている。その姿をみてお腹を空かせない者はなく、伊集院も例外に漏れない。
「メッチャ良い人なんだな、翼ちゃんは。でもなー。牛とか豚とかも食べてかないと生きられない――って、なんか説教くさいな。とにかく! すんごい美味しいから食べにこいよ、勿体ないぜ!」
 説教くさくなった言葉を言った時、彼は頭を掻いて苦笑した。居辛くなったのかそのまま彼は、元のテーブルへと戻ってしまった。
 葉月が伊集院を呼ぶ。
「美味しいよ! おいでー!」
 牛とか豚とかも食べていかないと、と古賀は言った。そうか、これも同じかと伊集院は意味を咀嚼した。林檎も芋も、普段動いていないだけで本質は変わらないのだと。普段動かない物が動いてしまったから、こんな罪悪感が沸いて出ているのだと。今まで美味しいものはたくさん食べてきた。
 お腹空いた。食べに行こう。だけど今日はいつもよりも心を込めて、美味しく頂いてやろう。伊集院はテーブルに向かった。古賀は笑顔で彼女を迎え入れた。
「うん、とても美味しいですね」
 テーブルは賑わっていた。九字原がスイートポテトを口にする。
 途端に、口が芋で賑わい始めるのだった。先程まで楽しんでやっていた芋達のパレードが、今度は口の中で行われていて、それはとても甘い物。噛めば噛んだ分だけ滲み出てくる美味しさが、絶品だ。摩り下ろされた芋は決して抵抗する事なく喉に流し込まれた。
「絶品ですよ」
 九字原の前に座っていた音無は、スイートポテトを手にして、顔の前で止めた。
「動いていた林檎というのもなんじゃが食べられるならよいかの……。食費の節約になるしのぉ……?」
 音無も多少は躊躇していた。動いていたからだ。
「うに、動いてたことと大きさでちょっとアレだけど味は普通に美味しいにゃね。変な味じゃなくてよかったにゃー」
 一口食べて、音無もやはり顔を綻ばせた。硬めだった表情が柔らかくなった。
「ふむ、特に問題ないが流石に量が多いかのぉ……? 夕飯用に持ち帰る分を考えても多いようじゃし……」
 九字原の隣で、鹿島はシンプルに林檎を味わっていた。皮ごと頬張ってみたが、食べた時の鹿島の顔は煌めいていた。俺氏はカメラでその顔を撮ってやった。鹿島はカメラのシャッター音にすら気づかず、頭の中で広がるカーニバルを楽しんだ。彼の頭の中では、林檎達の担ぐ神輿のような建物にのって、林檎の王様になっていた。林檎を食べる手が止まらなかった。
「美味すぎて死にそうなのだよ、余は満足なのじゃ……!」
 口調が変わるほど、鹿島は王様気分だったのだ。
 ヴァルトラウテは本来の目的を達成できて、満足げに焼き芋に口をつけて味わった。イグニスで焼いた芋は満更ではない。御神のようにスイートポテトを作るのも美味しいが、シンプルな味も十分に堪能できる。
 赤城が人数分に買ってきてくれた市販のお茶とも相性が合っていた。食べて飲んだら、また食べて。焼き芋は暑かったが刺激的な熱さじゃない。体を守ってくれる優しい暖かさだった。だから今日日寒い秋の気温からヴァルトラウテを守ってくれていた。そう信じて、彼女は芋を食べ終わったら「ありがとうございますわ」と呟いたのだった。
 もしもこの中で沢山食べたのは誰でしょうと言ったら、誰もが答えに戸惑わずリア=サイレンスだと答えるだろう。
「甘い、美味しい……♪」
「おーい、リアちゃんさっきそっちで焼いた奴は……ってもうない!?」
「んー? フフフ」
 リアの食す速度は一般的だ。彼女は秋の味覚をしっかりと味わっているという事なのだが、なぜか気づいたら食材がなくなっている。どこにいったか、そいつは勿論リアのお腹の中だ。しっかりと喉を通って食道を通っている。
 焼きリンゴを食べ終えたリアは、指についた甘い果汁を舐めて、非常に満足そう。しかし食欲は止まる事なく手は次々と動かされる。さて、もう誰も彼女は止められないな。


「食いすぎたってレベルだぜ……」
 赤城は腹に手を乗せた。同じ動作を、ほかのエージェントが何人もした。さすがのリアも満足したのか、欠伸をしている。食べた後は眠気が訪れてしまうのは仕方がない。
「んー……娑己も一緒ならもっと美味かったかな」
 鹿島は最愛の人を想っていた。この幸福な一時を、彼女と分け合いたかったと。
「今度誘えば良いじゃない。落ち葉焚きで焼き芋とかさ」
「焼き芋と焼きリンゴの踊り食いができるのは今日だけなんだよなあ」
 事件はまだ片付いていなかった。九字原も眠気が襲っていたが、テーブルの前にある数多の残り物をどう処分すべきか頭を悩ませていた。御神の作ってくれたスイートポテトとアップルパイは勢いをつけて消費されていたが、まだいくつか残っているし、焼き芋と林檎もまだまだ残っている。
「ほんと、そこいらの従魔より厄介だよな」
「リンカーになったからといって胃が広がるという事はありませんからね。さて、どうしたものでしょうか」
 ほどなくしてこの食材をどうしようか、結論が出た。
 実は、望月は坂山に事前に近くの旅館等で宴会場を借りてほしいとお願いしていた。そこで秋の味覚祭りだかなんだかキャンペーンを開いて、一般市民の皆々に食べてもらおう、そういう作戦に出たのだった。そうと決まれば重たい体を起こして、手間はかかるが食材を全て宴会場に運んだ。望月は百薬の手を引きつつ即興でそのキャンペーンについて近隣住民に知らせた。石焼き芋の車を九字原に運転してもらって、その大きな音量を使って呼び寄せたのだ。
「焼き芋と焼きリンゴの秋の味覚を楽しもう~。さあさあ皆さん、美味しい林檎とお芋が皆さんを待ってますよ~。美味しいよー」
 美味しいよー! と百薬も元気に言った。
 さてその効果はどうだろう。
 即日の宣伝でありながら効果は大きかった。宴会場には五十人もの市民、主に主婦が集まっていた。無料のキャンペーンだからと、こぞって集まってきてくれたのだ。時間は午後四時だったので面白半分できた学生もいた。親友同士らしかった。
「これ、本当に食べちゃっていいんですか?」
「安全だし美味しいから食べてみるにゃ」
 リンカーが主催という事実が、市民達の疑念を晴らしていた。これが怪しい集団の集まりだったらそりゃ、誰も手をつけなかっただろう。学生達は訝しむこともなく焼き芋を食べた。その途端、一人の学生から涙がこぼれた。
「オイラ、こんなうめェ芋、初めて食ったッス……! 父ちゃんにあげねーとォ、絶対喜ぶから!」
「そんなに喜んでくれるとは思わなかったのにゃ。きっと父ちゃんも喜ぶから、あげるといいにゃ! 特別サービスで、たくさんプレゼントしてやるにゃよー!」
「おぬし、ちょっとは落ち着くのじゃ」
 十個ほど芋をプレゼントしようとした猫柳を、音無は両手で制止させた。
 別の場所では赤城とヴァルトラウテ、御神と伊邪那美が食べ物を配っていた。そこに一人の男がやってきた。その男は市民の出で立ちとは異なっていて、綺麗な和服に身を包み、眼帯をしていた。
「こんにちは、エージェントさんですよね」
「お芋と林檎、どっちがいい?」
 伊邪那美はその男を一般市民だと思っていたが、男は両手を横に振った。男は愛想が良かった。
「この食材達、さっきそこでお祭りしてましたよね。動いて」
「そうだけど……。もしかして、あなたがその犯人なの?」
「正確にいうと、私の主がですね」
 赤城はその発言を捕まえて逃さなかった。
「お前、何者だ?」
「私は英雄です」
 それ以外に答えようがないというように、男は笑った。すぐに言葉を続けた。
「主はオーパーツを使って食べ物を大きくしたんです。スーパーマーケットで私が買ってきた芋と林檎をたくさん食べたいって思い立ったんでしょうね。で、大きくしたはいいんですが動くというのは予想外だったみたいで、エージェントがくる始末で手がつけられなくなって今、主は隠れてます」
「はた迷惑なやつだぜ。自分でやった後始末くらい、自分でしろってんだ」
「私はここに、その点も含めて謝りにきました。申し訳ない」
 腰を深々と下げた。
「主の場所はご存知ですか?」
「はい。ついてきていただけますか。主にはしっかりと、お仕置きをしてもらわないと」
 赤城達が担っていた販売の役は九字原と望月が補う結果となり、二人は会場を抜け出て主の隠れ家へと向かった。主は公園の滑り台の上にいた。隠れているつもりらしいが、全く隠れられていなかった。
「主、降りてきてください」
「蟋蟀、な、なんて余計な事を……!」
 英雄の名前は蟋蟀というらしい。主という男は立ち上がって、エージェント達をみると表情を失った。主は二十代の男で、物の分別はついていそうだった。茶色い髪を後ろに掻き分けていて、大柄だ。
「お前、名前は?」
 赤城は少しだけ声を厳しくした。
「レミルー……。な、なあエージェントさん。許してくれよ、今回はさ、違うんだって」
 滑り台を降りようとレミルーは足を伸ばしたが、子供用の遊具をまともに滑られるはずもなく、降りる時あちこち体をぶつけた。それでエージェントの前にきて、腰を低くしていた。
「お願いだ。今回のは事件だったんだ。俺はただ食材を大きくするだけでよかったのにさ!」
「とりあえずオーパーツを回収するぜ、そんな危険なもん放し飼いにはできねーしな」
「そ、そうだよな」
 レミルーは赤城に、素直にオーパーツを渡した。
「どうする? 恭也許してあげるのかな?」
「ゴメンナサイゴメンナサイ、実はもう薩摩芋と林檎を見るだけで胃がひっくり返るほどトラウマになってんだ。反省してる、だからこの通り!」
 優しげな伊邪那美に、レミルーは必死に目をあわせた。伊邪那美は温情を与えてやってもよいかなという考えが頭をよぎったが、赤城と御神は別の考えがすでにあったようだった。御神はパックに詰め込まれた芋と林檎を出した。その中には一人じゃ到底食べきれないほどの量が入っていて、しかもパックは一つだけじゃなかった。
「責任をもって、食べてもらうぜ。御神、後は任せたぜ!」
「承知した」
 レミルーは直感で――あ、無理だコレ――と悟って今度は蟋蟀を見つめた。彼は笑おうとしたが表情がひきつって、上手く笑みが作れなかった。
「だめですよ、主。悪い事をしたら罰がくだされる。この法則を破ってはいけません」
「そんなァ!」
 逃げようとしたレミルーをヴァルトラウテが捕らえた。
「大丈夫ですわ、このお芋達はとても美味しい」
「そういう問題じゃないんだって!」
 レミルーの顔の前に、芋が迫る。御神の持つフォークに刺さっていて、ホクホクで。でもレミルーは芋にトラウマを作っていたから、喜んで引き受けられなかった。しかも一つだけじゃなくて大群で芋は迫ってくるのだ。
 彼の一日の始まりはここからだと言っても、過言ではなかった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
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