本部

【秋食】festum messis

紅玉

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/10/29 19:12

掲示板

オープニング

●秋
 そろそろ樹木の葉が赤や黄に色づきだす。
 野山が秋色に染まるには暫しの月日が必要だがそれよりも早く、秋を感じさせるものがいくつかある。
 夏の日射しをたっぷりと浴びた作物がたわわな実をつけていた。厳しい冬に備える野生動物達がそれらを食らって肥え太っていく。
 豊富な穀物と果実、そして脂がのったジビエ。それらを黙って見過ごせるほど人の食欲は軽いものではない。
 秋のある日に収穫したばかりの食材が調理されて食卓に並べられる。家族や友人知人で囲み、舌鼓を打って心を潤すひとときもあるに違いなかった。
 穀物や果実はときに酒となる。肉も長い冬に耐えるためのハムやソーセージ、燻製肉、塩漬け肉に加工されることもあるだろう。
 人の営みに欠かせないのが自然の恵みだが、一年を通じて秋の季節は格別のご褒美といえた。

「せっかくですし、一般の方に迷惑がかからない範囲で許可しましょう。但し、強力すぎるのはダメですからね」
 ここは大英図書館の館長室。H.O.P.E.ロンドン支部長、キュリス・F・アルトリルゼインは目を通したばかりの書類に判を押す。それは支部が所有しているオーパーツの貸し出し要望書であった。
「ほ、本当によろしいのですか?」
「もちろんですよ」
 駄目元で要望をだしたH.O.P.E.女性職員はキュリスの前で両の瞳を大きく見開く。余程信じられなかったらしく、何もない絨毯の上で転げそうになりながら退室していった。
 期間限定なものの、こうしてリンカー主催の宴やピクニック等のプライベートな催しにオーパーツが持ち出せるようになるのだった。

●収穫祭を楽しみしましょう?
 ヨーロッパの秋はとても賑やかだ。
 各地では、特産物を扱った祭りや観光客向けのイベントを行う程に。
 ロンドン支部でも秋の収穫に関する体験、お祭り、そしてちょっとした事件の依頼が並んでいた。
「やっ、たー」
 弩 静華はティリア・マーティスから話を聞いて万歳をしている。
「提案した人もそうだけど、それを許可したキュリスさんは流石としか言えないね」
 と、圓 冥人は配られた書類に視線を向けた。
「ですから、私の方で体験の企画を申請しておきましたわ」
 ティリアは意気揚々とパンフレットを掲げる。
「もう、通っています。そこの方、参加しませんか?」
 トリス・ファタ・モルガナは通りかかったアナタにパンフレットを差し出した。
 表紙には、体験企画『葡萄踏みして飲もう! 狩りに行って食べよう!』と書かれていた。

解説

●NPCに関して
誘えば快く承諾し、一緒に参加してくれます。
前シナリオ『咲き散る花』で保護された『アキ』に関しては、必ず冥人が監視役として同伴が条件となります。

●体験内容
葡萄踏み体験→フランスの葡萄農家でします。
【時間帯は午前中】
※成人にはワイン、未成年は葡萄ジュースが飲めて希望があれば分けて貰えます。

鹿等の狩り→フランスの猟師が指導、案内、解体作業等をしてくれます。
【時間帯は午前中】
※貰ったお肉を料理したい方は、貸しキッチンの使用が可能です。

収穫祭→収穫祭会場で買い物や試食が可能です。
祭り会場や公園で特産品や料理を皆で食べて、秋の恵みに感謝しましょう!
【時間帯は午後】

リプレイ

●食欲の秋!
「ジビエ料理はなかなか食べる機会も少ないですし。これならエコーも喜びそうですね」
 と、嬉しそうに頷く填島 真次(aa0047)の手には、トリス・ファタ・モルガナから貰ったパンフレット。
 くいっくいっと、弩 静華の服を掴んで引っ張っているのはIria Hunter(aa1024hero001)。
「あいり、行く?」
 と、静華がパンフレットを指すと、Iriaは嬉しそうに頷き『狩り体験』と書かれた文字に指先を向けた。
「行こう」
 静華が片腕を上げるとIriaもマネして片腕を上げた。
「葡萄踏みと狩り、だって……どっちも悩む、ね」
 パンプレット片手に唸っている蜷川 恵(aa4277)。
「折角やし酒にしようや。な、な!」
 その隣で『ワイン』とい文字を見て興奮した犬の様に言うのは徒靱(aa4277hero001)だ。
「おう、メリオル。葡萄踏み体験だってよ。お子様たち連れて行ってみるか!」
 綺月 緋影(aa3163)はパンフレットを見て英雄に言う。
「緋影様、それは宜しゅう御座いますが羽目を外し過ぎないようにお願いしますね」
 メリオル(aa3163hero001)は表情を変えず、圧が掛かった声色で緋影に言った。
「アキと会えルのダナ! スグ行こウ! レイシー、早クすルのダ!」
 と、興奮した様子ではしゃぐ青年コル・レオニス(aa4281hero001)は、トリスから『アキ』の連れ出し許可を貰った。
「待ってったら! 準備もしないといけないんだから……それに、出発は今日じゃないからね!」
 レイシー・カニングマン(aa4281)は、はしゃぐコルに日程等の説明をする。
「うんうん、コル落ち着こうね。一応説明があるんだけど、アキは子供であれヴィランの能力者だからHOPEが預かっている」
「それは、トリスさんから聞きましたのでわかりますわ」
 冥人の言葉を聞いてレイシーは頷く。
「で、イベント事だしトリスとしては、子供は外で遊んでからこそ~と言って監視を付ける事で外出許可が出たわけね」
「おぉ! トリスありがとうダ!」
 と、コルが大声でお礼を言いながらトリスに握手しぶんぶんと上下に動かす。
「だから、もし俺が邪魔なら言ってくれよ?」
「いいえ、邪魔だなんて! 監視ついでに楽しめば良いと思いますわ」
 冥人の言葉にレイシーは首を横に振り微笑む。
「ありがとうね。じゃ、明日を楽しみしててね」
 こうして、どの体験に参加するかを決めたエージェント達は一旦解散した。

●葡萄踏み体験
 カラッとした秋の晴天は、紺碧の空が海の様に広がり澄んだ空気を風が運んでくる。
「晴天だけれども少し寒いかもしれないね」
 Arcard Flawless(aa1024)はスマホで現地の天気予報を見て呟く。
「参加してる子供も多いし、準備は必要だね」
 狩り体験に行くIriaを見送って街へと足を向けた。
 早朝のフランス、まばらだが市場に行けばお店は開いてはいる。
「シナモン・カルダモン・クローブ……」
 香辛料が売られているお店を見回り、手にして香りや品質を確かめる。
 良い香辛料を買ったArcardは、トリスから聞いた借りたキッチンの場所へと向かった。
「鍋はっと……」
 鍋をコンロに置き、あらかじめ買っておいた葡萄ジュースを注ぐ。
 本来であればワインを使うのだが、未成年用に葡萄ジュースで作るのだ。
「香辛料を入れて、沸騰はさせない程度に」
 シナモン・カルダモン・クローブを温めている葡萄ジュースに入れ、弱火でゆっくりと煮る。
「よし、完成だね」
 Arcardは火を消し、完成したホット葡萄ジュースを新型MM水筒に注ぎ蓋を閉めてカバンに入れ皆が居るぶどう園へと向かった。

「アキーッ!」
 アキの小さな体を抱き上げ嬉しそうに声を上げるコル。
「わぁ、おおげさだよ? ほら、まわりのひとにめーわくかけたらだめ」
 と、アキがコルを叱る光景は、どちらが子供なのか分からない。
「第二英雄さんはソフィスビショップなんです」
 セレティア(aa1695)は嬉しそうにトリスに話す。
「良い出会いが出来て良かったです。セレティアちゃん、その絆を大事に」
「はい。魔法の戦い方って新鮮で、ほらバルトさんはドレッドノートだから近接ばっかりで」
 第二の英雄と一緒に戦う話をトリスとするセレティアは、話の内容はともかく年相応の少女と同じ瞳の輝きを見せる。
「エコー、本当にこっちでよかったんですか?」
「ん、自分で捕らなくていいなら、別の事をした方が有意義」
 真次の問いにエコー(aa0047hero001)は小さく頷いた。
 紫色の球体の塊が細い蔓にぶら下がり、太陽の日を浴びると艶やかに光る。
 ぶどう園の人達がビニールシートの上に大きめの木製桶に、採れたての葡萄を入れて準備をしてくれていた。
「蒔司も亜莉香もワインはどうやってできるか知ってるか?」
 と、緋影は蒔司(aa3665)と亜莉香(aa3665hero001)の2人に問う。
「どうやってたの? ひーちゃん」
「ワインってな葡萄を収穫して、破砕機で潰して果汁絞って樽に詰めて発酵させるんだけどな。昔は破砕機なんつーもんはなかった訳よ。で、どうしてたかっていうと足で潰してたんだな」
 亜莉香は靴を脱ぎ水で足を洗いながら緋影の話を聞く。
「昔は破砕機なんつーもんはなかった訳よ。で、どうしてたかっていうと足で潰してたんだな。という訳でホレ。やってみなー」
 緋影は2人を見て葡萄が入った桶を指した。

「葡萄踏み! やりたいです!!」
 準備万端なセレティアは桶に入り、葡萄を踏み潰す姿をバルトロメイ(aa1695hero001)は眺めている。
 一応保護者としての責任であり、そして隣にはショートパンツ姿のティリアも一緒に葡萄を踏んでいたからだ。
「葡萄になりたいです!」
 唐突に本音をポロリするバルトロメイ、しかしティリアは困惑した表情で小さく手を振る。
(女神だ……)
 ちょっと嬉しそうに手を振り返すバルトロメイは、一部の方達には『変態紳士』の『紳士』が抜け落ちて『ただの変態』だと思われた。
「今年もきっと最高の出来でしょうね、ボジョレーってそういう物ですから」
 バルトロメイはティリアに対して気の利いた言えない男であった。
「ふふ、バルトロメイ様。無理をしなくても良いですわ?」
「そ、そうですか?」
 ティリアとバルトロメイが楽しく会話をしているとセレティアの叫び声がした。
「ひゃ!」
 そんなバルトロメイに気が反れた瞬間、セレティアは足に付いた葡萄の皮や果汁で足を滑らせ桶の外へひっくり返ると、勢いで葡萄の果汁が飛沫を上げ服が紫色に染まる。
「ったく、ジャージに着替えてこい」
 呆れた表情でバルトロメイはセレティアにタオルとジャージを渡す。
「お祭りなのに支給品のジャージ……」
 がっくと肩を落とし悲しみに満ちた表情のセレティアは、トリスに着替えれそうな場所まで案内してもらった。

「足元が心配だったらちゃんと支えててやっから。大丈夫だって。上手く踏めたら旨い葡萄ジュース飲めるぜ。頑張りな」
 準備を終えた2人を見て緋影は蒔司の背中に手を添える。
「葡萄踏み……」
 じっ、と桶を見る蒔司。
「葡萄を足で踏んで、果汁を出すの? 何だかどきどきするけど、やってみる!」
 と、亜莉香はおもむろにスカートの裾を掴みぎゅっ、とリボンの様に結ぶ。
「ほら、蒔司ちゃんもやろう♪」
「ば、ばか、いきなり何やっとるんじゃ!」
 蒔司は亜莉香は太ももが見える程にスカートを上げ、裾が落ちない様に縛った姿を見て声を上げた。
「足元で葡萄がぷちぷちするの、変な感じだけど楽しい♪ね、ひーちゃんも一緒しよー」
 亜莉香は気にせずに葡萄を楽しそうに踏む。
「おい、じろじろ見るんやないぞ綺月……さん!」
「何だよ亜莉香。俺もやれってか? いいぜー。お手々繋いで一緒にやるかぁ? 蒔司も妙な事を言ってないで来い」
 と、言って緋影は蒔司の手首を掴み桶に入る。
(ワシもやるんか……まあ……亜莉香一人では心配じゃからな)
「~♪」
 亜莉香は緋影と蒔司の間で歌を歌いながら楽しく輪になって葡萄を踏む。
「むぅ……」
 釈然としない表情の蒔司は、流されるがままに手を繋いだまま葡萄を踏むが楽しそうにする2人を見て自然と口元が綻ぶ。
「……これなかなか足腰に来るな、オイ。おっさんにはちょっと厳しい……って亜莉香は楽しそうにやってんなあ。蒔司はどうだ。楽しいか? 楽しいならちっと笑ってくれてもいいんだぜ?」
 と、緋影は休み休み踏みながら蒔司の顔を見る。
「あやかしい……」
 と、蒔司は呟く。
「ハハ。相変わらずお前はツレないなぁ」
 そんな蒔司の反応を見て緋影は、素直じゃない弟を慕う兄の様に接し頭をわしゃしゃと撫でる。
「わ、やめ、頭撫でるな!」
 心の中では嬉しいけど、蒔司は照れているのを隠すためにぷいっと緋影から顔を反らした。
「美味しいジュースとワインになりますように☆」
 そんな2人を目にもくれず亜莉香は楽しそうに踏み続けていた。

「折角やし、格好から入らなァあかんやろ。な!」
 徒靱の計らいで数々あるヨーロッパの民族衣装のディアンドルを恵に着せてきた。
 ディアンドルとは、アルプス地方で昔は若い女性が労働する時に着用されていたそうで、今は民族衣装の一つとなっている。
「確か葡萄踏みは女性だけ……って本で読んだけれど」
「いいえ、それは過去の話で今は男性もやっているのです。日本でいう噛み酒と同じです」
 トリスが恵に説明をする。
 もっと簡単に説明すれば、日本の神社で巫女をするのは未婚の女性と決まっているのにも近い。
 乙女の葡萄踏みは『野郎が踏んで作ったワインなんていらぬ!』とか、もしかするとマリアが女性だから女性は神聖な意味ですると良い物が出来るという考えからかもしれない。
 ともあれ、今はそんな事を考えずに『昔はこんな風に作っていた』を体験し感じれば良いのだとトリスは言う。
「ごめんなさい。転んでしまうの怖いので、徒靭に近くに居て貰ってもいいですか?」
「おう、大丈夫や。ゆっくりでええで」
 徒靭は不安げな表情の恵の手を取り、桶に片方ずつゆっくりと足を入れ立つ。
 甘酸っぱい葡萄の香り、足踏みすると丸い果実が潰れる感触とその果汁が桶に徐々に溜まっていくのが分かる。
「ふふっ……ありがとう。上手に踏めてる?」
「上手や」
 口元を綻ばせる恵を見ながら徒靭は頷く。
 葡萄を踏む音、風に乗ってくるのは一緒に参加した仲間の楽しい様子は見えずとも体で、心でその様子が風景となり頭の中の白いキャンバスに描き出される。
「終わったら、私はジュースを分けて貰おうかな」
「俺はワインやな」
「ふふ、自分で作ったジュース……どんな感じだろう」
 味を想像しながら恵は微笑みながら楽しく葡萄を踏む。
 きっと美味しいだろう、自分自身が楽しみながら踏んで作ったのだから。

「よシ! 一番高イ葡萄を取ルのダ! キット一番美味しイに違いナイ!」
 コルはアキに肩車してぶどう園を走り回る。
「でもね、とりすさんが、わいんようのぶどうはあまりおいしくないっていってたよー?」
「なント!」
 アキの言葉にコルは目を丸くして驚きの声を上げた。
(コルは大きな弟って感じだけど……もし兄が居たら冥人さんのような感じかな)
 と、レイシーは隣に居る冥人を見上げた。
「ワハハ! 人間ノ世界はコンナにモ楽しイのダ!」
「へんなのー」
 子供の様にはしゃぐコルを見てアキは首を傾げた。
「こんな寒いのに」
 呆れた表情でArcardはコル達を見る。
「はい、温かい葡萄ジュースだよ」
「うん、おねーさんありがとう」
 アキはArcardのホット葡萄ジュースを受け取り笑顔でお礼を言う。
「どう?」
「おいしいよー」
 一気にホット葡萄ジュースを飲み干したアキはArcardにコップを返す。
「寒くなったら言うんだよ」
「はーい」
 と、Arcardはアキに言ってその場から離れた。
「誰かが誰かに笑いかけるのは、その誰かに笑って欲しいからですわ。誰にも笑いかけられない人生なんて、悲しいですもの」
 元気になったアキとコルがはしゃぐ姿を見てレイシーは口を開く。
「良いんじゃないかな?」
「私は笑いかけるの。コルにも、アキにも。人形達にだって」
「うん、俺はあまりレイシーの事は知らないけど君らしくて良いと思うよ」
 静かに語るレイシーに冥人は頷いた。
「確か昔は、少女が口でかみ砕いた葡萄で作った、高級ワインも有ったとか何とか。だいぶ末期の変態の所業としか思えませんね」
 と、葡萄踏みに関して話す真次を尻目にエコーは踏み続ける。
「それは初耳だね。ぶどうは元々糖分を含んでいるから、口で噛む必要は無いんだよね」
「そうなのですか?」
 真次の話に冥人が割って入ると、エコーは2人を見上げた。
「そ、詳しい事は話せないけど……糖分を使ってアルコールが発生する。だから、日本では噛み酒という技法があったわけね」
「なるほど、葡萄では噛み砕くより踏む方が効率は良さそうでしょうね」
 と、話しながら真次は葡萄踏みをするエコーに視線を向ける。
「一説には、服が汚れるからという理由で裸で踏むって話もあるからね」
 『裸で踏む』という単語を聞いて、何人かは目を丸くし女性達に視線を向けた。
「今は、技術が発展しているのでそんな事をしなくて済むのは幸いです」
 真次は、冥人の言葉に驚きつつも納得した様子で頷く。
「エコーは葡萄踏み大丈夫かな?」
「時々お願いされて、真次を踏んでるから、踏むのは慣れてる」
 エコーは葡萄を踏みながら答える。
「ちょっ、エコー。誤解を招くような言い方しないで下さい! ただマッサージをお願いしてるだけです!」
「あ、あぁ……」
 冥人は察した様子で真次に視線を向けた。

「ふぁ、ちょっと疲れちゃったねー」
 葡萄踏み体験を終えた蒔司達は椅子に座る。
「皆様、すっかり果汁だらけですね。洗い桶とタオルを用意致しましょう」
 と、言ってメリオルは、お湯が入った小さな桶と人数分のタオルを慣れた手つきで用意した。
「おう、メリオル頼むわ。ほれ、蒔司も亜莉香も足洗ってやるからこっち来い」
「はーい」
 緋影が手招きすると亜莉香は素直に従うが、蒔司は眉間にしわを寄せ嫌そうな顔で見る。
「自分やかる」
「あ? 何だよ遠慮すんなって。何だったらこのまま風呂直行でもいいぜ?」
 緋影は口元を吊り上げ亜莉香の手を取る。
「分かった、分かったから……亜莉香にゃなんちゃーじゃしやーせきおせ」
「誰かさんがはしゃいで踏みまくったから服まで葡萄の果汁だらけだな」
 緋影は2人の足を洗いながら、ぶどうの果汁が服に付いている亜莉香に視線を向ける。
「足が葡萄色になってしもうた……亜莉香、服は汚れんかったか? 果汁は服に染み付いてしまうからの」
「服は大丈夫? だと思うの。もし葡萄の汁で汚れたら、服も葡萄色に染めちゃえばいいのよ☆」
 蒔司の心配している気持ちとは裏腹に、亜莉香は淡い紫に染まった部分を見て楽しそうに言う。
「メリオルに着替え持って来てもらおうな」
「綺麗なのに……」
 と、残念そうに亜莉香が言うと、メリオルは手早く着替えの服を用意した。
「淑女用の部屋の様ですので亜莉香様、トリス様のご迷惑にならないようお願いします」
「うん、いってくるね」
 亜莉香はトリスと一緒に更衣室へと向かった。

「そういえば、解禁は来月だけど此処の農園の出来はそれなり……まぁ、嫁の土産には丁度良いね」
 Arcardはワインを味見してから葡萄ジュースを何本か貰う。
「ほう、これはなかなか……」
 真次はグラスを傾けワインを口にする。
「ん、酸味が強いけど、さっぱりしてて、美味しい」
 自分で踏んで作ったジュースを口にし、エコーは満足気に頷いた。
「なら、ワインとジュースの両方を1本ずつ貰いましょう」
 と、言って真次はぶどう園の人に伝えた。

「セレティアちゃん、出来はどうですか?」
「ちょっと、酸っぱいですが我ながら上出来です!」
 ジャージ姿のセレティアは、自分が作った葡萄ジュースを飲みながらトリスの問いに答える。
「どうぞ、私が作ったのでよろしければ……あ、バルトロメイ様はワインの方がよかったかしら?」
 ティリアは、バルトロメイに葡萄ジュースを差し出すとハッとした表情で言った。
「いいえ! ティリアさんが作った葡萄ジュースなら踏んだ葡萄ごと全部飲み干します!」
 と、嬉しそうに言うバルトロメイは、やはり紳士が抜けきった変態状態でティリアが作った葡萄ジュースを飲み干す。
「まぁ! 嬉しいですわ♪」
 何故か話が噛み合うのはティリアが少し抜けた女性だからなのだろう。
 自分が作ったジュースを飲み干すバルトロメイを見て、喜ぶ彼女は女神なのかただの天然なのかは誰も分からない。

「どうだ。自分達で作ったジュースは格別だろ」
 と、緋影はワインを飲みながら笑う。
「……あ、これがさっきのでできたジュース……? ……うん、美味しい……」
 濃い紫色の葡萄ジュースを口にした蒔司は嬉しそうに微笑んだ。
「あー。運動したら腹減って来たな。つまみ欲しい……」
 椅子に深く座りテーブルの上に顎を置き緋影は疲れた声で言う。
「そう仰るかと思って軽食を用意しておきましたよ。蒔司様、亜莉香様。ケーキもございます。さあどうぞ」
 メリオルは手早くバスケットからサンドイッチ等の軽食に、見た目鮮やかな一口ケーキをテーブルの上にに並べる。
「わー! ケーキ! めーちゃんありがとー! めーちゃんにも葡萄ジュース、どーぞ♪」
 元気よく立ち上がり亜莉香は大きな瞳を輝かせると、真新しいコップに葡萄ジュースを入れてメリオルに差し出す。
「これは、亜莉香様。よろしいのでございましょうか?」
「うん!」
 亜莉香が元気よく答えると、メリオルは恭しいくコップを受け取った。
「ひーちゃんはワインなの? お肉とかチーズが、「おつまみ」になるんでしょ、亜莉香知ってるよ。あ、好きなもの取ってきてあげる! 蒔司ちゃんも、はい、燻製肉だよ~あーんして」
「え、いや、ワシは肉は後でいい……うぐ」
 亜莉香の優しさで蒔司の口の中は、お肉とケーキが混ざっており飲み込むのに必死だ。
「今日もいっぱい楽しかったね! 」
「うん、葡萄踏みっての初めてしたから楽しかったやか」
 蒔司は亜莉香の言葉に笑顔で頷いた。

●狩り体験
「葡萄踏み、気になるのでそちr……ふわわわわ!? ぷ、プレシア!? そっちは狩りー!?」
 狩人2名の話を聞きながら獣道を歩く3人と、半ば引きずられているのが1名。
(あ、あれ? 僕、葡萄踏みの体験行くはずだったのに何で!?)
 少し混乱気味の狼谷・優牙(aa0131)は頭を両手で抱える。
「狩りが面白そうなのだ♪お肉食べるのだー♪」
 プレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)が満面の笑みを浮かべながら優牙の腕を掴んで離さない。
「狩る、ぞー」
 静華とIriaは狩場に着くと木に登る。
「2人はこ、怖くないのかな?」
「平気」
 木を見上げる優牙に静華とIriaはこくりと頷いた。
「居た……」
 と、静華が呟くとIriaは木から飛び、鹿の背に飛び乗り喉にナイフを素早く入れる。
「あわわわわっ!」
 唯一の普通の少年である優牙は、狩りには手慣れている2人をただ見ている事しか出来ない。
「あはは、流石だねー。手順は教えるけど、必要以上の数を狩らない事は約束だ」
 と、若い猟師はプレシアと優牙に言う。
「はーい! お願いしますなのだ♪」
「よし、良い生徒だ。まずは、空気銃の使い方から教えよう」
 猟師は肩に掛けていた銃を構える。
「銃なら任せてほしいのだ!」
 ジャックポットであるプレシアにとっては、銃は主力武器なので依頼の戦闘で使い慣れている。
「火薬を使ってないから猟には最適なんだ」
「どうして、普通の銃じゃダメなのかな?」
 猟師の説明を聞いている優牙は疑問を口にする。
「そりゃ、火薬って人間の体には害がある。だから撃ち込んだ部分は捨てる事になるからだ」
「へぇ、猟師さんでも色々と考えているんだね」
 嫌な気持ちもいつの間にか消えており、優牙は狩りに関する話を真剣に聞いているが、隣ではちょっとプレシアが大きな欠伸を一つ。
「じゃ、暇そうな子もいるし実践だ」
「よーし! 大物を獲るんだよ!」
 猟師の言葉を聞いてプレシアは、パッと笑顔になり嬉しそうに飛び回る。
 猟犬が先頭を歩き、地面に鼻をくっつけ左右に頭を振りながらニオイを辿る。
「しー、鹿が居る。まだ気付いてないから、よーく頭を狙うんだ」
「任せるのだ♪」
 慣れた手つきでプレシアは空気銃の銃口を鹿に向け、引き金に指を引っ掛ける。
「うう、鹿さん可愛いけど……く、これも自然の摂理ということでっ」
 発砲音と共に鹿が地面に倒れるのを見た優牙は、ぎゅっと拳を握りしめ出てきた涙をシュッと袖で拭いた。
「獲ったばかりのお肉、優牙美味しく焼くのだ♪美味しく食べれば鹿さんも喜んでくれるよー♪」
 猟師と一緒に解体するプレシアは、その様子を眺めるだけしか出来ない優牙に明るい声で言う。
「せめて美味しく食べないとっ。残りは持ち帰ることって出来るのかな?」
「出来るけど、予定じゃ収穫祭にも行くんだろう? 気になるならコッチで預かっておくけど?」
 と、スケジュールを知っている様子の口ぶりで猟師が提案をする。
「お願いします。あと、調理出来そうな場所は何処でしょうか?」
「あぁ、それなら……」
 猟師が話そうとした瞬間、通信機から冥人の声がした。

「あうー!(猟成功したよ!)」
 鹿を解体し終えたIriaは一番美味しそうな部分を持ち上げる。
「うん、火の準備、出来た」
 静華が石で作った即席のかまどに火を起こす。
「えう?(塩焼きで良い?)」
「うん、あいり、任せた」
 この2人は逞しい、即席のかまどに網を乗せその上で鹿肉を焼く。
『静華。ちゃんと調理してやるから、持って帰ってくるんだよ?』
 通信機から冥人の呆れた様子の声色が発せられた。
「はーい、鹿の和食、ね」
 静華はちゃっかり料理内容をした。
「あうあ(楽しみ)」
 美味しい料理であればIriaは気にしない様子だ。

 自分たちで狩った鹿の肉を借りたキッチンに運び込む。
「あ、いい匂い……」
「簡単なモノで悪いけど」
 下ごしらえをし終えた冥人が優牙達に視線を向けた。
「お腹ぺこぺこなのだー……」
 現地でも少し食べたプレシア、だが彼のお腹はまだ満足していない様子だ。
「分かった、分かったから大人しく待てよ。優牙には手伝って欲しいんだけど大丈夫かな?」
「はい、命に感謝しながら手伝いますよ……って監視してなくて大丈夫ですか?」
 優牙はエプロンを付け、手を丁寧に洗うと冥人の指示に従い料理を作り始める。
「あぁ、少しだけティリア達に代わってもらったんだよ」
 鹿肉を調理しながら冥人は優牙の問いに答える。
「あ、これなら僕にでも出来そうです」
「それじゃ、簡単なのはレシピを渡すから頑張って作ろうね」
「はい!」
 と、元気よく返事をし優牙はスライスされた鹿肉で野菜を巻く。
 鹿肉、調理法で悩むことが多い食材でもあるが、カレー、カツ、野菜巻き等と意外とレパートリーがある。
「出来たのからだしますね!」
「応」
 優牙は出来た料理を皿に盛りつけ、お腹を空かせた亡者共の前に並べるとあっという間に平らげた。
「うー(足りない)」
 大食い3人のお腹がぐーぐーと鳴り響く。
「まだ、足りないですよ~……」
 疲れた様子で優牙は調理を再開する。
「はいはい、巨大ハンバーグを渡して早めに料理を出すけど……収穫祭の屋台料理食えなくなるよ?」
 冥人がふと思った事を大食い3人組に言う。
「ふぉれは、ふぉれ!」
「あう!」
「別腹だよー!」
 この子らの胃はブラックホールの様に無限大の広さではないのでは? と、思いつつも優牙は巨大ハンバーグと巨大ハンバーガーを作る。
「はい! おまたせ!」
 行ったり来たり大忙しの借りキッチンで頑張る優牙に、冥人はそっと休憩にと料理を出す。
「良いよ。頑張ったし、そろそろ集合の時間だからそれを食べたら片づけて行こうね」
「はい、ありがとうございます」
 優牙は疲れた表情をパッと笑顔に変え、出された料理を口にする。
 食べ終えた頃には、片付けも殆ど終えており申し訳なさそうに優牙は自分が使った皿を洗う。
「収穫祭に行くのだ!」
「はいはい、場所を取ってあるから俺からはぐれない様にね~」
 我先にと駆け出そうとするプレシアの首根っこを掴み、冥人は静華、優牙、Iriaを見回す。

●収穫祭
 日が西に傾いた頃。
 朝は何も無かった公園に収穫祭用のお店がズラリと並んでいた。
「エコー、気になったものがあれば言って下さいね」
「ん、鹿肉の、部位食べ比べしてみたい。あと、あっちにあった猪肉のスープと、あっちの、何かの串焼き。あとは……」
 真次の言葉を聞いてエコーは目に付いたお店の料理を言う。
「慌てないで、順番に回りましょうか」
 これでは真次の懐問題以前に、全てのお店の料理を食べ尽くしてしまうのでは? と、心配していたのもあり一足先に会場のお店を見て回っていたのだ。
「うわぁ、美味しそうな匂いがしてるのだー♪どれを食べるか迷うから……全部食べるのだ♪優牙、支払いお願いなのだー♪」
 美味しい匂いに誘われてプレシアは、食べ物のお店に駆け寄り一通りのメニューを頼むという贅沢な事をしていた。
「さっきも食べたのにまだ食べるの!? そしてやっぱり僕の支払い!? うう、依頼に入ってるのに財布が軽くなっていく……」
 先ほど鹿の料理を食べたのにも関わらず食べ歩くプレシアに、優牙は半泣きになりながら減っていく財布の中を見てため息を吐く。
「あいり、買い出し、いくよ」
「あう!」
 静華とIriaは二手に別れて食べ物を買いに行った。

「カヌレ! ギモーヴ! マカロン! オランジェット! クイニーアマン!」
 ジャージ姿のセレティアは元気よくお菓子の名前を言う。
「ジャージは嫌ですからアルザス風エプロンドレス買いたいです!」
「いつ着るのか知らないが欲しいなら買いなさい」
「今! 着るの!! です!!!」
 服屋を見てセレティアが指すと、バルトロメイは呆れた表情で頷く光景はまるで母と子の会話だ。
「菓子は3000円まで、1か月分だぞ、解ってるな」
「はーい」
 ジャージからエプロンドレスに着替え上機嫌なセレティアに、釘を刺すバルトロメイだが。
「あっ4時方向50m先にティリアさん!」
「マジかッ! 挨拶してくる」
 セレティアの古典的な罠に掛かったのであった。
 鬼の居ぬ間になんとやら、彼女は貰ったお金と今日の為に隠しておいたヘソクリを取り出し美味しいお菓子を手に入れたのであった。

「徒靭、チョコレート……ありそう?」
 恵は徒靭の手を握りしめたまま歩く。
「それらしい店はあるようや」
 お店に並んでいる透明のケースにチョコが入っているのを徒靭は見つける。
「あら、お2人はもしかしてチョコを?」
「はい、何か良いのがあればと思いまして」
 偶然にもチョコを選んでいたティリアに恵は笑顔で答える。
「そうですわね……」
 ティリアが勧める様々なチョコの匂いを嗅いだり、一欠けら口にし恵が納得するモノが見つかるまで回る。
「あ、徒靭は欲しいものあるんだよね?」
 恵はチョコが入った袋を受け取る徒靭に問う。
「俺は肉がええなァ……肉あらへんのか肉」
「収穫祭だから沢山売ってそうね」
 徒靭の言葉に恵は微笑む。
「はー、買った買った、な!」
 恵を先に椅子に座らせ、その隣に徒靭が荷物をテーブルに乗せ椅子に座った。
「あ、そうや! 休むついでに作った葡萄ジュース飲もうや」
「ええ、そうね」
 徒靭の言葉に恵は頷くと、瓶の蓋を開ける音がするとコップに葡萄ジュースが注がれる音が耳に響く。
「ほれ、恵が作った葡萄ジュースや」
 徒靭は葡萄ジュースが入ったコップを恵の手に握らせる。
 コップに顔を近付けるだけでも香りが凄い、甘酸っぱい匂いだけでも美味しいと思ってしまう程に。
「……普段飲んでるジュースじゃないみたい……すごく、濃いね」
 恵はごくり、と喉を鳴らし飲むと、葡萄の風味が市販のジュースとは違う濃さが鼻と舌で感じる。
「恵が頑張って作ったもんな!」
 徒靭が笑顔で言うと、恵は『葡萄が良いからよ』と笑いながら答えた。

「よク噛んデ食べるのダ、アキ。沢山食べて大キクなルのダぞ」
「うん!」
 コルは笑顔で言いながら、出来立ての料理を頬張るアキの頭に手を置く。
「あーあ、本当に仲が良いねぇ……何か、レイシーは嬉しそうだね」
「こんなに楽しく過ごせるんですもの。この間の戦いが嘘みたいですわ」
 冥人の問いにレイシーは手を止めアキに視線を向けた。
「いや、アキ自身はそうでもないよ」
「え?」
 レイシーは目を丸くし冥人を見る。
「トラウマが酷いらしくて、たまにトリスや担当者が毎日付いているらしいよ」
「それは……どんな事ですの?」
「あーあ、湿っぽくなるからそれは今度話すよ」
 と、言って冥人は干し肉を口にする。
「そう、ですわね」
「もー、ままもちゃんとたべないとだめだよ? コルぱぱもー」
 食事する手を止めているレイシーにアキは頬を膨らませながら言う。
「ワガハイはモウ大きイから、食べズともヨイのダ」
 と、胸を張って言うコルとアキの姿は微笑ましい。
「フランスまで来たついでに、日本に戻る前にイギリスにも寄って帰ろうかしら」
 そんな2人を眺めながらレイシーは家族の顔を思い浮かべる。
「良いんじゃない? でも、唐突にどうしたんだい?」
「子供が出来ました、って言ったら、お父様どんな顔なさるかしら。うふふ、冥人さんかコルか、勘違いされそうですわね」
 コルと冥人を交互にレイシーは見る。
「ま、俺も何も無ければ子供の1人は居たかもね……」
 口の周りにソース塗れのアキの口元を拭くコルを見て冥人は苦笑する。
「雪……さんの事、ですわね」
「うん、でも今は湿っぽくなるからその話は終わり、ね。でも、勘違いされるならコルが一番されそうだね」
 一生懸命にアキの世話をするコルを見て、冥人は笑いながらレイシーに言う。
「アキも『ぱぱ』と呼んでいるから可能性は高そうですわ」
 小さくため息を吐きレイシーは料理を口にする。

「お友達へのお土産選んでる時って楽しいですよね」
 両手に抱えきれない程のお土産を買ったセレティアは上機嫌で言う。
「甘いもんばっかじゃなくて酒と肴も買って行こう。ラパン肉買おうぜ、兎」
 大半はフランス菓子を占めている為なのか、バルトロメイはワインに合う食べ物や肉類に視線を向けた。
「お料理試食しましょう。レシピも教えてもらって、バルトさんがまともなお料理も上手だっていう事をちゃんとみんなにアピールしていきませんと」
「いつもドラゴンとかイナゴとか食ってるイメージついてるよな、俺」
 バルトロメイは昔行った依頼を思い出すが、普通の料理をした内容が無い事に気付く。
「実際食ってますからね!? おうちではキッシュやケークサレはよく作ってくれてますよね」
 呆れた表情のセレティアは大きくため息を吐いた。
「あ、アレ、そういう名前なんだ。知らなかった」
 目を丸くしたバルトロメイはセレティアを見ると、彼女は顔に手を当て呆れた表情で英雄に視線を向けた。

「あいり、美味しいね」
 テーブルに山盛りの料理を静華とIriaは頬張る。
「う!」
 様々な肉料理を中心に野菜、穀物、そして珍しいスィーツを小さな体に次々と収まっていく光景は圧巻だ。
「やっぱ、水牛の乾酪、とか珍しい」
「?」
 聞きなれない言葉にIriaは首を小さく傾げた。
「えと、ちーずの事」
「あう」
 静華がパンに挟んでいるチーズを指すと、Iriaは笑顔で頷く。
「あと、出来たてちーずけーき」
 ばーん、と静華が紙袋から取り出したのは2ホールのチーズケーキ。
「うー!」
 Iriaは目を輝かせながらチーズケーキを見る。
「あいり、1個。私に、1個」
「あうあ」
 普通の人ならお腹一杯以前に、もう食べたくは無い状態なのに更に1人1ホールのケーキを食べる小さな2人。
「本場、美味しい」
「~♪」
 口の周りに食べカスが付いていようが、静華とIriaは小さな口に次から次へとケーキを放り込む。
「……食べ過ぎだよ」
 そんな2人を見てArcardは呆れた様子で言った。

 少し秋風が冷たい、鮮やかなオレンジ色に染まる街を共鳴した恵は見える瞳で見回す。
 眩しい、と思いながらも赤や黄色に染まっている街を見つめる。
「綺麗ね」
 と、小さく呟く恵は、想像した通りの光景が目の前に広がる。
「この景色を、共鳴してでも見せてやりたかったんや」
 徒靭は優しい声色で言う。
「ありがとう。でも、思っていた通りの光景で……嬉しいよ」
 じんわりと熱く感じる目尻から涙が流れる。
「また一緒に来ようや。そんな遠くもあらへんし」
「そうね。また違うフランスの顔が見てみたい……冬のはどんな顔なしているの気になるね」
 ぼんやりと街灯が灯り、行き交う人々が増えていく街を見ながら名残惜しく感じつつも共鳴を解除した徒靭は恵にコートを掛ける。
「寒くなったし帰ろうや? 次はハロウィンもあるで!」
「うん、ふふ。色んなイベントがあって世界の色は鮮やかね」
 と、恵が楽し気に言った。
 見えずとも『心』があれば感じれる。
 世界は毎日顔を変えて行く光景は、美しいくもあり時には残酷である。
 それが見える者、見えない者、関係なく感じる一つの世界なのかもしれない。
 さぁ、次は冬が来る。
 白銀の世界になる前に収穫を終わらせよう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 魔王の救い手
    填島 真次aa0047
    人間|32才|男性|命中
  • 肉食系女子
    エコーaa0047hero001
    英雄|8才|女性|ジャ
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • 赤い瞳のハンター
    Iria Hunteraa1024hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • エージェント
    綺月 緋影aa3163
    獣人|34才|男性|攻撃
  • バトラー
    メリオルaa3163hero001
    英雄|27才|男性|バト
  • 色とりどりの想いを乗せて
    蒔司aa3665
    獣人|14才|男性|防御
  • 天真爛漫
    亜莉香aa3665hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 見えなくとも感じる『心』
    蜷川 恵aa4277
    人間|17才|女性|生命
  • 気さくな英雄
    徒靱aa4277hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • アキとハルの母
    レイシー・カニングマンaa4281
    人間|17才|女性|生命
  • アキとハルの家族
    コル・レオニスaa4281hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
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