本部

逃亡者の夢見るハロウィン

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/21 17:46

掲示板

オープニング

●初めての異国の祭り
 エステルは、ハロウィンを楽しみにしていた。
 異国の祭り――しかも、お菓子をタダでもらえる祭りとなれば子供の心は躍るというものだろう。だから、エステルはうきうきする心でハロウィン用の変装グッズを買いに行ったのであった。子供用の変装グッツを扱っている店なので、アルメイヤは置いてきた。退屈してしまうかも、と思ったのだ。
 だが、間違いだったかもしれない。
「子供たち……どこ?」
 魔女の仮装をした店員が、うろうろと店内を歩く。その眼はうつろで、まるで何かに操られているかのようであった。
「きゃははは! 逃がしたらやーよ」
 店の奥から出てきたのは、ジャックランタンの仮面をかぶった少女だ。黒いロリータな服装に身を包み、店員たちを使って子どもを探させている。
 ビル丸ごとが有名雑貨店だったのは、数十分前のこと。
 今は、愚神と従魔――それに操られる人間たちが闊歩している。
 エステルは、自分と同じように一人で遊びに来ていた子供たちに静かにするように目配せする。店の更衣室に隠れた子供たちは、エステルよりも年上だ。しかし、普通の子供だから当然ながら戦闘経験はない。泣き叫んでいないだけ、よくやっているのかもしれない。
「出てきなさいよ、子供たち。今なら、ハロウィンの特別企画で楽に殺してあげるわよ」
 アルメイヤは、近くにいない。
 エステルには、戦うすべがない。
「みなさん――落ち着いて聞いてください。私が囮になりますから、HOPEの支部まで走ってください」
 更衣室から、エステルは飛び出した。
 その姿を見つけた愚神は、にやりと笑った。
「みーつけ!」
 エステルは、力の限り走った。だが、愚神はいとも簡単にエステルを押さえつけてしまう。そして、彼女はエステルにもジャックランタンの仮面をかぶせようとした。
「あら、あなた普通の子供にしては随分とライヴィスが多いのね」
 ――お願い、アルメイヤを呼んできて。
 
●はぐれた二人
『エステルの電話が通じない!』
 HOPEの支部には、アルメイヤが相談もとい怒鳴りこみにきていた。なんでも、数時間前からエステルの携帯が通じなくなったらしい。お前はモンスターペアレントか、と突っ込みたい気持ちをHOPEの職員はぐっとこらえた。
『三時には戻るといっていたのに、六時になっても帰ってこない! 絶対に何かあったんだ』
「せめて、もう少し待ってみてはどうですか」
『エステルは十三才なんだぞ。誘拐にでもあってたらどうする』
 身体能力が上がっているリンカーを誘拐って、どれだけハイリスクを好む誘拐犯やねん。心の中で、思わず大阪弁で突っ込んでしまう職員であった。
 そんなとき、支部に子供たちが駆け込んできた。
「たっ、助けてください! 雑貨屋さんに愚神が出たんです!!」
 子供たちの言葉に、アルメイヤは言葉を失った。
『そこは、エステルが行った店だ』
 アルメイヤは踵を返して、店へと向かった。HOPEの職員は、急いで電話を取った。
「もしもし、こちらは支部です。今すぐに、今から言う住所のビルへと向かってください!」

●逃亡者は夢を見る
 エステルは、夢を見ていた。
 死んだはずの祖父が、自分の目の前にいる。なぜという、疑問はわかない。今日はハロウィンだ。仮装をしている自分も、死者の仲間入りをしたのかもしれない。
 祖父と二人で囲むテーブルには、甘い菓子が山のように積まれていた。店で売っているような既製品もあれば、使用人が作ってくれたと思われる菓子も並んでいる。
 ナツメヤシ入りのビスケット、マァムール。
 サフランの香りが香ばしい一口サイズのケーキ、クルスエゲール。
 甘いシロップをたっぷりと絡めた丸いドーナッツ、ルゲイマート。
 どれこれも、エステルが大好きだったおやつである。使用人たちは、よくエステルや祖父のために甘さたっぷりのおやつを作ってくれたものだ。
 本当ならば、いただきますと言って好きなだけ頬張りたい。口の周りをシロップまみれにしたい。だが、厳格な祖父の前ではそれははばかられる。
「エステル……たべてはいけない」
 祖父は、エステルに命令する。
「はい。おじい様」
 祖父がそういうのならば、食べてはいけない。
 がまんをしなければならない。
「食べれば、戻れなくなる」
 祖父は、いったい何を言っているのだろうか。
 エステルは首をかしげる。
 使用人が訪れて、また一種類おやつの種類を増やす。
 たっぷりのナッツとクリームを包んで揚げられた、カターイフが食卓に並ぶ。これにも、たっぷりとシロップがかかっている。
「おいしそう……」
「食べてはいけない。戻れなくなる」
 エステルはしらなかった。これは彼女が見ている幻想であり、食卓に並んだおかしを食べれば幻想から抜け出せなくなることを。

解説

ビル……すべてのフロアが雑貨屋であり、ハロウィンフェアを開催中。四階建の建物。左の端にエレベーターがあり、中央にエスカレーター。外に避難用の階段がある。店内の明かりは確保されており、視界は明瞭。

従魔……シーツで作った幽霊のような形をした従魔。浮いており、すべてのフロアの五体ずついる。フロアを移動しない。
目隠し――シーツで包んで、敵の資格を奪う。三秒以上包まれると、体がマヒして動けなくなる。
火の玉――火の玉を発射し、攻撃する。スピードはないが、ビルには燃えやすいものがいくつもあるので注意が必要。

ジャックランタン……愚神に操られる店員および客。すべてのフロアに五人ずついる。従魔がマヒさせた敵に仮面をかぶせ、仲間にする。操られた人間は夢を見ており、夢のなかで菓子を食べないうちに仮面を破壊しなければ正気に戻すことはできない。ナイフが武器。マヒしてない敵には、それで攻撃する。身体能力が大幅に向上している。

エステル……ジャックランタンの被り物をしている。愚神の隣にいる。優先してライヴィスを吸収されており、愚神を討伐しなければ正気に戻らない。他のジャックランタン同様にナイフを持っているが、徐々に衰弱していく。衰弱がひどくなるほど、菓子を食べてしまう可能性が高まる。

愚神……一見すると操られた人間のようにも見える。
魂食い――自分に近寄ってきた人間のライヴィスを吸収し、防御に回す。
いたずら――エステルのライヴィスを大量に消費し、小型のかぼちゃ爆弾を出現させる。敵を自動的に追跡し、敵に触れると爆発する。人間と無機質の武器や攻撃を判別することが可能。
キャンディー――ロリポップ型の鈍器。一撃で床を砕くほどの攻撃が可能。最終手段なので追い詰められない限りは使わない。

アルメイヤ……ビルに到着しており、1Fで手当り次第に攻撃している。ジャックランタンにも過剰な攻撃してしまう。

リプレイ

●失った場所の夢
 帰る場所を失った逃亡者は、夢を見る。
「エステル、食べてはいけない」
 亡くなった祖父とテーブルに並ぶ、甘美な菓子の数々。
「はい……おじい様」
 帰る場所を失った逃亡者――エステルは、未だに故郷の夢を見る。たとえ愚神による罠だとしても、彼女は未だに故郷の菓子の夢を見る。
「だが……もしも、戻りたくないのならば――食しなさい」

●アルメイヤの暴走
 一歩ビルに踏み込めば、視界の端から端までがハロウィン!
 陽気なかぼちゃが笑い、紙の蝙蝠がはばたく。棚に並んだ商品の色はにぎやかで、お祭りとしてのハロウィンを存分に演出していた。
「現場に関係者がいて助かったな。居なければコスプレと思われて発見が遅れたな」
 御神 恭也(aa0127)の言葉は、もっともだ。敵はシーツで作ったような幽霊に、ジャックランタンのお面ばかり。季節が季節だけに、お店のコンセプトに合わせたコスプレのようであった。
『うわぁ……アルメイヤちゃんが暴走しちゃってるよ』
 伊邪那美(aa0127hero001)たちは先ほど到着したばかりだが、アルメイヤは一足早く到着していたようだ。ビルの一階で、彼女は思う存分に暴れていた。
『エステルちゃんも心配ですけど。アルメイヤさんの暴れっぷりもどうにかしないと……!』
「あら、何も気負う必要はなくってよ。 私にお任せなさい!」
 恋迷路 ネリネ(aa1453hero002)は、破壊された商品を踏みつけないようにしながら周囲をうかがう。ネリネにとっては初めてなことが多い依頼であったが、散夏 日和(aa1453)がいることは心強い。
『は、はい! そうですよね。サポート頑張りますっ』
 幸いなことに、アルメイヤの攻撃によって怪我人は出ていないようだ。ネリネは、まずそれにほっとする。だが、それも時間の問題であろう。細身の剣を振り回すアルメイヤに、見境というものはなかった。
『一般人もいるはずだから、今回は迅速かつ確実に彼らを助けるよ』
 氷室 詩乃(aa3403hero001)の言葉に、柳生 楓(aa3403)はうなずいた。
「落ち着いてください、アルメイヤさん! 今焦ってしまえば、救える命も救えなくなります!」
 楓の叫びは、アルメイヤには聞こえないようであった。それどころかジャックランタンに向かってアルメイヤは、切りかかろうとする。シーツのお化けとは違って、ジャックランタンたちは見た目からして愚神に操られているだけの人間だ。
「危ないです!」
 楓はジャックランタンに対してハイカバーリングを使用し、アルメイヤの攻撃を防いだ。一太刀でも、操られているだけの人たちに浴びせるわけにはいかない。だが、敵に切りかかるアルメイヤを説得しながらの防御は難しく、楓は仲間たちを頼るしかなかった。
 楓は、唇を噛んだ。
「ジャックランタンは、私が。皆さんは、アルメイヤさんのほうをお願いします!」
 防御に徹する決意をした楓を見ていたは、凛道(aa0068hero002)は顔をゆがめていた。子供たちが楽しみにしているハロウィンを貶めた愚神に対して、彼は怒りを感じていた。
『取り乱さないでください。元が武器だとして、仮にも大人の形をとる者の行動ですか見苦しい』
「わ――何で煽るの!!」
 もっと柔らかい口調で、と木霊・C・リュカ(aa0068)は叫ぶ。
『そこまで言うなら、お手本を見せてくれますよね?』
 凛道に水を向けられたリュカは、こほんと咳払いをする。
 リュカは、アルメイヤの気持ちもわかるのだ。自分の大事な幼子が突然にいなくなり、敵に捕らわれている。保護者として、どれほどの不安のなかにいるのかを。けれども同時に、保護者が一番に考えているのは子供のことなのである。
「……あのね、エステルちゃんが今凄い不安だと思うんだ。能力者と英雄は幻想蝶で繋がってるって言うし、不安も伝わっちゃうかもしれない」
 仲間たちからも聞いたが、エステルは戦いなれた戦士ではない。
 大人びてはいるが、小さな女の子だ。
「落ち着いて。貴女のすることは攻撃じゃなくて、連絡が来たらすぐ駆けつけられるようにすることだよ。それと、お兄さんたちはエステルちゃんを助けに来たHOPEのリンカーだからね」
 つまりは、味方だよ。
 リュカの言葉に、アルメイヤが息をつく。
『HOPEの……救出がきたのか』
「私たちは、一階から上に攻める班と四階から下から攻める班に分かれて行動をしていますわ。エステルさん救出のために、力を貸していただけますわね」
 日和の言葉に、アルメイヤはうなずいた。
「従魔が、接近しています!」
 楓の声に、全員が振り返った。
 その声の通りに、一同の近くにはシーツのお化けが浮遊している。いかにもゴーストらしい恰好の従魔は、ばさりとシーツを広げた。
「目くらましかっ」
 恭也は、転がりながらシーツから逃れる。
 だが、恭也が転がった先にはジャックランタンがいた。振りかぶったナイフが、自分の体に刺さる前に恭也はジャックランタンの手を狙った。ジャックランタンの手からナイフが零れ落ちるが、その手は随分と小さなものだった。おそらくは女性――しかも戦ったことなどはない一般人の手だ。
「ジャックランタンに扮している者達は、操られてる人達か……。過剰な攻撃はできないな」
『楓! 恭也たちのほうに火の玉がきてるよ!!』
「大丈夫、詩乃。見えていますから!」
 火の玉から仲間を守るべく、楓はスキルを使用しようとした。
『恭也。女の子に守られてたら恰好が悪いよ』
 にやり、と伊邪那美が笑う。
「……女性うんぬんの前に、柳生さんは仲間だ。そして、これぐらいのスピードの攻撃ならば守られずとも叩き落とせる」
 恭也は手に持っていた武器で、楓のスキルが発動する前に火の玉を叩き落とした。
『ひゅーひゅー、やっぱり男の子だよね』
「茶化すな、伊邪那美。柳生さん、俺はよりも一般人を優先にっ!」
 恭也の言葉に、楓はうなずいた。
「こんなハロウィンパーティーは、早く安全に潰さないといけませんもんね」
『でも、思ったよりも時間がかかりそうだよね。ジャックランタンは一般人だから、乱暴はできないし』
 ナイフ程度の攻撃では詩乃たちはびくともしないが、相手が一般人あることや従魔によって自分たちも操られるかもしれないことを警戒するのは結構なストレスであった。
『仮面壊せば、元に戻りませんかね?』
 ネリネの言葉に「ビギナーズラックにしては良い考えですわね」と日和は返す。
「アルメイヤさんには、敵を惹き付けて頂きましょう。私は意識外から仮面破壊を狙います。じっとしているのも難しいでしょう」
 ならば、とアルメイヤが再び動き出す。
 そんな彼女の忍び寄ろうとしていた従魔を撃ち落としたのは、凛道であった。
『従魔は、こちらで撃ち落とします。そちらは、ジャックランタンを』
 敵に狙いをつける、凛道。
 ジャックランタンとして操られている一般人のなかには、背格好から子供とわかるものもいた。おそらくは、ハロウィンを楽しみにしていた子供たちを愚神が操っているのだろう。だとしたら――……だとしたら、ここの愚神は本当のロクデナシだ。
『望まぬ子供を戦闘に巻き込んだ罪……死者の皮を被り闊歩する罪……一度首を落とした位で足りるのですから安いものでしょう』
 従魔ばかりを狙って攻撃したせいだろうか、いつのまにか凛道は周囲を幽霊に囲まれていた。
『イノセンスブレイドを使用します』
「大丈夫? 性能は、確かにあがるけど……」
 リュカが言いよどむのは、凛道を心配しているからだ。
 だが、凛道はかまわないと答える。
『子供が泣いているかもしれないんです。大人が、立ちすくんでなどいられません』
 凛道は、静かに息を吐いた。
「お兄さんは戦うの苦手だからね。判断は、凛道ちゃんにまかせるよ。でも、無理はしないでね」
『言われなくとも、僕は勝ちます』
 凛道は、ためらうこともなく自身の武器の性能を上げた。
 一方で、アルメイヤはおとりとなり派手に暴れまわっていた。そして、日和がそれに気を取られたジャックランタンの仮面を外していく。
「ふぅ……やはり魔術はまだ扱い慣れませんわね」
 少しばかり困った顔の日和に、ネリネは泣きそうになっていた。
『魔法使いって後衛のイメージだったのにぃ……』
 呪文を唱えて杖をポイな、イメージとはだいぶかけ離れた戦闘風景であった。少なくともネリネのイメージのなかでは、魔法使いはここまで体をはらない。
「ふふ。私付きのメイドなら、慣れて貰いませんと困りますわよ」
『色んな意味でドキドキしてますよ……。いつもの共鳴も、こんな感じなんですか?』
「概ねは。でも、もっと激しくてよ」
『わぁ……し、精進しマス』
 ネリネが初の戦闘に精神的ショックを受けている最中に、楓たちは仮面が外れた一般人を店の端に集めていた。
「詩乃、ここなら安全でしょうか?」
『端っこだから、倒壊でもしないかぎりは棚とかは倒れてこないとは思うよ』
『ねえ、意識が戻らないよ。どうするの?』
 伊邪那美は、不安げに恭也に尋ねた。仮面が外され気絶した一般人を運んでいた恭也は、脈や息を素早く確認する。すべてが正常であるのならば、ならば動かさないのが適切なのだろう。
「安全な場所で、安静にさせているしかないな」
 医者がいないなかでは、それが恭也たちにできる精一杯であった。

●トリックオアトリート
『ふぅ、一般人が巻き込まれておると救出も難儀だな』
 ナラカ(aa0098hero001)は、息を吐いた。
 囚われているらしいエステルを四階から探しているも、ジャックランタンや幽霊がなかなかにやっかいである。一般人であるジャックランタンの救出を第一に行動してはいるが、まず相手の動きを止めなければならない。
『一階の方は、どうやら派手に暴れているようだぞ?』
 あちらに行かなくてはよいのか、とナラカは八朔 カゲリ(aa0098)に目配せする。
「あちらには柳生もいる。心配する必要もないだろう」
 それにカゲリは、アルメイヤにもはやかける言葉を探す気にもなれなかった。
『エステルが大切、それ以外は構うものか』と、“そうしたもの”だと言うのなら、好きにすれば良いのだ。
「お菓子はあげられませんが、代わりにこちらをどうぞ」
 トリックオアトリート、と言いながら九字原 昂(aa0919)は女郎蜘蛛を使用する。一般人相手にできることは限られている。だからこそ、昂は一番最初に動きを止めた。
「動きは止めましたよ。あなたは、そっちをお願いします!」
「おっけー」
 ギシャ(aa3141)はジャックランタンの背後から近づき、仮面をはぎ取った。
「二足歩行で、手を使うなら人としての動きはそう変わりはないよね。同じ二足歩行でもどらごんだったら、変わったかもしれないけど」
 ギシャの言葉に、どらごん(aa3141hero001)は『そうだろうな』と周囲を警戒しながら答える。店の雰囲気とは誰よりもマッチしているが、どらごんは残念ながらギシャと共鳴中である。その姿は視認することはできない。
「エステルって、事件に巻き込まれまくるヒロイン体質だよねー。困ってるだろーから、早く助けないとねー」
『……気に病むから本人には絶対に言うなよ』
 最悪の場合、家から出てこなくなるかもしれない。
 ギシャは「言わないよー」と言っているが、どらごんは信用できないなと一人つぶやく。 
「エステルさんとアルメイヤさん……。この二人とは、しばらく前に講習会で話したことがあります。二人の日常が脅かされているのなら、今回の一件は尚のこと黙ってはいられない――」
 魅霊(aa1456)は、拳を握りしめていた。
 店に入った瞬間から、彼女は自身の獲物は店内で戦うのに向かないと判断した。良くも悪くも商品であふれた店のなかでは、魅霊の武器の動きは阻害されてしまう。
「たしかに、物が多いですよね」
 昂は、棚に置いてあったかぼちゃの置物を手に取った。ガラス細工のそれを昂は掌の中でくるくるさせて「買って帰ろうかな……」とつぶやく。子供でなくとも、ハロウィンの準備は心が弾むものである。昂ぐらいの年でも、お菓子を見れば「これは子供が喜ぶかもしれませんね」と思って購入してしまう。
『うふふふ。お店のものが壊れるのは気分が良くないですよね』
 まるで一緒に買い物に来た妹の姿を見守るような穏やかな雰囲気で、R.I.P.(aa1456hero001)は微笑む。
「今は緊急事態です。多少の被害は……仕方がないことです」
 緊急事態と言われ昂は、商品を棚に戻した。
 これが、壊れていなかったから買うかもしれない。
『あらあら、強がりはだめよ』
 魅霊とて、好んで店の商品を壊したいわけではない。
 しかし、今回は人命を最優先すべきであろう。
「おい、アリス。なんで、そんな張り切ってんだ」
 商品の仮装セットを片手にもつアリス・レッドクイーン(aa3715hero001)に、一ノ瀬 春翔(aa3715)は首をかしげる。それは明らかに戦闘には必要ないものだ。
『お菓子のお祭りを悪用するなんて、コレはアリスに対する挑戦状だよ! 今回はアリスがやるからハルトは引っ込んでて!』
「なんだそりゃ……。いいけど、目的はエステルの救出って事忘れんなよ……」
 アリスはさっそく商品の外装をバリバリと破いて、かぼちゃの仮面とポンチョをかぶる。
『うげ……。見辛い……』
 どうやら安物の仮面は、視界が悪かったらしい。
「当たり前だろ……何やってんだ。皆が敵だと思うだろうから、早く脱いでくれ」
『ハロウィンの平和を守る為の正装だよ!』
 アリスの様子を見ていたユエリャン・李(aa0076hero002)は、わずかに表情を柔らかくさせた。
「少しとばかり早い、ハロウィンか。ほう、コスプレグッツも豊富のようだぞ』
 こんな時ではなければ店を物色して自分と紫 征四郎(aa0076)の仮装用の衣装など見繕いたいところだが、残念ながらそれはできそうにない。
「エステル、無事だといいのですが……」
『話を聞く限りは、トラブル慣れしていそうな娘であるぞ? 危険とわかっていればどこかに隠れている可能性もあると思うのだが』
 きょろきょろする征四郎に、ユエリャンは声をかける。少なくとも、この人数でしらみつぶしに探せば、見つからないということはないだろう。
『そういえば、便利なゴーグルを持っていただろう。アレを使わない手はないぞ』
「ライヴスゴーグルですよね!」
 そういえば持っていたはずだと征四郎は、ぽんと手をたたく。もしかしたら、これで隠れているエステルも探せるかもしれない。
「……あれは! カゲリ、その子は愚神です」
「なっ!」
 征四郎の言葉に、すぐさまカゲリはジャックランタンの仮面をかぶった少女から離れる。今の今まで操られた一般人だと思っていたが――愚神だったとは。
「あはははっ。あと、ちょっと遅かったら腸引きちぎってたのに!」
 ぽん、と愚神がかぼちゃを出現させる。
 カゲリは、とっさにレアメタルシールドをかまえた。盾に当たったかぼちゃが、それに当たって「ぽーん」とおもちゃのような音をたてて爆発する。
『愚神との距離が近かったせいか? 今の爆弾は、覚者の跡を追ってきたように見えたが?』
「おそらくは、自動追尾型だ」
 見た目も音もおもちゃのようだったが、爆発の威力は本物であった。カゲリは盾を構えながらも、愚神から距離を取る。
「自動となると、かなり厄介ですね。一先ず、隠れて様子をみましょう」
 昂は棚の影に隠れて、愚神の様子をうかがう。店の商品が多すぎて思ったように武器が扱えないという不利もあったが、こんなときに姿を隠すにはおあつらえ向きであった。
「爆弾を大量に出せば有利なのに……。あの愚神は、こちらの動きをうかがっていますね?」
 昂は、愚神の様子をうかがう。
 もしも昂が愚神であったならば、かぼちゃ爆弾を大量に出しているはずだ。そちらの方が有利なのに、愚神はそれをしようとはしない。
「それに、隣にいる女の子も気になりますよね」
「まさか、愚神の隣にいるのは……」
 昂の言葉に、魅霊は深呼吸をする。
 その人の姿は、過去に見ている。
「R.I.P.、あそこにいるのはエステルさんでしょうか?」
『ええ、間違いないです』
 R.I.P.にも確認を取ったが、間違いない。
 エステルはすでに、愚神に捕らわれている。
「えっ、エステルも操られての!?」
 シーツのお化けを爪で引き裂いていたギシャは驚いたが、どらごんが冷静につぶやく。
『他のジャックランタンとは、様子が違うようだな』
『ハロウィン仮面参上ぉう!! お菓子の平和を乱す者は……って、またニセモノ居るし』
 縫止を使おうとしたアリスを見て、愚神が笑う。
「かぼちゃ爆弾の的になっちゃえ!」
 ゴーグルをつけていた征四郎が叫んだ。
「ギシャ! 愚神はエステルのライヴスを使って、爆弾を作っています!!」
『吾輩たちが早く引き離さないと危険なんだな?』 
 ユエリャンの言葉に、征四郎は頷いた。
 愚神の攻撃は、エステルのライヴスを大量に消費することでなりたっている。このままでは、エステルの体の方が持たないはずだ。
『やることは決まったぞ、おチビちゃん。ひとまずは、子供の保護なのだな』
「征四郎さん……力を借してください。私なら、ゼロ距離で拳をたたきこめます」
『うふふふ。わたくしたちならば、比較的簡単に愚神の懐に入れますからね』
 R.I.P.と魅霊の言葉に、征四郎は頷いた。
 征四郎の援護を受けながら、すばやく魅霊は愚神の懐に入った。
 この一撃で決める!
 そう決意した魅霊の拳であったが、愚神は涼しい顔をして受け止める。
「ライヴスを……防御にも回せるのでしょうか?」
「ご名答。だから、あなたのライヴスも私のものよ!」
 反撃が来る、そう予測して身構えた魅霊より早く動いたのはアリスだった。
『ちゃんと避けてよね、ジェミニストライク』
 魅霊はアリスの攻撃は、避ける。
 だが、エステルの側は離れない。
 ――私が離れればエステルさんの負荷が増える。だったら!
 ――ぎりぎりまで、離れなければいい。
 魅霊の下した判断は、単純にして明朗であった。
「そんなことをしたって、私の防御力が上がるだけだよ! あははははっ、HOPEのリンカーって本当にお馬鹿さん」
『違う』
 どらごんが、ギシャだけに聞こえる声で呟く。
『命知らずで優しい奴らの集まりだ』
「隙ありっ。だよっ!!」
 潜伏を使用していたギシャは、エステルを抱きかかえていた。ずっとこの瞬間をギシャは狙っていたのだ。
「それ、私のお菓子よ!」
 愚神が、ギシャに向かって手を伸ばそうとする。
 だが、その手に刺さったのは針であった。
 昂の縫止だ。
 彼はずっと店内の商品棚に身をひそめ、愚神に徐々に近づいていた。愚神との戦闘を従魔に邪魔されないように、そちらを拘束することも忘れずに。
「隠れているのが、一人だとは思わないでくださいね。いつも通りの強硬手段ですけど、一応はセオリーですから聞いておきましょうか」
 戦闘の緊張から一瞬だけ解放されたように、昂は笑う。
 その顔は近所の子供たちに菓子を配る、気のよさそうな青年そのものだった。
「トリックオアトリート? 攻撃とお菓子、どちらがいいですか……」
「愚神に選ばせる気は、全くないが」
 カゲリは、ラジエルの書を持っていた。
 ライヴスショットを食らった愚神は、もはや自分がどうしようもないほどに追い詰められたことを知る。
「まだよ。まだ、私にはお菓子がある!」
 愚神は、ロリポップを振りかざす。鮮やかな色のそれを昂は避けたが、床にひびが入る。おそろしいほどの威力に、昂は唾を飲み込んだ。恐ろしいほどの強度を誇ったロリポップに果敢に挑むのは征四郎であった。
「愚神は必ず、征四郎たちが倒すのです!」
 何かが来る、と警戒した愚神に征四郎はにやりと笑ってやった。今の愚神は、征四郎の攻撃を予測している。自分を倒すほどの協力な攻撃がくると思い込んでいる。
 だが、征四郎が使ったのが猫騙であった。
 愚神のロリポップの動きが、止まった。
「不意打ちで失礼します!」
 昂が、愚神の胸を貫く。
『かくしてハロウィンの平和は守られたのである……!』
「……だめだこりゃ」
 ブイサインを決めるアリスに、春翔は頭を抱えた。
「……おじい様、ごめんなさい」
 エステルが小さくつぶやく、その声は誰のも聞こえてはいなかった。

●死者か生者か
「たくさんのお菓子とおじい様が出てくる夢を見たんです……」
『HOPEによると夢のなかで菓子を食べていたら、正気に戻れなかったかもしれないそうです。……ほかの子供たちも無事でよかった』
 凛道は、子供たちに被害が出なかったことにほっとしていた。
『本当に無事に終わって良かった~。でも、南瓜を御面にするなんて変な御祭りがあるもんだね』
 拾ったらしいかぼちゃの仮面をつけた伊邪那美は、なぜか幽霊の真似をしていた。
「本来はカブだったらしいが、移民先でカブが無く南瓜に移行されたらしい」
『……伝統をそんな理由で変えちゃうのってどうなんだろう』
「騒げるならどの国の物でも構わずに取り入れる日本が言えた義理はないんじゃないか? 
何処かの自称国生みの神はクリスマスに大はしゃぎしてたしな」
『え~っと……懐が広いの良い事だよ。それより、お菓子だよ。お菓子』
「そうです! 皆で、お菓子を食べましょう!! ハロウィンは大人からお菓子をもらって、夜食べても良いお祭りなのです」
 征四郎も目を輝かせていた。
 年少組はやはり、歴史や伝統よりも甘いお菓子に興味津々のようである。
「クッキーは、黒猫の形がいいです! でも、せっかくだからかぼちゃ味のも欲しいです」
『ああ、カボチャのマフィンとか美味しいよね。ボクも食べたいなー』
 パイもいいなー、と詩乃もうっとりしはじめる。
「私は、生キャラメルが食べたいです。口のなかで溶けるやわらかい感触が……」
 楓もうっとりする。
 征四郎たちはうきうきしながら、食べたいおやつに胸を膨らませていた。それを配るのは「お兄さんなのかな? できれば仮装したいよー」とリュカは端っこで叫んでいた。いや、配る側も喜んでやるのだが。
『夢に出てくる菓子を食べなかったか』
 ナラカは、歳の近い者たちの輪に入れずにいたエステルに声をかける。
『賢明であったな。菓子のほかに、夢で別のものも見たのではないのか?』
「……亡くなった、おじい様を見ました。おじい様は、戻りたくなければ食べなさいとおっしゃったので」
 私は食べませんでした、とエステルは答える。
 その話を聞いていたカゲリは、無言でエステルの頭をなでる。
「家族のおじい様と一緒にいたくなかったわけではないんです……」
 その言葉を聞いたナラカは、同じ年頃のギシャや魅霊たちに呼ばれて向かうエステルの背につぶやいた。
『死んだ家族を選ばなかったことに罪悪感をいだくとは……。心の強さは、アルメイヤの暴走の結果を背負えるほどとはいかぬか』
「それでも、エステルは選んだ」
 ――血の繋がった死者<祖父>よりも。
 ――血の繋がらない生者<アルメイヤ>を。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • メイドは任せろ
    恋迷路 ネリネaa1453hero002
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    R.I.P.aa1456hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
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