本部

【屍国】墓より出者

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/22 19:52

掲示板

オープニング

●墓を叩く音
「遅うなってしもうたわ」
 酒をいただいてしまえば話に花が咲き、遅くなってしまうのはいつもの事だ。
 車で送ろうと言うのを断って酔い覚ましの夕涼みがてらこうして歩いて帰っているが、昔はどうと言う事も無かった寺までの坂が今は少しきつい。
「歳を取ると、と爺さん共が言うておったが、まさか自分も言うようになるとは思うとらなんだわな」
 立ち止まって口にした言葉に応える者は今はもういない。
 微かに苦笑して止まった足を動かす。
 もう少し歩けば寺の門が見えてくる。
 遍路道沿いには有るが霊場という訳では無い小さな寺。
 その寺へと続く道を人影がこちらへ向けて歩いて来るのが見える。
 僧侶のように見える姿に声をかけようと足を止めた瞬間、ドンドンという何かを叩くような音が辺りに響き渡った。
「何じゃ!?」
 音は寺から聞こえてくるように思えた。
 今、寺には住職一人だけしか住んでいない。寺には誰もいないはずである。
 何かを叩くドンドンと言う音は次第に数を増していく。
 近所の人達もその音に気付いて家から顔を出していた。
 住職は酔いも疲れも忘れて寺の中へと駆け込んだ。
 音は墓地の方から響いて来る。
 それは墓石を下から叩く音だった。
 まるで死者が墓から出てこようとしているような音が響いている。
 いや、実際に死者が出てこようとしているのだ。
 狭い墓の口から腐った肉の付いた体が這い出してきている。
 その光景はまるでB級ゾンビパニック映画のオープニングのようである。
「住職……」
 かけられた声に視線を向けると近くに住む男達が青い顔で墓地を見つめて立っている。
「確かうちの墓は皆、お骨じゃった気がするんじゃが?」
 住職の力の抜けたいつも通りの言葉に男達は青い顔のまま頷く。
「盆もとうに過ぎた、化けて出るにしてももうちょいっと風情のある出方をするじゃろ」
 墓の口の石を持ち上げて順にゾンビが出てこようともがいているが、狭い出口と互いの体に挟まってそう簡単には出てこられないようである。
「人生の荒波を乗り越えてきた爺さん婆さん共があんな間抜けな事にはなるまい」
 互いの体が挟まり合ってもがくさまは実際に目の前になければ滑稽と言ってもいいかもしれない光景である。
「本当に化けて出たんなら、自分の墓をあんなに粗雑には扱わんじゃろ」
 暴れるゾンビ達は墓石を押し倒し、花もお供え物もみな辺りに散らばってしまっている。
 軽いいつも口調の住職の声に恐怖に青い顔で固まっていた男達の顔から少しだけ固さが抜ける。
 化けて出た先祖は理解の及ばない恐怖だが、従魔は現実の恐怖だ。
「ほれ、何をボーっとしておる。H.O.P.E.へ通報じゃ」
 ドンと近くに居た若者の背を叩いて声をかける。
 まるで喝でも入れられたかのように慌ててポケットの中を探しだす若者に
「鍵は掛かっておらん、うちの電話を使うといい」
 そう声をかけて、他の男達にも声をかける。
「警察にも連絡、それとお前さんらは近所を周って皆を非難させるんじゃ、寺からできるだけ離れるんじゃぞ」
 住職の指示にそれぞれが駆け出して後には住職一人だけが残された。
 住職はゆっくりと墓地の中を見渡す。
 無理やり墓から這い出して来たゾンビ達は腕が無かったり、頭が取れかかっていたり、中には下半身が無い上半身だけのものもいる。
「皆、不憫よの。死して尚玩ばれるとはの」
 這い出して来るゾンビは止まらない。
 さらに、後から出て来るゾンビ達は手も足も傷つくことなく這い出して来ているものもいる。
 その数はもうすでに十や二十ではきかず、墓地を埋め尽くしそうな勢いである。 
「儂にはもう、解放して救ってやる力は無い」
 もうずいぶんと前から寂しいままの自分の左側に目を向ける。
「せいぜい、死した後にまで業など背負わんで済むように経でも挙げてやるくらいしかできん」
 ゾンビ達の中には墓地の三方を囲む塀の方に向かっている者もいる。
 腐った体で自らの背よりも高い塀を越えられるとは思えないが外へ出ればどうなるかは明白だ。
 住職は静かに手を合わせて経を唱え始める。
 その声にゾンビ達が動きを止めた。
 住職の経に魅かれるようにゆっくりとゾンビ達の腐った瞳が墓地の入口を背に立つ住職の方へと向けられた。

解説

●目標
・ゾンビ型従魔の全撃破

●ゾンビ型従魔
・典型的な走らないゾンビです。
・体を引きちぎって外に出た者がいるので形状は色々有りますが、元は全て同じ人型です。
・手や頭が千切れた者は歩いていますが、足や下半身が千切れた者は地面を這っています。
・未だ墓の中かからゾンビは這い出してきています。どれくらいの数になるか想像はつきません。
・複数に掴まれば振り払うのは容易ではないでしょう。
・PL情報:倒すと骨壺が残ります。

●墓地
・三方は高さ二メートルの塀に囲まれています。
・開いている一方はお寺に面していて人の腰ほどの高さの生け垣が有ります。
・住職の立っている場所が唯一の入り口として生け垣がきれている場所です。
・PL情報:ゾンビは塀を越えられませんが、生け垣ならば突き破って外に出ることも可能です。
     現在は住職の気配に集まってきているので外に出て行こうとする様子はありません。

●住職
・それなりに高齢の住職です。
・一人、墓地に残り経を上げています。
・PL情報:ゾンビが渋滞しているおかげで最初のPC到着時は無傷ですが、以降はどうなるか分かりません。

●場所
・高知の遍路道沿いにある寺です
・周囲の民家の避難は自治会によってすでに始まっていてパニックは起こっていません。

●PC到着
・近隣にいたPCへ本部から直に連絡が入っています。
・一緒にいなかった可能性があるので到着時間はずれるかもしれません。

リプレイ

●墓地
「……ツラ、連絡……ホープから」
 そう言って38(aa1426hero001)がツラナミ(aa1426)に通信機を示して見せる。
「……ぁあ? ……うーわ、マジだよおい……ったく、こちとらこれから「仕事」だっつうのに……他の連中は」
 表示された通達に面倒そうに眉をしかめてツラナミは38に追加の情報を確認する。
「最低限しか、いない……みたい」
 情報を確認した38の言葉に
「……ハァ……まあいい。どうせそういう状況なら、仕事にも多少響くだろ……さっさと片付けるぞ」
 ツラナミは舌打ち混じりに38と共鳴して走り出す。
 同じように周囲にいた他のエージェント達にも連絡は届いていた。
「あー……シロガネ、ゾンビは平気か?」
 H.O.P.E.からの連絡を受けて百目木 亮(aa1195)は共にいたシロガネ(aa1195hero002)に声をかける。
「平気ですよって。オヤジはん、怖いんですか?」
 都会よりもずっと暗い地方の夜道を見渡したシロガネの言葉に
「違えよ」
 と頭をガシガシと掻きながら百目木は通信の内容を伝える。
「なら、急がなあかんですね」
 シロガネの言葉に頷き共鳴して百目木もすぐに走り出す。
「通信、を、」
 H.O.P.E.からの連絡を受けた銀 初雪(aa4491)は通信機を手に口ごもる。
 伝えたいことはあるのに上手く言葉が出て来ない銀の手から紫ノ眼 恋(aa4491hero001)が通信機を取り上げて
「全員と通信を繋げるようにしておいてくれ」
 そう通信機に吹き込んで銀の手に戻す。
「急ぐんだろ」
 銀が口を開くよりも先に紫ノ眼が声をかける。
「ありがとう」
 そう口にした銀と紫ノ眼も共鳴して走り出した。
 最初に寺に到着したのは霧島 侠(aa0782)だった。
「到着した」
 通信機に吹き込んで霧島は寺の裏の塀を飛び越え、お堂を回り込んで墓地へと向かう。
 すぐに墓地の入口で経を上げる住職の背中が見える。
 墓地の中にひしめくゾンビ達はまだ住職にたどり着いてはいない。
「御坊、もう大丈夫だ」
 住職の脇をすり抜けながらそう声をかけるとバンカーメイスを地面に突き立てて体を空へと押し上げる。
 まるで鳥の様に空へと舞い上がると霧島は喉に取り付けた幻想蝶を右手の親指で弾き共鳴する。
 共鳴した霧島は鳥人のように宙で身を翻すと落下の勢いを乗せたバンカーメイスをゾンビの先頭へと叩き付け、地面に降り立つと同時にバンカーメイスを振り回し牽制を行いつつ次の構えへと移行する。
 そのまま流れを止める事無く繰り出された一撃がゾンビ達の体を砕く。
 砕かれたゾンビの体が消失し代わりに骨壺が地面に転がる。
「土葬ではないのか?」
 足元の骨壺に一瞬だけ視線を移し住職にかけた声をかき消すように辺りに大音量の音楽が響く。
 霧島が到着を伝えた時には麻生 遊夜(aa0452)も寺の脇の道まで来ていた。
「ッチ、こんな所でか……」
 麻生は塀の向こう側に見える寺の屋根に視線を向ける。
 この塀の向こう側が地図によれば墓地になっている。
『……ん、お寺でゾンビ……いっぱい?』
 共鳴し同じ体に宿る相方のユフォアリーヤ(aa0452hero001)の声は姿は見えずとも首をかくりと傾げる動作まで見える気がする。
 墓地からはすでに到着した霧島が戦う音が聞こえてくる。
 麻生は少し迷うように道の先と塀の高さを見比べると地面を蹴って塀を駆け上がる。
 着地した塀の上から見る墓地の中はゾンビで溢れていた。
「役に立つかはわからんが……」
 そう呟き、麻生は幻想蝶から取り出したラジカセのスイッチを入れる。
 大音量で流れ出した音楽にゾンビ達が視線を向ける。
 だが、ラジカセに興味を持ったのは一瞬だった。すぐに興味を失ったように霧島と塀の上を走る麻生に手を伸ばす。
 ほんの少しとは言えゾンビの意識が離れただけで霧島には十分な援護となった。
 瞬く間にゾンビが数体砕かれて住職と霧島の周りに空間が広がる。
「……ん、お待たせ」
 塀の上を走るユフォアリーヤが二人に声をかけ、
「遅れてすまんね、あとは任せてくれ」
 姿を入れ替えた麻生がそう続けて両手にPride of foolsを現す。
 両手の銃から続けざまに放たれる銃弾がゾンビの脳天を撃ち抜いていく。
「住職はゾンビにも経をあげる良い漢だ、守らねばなるまい」
 引き金を引きつつそう言った麻生の言葉に
『……ん、人格者だねぇ』
 耳をピコピコとふりながら話すようにユフォアリーヤの思考が応える。
 立て続けに響く銃撃音と大音量の音楽にツラナミは塀の手前で足を緩める。
『ツラナミ?』
 頭の中で響く38の声にツラナミは正面の塀へと視線を向ける。
 そのラジカセの乗った塀の向こう側が目的地だ。
「垣根を壊すわけにもいかず、かといって上るのも入るのも時間はかけられない……めんd『これ』……マジで」
 そう言いながらも素早く塀を蹴って駆けあがり大音量でゾンビ達に歌を届けるラジカセの隣に立つ。
 これだけの大音量であるにもかかわらずラジカセに手を伸ばすゾンビの姿は無くどのゾンビも霧島と麻生を追いかけている。
 塀の上に立ったツラナミは墓地全体を視界に収めつつ、さらに鷹の目で空から墓地とその周囲の視界を確保する。
 鷹の目の俯瞰の視点がゾンビ達の位置と動きを正確に捉える。
 ゾンビ達は障害物を越えるという選択肢を持たないようで道を塞ぐ倒れた墓石を越えるのではなく押しのけて進んでいる。
「サヤ、任せる」
 鷹の目の視力を38に任せてツラナミは集めた情報を通信機で全員へと伝え、墓地で唯一ゾンビ達が抜けられそうな生け垣へと目を向けてその近くのゾンビに15式自動歩槍「小龍」を向けて引き金を引く。
 消音器を外された発砲音がゾンビ達の注意をツラナミの方へと引き寄せる。
 寺へと向かっていたファリン(aa3137)はツラナミからの情報を受けて足を止める。
『ファリン?』
 現場に向かう足を止めたファリンにヤン・シーズィ(aa3137hero001)が声をかける。
 暗闇を見透かすように周囲に目を向けていたファリンは
「バリケードをつくりましょう」
 そう言って寺の壁の補修工事の為に置いてあった足場用の鉄パイプに駆け寄る。
『バリケード?』
 ヤンの問いかけに数本の鉄パイプを確保して走り出したファリンが説明する。
 生け垣を鉄パイプで補強してそこに布を渡してウレタン噴射機で固める。そうすれば簡易的な壁を作ることが出来る。
 そのファリンの作戦を通信機越しに聞きながら百目木は寺の門をくぐる。
 すでに戦闘を始めている霧島と麻生、ツラナミの姿を確認して百目木はすぐに自分の役割を判断して住職の元へと駆け寄る。
「エージェントの百目木だ」
 住職を守るように戦う霧島にも聞かせるように声を上げた百目木をチラリと霧島が振り返る。
 その視線に住職は任せろと頷いて見せて百目木は住職の前に出て九龍城砦を構える。
 それに合わせて霧島が前に出る。
「町は比較的落ち着いているように見えたぜ」
 住職にそう百目木は声をかけ、来る途中ですれ違った避難していく人たちの事を話す。
「そうか、皆無事避難したか」
 応えた住職の声は思いの外落ち着いていた。
「出来ればここから離れて身の安全確保を優先してほしいんだが」
 近づくゾンビを九龍城砦を振るい薙ぎ払いながら言った百目木の言葉に住職は
「そうじゃな」
 と答えて墓地から離れる。
 それと入れ替わるようにファリンが墓地に到着する。
「援護、おねがいしますわ」
 ファリンの言葉に麻生とツラナミの銃が生け垣の近くに居たゾンビ達を打ち倒しその注意を引きつける。
 その間に地面に鉄パイプを突き立てたファリンは手持ちの布を鉄パイプの間に引っ掛けて生け垣に簡易の壁を作りあげる。
 布で出来た壁は脆く生け垣よりも頼りないが、ファリンは幻想蝶からウレタン噴射機を取り出し布の壁にウレタンを吹き付ける。
 見る間に硬化したウレタンが布の壁を簡易のバリケードへと変化させた。
 噴射器の音にゾンビ達がバリケードの向こう側のファリンヘと目を向けが、バリケードに阻まれ進めずファリンヘ手が届くことは無い。
 群がるゾンビ達にファリンは落ち着いて九陽神弓へ矢を番え確実にゾンビ達を射抜いていく。
『あはははっ! まるでビーキュー映画のようだな! 前に見たことがあるぞ!』
 墓地にうごめくゾンビの群れに銀の頭の中で紫ノ眼が喝采を上げる。
「……日本 、は、火葬のはず、なんやけどなぁ……」
 紫ノ眼の言葉に答えた銀の言葉に応えたのは百目木と共に墓地から離れた住職だった。
「あそこで眠っておった者も皆お骨になっておったはずじゃよ」
 突然かけられた言葉に返す言葉が出て来ずに銀の喉からヒューヒューという呼気の音だけが零れ落ちる。
「驚かせてしもうたな。無理に声にせんで大丈夫じゃよ」
 住職の言葉に銀は俯くように頷く。
「もうあの者達を救ってやる力のない儂に代わってもう一度眠りを与えてやってくれぬか?」
 静かな住職の言葉に今度ははっきりと頷くと銀はゾンビのひしめく墓地へと駆け出す。
 墓地は銀が思っていたよりも暗かった。
 街灯の明かりと月明かりのおかげである程度の視界は有るが蠢くゾンビ達を見分けるまでの明かりは無い。
「明かり……」
 銀がそう呟いたのとファリンが
「ライトアイを使用しますわ!」
 そう声をかけたのは同時だった。
 視界が明るくなり今まで影のようだったゾンビ達の姿がはっきりと見えるようになる。
『楽しい! 楽しい!! この敵数、こんなにわくわくすることはそうないぞ!!』
 数えきれないほどに並ぶゾンビの姿に紫ノ眼が歓声を上げる。
「……俺、は、あんまり楽しくは、ない」
 そう紫ノ眼に答えて銀はヴァルキュリアを抜き墓地入り口から中へと入る。
 出入り口を守るように立った銀にその場を任して霧島は地面を蹴りその姿に相応しくふわりと飛びあがる。
 縦の動きも加えることで足元に迫るゾンビにも対応していたがやはりその対応では限界がある。
 霧島は墓石を蹴ってさらに高くゾンビ達の上を越える。
 落下の勢いを乗せた一撃が地面を這いずるゾンビを潰し前面から背面へかけて薙ぎ払うように振るう一撃で周囲のゾンビを薙ぎ払うと再び宙へと舞い上がる。
 見難い足元のゾンビを気にする必要のない墓石の上を跳び回り攻撃を繰り出す霧島に翻弄されるようにゾンビ達が動きを止める。
 そこへ降り注ぐ銃弾と矢がゾンビ達の数を減らしていくが未だ墓地のゾンビの数が減っているようには見えない。
「住職、墓地に眠る死者の数は?」
 住職は墓地からは離れたが未だ避難せず墓地の見える場所に立っていた。
 その住職を護衛する為に百目木はこうして戦場から離れている。
「そうさの、正確には分からぬが二百は下らんじゃろう」
 百目木の問いに少し考えるように目を閉じて住職はそう答える。
「最低でも二百、か……」
 住職の言葉を繰り返して百目木がその情報を全員へと伝える。
 その間も視線は墓地から離れず戦況次第ですぐ動けるように準備を怠らない。
「儂は大丈夫じゃよ」
 守る為にそこを動かない百目木に住職が声をかける。
「這い出た奴らにあんたを殺した罪を負わせたくはないんでね」
 百目木のその言葉に住職は「そうよの」と頷いて少しだけ前に出る。
「ここを離れてくれれば安心なんだが、離れたくないなら全力で守るだけさ」
 前に出た住職の横に並びながら百目木はそう声をかける。
 少しだけ前に出た事で墓地の端で戦う銀とファリンまでは一挙動でカバーできる距離になる。
「ただし、本気で危なくなった時には担いででも離れさせてもらうからな」
 そう言った百目木の言葉に住職は「分かっておる」そう応えて静かに墓地に目を向けている。
「見てるだけとは辛いものじゃな」
 呟いた住職に百目木は
「そうだな。だが、今は住職を守ることが俺に出来ることだからな」
 そう応えて戦いを続ける仲間達に視線を向ける。
「死者への冒涜許せませんわ」
 次々と放たれるファリンの矢は生け垣に迫るゾンビ達を打ち倒し、さらには手足を撃ちぬいて味方を囲もうとするゾンビの動きを阻害している。
 生け垣に向かうゾンビ達の注意を引きつけるように銀が大きな声を絞り出す。
「……こっち、や。俺、が、相手したる」
 まるで動物の唸り声のようなその声にゾンビ達が銀の方へと向かう。
 集まってくるゾンビを麻生とツラナミの銃が撃ち倒し、銀が斬り払うがいくら倒してもその数は一向に減る気配が無い。
「……諦め、へんで。このまま、数を、減らせば勝てる」
 迫るゾンビを睨み付けて銀が自らを鼓舞するようにそう口にする。
『そうだな雪、勝てるぞ。あたし達なら、皆なら、きっと!』
 紫ノ眼の声に励まされるようにヴァルキュリアを振るう銀の足をべちゃりとした背筋に悪寒が走るような気色の悪い感触が掴む。
 慌てて視線を向けると足を失い這っていたゾンビの手が銀の足を掴んでいた。
 振り払うよりも先に周囲のゾンビの手が銀の体を捉える。
 咄嗟にスキルを使おうとした銀が躊躇うように動きを止める。
 どのスキルもこの場所では無事な墓石を巻き込んでしまう。
 たった一瞬だが動きを止めてしまった銀にゾンビ達が喰らいつく。
 だが、ゾンビ達の歯が銀へ到達するよりも先にライブスショットでゾンビ達を弾き飛ばし、僅かに出来た隙間にハイカバーリングのスキルで百目木が九龍城砦を構えて割り込む。
「大丈夫か!?」 
 そう銀に声をかけて百目木は九龍城砦でゾンビ達の攻撃を受け、そのまま九龍城砦のスパイクと重量でゾンビを薙ぎ払う。
 突然現れたように見えた百目木に驚いたように頷いて見せる銀に
「我慢してくださいましね」
 ファリンが声と共にケアレイを飛ばす。
 経絡秘孔を突くような痛みと共にゾンビにつけられた銀の傷が消えていく。
 その効果を確認する事も無くファリンは次の矢を番え生け垣に迫るゾンビを打ち倒していく。
 生け垣の前にはいつの間にか幾つもの骨壺が重なるように並んでいる。
 そのどれも元はゾンビになっていた遺骨が入っているのだが未だ迫って来るゾンビの数自体が減った様子はない。
 迫るゾンビ達がその骨壺を踏むことが無いようにファリンはバリケードの前へと進み出る。
 今まで手の届かなかった獲物が出て来たことを喜ぶようにゾンビ達が殺到するが、その手がファリンに触れることは無かった。
 まるでどこにどう手が伸ばされるのかが分かっているかのようにファリンは伸ばされる無数の手を躱しゾンビ達の眉間を確実に射抜いていく。
 その度に地面に骨壺が増え、それを守るようにファリンが進み出る。
「キリがないな」
 塀の上からPride of foolsでゾンビを撃ちぬいていた麻生はそう言うと武器を持ち替える。
 重武装エレキギター「パラダイスバード」、幾つもの重火器を内蔵したその武器の弦をかき鳴らす。
 派手なその音にゾンビ達の注意が塀の上に立つ麻生へと集中する。
 さながら人気アーティストのコンサートへと集まった観客の様にゾンビ達が塀の上の麻生へと手を伸ばす。
「さぁさ、こっちだ! 眠る前に今世最後のライブ、聴いてけや!」
 大量のライヴスを流し込み存在感と音量を最大にして麻生が叫ぶ。
「……ん、ボク達の歌を聴けーー!」
 麻生と入れ替わったユフォアリーヤはそう叫ぶと楽しげにすべての武装を展開する。
「俺達の眼から逃れられると思うなよー?」
 スキルにより放たれた弾丸が未だファリンと銀の方へと注意を向けていたゾンビの注意を麻生へと向けさせる。
「……ん、逃がさない、よ?」
 クスクスと嬉しそうに笑顔を見せてギターをかき鳴らすユフォアリーヤと姿を目まぐるしく変えながら麻生は幾つもの重火器をまるでハードロックの様に響かせ合い撃ち放つ。
 存在感を最大にした麻生とは逆にツラナミはその存在感を極限まで消していた。
 38に任した鷹の目の視界を生かして集団からばらけた数体のゾンビに静かに忍び寄ると他のゾンビが気付く隙も与えず三日月宗近の一撃でゾンビを仕留めていく。
 仮に気付かれたとしてもその動きは無駄がなく消音器を取り付けた15式自動歩槍「小龍」で確実に仕留め、別の集団が気付くよりも先に次のターゲットに接近している。
 その動きは効率的で無駄がなくまるでそのために作られた精密な機械のように見える。
 そんなツラナミを38は鷹の目の視界越しにじっと見つめていた。
『あはははは!! 雪! 一緒に歌えばいいぞ、恐怖が吹き飛ぶ!』
 塀の上でまるでコンサートの様にパラダイスバードを弾く麻生の姿に紫ノ眼はまたも喝采を上げていた。
「……歌、は、堪忍して」
 そう言いながらも銀は心の中で紫ノ眼に聞こえないように
『でもな狼、お前と一緒ならキミ悪いゾンビ映画もそんな怖くはなかったんや』
 そう呟いてヴァルキュリアからFantome V1へと持ち替える。
 黒色のどこか不気味な雰囲気を持つそのヴァイオリンから奏でられる静かな旋律が激しいパラダイスバードの音色と重なり墓地を満たしていく。
 それは葬送の曲となった。
「さぁ、もう業を背負うこともない」
「……ん、のんびりと、安らかに」
 麻生とユフォアリーヤがそれぞれに声を上げ
「『おやすみなさい、良い旅を」』
 二人揃った声が響き墓地を埋め尽くしていた最後のゾンビが打倒される。
「終わったか……」
 ツラナミは三日月宗近を鞘に納めそう呟くと38との共鳴を解く。
 周囲にもう敵の気配は感じられない。
「……忙しいんだよ、こう見えても。あー……くっそだる」
 その言葉とは裏腹にツラナミの動きには無駄がなくするりと塀を越えて向こう側の路地へと降り立つ。
 38も一度だけ集まる他のエージェント達に視線を向けると通信機の接続を切りツラナミを追って塀を越える。
 誰にも気付かれる事なく二人は姿を消していた。

●戦終わりて
 ゾンビの居なくった墓地を霧島は住職から借りた懐中電灯を手に確認して回っていた。
 骨壺だけでなく時折一塊になった骨壺の無い骨が転がっていることに気が付く。
 ぽっかりと空いた墓の中を覗き込むと奥に割れた骨壺が有るのが見えた。
「遺骨が憑代なのか?」
 疑問を口にして近くの骨壺を確認する。微かにまだ残る従魔のライヴスは遺骨の方に感じられる。
「墓の片付けもしねぇとな、流石にこのままってのは忍びねぇからな」
 麻生の声に霧島は立ち上がる。
「……ん、当然」
 麻生の横でユフォアリーヤが胸張って尻尾を振っている。
「復旧を手伝うというなら、私はその前にひと眠りさせてもらおう」
 立ち上がった霧島の言葉に
「片付けは夜が明けてからじゃな」
 住職が応える。
 そのすぐ側には共鳴は解いているが未だ警戒は解いていない百目木とシロガネの姿がある。
「やー、見事に荒れとりますなぁ。オヤジはん、そこ穴開いとりますえ」
 シロガネの言葉に百目木が足を止める。その目の前には戦闘で抉れた地面がある。
「えろう、災難でしたなぁ……」
 銀の言葉に住職は
「何、これだけで済んで幸いじゃ」
 そう言って寺の境内を見渡す。
 被害は墓地の中だけで他の場所は無傷である。
「さて、寝床と風呂ぐらいしか準備出来んが、良ければ休んで行ってくれ」
 皆にそう声をかけて寺の方へ歩き出した住職に堪え切れずと言った様子でファリンが声をかける。
 その様子をヤンは興味深そうに眺めている。
 ファリンは百目木の護衛があったとはいえ住職が墓地の側に居続けた事を気にしていた。
「住職様のご意志はお美事ですが、貴方に万一の事があれば遺された方はきっと悲しまれますわ」
 最後にそう言ったファリンの言葉に
「遺された者、確かにの……」
 そう呟くと住職はファリンに頭を下げる。
「その通りじゃな、どうにも昔の感覚がの」
 住職はそう言って自らの左側に視線を向ける。
 そこには誰の姿も無い。
「この歳になってまだ叱ってもらえるとは嬉しい事じゃな」
 住職のその言葉をヤンは興味深そうに聞きファリンへと視線を向ける。
「ところで御坊、事件の起きる前に何か変わった事など無かったか?」
 ファリンが住職に何か言うよりも先に遅れて墓地から出て来た霧島が声をかける。
「変わった事とな」
 記憶を手繰るように眉をしかめる住職が何かを思い出したように手を打つ。
 その手が人の肌とは思えぬほど青白く変わっていることにファリンが気付く。
「おかしな僧侶を見たのぅ。この辺りでは見ぬような若い僧侶じゃったが……」
 そう言って住職は首を傾げる。
「僧侶のような人影、ね……」
 その情報を確認するように麻生が言葉を繰り返す横で百目木は
「住職。長生きしてくれよ?」
 住職にそう声をかけていた。
「それ、おじいはんに言うたら喜びますよって」
 シロガネのその言葉にもう一人のパートナーの姿を思い浮かべた百目木が
「うるせえシロガネ」
 慌ててそう口にしたのに住職は
「言える間言っておかぬと後悔するぞ」
 そう言って先に立って寺に入り明かりをつけた。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • エージェント
    霧島 侠aa0782
    機械|18才|女性|防御



  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • Adjudicator
    シロガネaa1195hero002
    英雄|20才|男性|ブレ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 牙の誓約者
    銀 初雪aa4491
    機械|20才|男性|命中
  • 天儀の英雄
    紫ノ眼 恋aa4491hero001
    英雄|25才|女性|カオ
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