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【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】新たな君と歩む冒険

ガンマ

形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/15 19:14

掲示板

オープニング

●希望のニューフェース

「二重契約による、第二英雄の存在――」

 H.O.P.E.ブリーフィングルーム。
 エージェント一同を見渡したのはH.O.P.E.会長ジャスティン・バートレット(az0005)その人だった。
「新しい仲間との生活はどうかね? 上手くやっているかい」
 そう微笑むジャスティンの隣には、見慣れぬ少女の姿があった。彼女はエージェントと目が合うと、ニッと気さくに笑んでくる。
「よッ、お前ら。俺様はヴィルヘルムっつーんだ。なんだっけ、第二英雄? ってやつだよ、このオッチャンのな」
 可憐な外見に反して男っぽい物言いで、彼女――ヴィルヘルムはジャスティンを親指でさした。
「こっちに来てまだ全ッ然なにも分かんねーんだよな、アマデウスとかいう先輩英雄? に色々聞こうにもさ、アイツすンげー頭かってぇじゃん? なんかわかんねーけどすぐキレるんだよな、品性がないとかギャースカよぉ、俺様頭痛になっちゃうぜ」
 これっぽっちも悪びれず、ヴィルヘルムはヘラリと笑った。彼が言葉を区切った所で、ジャスティンが説明を再開させる。
「そういうわけで、今回は第二英雄と共に実際に依頼に赴く、ということがミッションだ。ああ勿論、第二英雄がいないエージェントの参加も歓迎だよ。
 ミッション内容としても、探索がメインの簡単なものだ。気張る必要はない」
 共に冒険をすれば、お互いの距離も近付くんじゃないかと思ってね。会長の言葉に、ヴィルヘルムが「確かに」と頷いていた。ジャスティンが今一度、エージェント達を見渡す。

「さぁ、新しい仲間と共に冒険の旅に出かけようではないか、エージェント諸君!」


●というわけで
 エージェント達はテーブルトークRPGのドロップゾーンに訪れていた。
 見渡す限り草原――だが、全てが大きい。草も花も木も石も。いや、正しくは自分達が小さいのだ。
 このエリアの元となったテーブルトークRPGは、小人であるプレイヤーが世界を冒険するというもの。それを再現したゾーンルールにより、エージェント達は20cmほどの小さな姿になっているのだ。

 さて、そんなエージェント達は草が開けた所にベースキャンプを設け。いよいよ任務の時間だ。
「このあたりはまだ未開拓のエリアだからね。諸君には、この周囲の探索とマッピングをお願いしよう」
 全員に白紙の地図が行き渡った頃合、ヴィルヘルムを隣にしたジャスティンがそう言った。そのまま言葉を続ける。
「それと、この周囲には霊石の花が咲いている。この小さな姿だと運ぶのが大変だろうが、二人がかりなら運べるさ。
 ……ん? 私もこの任務をするのか、だって? そうだよ、そのつもりでここに来たんだ。私とてエージェントだからね、たまには書類や会議以外と戦いたいのさ」
 冗句を一つ。真面目な話をすれば、ヴィルヘルムという新たな仲間にエージェントの仕事を体験させたいという理由があるようだ。
 なんて言いつつも、久々の現場だからか元から冒険好きなのか。会長の目はいつになく輝いていた……ような気がする。
「へー! これがドロップゾーンっつー奴かー! スゲー! ほおー! 冒険じゃねーか! おっしゃ俺様ちょっとあっち行って来るわッ ワーハハハー! フハハハハー!!」
 そしてそんな会長よりもテンション高いのがこの英雄、ヴィルヘルム。言い終わるより早く走り出してしまう。
「こらこらヴィルヘルム待ちなさい……。 おっと、エージェント諸君! くれぐれも迷子にはならないように! 日が落ちきる前にこのベースキャンプに集合するんだよ」
 走り出したヴィルヘルムを緩やかに追いかけつつ、ジャスティンは一同へと振り返った。

「それでは、諸君! ――任務を開始する!」

解説

ミッションタイプ:【エリア探索/霊石採掘/敵撃破】
このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●目標
 未開拓のエリアを探索する。
 第二英雄と交流する。

●登場
霊石花
 花状の霊石。タンポポより一回りほど大きいサイズ。エリアのあちこちにある。

ジャスティンとヴィルヘルム
 H.O.P.E.会長とその第二英雄。
 周辺を散策しています。絡みはご自由に(ただし手合わせは承諾しません)
 ヴィルヘルムはH.O.P.E.やエージェントについてまだ良く分かっていない為、心得や倒すべき相手などについてレクチャーしてあげるといいでしょう。
 ちなみにヴィルヘルムは外見こそ少女ですが、異世界では男性で現在も心はバリバリ男性なため、可愛い女の子が大好きです。

従魔
 虫や小動物の姿をした従魔。稀にいる。
(戦闘に関しては、プレイングで戦闘を希望する方にのみ発生します。強力な固体は出現しません)

●場所・状況
 PCは全員、20cm程度の小人のようなサイズになっている。
 全員に白紙の地図が支給されている。エリア内を歩き回り、地図を埋めていくことが任務。
 場所はありふれた草原。
 ただしサイズ的に、草を掻き分け、石を乗り越え、倒木の洞窟を潜り抜け……そんな大冒険となる。

 以下PL情報。草原内にあるもの。

・大きな水溜り
 水遊びにどうぞ。

・花畑エリア
 色とりどり。一面のいい香り。蜜も飲めます。

・NPCの虫や小動物たち
 蜘蛛の巣にひっかかったり、蜂の巣に近付いて蜂を怒らせないように注意。
 モフモフのウサギもいたりするぞ。

・川
 浅く穏やか。魚も居る。ただしサイズ的に釣るには一苦労するだろう。
 PCにとって水深があるところにいくと流されちゃうかも。注意!

・実がなる木
 美味しそうな実が生っているが、取るには木に登るか上手く射撃をする必要がある。

リプレイ

●小さくて、大きな冒険
「小さく、なっちゃったな……真昼……」
「ちっちゃくなりましたの、つきさま。でも、ふだんの景色とちがってしんせんですのっ」
 木陰 黎夜(aa0061)とその英雄、真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)はお互いを見やってから周囲の景色を見渡し――いや、見上げていた。
「おオゥ! ミニマム!」
 シルミルテ(aa0340hero001)の感嘆の通りである。小さくなったエージェント達、必然的に大きくなった周囲の景色。ただの草原だけれども、その葉はまるで木のようだ。
「……」
 はしゃぐ英雄、シルミルテに対してその相棒の佐倉 樹(aa0340)は何とも言えない表情をしている。これから起こるのであろう苦労を想像すると、重い溜息が口からこぼれる。

 一方で皆月 若葉(aa0778)とピピ・ストレッロ(aa0778hero002)は光景に目を輝かせていた。
「ワカバすごい、みんなおっきいよ!」
「俺達が小さいみたいだよ。さて、どこから行こうか?」
「うーん……あっちがいい! 冒険にしゅっぱーつ!」
 待ちきれないといわんばかりにピピが快活に駆け出した。「いくかー!」と若葉もその後についていく。

「白虎ちゃんのゆるキャラ化がますます進むな……」
 虎噛 千颯(aa0123)は小さくなった自らの英雄にそんな感想を漏らし、それから周囲を見渡した。知り合いがたくさん、そして知り合いの傍にはニューフェイスも。
「リュカちゃん~そっちの子は新しい子~? 平介ちゃんの子も?」
『木陰殿も愛らしい姿になっているでござるな。征四郎殿と同じ目線なのは斬新でござる』
 英雄の白虎丸(aa0123hero001)と共に友達へといつものフレンドリー。仲間達からは多種多様な、或いはいつも通り、もしくは初めましての返事がくる。
「新しく誓約させていただきました、凛道と申します。千颯さんと白虎丸さんですね。よろしくお願いいたします」
 深々とお辞儀をしたのは木霊・C・リュカ(aa0068)の第二英雄、凛道(aa0068hero002)だ。その調子で新たな知り合いへ丁寧な挨拶を。物言いは淡々としているが、人好きな生来。言葉を拒むことはない。尤も十三歳以下の子供に対しては挙動不審だが。
「この幼女崇拝信仰者め」
 紫 征四郎(aa0076)の英雄、ユエリャン・李(aa0076hero002)は眉根を寄せてバッサリと言い放つのであった。
 さて笹山平介(aa0342)もそんな『千颯の知り合い達』の一人だ。いつものニコヤカな相好で千颯に会釈しつつ、「よろしくお願いします皆さん♪」と知り合いの初めましてさんに挨拶を。
 その近くで仏頂面のまま黙っているのは、平介の英雄ゼム ロバート(aa0342hero002)だ。さて、任務であるが。
「面倒くせぇ……平介、お前が地図に書き込め」
「承知しました♪」
 ゼムの言葉に平介がシャキッと地図とペンを取り出した。出発である。ゼムの後ろをついていく。
「ワクワクするな!!」
「琳君が行きたい所へ行ってください♪ 私が地図に書き込みましょう♪」
 平介達についていくのは楽しげな呉 琳(aa3404)と、楽しげな琳を見て楽しげな英雄、藤堂 茂守(aa3404hero002)だ。

「ちっちゃくなって大冒険! 夢みたいだね!」
 同じように冒険へと逸る足で旅立ったのはナガル・クロッソニア(aa3796)。全てが彼女の興味をそそり、猫の耳がピンと立っている。もう既に目はきらっきら。
「いこうラヴィちゃん! 大冒険はここからだー!」
「あんまり急いではだめよ、ナガル。私がついていけないじゃない!」
 その後ろを、煌びやかな衣装と髪を靡かせラヴィーウ(aa3796hero002)が駆け足でついていく。その姿はまもなく、草を掻き分けていったナガルに続いて緑の中に消えていった。

「ウェーーイ冒険じゃあーーー」
「ヴィルヘルム、待ちたまえヴィルヘルム」
 同じようなことになっているのはH.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットと、その第二英雄ヴィルヘルムだ。
 その姿を見て、大宮 朝霞(aa0476)は驚きの声を上げる。リアクション的にはテレビで見る人を実際に目撃した者のそれに近い。
「わわっ! ジャスティン会長だ! テレサのお父さんだよ!」
 ほらほら、と肩を叩く相手は英雄の春日部 伊奈(aa0476hero002)。が、彼女はキョトンんとした顔で。
「朝霞ー、あのおっさん誰?」
「しーっ! 伊奈ちゃん、なんてこと言うの!」
 H.O.P.E.の一番偉い人よ! と慌てて説明しても「へー」と暖簾に腕押し状態である。
「大宮殿、春日部殿も来ていたでござるか」
 そこへ白虎丸が挨拶に。伊奈はギョッとしたような顔でまじまじとその英雄を眺めていた。
(うわ……。虎だよ虎)
「虎噛さん、白虎丸さん、こんにちは!」
 一方で朝霞は虎の英雄の能力者にも挨拶をしつつ、白虎丸の喉下の毛をもふもふもふ。ごろごろごろ。

「よっし、行こう! カスカ!」
「ぅ、うん……っ! 頑張ったりしたりする、よっ!」
 仲間達に続き、御代 つくし(aa0657)が英雄のカスカ(aa0657hero002)の手を引きゆるい速度で駆け出した。

「さあネリネ、今日はお散歩と思って楽しみましょう!」
「初めてのお仕事……緊張するなぁ」
 快活にスカートを翻す散夏 日和(aa1453)、対照的に英雄の恋迷路 ネリネ(aa1453hero002)は緊張した面持ちでマップをしっかと持っている。
「これをマッピングしていけばいいんですよね? 頑張ります!」
「ええ、よろしくね」
 初任務だからか強く張り切っているネリネに、日和は「ふふ」と微笑を浮かべるのであった。

「小さくなるだけでぜんぜん違う世界だね」
「いつもは見えないものが見えて楽しいです」
 志賀谷 京子(aa0150)とリディア・シュテーデル(aa0150hero002)は緩やかに歩き始めつつ、不思議な光景を見渡していた。
「霊石花、って気になるね」
「じゃあそれを探しに行ってみましょう!」
 軽快に歩調を速めるリディアに、京子も楽しげについていく。

「自然に囲まれたとこって、昔住んでた森思い出してちょっと懐かしい、なー」
 フィアナ(aa4210)は鼻歌を歌いつつ、ふらりと気ままに足のまま。
「ああ……こりゃあ何か起こりそうだ」
 フィアナの英雄、ドール(aa4210hero002)も楽しげな様子であった。が、ふらふら~と歩き出した相棒の姿にはつい声が大きく。
「っておい、あんまうろちょろすんな! 探すのめんどくせぇだろ!」
「あ。……頑張ってついてくの、よ」
 勝手にいなくなるとドールとっても怒るから……。コクッと頷いたフィアナは、のんびりとドールと共に歩き出すのであった。

「今回は探索任務だ。あちこち隈なく回って、霊石の花を集めて、穏やかに終わると良いな」
「リーゼ、穏やかに終わるのつまらない。惨殺、殲滅したい」
 白紙の地図から顔を上げた狒村 緋十郎(aa3678)の視線の先には、彼の英雄リーゼロッテ・シュヴェルト(aa3678hero002)が退屈そうな目をしていた。「まぁまぁ」と緋十郎はそんなリーゼロットの手を引いて探索に出かけようとして……。
「おい猿。リーゼの手に気安く触れるな。殺すぞ」
 この罵倒である。だが緋十郎はストイックなドMなのでいろんな意味で問題はあるが全く問題はないのであった。
「緋十郎ちゃんみっけ! って何してるの?」
 これには流石の千颯もコメントに悩む。と、その傍らで。志々 紅夏(aa4282)が千颯コンビに「こんにちは」と挨拶を。
「志々殿、こんにちはでござる」
「虎……」
 紳士的に挨拶を返した白虎丸に、ぴぃっと怯えたのは美門 優雨(aa4282hero002)だ。紅夏はそんな英雄に小さく苦笑を浮かべ。
「優雨、白虎丸はとても誠実な人で恩人なの。あんたが怖がる必要ないわ」
「え、優しい人、なの……」
 だったらご挨拶しないと、と数ミリだけ安堵した優雨はおっかなびっくり会釈を一つ。見慣れない世界に、見慣れない人。小心の優雨は気が気でない。
「お? また俺ちゃんの華麗なるフルオープンパージ見る?」
 だがホイッと間に入ってきた千颯のその言葉には。
「見るわけないでしょッ!」
「ひえええええごめんなさいごめんなさい」
 紅夏は赤面激怒し、優雨は泣きながら謝るのであった。
 全くもうと気を取り直し。紅夏はシルミルテを手招きする。
「これ、樹と食べて。この前カップケーキのお礼」
 手渡すのは紅茶のクッキーだ。貰ったままはよくないと思った為だ。隣では優雨が、知り合いゆえに怖気ずにシルミルテに挨拶をしていた。
 一方のシルミルテは。
「樹ーーー!」
 貰ったクッキーをムシャムシャーとしつつ相棒のもとへ嬉しそうに走り出して行ったのであった。だがあのムシャりペースなら到着した頃には完食していそうである。実際完食した。



●人も歩けば波乱万丈
 晴れやかな草原、麗らかな日差し。
 だがしかし。

「……」
「……」

 真壁 久朗(aa0032)とアトリア(aa0032hero002)の間に流れる空気は鉛のようだった。沈黙。静寂。足音だけ。二人とも饒舌なタイプではないから尚更だ。
 黙したまま、久朗は少し前を行くアトリアをチラと窺い見た。何か言おうと思って、しかし言うことが何も思いつかなくて、結局これまで通り。彼女の速い歩調についていく。そんな時間を気まずいほどに垂れ流した末、やはりこのままではいけない、久朗はどうにか重すぎる口を開いてみた。
「……こんな穏やかなドロップゾーンもあるんだな」
「どんな場所であれゾーンルーラーを消滅させれば良いだけです」
 ピシャリと言い返されてしまい、会話はデッドエンド。いつもこうだ。もう少しマトモに会話できるようにはなりたいのだが。
 久朗は考える。思い出すのはもう一人の英雄だ。彼が自分を変えてくれたように、自分を見守ってくれたように――アトリアが心を開いてくれるまで。辛抱強く。
「アトリは前の世界では何をしていたんだ?」
「ずっと、戦っていました。任務中に無駄話ですか?」
「無駄話から分かる事もある」
「酔狂なヒトですね」
 またもや会話が終わる。久朗が考え始める。そんな彼の思案を、アトリアは背中で感じていた。
 アトリアはかつて、激戦の中に居た。兵器として戦うことが使命だった。そのせいか、平和すぎるこちらの世界にて自分の役目を果たせず、それはアトリアに焦燥をもたらしていた。
 それに加えて――アトリアはまだ、真壁久朗という人間を掴めずにいた。彼はリアクションが淡白で分かり辛いのである。
 ゆえにアトリアは、久朗がどんな人間か試す為に敢えて辛辣な言動を取っていた。それでも彼は何度でも話しかけてくる。そしてまた束の間の沈黙がやってくるのだ。アトリアはふと、独りごちる。
「果たしてワタシに……戦う以外の事が出来るのでしょうか」
「アトリ?」
「何でもありません」
「そうか。……そろそろ休憩しないか」
「なぜ?」
「果物を、知り合いに分けて貰った。瑞々しい内に食べよう」

 それはウサギ型リンゴだった。

「口に合うといいのだが」
 贈り主である波月 ラルフ(aa4220)はふと呟いた。以前の依頼でホットケーキを作ってくれたお礼であった。手拭用にティッシュも添えておいた心遣いだ。
 そして視線を戻す。知り合いへ挨拶も終えて出発したばかりだ。そこには英雄の七文 アキラ(aa4220hero002)が、鼻歌を歌いながら先行している背中が見える。
「アキラ、楽しそうだな」
「楽しそう? うん、楽しい」
 初めての依頼、なんだかウキウキしちゃう。振り返るアキラは子犬のような笑顔だ。
「楽しいならいいと思ってな。……お前、何か焦ってるように見えるし」
 アキラの隣にまで足を運び、ラルフは言う。視線を前に戻したアキラは横顔のまま答えた。
「おにーちゃんにはそう見えるんだ」
「俺とファランが懐かしいって事は似たヤツと近しかったんだろう。そいつらとは違うかもしれないが、お前の敵じゃねぇってのは同じだと思うぜ」
「敵わないなぁ……うん、きっとそうなんだろうね。でも、おにーちゃんの言う通りだし」
 大きく感情を出すことはなく。しかし、嘘ではなく。言い終わっていくばくもなく、アキラは再びラルフへ、大きな瞳を向けた。
「そういえば、ファランおねーちゃんのことどう思ってる?」
「ファラン? 妹みてぇなもんだな。流石に命預ける以上対等だから妹とは違うが」
 アキラから聞かれるとは思わなかった――そう心の中で思いつつ。ラルフの返事に「へぇ」と、英雄は笑みに目を細めた。
「妹、かぁ。そうやって、僕達を対等に見てくれるおにーちゃんが好きだよ」
「そうか。こちらこそ」
 ふ、と笑ったラルフ。アキラは満面の笑みを浮かべた。
「ねえねえおにーちゃん、さっき渡してたフルーツってまだ余ってる?」
「ああ、俺達の休憩用にちゃんと用意してるが……もう休憩にするのか? 出発したばかりだぞ」
「食べたい時が食べ時なんだよ、おにーちゃん」
 英雄にそう言われ。しょうがないなと小石に腰かけ、ナイフでフルーツの皮を剥き始めるラルフなのであった。


「新鮮な景色ね」
 小さな視点。草の合間を歩きつつ、紅夏は口元を薄く綻ばせる。花も普段と違って見えるし、見かけたウサギももっふもふだし。
「自然の中自体が新鮮な気がする……」
 油断し過ぎない程度に緊張を保ちつつ、紅夏の少し後ろで優雨が答えた。
「優雨も憶えてないなりに新鮮なのね」
「みたい……」
 あは、とお茶を濁すような優雨の笑み。そこで一度会話は途切れる。となれば途端に気遣わしげに英雄の視線はうろつき始める。「私でいいの?」それは優雨が、紅夏へ常に抱いている思いだった。
「別に心配なんてしてないけど、話したいってのを拒んだりするほど冷たくないつもりだから、言いたい時に言ってくれれば聞かないこともないわ」
 そんな時だった。前を向いたまま、紅夏の言葉。優雨は一瞬目を丸く、それからくしゃりと笑ってみせた。
「……ありがとう」
「……なに、笑ってるのよ」

 文面だけなら素っ気無い、しかし柔らかな物言いだった。紅夏は続ける。紅夏はいつも滑舌良く凛と言葉を放つ。
「でも、その方がいいわよ。今を楽しみなさいよ。私の養母の受け売りだけどね?」
「素敵な養母さんだったのね。お会い出来なくて本当に残念だわ」
 我ながら当たり障りのない台詞だとは思うけれど、言葉はしっかりと聴いたのだ。いつか楽しめるようになりたいな。優雨はそう思いつつ、紅夏の言葉を脳内でそっと反芻した。


「第二英雄ねぇ……。俺自身がまだまだ駆け出しだからな。二人も養ってる余裕はねえな」
 至る所で見かける第二英雄とやらの存在。バルタサール・デル・レイ(aa4199)は鼻を鳴らした。
「二人も面倒を見るなんて、そんな甲斐性は無さそうだよね、どう見ても」
 からかうような物言いで、紫苑(aa4199hero001)。バルタサールは素っ気無く返した。
「お前みたいな面倒なのが増えたら、やってられねえよ」
「大所帯も愉しいかもよ。はじめから諦めずに試してみてもいいかもしれないよ」
 くすくす、紫苑は袖で口元を隠して優雅に含み笑う。見た目の雅さに反して揶揄に満ち満ちているが、バルタサールには慣れ切った光景。「気が向いたらな」と軽く返し、言葉を続けた。
「しかし、これまで受けた数少ない依頼で、小人になるのは二回目だな……何の因果か」
「その悪人顔が少しでも可愛らしく見えるような、天の計らいかもしれないね」
「うるせえな、少しは黙っとけ」
「次は巨人になる依頼を受けることになったりして」
 そんな英雄の言葉を聞き流しつつ、バルタサールは手元の白地図に視線を落とした。
「さて、今回はマッピングと霊石花集めか。面倒だな」
「仕事は面倒なものだよ。このまえ小人になった時は、ラジコンに乗って空を飛んだよね」
「ここにはラジコンは無さそうだからな。木が多そうだし、台車でも作るか? いっぺんにたくさん運べるだろう」
「いいけど、材料集めとか組み立てとかは全部きみがやるんだよね?」
 大変そう、と紫苑がわざとらしい。「手伝えよ」「応援しないとは言ってないよ」「お前な」なんて言葉のやりとり。その遥か頭上の青空を鳥が飛んでいった。紫苑はそれをふと視線で追い、
「自然が豊かだから、鳥とかに乗れるかもしれないよ。ただ生物だからラジコンと違って言うことを聞かなそうだけどね」
「靡かない女を落とすのは愉しいが、鳥じゃあな」
「せっかくの、てぃーあーるぴーじー? とかいう世界なんだし、世界観を楽しもうよ」
「ここはドロップゾーンだ、遊園地じゃないし、今日は休日でもない」
「……これはもしもの話だけど……」
「なんだ?」
「もしも僕が君の彼女なら今ので確実にフッてる」
「ああ、そりゃ最高だな」

 なんのかんの、会話と共に二人は探索を続けて行く。

 天野 心乃(aa4317)と麗(aa4317hero001)も、他愛もないことをポツポツと交わしつつ緑の中を歩いていた。だがしばしすればそれも途絶え、今は静寂。
「なぁ」
 静寂を破ったのは心乃だった。
「聞いていいか?」
「何でしょう?」
 麗が答える。心乃は前を漫然と見たまま、言葉を続けた。

「――まだ、戦わねーのか」

 心乃は麗の言葉を思い出す。初めて共鳴した瞬間。麗の在り方に。想いに。
(意識が。『私』が。持たな――)
「えぇ」
 凛、と麗の声が響く。心乃の意識を穿つ。

「『今はまだ』……貴方が耐えられないでしょうから」

 この身は■■。触れること交わること許さぬ。反論の間も与えず麗は流れるように言葉を紡ぐ。
「この牙が。この爪が。折れず揺るがぬ想いにて滾り絶えぬ裡なる焔が。貴方を切り裂き、焼き尽くす――『それ』は心乃、燻る『熱』を胸に抱く貴方自身で、よく、存じているでしょう?」
「……ッ、」
 奥歯を噛み締めることだけが心乃の返答だった。麗は薄く微笑む。
「だから……今は。心乃。どうか、その心のままに……強く在(な)って、下さいな」
 そしていずれ……。思いつつ。伸ばした指先で、麗は心乃の白い頬を撫でた。ややあって盛大な溜息が返ってくる。
「相ッ変わらずナニ言ってんのか……よく分かんねーし、このナリで言われても締まんねー」
 それに、だ。ピタリと心乃が立ち止まる。
「人のッ背中にィ……ッ おぶさって語る台詞じゃねーだろうが……ッ!? いいっかげんぐうたらすンのもたいがいにしろテメーで歩けや……!」
「……と、もうしばらくゆるりとさせて頂こうと思いましたのに」
 むぅ。言葉通りの状態。が、「あら?」と麗は顔を彼方に向け、ふんふんと鼻を鳴らした。
「って麗、まだ話は終わって――」
「何やら向こうから甘い蜜の香りが。霊石花とやらもたぶんあちらですわきっと! 丁度おやつの時間ですし、お腹空いては何とやらも言いますし、参りましょう」
 フンス。心乃の肩をべべべと叩く麗。幾度めかの溜息が心乃の口からこぼれた。
「あー……ったく。ホント好き放題かよ」
「えぇ。私、『我がまま』に在りまして」

 花の香りにつられて、歩いて行く彼方。

「カスカ! お花がいっぱいのとこ行ってみよー♪」
 英雄の紹介も仲間に済ませ、つくしはカスカを先導するように草を掻き分け歩いていた。目指すは花畑、危ない場所は後回し。今日はカスカとゆっくりしたいのだ。
「ぅ……危ない、から……ぼくも、一緒に……頑張る、よ……っ?」
 一緒に歩くと決めたのだ。カスカはつくしに歩調を合わせ、その隣に追いついて。手を伸ばす。二人で草を掻き分ける。

 するとまもなく。
 そこには色鮮やかな、そして『大きな』花畑が。

「「わぁ……」」
 嘆息が揃った。色彩。多彩。千紫万紅。思わず足も止まり、二人はただ光景に見とれた。
 だが――カスカの脳裏を過ぎるのは、つくしのもう一人の英雄だ。
(この依頼、ぼくが来て良かったのかな。……メグル、さん……いいのかな)
 メグルからこの一時を奪ってしまったような、申し訳ない気持ちになる。花が美しいほど、カスカの心がチクリと痛む。
(ぼくは、御代つくしさん……とメグルさんの、こと……邪魔したりしてない……かな)
 そっと、花に笑顔のつくしの横顔を盗み見る。俯いた。それから、カスカは声を絞り出した。
「……ぼくは……邪魔、じゃない……かな……?」
 言ってしまった。罪悪感だ。きっと迷惑な奴と失望されるに違いない。そう思うと視線がどんどん落ちていく。
 しかしカスカの予想に反して、つくしの声は優しくて明るかった。
「私は、メグルともカスカとも、一緒に歩いて行きたいなーって思うんだ」
 カスカが来てから時間は経ったが、つくしは知っている。第一英雄に対しては、まだカスカは怖気てしまっていることに。
「メグルと二人きりの時も楽しかったけど、カスカが来てくれて……家族みたいだなって思うから」
 だからそう言い切った。急がなくても、少しずつでいい。二人でこんなに楽しかったのだから、三人ならばきっと、もっともっと楽しくなる。
「いっぱい、楽しもうね!」
 カスカの手を握って。つくしは微笑む。それは、カスカにはどんな花畑よりも眩しく映った。
「……うん」
 温かい手を、握り返す。


「見よ! 従者よ! この見事な花を!」
 花園の中にペンギンがいた。いや実際はペンギンのような何か、Masquerade(aa0033hero001)だ。
「普段は余の足元でひっそりと咲いていた花だが、こうして眺めると中々に美しい姿をしているではないか」
 ふむ。マスカレイドは思う。小さくなることでこのような発見ができるというのは、良いことかもしれぬな。
「まぁ、余には敵わぬ美しさであるがな! はっはっはっ!」
「あー、はいはい、そッスね」
 まーた始まったッスね、と慣れた様子なのはDomino(aa0033)。
(まぁ、こうやって明け透けに物言う王様だから、制御しやすいってのはあるンスけどね) とりあえず、そこまで遠くに行かせないように……今日のドミノは探索という任務もしつつ、『王様』が迷子にならないように監視しなければならない。あー忙しい。
「良し! 更なる美しい花を求めて探検と洒落込もうではないか! もしかすれば、余に並ぶ花が見つかるかもしれぬぞ!」
「そッスねー」
 探検であるぞ! とマントを翻すカスカレイド。ドミノは棒読みで答えつつ、走り出そうとした背中に声をかけた。
「あ、王様。蜜取れたッスけどどうッスか?」
「む、献上品であるか?」
「みたいなモンッス」
「では頂こう!」
(相変わらずちょれーッスね、王様)
 詰んだ大きな花弁を受け皿代わりに差し出す蜜。どうやら王様のお口に合ったらしい。「更なる献上品を余に捧げよ」とのこと。
「はいはい、分かったッスよ。もーちょい採取してみるッス」
 調査からすっかり目的が移行してるッスけど、大丈夫ッスかね? まぁいいか。ドミノは草を掻き分ける。
 と、前方。ガサリと茂みが揺れて、シルミルテが顔を出したではないか。
「あノ……乗せテモらッテも良イデすカ?」
 彼女の視線の先にはマスカレイド。パンダクッキーを献上しながらのお願いだ。たとえ小さくなろうとも、王様の肩(?)の上に乗せてもらうことはシルミルテの夢だったのだ。そのために今回は第二英雄である姉に譲ってもらったのだ!
「許可する!」
 今のマスカレイドはご機嫌だったのだ。クッキーむしゃ。
「ありガとウごザイまス!」
 表情をパーッと花咲かせるシルミルテ。ぴょんとマスカレイドの体をよじのぼると、
「コっちに来テ見てドウ? 王様の好キなモノは何? ワタシはアナタが好きヨ!」
 嬉しさにはしゃぎきって質問攻め状態である。
「あー……」
 遠巻きに見守る樹はチラとドミノを見やる。完全に「うちの子がすいません」の目である。
「大丈夫ッスよ、むしろ王様がどっかいかねーので助かるッス」
 はは、とドミノは肩を竦めた。「うちの子がすいません」の目であった。
「まぁ、よろしくお願いします」と樹はお詫びも兼ねてクッキーを差し出して。それから、マスカレイドをもみくちゃにしているシルミルテに声をかける。
「シルミルテ、あっちに霊石花あったから。花冠作らない?」
「作ル! 王様に献上スる! 木の実も献上スル!」
「じゃあ探しに行こうか。探索もしなきゃだし」

 辺りは麗らかだ。

「若葉ちゃんイエーイ! 楽しんでるー?」
「イエーイ!楽しんでるよ、虎噛さんは?」
 若葉に千颯、友人同士の楽しげな声。
「うわー、トラさんだー♪」
 英雄側も同じく。ピピは白虎丸に興味深々、紹介されたら嬉しそうにもふもふもふ。
 周囲の満開の花のように、楽しい時間だ。
「でけーこんな視点になるのか!」
「千颯! この蜜はうまいでござるよ!」
 目を輝かせて周囲を見渡す千颯、蜜が飲める花を持ってくる白虎丸。
「これ美味しいよ!」
 ピピは英雄の行為を見て、「綺麗に咲いてるね」と光景に目を細めていた若葉にも同じ花を持って行く。


「はいっ、ドールにあげるの」
 にこ。フィアナは大きな花で作った大振りの花冠をドールの頭に被せてあげた。「おー、」とドールは何とも言えない表情だ。なんだかこう、こそばゆい心地なのである。
「フィアナのがまだ似合うだろ」
「わ」
 ぼすっと被せ返された花冠。視界を覆うほどのそれを持ち上げ、フィアナの機嫌は良い。
「折角綺麗な場所だし、ドール。お歌、歌ってくれない……?」
「あんませがむんじゃねぇよ、歌わねぇっつってんのに……」
「ドール、お歌とっても上手なの、よ」
「ああくそっ、分かった分かった! しっつっけぇなお前!」
 しょうがねーなと咳払い。そして紡ぎ出される歌声は、まるで天使の如く――。

 それに引き寄せられたのだろうか。
 ひょこ。ウサギが一羽。

「あ……これ、おいしい……」
「つきさまがうれしそうで、まひるもうれしいですの」
 その近くでは、花の蜜を味わっていた黎夜と、甘いものが苦手ゆえにその様子をニコヤカに見守っている真昼。
 そんな二人がウサギに気づいたのはまもなくだ。ハッとして視線を合わせる黎夜と真昼。決断は一瞬。二人してウサギに飛びつく。
「もふもふ……!」
「うさぎさんですのっ」
 真っ白もふもふ。温かいモフに埋もれる。ウサギは逃げる様子もない。そのままもふもふしつつ……黎夜は英雄へ声をかけた。
「真昼は、エージェントの生活、慣れた……?」
「はいっ。この前の初めての依頼、楽しかったですの! まだ、ほんかくてきな戦闘はしておりませんけど、つきさまと一緒なら、どんな依頼もきっと楽しいですのよ」
「そっか……。あいつとも、上手くやれてそうだし……」
 弾む返事。第一英雄を思い返しつつ、黎夜は続けた。
「苦しいことも、あるかもしれねーけど……でも、二人なら、大丈夫、だよな……」
「もちろんですのよ!」
 と、その時だ。「あ」と真昼が向こうを指差す。
「つきさま。あれを」
 指の先には霊石花。ライヴスにほんのり光っているのですぐに分かった。あれの採集が任務ゆえ、泣く泣くウサギから離れた二人はそこへと向かう。
 霊石の花、というだけあって中々に重厚だ。協力して手折る。想像以上に重い。
「せーの……」
「少しおもたいですの」
「重たい……な……がんばろ……」
「はいっ」
 ゆっくり歩き出した。向こう側には水辺がある。泳げないし水辺に霊石花を落としたくないし。近付こうとしない黎夜の一方、真昼は遊びたそうにそわそわっとしているのであった。
(運搬が終わったら、つきさまにおねがいしてみようかしら)


「ちょっと遊んでいきたい、なー」
 一方、フィアナは水溜りとドールを交互に見ていた。
「へぇ、水溜り、ねぇ……ああそうだな、遊んでくかー」
 にっと笑うドール。何も知らずに靴を脱いで水遊びを始めるフィアナ。ソロリ。ドールはその死角に回り込むと。

 ばしゃー。

 水かけアタック。
「ひゃっ……!?」
「気付かねぇ方が悪ぃんだよばあああか!」
 ばしゃしゃしゃしゃ。するとフィアナも反撃に出て、二人はひとしきり――そう、濡れ鼠になったのであった。楽しげな笑い声が響く。
「えへへ、楽しい、ねー。ドールは楽しい?」
「……まぁ、悪くはねぇな 」
 だがその時だ。フィアナの足元の水面、無残に浮いているのは……所々描き忘れた地図。
「……は、任務……!」
「おいインク滲んでるぞ! 乾かせ早く!」
 急に忙しさを帯びた二人の一時であった。


「契約して一ヶ月近いね。もう、あたしとユリナは親友みたい♪」
 小石に腰かけ、成分と安全を確認してから花の蜜を味わいつつ。ウィリディス(aa0873hero002)は、隣に腰を下ろしている月鏡 由利菜(aa0873)へ甘えるようにもたれかかった。
「そ、そんなにくっつかないで、リディス」
「だって……、」
 恥らうような苦笑を浮かべた由利菜に。ウィリディスは、体を預けたまま静かな笑みで言葉を続けた。
「あたしの記憶には最初からユリナの本名があった。ユリナの反応を見た時、運命みたいって思った」
 篠宮クレア。それは由利菜の、一部の者しか知り得ぬ本名。蜜を飲み終えた大きな花を膝の上に、ウィリディスは語る。
「それに、ユリナの同級生の話を聞いて……あたし、その子と関係あるんじゃないかって」
「……英雄は普通、生前とは別の世界に現れるものよ?」
「わ、わかってるよ。でも『普通は』だから、完全否定はできないでしょ?」
 前例がないから未来永劫それは起こり得ない。そんなことは断言できないのだ。ウィリディスがぴょんと立ち上がる。「次、あっち行ってみよ!」と軽い足取りで歩き始めた。
「リディス、進みすぎてはぐれないで頂戴ね」
 そう制しつつ、由利菜は地図を手に英雄へついていく。他エージェントと地図の完成状況を連絡しあい、効率も忘れない真面目さだ。

 そうして進んでいると、だ。

「ユリナ、見て!」
 ウィリディスが彼方を指差す。何事かと由利菜が見やれば、そこには大きな――小さいからこそ尚更大きく見える木が。枝には小さな赤い実が付いている。
「しょうがないわね」
 由利菜は英雄の期待するような眼差しを受け、共鳴――その姿を麗しき聖女に。弓を引き絞る。
「あの人に教えて貰ったヴァニル騎士戦技の弓技なら……!」
 放たれた矢は無駄なく枝を打ち抜き。落ちてきた実を受け止めれば、共鳴解除だ。
「……あの人とうまくやっていけそう?」
 弓の教師、第一英雄を思い出し。由利菜はウィリディスに問う。英雄は明るく微笑んだ。
「大丈夫だよ。ちょっと厳しいけど……あたしのことちゃんと考えてくれてるし。それに、今の名前を付けてくれたのもあの人だしね」
「そうね……よかった」
 その笑みに、由利菜は安堵の笑みを返すのであった。


 マッピング、霊石花採取。平介組、琳組の探索は順調だった。
「女の子は花が好きなんだぜ!? 知ってたか?」
「知りませんでした♪ 琳君は物知りですね♪」
「へへっ」
 という琳と茂守のやりとりが平和に響くそこは花畑。現在四人は小休止中だ。
「花の蜜か……初めて飲むな……」
「琳君、ほら、甘いですよ♪」
 一抱えほどある花をまじまじと眺めている琳に、茂守が手本を見せるように蜜を飲んでいる。
 隣では平介が、同じようにゼムへ蜜を勧めていた。
「甘いですね♪ ゼムもどうですか?」
「貸せ」
 と言いながら半ばヒョイとその手から花を取り、飲むが。
「甘ぇ……」
 深くなる眉間の皺。と、ゼムは視線を感じてそちらを見やった。琳――花の蜜で口の周りがベタベタになったので茂守に拭かれている――だった。
「ゼムは良い人だな!」
 ニカッと笑う琳は見ていた。平介が地図に書き込んでいる間、ゼムがちゃんと足を止めて待っていたり、自分達の手伝いをしてくれたり。
「俺は良い人じゃねぇよ……」
 視線を逸らすゼム。
「おー! 琳ちゃん! 楽しんでるー?」
「藤堂殿も一緒であれば心強いでござるな」
 そこへ通りかかったのは千颯だ。穏やかに琳とゼムを見守っていた茂守が、二人に会釈をする。
「えぇ、何かあれば直に対応しましょう♪」
 さて近くに見えるは水溜りである。千颯が得意気に身を乗り出す。
「ここは必殺のフルオープンパージだぜ!」
「させるかでござる!」
 隙あらば脱ごうとする千颯。なんでコイツすぐ脱ぐんだ……ゼムが溜息を吐く。
「平介止めろ」
「白虎丸さんがなんとかして下さいましたね!」
 そのようである。しかし、賑やかになってきた周囲。ゼムはそういう場があまり得意ではなかった。ふらりとその場から離れようとして、
「ゼム、一人で行動は……」
 平介に手をそっと掴まれる。
「平介、お前が掴まなきゃいけない相手は俺じゃねぇ……」
「……」
「分かってんなら手を離せ」
 言いつつ柔く手を引けば、平介の手はするりと離れた。ゼムは歩き出す。平介がその少し後ろを付いてくるが。

 するとまもなく見えてきたのは実のなる木だった。

「平介、撃ち落とせ」
「やってみます♪」
 言葉終わりには無形の影刃。飛ばされる影の斬撃が、見事に実を落とす。ゼムがそれを受け止める。そして徐に齧ってみるが。
「……かてぇ」
「まだ熟しきってなかったようですね」
 苦笑して、それから――平介は、ふと瞳を細めた。
「ゼム、君のおかげで少しは覚悟が決まったよ……」
「……お前は本当に、この世で生きるには向いてねぇな」
 お前みたいな奴ほど英雄だったらよかったのかもな――それはゼムの心の中だけの声。目を伏せ、後ろの物体に背を預け……モフ。モフ? 岩かと思ったそれは、ウサギ。
「平介……こいつらを何とかしろ……」
 と、モフに埋もれつつ視線をやるが。
「へーすけ! 今のカッコよかったぞ!」
 駆けて来た琳、「どうもです♪」と平介。ついでに千颯達もやってきて、木を見上げ。
「白虎ちゃん肩車だ!」
「それで取れるでござるか?」
「届かない……かな?」
「……はぁ……これだから千颯は……」
「なにそれ! 酷い! 」
 わちゃわちゃしつつも肩車をして更にわちゃわちゃ。
「ちはや! 頑張れ!」
 琳はそんな友を応援しつつ。楽しい一時だ。笑顔の少年に、茂守もニコヤカに隣で佇んでいる。
 ふと、琳は自らの英雄を見上げた。
「茂守は前に居た世界の事……覚えてるか?」
「えぇ大体は♪」
 淀みなく返答。実際、思い出せないことは自分の敵が誰だったのか、ぐらいのようなものだろう。忘れたことを忘れていなければ。
 自分を愛してくれた女を自身の手で殺めたこと、その際に力を借りたのが主のゼムであり、自身はゼムに殺されたこと――それは笑顔の裏の内密だけれど。
「そっかぁ」
 琳はじっと、茂守を見ている。何の疑いもない無垢な瞳で。
「俺も記憶がないから一緒に思い出せたら……」
 大好きだからお礼もしたい。いつだって琳の言葉は裏表などなく真っ直ぐだ。記憶がないからこそ、全てを真っ直ぐ受け止めている。
「そうですね、一緒に」
 茂守はやはり笑顔だった。だが琳に向けたそれは仮面の笑顔などではない。そっと手を握る。握り返す小さな指の温度は、花よりも心地よかった。

「ナガルちゃんだー! ギャンかわー!」
 一方、木登り最中の千颯は向こうに見かけた知り合いナガルへ手を振った。
「ぎゃんかわ……? はっ! 白虎丸さんも縮んでる!」
 ナガルは手を振り返す。憧れの知り合いをそっと遠くから眺めたり、第二英雄を連れてきた者には「新しい英雄さん!」と挨拶をしたり。
 知り合いに冒険に。なんて楽しい。時間が足りるだろうか? いや、それでもこのまっさらな世界を絶対に回りきってみせる!
「こんな広い処に出られるなんて、いつぶりかしら……」
 対照的にラヴィーウはゆっくりと一時を楽しんでいた。そんな調子だから、ふとナガルへ目を戻すと彼女が随分先に居ることがなんとも多々。
「あっ、ちょっとナガル! 私を置いていくんじゃないわよ! ……なにしてるの?」
「ちゃぷちゃぷしてた!」
 駆け寄った先のナガルは靴を脱いで、川のほんの浅い場所で足首まで浸していた。
「そう。地図を水に落とさないでね?」
 はーい、とナガルが答えた瞬間だ。すぐ近くで急に魚が跳ねる。「にゃッ」とビックリするナガル。尻尾の毛がブワワ。文字通り水辺から飛び出した。
 だが、少しもすればまた別のことに好奇心に火が灯り、ナガルは軽やかに草原を歩き始めるのだ。
 ラヴィーウはそれに速めの歩調でついていきつつ――見ているだけで楽しくなってくる。今はといえば、猫の運動神経で木にどんどん登っている。どこまで登るつもりなんだろう? ラヴィーウがそう思ってみていると。
「……ラヴィちゃん、降りられない……」
 猫特有のアレ。
(ああもう、降りられなきゃ意味ないじゃない! 全くあの子は!)
 溜息。苦笑しながら、手を伸ばした。
「ナガル、私に捕まりなさい。下まで降ろしてあげるわ」


 花畑を抜けて。若葉とピピは草原をゆく。小さな、しかし大きな石を、運動が苦手なピピの手を若葉が引っ張り共に上った。見晴らしのいい場所で、協力して地図に書き込みを行っていく。
「ワカバみてー!」
 にぱにぱと嬉しそうに書き込んだ地図を見せるピピ。丁寧に書き込んでいる若葉と対照的に、小さな子のお絵かき状態である。
「お、上手だね。絵描くの好きなんだ?」
「うん、すきー!」
 楽しいのならなによりだ。そっかそっかと若葉は微笑む。と、ピピが向こうを指差して。
「ワカバあれみて! おっきぃ木……あ、あそこ何かあるよ!」
「登るのは……大変そうだね」
 若葉もそちらを確認してみれば、なるほど巨木。赤色の実も見える。ならばと二人は共鳴――その姿は大人びたピピを思わせる。
「白鷺!」
 名前を呼んで手の中に具現する槍。投げ放たれるそれはまるで光の鳥のよう。的確に枝を撃ち抜き、実を落とすことに成功する。

 入手した実はナイフで切り分け半分こ。たくさん採って、仲間達と分けるのもいいかもしれない――そう思いつつ、若葉はほっぺたをいっぱいに木の実を食べているピピを微笑ましげに見やった。
「いっぱい食べられてしあわせ~」
「よかったよかった。……ピピ、こっちの世界はどう? もう慣れた?」
「ボク、ほんとは今くらいの大きさだったんだよ。みんなとお話できるようになったし楽しい! ごはんも美味しいし……でも、空飛べなくてちょっと残念なの」
 そのまま、ピピは覚えている範囲で異世界でのことを語り始めた。擬音が多目の身振り手振り。麗らかな空の下、楽しげな声が弾む――。


「本当、おとぎ話みたいな世界ね! わくわくする!」
「そうだな。油断はできないが……」
 清原凪子(aa0088)は多々良 灯(aa0054)と共に探索を行っていた。リーダー格と信頼している灯が一緒で、凪子の足取りも快活だ。ピクニック気分も忘れずに、マッピングも協力して頑張って。
 そんな二人に挟まれて――はぐれたりしないように守る為だ――白いもふもふ尻尾をふりふり振っているのはむすび(aa0054hero002)と白詰草(aa0088hero002)。
「おさんぽ依頼もふ~♪ 楽しいもふ~♪」
「おでかけうれしいもふ!」
 二人(二匹?)は楽しげだ。

 四人は仲間達とは違う方向へ足を伸ばし、地図をしっかりと埋めていた。霊石花の場所も広く把握し、戻る際に回収する心算である。
 今はちょうど、花畑を過ぎつつあるところだ。

「お花いっぱいもふ~蜜美味しいもふ~」
「あまいものたべられる? わぁい!」
 むすびと白詰草は蜜蜂のように花に顔を突っ込んで蜜を飲んでいる。と、顔を花粉まみれにしたむすびがふと。
「これは近くに蜂蜜もあるもふね!? 相棒、蜂蜜とってほしいもふぅ」
「蜂蜜はこの状況では無理だな……小さい体で蜂に襲われたら一大事だ」
 灯はむすびの顔の花粉を拭いてやりながら、片手間に「念のため」と地図に書き込みを行う。
「仕方ないもふね~帰ったらあったかい蜂蜜牛乳で手を打つもふ!」
 むぅと口を尖らせるむすび。その隣では、同じく顔が花粉まみれになった白詰草の顔を拭いてあげている凪子。
(蜂蜜もいいけど、ツツジみたいなお花から直接蜜をとれないかなぁ……)
 なんて考えていると。「シロもフキフキしてあげるもふ!」と白詰草にほっぺをむにむにされたのであった。
「あの木の実おいしそうもふぅ」
 一方でむすびの興味は早くも別の所に移っていた。見上げているのは木の彼方、赤色の実。「ふむ」と灯もそれを見上げる。そして徐に木に手をかけつつ、
「小学生の頃登り棒の鬼と呼ばれたものだ――うおおおお燃えてきたぜ!」
 クールな表情とは裏腹に、灯とて17歳の立派な男子高校生なのだ。
 すごいもふ! すごいもふ! と目を輝かせる英雄二人。「木の実、大きすぎても大変だから気をつけて……!」と凪子はハラハラしながらそれを見上げていた。

 というわけで、無事に木の実もゲットして。
 ここらで休憩、一休みだ。

「わたしはおはぎを持ってきたの。皆で食べたらおいしいかなって」
「きのみもたべたいけど、おはぎはもーっと好きもふ!」
 凪子がおはぎを広げると、白詰草のしっぽの速度が倍増した。
「わあい、いっぱいもふー! いっぱいたべちゃえるもふ!」
 早速と言わんばかりに、ほっぺをいっぱいにしておはぎを食べ始める白詰草。凪子はニコニコしながら見守りつつ、英雄の口周りについた餡子を拭いてやる。
「おくちのまわり、あんこついてるもふ? なぎこおねーちゃん、ふいてくれてありがともふ!」
「ふふ、どういたしまして。シロちゃんはこの世界楽しい?」
「いざよいくんもやさしいもふ。シロ、みんなだいすき! 」

 一方で灯はむすびに、誓約であるおむすびを与えていた。今回は甘い味噌だ。
「リーフと仲良くやれてるか」
「リーフのおねえちゃんとっても優しくて好きもふよ~美味しいお料理食べさせてくれるもふ~」
「この世界に来て困ってる事はないか」
「困ってる事は特にないもふ!」
 おむすびを嬉しそうに食べながら、むすびは笑顔だ。「そうか」と灯は英雄の頭をモフモフモフ。

 と、その時だ。茂みから現れた、うさぎ。

 ハッ、と一同の動きが止まる。
(もふもふしたい……!)
(もふもふうさぎ……もふもふ……)
 奇しくも灯と凪子のアイコンタクトは同時。これはもうもふるしかないな。
「うさぎよりもふの方がもふもふもふよ! 」
「もふ!」
 むすびと白詰草が訴える。
「大丈夫、二人共もふもふよ」
「しょうがない、全部もふるか」
 灯の提案で、能力者二人は英雄とうさぎの両方をもふることにしたのであった。何の為に手が二本あると思っているんだ!


「一緒にやる初仕事だね。よろしく文菜さん♪」
「へぇ。うちの方こそよろしゅう」
 差し出されたアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)の手、八十島 文菜(aa0121hero002)はニコニコ笑顔でキュッと握り返して。
 瞬間だった。その手が離れたかと思うと、文菜はスナイパーライフルを構えているではないか。流石のアンジェリカもこれにはビックリだ。
「何? 敵!?」
「ちゃいますえ。望遠鏡代わりどす。何や美味しそうな木の実がありますえ」
 スコープから目を離し、笑顔のまま「あっちどす」と指でさす文菜。「脅かさないでよもう」とアンジェリカは肩を竦めた。

 折角なのでと木の実を目指して歩き始めた二人。文菜はしゃらりとした和服ゆえに少し動き難そうだ。ゆえにとアンジェリカは彼女に手を貸しつつ、小さくて大きな石を乗り越えたり、木の下の隙間を潜り抜けたり。

「大冒険どすなぁ」
 文菜は穏やかな笑顔のままだ。アンジェリカは英雄を見上げる。ちょうど顔を上げれば見えるのは……なにかとたわわに揺れる女体の神秘。思わず問うた。
「……マルコさんに変な事されてない?」
「何や毎日飽きもせず言い寄ってきはりますわ」
 クスクス面白そうに答える文菜。あのエロ坊主! アンジェリカは脳内で舌打ちをしつつ。
「そ、それって大丈夫?」
「ちゃんとうちが不快にならんギリギリのラインは守ってはるみたいですえ。でもアンジェはんの教育にはよろしゅおへんなぁ」
 思案顔。おっさんしばらく酒禁止! とアンジェリカは心に決めたのであった。
「着きましたえ」
「はっ……ほんとだ。でも高くて届かないね」
 ならば。練習がてら共鳴して撃ってみよう、という話になり――そこには大人びた少女の姿。和ゴス衣装のそれが、二人の共鳴姿。
 細腕でスナイパーライフルを羽根のように軽く構え。銃声二発。落ちる木の実二つ。
「うん、相性はいいみたい♪」
 快調。共鳴を解けば文菜がナイフを手に、「剥きますえ~」と手際よく木の実の皮をリンゴの要領で剥いていく。が。なぜか皮にドクロの彫刻。
「す、凄いけどなんでドクロ……?」
 普通ウサギだよね。首を傾げるアンジェリカ。なお木の実は普通に美味しかった。
「食べ終わったら、そこにあった霊石花を回収して戻りまひょ」
「え、いつのまに見つけてたの!?」
「いつのまにどす~」
 クスクス、文菜は楽しそうに笑っていた。


「ふふーふ、どう、皆楽しそうにしてる?」
「ええ、つい先日会ったばかりの方々とは思えないくらいは」
 リュカと凛道はのんびりと探索していた。マイペースに歩きつつも、仲間達と連絡をとって効率よく探索をしている。
 その隣、リュカと手を繋いでいるのは征四郎だ。リュックサックでピクニック気分、空いている方の手でカメラを持ち撮影をしている。
「後で一緒に見たいですしね」
 撮れたものを確認している征四郎、「上手く撮れたか?」とユエリャンがそれを覗き込んでいる。なおその姿はやや露出度の低いチャイナドレスにサングラス、更に日傘と紫外線対策はバッチリだ。「美しさを保つには努力が必須であってだな……」とのこと。
「せっかくだし色んな人とお話しできるといいねっ」
 そんな二人にリュカがそう言った、まさにその時だ。
 ガサッと茂みから出てきたのは、ヴィルヘルムとジャスティン。
「お? なんだ? 敵か? 味方か?」
「ヴィルヘルム、彼らはH.O.P.E.のエージェントだよ」
 やあ、とジャスティンが気さくに挨拶をしてくる。リュカはそれに微笑を返した。なんたって会社の一番お偉いさんだもんね!
「ふふ。初めまして。ジャスティンさん、ヴィルヘルムちゃん」
「おーよろしくなッ。そっちのお前はなんつーんだ?」
 と、見やったのは征四郎達の方だ。ユエリャンが二人分名乗り、それから優美に微笑んでみせる。
「女児だろうが男児だろうが、美しく生まれたのだ。それを楽しむのは権利であり義務ぞ」
 そう言って、ヴィルヘルムの髪にそっと花を飾り。
「友好の証に、だ」
「ウメーなこの花。ありがとなッ」
 だが無残にもムシャられたのであった。ジャスティンが苦笑とともに肩を竦めていた。一方でヴィルヘルムは征四郎と早くも打ち解けた様子で。
「どっちがいっぱい探索できるか、競争なのです!」
「おういいぜ! んじゃあそこの岩までダッシュなッ」
 わーっと走っていく二人。必然的に残された面子も走って追いかけねばならないのであった。
 だがそのダッシュも唐突に終わる。なぜならば、ウサギが現れたからだ!
「かわいいのです、ぎゅーってするです!!」
「これはなんと愛らしい!! もふもふだな、すごくもふもふだな。ふふ、そしてとても利口だ」
 征四郎コンビホイホイと化したウサギ。ウサギのモフに埋もれる二人。なでなでなでなで。

 リュカはそんな和やかな様子を笑いながら聞きつつ――傍らにいる凛道へと、声をかける。
「どう? こっちでの暮らしには慣れてきた?」
 凛道はリュカを見やった。それから困ったように首を傾げる。
「まだわかりません、が……お話するのは、楽しいです」
 ややあってぽつぽつと呟かれた言葉。リュカはその言葉を、目を細めて――まるで見えているかのように、穏やかな表情で聴いていた。

 一方。ひとしきりウサギをもふった後、ユエリャンと征四郎はウサギに背を預けてお弁当を食べていた。
「こっちの世界はどうですか?」
 慣れてきたか、困ったことはないか。見上げる征四郎に、英雄は。
「我輩の元の世界はこことそう変わらぬ感じだ。当時は病弱ゆえ外に出ることも叶わなかったが、今は幾分良いな」
 空を見上げる。広い空だ。ユエリャンはそれを見つめる。
「生きている、感じがする」
 そう答え。そして征四郎が何かを言う前に――通りかかった知り合い、フィアナ達をちょいちょいと手招いた。いつもの笑みを浮かべて。
「嬢は兎は好きか? 可愛いであるぞ」


 うさうさ。一方これは別のウサギ。
 ウサギの背に華麗に乗ったリディアを見、京子は「わぁ」と表情を華やがせた。
「リディアは兎に乗った騎士だね。かわいいよ」
「馬に乗るのは得意だったんですよ。うさぎさん、馬よりずっともふもふです」
 えへ、とリディアは嬉しそうにウサギに抱きついた。そして京子はリディアに手を引かれ、同じようにウサギに乗ってみる。
「わぁ、ふわふわ……!」
「最高の乗り心地ですね! でも落ちないように、掴まってて下さいね」

 それからはのんびりと。ウサギのまったりした歩調に合わせて流れる景色。京子は前のリディアの腰に手を回して掴まって、一帯を見ている。一通り――それから、英雄へと言葉を。

「リディアはすっかり馴染んだよね」
「まかせてください、ばっちりです!」
「うんうん、頼もしいな」
 とりとめもないやりとり。と、珍しくリディアが苦笑を浮かべた。後ろの京子には見えないだろうが。
「……でも京子姉さんとアリッサ姉さんは、何も言わなくても息がぴったりあってます。わたしはまだまだだなって」
「リディアともすぐにそうなれるよ」
「む、がんばります!」
 リディアは意気込む。表情を引き締め、前を向き直した。
(京子姉さんたちに、今はまだ守られているんだと感じます……。でも本当は、わたしが守りたいんです。いつか、きっと……!)
「ねえリディア」
「はいっ!」
 張り切った返事。振り返れば京子が彼方を指差している。「霊石花だよ」と。
「取りに行きましょう! うさぎさん、ありがとう!」
 ならばとウサギから軽やかに降り立つリディア。京子に手を貸して降りるのを手伝い、ライヴスに煌く花の下へ。少し力を込めればそれはパキリと根元から折れた。
「よいしょっと。二人で頑張れば運べるかな? リディア、そっち持ってくれる?」
「はい! もちろんです!」


「朝霞、アレそうじゃねーか? ほら、さっきおっさんが言ってた霊石花とかいうの」
「ホントだ。アレを持って帰ればいいのね」
 別の地点、朝霞と伊奈も霊石花を発見していた。「重そうだから帰り道でゲットしよう」ということになり、二人はもうしばし先を進むことに。

 かくして辿り着いたのは。

「川だ!」
「川だね」
 二人は顔を見合わせる。
「朝霞、泳ごう!」
「伊奈ちゃん、……いま十月だよ!?」
「大丈夫だって! 世の中にゃ二月に海水浴に行く連中もいるらしいぜ!?」
「まっさかぁー。まぁ、仕方ないなぁ。こんな事もあろうかと、服の下に水着を着てきました!」
「私も! こんな事もあろうかと」
 バッ。服を脱ぎ捨てる二人。その下にはなんと水着が! 十月だというのになんて用意周到なんだ!
 そこからはもうキャッキャウフフである。青空水辺に水着女子が楽しそうに水をかけあいっこして遊んでいるという、無敵のフルコンボである。
 もちろん魚を見たり、浅い所を泳いだり。二人のキャッキャウフフはしばし続く……。


「どうだ、少しはエージェント生活にも慣れたか……?」
 緋十郎は離れた場所を気ままに歩くリーゼロッテへ声をかけた。
「リーゼ、神月の砂漠の戦いから、ずっと魔剣の中から始祖様と猿、見てたの。だから身体を持てて、始祖様とお話できるのは、嬉しいの」
 振り返らないがその物言いは言葉通り嬉しげだ。が。「でも」と言い、ギッと振り返るその睥睨は血塗れた刃のようで。
「変態猿が始祖様の伴侶なのは、納得いかない! いいか猿、始祖様を大切にしろ。悲しませたら殺す……!」
「分かってる、当然だ」
 ゾクゾクとした恍惚感のままに答える緋十郎に、リーゼロッテは舌打ちを隠しもしない。
 しかしその不機嫌も束の間だった。従魔の蜂の巣を見つけた英雄は途端に瞳を輝かせ、わくわくとした様子で振り返る。
「おい猿、従魔だ。ふふふふ虐殺、殲滅、蹂躙……!」
 緋十郎が言葉を返す前に。言葉が終わる前に。リーゼロッテは緋十郎を力尽くで押し倒していた。共鳴――そこに残るのはリーゼロッテの姿のみ。暴走形態だ。
 ケタケタ。狂喜に笑う少女は振り返りながら周囲に魔剣《闇夜の血華》を大量に複製して見せた。禍々しい血色の巨刃が暴風めいて荒れ狂い、巣に次々と突き刺さる。
 すると不快な羽音を鳴らして飛び出だしてくるのは大量の蜂だ。針の一撃を、複製した魔剣で防ぎ弾き。
「なんてチンケなのかしら。もっと足掻けよ!」
 哄笑。空から大量の魔剣、赤い雨が降る。

 緋十郎が気付いた時には共鳴は解除されており。通りかかったジャスティンが「大丈夫かね?」と心配そうに聞いてきた。大丈夫だと彼は答える。それからぽつぽつと話すのは――、
「なぁ会長。愚神との共存……など、やはり、夢物語だと思うよな……?」
「難しい話だね。同じ人間同士であるのに『ヴィラン』という存在がいる現状だ」
「……。俺には……殺したくない愚神が、一人……居る」
「そうか。……一つ忠告をさせてくれ。『H.O.P.E.エージェントであることは忘れるなかれ』ということを」
 ジャスティンは最古参のリンカーとして誰よりも愚神と戦い――誰よりも愚神の恐ろしさを知っている人間とも言えよう。 H.O.P.E.会長としての言葉は、重い。
「だが」とジャスティンは続ける。緋十郎に顔を上げるように促すような物言いで。
「ジャスティンという一人の男の意見としては、それが君の夢と希望ならば、追いかける価値はあると思うよ」


「こちらの生活には慣れた?」
「あ、はい! メイドさんは初めてですけど、色々新鮮で楽しいですっ」
 麗らかな日の中。先を行く日和に、ネリネはメイド服を翻しついて行く。
「あ! この間高そうな花瓶割っちゃってごめんなさい……」
「ああ、別に構いませんわ。花瓶も沢山ありますし二十個くらいどうってことなくてよ」
「そ、そんなに割りませんよー!」
 とりとめもない、けれど平和なやり取り。ふふ、と笑んだ日和は景色に視線を向け直した。隣に大きな花が咲いている。
「こう小さくなって見る花も新鮮でいいですわね」
「ですねー蜜も飲めるんでしたっけ?」
 確かめてみます、とネリネが花に近付いた。一抱えほどある花弁を取って、一口。
「わ、甘くて美味しーっ」
「そう、良かったわ。でも、長閑なのもいいですが、私はもっとこう体を……」
 表情を満開にしたネリネの一方で、どこか物足りなさげに日和は溜息一つ――と、そんな瞬間だった。従魔の巨大トカゲが、茂みからヌッと顔を出したのである。
「まあ! あそこに丁度良さげな従魔が! ネリネ! 共鳴ですわよっ」
「ええ!? 私まだ心の準備が~っ」
「魔術を扱うのは初めてですし、ウォーミングアップですわ!」
 共鳴――日和の髪が、鮮やかな橙色に。グリムリーパーをひと振るい、ライヴスの風をその身に纏うと日和は軽やかな足取りで従魔へと間合いを詰める!
『ま、魔法使いって後衛じゃ……!』
「あら? 私は接近戦が好みですのよ」
 慌てるネリネと対照的に日和の微笑みはとても優雅だった。従魔の噛み付きを飛んでかわし、その頭の上に降り立って。

 一輪、大きく咲いたのは炎の華だった。

「うーん……やっぱりいまいち慣れませんわね。魔術書でも読むべきかしら?」
「ふえぇ……私本当に戦っていけるのかなぁ」
 消し炭となった従魔の隣。共鳴は解除。泣き言を言うネリネに、思案顔だった日和はイイ笑顔となって肩を叩いた。
「大丈夫! 慣れるまで稽古が必要ならいつでも相手になりますわよ」
「はぅっ!? お、お手柔らかにお願いします……」


 そんなこんなで、エージェントの冒険時間は過ぎていったのである。


「帰りの事を考えてなかった……」
 服を抱えて水着姿。水遊びを満喫しすぎた朝霞と伊奈は水滴を滴らせながら、ベースキャンプを目指して草地の中を歩いていた。
 くしゃみをしつつ、掻き分けた草の先。先ほど発見していた霊石花がそこにある。
「朝霞、コレ結構重いぜ」
「二人で持てば……なんとか」
 他の人にも手伝って貰おうか、という話になり。そこに偶然ジャスティンが通りかかったのだが、彼がこう言ったのも無理もない。
「……なぜこの草原の中で水着なのかね?」



●任務完了!

 まもなくエージェント全員がベースキャンプへ帰還した。
 成果は上々、あとは現実世界に帰るのみである。

「とってもたのしかったなぁ、ワカバ連れてきてくれてありがとー」
 持って帰ってきた霊石花を置き、ピピは若葉へ微笑みかけた。
「作戦は無事終了かな?」
「はいっ、お腹がペコペコです!」
「きっとアリッサが美味しいご飯作ってくれてるよ。じゃあ、帰ろうか!」
 京子とリディアは微笑み合う。
「何もなかったけど楽しかった!」
「さて、何もないのは何の前兆なのやらな」
 アキラの言葉に、ラルフはそう呟いた。

「何もない、だとぅ?」

 そこに顔を出したのはヴィルヘルムである。
 彼は思案顔で、こう続けた。

「なんだっけ、こっちの世界の――バイクだったか? それが通った跡があったぜ。
 でも、誰もバイクなんぞ持ってきてなかったよな? ありゃ一体なんだったんだ?」




『了』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 罠師
    Dominoaa0033
    人間|18才|?|防御
  • 第三舞踏帝国帝王
    Masqueradeaa0033hero001
    英雄|28才|?|バト
  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃
  • もっふもふにしてあげる
    むすびaa0054hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • しっかり者のお姉ちゃん
    清原凪子aa0088
    人間|15才|女性|生命
  • 回れ回れカップ
    白詰草aa0088hero002
    英雄|8才|?|ブレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • 分かち合う幸せ
    リディア・シュテーデルaa0150hero002
    英雄|14才|女性|ブレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 私ってばちょ~イケてる!?
    春日部 伊奈aa0476hero002
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 想いの蕾は、やがて咲き誇る
    カスカaa0657hero002
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • メイドは任せろ
    恋迷路 ネリネaa1453hero002
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • やるときはやる。
    呉 琳aa3404
    獣人|17才|男性|生命
  • 見守る視線
    藤堂 茂守aa3404hero002
    英雄|28才|男性|シャド
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • カタストロフィリア
    リーゼロッテ・シュヴェルトaa3678hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • 恐怖を超えて
    ラヴィーウaa3796hero002
    英雄|18才|女性|ドレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 裏切りを識る者
    ドールaa4210hero002
    英雄|18才|男性|カオ
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • エージェント
    七文 アキラaa4220hero002
    英雄|13才|男性|ソフィ
  • 断罪乙女
    志々 紅夏aa4282
    人間|23才|女性|攻撃
  • エージェント
    美門 優雨aa4282hero002
    英雄|26才|女性|カオ
  • エージェント
    天野 心乃aa4317
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    aa4317hero001
    英雄|15才|女性|ドレ
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