本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】狂気の使者デュース、抜けろ花園

時鳥

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/06 20:27

掲示板

オープニング

●ミッションタイプ:【エリア探索】
 このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
 詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●見てはイけない者
「うわぁ、なんだかすごいね。本当にゲームの中みたい」
 タオ・レーレ(az0020)があたりを見回し咲き乱れる綺麗な花々に瞳を輝かせながら歩いている。
 そのやや後ろでゼファー・ローデン(az0020hero001)が肩を竦めた。
「ふっ、こんなふぁんしーな世界ではこの俺の真の実力を発揮する必要などなさそうだな」
「ゼファー君が怖いの全部イヤだっていったくせに何言ってるの、もう!」
 余裕しゃくしゃく顎に手を当て本人がカッコいい、と思っているポーズを決めているゼファーを糸目で振り返りながらタオが不満げに突っ込みを入れた。
「これから起きる大きな波に俺の力を蓄えておく必要が――」
「あ! いっけない! 見失っちゃう!」
 更にどうでもいいことを続けるゼファーの言葉の途中で慌ててタオは前へ向き直り足を速めた。
 彼女達は今、テーブルトークRPGのルールブックを媒体にし形成されたドロップゾーン内にいる。元のシナリオはほのぼの系、探索シナリオのようだ。
 迷路のような花園を4枚の蝶のような羽根を生やした小さい妖精が道案内してくれる。
 妖精について回り、お茶をしたり喧嘩を仲裁したりというミッションをクリアして花園を抜ければクリア。それがこのシナリオのルールだった。特に危険はなさそうだ。
「そんなに急がないでも大丈夫だろ、タオ」
 悠長にゼファーがタオの後を追いかけよう、とした時――ざわり。
 草花が騒めいた気がした。
 空気が一瞬で何か別のものに変わってしまったような感覚。
 咄嗟に振り返ったゼファーは見てしまった。

 たった一つだけの目を。

●狂気に染まりし発狂者
「……タオ」
「あ、ゼファー君! はぐれちゃったら危ないよ、早くこっちに……あれ?」
 後方から呼ばれタオが振り返り手を振りながらゼファーを急かそうとするが彼の手に握られたナイフに気が付く。
 どうしたの? そう問いかけようとしたタオの真横の空気が裂かれた。
 頬に赤い一筋がじわっと浮かび上がる。
「さあ、タオ。俺と一緒にその美しい鮮血をもっと、咲かせようじゃないか」
 タオの頬に流れる血を親指で掬い上げながら恍惚とした笑みを浮かべるゼファー。その瞳はいつもとは違う何かを湛え、威圧さえ感じさせる。
 そして、タオが何かを理解する前に二人の体は溶け合った。残ったのはゼファーの姿のみ。
 ――共鳴。
 普段とは異なる姿。
「……始めよう。この世界全てを赤く染め上げてやる」
 口端を釣り上げ一人つぶやくゼファー。
 明るさを保っていた世界は夕暮れ時のように空が赤み、何かの変調を知らしめていた。

解説

●目標
 メイン:妖精の導きに従い迷路のような花園を抜けること。

●ゾーンについて
 迷路のような花園を妖精が道案内をしてくれ、その導きに従っていくと脱出することができます。
 ただし、敵の力によってルールが増えているようです。

●敵について
【デュース】
 ヘドロのような得体の知れないクリーチャー。怪しく光る眼光が1つあります。
 目撃すると目が一つ、という情報以外忘れてしまうため、はっきりとした姿は誰にも目視できません。
 デュースを目にすると特殊な発狂状態となります。
 花園を徘徊しているようです。

【発狂状態】
・発狂する条件
 デュースを目視すること

・発狂中
 発狂中の記憶はなくなります。発狂中の行動はPCによって違います。
 ※発狂中の行動はプレイングに自由に記載してください。

・発狂を治すには
 抵抗判定により持続ターンが確定する。
 発狂状態は発症回数が増えるごとに持続ターン数が増えていく。
 幾度も発狂状態に陥ると最終的に発狂状態が元に戻らなくなる。

・ゾーンルール
 現在のゾーン内では、発狂状態になる度にステータスに補正が付きます。
 発狂した後、正気を取り戻した際もステータス補正は上がったままになります。
 シナリオをクリアすることによりゾーンの影響下から抜け発狂状態は収まります。

【ゼファーについて】
 タオと共鳴している状態のゼファーです。
 シナリオのNPC化はされておらず、PC達と同じように「VR-TTRPGシステム」を利用してゾーンへ入ってきています。
 最終発狂状態に陥っており、ターンでは正気を取り戻しません。血を求め花園を徘徊し、見境なく襲ってきます。
 戦闘不能にすることは可能ですが発狂状態を繰り返していたため、大幅にステータス補正がついています。

リプレイ


「穏やかじゃねえな。NPCか?」
 ギチギチと敵の剣の刃をディフェンダーで受けながら、楽し気な笑みを浮かべる獅子ヶ谷 七海(aa1568)と共鳴している五々六(aa1568hero001)。大剣を力任せに振り切ると相手は後方へと飛んだ。
 敵――ゼファーが剣を構えて舌打ちをする。
 五々六も迎え撃つように剣を構えなおした。
 この依頼を受けた当初、五々六は文字通りのお花畑な情景とミッション内容にやる気は皆無に等しかった。隙あらばサボろうと考えていた程だ。
 だが、突如茂みから飛び出し放たれた一撃を肩に受け、やる気が鎌首を擡げる。肩への攻撃は周囲への警戒を怠っていなかった為、掠る程度で済んでいた。
「血だ。赤き鮮血を――」
 その言葉と共にゼファーが五々六へと走りこんでくる。自分の防御力には自信があった。だから五々六は先の一撃から自身が耐えられる、と判断した。
 鋭く銀色の筋が虚空を切った瞬間――、何かが起こった。

「雰囲気が変だね……。気軽にお茶ってわけにも行かなそう」
「急ぎましょうか。かわいそうに妖精たちも震えています」
 金属がぶつかり合うような音が遠くに聞こえた気がして辺りを見回しながら志賀谷 京子(aa0150)は呟きを零す。アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が花園の茂みに隠れ震えている妖精たちを見て心配そうに相槌を打った。
 何かがおかしい。二人は共鳴をし、辺りを注意深く観察しながら進む。他にもこの依頼を受けたエージェント達はいたはずだ。
 それぞれが花園の別の場所に転送されたらしい。
「そんな危なそうじゃないし。ついでに仲良くなれたらって思って」
「俺とデートしたいって? オーケー。お望通りに」
「馬鹿なの? 一緒に過ごすことになるんだし当たり前だろ?」
 と、会津 灯影(aa0273)はまだ出会って日の浅い第二英雄、静寂(aa0273hero002)と会話を繰り広げていた。
「やだー冷たい。でも仲良くしたいって思って貰えてるのは嬉しいよ。ありがとう、灯影君」
「楓とも仲良くして欲しいんだけど、それ俺が疲れるフラグなんだよなぁ」
「狐さんには好かれてないみたいだからね。ま、上手く楽しむさ。さて……思ってたより平和じゃなさそうだけど、のんびり行こうか」
 二人で第一英雄のことを話しながらも静寂は花園に潜む何かの空気を感じていたようだ。「普通にのどかに見えるけど……」と灯影が不思議そうに首を捻る。
「俺の勘は当たるんだよ? 怖いのが好きなr」
「何かあってからじゃ遅いしな!」
 静寂の話の途中で灯影は元気よく遮り共鳴を行う。そして妖精の案内でゆっくりと歩を進めた。
 のんびりとしているのは彼らだけではなかった。花邑 咲(aa2346)とブラッドリー クォーツ(aa2346hero001)は二人とも植物が好きで花園の花々を愛でながら手を繋いで歩いている。咲が方向音痴の為、はぐれないようにという配慮だ。ブラッドリーはしっかりと彼女の手を握りしめる。指を絡め所謂恋人繋ぎをしている為、はたから見れば呑気にデートをしているようにも見えるだろう。
 ただブラッドリーは唐突に赤く染まった空に良くない者の気配を感じていた。辺りを警戒する相棒の様子にそのうち咲も何かを感じたらしく、普段通りに行動しながらも同様に辺りを警戒し始める。
 ずるり、と何かが這いずる音がした。
 警戒しながらも音がした方へ視線を向けてしまったのは咲。見てしまったのだ。花園の壁の上からこちらを覗き込んでいる、得体の知れない何か、を。もう、遅かった。
 咲の表情が消え頬に涙が伝っていく。綺麗に咲き誇る花に手を掛けぷちっ、と摘み取った。
「サキ? どうしたんですか?」
 腕いっぱいに花を一つ一つ摘んでいく咲の異変にブラッドリーは心配そうに声を掛ける。しかしその声は聞こえていないのか、花を抱えふらふらとどこかへ行こうとする咲。
「あの子たちに……花を、あげないと……」
「サキ!」
 ぶつぶつと呟く咲の肩を掴みブラッドリーは強く揺さぶる。しかし、その目はまるでブラッドリーを認識していないように焦点が合っていなかった。
「いったい何が……」
「……あら……? どうしてわたし、こんなに沢山のお花を……?」
 咲がそのままどこかへ行ってしまわないように抑えながらブラッドリーが考え込んだ時、ハッ、と咲の瞳に光が戻った。不思議そうに自身が抱えた花を見下ろしている。彼女の記憶は這いずる音がしたところから今まですっぽりと抜け落ちていた。
 Jeanne d'Arc(aa4477hero001)と共鳴をしているHoang Thi Hoa(aa4477)は花園を歩いていた。まだエージェントになって日が浅い。見た目はジャンヌダルク(Jeanne d'Arc)なのだが髪や瞳が黒がかっているところから見て今意識はホア(Hoa)にウェイトが置かれているようだ。
 妖精の後をついて歩いているとガサッ、と茂みが揺れる。大剣を振りかざした少女――七海、いや肉体は七海だが意識は五々六。が、空中を舞いホアにその大剣を振り下ろした。戦いの素人であるホアは咄嗟のことに身が縮こまる。
 しかし、いつまで経っても何の衝撃も感じない。
 大剣は彼女の目の前で止まっていた。五々六はその体制のまま黙っている。その目はいつの間にか変化していた状況をただじっと見据えて。頭の中を高速で回転させながら、記憶の欠落を踏まえ特殊な精神系BSを掛けられたのではないか、と考えた。
 辛うじて覚えているのは、敵の「単眼」だけ。視線を合わせることで魅了を行う愚神――アッシェグルートの存在は記憶に新しい。今回もその類か。
「あの……」
 考え込んでいる五々六にホアが声を掛ける。五々六は意識をその場に戻した。目の前にいるのが同じく依頼を受けたエージェントであると察する。
「俺は何をしていた?」
 欠落している記憶の一部を知ることが出来るかもしれない、と五々六はホアに問いかけた。急に自分が彼女に襲い掛かったことを知る。だとすると、最初に襲い掛かってきた人間も自分と同様精神系BSを掛けられていたのだろう。そもそも唯一記憶に残る「単眼」は襲撃者のものではない。五々六はそれを確信していた。
「確か、目が一つ……あれ、なんで覚えていないんだっけ」
「……いや、寧ろ、なんで目が一つという事だけ覚えているのか、かな」
 別の場所でも同じように記憶が欠落し、そのことについて不思議そうに頭を突き合わせ話し合っている人影が二つ。アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)だ。同じ名前の二人はアリスを黒いアリス、Aliceを赤いアリスと他者には紹介する。
(妖精とは、またファンタジーだね。私の作品の幅を広げる良い機会かもしれない)
「先生はいつもそれなんですね」
(僕にとっては仕事だもの。そういうランも、ガーデニングの参考になるなあって思っているんだろう?)
「ここまでやろうと思うと流石に骨が折れますけどね」
 咲魔 聡一(aa4475)は手話で百花堂 蘭丸(aa4475hero001)と他愛無い会話を交わしていたが、丁度話し合っているアリス達の姿を見つける。二人は足を止めた。
「こんにちは」
 と、蘭丸が二人に声を掛ける。アリス達は振り返り表情を変えずにじっと蘭丸達を見返す。
(はじめまして、私は咲魔 聡一といいます。お近づきの印にお菓子でもいかがかな?)
「って言ってますね、よかったら仲良くしてあげてください。あ、僕は蘭丸っていいます」
 聡一の手話を翻訳しながら自己紹介をする蘭丸。聡一は二人にクッキーを差し出す。このシナリオに入った当初、お茶をしたい、と話し合っていた二人は素直にクッキーを受け取った。
「お茶があれば完ぺきだったね、Alice」
「お茶したいね、アリス」
「ところで、お二人は妖精の後を追いかけていませんでしたが、どうしたんですか?」
 顔を見合わせているアリス達に蘭丸は問いを重ねる。
「記憶が途中から飛んでいるの」
 黒いアリスが分かっていることを簡単に答えた。そしてまた赤いアリスと顔を合わせる。
「どうも迷路だけじゃないみたいだね、Alice」
「そうこなくっちゃね、アリス」
 二人の言葉の不穏さに聡一と蘭丸が今度は顔を見合わせた。


 全体が黒漆で塗り込まれた太刀が虚空を薙いだ。妖精の小さな体が地に落ちる。
(静寂、さん……?)
 共鳴している灯影は内部から英雄に声をかける。
「俺は死神なんだ。死神は死神らしく、魂を回収しないとねー。さぁて次に死ぬのはだーれかなぁ」
 あははっといつもと変わらぬ表情で笑う静寂。
(静寂さん! おいっしっかり!)
 灯影が必至で内部から叫び続けるも静寂はふふっ、と小さく笑って
「灯影君は最後のお楽しみだから。ゆっくりおやすみ」
 その一言の後に灯影の意識は遠のいた。

「や~ん~! 何この妖精ちゃんかんわぃ~わね~~♪ お花も少し頂いちゃっていいかしら~ん!」
「この絵面超キメェ……」
 筋肉隆々の巨躯の男、ヴラド・アルハーティ(aa2162hero002)が体をくねらせながら案内役の妖精と花園に悦に満ちた表情を浮かべている。繰耶 一(aa2162)が的確な突っ込みを入れた。
 そんな風に妖精と仲良くしていたヴラドは今この世界で異変が起きていることを知る。
 居るはずのない得体の知れない単眼の魔物、そしてその気に充てられて暴れる人間が徘徊しているのだという。
 聞き込みの結果、一とヴラドは共鳴をし腰のベルトにスマホを録画状態で固定する。何かあった際にきっちりと記録に残るように、だ。
「あらやだ、何か楽しそうな雰囲気ね?」
(ふむ、嫌に気が狂いそうな視線……そんな感じか)
 じっとりと、何かの視線を感じたのかヴラドは楽しそうに辺りを見回す。
「ああそうだ、楽しい事……アタシ思いついちゃった」
(あ? 何?)
「お花畑を海に変えちゃいましょ♪」
 妖精たちに話を通し、遠くへ逃げてもらってからヴラドは火炎放射器、イグニスを構える。そして周りを囲むように存在する草花へ向けて引き金を引いた。
 炎が草花を焼き尽くしていく。しかし、草花は水分を含んでいる為、燃え広がるということはなかった。炎の当たった部分はぽっかりと穴が開く。
「残念ねぇ。火の海にしたかったのに。でも、こんな迷宮、最初からこうしていれば目的地への到達のしがいもあったのにねぇ」
(……狂ったか?)
 イグニスを下ろし残念そうに零すヴラドに一は内部から引き気味に声を掛けた。
「や~ね~あたしは正気よ~。……いや、最初から狂っているわ……こんな面白い状況、狂喜しないわけがないじゃない!」
(あーそう……やる事は程々にね)
 得体の知れない魔物と狂人の話を聞いた時からヴラドの闘争本能には火がついていた。
「ふふふ……いいわ、来なさい…ッ! 久々に荒熊の血が騒ぐわ……ッ」
 そのヴラドの言葉に呼応するかのように不気味な唸り声が辺りに響く。穴の先、不気味な明らかに人ではない影が差した。
 そんな一達に連絡を取ろうと、五々六はライヴス通信機を使用していた。しかし、出る気配はない。近くに、魔物デュースの気配を感じ、スマートフォンを起動させ自分は見ないようにしながら辺りを動画で撮影しだした。一緒に行動していたホアはそれで辺りを見回してしまう。ジャンヌダルクの方が戦闘をするのであれば良いのだが五々六が一緒にいる間、彼女は頼りないホアの経験の為、今暫く相棒に意識を任せていた。
 ずっ、地面をするような音がする。それと同時に急にホアが黄色い声をきゃあっと上げた。草や花を摘み何やらスイーツを作る、とうわ言のように一人喋っている。だが、デュースが襲ってくる気配はない。むしろずっ、という音から遠ざかって行くのが分かった。戦う意思は今のところないのだろうか。
 追いかけるか、と五々六が思案したその時――ビュッ!
 神速の矢が五々六の腕を貫く。矢の飛んできた先に視線を向けると嘲るような笑みを浮かべた京子が九陽神弓を構えていた。遠く、五々六の射程外からなぶるように今度は片足を狙い矢を放つ。片足にも矢を受けたものの、五々六は冷静に制圧か、撤退かを考える。
 が、その後ろから急に飛び出してきた静寂が毒刃を纏わせた刀を五々六に振った。どさくさに紛れ乱入してきた静寂の攻撃にダメージは少ないものの反撃しようとする五々六。キンッ! と刃物がぶつかり合う高音が響いた。
 すると静寂が、ハッ、と意識を取り戻す。緊迫した空気が和らいだ。
「……んっ。あれ、わたし……」
(わたしたちも正気を失していましたか……)
 意識を取り戻した京子が困惑気味に頭を押さえる。正気を失った他のエージェントの姿を隠れて見ていたがその隙に自分たちもやられてしまったようだ。
「……そうだね。――あの目玉を見たあとか」
 記憶を辿るもあの眼光のことしか思い出せない。前方、弓を構えていた先に他のエージェントの姿を認め、京子は慌てて駆け寄った。
 そこに戦闘中の音を近くで聞いてかヴラドと聡一を引きずった蘭丸も現れる。
 蘭丸もデュースに遭遇し、記憶をなくしたまま倒れていたところ、よく分からないが聡一を引き摺り安全な場所へ移動しようとししていたところだった。多くの正常な人間の姿を見て安堵する。
「怪我は?」
「大したことはねえな」
 京子が五々六に声を掛ける。軽く腕を振りながら答える五々六には、これくらいのダメージならどうってことはないらしい。
 偶然だろうか、もしくは敵の誘導だろうか。迷宮のような花園で6組のエージェントが顔を合わせた。

 時間はほんの少しだけ戻る。アリスと聡一が並んで歩いている。
 いっそ全部の記憶をなくした方が敵にとっては良いだろう。それほどあの目が印象的だった、という事なのか。アリスはそんなことを考えながら対策を考えていた。そして、ペンとメモを取り出し、敵への対処法を一つ書く。「鏡に映して敵を見る」と。手鏡を手に握り辺りの気配を探る。
 ガンッ!
 銃が発射される音が聞こえた。アリスの真横を鋭い空気が切る。ゆるい笑みを浮かべたブラッドリーが彼女たちの目の前に立っていた。
「何を」
「サキに害を成そうとする者の存在を、オレが赦すと思っているのですか?」
 いかにも普通の風体で佇むブラッドリーに聡一は判断しきれず問いかけかけた。しかしすぐにブラッドリーは変わらぬ声音で明らかにおかしいことを口にする。そしてまた引き金を引いた。
「ちょこっとばかりこの美しい花園を傷つけることになるが、見ての通り非常事態だ。我慢してくれよ妖精さん」
 聡一は近くにいた案内役の妖精を庇いながら声を掛ける。そして、アリスにインタラプトシールドを掛ける。
 その時、ずるっずるっ、と引きずるような音がし、周りの空気の温度が変わったような気がした。アリスの手鏡には何か靄のようなものが映し出される。それはブラッドリーの後ろの茂みの上だった。すると――
「は……はは、脚が……すくんで動かない……。……は……ははははははっ! 素晴らしい! 最高の恐怖だ! かつてヴィランズに捕らえられて拷問を受けた時、顔と声をやられて俳優を続けられなくなった時、それくらいの……いや下手したらそれ以上の恐怖を今私は! やつの目を見ただけで味わったぞッ!」
 アリスの隣にいた聡一が立ち尽くしたまま狂ったように笑い饒舌にしゃべり始めた。アリスに変化はない。急いでメモに丸を書き込む。そこにブラッドリーが引き金を引いた。銃声が鳴り響く。アリスは聡一が掛けたシールドのおかげで微かに掠る程度で済んでいた。
「……邪魔だね」
 次に試そうとしていることをメモしながらアリスは呟く。その横で聡一はまだしゃべり続けていた。
「あの……『吸い込まれるよう』なんて生易しいもんじゃない、『引き摺り込まれる』ような目! なんて素敵な目だ! あの目と見詰め合う恐怖は、きっと私の作品に新たな味わいを付け加えてくれる! もっと、もっともっとあの愚神の事を知らなくては!」
(先生! 落ち着いてください! 帰れなくなったら元も子もないですよ!)
 ふらふらと鏡に映る霞の方へ近づいて行こうとする聡一。内部から蘭丸が引き留めようとするも不思議な力で聡一の心に蘭丸の声は届かなかった。
 アリスは手鏡を持ったままメモをしまい、ケリュケイオンを構える。手鏡で相手の位置を確認しながら支配者の言葉をデュースに掛けた。目を閉じろ、と命令する。これで、直接見ても問題はないだろうか。ゆっくりと確認するように顔を上げた。しかし、彼女達の記憶は一時そこで途切れた。


 集まっていた6組は妖精の先導の元、花園を駆け抜けていた。近くにいた妖精に京子が「怖がらせてごめんなさい」と声を掛け出口までの案内を頼んだのだ。
 互いに今持ち得ている情報の共有を終えた6組は、もしデュースに遭遇した際、五々六とヴラドが残り、他4組が出口まで駆け抜ける、という作戦で話は纏まっていた。
 そして前方に行き道を塞ぐようにアリスが姿を現した。
「……やっと会えた……さあ、ゲームを終わらせよう、今度こそ」
 彼女達には視界に入り動く者がアリスが復讐すべき敵・炎を纏った獣だと認識させられている。杖をアリスが構えると魔力の籠った弾が先頭を走っていた京子に襲い掛かった。横に体を傾けてそれを交わす京子。
「どうも、まともな感じが吹っ飛んでるみたい」
(さて、どうしたものでしょうね)
「そんなのまともに戦ってられないじゃない? 逃げるが勝ちだよ」
 足止めの為、弓を構えてアリスの足元に矢を放つ。矢はアリスの足を貫くが痛みを感じていないのかアリスはまた杖を構えた。
「絶対に逃がさない、次はない。チェックメイトだよ、王様?」
 また攻撃を繰り返そうとしたアリスに今度は静寂が縫止を仕掛ける。動けなくなったアリスの横を京子達は急いで駆け抜けた。
 一方、後方。アリスの出現で近くにデュースが現れるだろう、と判断した五々六は足を止めて耳を澄ませた。それぞれの話から襲撃者の後にデュースは姿を現しているように思える。神経を研ぎ澄まし集中した。すると、ずっ、と擦るようなあの音が聞こえる。その五々六の様子にヴラドも足を止め、ホアと意識の比重を変えて前面に出ていたジャンヌダルクも振り返った。その先でジャンヌダルクは見てしまう。
 どくん、と心臓が波打ちジャンヌダルクの中の正義感が暴走し、彼女の目には周りが敵に見えた。目の前を走る一番近い聡一を倒そうとクルーエルスピアを振るう。しかし、気が付いた聡一が寸でのところでギザギザした刃を交わした。
 ジャンヌダルクが返す刃で追い打ちを掛けようとする。それを聡一はアイアンシールドで受け止め往なす。
 出口まで走り抜ける前方、同士討ちを始める真ん中。そして立ち止まっていた後方、五々六は音を頼りにデュースの方角を割り出す。口の中に賢者の欠片を含み、眼を閉じた。記憶が消去されるなら、別の記憶媒体を用意すればいい。目視できないなら、視覚に頼らなければいい。彼はそう判断したのだ。スマートフォンは動画が撮影できるように準備してある。
「深淵を覗かぬものに深淵は到底理解できないわッ!」
(だからって目を覗くなよ?)
 ヴラドがイグニスの引き金を引き、壁となっている花園の茂みを焼いた。一度遭遇した際にヴラドが撮っていた動画には茂みの上からこちらを覗き込む霞がかった何かの姿が映っていた。幾つかの状況から鑑みてデュースはずっと同じように覗き込んでは隠れ、を繰り返していたのだろう。
 ずっ、という音が身を引いたように聞こえた。そちらの方向に地を蹴り跳ね上がると五々六は大剣を大きく振り回す。少しでも当たれば、と。だが、その瞬間、五々六の体に気持ちの悪いぬめり、とした悪臭が鼻をつく何かが纏わりついてきた。
 そして、熱い。
 唐突に燃え上がり赤い炎が五々六の体を包み込む。後方に飛んで地面に転がり火を沈下させる五々六。
 そこへヴラドが視線を下に伏せたまま斧槍でライヴスの衝撃波を作り出し放つ。ぐちゃっ、という音がした。当たったようだ。しかし音がおかしい。液体に近いモノに当たったような音だ。
「オオオオオオオオオオオッ」
 地鳴りのような不気味な声が発せられた。五々六の脳内に直接響き、彼の肉体に内側からダメージを与える。デュースの反撃だ。苦痛に五々六の顔が歪む。蓄積されたダメージに口の中の欠片を噛み砕く。声の聞こえる方向に俊敏な動きで大剣を幾度も横に薙いだ。

 無事アリスの横を抜けた京子と静寂の前にゼファーへ威嚇射撃を放つブラッドリーの姿が見えてきた。身構える二人。ブラッドリーの片腕からは血が流れていた。
「まだ俺の宵闇に浮かされた魂は足りないと疼いているッ!」
 ゼファーが距離を縮め剣を振るおうとしている。咄嗟にゼファーの様子がおかしいと判断した京子はゼファーの足元を狙い矢を放つ。足に矢を受けゼファーがバランスを崩したところで静寂が縫止で彼の動きを止めた。
「ありがとうございますっ」
 その二人が作ってくれた隙を逃がさず、最終手段として何故か入っていた睡眠薬を相手の口に突っ込むブラッドリー。
「むぐっ」
 唐突なことに飲み込んでしまいふらついたゼファーは急いで飛びのく。が、睡眠薬が周りその場に膝をつき、倒れた。
「助かりました」
 その様子を見届けて安堵の息を逃がし普段ののんびりとした口調でブラッドリーは京子と静寂に礼を述べる。ブラッドリーは咲が摘んでしまった花で冠を作った後、一度だけデュースに合っただけで、運よく出口まで一番乗りで向かっていたのだ。
 が、そこでゼファーと遭遇し防戦を繰り広げ耐えながら隙が出来るのを待っていたところだった。
 京子達は先ほどまで一緒にいたエージェント達のこと。起きている状況などを簡潔にブラッドリーに説明する。これから出口へ向かえばいい、とブラッドリーは理解した。そして、倒れているゼファーの腕を肩に掛け彼の体を持ち上げる。眠らせてしまった以上、責任をもって出口まで連れて行くつもりだった。


 無事にエリアをクリアし、脱出することが出来た。結局のところ、京子達が出口にたどり着いた頃、急にデュースが撤退をしたのだった。赤んでいた空は元の色に戻り、個々が暴れた残骸が花園に残っていた。
 後はもう迷宮を抜けるしかなく、五々六は不満でしかなかった。
「ああ、お茶会したかったなあ」
「殺気立っていましたからね……」
 一番先に迷宮を抜けきり、全てが終わり京子は息を吐きだしながら残念そうに言う。隣でアリッサが頷いた。
「ほんとのマッド・ティーパーティーも悪くはなかったかも」
「狂気の宴は勘弁ですよ」
 だが京子は色々と思い出し、今回のは今回ので良かった、と小さく笑う。そんな京子にアリッサは呆れたように首を横に揺らした。
「エージェントって大変ね」
 と、ホアがジャンヌダルクに零している。苦労知らずで戦いと無関係な一般女性として生きてきたホアにとって今回のことは色々思うところがあるのだろう。
 そうやって続々と戻ってくるエージェント達に大きな怪我はいない。無事、ブラッドリーに運ばれ帰還することが出来たゼファーも睡眠薬が切れれば何事もなく目を覚ますだろう。とても気持ちよさそうな寝顔である。
 アリス達が自分達の付けたメモを見ながら大丈夫だったことを確認している。鏡、写真、など何かを一度介するものは丸だった。しかし、目を見ないよう視線を下げる、支配者の言葉で目を閉じろ、こちらが目を見れない様下を向け、など眼光に拘ったものはバツだった。
 五々六、一が撮った写真や動画を始め、形に残るものに写るデュースの姿は霞かモザイクがかかったようにはっきりとせず、完全な姿はさっぱりと分からないモノの、全長が変化しておりヘドロか何かそういう体をしていることが分かる。五々六が燃える様も写っており、それはヘドロのような何かが五々六に纏わりつきそれ自体から自然に発火していた。
 そんなデュースに関して五々六、アリス、一達が得た情報は今後に大きな影響を与えるだろう。
 まだゲームは序盤。さあ、次の一手がこれから始まる。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
  • 紅の炎
    アリスaa1651

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • マイペース
    静寂aa0273hero002
    英雄|26才|男性|シャド
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 魔の単眼を穿つ者
    繰耶 一aa2162
    人間|24才|女性|回避
  • 朝焼けヒーローズ
    ヴラド・アルハーティaa2162hero002
    英雄|40才|男性|ブレ
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 守るのは手の中の宝石
    ブラッドリー・クォーツaa2346hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 撃退士
    咲魔 聡一aa4475
    人間|31才|男性|回避
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