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【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】ここはぐしん達のダンジョンです

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/02 17:12

掲示板

オープニング

●変更
 テーブルトークRPGの題材としては「●●の村近くにモンスターが棲むダンジョンがあり、プレイヤーは村人達から怪物退治を依頼された冒険者になって、ダンジョンのモンスターを退治する」というものが多いらしい。
 初心者でもゲームの世界に入りやすいということで、その類のゲームブックを使って楽しむ人も多かったが、それゆえドロップゾーン化したゲームブック内に吸い込まれる人達も多かった。
 H.O.P.E.より人々を『吸収した』ゲームブックの調査を指示された真継優輝(az0045)は、ゲームブックの内容がダンジョン攻略から別の物に変化している事を見抜き、その内容をH.O.P.E.に伝達できたが、やはりゲームブック内に引き込まれてしまった。
 変更された内容は、『ダンジョン攻略』が『ダンジョン防衛』という攻守が入れ替わるものだった。

●ダンジョンを守れ?
 お集まりの皆様。ダンジョンへようこそ。
 ここは『地下遺跡』という種類のダンジョンです。
 本来皆様は、ここにいる怪物たちを退治する依頼を受けた冒険者とか、そういった職業のキャラクターになりきって、ダンジョンを探索して何かあれば回収し、モンスターの居場所を突き止めては退治する。そんな形でこのゲームを楽しまれるかと思います。
 ですがここは少し状況が違います。何故ならこのゾーン内に吸い込まれた人間達が、モンスターの姿と思考になって、このダンジョン内にいるからです。
 そして吸い込まれた人達がモンスター役になりましたので、本来でしたらモンスターとして動いてもらう存在は、このダンジョンにやってくる『冒険者』達や『騎士団』といった存在になって、このダンジョンにいるモンスター達を退治するためここへ襲撃に来ます。
 彼らの攻撃対象には、お集まりの皆様も含まれています。
 何故かと申しますと、それは皆様がこのダンジョンにて、モンスターたちを統率しているボスキャラ達。皆様の分かりやすい表現ですと『愚神』になるよう、ルールが変更されたからです。
 ちなみに『愚神』となった皆様からの直接攻撃は、これからやってくる冒険者や騎士団達には効果がありません。
 ですがご安心下さい。後ほど皆様がいらっしゃるダンジョンの地図をお見せしますが、皆様にはそれぞれ特定の『ポイント』が割り振られており、それを消費してダンジョン内に様々な罠を作ったり、手下となるモンスター……そうですね。皆様の分かりやすい形で表現しますと『従魔』を作成して、それをダンジョン内に配備して戦力にする事ができます。
 そしてモンスター化した人達は、皆様が触れる事で人の姿と意識を取り戻します。
 なお彼らは人に戻した直後、自動的にこのダンジョンから真継優輝のいる別の空間へ転移しますので、助けた人達を守りながらダンジョンを脱出する必要はございません。
 うまく役割分担をして、ダンジョンの守りを固めて冒険者や騎士団を迎撃しながら、ダンジョン内を捜し歩いて人々を元に戻す作業をするのが効率的かもしれません。

●注意事項
 そして『あなたたち』の手元に、やたら横長の方眼紙の紙や文具が、一人一人の手元に現れる。
「それらの紙や文具を使ってうまく罠や用意する従魔達の配置などを相談するといいでしょう」
 方眼紙には、設置できるものの詳細が記載され、それらの横には設置に必要なポイントの数が書かれていた。
「今から設置を開始しますと、恐らく全て配置し終える前に冒険者や騎士団が来ますので、防衛を優先するか、救助を優先するかといった配分はお任せします」
 そして『あなたたち』に一連のルールを説明していた存在は、襲来する冒険者や騎士団達を撃退し終えた時点で『あなたたち』もこの世界から強制排除され、救えなかった人達はそのままこの世界に残されるとも伝えた後姿を消した。
 
●選択肢
 以下は『あなたたち』のとる事のできる行動案(複数可。初期位置は自由)
 A:罠を構築して冒険者や騎士団を迎撃する
 選択肢Aで設置できる罠などの必要P
 ガス:(略称・眠)1 地面から睡眠ガスが出て敵を3ターン眠らせる。
 地雷:(略称・爆):2 踏んだ敵及び周囲2スクエア内に爆風が広がり無差別に薙ぎ倒す。
 像:2 眼前を通過する敵を抱きしめ3ターン拘束する。
 土管:(略称:管)1 上から土管が落ちて敵の頭を打ち、敵を3ターンまともに歩けなくさせる。

 B:従魔を作り冒険者や騎士団を迎撃させる
 選択肢Bで作成できる従魔及び必要P
 骨:1 骸骨姿の従魔。冒険者とは互角。騎士に負けるが魔術師には勝つ。
 鎧:2 鎧姿の従魔。冒険者には勝つが騎士とは互角。魔術師に負ける。
 漢:2 筋骨隆々な従魔。冒険者には負け、騎士には勝つが魔術師とは互角。
 
 C:怪物となった人達に触れてもとに戻す

 D:冒険者や騎士団を自分も迎撃する
 選択肢Dで可能な行動
 変化:指定した敵を別の存在へ変える(例:騎士を冒険者に変える)
 復活:倒された従魔を復活させる。
 回収:罠や従魔が倒した敵の数だけポイントが使えるようになる。

 以下がダンジョンの大まかな地図(1マス1sq)
  ABCDEFGHIJKLMNO
  壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁
 1壁木   岩      壁  ←冒           
 2壁 怪木  怪     壁  ←険
 3壁怪 怪 岩         ←者
 4壁 怪木  怪     壁  ←や
 5Ⅲ怪 怪 岩      壁  ←騎
 6壁 怪 怪  怪  壁    ←士
 7壁 木  岩      壁  ←団
 8壁  木  怪     壁 壁
  壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁

 壁:通り抜け不可
 岩・木:障害物。皆様は通過可能で身を隠せる
 怪:モンスターに変えられた人間達
 Ⅲ:脱出口。その先にNPC化した真継優輝が待ち構えている。

 真継優輝のいる空間は以下の8×8マス。「入」から出発。複数のヒントが書かれている。
 
  ABCDEFGH
 1びむ僧妃つ僧ぐ城
 2王兵すひあの騎ど
 3たくまりゆ兵て騎
 4くえとのぎいぷす
 5わ城るち騎みそへ
 6僧おあきのそぐ兵
 7だけさにろぴを騎
 8兵やびき入兵王せ
 
 ヒント1:兵はポーン。騎はナイト。僧はビショップ。城はルーク。王はキングの駒を示す。
 ヒント2:妃のもとまで『どの駒にも見つからずに』たどり着けた時の軌跡が出口を示す。
 ヒント3:この空間では『あなたたち』は下記のうち王の駒と同じ動きでマス目を移動できる。(■は各駒が移動できるマス)

 □□□□□ □□□ □■□■□ ■□□□■ □□■□□
 □■■■□ ■■■ ■□□□■ □■□■□ □□■□□
 □■王■□ □兵□ □□騎□□ □□僧□□ ■■城■■
 □■■■□ □□□ ■□□□■ □■□■□ □□■□□
 □□□□□     □■□■□ ■□□□■ □□■□□

解説

●ミッションタイプ:【エリア探索/一般人救助】
 このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
 詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認下さい。

●目標
 出口を見つけ出し、救助できた人達と共に脱出する。


●ゾーンルールについて
 このゾーンでは共鳴していなくても行動が可能。皆様には能力者、英雄それぞれに特定の行動に必要なポイントを各5点ずつ所持した状態でスタート。
 ただし冒険者や騎士団を20体以上倒す、真継優輝の居る空間の攻略を間違えるなど、一定の条件を満たしてしまうと離脱してしまう。能力者か英雄かどちらかが条件を満たした場合、セットとして扱われ両方とも離脱となる。
 ダンジョン内では『あなたたち』は好きな場所からスタートでき、1ターンで移動力の分だけ移動できる。

 登場
 真継優輝
 H.O.P.E.所属のエージェント。出口があるとされる空間に浮かぶ。
 PL情報:見えているのは幻で、本体は出口のある場所で眠っている。

 冒険者や騎士団
 ダンジョンに攻め込む存在達。冒険者、騎士、魔術師の3種で構成されている。『あなたたち』の目にはそれぞれ「冒」「騎」「魔」という文字にしか見えないが、1ターンで1sq進む。数は多数。『あなたたち』にも襲いかかるが『あなたたち』には一切ダメージを与えられず、『あなたたち』は彼らに自分の『愚神姿』を自分が望むように見せる事ができる。

 モンスター
 ダンジョン内にいるモンスターだが、実は吸い込まれた人々。『あなたたち』の目には「怪」の文字にしか見えないが、触れたら元に戻る。なお冒険者や騎士団が攻撃すると倒されて消える。

 状況
 洞穴のようなダンジョン。何故か天井に蛍光灯が並んで点灯しているので、視界は良好。『あなたたち』が手にしているダンジョンマップに加えたい罠や従魔を書き込むと、ポイントが消費されそれらがダンジョン内に出現する。

リプレイ

●準備
 洞窟という表現のほうが正しい規模のダンジョンだが、天井に蛍光灯が並び、奥に木々が立ち並び、怪物になった人々の姿が『怪』の文字に見えたりと、現実感は皆無だった。
「……何故、人が文字に見えるんだ?」
「さあ? でも、俺としては気が楽になるかな」
 このダンジョンの妙な部分に首をひねるラドシアス(aa0778hero001)だったが、皆月 若葉(aa0778)は別の見解があるようだ。
 若葉の言う通り、助けるはずの人々が現実世界で目にする醜悪な従魔の姿だったり、普通の人間の姿をした敵が倒される光景は、人によっては抵抗があるかもしれない。
「確か、怪物になった人達に触れる事ができれば、元の姿に戻った人達は別の場所に転移するという話だけど、救出できた人達は転移した先で混乱してるだろうから、救出活動が始まったらその人達を落ち着かせて守る役に回るよ」
 若葉はラドシアスに自身の役割を伝えると、持参した2つのライヴス通信機「雫」の片方を装備し、ダンジョンの一番奥付近に移動する。
「わかった。救出は任せろ」
 ラドシアスもまた若葉にそう伝え、もう片方のライヴス通信機「雫」を装備し、ダンジョン入口に近い位置にいる人々のもとへ向かう。
「愚神にもなれるゲームか……。いろいろ考えるもんだねぇ、あちらさんも」
 ツラナミ(aa1426)は手元に現れたマップを見ながら、手を変え品を変え人々を吸い込むドロップゾーンを構築する愚神達に対し、呆れとも感心ともつかない呟きを漏らす。
 このダンジョンでは自分達が愚神役として動くこともできるという妙なルールがあった。
「仮に俺達が救出する人々からも愚神に見えたとしても、救出された時点でその人達はすぐ別の場所に転移するという話だから、若葉のほうでフォローしてくれるはずだ」
 ツラナミの近くで配置についたラドシアスは、救出時に敵が迫ってくる事態も考慮し、頭や全身を漆黒のローブで包み、大鎌を掲げる死神の姿を自分の愚神姿として念じていた。
 既にダンジョンの外にある非常識な大きさの扉の向こうから、大人数のかけ声と共に何か重いものを叩きつける打撃音が響いている。
「……ん。意外と時間、ない……かも。罠、設置……救助、は……こう、回って……」
「……サヤのやつ、このゲームにはまってやがる……」
 ツラナミの呆れとも驚きともつかない呟きをよそに、38(aa1426hero001)が手元にあるマップとにらめっこしつつ、像の位置をマップに書き込んでいくと、それまで何もなかった空間に石像が出現する。
「防衛……だったか。なら……骸骨に統一して……と」
 ツラナミもまた、マップに何かを書き込むと、38の設置した石像から少し離れた場所に別の石像と、骸骨姿の怪物――従魔が出現する。
「へぇ、悪役でダンジョンを守る役。いいね!」
 一方志賀谷 京子(aa0150)は捕まった人々を救助しつつも、この『ゲーム』を楽しむことにしたようだ。
「楽しそうですね、京子」
 隣にいたアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は愚神役を演じる予定はなく、そのままの姿で人々の救出に臨むようだ。
「たまには面白いじゃない? せっかく悪役になれる『ルール』があるんだから、楽しまないと」
 京子がそう言って何かを念じると、アリッサが見つめる京子の頭から2本のねじれた角が生え、京子の雰囲気も禍々しいものに変化する。
「愚神になるというより、実体のない幻を見せるだけのようですね」
 京子の『角』を触ろうとしてアリッサが手を伸ばすと、何の感触もなく手が角を素通りしたので、アリッサは『このゲームにおける愚神化』が視覚だけに留まるものだと見抜く。
「とても悪い女神というか、いかにも敵ボスっていうイメージにしたんだけど、どう?」
 そんな京子の言葉に、アリッサは首を横に振ってこう応じた。
「女神にはとても見えません。それに敵のボスがいきなり最初にお出迎えというのはありえないのでは?」
「うっ、いいじゃない。積極的なボスがいても!」
「そうですね。これは正規のゲームでもないですし、そのあたりはご自由にどうぞ。ですが悪ノリはほどほどに願います」
「はーい! じゃあ、アリッサは人々の救出、よろしくね」
「ええ、お任せ下さい」
 京子やアリッサはそんな会話をやりとりした後、共にライヴス通信機をそれぞれ装備し、京子はダンジョン入口に近い場所に向かい、アリッサはダンジョン中央に近い位置から行動を開始する。
 なお今回ライヴス通信機を複数持参していないエージェント達には、能力者と英雄が別行動をとっても互いに連絡がとれるよう、H.O.P.E.から予備のライヴス通信機を貸与されているので、互いの意思疎通や情報伝達に支障はない。
 そして愚神という役割に抵抗を覚える者も当然ながらいる。
「仮初とはいえ、愚神の姿を演じるのは腹立たしいですが……」
 内心穏やかでないアトリア(aa0032hero002)だったが、自分の役目を全力でこなすことに躊躇いはない。
「今回は通常の依頼とは状況が異なるが、大丈夫か?」
「言われるまでもありません。無駄口をたたいていないで、アナタは自分の持ち場へ行ってください」
 そんなアトリアを気遣う真壁 久朗(aa0032)だったが、アトリアはぴしゃりと久朗の言葉をはねのけると、片手だけ動かし久朗を追い払う仕草をする。
「今回はよろしくお願いします、真壁さん!」
「大変な状況のようですが、よろしくお願いします」
 そんな久朗に御代 つくし(aa0657)とメグル(aa0657hero001)が挨拶すると、久朗も『今回はよろしく頼む。御代、メグル』と応じ、自分を追い払う仕草をしていたアトリアを、つくしとメグルに紹介する。
「あ、ちゃんとご挨拶するのは初めて……ですよね。御代つくしですっ! よろしくお願いします」
「私はメグル、と申します。以後よろしくお願いいたします」
 今回初めて依頼を共にするアトリアにもつくしとメグルは挨拶すると、『こちらこそよろしくお願いします』とアトリアは礼儀正しく挨拶を返した。
 基本的にアトリアは礼儀正しいが、久朗に対してのみ辛辣な態度をとるようだ。
「アトリ自身も何故俺に対してきつくあたるのか、その理由がわからないのかもしれないな」
 ――俺自身、自分の感情が分からない事もあるのだから。
 ため息をつきながらも、久朗はこの世界に来て日が浅いアトリアの心境を、自身の状況に置き換えてそう考えてみたが、今は一般人の救助が先と判断しダンジョンの最奥へと移動する。
 ただアトリアにとっては口にこそ出さないが、共鳴をしなくても解決が可能というこの依頼は都合がよかった。
「私は私の役目を全力でこなすだけです」
 アトリアがそう言ってダンジョン中央よりやや入口に近い位置に骸骨姿の従魔を召喚して配備する中、メグルは複雑な心境で骸骨従魔を召喚していた。
「まさか従魔を……。それも骸骨の従魔を作って動かすことになるとは思いませんでしたよ、つくし」
 実はメグルとつくしは、以前から骸骨姿の従魔を使役する愚神達と戦う機会が多く、今まで退治してきた敵を使うという状況に、メグルは頭で理解していても抵抗を覚えていた。
「そこは人助けだと思って頑張って、メグル」
「そうですね、つくし。今回は救助すべき人達がいますから」
 つくしから励まされたメグルは気持ちを切り替え、つくしに最後の確認をする。
「人々の救助が最優先。ですが救出に動く仲間がいれば仲間に救出を任せて私達は守りを固める。それでよろしいですね?」
「うん。今回来てくれた仲間達を信頼してるから。後はお互い愚神の姿になることだね」
 つくしは何かを思い浮かべる仕草をすると、その身に悪役が着るようなコートを纏う姿に変わるのをメグルが確認すると、メグルもまたつくしに近い形のコートを纏う姿を念じてみる。
「えっと……ここなら、罠や従魔の設置を予定している味方を巻き込まない……はず」
 その近くでマップに地雷を書き込んでいた38は、京子の敷設した催眠ガスの罠に近い箇所には巻き込む恐れがあるとして、その周囲には地雷を敷設しなかった。
 やがて門扉が打ち破られ、ダンジョン内へ冒険者達や騎士団は喚声をあげ、猛然と押し寄せる。
 しかし敵全員が『冒』『騎』『魔』の文字にしかみえないので、迫力も現実感もなかった。

●演技と救出
「ふははは! この奥に進みたくば我を倒していくが良い!」
 ちょうど壁で挟まれ、少人数しか通れない場所に陣取り、あえて悪役っぽい口調で高笑いをあげる京子に敵達が殺到するが、到達寸前に足元から白いガスが噴出し、昏倒した敵の頭上に『ZZZ……』という文字が浮かび、敵達の動きが止まる。
 この時京子が敵に見せた姿に、睡眠ガスの罠を避けられた敵達から京子に向け『悪魔め!』と罵る言葉や何かの攻撃が京子に放たれるが、立ち塞がっていた京子の体を敵の攻撃はすり抜けた。
「愚かな……。あまりにも愚かだ。燃えつきろ!」
 京子はそう叫ぶと共にその口からは灼熱の業火を、その手からは禍々しい大鎌を振るう幻を敵達に放つと、眼前で眠りこける文字の群れに業火や大鎌の一閃が浴びせられる光景(ただし幻)が広がり、後方の敵達は悲鳴を上げる。
 催眠ガスの罠から逃れた敵達も、1体が38の敷いた地雷を踏むと同時に凄まじい爆風がその真下から噴き上がり、周囲の敵達が薙ぎ倒され、ポイントに変化する。
 ツラナミがポイントを回収する中、38は後をツラナミに託し怪物となった人々の救助に回る。
「近い人たちから、片っ端に、触って……救う」
 38の言葉通り、38に触れられた『怪』の文字は人の姿を取り戻したかと思うと、次々とダンジョンから消えていく。
 託されたツラナミはダンジョン中央の位置から骸骨姿の従魔を置いていたが、ある事に気が付いた。
「そういや敵に化け物の姿を見せるんだったな……」
 ツラナミはしばし考えを巡らせたが『……ま、いいか。このままで行こう』と決めた。
 その間にも、騎士と思しき文字が立ちはだかるつくしに襲いかかるが、その姿はつくしによって、魔術師を示す『魔』の文字に変えられ、近くで待ち構えていたメグルが操る骸骨に倒され、姿を消した。
「ここで足止め、だよー!」
 ポイント化された敵を回収したつくしが、なおも殺到する敵達にそう宣告するが、何かに気付いたのか慌てて咳払いしたつくしは敵達に向け、こう言い直した。
「ふははーっ! ここを通りたければ私を倒していくがよいー!」
 骸骨を操って敵を倒していたメグルは、豹変したつくしの様子に首を傾げていた。
「つくしは何の演技をしているんでしょうか? ……随分楽しそうですが」
 メグルは愚神役の演技を抑えていたが、魔術師に変えられた敵がつくしに吼えた『地獄へ戻れ、悪魔!』を耳にして、抑えるのを止めた。
「地獄へ行くのはそちらです」
 つくしを悪魔呼ばわりされたメグルは顔色一つ変えず、つくしの手で魔術師に変えられた敵にそう告げ、骸骨を差し向け『魔』の文字を消していき、その間に若葉、ラドシアス、久朗、アリッサ、38が『怪』の文字の間を駆け回る。
(救助した実感が湧かないな……)
 触れた途端、文字が人の姿になったと思ったら、次の瞬間には消えている光景が続き、ラドシアスは若干物足りなさを感じていた。
『救出できた人達を別の空間に待たせるだけにはしておけないね』
 自身も人々を『怪』の文字から元に戻して転移させていた若葉は、ある程度人々の救助が進んだと判断し、ライヴス通信機を介しラドシアスにそう伝えると、人々が転移した先の空間に繋がる階段へと駆けつけ、自身も転移する。
 ダンジョン中央部分での人々の救助は現在アリッサが実行中だ。
『出口から遠いところにいる人々の救出は任せて下さい』
 ライヴス通信機を介し、仲間達にそう伝達したアリッサは移動力を駆使して『怪』の文字に触れては人々の姿を元に戻していく。
「あなた方の悪夢は終わりです。私達の仲間がこの先で待っていますのでご安心下さい!」
 元の姿に戻り、転移していく人達にアリッサはそう声をかけて回り、38は隙間を埋める形で進む。
「救出範囲……被らないよう、動く」
 そして最奥区域では久朗がエリア全体を動き回り、無駄のない動きで『怪』の文字に触れて人の姿に戻していた。
『いまおよそ半分といったところだ。できるだけ急ぐ』
 人々を救助できた状況を久朗はライヴス通信機「雫」を介し、各所で奮闘する仲間達に伝え、救助していない人を見落とさぬよう、横長のマップに『救助済』の印を入れる事も忘れない。
 こうして順調に人々の救助活動とダンジョン防衛が進んでいるかに見えたが、後方で防衛ラインを形成していたアトリアが、並ぶ木々を切り倒し敵達には通行不可能な障害にしようと動いた時、アトリアがいくら木に攻撃しても、自分の攻撃は木を素通りし倒す事はできず、自身の体も通過できた事を確認し、ライヴス通信機で仲間達へ緊急連絡を入れる。
「このゲーム世界での私達は幽霊のような扱いになっています。私達自身を壁にする手段は使えません」
 実際眠りの罠から脱した敵が京子に襲いかかったが、敵は京子の体を素通りし、京子がとっさに後方に配した催眠ガスの罠にはまり、再び昏倒する。
「何の影響もなく通り抜けられるとは思わぬ事だな!」
 京子は悪役プレイを続けていたが、アリッサから『言われた通りお退き下さい』と連絡が入ると、既に京子は状況を把握していたのか素直に後退し、その間に他の敵は通過を果たし、後方へと突き進む。
『ごめんなさい! 突破されちゃいましたー!』
 敵の通過を確認したつくしは後方で救助活動にあたる仲間達に向け、ライヴス通信機で緊急連絡を入れると、後退して反撃密度を上げる動きに切り替える。
「後は任せます……と言いたいところですが、もう一働きするとしましょう」
 メグルもまた足止めとして骸骨達を残し、つくしに続いて後退すると、入れ替わるようにラドシアスが前に出て、温存していたポイントを使い、地雷を設置して敵に踏ませ、集まってきた敵を爆風で薙ぎ倒し、仲間達が後方の防衛ラインに集う動きを支援する。
「本当は敵をひきつけてから起爆するつもりだったが、人々を護るためだ。仕方ない」
 そう呟くラドシアスの近くでは、アトリアが殺到する敵を魔術師の『魔』の文字に変え、骸骨達に撃破させていく。
「このダンジョン、私達が幽霊のような状態で、直接敵に手出しできないというのはもどかしさが募ります」
「あー……だがよ。このままだと『離脱条件』、満たしてしまうだろう?」
 そこへ像の抱擁で敵を足止めしていたツラナミがやってきて、アトリアにもう一つの『ルール』の話を口にする。
 それは、エージェント達がこのダンジョンから強制排除される条件の一つに『敵を20体以上倒す』がある事だった。
 現状ではつくしやメグル、アトリアが敵を魔術師に変化させ骸骨を使い、38やラドシアスは地雷を設置して敵を倒しているが、倒した敵の数がそれぞれ20体以上となるのは時間の問題だ。
 その『条件』を満たさず敵達を防ぐ手法を、ツラナミは仲間達に提示する。
「だったら……相手を、あれだ。骸骨と『互角』のやつ、冒険者にすりゃいいんだろう?」
 そう言うとツラナミは、実際に殺到する敵達を魔術師ではなく冒険者を示す『冒』の文字に変えていき、自身の配備した骸骨達と激突させた。
 すると骸骨も『冒』の文字も共にその場から消えず、お互いその場に留まる拮抗状態となった。
「たぶん、これでいいんだろうな」
 ツラナミの策が有効だと気づいたつくしやメグル、京子やアトリアも敵を冒険者に変える活動に加わり、各場所で列の先頭を冒険者に変えられた敵の群れは骸骨達に阻まれ、完全にせき止められた。
 こうしてツラナミが導き出した『互角の状態に持ち込む』策がうまく機能する間に、38、アリッサ、ラドシアスの手で残る人々の救出も順調に進み、仕上げとして久朗が全力移動で防衛ラインより後方を駆けまわり、救助漏れがない事を確認後、ライヴス通信機「雫」で仲間達に『救出完了』の連絡を入れた。
「ダンジョン内にいる人々は全て救出できた。向こうの空間の攻略は目途がついている」
 仲間達への連絡と最終確認を終えた後、久朗はこの先にある、真継優輝の居る空間へ転移した。
 
●駒の隙間
 真継優輝がいる空間は、周囲は何も見渡せない暗闇が広がり、地面にあたるパネルと宙に浮かぶ真継優輝だけはよく見えるという奇妙な場所だった。
「私達はH.O.P.E.のエージェントです。皆さんを救出しにきました。現在脱出作業を進めていますので、指示があるまでその場を動かずお待ち下さい」
 入口にあたるパネルの上では、不安そうに忙しなく周囲に視線を巡らせる人々を、若葉が持参した水やチョコレートを配って落ち着かせながら、1人1人にそう声をかけて回り、不測の事態に備えて人々の護衛にあたっていた。
 いち早くこの空間へ転移した若葉の努力の甲斐あって、当初何が起こったのかわからず混乱状態だった人々も、今はある程度落ち着きを取り戻している。
(人々は文字になっていたのに、真継だけそのままというのは、不自然だよね)
 若葉は眼前の優輝が幻影である可能性も考慮していた。
「京子、出口に繋がる謎かけがあります」
「これのことよね? 『妃のもとまでどの駒にも見つからずにたどり着けた時の軌跡が出口を示す』……かあ」
 アリッサが発見し、京子が口にした内容をもとに、エージェント達はそれぞれの見解を口にする。
「恐らくパネルに書かれている『兵』『騎』『僧』『城』『王』の文字はそのままチェスの駒を示していると思います」
 メグルの言葉を受け、つくしは入口のパネルに書かれた別のヒントに目を通し、各駒が動く事のできる範囲を確認して呟いた。
「つまり各駒の移動範囲にある文字のパネルを踏んじゃ駄目ってことだよね」
「うん、私もそう思った」
 つくしや京子の言葉を受け、空間の間取りをマップの余白に記録していた久朗が、各駒が移動範囲にあたる部分の文字を消していき、移動できる箇所を絞り込む。
「各駒の移動範囲に触れないように進んで、『妃』のパネルまで到達できるルートが見つかったぞ」
 そして一足先に、該当するパネルを踏みながら久朗が『妃』のパネルに到達した時、到達までに通ったパネルの文字を拾い上げたアリッサ、つくし、久朗は同じ答えを口にした。
「「「きさきのみぎのます(です)(だよ)(だな)」」」
 そして該当するパネルに久朗、つくしが到達すると、パネルから『PUZZLE SOLVED!』(難問解決!)と光る文字が現れ、宙に浮かぶ優輝の姿が消えるのと入れ違いに、パネルの下から眠り続ける優輝の姿が現れた。
「真継、無事か」
「大丈夫、真継君?」
 久朗が優輝に声をかけ、つくしが優輝を介抱すると、優輝はゆっくりと目を覚まし、恥ずかしそうにつくしや久朗達に頭を下げた。
「すみません。捕まってしまいました。助けて下さりありがとうございます」
 やがて空間に浮かぶ光る文字から強烈な光が周囲に放たれ、エージェント達や人々を飲みこんでいく。
 閃光がおさまった後、そこはダンジョンから見慣れた光景に戻り、眼前のテーブルに問題のゲームブックが置かれていた。
「あー……、全員戻ってこれた、な」
 どうやら『ゲーム』は攻略できたと判断したツラナミは、どこか気だるげにそう呟いた。 

●救出完了
 こうしてゲームブックに精神を囚われた人々と真継優輝は、H.O.P.E.エージェント達の活躍により全員無事に救出された。
 H.O.P.E.の話では、精神を奪われ、眠る人々の体はH.O.P.E.の手配した病院で守られていたので、エージェント達がゲームブックを攻略した時点で精神が戻った人達は目を覚まし、今は全員退院し元の生活に戻ったという事だ。
「あれ? アリッサが愚神役を楽しむ話はどうなったの?」
「最初からそんな話はありません。あなたは十分楽しまれたはずです」
 京子はアリッサにそう尋ねたが、アリッサは首を横に振ってそう応じた。
「何はともあれ、捕まった人達が全員救出できたから帰ろう。みんな、お疲れさまーっ!」
 仲間達にそう言って頭を下げた京子はアリッサと共に家路につき、他のエージェント達もそれぞれの形で帰路につく。
「……魔物もあんな風に棲家を荒らされて大変だね」
 帰り際、若葉はゲーム内の事とはいえ、普段倒される側の魔物役に少し同情し、そんな若葉の考えをラドシアスは否定せず、こう応じる。
「立場が変われば考えも、物事への見方も変わる。世の中はそういうものだ」
 そして帰路に就く久朗は、アトリアと微妙な距離がある中、愚神達の意図を図りかねていた。
(このゲームブックの件もそうだが、なぜ愚神達はこんな回りくどいことをするんだろうな?)
 その疑問への応えはない。
 今はまだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    ツラナミaa1426

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
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