本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】大歓声、殺戮でSHOW

鳴海

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/02 16:45

掲示板

オープニング

――――――――――
ミッションタイプ:【敵撃破】
 このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
 詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。
――――――――――

●殺戮でSHOW
 晴れた休日、貴方はとある公園でのんびりしていた、本を読んでいたのかもしれないしうとうとしていたのかもしれない。あまりに長時間そこにいたのでちょっと忘れてしまったがまぁ、それ自体は大きな問題ではないだろう。
 そんな君がそろそろ帰ろうかなと足に力を入れると、あなたの隣に一人の男が腰かけてきた。
 当然あなたは不信に思うだろう、だってベンチなんて他に沢山あるのに、何で自分の隣に。
 そう思ったはずだ、単純に考えて自分に用事があるとしか思えない。
 話しかけた方がいいのだろうか。
 そうあなたは彼をまじまじと見つめる。上から下までのフォーマルな衣装、タキシードに身を包んだ、一言で表現するなら執事と言った初老の男。
 彼は君の視線に気が付くと微笑みを向けた。
「やぁ、ごきげんよう。いい天気ですな」
 そう彼は言うとベンチに深く座り直し、君の返事も待たずに言葉を続ける。
「見てごらんなさい、世の中平和であふれかえっている。蝶が飛び子供が遊び。しかしだ、こんな世界に生きていたら君の望みは叶わない違うかね?」
 珍妙な話を始める男、普段であれば一笑いして立ち去るところだったが、暇だったからだろうか、貴方は男の話を聞くことにする。
「君には望みがある、そしてそれ故に力を手に入れた、しかし、その力は君の願いをいまだに叶えてくれていない、そうではないかね?」
 そう紳士は君の瞳をじっと見つめた。 
「そんな君にとても良い話がある、聞いていくかね」
 その話に君は頷く。
「我々はとある番組を作っている」
 話が唐突に変わり戸惑うあなた。
「その番組では、魂を集めるんだ、集めた魂と引き換えに我々が願いを叶える」
「そう、これは番組なんだ。我々は君たちの魂を集めている光景を眺めて楽しむ。これはゲームなんだ」
 紳士はにやりと笑った。
「そして魂とは、君と同じリンカーから集めてもらう」
 その時だ、平和ボケしていたあなたの生存本能がやっと警鐘を鳴らし始めた。
 この男はまずい、そうあなたがベンチから立ち上がり、立ち去ろうとすると。彼は君の肩に手を置いて。
 そして言った。
「どこへ行こうというのかね、もうすでに番組は始まっているというのに」
 そう彼が立ち上がりその拳を虚空へと振るうと、軽い衝撃音がして、そして信じられない光景があなたの目の前に広がった。
 背景が4方向にばたりと倒れて、嘘のような大歓声が君を包んだ。
 見れば君はステージの上に立っていて、振り返るとあなたの後ろにリンカーたちがいる。
 浮かべる戸惑いの表情からあなたと同じように連れてこられたんだということが分かった。
「これから君たちには殺し合いゲームをしていただこう」
 そう紳士は笑う。これから最悪の番組収録が始まる。


●命とは霊力、賭ける物は霊石

 会場は喝采に包まれていた、今から自分たちを楽しませてくれる『殺し屋』たちに期待が溢れ返しているのだろう。
「では、これから脳みそ蒸発しきっちまった、デスピーポーに再度この番組のルールを説明するぜ!」
 そうタキシードの紳士は正確が一転、ヒャッハーでクレイジーな愚神『ディーラー』は告げる。
 すると天上に掲げられている超大型モニターに文字が表示された。

この番組のルール。
1 このゲームは他者の霊力、霊石を奪うのが目的。霊力は生命力に置き換えられ、相手の生命力を減らした分だけ生命力が回復する。そして生命力が自分の最大喘鳴力から溢れると霊石となる。
 これは物体なので攻撃されて奪われることはないが、衝撃で落としたりする可能性がある。
2 霊力、霊石総量は常に会場モニターやスマホからみられるHPで確認可能。総量順に順位が付けられている。
2 霊力を奪う方法は直接の戦闘。もしくはお題バトル
3 観客は『殺し屋』たちにかけていて、掛け金が駆けられる事に、一定量の霊石、霊力がバックされる。
4 NG行動をすると霊力が一割、観客に還元される。
5 戦闘フィールドは常に最下位の人物の得意フィールドで固定される。順位が変わるたびにフィールドが変わり、『殺し屋』たちはランダムでフィールドに配置される。
6 戦闘中に霊力(生命力)が0になった場合『デス治療室』と呼ばれる解剖室に運ばれ、能力値が大幅に強化されます。治療と称していろいろされるわけです。
 ただし、確定で洗脳状態になります。

「ゲームの勝利条件は単純。参加者全員で殺し合い、タイムアップ時に一番霊力、霊石を保有していた奴が勝利、何でも願いがかなうぜ」
 制限時間は2時間らしい。
「だから、リンカー改め『殺し屋』たちは存分に自分の欲望のために殺し合ってくれ!」

「地獄で永遠の責め苦を味わうデスピーポーたちの唯一の娯楽は他人が争う姿を見ること。今夜は発狂するぐらいに楽しんでいけや!」
 そう言うと画面が切り替わり、別の説明項目が表示された。

・フィールドルール

 『殺し屋』たちは下記の項目を設定し、設定されなかった場合キャラ設定を無視してディーラーが適当に設定します。
・得意フィールド
 (山、海と言った大雑把な物で構いません。迷路や宇宙と言ったとんでもないものでも可能)

 ただしフィールドは絶対に五キロ四方の四角い空間で表現される

 フィールドには固有のクリーチャーが存在するが、どんなフィールドが設定されるか分からないので『殺し屋』たちには全く情報がない。
 このクリーチャーは罠のようなもので、攻撃を受けると霊力(生命力)の15%が奪われる。
 ただし一撃で倒せる。

「では、『殺し屋』たち。おっと。これはリンカーのことだがよ。こいつらの準備が済むまで、こいつらの紹介を」

● 番組の真実
 あなたはそのあと控室に通された、何でもテレビ映えを良くするために衣装を代えたり化粧を施したりしないといけないらしい。
 そんな準備時間の間君は唐突にトイレに行きたくなった。
 君は楽屋を抜け出して施設内を徘徊する。
 すると『ディーラー』が何者かと話をしていた。
「おい、これでいんだろう?」
 その声に誰かが言葉を返すがその声は小さすぎて聞こえない。
「にしてもお前もせこいこと考えるよな。全員で争わせて、それからこいつらを殺そうなんてな」

「たく、こんなヤラセ初めてだぜ、だがな、テレビってのはそれでいい、ヤラセでもおもりおけりゃいいんだよ。というわけで乗らせてもらうぜ。ははは、楽しみだな」

解説

目標 ディーラーの撃破

● 愚神 『ディーラー』
 直接的な戦闘力は低いですが、命中と回避に特化しています。
 武装は拳銃とナイフで中距離戦を得意としています。
 また、自身が生成した、番組のフィールド内にワープする能力を持ちますがクールタイムが5分必要なようです。

●番組について
 今回はある程度番組に従うふりをしながら、目的とするのはディーラーの撃破です。
 プレイヤー同士の伝統をある程度演じながら『ディーラー』を倒す機会待つのです。
 彼は自在に場面を移動する能力、場面を転換させる能力を持ちますが、それを使えないタイミングが三つあります。
1 フィールドを変える能力、場面を転換させる能力を使ってから5分以内。
2 誰かが『デス治療室』に送られるタイミング(同行しないといけないので)
3 最終結果発表

 ただし、あまりに露骨にディーラーを攻撃すると観客(無数の雑魚従魔)が抗議、乱入してくるので、ディーラーを取り逃がす可能性があり注意が必要。
 ようは皆さんのこじつけ力が試されています、ディーラーを攻撃したのは何かの間違い。もしくはディーラーを攻撃することで番組が盛り上がるなら、それはそれで良しとされるでしょう。
  

リプレイ

【卓戯】大歓声、殺戮でSHOW

プロローグ 

「さぁ、お集まりのみなさん、舞台準備が整うまでに、再度ルールの確認をしておきましょう」
 活性が沸き立つ会場の中心、ライトがキラキラとステージを照らす、そんな居心地の悪い場所でリンカーたちは待機させられていた。
「あー久々の仕事だけどしんどそうだねぇ雪刃さん」
『佐々木 孝太郎(aa2574)』はそう、ため息をつき『雪刃(aa2574hero001)』も怪訝そうに眉をひそめる。
「正直私もこの妙ちくりんな戦いは自信がないです」
 対して楽しそうに観客に手を振るのは『氷斬 雹(aa0842)』である。
(アー……ヤッベ。この狂った歓声、ゾクゾクするゼ)
 不気味な笑みを浮かべ戦闘開始を今か今かと待っている。
 そんな彼と同様に、手を振り観客たちに答えるのはグラマラスな美女。
 彼女の名前は『魔法狂女』ヨハンナちゃんである。
 その正体は『ヨハン・リントヴルム(aa1933)』と『ファニー・リントヴルム(aa1933hero002)』が共鳴した姿なのだが。
 まぁ、デスピーポーの前にはそんな細かい事情や設定は無意味で不必要。
 問題は美女が口汚くののしり合いながら殺し合ってくれるかどうかである。
 それ故に彼女の期待度は高い。
 そんな彼女を見ていると、あー本当にテレビに出てしまったんだなと言う気がしてくる『御門 鈴音(aa0175)』である。
「……殺戮ショー……最近こういう事あったよね。犯人は……そんなわけないわよね…?」
『輝夜(aa0175hero001)』がその問いに答えた。
「うむ……あやつは塀の中じゃから犯人ではないと思うが……」
「どうしたのですか鈴音さん」
「うわ!」
 そう二人がこそこそと話していると『月鏡 由利菜(aa0873)』が二人の肩を叩いた。
 別段悪いことを話していたわけでもないが飛び上がる二人。
「どうしたんですか? 由利菜さん」
 鈴音がずり落ちたメガネを持ち上げて言う。
「この子を紹介したいと思って」
 そう由利菜は隣で佇む、みどり髪の少女に手をかけた。彼女の名前は『ウィリディス(aa0873hero002)』由利菜と契約した第二英雄である。
「よろしくお願いします」
「おお、にぎやかになってよいのう」
「えへへ、よろしくね」
 そうウィリディスははにかんだ。人懐っこい印象である。
「今日はどうされるよていですか?」
「えっと? どうって……」
 由利菜の問いかけに鈴音はハテナマークで返す。
「こんなことになってしまいましたけど、せっかくの機会ですし、お互いの実力を知るいい機会ではないですか?」
「え? それって……」
「模擬戦です」
 緊張がマックスになる鈴音。楽しそうにしている輝夜。
 そんな彼女たちをよそに、ウィリディスは由利菜と手を繋いで、そして引いた。
「いきなり容赦ない展開だね~……。でも、ク…ううん、ユリナの為に頑張るよ!
……あたし達の誓約、覚えてる?」
「いつも友達として親しく話す、でしょう?」

「さぁ、準備が整いましたよ!!」

 その時ディーラーが高らかにそう告げた。
 舞台装置がごうんごうんと音を立てて稼働し始める。
「では、みなさんに他者の命と引き換えてでも叶えたい願いを聞いてみましょう」
 ステージ上に光の玉が生まれてはスパークする。霊力が大量に流入してくるのを感じた。
「そう、例えばお嬢ちゃんは買ったらどんな願いを叶えたいかな?」
 そうディーラーが問いかけるとウィリディスは嬉しそうに笑った
「願いはね~……勝ってから考えてもいい?」
「まさかの内緒だ!」
 そうディーラーが告げるとなぜか観客たちは沸き立った。
「みんなのりのりみたいだね」
 ワープする最中『木霊・C・リュカ(aa0068)』は『御神 恭也(aa0127)』へ告げた。
「ああ、本当にこれしか娯楽がないんだろうな。俺達に殺し合いをさせて、自分は高みの見物か……性格が悪い」
 恭也は顔をしかめる。
「む~、仲間に刃を向けるなんてボクは嫌なんだけど」
『伊邪那美(aa0127hero001)』は眉をひそめてそう言った。
 そんな二人の隣では『凛道(aa0068hero002)』と『紫 征四郎(aa0076)』が遊んでる。征四郎を持ちあげてくるりと回したり、もうすっかり仲良しだった。
「ああ、忘れていた、今から全員の得意フィールドについて情報を共有しておこう」
 恭也が言うと『ユエリャン・李(aa0076hero002)』が答える。
「我々は砂地の予定だ……」
「見晴らしがよければ、ワープされても大丈夫かなって思いました」
 征四郎が答える。
 そしてその場にいる六人は頷くと共鳴。武器を構える。
 白んでいく景色にはもう、ステージは映っておらず、目の痛くなるほどの光が溢れている。
「悪趣味なのは変わりない! 叩き潰すぞ鈴音!」
 輝夜の声が白い闇の向こうに聞こえた。
「うん」
 そう答える鈴音の声に。ユエリャンの問いかけが重なった。
「偽りの無い真実を述べよ。君はどうしたい? おチビちゃん」
「終わらせます! こんなに酷く、悪趣味なゲームは!」


第一章 ランダムバトル。

 まず最初のステージはランダムで設定される。最初のステージは氷斬が指定したストーンヘンジ。
 ただ、ストーンヘンジとはイメージだけの問題で、実際は、広大な石床と、大きな石の柱が立ち並ぶフィールドになっていた。はるか上空にはストーンヘンジよろしく、平たい岩が乗っかっている。
 その岩をどうやって駆け上がったのだろうか、ヨハンナちゃんが平たい岩の上で一人観客に向けてアピールをしていた。
「デスピーポーの皆さん、こんばんはー。処刑場の青薔薇、魔法狂女ヨハンナちゃんでーす♪」
 自己紹介である、そして決めポーズ、ノリノリである。
「なんなんでしょうかね、あれ……」
『九字原 昂(aa0919)』は、そのステージに召喚されるなりそれに目を奪われて立ち尽くした。
 大変楽しそうなのはいいが、あれでは他の人間から狙い放題である。
 まぁ、昂自身はあまり、他者を攻撃する意思がないので良いとして、問題なのはこの番組を楽しむ気でいる連中だろう。例えば昂へ殴り掛かってこようとしている女性のように。
「は!」
 その拳による一撃を半身ひねって回避し、バックステップで距離を取る昂。
 よく見れば彼女は新人リンカーの紀子であった。
『町田紀子(aa4500)』なんだか『町田紀子(aa4500hero001)』なんだか、ぱっと見で判断がつきにくい。それにはまぁ、理由があるのだがその話はおいおいしよう。
「霊石頂戴する!」
 紀子が叫んだ。
「おっとと」
 怒涛の拳ラッシュである。右足に力を入れて体を一直線にしてのストレート。
 荷重がゼロの左足だけで地面を蹴り追撃のアッパー。
 着地してからのジャブと上段蹴り。しかしそれは全てすんでのところで当たらない。
「くそ!」
「うーん、どうしましょう」
「お前、わざとギリギリのところで回避しているだろ」
 紀子が拳を突き出して言い放った。
「……え、まぁ」
 なんてことはない昂からすれば、その攻撃は止まって見える、ただそれだけだった。
「く、まってろ今本気を出す」
「いやあなた方に構っている暇はないので、たとえば……あの人の相手なんてどうでしょう」
 そう昂が紀子の背後を指さす、するとゆっくりと紀子はその方向に首を向けた、すると無数に飛来するミサイルが。
「うわあああああああ」
 フリーガー乱射、トリガーハッピー。その暴挙に及んだのはもちろん魔法狂女ヨハンナちゃんである。
「まとめて、塵にしてあげる」
「この!」
 紀子が拳を振り上げ迫るがヨハンナちゃんはその攻撃を避けて観客に投げキッス。
 ちなみに、濛々とたちこめる煙の中にすでに昂はいなかった。
「くそ、まだ勝負はついていないのに。というよりお前、ふざけてるのか!!」
 そう紀子は拳を突き出した。
「おお真面目よん、でもでもぉ」
 ヨハンナは柔らかく地面に降り立ち再びフリーガーを構える。
「あたし、戦うのはあんまり好きじゃないのよね。一方的な弱い者いじめは大好きだけど」
 紀子の顔が引きつった。
 そして再びのトリガーハッピー、爆炎と硝煙の香りでうっとり微笑むヨハンナちゃん。もちろんファンサービスも欠かさない。
「死んだらどうせ地獄逝きだし、今のうちに仲良くしておくのもいいかも」
 爆炎に巻き込まれている間に順位表が塗り替わった。ヨハンナが堂々の一位、紀子が最下位に。
「フィールドチェーンジ! 早くも大迫力のバトルが繰り広げられ、ステージも変更だ!」
 あたりの景色が溶けるように消え、代わりに現れたのは『ヒーローの世界』燃え盛る丘、かがり火、敗れた旗。これは戦の跡地のようだ。
「へぇ、こういうこと」
 若干ステージ変更で位置をずらされたが、そんな妨害も負けず昂は戦場を駆ける。
「場所の情報がいちいち更新されると厄介だな……」
 そうディーラーの位置を予想しながら、スマホ内の全員の連絡先を確認した。
 控室で交換しておいたのだが、これが役に立つのは当分先になりそうだ。
「ディラーがどこに行ったか分からなくなる前に、追いつこう」
 そんな彼の探索を待つ間に各地戦場での戦いは激化する。

   *  *

「ほら、鈴音さん、スマイルスマイル」
「わたし、テレビ苦手で」
 そう戦場の端っこで辺りを散策しているのは鈴音、由利菜ペア。
 襲ってくる、半分炭のようになったゾンビを切り刻みながら二人は開けた場所を探していた。
――ここはどうじゃろうか……
 そう輝夜が提案する、二人は盆地となったそこをバトルフィールドと決めたようだ、輝夜の言葉に頷きあう。
 見ればすでに由利菜はまじめモード。
――本当にやるの?
 ウィリディスが不安そうに問いかけると由利菜は頷く。
「……以前から、鈴音さんと一度戦ってみたいと思っていました」
 そうグングニルを構える由利菜に鬼帝の剣を地面につき刺し真っ向から見据える鈴音。
「おおっと、ここで因縁の対決か?」
 そこにディーラーがワープして現れる。
「邪魔立て無用です」
 由利菜が鋭く言い放つ。
「勿論ですとも」
 そうディーラーは堪えた。面白いことを逃しては、デスMCとしての名が廃る、そう実況する気満々で彼は近くの大岩に座る。
 しかし彼は知らない、彼女らの真の思惑、そしてこれから味わうことになる本当の地獄を。
 二人の瞳が光った気がした。
「私を殺す気で来なさい……でないとあなたが死ぬわ!」
 鈴音は大剣の柄を握り引き抜くと、その勢いのままに由利菜に突貫した。
 鬼の様な覇気、由利菜は知っている、その力は戦場でたびたび目撃している。
 背中を預けるに足る鬼神のごとき力。
 それが今自分に振るわれると思うと、自分の胸の奥の深い部分が揺れることに気が付いた。
――楽しんでるの?
「ええ。少しだけ」
 由利菜はグングニルでその大剣を迎え撃った。
 腕がしびれる感覚。鈴音はわかってはいたが再度気を引き締め直す。
 彼女が本来連れている英雄はブレイブナイト。彼女とのコンビネーションは強力で。その結果護りも攻めも一流の最強クラスの剣士である。
 だが今は違う、戦場にろくに出たことがないバトルメディックの英雄を連れている。
 だがこの変化は、鈴音にとってどう転ぶのかはまだ量りかねていた。
――うわわわわ。
「落ちつていくださいリディス、彼女の動きをよくめで追って。彼女の攻撃は一撃でももらえば致命傷なのですから」
――鈴音よ!
「わかってる、長引けば長引くほど不利になる」
――そうじゃ、最初から全力で行け!
 つばぜり合いを鈴音は腕力で跳ねのけ素早くフォームを変更する。
 鈴音フォーム~戦極~二人の絆が進化させたあらたな姿。
 その腰に取り付けてあった弓に鈴音は手を伸ばす。
 破魔の力を纏った弓を、引き絞って解き放つ。
 それは流星のように由利菜へと飛来し。彼女が数秒前までいた地点を吹き飛ばした。
――何なの、あの威力。
「次が来ますよ!」
 破魔弓が唸りを上げる、想像を絶する連射。由利菜が全力で走っていなければとっくに命中していただろう。
 だが、全て回避して見せた。
 由利菜は飛ぶ。鈴音の頭上を取り、その手に握った槍を放つ。
「グングニル!!」
 その槍は高圧の霊力を纏い鈴音へ迫る。青い魔法陣が展開され、それに機動を修正されるように鈴音に迫った。
 それは、対物ライフルのようなものだ。
 あまりに威力が高すぎて、着弾点付近にいただけでも手足が吹き飛ぶ。
 それを輝夜は一瞬で理解した。
「防御じゃ!」
 真紅の剣が閃いて、魔法陣ごとグングニルとぶつかった。火花を散らす槍。
 それを鈴音は全力ではじくと、吹き飛ばされた槍は地上を疾走する主の手元へ。
「はあ!」
 由利菜はその槍を振るった。
 瞬間に三度、刺突を顔面、心臓。腹部を貫いて脊椎中央。 
 針の目をさすような正確な連撃を鈴音は的確に捌いて見せる。
「ぐぅ」
――持久力のなさが出てきておるな。まずいか。
 輝夜は自分たちの体の中から霊力が奪われつつあることを感じていた。
 さらに由利菜の攻撃は続く。
 振り上げられた槍を垂直に落とし、それを起点とした回転切り上げ。手首を返しやり先を下ろしてから。また逆サイド切り上げ。
 そして由利菜は一度バックステップ、仕切り直しをしたいようだ。
 だがそれを許す鈴音ではない。両足の筋力にまかせて飛ぶ。
 追従し、その大剣を砲弾のように突きだした。
 それを槍で防ぐ由利菜。
 だが衝撃波吸収しきれず背後の岩を砕いて停止する。
――なんなのこの人たち!
 動揺を隠せないウェリディス。
――は、ハントや異界探索と次元が違いすぎるよ!
「ケアレイを……」
 くらりと揺れた視界、頭を押さえて由利菜が立ち上がろうとする。
 しかしその視界に現れたのは鈴音。
 大きく体験を振りかぶって、その目はぎらついている。
――は、はい、ってうわわわ。
 慌てふためくウェリディス。しかし由利菜は逆に冷静だった。
 鈴音の服の袖に描かれた暗号。これはあらかじめ示し合せていたものだ。
(大振りの一撃……お願い……避けて)
 鈴音の懇願が通じたのか、唯一攻撃を避けられるスペース、右方向へ転がり込む。
 次いでその鈴音の一撃は大岩をぶち破って別のターゲットに激突する。
「ごはああああああああ!」
 そう、ディーラーである。
 上がる大爆笑、そして大喝采。
 余談だが、観客の反応はわかりやすいようにこちらの世界に中継されている。
「な、なんで俺に」
 腹部を抑えてうずくまるディーラー。
 そんな彼に鈴音は言い放った。
「すみません……。間違えました」
 口からさっきまで飲んでいたデスジュースを吐き出しながら言う。
「あ。そうだったんですね。ごぇ、次かかかかからは、気を付けてくださいね。ごぱぁ」
 そう言うと、ディーラーは指をぱっちんと鳴らして、テレポートした。

第二章 恐怖と喝采

 戦いは各地で長らく続いているようだった。
 スマホで確認すると、数字は大きく変動しているが、最下位は紀子であり。
 しばらくステージが変更されることもなさそうだった。
 そんな戦況を小高い丘で確認しながら氷斬は告げる。
「へーェ。面白いコトやってんジャン? 俺様がサイコーに盛り上げてやるヨ」
 彼は今絶賛熱い戦いを繰り広げてる鈴音たちの方ではなく、先ほどからこそこそと逃げ惑っている征四郎たちの方へと歩みを進める。
 そう彼女たちは逃げ惑っていた。
 この異常な状況に放り込まれて思考がついて行かないのかもしれない。
 そんな二人を、無常にも狂弾が襲う。
 足を打ち抜かれ転がる征四郎。
「死にたくない! こんなはずじゃなかったのに!」
 二十代女性の姿となった征四郎、普段とは違い柔らかいイメージを纏っているが、姿が変われば性格も変わるのだろうか、もう一人の相棒と共鳴したときでは考えられない、目に涙を浮かべるという表情を見せていた。
「場所を移動しよう、ここでは手当てができないから」
「なんでこんなことに……」
「大丈夫、大丈夫だよ」
 デスピープルから喝采が飛ぶ。何せ性格の悪いデスピープルたちのこと。
 彼らは見目麗しい女の子が傷つくのが大好きなのである。
 そしてそんな観客の喝采をよそに、リュカは何やらスマホをいじっている。
――小学校は……
「昨今児童関連は色んな所が厳しいから駄目、テレビ放送できなくなる」
 次いで弾丸が二人の頭上をかすめて飛び、二人はここも安全ではないと知る。走り逃げ惑う二人をギリギリの射程距離を保って氷斬が追い続けていた。
「らちが明かないね」
――打って出るか?
「そうだね、あ! せーちゃん、後ろよろしく」
「ええ! はい!」
 直後リュカは征四郎の肩を引いて、側面から襲ってくるゾンビをグリムリーパーで真っ二つに切り裂いた。
 征四郎は背後迫る弾丸を反射的にはじく。
 会場から驚きの声が上がった。
「やるぅ」
 氷斬は次弾を薬室に送り込みながら口笛を吹いて見せた。
 だがそう余裕ぶっていられるのも今の内、その射撃でリュカは位置を割り出すことに成功した。
 リュカはRPG-07Lを取り出し氷斬めがけ走る。対して氷斬も移動を開始。
 高所の岩場を早々に放棄し、足場の悪い砂利道に移動する。 
 そして飛来するRPG、それを打ち落とし氷斬はさらに後方へさがる。
「まとめておとしてやらぁ」
 目にも留まらぬ早業で三連射、二発はリュカへ、一発は征四郎へ。だがその弾丸を征四郎は一歩前に出て回避する。
 そのあまりの自然さに氷斬は驚いた。
 そしてそうこうしている間に目の前にはリュカが。
「さぁ。追い詰め……」
 だがそんな氷斬とリュカの間に更なる乱入者が割って入る。
 恭也がリュカと真っ向から相対する形で立っていた。さらにはその背後の征四郎に視線を向ける。
「ああ、恭ちゃん手伝いに来てくれたんだね」
 そうリュカが歩み寄るとその手を剣で弾き恭也は征四郎に歩み寄った。
「どうしたのですか?」
「いや、今日は馴れ合ってる気分ではなくてな」
 そう切っ先を征四郎へと向け前に、征四郎は威圧されて一歩後ろに下がった。
「さて、俺が生き残る為の犠牲になって貰おうか?」
 その言葉に愕然と目を見開く征四郎。
――……うわ~、恭也ってば生き生きとしてるよ。
 伊邪那美が若干引き気味にそう言った。ここに征四郎VS恭也。リュカVS氷斬という構図が誕生する。
 いわば二対一対一。これぞ乱戦とも言うべき戦いが始まる。
 まず動いたのは恭也。ドレッドノート特有のパワーを武器に突貫する。
 ドラゴンスレイヤーが命を欲して唸りを上げ、三日月宗近を真っ向からたたき折ろうと振り下ろされる。
 まるで棒切れのように宗近が軋む。
 だが一瞬攻撃を止めた隙に征四郎は受け流し回避。右に駆け抜け背後を取る。恭也は前に走り距離を取る。
「やめてください、こんなこと無意味です」
 征四郎は両手で刀を握って恭也に懇願した。
「お前にとってはそうなんだろう、だったらそれでいい」
 そう言って恭也は再度距離を詰める。
――うう……
 伊邪那美の無言の抗議に負けずに。
 振り下ろされた刃は斬首の一撃、それを征四郎は身を低くして、地面をすべるように回避。
 振り戻す勢いで横なぎにふられた攻撃を大きく後方に飛んで避けた。
 次いで脚力まかせに距離を詰めた恭也に対して。顔面に宗近を突き立てるように牽制。ドラゴンスレイヤーを踏みつけて大きく上に飛んだ。
 眼下には中距離を保ちながら銃撃戦をしているリュカと氷斬。
 その間に挟まって身動きが取れなくなっているディーラーがいた。
「ちょ! やめて、やめなさいってば」
 近くで休んでいるのを見つけ、巻き込むことに成功したらしい。
 リュカは恭也にアイコンタクトを送る。
 恭也は刃に霊力を纏わせ、あたかもリュカと氷斬を巻き込もうとしているかのように大きく刃を振るった。
 その攻撃は衝撃波で地を割り、岩を砕き、ディーラーに直撃する。
「げぼぁぁぁぁぁぁ」
「くらいたまえ」
――素が出てますよ。ユエリャン
 次いで征四郎のフリーガーが地表を炎の海と化す。
「うがあああああああ」
 黒こげになり、髪はないはずなのに頭がアフロになっている。
 そんなディーラーを見下ろして一言。
「そこにいると危ないぞ」
 ディーラーの頭の上にハテナマークが浮かぶ、まるで恭也が言うにはここにいるお前が悪いとでも言いたげではないか。
 しかし恭也、無表情な上にいかつい、つまり結構怖い。勢いと怖さに気おされてディーラーは思わず首を縦に振ってしまった。
「え。あ、はい。すみません」
 そんなディーラーの前で踵を返すと、恭也は逃してしまった征四郎とリュカを追う。
「正直、俺の戦い方では無いな……上手く演じてれば良いのだが」
――本来の恭也の戦い方って、相手の隙を突いたり誘発させて地味に攻撃する方法だからね。
「大切なのは如何に素早く確実に相手を倒すかだ。今回の様な見世物になる派手さは必要ない」
 その時だった、再び世界が揺らいだ、スマホを見れば順位が入れ替わったようだった。
 また場面転換してしまう。恭也たちは再び見知らぬ場所に飛ばされた。


第三章 死んでしまっても大丈夫、そうデス治療室ならね。

 ステージは変わって市街地、ここはとある青年が幼少時代ヴィランとして活動していた町を模しているらしい。
 その町のど真ん中で孝太郎はヨハンナの攻撃から逃げていた。
 自身の射程にギリギリ収まる程度の距離を維持しながらヨハンナを誘導していると言った方が近いかもしれない。
「うーん、演じるつってもなぁ。先輩方相手に一発でKOされると思うぜ?」
――観客の目もありますから手加減は期待できないです。必死に避けて下さい。
 そして開けた場所に出た直後孝太郎は反転。孤月を浴びせるように切り付ける。あまりに鮮やかな一撃、観衆がどっと沸き立った。
「おおっとヨハンナちゃん。判断をミスった! これは致命傷か?」
 そうコメントを並べ立てるディーラー、その陰に隠れ昂は攻撃のチャンスをうかがっていた。
「こちらが姿を見つけても、すぐにワープされるんじゃ、たまったものではありませんね」
 昴は考える、ワープ直後に奴の近くにいるにはどうしたらいいのか。
「あの作戦を実行に移す機会が来たのかな……」
 そう一人心地につぶやく昴に、視覚からフリーガーが撃ち込まれる。
 見れば、全身から血を吹き出しながらも狂った瞳で、あたり構わずフリーガーを乱射するヨハンナちゃんがいた。
「無差別だな……」
――あのご婦人楽しそうですね。 
 孝太郎がいい雪刃が答える。実際雪刃が見るヨハンナちゃんは笑っていた。
「ふふふふ」
 そう不気味に、そしてフリーガーを支えに立ち上がると、にやっと笑って告げた。
「ちょっと今単体攻撃を切らしてて範囲攻撃しかないけど、巻き込んじゃったらごめんなさいね?」
「どんな状況だよ!!」
 思わずディーラーが突っ込んだがその動きに反応したのか、殺戮少女ヨハンナちゃんの銃口がディーラーに向く、それだけではない、無数のフリーガーの弾頭が複製され三六〇度周囲に発射された。
 直後轟音、ステージの端からでもわかるほどの火の手が上がりそこに転がっていたのは孝太郎とディーラー。
「またしてもおれが……」
「くそ、手加減なしかよ」
 孝太郎が苦笑いを浮かべる。
「H.O.P.E.のエージェント様ともあろうお人が! ぶ・ざ・ま・ねェ~!」
 心底ムカつく表情のヨハンナちゃん、爆笑と喝采に沸く会場。
 デスピーポーはいつだって人の不幸とか下品な話が大好きである。
「というか、いい加減俺に攻撃するのやめてくれませんかね!」
 ディーラーは激怒した。 
「え、ディーラーだった? ごめんなさーい、てへぺろ☆」
 かわーいー、そう歓声が上がる、大人気である。
 だが次の瞬間、デスピーポーたちの胸を貫くショッキングな光景が広がることになる。
 突如ヨハンナちゃんの胸から突き出したのは刃。
 それは昂の手にした孤月であり、背後からの奇襲に防御する間も与えられなかった。
「そんな、私が……」
 次いでヨハンナちゃんに襲いかかったのは、先ほどの爆破で引き寄せられていた由利菜と鈴音。二人とも神経を削る戦闘が長く続けられたせいで鬼のような表情をしている。
 そんな二人の刃を十字に受け。ヨハンナちゃんは血を散布させながら倒れた。
 絶命、彼女の命は絶たれた、同じリンカーの手によって。
《  ヨハンナちゃーん  》
 会場から彼女の死を惜しむ声が聞こえる。まるでお通夜のような空気である、いやある意味お通夜だが。
「決闘の邪魔だったんです……そろそろ退場して頂きましょうか!」
 由利菜は真顔でそう告げた、怖い、ひたすらに怖い。
 その瞬間であった。ステージ上空の色が赤く変わりそして、サイレンの音が鳴り響いた。
 遠くからタンカーが運ばれてくる。突如由利菜の隣に現れる白衣の男。
 まぁ、マスクをつけたディーラーなのだが。
 彼は他のリンカーを下がらせると、ヨハンナちゃんをタンカーに乗せる。
「はい、はい危ないからね、デス治療室に運ぶからね」
「ちょっとまった」
 その時である、駆けつけてきたリュカと征四郎がタンカーの端っこを掴んだ。
――そうは許しません
 征四郎は告げる。
――ええい離しなさい獣め!
 凛道が声を大にして叫んだ。ついでにリュカがタンカーをガタガタ揺らす。
――ち、治療室など、お医者さんごっこでもすすするつもりですか!
 リュカはタンカーをバンバン叩く、あからさまにヨハンナちゃんの表情がウザったそうに変わった。
――羨ましい!
 怪しからんと言いたかったのだろう。
「いえ、あの治療ですから、確かに体はトンデモないことなりますけど、しごとですから」
――ええ、そこまで言うならしかたない、貴方はどうぞ続行してください僕が付き添いま……

――ロリコンは死ね!
 直後征四郎のフリーガーが火を噴いた。ディーラーへと放たれるファウスト。
「ひぃ」
 爆破、しかしタンカーは自動走行でヨハンナちゃんをデス治療室へ送り届けていく。
「被弾率が高い……今日は厄日だ」
 そうため息をつきながらディーラーもワープ。
「復活まで時間がかかるので、あなた達は好きに戦っててくださいね」
「好きに?」
 征四郎の口元がにやりと吊り上った。

第四章 改造されましておめでとう。
 
 そして第二ラウンドとばかりに戦闘が開始された、ヨハンが脱落し、最下位が氷斬となったことで再びフィールドはストーンヘンジへと変わった。
 その直後に事件は起こった
「ディーラーだ!! ディーラーがプレイヤーを攻撃しているぞ!!」
 そう、そうなのだ。ディーラーがあの中立でいなければならないはずのディーラーが参加者に向けてフリーガーを乱発しているのだ。
 整えられた石だたみは凸凹に、生命力の低い紀子や氷斬や孝太郎はそこらへんで炭のようになって転がっている、まさに地獄絵図。
 デスTVだけに地獄絵図。
 なぜだ、なぜこんなことをしたのだディーラーよ。
 しかしこのディラー本物ではないのだ。イメージプロジェクターで化けた征四郎なのだ。
 彼女は一通り霊石を荒稼ぎした後に、変身を解いた。
 悪戯は大成功で、会場はディーラー殺すべきのムードに染まっている。
「え? ちょっと会場を離れた間に何でこんなに殺気立ってるんですか?」
 そうです治療室から戻ってきたディーラー、さっそくブーイングを受ける。
「わぁ。ちょっとまって、わけはあとで聞きますから、その前に。はいお待ちかねの復活タイムです」
 そう、ディーラーの目の前にガタガタと飛び跳ねるロッカーのような形状の黒いボックスが現れた。だが聞く耳を持たないのは観客よりもリンカーの方である。
「あ! ディーラーだよ」
「ディラー許すまじ、今すぐ排除しましょう」
リュカのRPGが直撃、爆発の向こうのシルエットに昂がすれ違いざまに斬撃を仕掛けた。
 しかし、その煙の中にディーラーはいない。
「イミタンドミラーリング、なんちって」
「く……」
 歯噛みする昂である、ただ……。
「まぁ、いい、気を取り直して」
 そう、改めて紹介しようとするディラーしかし、そのディラーに改めて殴り掛かる紀子。
「うら!」
 その腹部にめり込むストレート。
「ほが!」
 ダウンするディラー
「いま、気合入れて攻撃したよね」
「気のせいだ」
 氷斬を狙って攻撃している体らしい。
「というか何で、こんなに俺に攻撃が当たるんですかね?」
「ディラーが、ここにいるのが悪い」
 のう紀子はあっけらかんと答えた。
 そう、ここは激戦区、リンカーたちがこの中央エリアに密集しているのでどうしても流れ弾が当たってしまうのだ。
 つまり、攻撃を食らうのが嫌ならここから出ていくしかない。
 そう、悪いのはディーラーなのだ
「邪魔ァ! 射線上にボサッと突っ立てんじゃねーゾ!!」
 氷斬は射線を遮るディーラーに怒り狂い、銃弾を乱射。あわてて逃げ出すディーラー
 ディーラーと一緒になって逃げる紀子。
「なんで俺の方に来てるんですか」
「ぐ、偶然だ!」
「死にたくない! こんなはずじゃなかったのに!」
 そんな逃走中の二人に征四郎が加わる。
「おや、こんな子いましたっけ」
「それより見てください、あの箱」
 征四郎が指をさす先にはディーラーが召喚した箱があった。
 だが今それには異様な変化が起こっている。
「手足が……」
 そう、長い黒い箱から手足が生えていたのだ、次いでその箱が粉々に吹き飛び、中から現れたのはヨハンナちゃん。
 いや、強化され瞳は黒く、膨大な霊力を纏ったその女性は。
 グレートヨハンナちゃんとも言うべき姿だった。

《  ヨハンナちゃーん、戻ってきてくれてうれしいよ!  》

 ディーラーの紹介を待っていられなかったヨハンナはデス治療室で必要以上に元気になってしまった肉体を駆使し、扉をぶち抜いたのであった。
「コヒュー。われ、ヨハンナ、おまえ、ころす」
「うわ、重傷な感じで洗脳されてるじゃないですか」
 絶句する征四郎。
 ヨハンナちゃんはストーンヘンジの柱を手でつかむと、それをへし折り砕き、槍のようにして投げた。
 それがディーラー周辺に着弾する。
「なんで俺!」
 そんなヨハンナちゃんを止めるべく切りかかるのは恭也。
 恭也の大剣を素手で弾き、はじいた大剣を掴んで引き寄せ振り回し投げる。
 めちゃくちゃである。
――う~、罪悪感が……。
 悲しむ伊邪那美をよそに恭也は着地、それと同時にダッシュ、刺突で弾き飛ばした。
「事前に話し合って互いに納得してるんだ。あまり気にするな」
――そうは言っても、友達を傷付けるのはちょっと……。
「……仕方ない。事が終わったら詫びを兼ねて食事でも奢るか」
――なんか、軽くない?
「洗脳……まさかキャラクターが崩壊してしまうほどだなんて、むごい」
 そうヨハンナちゃんの隣に立ったのは由利菜。
「私の力でどうにかなるか、わかりませんが少しでも楽になれば」
――クリアレイだよ
 そう浄化の光がヨハンナちゃんに降り注ぐ。すると彼女の体はみるみると正常な状態に戻っていった。
「よかった、何とかなったみたいですね」
 そう、聖女由利菜は微笑んでヨハンナに手を差し伸べた。
 一方そのころ、恐怖でうずくまってしまった征四郎に手を差し伸べるのはディーラー。
「怖いです、みんながみんなが狂ってしまいました」
「そんなところにいたら、敵に袋叩きにされてしまうよ」
 そう、ディーラのようにね。
「どうして、こんなひどいことをするのですか」
 征四郎はディーラーを見つめてそう言った。
「ごめんね、征四郎ちゃん。これは人に備わってる残酷な一面を眺める番組で、仕方ないんだよ、どちらかというと征四郎ちゃんがふつうなのさ。でもそれでいいんだよ、もっと泣いてね、みんなよろこぶから……さ」
 直後である、征四郎の両手が閃いた。猫騙である。
 目の前でぱちんとやるだけだが、霊力の通ったそれは現実の力士がやる威力の比ではない、具体的に言うと衝撃で目にダメージが入る。
「ぐおおおおおお!」
 そう転げまわっているディーラーのそばから、征四郎はテテテと小走りで距離を取り。
 それを確認したリュカは。
「おっと、まちがった」
 そう、ウェポンズレインで武装の雨を降らせた。
「ごはっ! 一体何が……」
 しかし目をあけたときにはもう、何が起きたか分からなくなっており、証拠も消え去り、涙目で訴える征四郎のかわりに血走った眼の鈴音とか。
 バーサーカー状態を解除されたはずなのに、あたり構わず攻撃しているヨハンナちゃん等に囲まれていた。
 これは、番組始まって以来のカオス。死を制したディーラーでさえも頭を抱える阿鼻叫喚が広がっているではないか。
「ストップ! ストップ、皆さんなんだがヒートアップしてますがあそこにほら、倒れている乙女、彼女をデス治療室に送らないといけませんからね。もう俺に攻撃しないでくださいね」
 そう、ディーラーはサイレンを鳴らしてタンカーを召喚。
 倒れている紀子を担ぎ上げようとした、すると紀子が目を覚まし。
「な!」
 ディーラーを羽交い絞めにした。
――私思ったんです。 
 知的な方の紀子が言った。
――この霊石、生命力に変換できるなら、生命力が0になった時に体に戻せば動けるようになるんじゃないかって。
「案の定だったわけだな。みんなやれ!!」 
 パワフルな方の紀子が言うと、全員が一斉攻撃でディーラーを屠りにかかる。
 紀子ごと。
「ぐおおおおおおおお」
 暴力の嵐がやむと目の前に立っていたのは由利菜と鈴音。
「……私達を意のままに操れるとでも思ったのですか!!」
 由利菜がそう告げると。
――どう藻掻いても、滅ぶのが君の運命だったんだよ?
 ウェイディスの一斉で二人は刃を振り下ろした。
 衝撃で吹き飛ばされる紀子。
 やっと逃げられる、そうワープモーションに入るディーラーだったが今度は体が動かない。
 昂による女郎蜘蛛である。そして。
「よーぅ。SATURIKU求めるフリークス共!!」
 氷斬とヨハンナちゃんが観客に向けて言葉を送る。 
 番組もいよいよクライマックスだ。
「ここに御座すは我らが愚神サマだ。コイツは俺達をアポ無く呼び寄せ、ご自分は高みの見物らしい。フェアじゃねーよなァ……? それとも、テメェは戦えない臆病モンか!! リングに上がって来ナァッ!!」
「来ナァッってあなた、俺いまリングにグルグル巻きなんですが、逃げられないんですが」
「それにこの人、ディーラーの身でありながら私たちを攻撃したわよね」
「それについては身に覚えが全くありません」
 ディーラーが騒ぎ立てる。
「犯人は皆そう言うわ!」
「そんな理不尽な!!」
「きっと霊石独り占めするつもりだったのね、許せないわ」
 その二人の言葉を受けてデスピーポーたち一斉の殺せコール。
「くそ、俺のデスファンまでもが」
「今の状態ならワープもできませんね……」
 そう不敵に微笑むのは征四郎。
「なに、おまえ。さっきまで泣いてたくせに何笑ってやがる」
――まったく、我輩にこんな無様を演じさせるとは!
「すみません、征四郎には荷が重くて」
「なんと、演技だったとは!!」
 そう今までの泣いて逃げる征四郎は全て演技であった。
 正体はユエリャンである。
「ぐおお、だましたのかぁぁ」
 ディーラーは往生際悪くもがく、そんな彼に凛道は告げた。
――罪には罰を、正義の刃を
その首、落として差し上げます
 ユエリャンが言葉を継ぐ。
――我輩は戦場を見てみたかった。
 我が愛し子が斯様な使命を背負うのかを。
 ……このように下卑た茶番、許さぬぞ。死んで詫びよ!
「ひ! ちょっとまって!」
 グリムリーパーと宗近が閃いて、ディーラーの頭がぼとりと落ちた。
 直後ステージが割れる勢いで歓声が鳴り響き、このゲームは幕を下ろした。


エピローグ

「結果?見なくても分かってる。どうせ最下位でしょう?あたしみたいなゴミカスがまともに渡り合えるわけないじゃない」
 そう共鳴を解除したヨハンは疲労のあまり座り込んだ。
「順位は出ないみたいだよ」
 そうファーニーが画面を指さすと、そこにはぐちゃぐちゃに表示されたスコアが。
 もう管理者がいないので、システム自体が破壊されたようだった。
 その後、全員はフィールドにあふれかえった霊石を自分の体内に戻すと救出のためにやってきたH.O.P.E.隊員に連れられてこの世界を後にする。



結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
  • 冷血なる破綻者
    氷斬 雹aa0842
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 冷血なる破綻者
    氷斬 雹aa0842
    機械|19才|男性|命中



  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中
  • エージェント
    ファニー・リントヴルムaa1933hero002
    英雄|7才|女性|カオ
  • エージェント
    佐々木 孝太郎aa2574
    人間|27才|男性|生命
  • エージェント
    雪刃aa2574hero001
    英雄|24才|女性|シャド
  • エージェント
    町田紀子aa4500
    人間|24才|女性|攻撃
  • エージェント
    町田紀子aa4500hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
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