本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】我らお江戸の影の華

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/05 19:22

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-

掲示板

オープニング

●尾江戸ですけど何か
 アクセス媒体を介した出入り口を抜けると『江戸時代』だった。などと、下手なパロディを打っている場合ではない。
 ここは尾江戸(おえど)。かつて日本にあった都市、江戸を再現したステージである。
 さて、ここでこの記録の執筆者たる『私』の存在をほのめかすことをご容赦願いたい。実は先刻より私の頭には大小の金ダライが3回ばかり降ってきている。おそらくは文中の『外来語』が原因だ。第一のタライが大きかったのは『昭和に書かれた小説の引用』が悪かったのだろう。この世界に迷い込んだ皆様も、ゆめゆめ世界観を壊すような言動は慎むように、と進言させていただこう。
 閑話休題。この尾江戸の治安を陰から支える機関、名を『望富(ほうぷ)』という。皆様はその一員である。望富に名を連ねる同志たちは、普段は武士や町人、あるいは町娘などである。まれに共鳴を活かして大道芸人や火消などの職に就いている者もいるが、彼らは『共鳴』という不可思議な現象についてはひた隠しにしている。つまりあくまで一人の人間として生きるか、一切のプライベートを隠しに隠して日々を送っている。――しくじった、今のタライは痛かった。
 この尾江戸で最近、妖(あやかし)の目撃が相次いでいる。皆様にはその調査、および妖の討伐をお願いしたい。

●尾江戸歩きの手引き
・皆様は尾江戸(おえど)の特殊警察『望富(ほうぷ)』の一員です。
・尾江戸とは日本の江戸に非常によく似た都市です。
・世を忍ぶ仮の姿、すなわち昼間の職業についてはご自由に決めてください。
・服装は和服とします。
・髪や目、肌の色や名前によって、異人扱いされることはありません。目立つこともなければ差別されることもなし、とします。
・皆様の『名前』、『AGW』、『スキル』については外来語や外国製品の使用を認めます。罰則はありませんが、気になる方は当て字で漢字を決めると良いかもしれません。
・あまり言葉遣いにこだわる必要はありませんが、『外来語』や『現代風の言葉(若者言葉や略語など)』を使った場合、タライや桶などが落ちてきますのでご注意ください。戦闘中だと困るのは言わずもがな、人によっては大いに威厳を失います。
・その他の時代考証については過剰にこだわる必要はありません。最低限『時代劇や教科書などで見る江戸』のイメージを守ってくだされば、みなさんの頭頂部は安全に保たれることでしょう。

●顔無きお尋ね者
 下手人――知性がありそうな事から愚神(ぐしん)と仮定しよう――は、大変ないたずら者である。夜道に現れては人を驚かせて生命力(検閲者注:ライヴス)を奪ったり、ときには屋台を襲って食べ物を根こそぎ奪っていったりする。
「客の食べかけまで残さず食べてくってんだから、大した食欲だねぇ。妖のくせにさ」
 と蕎麦屋の主人が言うのには驚きである。妖ではなく愚神や従魔だとしても異色である。
「店に入(へぇ)って来た時は普通のお武家様に見えたんだがね」
「へへっ、俺が見たのは水の垂れるような美しい娘よ。どうせ化かされるんならこっちの姿がいいわな」
 証言もまちまち。愚神は変化(へんげ)の術を持っているらしい。
「そういやぁ八っつぁん、あそこの辻に人魂がでるってぇ話は本当なのかい? ……あれ、お客さん?」
「なんでぃ。注文もしねぇで、急に消ぇやがった」
 時間が来たようだ。私が残せる手掛かりはここまで。あとはお江戸の影の華『望富』の皆様にお任せ致しましょう。それでは失敬。

解説

ミッションタイプ:【エリア探索】【一般人救助】
このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
 詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。
――――――――――

・『望富』隠れ家での顔見せと作戦会議からスタートします。
・共鳴前、および共鳴時の姿は、服装のみ和服に変更されます。
・このシナリオにおいてのみ、武器の見た目を世界観に合うように変えても構いません。(西洋刀や斧→日本刀など)また、変えなくても誰かが疑問を感じることはありません。
・通信機、携帯電話は使用不可です。
・ペン、現代風の衣服、ライターなどは使用可ですが、タライが降ります。

【敵】
愚神:貉小僧(むじなこぞう)
 従魔たちを束ねる存在。変身の名人で男にも女にも化けるらしい。
(プレイヤー情報:実は複数名存在しており、それぞれ変身の得意分野がある。一人一人はミーレス~弱めのデクリオ級相当の強さ。全員を倒せば『貉小僧』は消滅する。依代は不明。)

従魔:唐傘おばけ、提灯おばけ、人魂、猫又
 人を驚かすのが得意。リンカーであっても、急に出て来られるとびっくりしてしまう。非常に弱いため、共鳴時なら1~2撃で倒せる。

【救出対象】※プレイヤー情報
『私』:ゾーンに捕らわれ『語り手』としての仕事を与えられている。現在は霊のような存在になっており、プレイヤーたちと接触することはできない。事件の解決によって自動的に解放される。
 
【目撃者】
・大工の平八(へいはち):OPに登場した蕎麦屋の客、女好き
・米屋の玄蔵:ドけち、権力に弱い
・飛脚の甚吾(じんご):尾江戸で休暇中、明るく気のいい男
・髪結い床の亭主・万吉(まんきち):飲兵衛のダメ亭主
・歌舞伎役者・連十郎(れんじゅうろう):人気役者、会うのは一苦労
※蕎麦屋の店主はOPで出した以上の情報を持っていません。

リプレイ

●影の華、咲く刻
 時代劇といえば侍。不知火あけび(aa4519hero001)は張り切っていた。
「侍の腕の見せ所だね! 貉小僧に天誅を下すよ!」
 普段通りの武者袴に刀。寺子屋で読み書きを教える侍という設定なのだ。
(こいつ楽しそうだな……忍者のくせに)
 日暮仙寿(aa4519)は町散策が趣味の侍として同行する。北条 ゆら(aa0651)は若党の格好に脇差、髪は頭の高い位置で一つに結び女侍を演じる。相棒のシド(aa0651hero001)は浪人者で、着流しに太刀を帯びている。
「一だ」
「あたしは御剣。うちの人の愛想無しは堪忍しとくれよ。こんな面ァ下げて虫も殺せない男なのサ」
 ニノマエ(aa4381)とミツルギ サヤ(aa4381hero001)は食堂を営む夫婦者という役柄だ。
「僕は流雨、お嬢様だよ! こっちは照樹」
 大店の娘に扮したルー・マクシー(aa3681hero001)は高価そうな振袖姿、テジュ・シングレット(aa3681)は奉公人らしく地味な色合いの着物を着ている。
「ルー……流雨の猫探しを行う予定だ。猫又の情報が集められればと思っている」
 さて次。話し合いの結果、牡丹(aa1655hero001)は芸者、蓮華 芙蓉(aa1655)はその置屋の娘ということになったのだが。
「私普段と変わらないじゃん!!!」
「芙蓉、静かにしなんし」
 ちなみに芙蓉の出した案は、牡丹から見ればそれこそ普段と変わらないお仕事だ。
「私は殿様人鳥を相棒に大道芸人をしています」
 酒又 織歌(aa4300)の言葉に待ったをかけるのは、存在自体が世界観を破壊しかねない爆弾、ペンギン皇帝(aa4300hero001)。 彼の役は『珍しい鳥』という特例だ。
「その、『殿様人鳥』とは余の事であるか」
「そうですよ? あ、殿様ですし、王冠の代わりに丁髷でものせましょうか」
 鳴き声で「いらぬ」と主張され織歌は残念そうだ。
「っと、俺らがラスト……」
 風呂桶が降った。痛みにうずくまる金獅(aa0086hero001)を一顧だにせず、そこはかとなく高貴な色気を持つ町娘――宇津木 明珠(aa0086)が名乗る。
「……瓦版屋を営む明珠と申します。隣が金獅。今回が初任務になりますので、勉強させて頂きたいと思います。宜しくお願い致します。ところで今彼の頭に当たったものが見えた方、音が聞こえた方はいらっしゃいますか?」
 皆が頷く。どうやらタライの落下は他人にも認識できるようだ。照樹も実験しておきたいという。
「何を言おう……?」
 相棒の面白画像を残そうと流雨が何か取り出す。
「ルー……お願いだからカメラを構えるな」
 二人揃って金ダライを食らった彼らはおとなしく席に着いた。タライはどこからともなく現れ、正確に頭頂部を打ち、地面に着く前に消えてしまう――これこそ怪異と思っては負けである――そんな観察結果も得られた。
「何故そんな確認を?」
 一が言う。
「どうやらこのタライ、私たちにしか認知できないようなのです。緊急時の連絡に使えないかと思案しておりましたが、遠方までは音が届きそうもありませんね」
「笛はどうでしょう?」
 女侍に扮したゆらが言う。呼子笛、そして街の地図については望富から支給してもらうことにした。
「俺は飛脚の甚吾に当たろう。あけびの教え子にも聞き込んでみるかね」
 仙寿の言葉をきっかけに皆で行き先を分担する。夕刻に再びここで集合することとし、この場は解散となった。

●奇談蒐集
 戯作者のキース=ロロッカ(aa3593)と妹役の匂坂 紙姫(aa3593hero001)は目撃者の連十郎と会うため控室を訪れた。
「流石天才と名高い連十郎さん、今度の公演も満員御礼。素敵な事です」
 世間話で場を温めてから本題へ。
「ところでボクは次の演目を作るべく奮闘してるんですがね、妖の話でいいのがなくて。何か知恵が無いかと思いまして」
 連十郎が見たのは『弁慶』だという。
「勧進帳の夢たぁ、大した芝居馬鹿だって笑われちまったよ」
 紙姫が詳しい場所を聞き、地図に印をつける。
「あと、資料として梟笛を借りられますか?」
「構わねぇよ。いいモンを書いておくれ」
 仙寿は飛脚の甚吾宅を訪ねた。人気者だけあって家はすぐ見つかり、彼を団子屋に誘い出すことができた。餡蜜を食べながら聞く。
「江戸の町はどうです?」
「変わってないね、と言いたい処だが……アレが出るからね」
 そこで話を切った甚吾は団子を頬張る。
「美味いだろ? ここは尾江戸一の茶屋だ。だから貉小僧に狙われたんじゃないかって心配だったんだよ」
「ハハ、今んとこその心配はねぇな。大方俺の顔にビビってんだろうよ」
 店主も話に加わりたいようで近くの席に座った。
「やっぱり江戸はその話で持ち切りかィ」
「ええ。情報通の甚吾さんにお聞きしたいんですけど、貉小僧についてご存じないですか? 子供達が心配で」
 あけびが言う。
「其々の時間と場所、現れた奴の姿が分かると有難いんだけどな? 親父、甚吾さんにもう一本つけてやって」
 甚吾が見たのは尼だという。
「周りに人魂がいっぱい飛んでてさ。見るからに人外さ」
「それは……ご無事でよかったです」
 愚神に会って無事だったのだから、とは言えないが。
「そういやぁ同じような刻限に蕎麦屋の旦那が食い逃げに遭ったそうなんだがね。旦那にゃ悪いが、そりゃただの食い逃げ野郎だ。こっちが本物に違いねェからさ」
「同時刻に……?」
 仙寿とあけびは密かに互いの目を見た。
「他には何かあります?」
 様々な形をとる妖の噂だが、尾江戸から外では一切聞かないという。行動範囲の狭い『妖』のようだ。
「まだ見つからないの?!」
「御仁すまんが、黒斑の猫を見なかったか?」
 男を呼び止めたのは身なりの良い娘とお付きらしき男。
「ああっ! 可愛すぎて猫又に連れてかれたのよ絶対! ね、猫又とか妖怪変化を見なかった?!」
「すまん……うちのお嬢、こんななんだ。何でもいい情報があったら教えてくれ。頼む」
 悲壮感に負けて男は頭を捻る。
「さぁねェ、この辺は猫が多いから。可愛いもんだから貧しい者でもついつい餌付けしちまうのサ」
「そうか……」
 聞けば、猫探しを装って辿り着いたここは尾江戸の東、長屋の密集地帯で別名『野良猫横丁』というらしい。
「猫又は恐らく従魔だろう。依代が猫だとすれば低級であればあるほど依代の姿に近いはずだ」
「じゃ、マタタビで釣れるかもしれないよね」
「本当にやるのか?」
 根気よく声をかけ、猫又の目撃情報が多いのは武士に襲われた蕎麦屋も出ている尾江戸の南であると突き止めた。裏路地の行き止まりを選んでマタタビを擦りつけて罠としつつ、『鷹の目』を飛ばし街全体を見て置くのも忘れない。地図だけではわからない街の凹凸を把握しておきたかったのだ。高い建物がないせいで火の見櫓がよく目立つ。こういう景色も良いものだと照樹は思った。
「さぁてお立会い。ご用とお急ぎでない方はほんのしばらくお耳とお時間を拝借」
 大通りに響き渡ったのは歯切れのよい文句。
「これにあるは遥か南のそのまた南、暖かいのを行き過ぎて何故か寒くなった不可思議な地より迷い込んだ、世にも奇妙な鳥の相棒、その名も殿様人鳥。殿様とは大層な名前ですが、見てくださいなこのふてぶてしい様を……ね、納得でしょう?」
「ふてぶてしいとはなんだ」
 客たちが身を前に乗り出す。
「鳥の癖に人様の言葉を喋るんですから、偉そうにするのも無理ありません……が、お殿様に知られると気を悪くされるかもしれませんので、名前の事はここだけの話で、ご内密に」
 「違ぇねェや」と笑いが起こる。
「さておき、何方様もお立会い。さればこの殿様人鳥と私は何をする? そう、芸をいくつか披露しましょう。お気に召しましたら、心からの感歎と幾許かの心づけ……それと噂話でも聞かせてくれますかね?」
「噂?」
「何分、気ままに芸で暮らすような性分なもので、好奇心の虫を治めるのも大変! なので、一つご協力頂きたいって話ですよ」
「面白れぇ、お手並み拝見と行こう!」
 まずは殿様の頭上に林檎を載せ、目隠しした織歌が弓で射抜く。
「織歌、今のは危なかったぞ!」
「静かに。手元が狂ったらどうするんで……すっ」
「ぐあっ!」
 林檎が転がる。殿様人鳥は――とっさに身をかがめたおかげで無事だった。林檎にはしっかり矢が刺さっていた。
「お見事! 串焼きにするのかと思ったぜ」
「もうお兄さんたら。と言うわけで次は火吹き芸を披露しましょうか」
「ぐ、ぐあっ!」
 火吹き芸やら玉乗りやらをリンカーの身体能力と丈夫さでこなし、興行は盛り上がった。
「面妖な動物ならあっちにいる、って聞いてきたら……」
 噂を集め終わった頃、流雨が照樹を伴って現れた。
「……で、その家にはよく懐いた猫がいたそうなんです。亡くなった夫婦のお葬式の日なんかずっと家の周りをうろうろしてたと」
「俺たちも似たような噂を聞いた。しかし猫又の目撃情報は街の南寄り……関連性はいかがなものか」
「残された子供たちはどこかに引き取られてしまってて、話は聞けないみたいだしね」
 情報交換を終えた織歌のお腹からぐぅという音。
「頂いたおひねりで腹ごしらえですね」
 ずぞぞ、と見事な音を立ててそばをすするのは織歌とゆら。屋台に入ると、丁度彼らが聞き込みの最中だったのだ。
「その時々で姿が変わるのか……。それとも複数妖が存在するのか……」
 思案気に顎を撫でるシド。
「午後の興行はあの橋の辺りにするか。そなたらはどうする?」
「俺たちは市中を回りながら米屋にも顔を出すことにしようと思っている。歩き回るうちに、奴らがどこに出るか目星を付けられたらいいんだがな」
 平八の所在に関しては当てが外れたが、彼が人魂を見たという辻の場所については主人から確認できた上、そばが存外おいしかったのでゆらはあまり気にしていない。当の平八は仕事のあった南町付近で牡丹に捕まっていた。――色々な意味で。
「芙蓉、そこに団子屋が」
「わぁい!」
 不機嫌だった芙蓉も団子ひとつで見事に懐柔されていた。
「で、姐さん。妖を見た辻ってのはね……」
 妖を見た時の状況やその妖が化けていたという女性に特徴はあったか、その他にも違和感などはあったかと質問していく。女好きの平八は牡丹の色香に当てられっぱなしで夜の予定などを聞いてくるが、牡丹は見事にかわしつつ欲しい情報をもぎ取って言った。
「全く同じ着物を着た女を茂吉も見てるのさ」
 派手で高価そうな着物を着ている割には、いつも同じ服装。依代は目の肥えた花街の女や裕福な娘ではなさそうだ。
「仕事に行ってくんなまし。わっちは働き者が好きでありんすぇ」
 平八を体よく追い払った牡丹の元へ芙蓉が帰ってきた。付近を散歩がてら見て回っていたらしい。
「ねぇねぇ! ホラーな話聞いてきたよ!」
 タライの衝撃に慣れてきた――慣れるほど食らったらしい――芙蓉は言う。
「空き家から夜な夜な物音がするんだって」
 仙寿とあけびは寺子屋の子供たちから情報を仕入れていた。同人物の出現場所に法則は見つからないか、と考えていた二人だがどんぴしゃり。彼らは分担でもあるように同じような場所に現れるそうだ。一番の収穫は――。
「同じ時刻に複数現れてるのか……?」
 愚神は複数いるとしか思えないことであった。
 一は市場を回って食材と狢小僧の噂を仕入れ、被害にあった屋台に顔を出す。御剣は酒とおでんを持って髪結い床の万吉の元へ。
「面白いものを見ちまったんだって? おかみさんもひと休みしてつまんで、日頃の憂さを晴らしなよォ」
 妻が座ると夫は胡乱な目で話出す。
「耳が早ェな。見たとも、気味悪くニタニタ笑ったお歯黒女よ」
「この酔っぱらいめェ。物の怪って言ったら白い着物に青白い顔だろう。話を聞きゃあ、どこにでもいるおっかさんじゃないかイ」
 夫婦喧嘩は犬も食わぬ。御剣が悠然と収束を待っていると、妻がこちらに水を向ける。
「そういやァまた一人? あの無愛想な旦那、うちほどじゃないがやたらと留守が多いじゃないか」
 それは望富としての仕事をこなしているためだが――御剣は笑う。
「うちの亭主が時々姿を消すのはね、ふらっと何処か女のところへ行っちまうからサ」
 米屋ではゆらとシドが唸っていた。
「ほう。つまり話を聞きたいなら銭を払えと。そういうことか」
 つらつら続いたお題目を要約するとその一言に尽きるのだ。懐手をしたシドが顔を玄蔵に近付ける。
「物は考えようだぞ、玄蔵。ここで良い情報をもたらしておけば、のちのちお上からたんまり褒美が……」
 揺れる米屋。ゆらが咳払いした。もうひと押しだ。
「こちらが襲われた米屋でしょうか?」
「瓦版屋?」
 玄蔵は嫌な顔をしたが明珠はにこりと笑う。
「実は取材ついでに使い走りをしていまして。お代官様は妖が夢中になる程の米なら贔屓にしたいとのこと、ここが違うなら急ぎ他を当たらなければ……」
 お代官様のお得意先。おまけに褒美がたんまり。玄蔵がようやく落ちた。
「お上からご褒美あるわけないのに、あんなこと言って良かったの?」
「米屋はいくらでも貯めこんでるさ。褒美がなくとも困りはすまい。玄蔵も世のためになる行いができて良かっただろうさ」
 ゆらは事前にシドに読ませた時代小説を思い浮かべ、少しだけ反省した。
「……シドに変な知識与えちゃったかも……?」
 その頃金獅は辻でがらくたを拾っていた。道行く者が訳を聞くと彼は恥ずかしそうに笑った。
「ただの探し物だ。物のついでってやつさ」

●薄暮の会談
「北町の辻には人魂を連れた尼」
 仙寿が言う。
「南町の屋台には武士。化け猫も似たような地域だよね」
 流雨が続ける。
「綺麗な着物の美人さんも」
 芙蓉が付け足した。
「東町の米屋には相撲取りが押し入り米強盗」
 ゆらがニノマエに目をやる。
「お歯黒女が出たのは同じく東の『野良猫横丁』。うちの店の近くだ」
「で、空き家で物音がするのも『野良猫横丁』なんだよ!」
 再び芙蓉が言った。
「そして西側には芝居小屋。連十郎さんが弁慶に長刀を奪われたそうです。芝居用の作り物ですけどね」
 照樹が地図にそれぞれの情報を追記する。
「これほど散らばっているとは」
「ああ。愚神は最高で6体、か」
 仙寿が低い声で呟いた。
「情報に食い違いがあるならどれが本物の愚神だか、分担して当たってみるかい」
 御剣が提案するとキースが苦い顔をする。
「本格的に、情報の伝達手段が必要ですね」
 しばしの沈黙を破ったのは明珠だ。
「手持ち花火を持って移動する事で道筋を示しては如何でしょう。尾江戸の夜は灯りが少ないでしょうから目立つかと。愚神発見時は吹出花火で手持ち花火との差別化を図れば問題ないかと思います……ただ」
「何だよ、火ならライターで」
 袋入りの花火とライターを取り出した金獅子にタライが命中した。
「現代風の意匠の花火には目をつむってくれるようですね。問題は戦闘を行いながらの点火でしょうか」
 キースは少し考えて代案を返す。
「ではこうしましょう。従魔発見時は何らかの方法でタライを落とす。愚神の場合は花火を打ち上げ、断続的に呼子笛を鳴らしながら戦う。これなら負担が少ないはずです」
 なるほど、と明珠が言う。
「従魔は比較的弱いと考えられますから近くの方に存在が伝われば十分ということですね。失言などでうっかりタライが落ちてしまっても、愚神が出たと伝わるより被害が少ないでしょう」
「逆に愚神は花火で広範囲に存在を示すと同時に、ボクからも位置情報を発信することで複数名で当たれるようにします」
 梟笛での合図の後、提灯の灯を黒い紙で遮ることで点滅させ、大まかな方角を知らせるのだ。点滅1回で北、2回で北東……という風に。
「討伐完了後は一旦櫓に来て報告をしてもらい、ボクからは他の方の討伐状況をお伝えします」
「櫓を情報拠点とする訳ですね」
 他の者も異論はないようだ。
「タライを落とすのかぁ。いざやろうって思うと思いつかないかも」
 芙蓉が首を傾げる。
「よろしければご利用ください」
 明珠はこれまでに記録してきた『金獅タライ語録』を披露した。
「もし単独での討伐が不安なら櫓まで誘導して下さい。援護します」
 日が暮れた。闇に溶けるように影の華たちが散開した。

●花火と喧嘩
「闇夜に出ずる、妖を、淡き月光、身に受けて、一刀の元に、斬伏せる、手練の武士(もののふ)、誰ぞ名を知る」
「……どうしたんですか、紙姫?」
 櫓の上。背中合わせの紙姫に尋ねる。
「歌舞伎の台詞ってこんな感じだよね? 折角だし、キース君の作品見てみたいな!」
「そうですか。ではそのまま言葉を紡いでいて下さい」
 キースは微笑する。
「火花散る、今宵の喧嘩、明けにけり、尾江戸の東、ゆらりみつるぎ」
 共鳴し、東町を歩いていたゆらを脅かしたのは唐傘お化けだった。
「きゃっ。びっくりした!」
 しかしこれは好機である。『支配者の言葉』の言葉の継続時間から鑑みて道案内を頼むのは不可能。とすれば、残る可能性は。
「貴方の主人はどこにいるの?」
 無反応。従魔には知性も言語能力もなかった。
「ミステイク、か」
 そのとき、タライの音とかぶさるように花火が上がった。近い。
 愚神を釣り上げたのは共鳴して御剣の姿となった一だった。餌は『高級お弁当』である。既婚者を表すお歯黒を施した女は、店から出てきた一の持つ包みをひったくって逃げたのだ。
「食べる前にお代は払ってもらうよ」
 地図で見た街路を思い出しながら『暴れ剣撃(すとーむえっじ)』を放ち、櫓方面へと追い詰める。
「こっちか?」
 呼子笛の音の方角へ向かう途中、ゆらは違和感に気づいた。
「この店『一』って……」
 主が不在のはずの食堂が大きく戸を開いている。そっと侵入すると。
「くっ」
 見事な突き出し。店内で食材を貪っていた相撲取りが攻撃してきたのだ。体勢を立て直したゆらが一撃の元に巨体を切り伏せる。居合斬りだ。
「え……」
 露わになった依代の姿にゆらは絶句した。
「お土産を忘れてるよ」
 御剣がとうもろこしを投げるとお歯黒女が振り返った。そこに無数の剣が降り注ぐと子供のように痛みに泣いた。
「話には聞いてたが……何だか愛嬌のある連中だ、優しく月影へ戻してやりたいねェ」
 空から降る月の光で(うぇぽんずれいん)。
「『子供』は早くおやすみね」
 その言葉はちょっとした洒落のつもりだった――。
 明珠と織歌は北の辻で待機していた。昼間に金獅が拾ったものを、従魔の依代として置いているのだ。やがて割れ鍋やら破れ提灯がふわりと舞い上がり、彼女らは固唾を呑む。打ち捨てられた者たちを慈しむような眼で現れたのは、白く発光する尼僧。
「汝は雑魚を頼む」
「はい」
 彼女らの表情は真剣そのものだった。
「うらぁ! 蕎麦だのスシだのファーストフードにヘルシーさなんていらねーんだよ! カロリーよこせ! チーズマシマシのギトギトハンバーガーをテイクアウトプリーズ!」
「パフェ! プリン! クレープ!」
 大量のタライが降り注ぐ。――織歌は完全についていく者を間違えていた。
「ファイヤー!」
 花火を上げ、タライに脳天を叩かれつつ飛びかかった明珠を、尼はひらりとかわす。そしてためらいなく敵に背を向け走り出す。
「もう良いであろう、馬鹿者。頭を打ちすぎたか?」
 主導権を取り返した明珠は忍のように屋根を渡って、尼を先回りした。大太刀《獅子刀》が月光を受けて閃き、尼僧を切り伏せた。「他愛もない。しかし随分と臆病な愚神であったな。依代の影響が濃いと見える……顔色は悪くないが一応診せておくか」
 明珠は未だタライの音がし続ける辻へと引き返した。
 ところ変わって街の西。あけびと仙寿が闇を駆ける。
「暗いのに迷い無く進むな……さすが忍者」
「私は侍だよ!?」
 漫才は長くは続かなかった。
「本当に出た、弁慶!」
「あけび、いつもの口上やってやれ」
「サムライガール只今参上! ……痛っ!?」
 闇夜に光り輝く翼が浮かび羽が舞う。共鳴後の仙寿がそこにいた。
「蔓延る悪は切り捨て御免!」
(勝手に口上を作るんじゃねぇ!)
 槍と長刀がぶつかり合う。素人臭い力任せの筋であるのに、つい打ち負けてしまいそうだ。
「武器が欲しいんだろう? ついてこい!」
 櫓が近づくと仙寿は暗い物陰に姿を隠す。きょろきょろとする弁慶の足をキースが撃ち抜く。そして。
(一対一は武士の誉、従魔・愚神には勿体無い! 闇討ちで十分だよ)
(……侍って何だったんだろうな……)
 背中から一太刀。膝をつき、地に伏した弁慶は霧消する。
「立往生、叶わず弁慶、倒れ伏し、再び見れば、あなや義経」
 倒れていたのは12歳くらいの少年。
「善一兄さま!」
 そこに現れたのは3歳ほどの男児を負ぶったゆらと5歳ほどの女児を抱えた一だった。
「牡丹に負けず劣らずの美人さんかも!」
 芙蓉が小声で感嘆の声を漏らす。闇に紛れ『潜伏』すると、彼女の正面に突如現れて『猫騙』。
「脅かし合いなら負けないよーっ!」
 怯んだ相手にはすかさず追い打ち。黒髪のような材質に変わった『ノーブルレイ』をあやとりをするように操る。
「はいっ髪縛り、っと!」
 銀糸に締め付けられ、甲高い悲鳴が響いた。
「んっ?」
 依代はボロボロの着物を着た娘だった。年の頃は共鳴前の芙蓉と変わらない。
(着物にも興味が出てくる年頃でありんす。着物の柄と髪飾りが今の季節に合っていんせんでありんしたが、こなたの身なりなら装飾に疎いのも頷けんす)
 照樹がマタタビの罠にかかった猫又を追うと、侍が明かりも持たずに歩いていた。猫を撫でているところを見ると、読みは当たりだったらしい。和槍を取り出すと、屋台へ向かう道を塞ぐよう『ジェミニストライク』で攻撃を開始する。一瞬遅れて、火をつけて地面に置いた花火が鳴った。キースからの信号を読み取った芙蓉が音を頼りに加勢に現れると、照樹は愚神とのつば競り合いの真っ最中だった。
「月夜の決闘かぁ! 時代劇っぽい!」
 しばらく見ていたかったがそうもいかない。両者が離れた間隙をついて愚神を拘束する。
「今がチャンスなんだよ! ……痛い!」
 白い忍が若侍を斬り捨てた。『弁慶』よりも少し幼い少年を保護し、彼らは櫓へと急いだ。
 『化け猫横丁』の長屋からは盗んだ米などが発見された。子供たちは誰かに引き取られたのではない、愚神に取りつかれたために姿を消したのだ。時折家で物音が立ったのも彼らの仕業。家に居ついていた野良猫が従魔になったのは頷ける話だが、憑りつかれてもなお、子らに懐いていたところは奇妙ながら健気であった。

●一件落着
「尾江戸、終わりか……」
 隠れ家。流雨が振袖の柄を見ながら寂しそうに言う。
「確かに趣があった、だが搾取のある世界はただの檻だ」
「うん」
 一方、大満足の様子なのがあけびだ。
「楽しかったー! サムライ充してた!」
「むしろシノビ充だったろ」
 仙寿は呆れ顔だ。
「私も、もっと尾江戸にいたいな」
「そうしたいが、俺たちにはまだ仕事が残されているからな。エージェントとしての」
「あ……」
 最後の最後で気を抜いたシドにタライが降り、ゆらは噴き出した。
「『闇夜之行燈』か、気に入ったぜ」
 借りた梟笛と完成させた作品を連十郎への土産としたキースは座頭のお墨付きをもらった。
「公演で見てみたいな!」
「無理なことを」
 にべもなく言うと紙姫がむきになる。通行人が「妹ォいじめんなよォ」とからかった。
 6人きょうだいはキースより少し遅れて隠れ家を訪れた。弁慶こと善一、侍の善二、尼僧おみつ、美女およつ、お歯黒――死んだ母親の姿だ――おいつと続き、相撲取り善六が最年少だ。愚神が化けた姿は各々が『なりたいもの』だった。男子は皆『強い者』、意外な『尼』という答えは親の死から導かれたのだろう。
「考えたんだけどねェ、うちで手伝いをしとくれないかい? いいだろアンタ」
 御剣が口火を切った。子供たちは顔を見合わせる。一はぶっきら棒に「面倒みるなァ手前よ。勝手にしろィ」と一言。
「僕も父上に伝手がないか掛け合ってみる」
 大店の娘である流雨も言う。
「6人一緒に暮らせたらいいよね! あ、大工の見習いとか募集してるかな。牡丹、平八さんに聞きに行こう」
 芙蓉が続く。紙姫は閃いた。
「善二君! 本物のお侍さんになるのは無理でも演じることはできるよ。役者を目指すのはどう?」
 あれこれと話し合う彼らの姿が光に包まれ、そして消えた。これにてハッピーエンド。私も自由の身だ。エージェントの皆様には感謝してもし切れない。ロールプレイを見た限り、私の作ったTTRPG『お江戸タライ回し』の出来も上々のようだし、発売日が楽しみだ――大量のタライが降ったところで、私は目を覚ました。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519

重体一覧

参加者

  • Analyst
    宇津木 明珠aa0086
    機械|20才|女性|防御
  • ワイルドファイター
    金獅aa0086hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 花の舞
    蓮華 芙蓉aa1655
    人間|9才|女性|回避
  • 金剛花王
    牡丹aa1655hero001
    英雄|21才|女性|シャド
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681
    獣人|27才|男性|回避
  • 絆を胸に
    ルー・マクシーaa3681hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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