本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】螺旋階段、迫り来る足跡

時鳥

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/25 18:36

掲示板

オープニング

●ついてくる足跡
 辺りを円形に囲まれた塔の内部のような場所。ここは一階。存在するのは石造りの白い壁と、その壁伝いに上へ上へとただただ伸びている螺旋階段のみ。
 出口を見つけることは、出来ない。
 背中に視線を感じた。振り返っても誰も『いない』。
 恐る恐る螺旋階段を上っていく。
 カン、カン、カン。
 鉄製の階段を上る自分の足音が塔の上まで響いて行った。
 ぺた……。
 しかし、背後から自分の足音は明らかに違う音が聞こえてくる。ぞくり、として足を止めた。
 ぺた……ぺた……。
 音はゆっくりと近づいてくる。後ろを確認するも誰の姿も見えない。そう、人の姿は。
 ただ、階段には赤い液体で足跡がつけられていた。
 いや、正しくは、足跡だけがゆっくりと、螺旋階段を上ってきていた。

 全力で階段を駆け上がる。あれは、なんだろうか、分からない。
 カン、カン、カン、カンッ。
 ぺた……ぺた……ぺた……。
 明らかについてきている。
 螺旋階段を上っていくと小さな踊り場に出た。木製の扉が二つ並んでいる。階段はまだ上へと続いているが、咄嗟に手前の扉を開けた。
 そこは広い画廊だった。隣に扉があることから左右どちらの扉を開けても同じところに出ただろうことが分かる。
 絵は正面に七枚が順に並んでいた。
 ぼんやりと絵を順繰りに眺める。
 画廊の中央には小さなテーブルがぽつん、と立っていた。その上には鍵が一つ、置いてある。
 その鍵を手にしようとテーブルまで寄り、手を伸ばした時、
 ぺた……
 という足音がすごく近くに聞こえた気がして、目の前が真っ黒に染まった。

●塔の内部は
 現代世界と異世界の狭間に形成されたドロップゾーン。テーブルトークRPGのルールブックを媒体に人間の精神体だけゾーンへと吸い込み捕らえる。
 H.O.P.Eはその事件の究明、解決の為、グロリア社と共に共同開発した「VR-TTRPGシステム」を利用し、ゾーン内へエージェント達を送り込んでいた。
 そして、今あなた達が訪れているのが「ついてくる足跡」というホラーシナリオが元と思われるエリアだ。
 出口の無い塔、壁伝いに上に伸びる螺旋階段。その途中に踊り場が四つ、そこにそれぞれ二つずつ木製の扉がある。螺旋階段を上りきった先には三つの大中小の扉が存在した。
 最初のスタート地点を一階として、次の踊り場を二階とする。
 二階の扉の先はどちらも同じ部屋に続いていた。画廊だ。
 画廊には七枚の絵が飾られている。左から順に少女が絵本を読んでいる絵、少年が恐竜の人形の尻尾を掴んで引きずっている絵、男女の結婚式の絵、書斎とおぼしき誰もいない部屋で本棚には不自然に一冊分の空白がある絵、キッチンに立つ女性の絵、リビングで食事をしている親子の絵、大きくただの四角が描かれている絵、と並んでいた。
 絵にはそれぞれタイトルがつけられ、タイトルの前には数字が振られている。何の番号だかは判然としない。
 数字とタイトルは以下の通りだ。

 少女がベッドの上で絵本を読んでいる絵
 10 すきなえほん

 少年が恐竜の人形の尻尾を掴んで引きずっている絵
 2 すきなおもちゃ

 男女の結婚式の絵
 4 結婚式を行った都市

 書斎とおぼしき誰もいない部屋で本棚には不自然に一冊分の空白がある絵
 5 抜けている本のタイトル

 キッチンに立つ女性の絵
 1 冷凍庫の中のモノ

 リビングで食事をしている親子の絵
 4 食べているモノ

 大きくただの四角が描かれている絵
 1 文字はカタカナ

 真中には小さなテーブルがあり鍵が一つ乗っている。そしてテーブルの裏に紙が一枚貼ってあった「最上階の三つの扉、正しい出口は一つ。チャンスは一度だけ」と書かれた紙が。
 三階は左の扉が少女の子供部屋。
 小さなベッドと多くのかわいらしい動物のぬいぐるみ達、勉強机、かわいらしいクローゼット。絵本が並んだ本棚がある。
 探索すると他の絵本とは違う場所に「ゆうくんのゆきだるま」という絵本が一冊だけ見つけることができる。
 右の扉は少年の子供部屋。
 おもちゃ箱には綺麗なロボットやボロボロの古い恐竜の人形、野球のグローブ等が収まっており、勉強机、ベッド、本棚が並んでる。
 探索すると昆虫図鑑や恐竜図鑑があり、恐竜の人形はアンキロサウルスだと分かる。カブトムシの入った虫籠もある。
 四階が左が両親の寝室。
 大きなベッドが一つ、クローゼットが二つ、アルバムの数冊入った小さめの本棚が一つ。本棚の上には三つ写真立てに入った写真が飾られている。
 写真立ての写真は結婚式の写真、赤ん坊の写真、親子三人で撮った写真、だ。
 ある写真の裏には「イタリア シエーナにて」と書かれている。
 日記を一つ、見つけることが出来るがその中には「結婚式はイタリアのシエーナという都市であげた、子供が××××年の3月に生まれた、親子で今度旅行に行く」という内容が見られる。ただし、日記の最後のページに「小さい扉は開けてはいけない」と震える文字で書かれていた。
 左の書斎。
 書斎机と椅子、後は隙間なく本が埋められた本棚が並んでいる。
 とある「夢の中のバレリーナ」というタイトルの本には一枚の紙が挟まっていた。「小さい扉の先には一つだけ目があった。見てはならない。絶対にだ」と、荒れた文字が羅列している。
 五階、左側扉、キッチン。右扉がリビングに出るが、この二つの部屋は内側で繋がっていた。
 キッチンには洗い場、コンロ、収納棚、大きな冷蔵庫がある。洗い場の下には包丁や調理器具、小麦粉、片栗粉、から揚げ粉、ごみ袋、キッチン用手袋などが各棚に収まっている。収納棚にはグラスや皿、スプーン、フォークなどなど。冷蔵庫を開ければ肉やバター、チーズ、などの新鮮な食材が収められている。野菜室にはもちろん、野菜や果物。冷凍庫にはアイスクリームが入っていた。
 リビングにはテーブルと四つの椅子。テーブルには出来たてと思わしきホットケーキが三皿、今にも食べる直前で人がいなくなったかのようにフォークとナイフ、はちみつ、牛乳の入ったグラスが置かれている。他にはテレビが一つ。
 そして最上階。そこには三つの大中小の扉が順に並んでいた。左から一番大きな扉、真ん中が中くらいの扉、右が一番小さな扉。
 どの扉も鍵が掛っている。
 調べればそんなことが分かるだろう。
 けれど気をつけてほしい。
 足跡は一人に一つ、ついてくる。そして止まらない。
 ゆっくりと、あなたの後ろに迫ってくる。
 追いつかれないように、正しい出口を探す。それがあなた達の目的だ。
 目を開けて、ここはそう、出口の無い塔の一階だ。

解説

●ミッションタイプ:【エリア探索/霊石採掘】
 このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
 詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●目標
メイン:足跡に追いつかれることなく正しい出口を見つけ出し、脱出する。
サブ:霊石入手
(霊石入手0でもシナリオは失敗にはならない)
 
●ゾーンルールについて
 このゾーンでは共鳴していなくても行動が可能である。
 ただし、一定の条件を満たしてしまうと離脱していまう。能力者か英雄かどちらかが条件を満たした場合、セットとして扱われ両方とも離脱となる。

●足跡について
 ゾーン内では一人に一つ、足跡が後をついてくる。足跡は階段を上れば上る程、追いついてくるスピードが上がる。
 探索対象を調べている間、ターンが経過し、そのターンが足跡が追いつく為に必要なターン数を超えた場合、追いつかれる。
 足跡に追いつかれた場合、全員が何をしていようともスタート地点に戻され、下の階の扉から鍵がかかり開かなくなってしまう。(左扉、右扉、次の階の左扉、という順で開かなくなる)
 同じ者が足跡に2回追いつかれると離脱してしまう。

●状況
 塔の一階からスタート。螺旋階段は人が3人並んで歩けるほどに広い。

●霊石のヒント
 霊石は各踊り場の階に一つずつ存在する。
 二階は人が二人描かれている絵の後ろ
 三階はうさぎちゃんのぬいぐるみの中
 四階は書斎にある何かの引き出しの中
 五階は食べているモノの中

●全体のヒント
 1.OPでは、「どこで」、何が見つかる、という形で書かれていない個所が多数あります。全てを探索していると足跡に追いつかれる可能性が高くなります。探索すべき場所を推察してみましょう。
 2.正しい扉のヒントは最初の画廊の謎を解くことです。
 3.絵の番号は絵の並び順ではありません。絵の番号とタイトルから導き出せる文字の文字数を考えてみましょう。

リプレイ


「アル=イスカンダリーヤの戦いが終わったと思ったら、再び慌ただしくなってきましたね……」
 月鏡 由利菜(aa0873)が急遽舞い込んだ依頼への参加招集に疲れの混じったため息を零す。他の依頼から帰ってきたばかりで疲労は回復してないが、卓上遊戯との関連が深いとあっては断れなかった。
「元の本と同様に謎解きもあるようだが……この塔の中で考えられる時間も少ないようだな。ともかく、やるしかあるまい」
 依頼の内容を確かめながらリーヴスラシル(aa0873hero001)が由利菜の気持ちを後押しする。
「謎解きは、好き。嬉しい」
 もう一組、依頼内容を確かめているのは化野 燈花(aa0041)と七水 憂(aa0041hero001)だった。普段は憂鬱そうな表情をしている憂が目を凄く輝かせている。
「そういえばそうでしたね。頼りにしてますよ」
「任せて」
 燈花の言葉に憂ははっきりと返事をした。
(ここは憂さんの助手になって頑張りましょうか)
 と、燈花は思う。
 彼女たちが向かうのは「ついてくる足跡」というホラーシナリオの世界。閉ざされた塔に、今、飛び込む。

 円形の一階広場に、計16名のエージェントが姿を現した。ひんやりと何とも言えぬ空気が足元から這い上がってくるようだ。
「この世界はホラーシナリオが元とかいってたよ」
「不気味な雰囲気ですよね! 何が出てくるんだろう?」
 志賀谷 京子(aa0150)がぐるり、と辺りを見回しながら様子を伺っている。その隣で彼女の二人目の英雄リディア・シュテーデル(aa0150hero002)が笑顔で答えた。しかし声音がわくわく、としたものとは少し違う。
(あっ、お化け屋敷で叫びながら楽しむタイプ……)
 京子はリディアに視線を向け納得したように一つ頷いた。
「なんだか雰囲気が怖いのですよ……」
 今回の参加者最年少である紫 征四郎(aa0076)は肩を縮めて鳥肌の立つ腕を抱きしめながら小さく零した。
「なんてことはない。ここにいるのは怨霊か生霊か、なんだか楽しくなってきたぞ!!」
「ユエリャン! ちょっと、引っ張るのはやめてください! リュカ、リンドウ、たすけてください!!」
 その征四郎の手を取り、彼女の第二の英雄ユエリャン・李(aa0076hero002)は楽し気に引っ張って早々に階段を登ろうとする。慌てて征四郎は共鳴をしようとしていた近くの木霊・C・リュカ(aa0068)と彼の第二英雄、凛道(aa0068hero002)に助けを求めた。
「え、あ、いえ……」
 しかし、凛道はもごもごと顔を赤らめている。征四郎に助けを求められて緊張したのだろう。
「ユエリャンちゃん、先に行きたいのも分かるけど、ちょっと待ってね!」
 と、リュカが助け舟を出した。先に他のメンバーと通信するための連絡交換をする必要がある、と判断したからだ。
 そして、通信機が繋がるか試したところ、外への通信は砂嵐のようなうめき声のような何かが聞こえてきて不可能だった。ただし塔内であれば多少の雑音が入るが通信可能のようだ。
「本のシナリオ上でも、外界と隔離された場所なのは明らかだな……ライヴスに頼ろう」
 リーヴスラシルがその結果を受けて納得したように頷いた。
 それぞれの通信機が繋がるように設定する。その合間にも塔の空気はどんどんと冷えてきているような変な雰囲気が漂う。
 この塔は出口の一つも見当たらない。何があるかも分からない。唯一ある階段を全員で上ることにした。
 階段を上っていく足音が塔の中に響いていく。
 少し上った辺りから後方から、ぺた……ぺた……と複数の足音が聞こえてきた。明らかに靴を履いていない足音。
「……シッ。足音が聞こえない?」
 音に最初に気が付いたのは京子だった。
「……姉さん、聞こえます! ぺた、ぺたと」
 リディアも耳を澄ませ聞こえた音に大きな声を出す。
 そこで各々が気が付き振り返ると赤い血の足跡が階段を幾つも上ってきていた。その数は、今の人数と同じ。圧巻というべきか数の多さに階段が赤く染まっていくようにも見える。
「こいつは中々手強いな」
「殴って済ませられる類ではありませんものね」
 赤城 龍哉(aa0090)が眉間に皺を寄せると隣を歩く英雄ヴァルトラウテ(aa0090hero001)が頷く。
「血の足跡……?」
「徐々に動きが速くなっているように感じる……恐らく、捕まれば抗えんぞ」
 由利菜も気が付き足跡をじっと見やる。じわじわと近づいてくる足跡を観察していたリーヴスラシルがその僅かな速度の変化に気が付いた。
「ぞおっとする……ウィンは平気なの?」
 同じように足跡を見て、榛名 縁(aa1575)は鳥肌の立つ両腕を摩りながら隣のウィンクルム(aa1575hero001)を伺う。
「貴方を失うこと以外に怖れるものは何もありませんので」
「またそゆこと言うし。でもありがと。ちょっと落ち着いた」
 心強い一言を返してくれるウィンクルムに縁はくすくすと笑いを零した。彼のおかげで鳥肌も収まり平常心でいられる。
「わははは! 足音がついてくるぞ、これは面白いな!」
「なんっにも面白くないのです!」
 一方、目を輝かせすごく楽しそうなのがユエリャンだ。それに征四郎が抗議の声を上げる。耐性のない征四郎は怖くて仕方ない。いつも一緒に行動してくれるリュカの方を見遣る。しかし今、共鳴をしている彼は凛道が主体であり、凛道は征四郎のような幼い子に近づくと胸が苦しくなるのでいつもよりずっと距離が遠かった。
「鬼ごっこか」
「危ないので気を付けてくださいね?」
 逢見仙也(aa4472)が付いてくる足跡を見ながら納得したように頷く。そんな彼に心配そうな視線を向け、クリストハルト クロフォード(aa4472hero002)は注意を促した。
「とりあえず、出来ることをやる。まずはそこからだ」
 全員が付いてくる足跡に視線を向けている中、頭を振り足跡から龍哉は目を背ける。実はあまりこういうのは得意ではないのだ。
「……”ついてくる足跡”、ね。急ごうか」
 龍哉の一言に京子も気を取り直し、全員に声を掛け先を急ぐ。すぐに二階の扉が姿を現した。


 二階の踊り場から二つの扉を開けて入ると、どちらも同じ部屋、画廊に通じていた。テーブルの上の鍵と七枚の絵がエージェント達を迎える。
「家庭を連想させる絵が多いね」
「ええ。ですが……数字に規則性は無く、タイトルも抽象的」
「謎解き、かな?」
 縁とウィンクルムが最初に絵に付けられた数字とタイトルの感想を述べる。
「順番になってない数字……よくあるのは、文字数だよね」
「タイトルの、ですか?」
「ここは違う、と思う。取り敢えず、記録お願い」
「解りました」
 憂が自身の過去の知識を振り返りながら思いついたものを口にする。そして燈花に写真を撮ってもらうようお願いした。
 他のメンバーもそれぞれスマフォ等で絵の情報を確保していく。
「こういう謎解きの類は、誰が用意するものなのでしょうか」
(どうだろう。あの足跡の人かな)
 凛道も写真を撮りながら呟き、リュカの内側からの言葉にドアの方へと視線を向ける。まだ足跡は追いついてきていないようだった。
(ね、ところでさ、これ最初と最後で、子供の数が合わないよね)
「一緒の人物かはわかりませんが、確かに子供が一人多いですね。ここに描かれている家族は、あくまで‘3人’です」
(……あの足跡、女の子? それとも男の子?)
 リュカの問いかけに凛道は首を傾げる。確かに絵の家族は三人だった。
「何か……呪術的な本でもあったのでしょうか?」
 と、由利菜が書庫の絵を見つめながら思考を巡らす。
「ホラーシナリオがベースのゾーンなら、本から悪魔が召喚されたり、霊が館の人間や物体に乗り移って惨劇の引き金が引かれる可能性は……?」
「……完全に否定はしないが……本のシナリオの内容をゾーンが完全に再現しているとは限らない。愚神によって故意に内容が歪められている可能性も考慮する必要があるぞ」
 ぶつぶつと呟く由利菜にリーヴラシルも一緒になって考え、様々な可能性を口にする。
「最後の絵は、何も書いてませんね」
「シカク? ……なんか怪しいな」
「スクウェア、クアドラ、他にも呼び方はあると思うのですけれど」
 征四郎が最後の絵の前で首を傾げると、その横で龍哉が絵を見て思ったままを口にするがしっくり来ずに征四郎と同じように首を傾ける。ヴァルトラウテが更に考えを補足した。
「”文字はカタカナ”、こういう謎々は得意です! ”ロ”ですよね!」
 そこに後ろからリディアが元気よく割り込んでくる。自信満々だ。
「すごいねぇ。他のは分かる?」
「あとは……、わかりません……」
 縁も横からひょこり、と顔を出し会話に加わる。しかしリディアは他の絵をじっと見てから残念そうに首を横に揺らした。
「あからさまにリドルだね。ほかの対象は塔の中、かな?」
 そんなリディアに京子がフォローを入れる。
「では、絵の分だけ対象があるということでしょうし、探索効率を上げる為、分担して捜索しませんか?」
 由利菜も混じってきて全員の顔を見渡しながら提案をした。異論がある者はいない。
 ぺた……足音が微かに聞こえた。
 征四郎が絵の裏にもう一つ絵があったりしたら困る、と簡単に絵を捲って覗き込んでいる。四角の絵の後ろには何もなかった。
 燈花と憂は逆の方から絵を捲って確かめている。仙也が三枚目の絵を剥がせないか、と試していた。
「お、もってけそう」
「邪魔になりますから持って行かない方が良いのでは?」
 そのまま抱えて持って行ってみようとする仙也にクリストハルトが突っ込みを入れた。
 その時――、ぺた……。音が明確に画廊に響く。
 振り返ると扉のすぐ傍に足跡ができていた。来た、のだ。画廊の気温が一気に下がる。
 だが幸いなことに足跡の速度はまだ早歩きすれば追いつかれない程度だろう。
 テーブルの傍にいたリュカが咄嗟に鍵を掴む。
 足跡は別れそれぞれの目的の人物へとゆっくりじわり、と近づいていく。
「絵の裏は調べ終わりましたよ」
「ヒントはなかったけど、こんなのを見つけたよ」
 燈花が全員に向かい声を掛け、憂が手にした霊石を軽く掲げて見せる。
「一度全員で階段を上がりながら分担のことを話そう!」
 くるり、と足跡をうまく巻いて京子が共鳴すると共に先に扉へと向かう。その掛け声にそれぞれが駆け出した。


 階段を上ると足跡との距離を広げることが出来た。普通に走る速度にもまだまだ追いついて来ないようだ。
 一度、仙也が思いついたように二つの扉の片方から他人を追う足跡が出てくる瞬間、もう一つの扉を潜り扉越しにすれ違うように通過したが、特に何も起こらなかった。
 三階の踊り場にたどり着く。
 二つの扉のうち、左の扉を開けて、凛道と征四郎が飛び込む。右の扉には燈花が入り込んだ。残りは階段を上がっていく。
 凛道と征四郎が入った先は少女の部屋だった。
「絵の中の女の子はベッドの上で本を読んでいたんですよね」
「ではベッド周りを探してみるのが妥当かもしれんな」
 ざっと室内を見回すと征四郎は撮った写真を確認しつつユエリャンと手分けして探索を開始する。
 念のため凛道は本棚や別の場所を見始めた。
 征四郎がベッドの上を、ユエリャンがベッド周りを物をどかしながら調べ始める。すると枕の下から一冊の絵本が出てきた。
「すきなえほん、これですね!」
 手に取り本のタイトルを確認する。「ゆうくんのゆきだるま」と書かれていた。
「では、僕が皆さんに連絡をしておきましょう」
「分かったのです。あとはぬいぐるみがたくさん、というのも少し気になるのでもう少し調べていくのですよ」
 その様子を見て凛道が声を掛ける。征四郎は頷くとぬいぐるみの山に視線を移した。
 凛道は部屋を出ていきながら通信機で新しく得た情報を伝えていく。
 ぬいぐるみを持ち上げて何かないか探す征四郎とユエリャン。ユエリャンが一つ明らかに綿にしては重いぬいぐるみに気が付き楽しそうに口元へ笑みを浮かべた。
 一方、少年の部屋でも同じように燈花と憂が探索をしていた。
「子供部屋、ですか。住人は男の子ですね」
「『すきなおもちゃ』の部屋、かな。燈花は恐竜の人形探して」
 憂の指示に従い、燈花はおもちゃ箱の中を探る。憂は本棚に視線を走らせていた。
 古い恐竜の人形を燈花は取り出し憂の元に持っていく。本棚に目ぼしいものが見当たらなかった憂は勉強机へと移動していた。勉強机には、昆虫図鑑や恐竜図鑑が並んでいる。燈花から渡された恐竜の人形を勉強机の横に置きながら憂は恐竜図鑑を開いた。
 そこへ凛道が姿を現す。
「見つかりましたか?」
「もう少し……」
 凛道の声掛けに憂は恐竜図鑑のページを捲りながら返事をした。
「あ、『すきなおもちゃ』の恐竜、アンキロサウルスだったよ」
 該当のページを見つけると振り返りすぐに情報を伝える憂。着々と必要なキーワードが集まっていく。
 そして四階。右の扉、書庫。
 共鳴して先にたどり着いた仙也は撮った写真と本棚を見比べている。そこへ由利菜とリーヴスラシル合流した。仙也が絵では外れているはずの本が嵌っていることを説明する。
 仙也は四階の探索開始からどれくらいの時間で捕まるか、というのを確認しており、書庫の残りを由利菜達に任せ、扉の向こうへ耳を澄ませた。
 本を由利菜が確認している間、リーヴスラシルが書斎机の引き出しを開ける。霊石がころん、と引き出しの中で転がっていた。
 隣の両親の部屋では、縁とウィンクルムがたどり着き辺りを見回していた。
「画廊の絵は、女の子と男の子と両親ぽい感じしたけど家族4人の写真は飾られてないんだね」
「少女と少年の絵は夫妻の子供、ではなく夫妻の幼少時代を描いたものとも考えられますが……」
「んー、食事の絵ってどうだったっけ」
 家族構成思い出していると、結婚式の写真を見つける。ウィンクルムの考えが正しいだろう。塔は上がるにつれ月日が経っていく様を現している。ある日、唐突に三人家族はいなくなった。それが絵に隠されたストーリー。
「《結婚式を行った都市》という絵がありましたね」
「都市名が手掛かり……かな?」
 ウィンクルムが写真を見つめてから撮った写真を確認する。結婚式の写真を縁が手に取った。ごく普通の写真立てだ。写真立てから写真を外そうとがちゃがちゃと弄り出す。しかし、少し古いせいなのか中々うまく外すことが出来ない。
 貸してください、とウィンクルムが試してみようとしたとき、視界が暗転した。
 誰かが足跡に追いつかれる前の五階手前。
「わたしたち、足は早いです。上階を目指しますね」
 と告げたリディアは全速力で共鳴したまま塔を駆け上ってきていた。
(……足音さんのペースも早くなった気がします)
(猶予はあげないってわけだ)
「む、負けません!」
 ぺたぺたという音が早くなっていることに気が付いたリディアが京子とやり取りをしながら気合を入れる。五階の右扉に飛び込んだ。
 そこはリビングだった。二人は共鳴を解く。
「ここはリビングですね。ホットケーキがありますよ!」
「食事している絵があったね。”食べているモノ”か。答えはホットケーキかな」
 ホットケーキにわくわくしているリディアに対し、京子は早々にキーワードの当たりをつける。
「美味しそうですよー?」
「食べるの? ……そうだね、食べてみようか」
 ホットケーキの前の椅子に座り京子を見るリディア。少し考えてから京子もその隣に腰を下ろした。京子は慎重にナイフで切ってホットケーキを口にする。対照的にリディアは勢いよくぱくっ、と頬張る。ホットケーキはまだ暖かくふんわりしっとりとしていて口の中に甘さが広がる。
「もう一皿もらっていいです?」
「くいしんぼさんめ。なんともない?」
 ぺろり、と平らげたリディアは残りの一皿に手を伸ばす。少し心配そうに京子はリディアの顔を覗き込むが平気! とばかりにリディアは二つ目のホットケーキも頬張った。――時、視界が黒に染まった。
 二人がホットケーキを食べ始めている頃、隣の部屋、キッチンでは龍哉がたどり着いていた。
 こちらも共鳴を解いてから冷蔵庫へと足を向ける。
「にしても面倒だな。ダイナマイト引き摺ってるようなもんか」
「時限式で導火線が付いてると思えばそうですわね」
 ついてきた足跡を思い返しながら呟く龍哉にヴァルトラウテが頷いた。達哉はそう認識する事で、幽霊的要素を頭の外に出している。つまり幽霊的要素だと認めたら怖いのだ。仕方がない。
 冷蔵庫には肉やバターなど様々な食材が入っている。
「冷凍庫の方ではないでしょうか?」
 龍哉が冷蔵庫を閉めると同時にヴァルトラウテが冷凍庫を開ける。不自然なことに冷凍庫にはアイスクリームのみが入っていた。つまり、と二人が言葉を交わそうとした瞬間、最初の場所へと戻ってきていた。


 塔一階。全員の姿が現れる。捕まったのは仙也だった。ただ彼はある意味作戦的に捕まった、とも言える。時間を図りながら足跡が追いつく時間を計算していたのだ。
 それぞれが得た情報をその場で共有する。通信機で共有するにも限界があったからだ。
「つまり、絵のタイトルに当てはまるものは一つ以外分かったのですね」
 と、凛道が情報をまとめていく。
「ごめんね。なんだかどうしても写真立てが開かなくて」
 縁が頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。何か運でも悪かったのだろうか。
「霊石が三つなのです」
 征四郎が自分が手にした手乗りサイズの霊石を見せながら燈花とリーヴスラシルの手に乗る霊石を数える。その時、まだ口の中に残っていたホットケーキを咀嚼していたリディアがガリっと何かを噛む。取り出してみると他の三つと同じ大きさの霊石だった。
「あ、霊石、四つですね!」
「の、飲み込まなくてよかったね」
 はーいっと、霊石を手に腕を上げるリディア。京子は半ば呆れ気味にリディアを見つめる。
「それで、これですが……」
 と、そこへ由利菜が一枚の紙を皆の前に差し出した。絵で欠けていた「夢の中のバレリーナ」というタイトルの本に挟まっていたというのだ。「小さい扉の先には一つだけ目があった。見てはならない。絶対にだ」と、荒れた文字で書かれている。
「これは……小さい扉には入るな、と言う警告でしょうか?」
 そうだろう、と何人かが頷いた。
「これからどうする?」
「わたしたちが行った部屋より上があったよね? どこまで上があるのかな」
 龍哉の問いかけに京子が先ほどのことを思い出しながら答える。すると征四郎が共鳴をして鷹の目を使い上を確かめる、と名乗り出た。その案に乗り、征四郎が上の階を確認している間、絵の謎か残りの一部屋の探索、もしくはまだあるかもしれない霊石の探索の役割分担を話し合う。
「……残っているのは最上階だけ、なのです。三つの大中小の扉があります」
 征四郎が飛ばした鷹から得られた情報を伝える。その情報から、一番素早い京子が一度最上階へ行く、と言い出した。
 しばらく話し合った後、四階の両親の部屋に縁、仙也、凛道が向かい、他は霊石を探す、という分担で落ち着いた。
 それぞれが各々のスピードで塔を駆け上がっていく。
「おチビちゃんは怖がりなのかい?」
 また、足跡が追いかけてくるかもしれない、と身震いをしている征四郎をユエリャンはじっと見つめて問いかける。
「う……怖い、ですよ。見損ないましたか?」
「まさか。君の感情は君だけのものだ、どうこう言うつもりはないよ。怖いのに、頑張るのだな」
 問い返す征四郎の言葉に首を横に揺らし、ユエリャンは目を細めた。
 四階ではそれぞれ共鳴を解いた五人が探索をしていた。写真立てをウィンクルムが開ける。一方で、仙也が日記を見つける。仙也が「結婚式はイタリアのシエーナという都市であげた」という文を見つけた直後に縁とウィンクルムも写真の裏の「イタリア シエーナにて」の文字を目にした。「シエーナ」これが最後のキーワード。
「わっ、また小さい扉?」
 日記の最後のページを開いた仙也が驚いたような声を上げると他の仲間が寄ってくる。「小さい扉は開けてはいけない」と震える文字で書かれていた。
「……こわい」
「シナリオ、とやらの演出でしょう。惑わされてはなりません」
 横から覗き込みぞくり、と寒気を感じた縁の呟きにウィンクルムがその寒気を払拭するように言葉を選んで返す。凛道がシエーナ、という単語を他のメンバーに通信機で伝え始めた。
 最上階では一気に駆け上がった京子と龍哉が扉の前で並んで立つ。足音はまだ遠いがぺた……という生易しいものではなくダッダッダッと駆け上がってくるような激しい音になっている。
 京子は扉の姿を写真に収めていく。そして、小さな扉を避け、ドアノブを回してみた。しかし、鍵がかかっているのか大きい扉も中くらいの扉も開く気配はない。
 そんな風に京子が試している間にも足音はどんどんどんどん大きくなってくる。背中に冷気が迫ってくるのを感じ、龍哉は心の中でダイナマイトだ、あれはダイナマイト、と自分に言い聞かせていた。
 鍵は凛道が持っている。これ以上この扉から情報は得られそうにない。後は、大人しく一度捕まるまでか。そう京子が考えているうちに視界はブラックアウトする。追いつかれた龍哉は足の裏になんとも言えない冷たい感触を覚えた。

 三度目の塔一階。スマフォの写真は消えておらず、絵とタイトル、見つけたものをまとめたメモ、を照らし合わせ、このシナリオの謎を解いていく。
「絵とタイトルはどの部屋で何を探せばいいのか、何処を探せばいいのかを、数字は見つけた物の名前やタイトルの何番目を用いるかを表している」
 と憂が説明を始める。その答えに行きついていたクリストハルトや他、数人がこくん、と頷いて答えた。

ゆうくんのゆきだるまの10番目、ま
アンキロサウルスの2番目、ん
シエーナの4番目、な
夢の中――ゆめのなかのバレリーナの5番目、か
アイスクリームの1番目、あ
ホットケーキの4番目、け
最後はカタカナのロが描かれているから、ろ

「まんなかあけろ」
 
 この答えに半数以上が辿り着いた以上、まず間違いはないだろう。
 シカク、だったら「まんなかあけし」とかになってちょっと変だったな、と龍哉は思う。
「最後の絵が、くちで出口のことかと思ってたよ」
「絵の順と塔の部屋の順は一致している様ですし、そのような意図もあったかもしれませんね」
 縁が「ロ」の描かれた絵の写真を見ながら思ってたことを口にするとウィンクルムが成程、と頷く。
「小さな扉の中が気になりますよね」
「わたしも気になる! でも好奇心猫を殺すっていうからな……」
 さて、ここから駆け上がって真ん中の扉を開けよう、という前にリディアが思い出したように呟く。京子も同意を示すものの少し渋った言い方をした。
「目があったなどとやってますし、小さいほうに居るのはあまり良くないものなのでしょう。ウレタンで少しドアの周りを固めますか?」
「時間かかるなら無理だろ」
 そこにクリストハルトが口を挟む。しかしすかさず仙也が突っ込んだ。中々いいコンビだ。
 鍵は一番素早い京子が受け取り、先頭を走って扉を開けることになった。龍哉が持っていた霊石は念のため凛道に預ける。
 そして一気に塔の最上部へと駆け上がっていった。
 足音は二人で上がった時の比ではないくらいに響いている。真ん中の扉の鍵を開け思いっきり開くと眩い光が扉から放たれた。その先に吸い込まれるように京子の姿が消える。正しい出口で間違いなかった。
 順々に光の中に消えて無事に脱出に成功するエージェント達。
 その時、各々の手の甲に何か文字が浮かぶ。それは見つけたキーワードだった。まるで貴方が見つけましたよ、と教えるように初めにキーワードを見つけた者の手に光で刻まれている。龍哉の手の甲にはシカク、と浮かんでいたがこのシナリオを支配する何かのお茶目だったのだろうか。
 光を抜ければ手の甲には何も映らないが……、ゲームクリアの証なのだろう。
「一緒に、帰ろう」
 と、最後に足跡を振り返り声を掛けていく縁。
 そして、一番後ろにいた凛道は足を止めた。もし、できるならば足跡もついてこれないか、と。
「出口の無い中で彷徨ってるのは、寂しいでしょう」
(ふふーふ、どうせなら一緒に脱出できたら素敵なゲームだね)
 半身で扉を支え吸い込まれそうになるのを耐えながら、足跡たちが追いついてくるのを待つ凛道。光に触れた足跡は赤から綺麗な空色へと変わった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 泣かせ演技の女優
    化野 燈花aa0041
    人間|17才|女性|攻撃
  • エージェント
    七水 憂aa0041hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • 分かち合う幸せ
    リディア・シュテーデルaa0150hero002
    英雄|14才|女性|ブレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575
    人間|20才|男性|生命
  • エージェント
    ウィンクルムaa1575hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    クリストハルト クロフォードaa4472hero002
    英雄|21才|男性|シャド
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