本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】眠れる森の魔女

弐号

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/28 21:45

掲示板

オープニング

●発端
 それは事の起こる数日前の事。
「テーブルトークRPGですか?」
「そーなの。誘われたのよ」
 テーブルに座り、ジェイソン・ブリッツ(az0023)の作る食事を待ちながらリラ(az0023hero001)がそう告げた。
「随分珍しいゲームに誘われましたね」
「グロリア社の新作何ですって。リラみたいに魔法のある世界から来た英雄にも感想が聞きたいって」
「……まあ、確かにリアリティの参考にはなりそうですね」
「リラは元の世界の事、ほとんど覚えてないんだけどねぇ。テーブルトークRPGっていうのもやった事ないし、大丈夫かしら」
 足をぶらぶらとしながらうーんと眉を顰める。
「私はやったことは無いですが、面白いと聞いた事はあります。素直な気持ちで楽しんでくればそれでいいのですよ、モニターというのは」
「そーねぇ。うふふ、楽しみにしてるわ」
 そう言って朗らかに笑うリラ。

 世界中でテーブルトークTRPGを媒体にドロップゾーンが展開されたのはその二日後の事である。

●悔恨
「馬鹿な……!」
 眠り続けるリラのベッドの横でジェイソンがきつく拳を握り、悔恨の表情を浮かべる。
 あの時に止められたのではないか?
 考えても意味のない後悔が脳裏に浮かぶ。そんなことは未来の分からぬこの身には不可能と知っていても考えてしまうのだ。
「落ち着いて、ジェイソン。まだいくらでも助ける方法はあるから」
 付き添いで来ていたH.O.P.E.技術研究課の同僚のリリイ レイドール(az0048hero001)が慰めるように背中を叩く。
「まずは西大寺のお嬢さんと話し合いだね。お互い協力できるところは協力して行かないと」
 リリイがスマホを取り出し、相棒の連絡先を検索する。スケジュールの調停役としては自分の相棒ほど頼りになる人物をリリイは知らない。
「こういう時の為に私達は常に研究してるんでしょ? 取り返そう、リラを」
 スマホを耳元に当てながらジェイソンにそう呼び掛ける。ジェイソンは固く瞑っていた目をゆっくりと開き、そして強い意志と共に呟いた。
「ええ、必ず」
 必ずこのドロップゾーンを破壊する。その決意を胸にジェイソンはリラの眠るその部屋を後にした。

●紫の魔女
「……」
 濃霧の立ち込める薄暗い森の中に一人の女性が立ちすくんでいる。
 ここはどこだろう。
 森だ、という事以外何も分からない。
 私は誰だろう。
 誰だったか……。確か「紫の魔女」と呼ばれていた気がする。
 何で私はここに立っているのだろう。
 それは分かる。私は「このシナリオのボス」だ。
 挑んでくる冒険者どもをなぎ倒し、蹂躙し、打ち倒す。それが私の役目。
 誰が来ようともこの「紫の魔女」の名の元にひれ伏すがいい。
「私は……『紫の魔女』。『このシナリオのボス』……」
 冒険者がいなければボスはボス足りえない。うわ言の様に呟きながら、魔女はトボトボと冒険者を探し歩き出した。

解説

●目的《一般人救助》
『紫の魔女』を打ち倒しシナリオをクリアし、リラの精神を解き放つ。

●敵
『紫の魔女』
 ドロップゾーン内部でNPC化してしまったリラの精神。彼女の精神とNPCの設定が混ざった為か、以前の姿に近い大人の女性の姿になっている。
 このシナリオにおけるボスの役割を担っており、彼女を倒さない限りクリアは出来ない。
 魔力に優れており、範囲攻撃と状態異常が得意である。物理攻撃力は皆無に等しいが、防御力に関しては魔力でブーストしているようだ。
 NPCだが意識自体は混濁しつつも持っており、ある程度会話は可能なようである。

・主要スキル
《フレア》:範囲5で巨大なクレーターを作るほどの強烈な爆発を発生させる。連発は出来ず、一度使うと1ターンのクールタイムが必要になる。
《サンダーソード》:直線10の電撃攻撃。対抗判定[命中対回避]で勝利すると、【BS衝撃】を付与する。
《アイスミスト》:自分を中心に範囲4で冷気の霧を発生させ、体を凍てつかせる。二回特殊抵抗判定を行い、それぞれ【BS減退(2)】と【BS劣化(命中・回避)】を付与する。このスキルそのものにダメージはない。
《ミサイルショット》:多数の魔力弾を生みだし、敵をロックオンし放つ。最大5体までロックオンでき、命中精度は高い。射程1~20。ロックオン数が多ければ多いほど威力は下がる。
《ミラージュボム》:実体のないリラの幻影を三つ作り出す。幻影はダメージを受けると範囲2で爆発を起こす。

ガーゴイル ×2
 『紫の魔女』が召喚した使い魔。
 元は石像であり物理攻防は共に高く、動きもそれなりに素早い。羽根が付いているが、飛行能力は1m程度浮かび上がれる程度である。

●状況
 テーブルトークRPGのドロップゾーン内部である。
 元々木の生い茂る森であり、さらに濃霧が立ち込めていて視界は非常に悪い。
 明るさに関しては視界に影響があるほどではない。

リプレイ

●雑な導入
『以上が今回の作戦の状況である。何か質問は?』
「俊夫がオペレーターなのね。ジェイソンがやるのかと思ってたわ」
 VR‐TTRPGシステムを介してまるでテレパシーのように話しかけられる奥山俊夫の声にレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が返事を返す。感覚としては共鳴中の相方と会話している感覚に近い。
『当事者が指揮を行うのはあまり推奨できんからな。まあ、何かあった時の為に控えてはもらっているよ』
『すみません、皆さん……。どうか、リラをお願いします……!』
 奥山の後に続いてジェイソン・ブリッツの声が響く。
「後は任せなさい。わたし達にとってもリラは大事な友達だもの。大丈夫、必ず連れ戻してあげるわ」
「ああ、リラの為にオムライスでも作って待ってろ。晩飯までには帰る……!」
 レミアと狒村 緋十郎(aa3678)の二人が励ますようにジェイソンに声をかけた。
「彼女に伝えたい事があれば今のうちに言ってください。戦いが始まってからではきっと余裕が無くなるから」
「そうですね。思い出が、彼女を連れ戻すきっかけの一つになるかもしれませんから」
『……では、オムライスを作って待っていると、伝えください』
 月影 飛翔(aa0224)とセラフィナ(aa0032hero001)の提案にゆっくりと噛みしめるように答える。
「……確かに受け取った。必ずリラには伝えよう」
 真壁 久朗(aa0032)が静かに告げる。能力者と英雄の間には何物にも代えられない特別な絆がある。だから、きっとそれを伝える事はきっと意味がある。そう考えていた。
「ロロ――」
「……そうですね。しっかり取り戻して、改めてこのゲームで遊んでもらえるように頑張りましょう」
 辺是 落児(aa0281)の言葉に微笑みと共に頷く構築の魔女(aa0281hero001)。
「さて、であれば善は急げ! 悪い魔女を倒して、良い魔女を助けよう! それが正義の味方のすべきこと!」
「魔女に良いも悪いもないとは思いますが……敵がいるのでしたら、いかようにも私をお使いくださいませ」
 ビシィっと進行方向を指差しユーガ・アストレア(aa4363)が大声を張り上げる。その横では慣れた様子で彼女の従であるカルカ(aa4363hero001)が恭しく頭を下げていた。
「とりあえず、『ボスを倒せばシナリオクリア』って事でいいんですよね」
『ああ、救助の条件はシナリオのクリア。今回の場合はリラと融合した【魔女】の撃破がそれにあたる』
 唐沢 九繰(aa1379)の質問に奥山が答える。
「つまり、まずは彼女の探索から、ということですね。セオリーからするとまずは村の人にお話を聞くところからでしょうか」
「そうですね……。何事もまずは情報収集から、話しかけてみましょう」
 そう言って九繰の契約英雄であるテグミン・アクベンス(aa1379hero002)が近くで農作業をしていた人影に話しかける。
「あの……」
「あんたら旅人か。こんな山菜くらいしか取柄のない村によくおいでなすったな。まあ、最近は森に住み着いた魔女のせいで山菜も採れねぇんだけどな……。あー、弱った弱った。誰かあの魔女を追い払ってくれねぇかなぁ。そんな人がいたら村からお礼をするんだけどなぁ」
 テグミンが何かを言う前に、怒涛の勢いで台詞をまくし立てる男――のNPC。
「うむ、つまり森に行けばいいのでござるな!」
 合点が行った、といった様子で小鉄(aa0213)が頷いた。
「……ちょっと導入が雑すぎない?」
「そう? 分かりやすくていいと思うけど」
 苦笑いを浮かべ呟くストゥルトゥス(aa1428hero001)に相棒のニウェウス・アーラ(aa1428)が返す。
 普段ゲームに触れる機会があるか否かで印象が違うようである。
「本当ゲームみたいですね……。まさかVRMMOの前にテーブルトークRPGの中に入るとは思ってもみなかったなぁ」
「人生はまさかの連続だ……。こっちに転移した俺が言うんだ、間違いない」
 感慨深く呟く九字原 昂(aa0919)の言葉に近くに設置してあった村周辺の地図が描かれた看板を見ながらベルフ(aa0919hero001)が言う。
 どこまでも親切な設計である。
「どうやら、森はここから北の方にあるみたいだな。道も一本しかない。迷いようがないな」
「では、急ぎましょう。何にせよ森の魔女を倒せばリラさんを助けられます」
 ベルフの情報に月鏡 由利菜(aa0873)が道の先を見やり告げた。
 視界を遮る深い霧。その向こうには『紫の魔女』が待ち受ける森が待ち構えていた。


「森だけでも探しにくいというのに、加えてこの霧か。厄介だな」
 ほどなく道沿いに現れた森の中を進みながら飛翔が呟く。
 森に入ってからは道も獣道に毛が生えた程度のもので鬱蒼と茂った木々が視界と移動の邪魔をする。そして、この霧である。探索はなかなか骨が折れる作業だった。
「視界が悪いってのはイヤだなー。……ハッ!? これはもしかしなくても、ラキスケチャンス!」
「ストゥル、今日のおやつ抜きね」
「そんなー」
 唐突に鼻息を荒くしてあらぬ事を口走るストゥルにニウェウスが冷たく告げる。
 一応ストゥルの方が年上で、しかも何かと教えを説く師匠的立場のはずであるが、その威厳みたいなものはまるで感じられない。
「さて、役に立ってくれるといいが……」
 久朗がライヴスゴーグルを装着し、霧の中を見渡す。
 決して視界が広がるわけではないが、万が一何か引っかかるかもしれない。打てる手は打てるだけ打っておく。それが戦いの鉄則である。
「濃霧の中での遭遇戦は最初が肝心だ。奇襲だけは喰らわないように気を付けろ、昂。予期せぬ横やりで少数の手勢に潰走させられた軍隊なんてのは枚挙に暇がないぞ」
「うん、分かってる」
 こちらは幾分師弟らしいやり取りをしながら歩く昂とベルフ。
「……ロロ――!」
 と、探索の途中で落児が声にならぬ声をあげ前方を指差す。
 その先には霧の中ゆったりと動く大きな黒い影。
「あれは……ガーゴイル?」
 本や漫画の中で見た事のある姿に九繰が思わず呟いた。
「なるほど、魔女の番人としては妥当な線ですね。非常にタフな相手ですのでご注意ください」
 こちらは果たしてどこからの知識か、ルビナス フローリア(aa0224hero001)が主に告げる。
「……」
 ガーゴイルの方もこちらに気付いたらしく、向きをこちらの方へ向け静かにその場に佇む。
「警戒しているのでしょうか」
「……いや、主を待っているんだ。来るぞ」
 久朗がガーゴイルからライヴスの線が奥へと伸びていることに気付く。ガーゴイルを操っている者が奥にいるという事だ。
「私は『紫の魔女』……」
 霧の中、ぼんやりとした輪郭の人影が近づいてくる。
「……あれか」
「わっ、美しい女性ですね」
 現れた魔女の姿にセラフィナが思わず驚く。
 リラと融合したと思われるその『魔女』は本来のリラの幼い姿とはかけ離れ、妖艶と称するに相応しい女性へと成長していた。
「童と聞いていたでござるが……不可思議なものでござるな」
『大人になっちゃってるのねー。牛乳とかのんだとかかしらぁ?』
「それは違うと思うでござる」
 素早く麦秋(aa0213hero002)と共鳴しながら小鉄は慣れない杖を構えた。
「この森に足を踏み入れる者は……皆、この『紫の魔女』の名の元にひれ伏すがいい……!」
 リラが――否、『紫の魔女』が杖を掲げるのと同時にもう一体ガーゴイルが現れ、戦いの火ぶたが切って落とされた。

●失われぬ気持ち
「まずはかく乱します!」
 構築の魔女が誰よりも早く動き、敵の前に強烈な光を発生させる。
「《リフラクション》」
 『紫の魔女』が杖を前に掲げ呟く。光が炸裂する一瞬前に彼女の姿がおぼろげに揺らぐ。
(光を曲げた……?)
 その現象のおおよその予測を立てる。いずれにしても抵抗されたとみて間違いないだろう。
「しかし、取り巻きの方々には効果があったようですね」
 一応視界を介して動いていたのか、二体のガーゴイルはフラッシュバンの光量に目を焼かれ戸惑っている様子が見て取れる。
 それならば良い。
「一人で成し遂げないといけないわけではありませんから存分に仲間には頼らせていただきます」
 まずは敵の出足を挫き、仲間の攻めやすい状況を『構築』した。初手としては十分だ。
「良き魔女よ! ここは任せろ!」
 頭上から自身に満ち溢れた声が高らかに響き渡る。いつ登ったのかそこには共鳴し正義のヒーローの姿となったユーガの姿があった。
「悪の魔女よ! 正義の鉄槌を受けて改心するのだ! ストームエッジ!」
 構築の魔女が作り出した動揺を逃さず、使い魔二体の頭上に勝利を指す槍が降り注ぐ。
「グルルル!」
 それを翼と腕で何とかガードしてガーゴイルが唸る。
「ここは畳みかけます!」
 その機を逃すまいと九繰がガーゴイルに向かって突撃する。
「……炎よ光よ。破壊を司る神々よ。我が呼び声に答え、我が前に立ちふさがる全ての愚か者を打ち倒し滅ぼせ」
 しかし、それよりも早く『紫の魔女』が動く。何事かを詠唱すると杖が彼女の前にひとりでに浮かび、空いた両手で『紫の魔女』が宙に何かを描く。
『まずい……! 来るぞ、備えろユリナ!』
 リーヴスラシル(aa0873hero001)がライヴスゴーグルを通して尋常じゃないライヴスが集まりつつあるのを見て由利菜に警告を発っする。
「全員散れ! デカいのが来る!」
 同じくゴーグルを装着していた久朗が叫んだ。その指示に無言で距離を離すエージェント達。
「エオローのルーンの下、守護障壁を形成します!」
 ラシルの声掛けで一瞬動くのが早かった由利菜がせめて自分の近くに者達だけでもと、咄嗟に魔力障壁を張る。
「《フレア》」
 障壁の発生とまったく同時に、冷徹な声で『紫の魔女』が告げた。
 巻き起こる閃光と衝撃、そして爆炎。
 辺り一面をクレーターと化すほどの爆発が森を、地面を震撼させた。
 炎の奔流に巻き込まれエージェント達が吹き飛ばされる。
『……っ! マスター、旗出して!』
「う、うん!」
 爆発から比較的距離のあったニウェウスが幻想蝶から旗を取り出し、爆発の中心部に近かった者達の所へ向かい地面に突き立てる。何とか堪えているが、これ以上の追撃を許すと危ない。
 旗の周りに一時的な守護領域が発生する。
「まず、立て直すよ! んで、アンタ! 初見殺しですかソレー!? どこぞの高難度迷宮出身か、貴様!」
『そんな事言ってる場合じゃないよ!』
 一先ずの状況の建て直しを図れたところでストゥルがわざわざ体の主導権を握って叫ぶ。
「回復する。誰か足止めを頼む!」
「任せて下さい! 左は私が!」
 久朗の呼びかけにいち早く前に突っ込んでいたおかげで爆発から免れていた九繰が答える。そのまま全速力でガーゴイルに突っ込み跳びかかる。
「ガギッ!」
 それを腕で受け止めるガーゴイル。
「こういう時は取り巻きから片付けるのが基本ですね!」
『そうですね、さっさと片付けてしまいましょう』
 そのまま力いっぱい押し込み、その動きを抑制する。
「グギャア!」
 抑え込まれた相方を解放しようと、もう一体のガーゴイルが九繰の方へ体の向きを変える。
「させんでござる!」
 その動きを見て杖を振り上げる小鉄。彼もまた爆発の影響から難を逃れた一人である。
「麦秋!」
『えっとぉ、魔法はねぇ、ばーんっとやってぎゅーんと使うんだよぉ』
 小鉄の呼びかけに抽象的にもほどがあるアドバイスを送る麦秋。普通の人間であれば意味が分からず困惑してしまうところであろう。
「なるほど、術はそう使うのでござるな!」
 しかし、小鉄も割と直感で体を動かすタイプであり、何故かばっちり通じたりする。まあ、何というか。要は相性がいいのである。
「ばーんとやって!」
 叫びながら杖をガーゴイルに向ける小鉄。
「ぎゅーんでござる!」
 その叫びと共に杖の先から魔力弾が発射される。
「ギィィ!」
 一旦足を止め、その弾をガードするガーゴイル。
 足は止めた。しかし、それは時間にしてほんの一瞬の足止めでしかない。
「後は任せて下さい」
 その瞬く程度の隙間に昂が敵の横手へ回り込んでいた。
「繚乱!」
 昂の影が薔薇の花びらのように千切れ宙に舞う。
「《エルーダエア》」
 『紫の魔女』の杖が光り、まるで岩に川の流れが裂かれるが如く影の花びらが『紫の魔女』を避けて通る。
『ガードの堅いお嬢ちゃんだ。口説き甲斐があるってもんだな』
「厄介な親衛隊がついてるけど」
『障害は多ければ多いほど燃えるもんだ』
 魔女には避けられたがガーゴイルは両方とも巻き込んだ。
 できる事はやった。この魔女を相手に一つ所に留まる危険性を十分認識している昂は動きの鈍ったガーゴールへの追撃はあえてせず素早くその場から離れる。
「……雷よ。光の剣となりて敵を討て」
 その退いた昂へ向けて杖を掲げる『紫の魔女』。
「拙いな……」
 ガーゴイルを釣るつもりだったが大物の方が掛かってしまった。流石にさっきのレベルの攻撃はそうは連発できないと思うが、それでもその威力を決して侮ってはいけないのは十分に思い知ったばかりだ。
 掲げた杖がバチンという破裂音を立てながら光り輝く。
「リラ!」
 それが振り下ろされるよりも早く黒い影がガーゴイルたちの間をすり抜けて『紫の魔女』へ接近した。回復を受け立て直したレミアである。
「……!」
 『紫の魔女』が攻撃を中断し、杖で振り下ろされた大剣を受け止める。
 白く輝く杖と赤く染まった大剣が接触し、赤と黄の火花を辺りにまき散らした。
「リラ……! わたしよ、レミアよ」
 鍔迫り合いのように力が拮抗した状態でレミアが『紫の魔女』に――いや、リラに話しかける。
「レミア……?」
「そうよ。ふふ、大丈夫……今、助けてあげるわ」
 戦闘中とは思えぬ優しい語り口でリラに呼び掛ける。
「私は……『紫の魔女』……」
 『紫の魔女』がうわ言のように呟く。
「邪魔ものは……倒さなきゃ……」
「……?」
 大剣と切り結んでいた杖の色が雷の黄色い閃光から青白く淡い光へと変化していく。
『レミア! 地面を見ろ!』
 緋十郎の声に足元に視線を落とす。『紫の魔女』を中心に地面の草が凍り付いていく。
(……冷気!)
 杖と接触している大剣から掌へ急速に冷気が伝わるのを感じて、一旦退いて距離を取る。
 しかし、レミアが退くのと同時に『紫の魔女』の魔法が完成した。
「《アイスミスト》」
 その呟きと同時に『紫の魔女』を中心にして、一帯に冷気の霧が生じた。
 寒いなどという生易しい冷気ではない。地面の草や当たりの木々は一瞬で白い霜に覆われ死滅する。突き刺さる様な痛みを伴う強烈な冷気。まともにその身を晒してしまっては、大幅に身体能力が削られてしまうだろう。
「させん! クリーンエリア!」
 レミアを中心に暖かな光が降り注ぐ。久朗が展開したライヴスの結界だ。
 レミアの体に降りかかっていた冷気が少し和らぐ。
「ナイスよ、久朗!」
 その機を逃さず気合を込めて体を覆いつつあった霜を振り払う。
「……! 我は虚ろなり。汝見ゆるは――」
「リラさん!」
 素早く次の詠唱に移りつつあった『紫の魔女』に、結界を維持しながらセラフィナが呼び掛ける。
「貴方には帰るべき場所がある。だから、僕たちが連れて行きます」
「……汝見ゆるは夢幻なり。《ミラージュ――」
 呪文が完成しかけたところでそれを邪魔するようにスラッシュブーメランが『紫の魔女』の顔目掛けて飛来する。
 『紫の魔女』はそれを寸でのところで避けて、そのブーメランが戻っていった方を一瞬見やる。そこにいたのは飛翔。
「……ジェイソンから伝言だ。オムライスを作って待っているそうだ。早く戻らないと冷めて美味しくなくなるぞ」
 そのブーメランは妨害よりも、むしろ『紫の魔女』の注目を引くのが目的の一投であった。
「じぇい、そん……」
 『紫の魔女』の――リラの動きが一瞬止まる。
「リラさん……! あなたには大事な人がいるはず!」
『魔法陣を投影、狙いを付ける……!』
 その動揺を見逃さず少し離れた場所にいた由利菜が槍を構えた。その目前にロックオン用の青白い魔法陣が浮かぶ。
「閉じた世界で愚神の傀儡と化して一生を終える……それでいいはずがありません!」
 魔法陣が『紫の魔女』を捕らえ赤く染まる。
「オーディンの神槍、紫の魔女を貫け!」
 由利菜の放ったグングニルが棒立ちとなった『紫の魔女』を捉えた。
 『紫の魔女』が大きく吹き飛ばされる。
『やったか……!?』
「……いえ、直前に魔法陣が展開しているのが見えました。完全には防がれてはいないはずですけど」
 由利菜の言葉の通り、倒れていた『紫の魔女』が濃霧の向こうでゆっくりと立ち上がるのがぼんやりと見える。
「とにかくチャンスよ、ここで畳みかけて……えっ!?」
 大剣を構え、前に踏み出しかけたレミアの足が止まる。
 霧の中立ち上がる『紫の魔女』――が4人。
「増えた……!?」
 濃霧の向こうで4人の『紫の魔女』が薄く笑った。

●石は石に
「何とか引き離す事には成功しましたね」
 杖を構えガーゴイルと正対しながら九繰が呟く。
「まあ、形式上挟み撃ちを受けている状態でもあるので油断はできませんが」
 久々に付けた『陰陽』の具合を確かめるように拳を開け閉めしながら、昂が言う。
 ガーゴイルと『紫の魔女』を分断する為、その直線状に前線を張っている状況である。
 逆に言えば『紫の魔女』へ完全に背中を向けて戦っている事になる。少し距離は離れたとはいえせいぜい十m程度。決して彼女の攻撃が届かぬ程遠くではない。
 そこはもう仲間を信じるしかない。
「素早く打ち倒し、リラ殿の対処へ向かわねばならんでござる」
『そうね、ボス戦時の取り巻き処理は鉄板行動! ちゃっちゃと片付けるよー』
「ん……魔女を狙う人達の、邪魔はさせない!」
 膠着状態の口火を切ったのはニウェウス。彼女のかざした手の平からライヴスを伴った風が巻き起こり、ガーゴイル達に吹き付ける。
『まずは防御デバフ。これも鉄板だねー』
「……ちょっとストゥルのいう事よく分からない」
「グギャァ!」
 その攻撃をきっかけとしてガーゴイルとエージェント達の双方が一気に距離を詰め接敵する。
「ガギャ!」
 振るわれる腕と鋭い爪。
「なんの! 拙者は今日は術士でござるが、接近戦では後れを取らぬでござるよ!」
 その一撃を横ステップで軽やかにかわし、小鉄がスタッフを振りかぶる。
「せいっ!」
 ゴッっという鈍い音を立ててスタッフの先端がガーゴイルの頭部に叩き込まれる。
「グギャ!」
「うむ、思ったより普段と変わらんでござる」
 魔法攻撃(物理)をぶち当てた感触を確かめると、一旦距離を置くべくバックステップで距離を取る。
「グギィィ!」
「む」
 退いた小鉄の着地を狙って、もう一体のガーゴイルが跳びかかってくる。
「盾よ!」
 突如空中に現れた盾がそのガーゴイルの一撃を受け止める。
「唐沢殿でござるか!? かたじけないでござる」
「お安い御用です!」
『皆を助ける事が私達の目的ですから』
 宙に現れたその盾はカオティックブレイドのイナタラプトシールドである。
「そこだ!」
『刃物とは間合いが違うんだ。いつも以上に踏み込んでいけ』
 ベルフのアドバイス通り、普段よりも半歩深く踏み込んで宙に浮いたガーゴイルの空いた脇腹に拳を叩き込む。
「グゲェ……」
 苦悶の声をあげてガーゴイルが地面に落ち転がる。
「悪、滅びるべし!」
 突如頭上から声が聞こえ、上空から降り注いだ槍の雨が地面に落ちたガーゴイルを次々貫く。
「グギ……」
 何本もの槍に貫かれたガーゴイルは抵抗の間もなくバラバラに砕け散った。
『お見事でございます、ご主人様』
「ふっ、正義は勝つ!」
 上空の木の枝の上でビシィとポーズを決めるユーガ。どうやら戦闘が始まってからずっと木の上を飛び移りながら移動していたらしい。
「いい忍者になれるでござるよ、アストレア殿」
「ボクは正義の味方であって、忍者ではない!」
 木の上で器用に地団駄を踏んで抗議するユーガからは一旦視線を外し、残るガーゴイルへ向ける。
「グオオオ!」
 既に多勢に無勢。しかし、それでもガーゴイルは退かず最後の突撃を仕掛ける。狙いは九繰。
「いいでしょう、勝負です!」
 九繰が両手を体の前で交差して攻撃を受け止める体勢を取る。
「グゴォォ!」
 そのままの勢いで九繰に向かって体当たりをぶちかますガーゴイル。その堅く重い体による体当たりは九繰を容易くふっ飛ばした。
「グゴォ……」
 しかし、攻撃を当てたはずのガーゴイルの体がぐらりと傾いた。その脇腹に突き刺さるのは宙に浮いたダークリベリオンワンド。
「いちいち避けて避けられてでは時間が掛かりますからね。肉を斬らせて骨を断つ、です」
 地面から上体を起こした九繰がガーゴイルに向けて手の平を広げる。
 ガーゴイルの周りには、既に突き刺さったものの他にさらに5本のワンドが取り囲むようにして浮いている。
「グギ……」
「この手の魔物は砕くに限ります」
 九繰が開いた手の平を握るのと同時に、5本のワンドが全てガーゴイルに向かって振り下ろされる。
 5本のワンドはガーゴイルを瓦礫へと代えた後、満足したかのようにそこから消え失せた。

●四つの影
「幻影、あるいは分身……」
 構築の魔女が現れた『紫の魔女』の4つの影に素早く目を走らせる。しかし、パッと見で区別などつかない。
「この濃霧では本物を見分けるのは難しいそうですね……」
 しかも、4つの影はそれぞれ離れた場所に姿を見せておりまとめて潰すのも無理だ。
 と、突如4つの影が一斉に同じ動作をし、同じ言葉を発し始める。
「「……炎よ光よ。破壊を司る神々よ」」
「……!」
 聞き覚えのある詠唱。
「例の爆発が来ます!」
 構築の魔女の声にエージェント達の間に緊張が走る。
 そして、迷い。
 逃げるべきか、妨害するべきか。
 妨害するとすれば――どれだ。
「そこだ!」
 4つの影を順に見て、久朗がその内一体の方へ向かって駆ける。
「撃たせん!」
 呪文を唱える『紫の魔女』へ槍を振るう。
「……!」
 『紫の魔女』が詠唱を中断し、杖でその槍を受け止める。
「そうか、ライヴス……!」
 由利菜が呟く。
 久朗と同じくライヴスゴーグルを付けていた彼女は気付くことが出来た。
 ライヴスゴーグルは決してそれだけで敵の幻を見破れるほど万能な道具ではない。基本的に隠ぺいされたライヴスは知覚できないし、普通に攻撃をする程度では視覚で見えるのと同程度しか見えず大した意味はない。
 だが、あの大技だけは別だ。あれを撃つ時に集められる膨大な量のライヴス。それを隠しきるのは『紫の魔女』の技量をもってしても不可能だった。
「光玉よ、撃て! 《ミサイルショット》!」
 近距離戦は不利と判断したか、自身の周りに無数の魔力弾を生み出し、その全てを久朗に向けて放つ。
「ぐっ!」
 防ごうとするも数が多い上に一つ一つの軌道が非常に複雑で防ぎきれない。たまらず後方へ倒れ込む。
「っ……」
 『紫の魔女』が急いで距離を離そうと足に力を籠める。
「逃がしません!」
「……っく!」
 その背中に構築の魔女が背後にワープさせた弾丸が突き刺さる。
「一気に決めろ!」
 ふらついた『紫の魔女』の元に飛翔の放つ烈風波が迫る。
「……!」
 防御魔法も間に合わず、それを杖で正面から受け止める『紫の魔女』。
「リラ!」
 そして、そこに迫るは漆黒の翼を広げ、深紅の大剣を握る吸血鬼、レミア。
「雷よ。光の剣となりて敵を討て!」
 『紫の魔女』が杖に最後の力を注ぎこみ振りかぶる。
 杖を軸にして巨大な雷の剣が形作られる。
「……いいわ。来なさい。受け止めてあげるわ」
 それを見てもレミアは一歩も引かない。避けようとすらしない。ただ真っすぐ、最も近く、最も早くリラの元へたどり着ける道を駆ける。
「《サンダーソード》!」
 『紫の魔女』の杖が振り下ろされる。雷がレミアの体を貫く。
「――」
 歯を食いしばり痛みに、衝撃に耐えるレミア。
「わたしには護るべき誇りがある……」
 倒れない。歩みを止めない。
「それは決して失わないという事! 何人たりともわたしから奪う事は許さない……!」
 大剣を振りかぶる。
「帰ってきなさい、リラ!」
 レミアの大剣が『紫の魔女』の体を両断し、シナリオボスたる『紫の魔女』はここに消滅した。

●魔女の帰還
「ん……」
「リラ!」
 病室のベッドで目を覚ましたリラの手をジェイソンが強く握る。
「ジェイソン……」
「リラ……良かった……」
 ぼんやりした様子でジェイソンの顔を覗くリラの様子に、心底安心した様子でジェンソンが深くため息を吐く。
「リラ!」
 上体を起こし、不思議そうな顔をするリラにレミアが溜まらず抱き着く。
「お帰り、リラ!」
「リラさん、本当に良かった……」
「……? ただいま、レミア、緋十郎」
 なんだかよく分かっていない様子でレミアに抱き着き返すレラ。どうやらドロップゾーンに囚われていた間の事は今一つ覚えていないらしい。
「いちおー病人なんだから加減しときなよー」
「ん、でも気持ちわかるな。本当、良かった」
 ストゥルとニウェウスが微笑まし気にリラ達の事を見つめる。そこに珍しく朗らかな笑みを浮かべたルビナスと飛翔も加わる。
「ふふっ、リラさんが戻ってきてジェイソンさん達は本当にうれしそうですね」
「ああ、身体を張った甲斐があったな」
「リラちゃん痛いところとかなぁい?」
「げぇむの中とはいえ結構な激戦だったでござるからな。異常がないとよいでござるが」
「一応検診は受けてもらうが、多分問題ないだろう。ライヴスの回復にはしばらくかかるかもしれんが」
 小鉄の言葉に奥山が答える。
「それなら本当に良かった……。こうやってジェイソンさんとリラさんがまた再会できて……」
「エージェントと英雄の絆、容易く絶てるものではない。ずっと変わらず、ずっと続くものだ。これまでもこれからも」
「……ラシル。うん、そうね」
 少し含むところのあるラシルの言葉に由利菜が静かに頷く。
「それにしても『てーぶるとーくあーるぴーじー』ってなんだか怖いモノなのですね」
「元々はそんな事、ないのだろうが……状況が状況だしな」
 テーブルトークRPGが何なのかも分かってない様子で言うセレフィナの言葉に、久朗が静かにツッコミを入れる。
「まあ、RPG的には一先ずシナリオクリアで一件落着ってところですね!」
「これで経験値が入ってレベルが上がったーってなればいいんですけど」
 九繰の言葉に、昂が真面目な彼にしては冗談めいた口調でそんな事を口にする。
「数字が増えて成長できるほど、残念ながら現実は甘くはないな」
 それに突っ込むのは相棒のベルフだ。
「この件は解決しましたけど、まだこのゲームの中に囚われる事件は続いてますしね……一体何が起きているのでしょうか……」
「……リラをこんな風にした奴が、どこかにいるんだろう? 人を操って、自分は見ているだけという奴は、前にもいたしな」
 テグミンの言葉に久朗が苦々し気に続ける。閉じた目にまだ敵の姿は映らない。
「そういえば、持ってきた土はどうなりましたか?」
 構築の魔女がふとドロップゾーンから持ち帰ってきた土の存在を思い出し、リリイに尋ねる。
「んー、調べてみたけど土だね。成分的にはちょっと不明な部分はあるけど、ドロップゾーン産の物って大抵そうだから」
「……つまり空振りですか」
「そゆこと」
「ロロ――」
「ええ、分かってますよ。めげたりはしません」
 落児の励ましに微笑みを返す。失敗や空振りもまた解析の一部。思考を重ねるうえで結果に無駄な結果というのは存在しない。
「まあ、たとえこれからどんな敵が出てきたとしてもすべて倒してしまえばいいだけの話だ! 正義とは必ず勝つモノなのだからな、ハーハッハッハッハッ!」
「見事な総括でございますわ、御主人様」
 高らかに笑うユーガの横で恭しく頭を下げるカルカ。
「まったく、ここは一応病院だぞ……」
 頭を抱えた奥山の言葉は高笑いの前にかき消され、誰にも届くことはなかった。



結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • クラッシュバーグ
    麦秋aa0213hero002
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • エージェント
    テグミン・アクベンスaa1379hero002
    英雄|21才|女性|カオ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 絶狂正義
    ユーガ・アストレアaa4363
    獣人|16才|女性|攻撃
  • カタストロフィリア
    カルカaa4363hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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