本部

水の神と守護者と

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/24 10:05

掲示板

オープニング

●壊れた絆
 直径三十センチメートル程の丸い石が浮き上がる。
 その周りに水底から湧き上がるように盛り上がった泥が集まり人のような形を現していく。
 泥で出来た……神。
 二日前、島に雨が降り始めた。
 乾季の時期とはいえ雨が降ることもある。最初は誰も不思議に思わなかった。
 だが、雨が降っていたのはこの小さな島の上だけであった。
 誰かがこう口にした「神の怒り」だと。
 島の中央に小さな山が有る。
 その山の頂上には澄んだ水を湛える泉が有り、島に恵みの水をもたらしている。
 そこに祀られているのが水神だ。直径三十センチメートル程の自然に出来たとは考えられない程の丸い石。
 島の者は全員その神を崇め、その神を中心に生活を送っている。
 島の民にとってその神はこの島そのものであった。
 だから、こうなるのではないかと予感はしていた。
 パートナーであるシュロの誓約は守る事だ。
 その対象は、この島。
 共鳴は起こらななかった。
 守るべき対象に刃を向けることにシュロは迷ったのだ。
 たとえそれが従魔であると分かっていても。
 五メートルほどの大きさまで巨大化した泥の神が拳を振り上げる。その拳が振り下ろされるよりも先に呆然と立ちすくむシュロを連れて山を駆け下りた。

●降り止まない雨
「すまないな、急いできてもらって」
 水上機から雨が降り続く桟橋へと降りたエージェント達を二人の男が出迎えた。
「俺は、セト。英雄だ」
 そう名乗った男の側に立つのがパートナーである能力者だろう。肩を落とした大きな体はどこか萎んで小さく見える。
「こいつは、パートナーのシュロ。島民は全員避難させたから島には俺達二人しかいない。とりあえず屋根のある場所へ行こう」
 そう言うとセトは先に立って歩き出す。
 太平洋にポツンと浮かぶ地図にも載らないような小さな島、僅かな島民が暮らすだけのこの島に現れた従魔を倒して雨を止めるのが今回の任務だ。
 その従魔は島の中央に有る小さな山の上に居るらしい。島のどこからでも見えるその山は豊かな木々に覆われている。
 セトが案内したのは高床式になった板張りの床と草屋根だけの建物だった。
 四方に壁は無く、吹き込む雨に縁側は濡れているが屋根はしっかりしているようで全員が座れるくらいは乾いた場所が残っている。
「この雨のせいで島には何も残っていない。もてなしは勘弁してくれ」
 そう言ってセトは頭を下げる。いつの間にかシュロは姿を消していた。
「今日で雨が降り始めて一週間になる。山の上の奴がこの現象を引き起こしているのは間違いない。本来なら俺達も戦うべきなんだが、悪いが今回は無理だ」
 セトのその言葉には悔しさが滲んでいる。
 この海域の近くに有る大規模なドロップゾーンの影響かこの島には海から従魔がやってくることがある。二人は今までずっとそういった従魔からこの島を守ってきたのだ。
「山の上に居るのは泥人形みたいなやつだ。頂上にある湧き水の泉に祀られていた御神体に従魔は憑依した」
 普段は澄んだ水を湛えたくるぶしぐらいの深さの浅く広く広がった泉は今では茶色く濁って足首くらいまでの深さになっているという。
「俺が確認した限り、攻撃は左右の腕のみ」
 そう言ってセトは自分の両拳を顔の前に持ち上げて見せる。その腕に包帯が巻かれているのが見える。
「もちろん、リンクしてない英雄相手に他の力を使うつもりが無いだけかもしれないが、雨を降らすなんて大規模な力を使ってるんだ。他に何か力があるとも考えにくい」
 セトの言葉に疑問の声が上がる。リンク出来ない事は依頼を受けた時に聞いている。さらにリンクしていない英雄だけともセトは自分で言っている。
「偵察くらいは出来るさ」
 包帯の巻かれた腕を隠すように降ろして肩をすくめて見せるとセトは言葉を続ける。
「おかげで重要な事も分かった。泥人形の体は幾ら切っても突いても効果は無いが、その代わりAGW以外の攻撃も通用する」
 そう言ってセトは外に置かれている普通のスコップを示して見せる。
「試しにスコップで泥人形の体を掘ってみたらあっさりと泥を削ることが出来た。その穴はすぐに塞がったが、戦闘中は新しい泥を補充することは無かった。もっとも、戦闘後には補給したようで今は元の大きさに戻っているがな」
 一度山の上に視線を向けてからエージェント達に視線を戻してセトは話しを続ける。 
「恐らくだが従魔が憑依した御神体、直径三十センチメートルほどの真球の石だが、これを破壊しない限り倒すことは無理だと思われる。その石が体の中のどこにあるのか外からは分からないんだが……」
 エージェント達の向こう側に視線を向けてセトが言葉を切った。つられるように動いたエージェント達の視線に少したじろぐように足を止めてシュロが手にしていた色とりどりの果物を床に降ろす。
「今の俺にはこんな事しかできないが、食べてくれ。どうせこのまま雨が続けば痛んで落ちるだけだ」
 そう言ってシュロは雨に濡れている縁側近くに腰を降ろす。
「俺だってH.O.P.E.のエージェントだ従魔に憑依された器物は従魔を倒せば元に戻る事くらい聞いた事が有る」
 突然話し出したシュロの言葉に全員の視線が集まる。
「頭で判っていても体が動かないんだ。水神様はこの島の守護者だ。この島の恵みは水神様が俺達に分けてくださったものだ。島で採れる魚も、その果物も」
 シュロはそう言って取ってきた果物に視線を向ける。
「俺はその水神様を守る守護者になりたかった」
 シュロは雨に霞む山へと視線を向ける。
「自分でもふがいないと思う。だけどもう俺達はあんた達に頼るしかなんだ。このまま雨が続けば島の民は生きて行けない。頼む、俺達を救ってくれ」
 そう言うとシュロは深々とエージェント達に頭を下げた。

解説

●目標:水源の従魔の撃破

●従魔
・泥で出来た五メートル程の人型の中に潜む三十センチメートル程の真円の石。
・従魔は泥の体の中を移動しています。
・攻撃は泥の体の左右の腕でのパンチのみ。攻撃時腕の先は岩のように硬くなるので注意が必要であるが、硬化しているおかげで受けも可能である。
・PL情報:斬撃打撃共に泥の中を通過するので多少の泥を削る程度でそれによる部位切断は不可能です。切断する場合は両側の接点を完全に無くしてください。

●地形
・頂上の泉は、大きさが直径十五メートルほどの歪な円形で、深さは十五センチメートル程でほぼ均一です。
・泉の底や周囲の地面、林の中の地面は雨でぬかるみ滑りやすくなっています注意してください。
・雨による視界不良はありません。
・PL情報:戦っていると気付きますが、従魔は泉の外へ出てきません。泉の外にはすぐに林が広がっています。

●道具類
・今回水上機の大きさのせいでそれぞれリュックに納まる以上の大きさの物は島へ持ち込みできませんでした。
・島は海の漁と山での採集で生活しています。島での生活に必要な道具は残されたままです。セトとシュロは必要ならば自由に使ってくれていいと言っています。
・島には電気もガスも無いので電気製品は使用できません。

●雨
・雨は普通の雨ですが、長雨により山は水分を含み地面も緩くなっています。すぐに何か起きるわけではありませんが、シュロの言うように雨が続けば島に住めなくなってしまうでしょう。

リプレイ

●雨の降る道
 泉へ続く狭い山道は雨にぬかるみ両脇に掘られた溝の中をまるで小川の様に水が流れ落ちていく。
 雨具を打つ雨の音を聞きながら氷月(aa3661)は村を出るときに話したシュロの顔を思い出していた。
「ご神体……もしも、壊したら……ごめんなさい」
 そう伝えた時、シュロは謝る必要はないと言っていた。
 だが、島の人達の心の拠り所である御神体を壊してしまえば自分自身が削除されるべき「悪」になってしまうのではないか、そんな不安が頭の中で渦を巻いている。
 氷月はそっと隣りを歩くパートナーのシアン(aa3661hero001)に目を向ける。
 彼女との考えの違いも迷いを生む原因になっている。
 神様嫌いのシアンは御神体ごと破壊してしまいたい、そう思っていた。
 だが、今回はその想いを我慢している。それは氷月の為であると同時に少しだけ正義に迷っているからでもあった。
 前を歩く恋人、氷月の迷うような背に迫間 央(aa1445)は
「どうしてこう人の感情を揺らすようなモノに取り憑く…」
 そう小さな溜息と一緒に言葉を吐き出す。
「……だから私は存在自体許さない。でも、それで終わりにするかは……央が決めればいい」
 そう応えたのは迫間の隣を歩くパートナーのマイヤ サーア(aa1445hero001)だった。
 普段あまり幻想蝶から出てこない彼女がこうして隣を歩いているのはマイヤ自身何か思うところが有るのかもしれない。
 そう思いつつも何となく声をかけられないまま迫間は後ろを歩く二人へと目を向ける。
 何度も依頼で一緒になった三ッ也 槻右(aa1163)は気の合う仕事仲間だが、その三ッ也の隣に居るのはいつものパートナーでは無い。
 【神月】作戦で三ッ也が保護した隠鬼 千(aa1163hero002)だ。
 隠鬼は迫間とマイヤの会話が聞こえたのか横を歩く三ッ也に不思議そうにたずねている。
「……従魔は滅するのがH.O.P.E.なのでは?」
 その言葉に三ッ也は
「うん、でもご神体……大事にしてる人がいる。なら守るよ」
 そう答える。
「欲張り、な気がします」
 隠鬼の言葉に優しく微笑んで三ッ也は
「まずは欲張らないと。できる所まで足掻こう」
 そう声をかける。
 その言葉を理解したのかしないのか、隠鬼は三ッ也の側を離れて先頭を歩くセトの横へ駆けて行く。
「先輩、傷大丈夫ですか?」
 隠鬼の言葉にセトは「問題ない」と答えて見せる。
「……あとは大丈夫。私も頑張ります」
 セトにそう声をかけて話をしている隠鬼の背を見ながら三ッ也はシュロの隣に並ぶ。
「辛かったですね。僕も守るのが誓約なので……分かる」
 声をかけた三ッ也にシュロは少しだけ目を伏せるように視線を地面に落とす。
「任せて、絶対取り戻す」
 強い三ッ也の言葉にシュロは顔を上げて少しだけ笑って見せると、「頼む」と頭を下げて
「皆、知り合いなのか?」
 とエージェント達に目を向けて三ッ也にたずねる。
「拓海と央さんは、戦友ですね」
 三ッ也がそう言って視線を向けるとその視線に気づいた荒木 拓海(aa1049)が手を上げて応え、その隣のパートナーのメリッサ インガルズ(aa1049hero001)も手を振って見せる。
「氷月さんは央さんの彼女だけど、一緒の依頼は初めですね」
 その声に視線を上げた氷月に
「一緒出来て嬉しい。ん、二人の連携あれば百人力だね」
 そう声をかける三ッ也の言葉に氷月と迫間が何となくお互いの顔を見合わせる。
「ライさんは初めて、ですよね」
 呼びかけるようにかけられた言葉に一行の最後尾を歩いているライ・シャムロック(aa4442)とBA-03 シャード(aa4442hero001)が黙って頷いてみせる。
「カグヤさんは何度も一緒に依頼をこなしたことが有ります」
 道を外れて林の中へ入り植物を見ていたカグヤ・アトラクア(aa0535)が名前を呼ばれたことに気付いて顔を上げる。
「興味深い生態系じゃが、怪しい物も不思議な物も何もないのう」
 三ッ也に軽く手を上げてそう言いながら道へ戻って来たカグヤの姿にパートナーのクー・ナンナ(aa0535hero001)がほんの僅かに顔をしかめる。
「少々汚れたとて変わらぬじゃろ」
 他の誰も気づかないようなクーの変化にカグヤはそう返すと服の袖が汚れるのも気にせず流れる水を手ですくい上げる。
「雨も普通の雨じゃし、何がしたいのかよく分からぬのう」
 すくい上げた水を手から落としてカグヤは視線を道の先へ向ける。
 すでに登りは終わり道の先に広がる泉が見えている。
 その泉の中央に泥で出来た巨人が雨に打たれて佇んでいる。

●濁った水
「行ってくるよ」
 隠鬼と共鳴した三ッ也が先行偵察の為に泉へと足を踏み入れる。
 それに反応するように泥の巨人が身動ぎする。
 くるぶしまで浸かった水はそれほど気にはならないが、濁りで見えない水底は少しだけ動きにくい。
 どこかゆったりとした動作で泥の巨人が振り上げた拳を躱して借りて来たスコップを突き立てる。
 セトの言った通りスコップは難なく泥をすくい上げることに成功する。
 横薙ぎに振るわれた泥の巨人の腕を躱しながらスコップを手放して今度はライオンハートを振るう。
 獅子の咆哮に似た風薙ぎの音を響かせて大剣がその腕をすり抜けていく。
 抜ける瞬間に大剣を横倒しにして多少の泥を弾き飛ばしたが泥の巨人に堪えた様子は無い。
 泥の巨人の動きを確認するように動く三ッ也の動きを目の端でとらえながら迫間は周囲の地形を確認して頭の中に地図を書き上げていく。
 三ッ也と泥の巨人が起こす小さな波も水底の様子を知る良い手掛かりになる。
「網はどこに仕掛けるのですか?」
 迫間の問いにセトが今いる辺りを示して見せる。
「南側のこの辺りが泉の幅が狭く良いかと思う」
 その言葉にシュロが首を横に振る。
「この辺りは支柱にする木の根が弱くなっている」
 シュロの言葉にカグヤが同意するように頷く。
「山道が人だけでなく水の通り道ともなっておるからな」
「北側の方が良いと思う」
 そう言ってシュロは泥の巨人の反対側を示して見せる。
「分かった。迂回して行こう」
 荒木がそう声をかけた所へ丁度三ッ也が戻って来た。
「アレ、泥だ」
 その言葉の意味が一瞬誰にも理解できなかった。
 三ッ也が言うには泥の巨人の体を切っても従魔を斬った時の感触が無いのだという。
 その言葉に少し考え込むように目を伏せていたカグヤがクーと共鳴してネビロスの操糸を放つ。
 細い金属の糸が泥の巨人の体をすり抜ける。
「泥じゃの」
 恐らく、泥は従魔にとって道具なのだろう。
 攻撃の瞬間だけライヴスを流す事で一部だけ硬化したように見えるのだ。
 攻防一体の鎧というわけだ。
 御神体を無事に取り戻そうとしていた者達の表情が微かに曇る。
「やるべき事に変わりはないだろう」
 変わらない冷静さでそう言うとライはBA-03 シャードと共鳴する。
「まだ破壊しなきゃダメだって決まったわけじゃないんだ」
 荒木の言葉に皆顔を上げる。
「場を制する。しばし待て」
 そう言ってカグヤがフットガードの準備を始める
「央、ちゃんと、見てて」
「大丈夫」
 そう言って見つめあった氷月と迫間に
「いきますわよ」
「央、準備を」
 シアンとマイヤが声をかけてそれぞれに共鳴する。
 カグヤのフットガードが発動すると同時に三ッ也が飛び出し、その後に氷月が続く。
 二人の頭上を越えるようにカグヤの巻物「雷神ノ書」から飛び出した雷撃が泥の巨人の体を穿つ。
 雷撃の衝撃に泥の巨人の足が止まるが、やはりダメージを受けた様子は無い。
「水属性じゃと思うたが、土属性かの」
 カグヤの呟きを聞きながらライはもしもの場合に備えて周囲への警戒を始める。
 対して迫間は氷月と三ッ也の動きと泥の巨人の動きに意識を集中させ、その動きを見極めている。
「オレ達も行こうか」
 泥の巨人の注意が戦闘を始めた三ッ也と氷月に移ったのを確認して荒木とメリッサ、それにシュロとセトの四人は林の中を駆け抜け泉の反対側へと回りこんでいく。
「頭で判っていても動けない時ってあるわよね」
 メリッサが並んで走るシュロに声をかける。
 その言葉にシュロが視線を向けるがメリッサはそれ以上何も言わずに前を向いて走っている。
「網を」
 セトが声をかけ村から持って来た漁網を広げ、両側にそれぞれが分かれて林の木に網を固定する作業に取り掛かる。
「もしオレが愚神に乗っ取られたら……」
 作業をしながら荒木はメリッサへ声をかける。
「大丈夫よ、そうなったら私が迷わず引導を渡すわ」
 手を止めて荒木を見上げるように笑顔を見せてメリッサはそう答えた。
「いや、せめて分離する努力……」
 荒木が言い終わるよりも先にメリッサは視線を作業する手元に戻して言葉を重ねる。
「してもダメだった時でしょ?」
 言葉を断ち切るような僅かな沈黙があった。
「……って嘘よ、出来ないわ。殺して欲しいと言われ、それが正しいと判っても……」
 メリッサの視線は手元に向いているがその手は動いていない。
「……だよな……。だからオレ達が戦おう。一緒に」
 メリッサの銀色の髪にそっと触れて荒木は優しく声をかける。
 そうしない為にみんな戦っているのだ。
 振り下ろされる泥の巨人の拳を大きく氷月が避ける。撃ち降ろされた拳が跳ね上げた茶色い水しぶきが服や顔を汚す。
「ご神体……状況次第で破壊、だって」
 飛び散った泥も気に止めずエクスキューショナーの赤い刀身で次の攻撃を受け止めながら氷月はそう呟くように口にする。
『神絡みだとロクな事がありませんわねぇ……』
 その呟きにシアンが頭の中で答える。
「……出来れば、壊したくない」
 泥の巨人の足元にSMGリアールの弾丸をばら撒き動きを牽制しながら少し距離を取る。入れ替わるようにその空間に三ッ也が入る。
『……本当は壊したいですがね、いいですわ。』
 内側から氷月を見つめてシアンはそう口にして少しだけ愛剣へ視線を向ける。
「信心によって生まれし神か。神とは便利なものじゃのう。わらわ専用の神でも造る参考にするかの」
 泥の巨人を引きつける三ッ也と氷月を横目に見ながらカグヤは泉の縁を周り、網を設置している荒木たちの方へ向かっていた。
 悠然と歩いているように見えるが、その視線は絶えず戦場の様子を捉えるために動いている。
『……神なんて人の都合が悪くなると悪と断じられて、神殺しや記憶から消されたりでいいものじゃないよ。ここの水神はどうなんだろうね?』
 頭の中のクーの言葉にカグヤは泥の巨人となった水の神に目を向ける。
「どうなるのじゃろうな。まぁ、その前に邪魔な従魔をどうにかせねばの」
 網の設置はもう殆ど終わっていた。
「どうじゃ?」
 カグヤのかけた声に最後の作業を終えた荒木が答える。
「予定通りです。強度とか、大丈夫なのか不安は有りますけど」
 荒木の言葉に網に触れカグヤは小さく頷くと
「水も意外と重いからの、大丈夫じゃろう」
 そう答える。
 その言葉に荒木は安心するように微笑んでメリッサに声をかける。
「オレ達も行こう」
「そうね」
 応えたメリッサと荒木が共鳴する。
「後、お願いします」
 そう言って荒木が泥の巨人へと駆け出していく。その手には釣り竿「黒潮」が握られている。
「あれもAGWとはいえ、シュールじゃの」
 釣竿を手に走って行く姿にそう呟いてカグヤも少しだけ前に出る。
 カグヤのライヴスフィールドが戦場を覆う。
 泉の反対側では迫間も動き出している。
「準備は出来たかな……!?」
 迫間の動きに合わせて氷月が動きを変える。
 駆け寄って来る迫間と荒木の姿を視界に収めつつ泥の巨人の足に弾丸をばら撒くように銃撃を行う。
「泥だから、遅い。……ご神体に当たってなければいいけど」
 体を支える足に連続で穴を穿たれ動きの鈍った泥の巨人の側面に氷月が回り込む。
 反対側の足は三ッ也が剣の腹で抉るように泥を吹き飛ばしている。
「央、タイミング合わせてね……!」
 氷月の言葉に迫間が応える。
「分かってる! 三ッ也さん!」
 迫間の声を合図に氷月と三ッ也が泥の巨人から一気に距離を取る。
 どちらを追うべきか泥の巨人が迷うように一瞬だけ動きを止める。
「拓海!」
 背後から迫っていた荒木が迫間の声に合わせて黒潮を振るう。
 足元を払ったしなやかな釣竿の一撃は泥を減らすことは出来なかったが、泥の巨人の注意を引きつけるには十分だった。
 振り返るという動作も無く泥の巨人はそのまま前後ろが入れ替わるように荒木へと拳を振り下ろす。
 その腕の根元へと迫間の孤月が撃ち込まれる。
「敵は倒す、その上で人々の希望を守ってこそのH.O.P.E.だ」
 【SW(刀)】EMスカバードの抜刀加速と迫間の居合技術によって十分な勢いの乗った一撃は泥を吹き散らし拳の軌道を僅かに逸らす。
 逸れた軌道の外側に荒木が大きく下がりながら黒潮のワイヤ―を振るう。ダメージは無くとも攻撃に対して泥の巨人は反応する。
 荒木を追いかけて泥の巨人が踏み出す。
「氷月、しくじるなよ? 拓海、いつでも来い!」
 迫間が声を上げる。泥の巨人は網の目前に迫っていた。
 泥の巨人が荒木に向けて振り上げた拳を振り下ろす。
 このまま荒木が避ければ網は泥の巨人の拳に破壊されるだろう。
「全てが俺達の思惑通りに進むとは思わん……だが、俺達の希望は穢させん!」
 泥の巨人の拳が振り下ろされるよりも先に迫間の女郎蜘蛛が発動する。
 放たれたライヴスの糸が泥の巨人の体を拘束してその動きを止める。
 同時に泥の巨人の足の間をくぐって荒木が反対側に移動する。
「一緒に飛ばされるなよ?」
 迫間に声をかけて飛び上がった荒木が拘束された泥の巨人の胴にストレートブロウを放つ。
 泥の巨人の体が大きく傾き、バランスを崩した片足が網へと踏み込む。
 だが、網をすり抜けた足は地面で踏みとどまった。
 網の左右で待機していた三ッ也と氷月が飛び出す。
 跳びあがった三ッ也がウェポンディプロイを使い即座に持ち替えた九龍城砦を泥の巨人の上半身に叩き付ける。
 さらに、網の向こう側に突き出した足を氷月がエクスキューショナーの斬撃とSMGリアールの銃撃で削り取る。
 支えを崩された泥の巨人の体が網の中へと倒れ込んでいく。
 だが、泥の巨人も諦めていなかった。倒れ込みながらも泥の巨人は拳を振り上げる。
 硬化した拳の先端ならば網は破られてしまうだろう。
 泥の巨人が拳を振り下ろす。
 その網を挟んだちょうど反対側に氷月がいた。
「氷月!」
 迫間が叫んで駆けだす。
 一瞬、氷月の判断が遅れた。網を守らなければという思考が咄嗟の行動を妨げたのだ。
 迫間の縫止が泥の巨人の拳に突き立ち、硬化していた部分が消える。
 だが、拳の勢いは止まっていない。
 マイヤは迫間が濁流のような泥を背で受けるのを見ていた。
「氷月、大丈夫?」
 硬化していない泥の巨人の拳はただの泥である。ダメージを受けた様子は無いが泥まみれになった迫間が氷月に声をかけている。
 その背後、拳が通り抜けようとした場所に淡い青色の光を明滅させる丸い石が残っていた。
 網の上から転がり落ちるその石をカグヤが受け止める。
「何か、壊さずに従魔を引き剥がす方法は……」
 荒木の言葉にカグヤは首を横に振る。
「試しておる、時間はなさそうじゃ」
 カグヤの足元の水面が盛り上がり泥が少しずつ従魔に向かって引かれるように伸びてきている。
「泉の外に出ればいいんじゃない?」
 メリッサの言葉にカグヤは黙ってそのまま泉の外へと歩いて行くが足元の泥の塔は変わらずついて来る。
「泉の底の土とこの島の土に違いは無い。こ奴が出なんだのはこの林のせいじゃろう」
 そう言って示して見せた立ち並ぶ木々の間を確かに泥の巨人の体は通れそうにない。
 加えて重なる枝葉に泥を取られれば林の外に出るまでに随分と小さくなる事だろう。
 そんな話をしている間にもカグヤの足元の泥はどんどん高くなっていく。
「オレが」
 そう言って歩み出た荒木をカグヤが視線で制する。
「ここの神はそなたらの物であろう」
 カグヤの視線はシュロへと向いていた。
 そこに言葉は無いがカグヤの信念がその視線には宿っているように感じられる。
 隠鬼が三ッ也の側を離れる。
「出来ないと思うと出来ない」
 セトを見上げた隠鬼のその言葉にセトは驚いたように目を見開く。
 確かにセトはあの時シュロと共鳴出来ないと思ったのだ。
「どうするか決めるのはそなたらじゃ」
 カグヤに促されて顔を見合わせたシュロとセトがお互いに頷きあう。
 共鳴は再び成った。
 シュロにカグヤが従魔を手渡す。
 一瞬だけ迷うように瞳を閉じるとシュロは拳を振り上げる。
 振り下ろされた拳が従魔を粉々に打ち砕く。
 粉々になった丸い石が青い明滅を消しながら泉へと落ちて行く。
 大きな音と共に泉に落ちた丸い石が盛大に辺りに泥水をまき散らした。

●澄んだ水の泉へ
 雨は止み空には太陽が輝き、復元された社には丸い御神体が鎮座している。
 昨夜は戻った島民たちにより遅くまで宴が開かれていた。
「やはり、それはただの偶像であったのう」
 カグヤの言葉にクーは黙って祀られた御神体を見つめている。
 不思議な事に従魔が消えた後、御神体は傷一つない元の形に戻っていた。
 従魔に憑依された器物は従魔を倒せば元に戻るという話はどこかで聞いた事が有るような気もする。
 それとも御神体の持つ奇跡の力だったのか、どちらにしろ今の御神体はただの石である。
「とりあえず……何とかなったかな」
 無事に戻った御神体を見つめてそう言った氷月に
「やや不満足なんですけども、氷月がよければそれでいいですわ」
 シアンはそう応えると辺りへと目を向ける。
 従魔が消えても従魔が残した泥は消えず島民たちはその泥の掻きだし作業に追われている。
「はいはい、いい男が台無しだよ?」
 島民たちと一緒に作業していた三ッ也がそういって泥に汚れた荒木に水をかける。
「ありがと……ぶはっ口に泥が入るぅ」
 流れた泥に慌てる荒木の様子に島民たちも三ッ也と一緒に笑っている。
「これが……大切なものなんですね? いいですね……。私も……なんだか嬉しいです」
 隠鬼の言葉に「お疲れさま」と言って頭へ手を伸ばした三ッ也の手を隠鬼がすっと避ける。
「主、泥が付きます」
 隠鬼のその言葉に再び笑いが起こる。
 その笑いの輪の中にはシュロとセトの姿も有る。
「これからも二人で越えて行く事が沢山あるんだろうな」
 呟いた荒木の言葉にいつの間にか側にいたメリッサが答える。
「そうね、始めのうちはよく話す事からよね?」
 その言葉に二人は顔を見合わせて昔を思い出したように優しく微笑む。
「二人とも遊んでないで仕事だ」
 迫間の声に荒木と三ッ也が腰を上げる。
 マイヤはいつの間にか幻想蝶に戻ってしまい今はその姿を見せていない。
「これもH.O.P.E.の仕事なのか?」
 泥を掻きだす手を止めたライの言葉に。
「神の奇跡ではなく、人の手での復興支援じゃ。いわばボランティアといったとこかの」
 カグヤがそう答えた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 分かち合う幸せ
    隠鬼 千aa1163hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド

  • 氷月aa3661
    機械|18才|女性|攻撃
  • 巡り合う者
    シアンaa3661hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • エージェント
    ライ・シャムロックaa4442
    機械|26才|男性|命中
  • エージェント
    BA-03 シャードaa4442hero001
    英雄|27才|?|ジャ
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