本部

その名は、タマネギ祭り

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/23 18:57

掲示板

オープニング

●戦いのあとに
 従魔を討伐した。リンカー達は、意気揚々とその報告と戦利品を持ってHOPE本部に帰還する。
「おかえりなさ……う、うわあっ!」
 だが、出迎えた職員は思わず悲鳴を上げた。彼らの『戦利品』がどえらいことになっていたから。
「な、何ですかこの大量のタマネギは!」
 リンカー達は互いに顔を見合わせ、説明する。今回はタマネギの従魔と戦い、すでに当たり前となっているHOPEの暗黙の了解に従って、倒したあとの従魔を持ち帰ってきただけなのだと。
「食材になりそうな従魔をみんなで食べるのは、既に風物詩……。とはいえ、何ですかこの量は」
 職員はぐったりする。お土産と称して受け付けカウンターに積み上げられたタマネギ(ビニール袋入り)は、向こう側が見えなくなるくらいの高さがあった。どんなタマネギ好きでも、こんなに食べきれないだろう。第一、悪くなってしまう。
 職員は、考え込んだ。
 従魔とはいえ、たっぷりお日様に当たり栄養分豊かな土の中で育ったおいしいタマネギだったのだ。食べきれずに鮮度を落としてしまうには惜しい。どうすべきか。
「そうだ!」
 ぽんと手を打って、職員はロビーにいたリンカーや英雄達全員を呼び集めた。
「この豊富なタマネギを使って、タマネギ祭りをしましょう」
 タマネギ祭り。
 聞いたことのない響きに、一瞬どよめきが起きる。
「参加は自由。作ってもよし食べてもよし。このおいしそうなタマネギをすべて使って、考え得る限りの料理を堪能するのです。料理一品ごとに人気投票を行ってもいいですね。張り合いが出るかも。そうだなあ、わかりやすく、英雄とリンカー二人一組で一品作るというふうにした方がいいかもしれませんね。そして見事一位を獲得した料理人には、タマネギ王の栄光が与えられます」
 どんなだ。と突っ込む者は、なぜか一人もいなかった。
 タマネギは野菜なので、おかずとして利用されるイメージが強いが、昨今では野菜を使ったスイーツというものも考案されている。火を通したタマネギの甘さが、果物やクリームにはない味わいを生み出すのだそうな。炒めてもよし、焼いてもよし、スープにしてもよし、バリエーションは豊富である。
 かくして、ここに新たなる祭りの開催が宣言されたのだった。

解説

タマネギ従魔で料理をします。タマネギ祭りには、食べる人としても料理人としても参加できます。参加する場合は、英雄とリンカー二人一組で、一品作ります。料理一品ごとに人気投票を行い、一位獲得した暁にはタマネギ王と呼ばれることになる……かも。
作る料理は、副菜でも主菜でもスイーツでも可。タマネギの可能性を最大限に引き出しましょう。

リプレイ

●かくして、ここに熱狂的なタマネギの祭典が開催された。
「仕事探しにたまたまロビーにいただけなんだけどなー」
 鴉守 暁(aa0306)は、食材として渡された大量のタマネギと、調理器具及び調味料を前に首をかしげた。
「楽して食材もらえるならラッキーデスネー」
 キャス・ライジングサン(aa0306hero001)は、あるがままに楽しげだ。
「それはたしかにー」
 暁もとりあえず調理に取りかかることにした。
「ンー、タマネギを主役にって思いつかないヨー?」
「まかせなー見た目だけインパクトはある料理にしてやんよー」
 調理の過程をキャスと相談しつつ、まずはタレを作り始める。にんにくをみじん切りにしたあと、醤油みりん酒水砂糖と混ぜ合わせる。香ばしいにんにくの香が、あまじょっぱくこくのある調味料と混ざり合い、早くも食欲をそそる。
 出品する料理は、至ってシンプル。まずタマネギを厚めに輪切りにし、フライパンにバター落として熱する。その後中火でタマネギを炒めるが、形を崩さないためにタマネギにはあまり触らない。フライパン動かして炒めていく。焼き色ついたらひっくり返して裏側も同じように火を通し、タレを入れて煮詰めたら完成。とてもシンプルだ。調理法も、材料も。そうしてしんなりおいしく熱と味が加わったタマネギを皿に重ねていって、元のタマネギの形に似せた山にしていく。万能葱をてっぺんに散らして完成だ。
「できたータマネギステーキ~」
「イエーイ」
 できあがった料理を前に、ハイタッチする二人。
「タマネギは味がしみ込み易いのだなー決め手はタレのうまさなのだよー」
 にんにくと醤油の香り、そしてタマネギの匂いが食欲をそそる。実は、こっそりご飯を炊いておいた。試食もしなければならないから、どうせならと思ったのである。
「盛るヨーちょう盛るヨー」
 二人分のご飯茶碗に、キャスがぺたこんぺたこんとふっくら炊きあがった白米を盛りつける。
「うまい」
「おいしいデス」
 言葉少なに、黙々と箸を動かす二人。咀嚼に忙しくて、言葉を紡ぐ暇も惜しい。
 ひと噛みごとに、じゅわっと口中に広がる美味。タマネギの甘味と香ばしさ、そこに醤油ベースのタレがさらに深みを添え、にんにくが絶妙な香りとうまみのハーモニーを奏でる。噛めば噛むほどにその旋律は重みを増し、飲み込む頃には味のオーケストラのごとし。
 あっという間に、ご飯もタマネギステーキも二人の胃に収まってしまった。
「ふむ」
 これは、審査に出して申し分ない。審査員達がタマネギ・ザ・ワールドに突入してしまうこと間違いなしだ。だがしかし、食材でもらったタマネギは、審査員用を抜きにしてみてもかなり余りそうだった。
 そもそもは、タマネギを無駄にしないためのタマネギ祭り。ここで残してしまっては主旨に反する。
 タマネギをざく切りにし、タマネギステーキに使ったタレにおろししょうがと胡麻も加える。ごま油でタマネギを炒めたのち、タレを入れて煮詰める。
「はい、おやつ。どうぞつまんで」
 キャスは喜んで皿に手を伸ばし、通りすがりの参加者達もお相伴にあずかった。ごま油の香ばしい風味ににんにくのうまみ、それだけでも充分おいしいのに、さらにしょうがの辛みが全体を引き締め、胡麻がアクセントとなって口の中で弾ける。審査に出さないのがもったいないほどの一品だった。
「もひとつつくってみよう」
 調子が上がってきた暁は、さらに料理に取りかかる。
 タマネギを頭から八等分に切り込みを入れる。そこにバターを挟み、醤油と塩胡椒で味付け。それをレンジで5分くらいチンする。素材の味を生かすシンプル料理だ。
「よかったらどうぞー」
 またまたたまたま通りすがった運のいい人々が、おいしい幸運を味わうこととなった。このイベントは料理する人だけでなく、それを食べるための参加者も募っていた。料理は、食べる人がいてこそ真価を発揮するのだ。熱を通したタマネギの甘さが、醤油と塩胡椒でさらに引き立っている。バターのこくがじゅわっと広がり、人々は熱々のタマネギを口の中で冷ましながらうまいうまいとあっという間に平らげてしまった。
「タマネギばかりなので飽きてくるかもしれない」
 自分も食べながら、暁はうーんと考え、ぽんと手を打った。
「肉も焼こう肉。あとでな。あとで買いにいこう。料理はバランスです」
「バランス」
 肉と一緒に炒めたタマネギも、もちろんおいしい。というか、一緒に炒めないでいったい何と炒めるのかという勢いの相性の良さだ。
 実のところ、あまり勝ち負けにこだわっていない二人である。料理はおいしい。そして楽しい。それでいいのだ。
「でももらえるものはもらっておく。ようへいだもの。あかお」
 哲学的なことを呟き、暁は肉の買い出しに行くため財布をのぞいた。
 さて、同じく祭参加中の中城 凱(aa0406)、礼野 智美(aa0406hero001)、離戸 薫(aa0416)、そして美森 あやか(aa0416hero001)はメニューの打ち合わせを入念に行った。作るものがかぶらないようにするためだ。
「タマネギ料理? 焼肉の具材とか油揚げとタマネギのお味噌汁位しか思いつかないぞ」
 という凱は、智美とあやかの話し合いを見守っている。
「タマネギ? サラダだと妹達嫌がるから……子供だから辛味が駄目なんだよね……家では野菜炒めやお味噌汁に使う事が多いけど。あやかさん、何か案ある?」
 と、献立のバリエーションに困った薫はあやかを振り返ったが、打ち合わせに熱中していた彼女は答える余裕もないようだ。
「あやかさんと智美さんも親友同士だから、こういった時は二人で考える事が多いんだよね」
 薫も、大人しく見守りに徹することにした。
「あやかはどうする? ……だったら合わせた方が良いよな。序にそれでも余るようなら……」
 話し合いは白熱しているが、凱には一つ気になることがあった。
「でも二人共微妙な顔してるよなぁ」
 彼女達は、決して料理は嫌いではないはずなのだが。
「いや、従魔さえ追い出せば食物は食べれるのはわかってるし、農作物を無駄にするのは嫌だから参加は賛成なんだが……何か違和感があるというか……」
 智美は、うーんと唸る。あやかも何となく腑に落ちない顔つきだ。
「……此奴らのいた世界の敵って、従魔とは違うのか?」
 凱は首をひねったが、考えてみてもしかたがない。今しなければならないのは、大量のタマネギを美味なる料理に生まれ変わらせることだ。
「で、何作るんだ?」
「鶏肉とタマネギの牛乳煮込み。クリスマスに作っただろ。簡単だから、お前にも手伝ってもらうぞ」
「確かに簡単でタマネギ大量に使うけど、でもあれって……」
「そりゃあの時は鶏の足使ったけど、今回は食べ易さと盛り付け易さから、水炊きに使うような骨付きのぶつ切り肉が良いだろう」
「骨は必要なのか?」
「良い出汁が出るからな」
 栄養が凝縮するので、身体にもいい。早速凱と智美は下ごしらえにかかった。
 深めのフライパンを用意し、鶏は両面に軽く焼き目を付け、タマネギは皮を向いて半分に切り、繊維に沿ってざ千切りにする。目分量で良いが、煮込むとくたくたになって容積が縮むのでたっぷりと使うのがおすすめだ。フライパンに肉とタマネギを入れ、牛乳をフライパンの半分位の深さまで注ぐ。蓋をして中火~弱火でひたすら煮込み、時々そこが焦げ付かないように混ぜ、タマネギがくたくたになるまで煮込む。塩胡椒で味付け、物足りないようならチキンブイヨンを一、二個入れて、完成だ。栄養満点、シンプルだがボリュームもあり食べやすい。
 一方薫とあやかも、準備を始める。
「あやかさん、どうするの?」
「智ちゃんが主菜系作るから、副菜でスープにしようかと。タマネギタップリとなると基本ですしオニオンスープを」
「あ、オニオングラタンスープは妹達も好きなんだ。チーズ好きだし、あれだと小さい子でも固いフランスパン食べ易くなるから」
「そうですね、好みや体質もあるから両方出せるようにしましょうか」
 タマネギをみじん切りにし、油をひいた鍋であめ色になるまで炒め、鍋に湯を流し入れ、煮詰めて、塩・コショウで味付けする。物足りないようならブイヨンも入れて、こくを出す。パセリとクルトンをのせて完成。グラタンの方はフランスパンにチーズを乗せて軽く焼いてチーズを溶かしてパセリをふりかければできあがりだ。
 智美達の料理と一緒に食べてもおいしい。どちらもふんだんにタマネギを使っているが、味付けも調理法も違うから飽きずに食べられる。タマネギは栄養価が高いし、一説によるとある病気の予防にもなるというから、健康にもいい。
「こういう大容量系はお前結構得意だよな……で、二人一組一品だよな? 何あやかと作っているんだ?」
 タマネギの皮をむき始めた智美に、凱が尋ねる。
「使い切れないのはもったいないから夏野菜サラダも序に」
「薫さん、凱さんと一緒にちょっとタマネギ炒めておいていただけませんか?」
 あやかも、ほぼ同時に薫に指示を出す。
「いいけど、どうしたの?」
「智ちゃんと話したんですけど、基本は二人一組一品ですけど、タマネギ使い切れないのも勿体無いからそれ以外でサラダも作ろうって。炒めるのにまだ時間もかかりますし」
 審査に提出するのももちろんだが、タマネギを食べに来た参加者達にも振る舞わなければならない。すでに噂と料理のいい香りが広がって、調理場の前に行列ができつつある。せっかく並んでくれた人達を待たせるのは忍びないというあやかの心遣いだ。あやかと智美がサラダを作っている間、オニオンスープに必要な炒めタマネギの下ごしらえを充分にしておかなければならない。
 薫は早速、フライパンを手に取った。
「何作るの?」
「主菜もスープが炒める・煮るですから生を使って夏野菜サラダを。本当は赤タマネギ使うんですけどね」
「あ、あれ。夏に良く食べたよね。ポン酢で食べるからさっぱりするし野菜食べれるし」
 赤タマネギは、文字通り皮が赤紫をしている。サラダによく使われ、馴染みのある種類だ。
 ちなみに『新タマネギ』と呼ばれる種類もあるのだが、特に北海道のみで栽培される品種は、ピルピン酸という成分を極限まで抑えているために辛みが少なくなっているらしい。サラダに入れてもいいが、タマネギだけをポン酢などで食べてもとても美味である。
「終ったら他の人の分もレシピ聞いてみようっと。今度は自分一人で作れるように」
 今日一日で、ずいぶんタマネギに親しみが湧いた薫であった。
 さて今回のサラダは、具がたっぷりだ。まず茄子は斜めに切ってあげ焼き風に焼き目をつける。タマネギはスライサーで切って水に付けてから水気を切って茄子の上に載せ、さらにそのタマネギの上にトマトスライスを重ね、またまたトマトの上にゆで卵スライスを載せるという豪華さ。ヘビーリーフで緑を添えて鰹節を振ってポン酢でいただく。見た目にも彩り鮮やかで、ビタミンも豊富、夏にぴったりのサラダだ。
 牛乳で煮込まれた鶏肉とタマネギは、ふっくらした香が食欲をそそる。鶏の栄養とうまみをたっぷり吸ったタマネギは、本来の味とも相まって口の中をほくほくと幸せで満たす。オニオンスープ及びグラタンスープは香ばしさの中にタマネギの独特の甘味があり、食べても食べても飽きない。オニオングラタンスープの中に浮かぶパンがスープをしっかり吸い込んで、こんがり焼いたチーズのこく深さがアクセントとなる。添えられたサラダのさっぱりとした味わいは、爽やかに主菜と副菜のうまさを引き立てた。
 エミル・ハイドレンジア(aa0425)とギール・ガングリフ(aa0425hero001)もタマネギ祭に参加しているが、タマネギ王になるよりもおいしいものを食べる方に興味が向いているエミルであった。料理の知識は豊富なのだが、実作業はギールがほとんど担当している。
「ん、恐ろしい、従魔だった……」
「それにしても、何故タマネギなのだ」
「ん、タマネギに、限らず、何故か、多いよね、食べ物系」
「従魔には食物を好む習性でもあるのやも知れぬな」
「ん、おうどんの、従魔が出たら、絶対に、依頼を受けよう……」
「……」
 こめかみを押さえるギールであった。
 メニューは、かき揚げだ。というかエミル的にはうどんがメインである。使用される食材はタマネギのみ。だが、切り方一つでタマネギが微妙に味わいを変えることを知っているエミルは、ギールに細かく指示を出して最高の切り方でタマネギを切らせていく。古来、日本の料理人の中での最高の地位は、『庖丁人』と呼ばれる存在だったそうだ。素材のうまみを殺さない包丁の使い方というのは、一朝一夕でできるものではない。特に和食における最大の調理法は、包丁で決まると言っても過言ではないだろう。
「ん、タマネギが、主役なのだから、タマネギだけで、勝負すべき、そうすべき」
 タマネギ祭なのだから、タマネギを主役にするという発想は間違いではない。タマネギ本来の甘みとさくさくの食感で勝負をかける所存だ。
 エミルは、しれっとおうどん茹でてる。ちなみにおうどんは、普段持ち歩いてる自家製手打ちうどんだ。細めだがコシが強く、喉越しが良い。隣で調理されてるオニオンスープと合わせたら凄く美味しそうとか考えているエミルであった。
 気が利くギールはちゃんとカツオと昆布で普通のうどん出汁を用意。ここまで大体いつも通りの流れ、ワンセットである。
 できあがったかき揚げは、具材がタマネギのみなので正直タンパクな感じだった。調味料は試食者におまかせ。醤油、ソース、塩などの定番から、海外の珍しい調味料まで揃っているのが良心的というかなんというか。
「なんというか、すまんな……」
 ギールはかき揚げをどんどん揚げながら、参加者の誰にともなくそう言った。
 ちなみにうどんはエミル用。参加者が希望すれば一緒に出してもいた。何だかんだでおいしそうなタマネギかき揚げうどんには、人が集まってきている。
「ん、やっぱり、おうどんは、至高にして、至幸な嗜好……」
 エミルはおいしそうにうどんを啜る。
「はっは、タマネギはどれだけあっても困らないからな。不要と言うのであれば、ぼくがすべて持って帰っても構わないのだが……」
 鶏冠井 玉子(aa0798)は、さすらいの料理人。おいしい食材あるところだいたい現れる。オーロックス(aa0798hero001)が有能アシスタントを務めるのもいつものことだ。
「なるほど、皆で新メニューを考える、というのは素晴らしい試みだな。こういうのはプロも素人も関係ない。基本となる食材だからこそ、自由な発想が思いもかけない一品を生み出すのだ。ぜひ勉強させてもらうことにしようじゃないか」
 おいしそうな匂いがあちこちから漂ってくる中、玉子はタマネギの下ごしらえにかかる。
「タマネギを主役にした品、ということであれば思い当たるものも多いが……ぼくはドレッシングを作ることにしよう。そう、オニオンドレッシングだ。黒酢とタマネギをベースにした、深いコクを味わえるものに仕上げたいと思う。最近の高級ドレッシングブームもあり、市販のものでも味が良いものが増えているからな。少なくともそれらに負けず、尚且つ使い勝手の良いものにしたいところだな」
 調理の過程を見学にきた参加者に、蕩々と説明する玉子。その間も、作業の手は一切止まっていない。鮮やかな動きでタマネギが魔法のように変化していく。
「メインとなるのは当然タマネギ。これを贅沢に使いオニオンインパクトを感じさせることが第一。ただタマネギ自体苦手な者も少なからずいるだろうから、独特の辛みとクセを抑えるために国産黒酢を用いて、マイルドに仕上げたいところ。タマネギはあえて潰し過ぎず食感を残すことで、サラダのみならず魚やパスタなどにソースとしてかけても美味いものを作ろう。もちろんタマネギ料理との相性も抜群になる、ハズだ」
 某有名な三分で料理ができる番組のような、見事な解説だった。ほほーっ!と感嘆する見物達。
 そして、ドレッシングが完成する。近くに綾香、薫、智美、凱のブースがあったので、サラダを分けてもらうことになった。
「趣向を凝らして作った品はそのままでも美味しいだろうが、さらに味にどう変化が出るのか。タマネギとタマネギの新たなる出会いを楽しんでもらいたい」
 自信たっぷりに、参加者達がドレッシングをかけたサラダを食べる様を見守る玉子。
 タマネギの風味は生かし、こくのある酸味が特徴の黒酢とコラボ。さっぱりしつつもタマネギの味が食欲をかき立てる。そんなドレッシングと奇跡のように絡み合う生野菜達は、さながら美味のワルツを舞っているよう。噛めば噛むほど味わいが増し、もっともっと食べたくなる。皿を空にしてしまうのが惜しいが、皿の中に野菜がある限り食べ続けたい。食のアンビバレンツに苛まれつつ、人々はひたすら皿と口の間でフォークを往復させていた。
 その間に、オーロックスはタマネギ型の瓶をいくつも取り出して、ドレッシングを詰めていた。お土産用である。この場で振る舞っても十分すぎるほどの量ができているが、ひとしずくたりと無駄にしたくないと考えるのが料理人・玉子であった。
「皆の料理もすべて余すことなく平らげさせてもらおう。ふふふ、いやはや実に楽しい催しだな」
 作るだけが料理人ではない。食べて味わうこともまた、修行の一つ。
 食の探求者・鶏冠井 玉子の旅は終わらない。
 餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)は、祭開催前にちょっと腑に落ちないことがあった。
「たまねぎ盛りだくさんね。従魔を食べるのが風物詩って、そんな常識あったっけ?」
「熊鍋美味しかったよ」
「そ、ソウネ、オイシカッタネ」
 大変美味しくいただいた。
「たまねぎは、それこそ熊とかくせのある肉と一緒に調理してうまみを分け合うか、煮込んでスープにするのがいいかな。とはいえみんな似た物を考えるはず」
 タマネギは、どんな料理にも華を添える万能食材なのだ。だからこそ、料理するにあたり逆にバリエーションが多すぎて困るということもある。望月の出した結論は。
「せっかくだしおやつを作ろうか」
「いえす、スイーツ大好き」
 タルトのようなパイを作ることにする。普通に作るとおかず系になるので、林檎を一緒に入れて甘味をしっかり出していく。
 細切り玉ねぎを炒めて、しんなりしたらりんごをあわせて、メイン具材を作っていく。ざっと味を付けてみて、甘さが足りないようなら砂糖ではなく蜂蜜を加えていくことにした。
「その間に百薬はパイ生地お願い」
「検索したらココナッツミルク入れて小麦粉を練るのがいいみたいよ」
「検索? よし、それでいいよ。ボリュームありすぎても良くないから薄めにね」
 パイ生地が主張しすぎて、せっかくのタマネギの味がわからなくなったらもったいない。加減が難しいところだ。
 各々手際よく行程を終えて、いよいよオーブンへ投入となる。パイはじっくり時間をかけて焼く料理なので、待っている間は手持ちぶさただ。近所のブースを回ってみることにした。
「料理は多少するですけど、大丈夫でしょうか?」
 想詞 結(aa1461)は、参加してみたものの少し不安な様子だった。
「家族に料理を出すことは何度かありましたが、他の人に対して出すのはこれが初めてだった気がするです。それに今回は普段やらないような料理に挑戦するのでちょっと心配です」
「大丈夫だって。結お姉ちゃんなら不味いのはできないと思うよ」
 ルフェ(aa1461hero001)が元気に励ますが、結の表情は晴れない。ちなみに、ルフェは盛りつけ担当なのだ。
「ルフェ君は気楽そうです。盛り付けも大事だと思うですけど、そんなに深く考えてないみたいです」
 ルフェに聞こえないところで、こっそり溜息をつく結であった。
 望月と百薬は、たくさんの見物に混じってブースの様子を見守ることにした。
 結・ルフェチームの料理も、スイーツである。タマネギでムースを作れると聞いた結が、早速実践することにしたのだ。材料はタマネギ、ココナッツミルク、ゼラチン、スパイスの一種であるカルダモンパウダー、各種調味料。スライスしたタマネギを鍋で煮て、ミキサーで混ぜた後に再び煮る。ココナッツミルクを混ぜて各種調味料とカルダモンを加え、温めてからゼラチンを加えて冷やすと完成。それほど難しくないが、丁寧さが必要かもしれない。
「上手く出来たでしょうか。一応ためしに作ってみた時よりは上手にできた気がするですけど」
 うまくできたら、レパートリーに追加できる。ムース自体は、何度も作っているから大丈夫だとは思うのだが。
 さて、盛りつけはルフェの出番だ。
「美味しそうに見せればいいんだよね? なら派手すぎずデザートとして……涼しげな感じがいいかな」
 マジシャン志望の少年は、人に魅せることは得意らしい。器からしっかり吟味し、凝った盛りつけができていく。凝り性なのだ。
「おいしそうー」
 そうしてお客さん達に配られたムースを受け取って、望月と百薬は歓声を上げた。
 タマネギの甘味が、まろやかなココナッツミルクとよく合っている。カルダモンはカレーによく使われるスパイスだが、その独特な辛みと香が隠し味として甘いものともよく調和するのだ。ぴりりと微かに舌を刺激するカルダモンが、タマネギのムースをちょっと大人のスイーツへと昇華させている。青ガラスの器にぷるんと盛られた白いムースが、見た目にとても涼やかだ。
「すごい! おいしい!」
「おかわり!」
「って、駄目だよ。後ろの人に回らなくなっちゃう」
 望月と百薬はつい盛り上がりすぎて、うっかり長居してしまった。幸いタイマーをセットしていたので、オーブンの中のパイは無事に適度な焼き上がりで完成したが。
「よかったらこれ、お裾分け」
 ムースをしこたま堪能させていただいたお礼に、パイを持って結とルフェのブースに戻ってくる二人。
 タマネギと林檎のパイも、さくっとおいしくできあがっていた。タマネギにもしっかりと甘味があったため、最終的に蜂蜜は入れなくてもいいくらいだった。りんごのほどよい酸味と甘味に、さらにタマネギのおいしさが上乗せされて、噛めば噛むほど幸せの大洪水だ。
「それにしても、みんなが目に涙して作った力作の味がするね。どれもおいしいよ」
 望月は、幸せそうに目を細める。
 行雲 天音(aa2311)と蒼(aa2311hero001)のチームは、タマネギブラマンジェを作ることにしていた。
「同じ食材が大量に、よくあることね。食べられるし捨てるのもあれだし、調理は(主に蒼が)出来るし、一つ作りますか。蒼が」
「いえ、天音もやるのですよ?」
 材料は玉葱、牛乳、ゼラチン、砂糖、生クリーム。砂糖を塩、コンソメ、オリーブオイルにすると前菜になる。
「天音の担当は、生クリーム作成ですのでよろしくお願いします。ある程度大量に必要ですよ」
「何気に、厳しい所が回ってきてますよ」
 おうふとなりながらも、天音は作業にかかる。
「たーま、たまねぎ、たーま、たまねぎ、たまたまたまたま~」
 と鼻歌をエンドレス口遊みつつ生クリーム作成。タマネギを切って、一緒に煮込んで、ミキサーにかけて、裏ごしして、器に入れて冷蔵庫で冷やす。器はスフレカップのような小さい物を使う。前菜にする場合はカクテルグラスが合いそうだ。
「玉葱の甘みがでますので、ソースは無しですね」
「腕が疲れたよ、他の人の出来たのを食べに行きましょう」
 というわけで、お客さんに料理を振る舞ったあと、手が空いた隙を見計らって他を回ることにする。
「美味しー」
「玉葱の風味が良いですね」
「美味しー」
「十分、主菜にいいですね」
「美味しー」
「先ほどから美味しいしか言っていませんよ、天音」
 しかし、本当に工夫が凝らされておいしい料理ばかりなので、あまり言葉を飾るのは逆に無粋な気もするのだ。
 さて、楽しかったタマネギ祭も、次第に終わりに近づく。後片付けは各自担当なので、またブースの中は忙しくなる。天音と蒼は、ブラマンジェをもってスタッフのいるスペースへ向かった。確保していたHOPE担当者分だ。
「皆様でお分け下さい」
 スタッフはいたく恐縮していた。
 後片付けのめどがついた頃、いよいよ審査発表となる。
「タマネギ王の称号をゲットしたのは……この方です!」
 スポットライトが照らしだしたのは、玉子だ。タマネギ瓶に入ったドレッシングを掲げ、拍手を送る人々に一礼する。
 タマネギはおいしい料理に変化して、人々に喜ばれた。誰にとっても嬉しいタマネギ祭であった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798

重体一覧

参加者

  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • いたずらっ子
    ルフェaa1461hero001
    英雄|12才|男性|ソフィ
  • 敏腕裏方
    行雲 天音aa2311
    人間|17才|女性|命中
  • 一流の掃除屋
    aa2311hero001
    英雄|19才|女性|ジャ
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