本部

逃亡した先は自由か死か

東川 善通

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/30 20:00

掲示板

オープニング

●秘密裏な取引
 ネパールと中国の国境近くにある研究所。そこに二人の男性が訪れていた。狸顔で優しげな表情を浮かべている紳士とそれに付き従うのは手に銀のアタッシュケースを持ったスーツの青年。優しげな紳士に対し、青年はまるで表情が抜け落ちたかのように無表情。
「おお、Mr笛吹(うすい)、Mr土(トゥ)、ようこそいらしゃいました」
 彼らに声をかけてきたのは身なりを小奇麗にしたふくよかな男性。
「やぁ、所長。相変わらず、元気そうだ」
「えぇ、勿論。私にはコレがありますからね」
 紳士笛吹の言葉に所長と呼ばれた男はぐふぐふと笑いながら、指で丸を作った。そんな所長に笛吹は「それはよかった」とだけ感想を零し、早速本題へと話を切り替える。
「あぁ、勿論、ご用意いたしておりますとも。ささ、中へどうぞ」
 所長に案内され、笛吹と土は研究所の会議室へと案内された。そして、所長は別室から彼らの目的のものが入った小箱を持ってくる。
「中々に面白い結果が出ましたよ。一時的とはいえ、あれほどまでに身体能力が上昇するとは」
 そう言って開けられた小箱に入っていたのは袋詰めされた錠剤。笛吹はそれを手に取ると「それはそれは」と笑みを浮かべる。
「ただ、難点としては効果が切れた後の反動ですかね」
 あれには参りましたという所長。それに笛吹は「そういうものだよ」と薄く笑みを浮かべる。
「所長!!」
「なんだ、今は来客中だぞ」
「すみません。ですが、緊急です。検体No.915が逃亡しました」
「なんだと!!」
 和やかに話している最中、若い職員が息を荒げながらそう報告をすれば、所長は目を大きく見開き、男にどういうことだと掴みかかった。その様子に笛吹は「おやおや」と言うもののその顔には随分と面白いことがばかりに笑みが浮かんでいる。
 職員の話によれば、最初で最後の外出でタメルへ連れて行った検体No.915が今朝、見張り役であったはずの青年と行方をくらましたとのことだ。現在、タメルへ同行していた職員がその行方を追っているらしい。
「Mr.笛吹。検体の納品はもうしばらくお待ちいただいてもよろしいですか?」
「ええ、大丈夫だよ。なんでしたら、お手伝いしよう。土」
「はい」
 笛吹に言われ、土が所長の前にスーツから取り出した手のひらサイズの小箱を差し出した。その中には先程所長から渡されたような錠剤は入っていた。
「特別な薬さ」
 にぃと唇を吊り上げる笛吹に所長は恐る恐る手を伸ばし、それを受け取った。
「効果は絶大。追手を出すのであれば、それに飲ませるといい。あぁ、安心してくれ、こちらの薬と違って身体には影響はない。なんせ、特別な薬だから」
 その言葉を聞き、ホッと息を吐いた所長はすぐにそれを追手となる職員たちに飲んで、確保に動くよう指示する。その後、、二、三話したのち、笛吹と土はとりあえず、中国の方へと戻る旨を所長に伝え、研究所を後にした。
「ああ、愉快愉快。それにしても、どれほどの効果があるかな?」
「……さあ、私はさして興味がありませんので」
 笛吹は所長に渡したのと同じ錠剤を取り出し、土に「君も飲む?」と尋ねた。しかし、土ははっきりとした口調で「従魔になるつもりはないので結構です」と断る。
「そう、それは残念。……まぁ、今は君のままの方が扱いやすいからいいか」
 クツクツと笑う笛吹に土は静かに礼を言うように一礼を返した。

●自由のための逃亡
 時は少々遡り、早朝、タメルのホテル街。トタン板の上に立つぼさぼさな髪の青年は窓から少女を連れだしていた。
「マーロウ、どこへ行くの? どこかに行くなら、あの人達に許可をもらわないと」
「リンファ、あの人達には知らせなくて大丈夫だから」
 青年――マーロウは少女――リンファの言葉に首を振り、一緒に来てとだけ伝えた。マーロウは聞いてしまったのだ。自分と彼女のこれからを。
『あの915番も憐れだな。これが最初で最後の自由とは知らずに楽しんでるんだから』
『あぁ、言えてるな。そういや、見張りのガキはどうするんだ?』
『あぁ、ガキは殺処分だと。研究所に戻る途中で殺せばいい』
『915番は奴隷に、ガキは殺処分か。せいぜい、今の内に俺らの役に立っておけってか』
 トイレを借りようと部屋に入ったところで聞こえた職員たちの話。このまま大人しくいれば、自分は殺され、彼女は奴隷と売られることになる。マーロウは自分の命も大事だが、彼女がこれ以上酷い目にあわされるのは耐えられなかった。だからこそ、こうやって、リンファをホテルから連れだす。
「大丈夫、リンファは俺が守るから」
 そう、胸に誓うとマーロウはリンファの手を取り、薄ら明かりの街へ駆け出した。

●少女の証言
 H.O.P.Eカトマンズ支部に一人の少女が保護された。綺麗な服を着ているにも関わらず、顔は泥に汚れ、靴を履いていないがため、足には切り傷。少女――リンファはH.O.P.Eが安全な場所であることを理解すると「マーロウを助けて!」と声をあげた。
 聞けば、マーロウと言う青年と一緒にいたとのこと。その彼はリンファを隠して、大通りの方に駆けていったらしい。その後、彼女が隠れていた場所にもパーンと乾いた音が聞こえ、続いてリンファ達を連れてきてくれた職員たちの声が聞こえてきたそうだ。
「『あのガキ、殺してやる』とか『915番はどこだ』って聞こえて、私、怖くて」
 ぽろぽろと涙を零しながら、リンファは語った。
 彼女の証言により、内々に調査を繰り返していた研究所の裏が明らかとなり、これを基に摘発に乗り出すことが決定し、すぐさま摘発の準備に動き始める。それと同時に支部は自国、近隣国に来ているエージェント達へ青年の保護、研究所職員の捕縛を依頼する文書を発行した。

解説

青年の保護及び、追手の捕縛。
【】はPCが知らない情報。

●研究所
 ヴィランズとの関連性があるということでH.O.P.Eが内々に調査していた研究所。表向きは新薬の開発。裏では人体実験を行っていた。リンファ保護により、こちらは別のエージェントが摘発に向かった。

●関係者
リンファ
 検体No.915。16歳ほどのアイアンパンクの少女。H.O.P.Eに保護された。

マーロウ
 見張り役の青年。推定年齢16。ぼろぼろの半そで半ズボンに裸足。拳銃で撃たれ、腕を負傷している。現在、追手に追われ、タメルからインドラ・チョーク方面に南下中? お金は一切持っていないため、電車やバスを利用することはない。【途中、建物などで身を隠したりなどしているもよう。だが、夕暮れまで体力が保つか保たないか】

追手1
 研究所からの追手。全員、一般人。ただし、悪い人間。武器として拳銃、ナイフを所持。二人組が五組。

【追手2
 後続の追手。笛吹の渡した薬によってミーレス級従魔に憑りつかれている。ただし、憑りついている従魔は人間の身体能力を若干上げる程度。ほぼほぼ、通常の人間とかわりない。強い衝撃を与えれば、吐き出され、消滅する。武器は追手1と同様。人数は二人組が三組。】

●その他
 昼頃からマーロウの保護に動き始めます。
 タメルからインドラ・チョークまでは1.2km。歩きでも15分程度の距離ですが、主要な道は追手が見張っている模様。
 どこかに目撃情報があるかもしれませんし、騒動が起こっている可能性もあり。
 また『●秘密裏の取引』はPCの知らない情報となります。

リプレイ

●少女の祈り
 カトマンズ支部。職員によって小奇麗にしてもらったリンファがちょこんと椅子に座っていた。
「お疲れのところ、申し訳ねぇっすね」
「……大丈夫です」
 リンファの前に膝をつき、フィー(aa4205)は謝罪をまずした。それにリンファは首を振り、答える。
「それでは質問させていただきますね」
 フィリア(aa4205hero002)の言葉にリンファはこくりと頷く。そして、フィリアとフィーはリンファのことを気遣いつつ、質問し、情報を引き出した。
 そして、粗方情報をもらうと今度は無明 威月(aa3532)と青槻 火伏静(aa3532hero001)に交代する。
「任せときな。アンタの連れ合いは……絶対ェ連れて帰る。だから、オレたちに協力してくれ」
 火伏静は力強くリンファの肩を掴み、しっかりとその目を見て、宣言する。それに同意するように威月もスマホで彼女へ宣言をした。それにリンファは「ありがとう」と小さく呟く。
「まぁ、まだ、これからだからな。礼は最後に取っておいてくれ」
「……はい。あの、それで、私が協力できることって」
 不安そうなリンファに火伏静は「ちょっくら、声を貸してくれるだけでいい」と彼女の声を囮に追手とマーロウの様子を窺うのだと説明した。それに彼が助かるのならとリンファは威月たちに自分の声を託した。
「ありがとな。ちゃんと、これで見つけてやっから」
「……お願いします!」
 イメージプロジェクターとローブを羽織ることによってリンファとなって支部を出ていった威月の後ろで、リンファは静かに静かに手を合わせていた。

●死か自由かのカウントダウン
「カトマンズ! 青くて澄み切った高い空! 良いねえ、今度はプライベートで来たいくらいだ」
「あいにく今日はお仕事よ、シャヒーン。そろそろ真面目にね」
 ぐぐぐっと背伸びをするアズライール(aa0329)に呆れ気味に憲章(aa0329hero001)は注意をする。それにアズライールは「わかってるさ」と苦笑いを零し、頭を掻いた。そこにツラナミ(aa1426)から、警察へ赴く旨の連絡が入る。それにアズライールは同行する意を示し、ツラナミと共に警察署へと向かった。
「そういえば、どうして、直接行くんだ? 電話で済ませるって聞いてたけど」
「あ? ああ、電話じゃ、埒が明かなかったんだよ。ったく、めんどくせー」
「……しょうがない。むこうも、情報ないし」
 アズライールの質問にガリガリと頭を掻くツラナミ。それに38(aa1426hero001)と呟けば、しっかりと彼の耳に届いたのだろう力なく手を振った。
「わかってるさ。だから、フィーさんたちが聞きだした情報を持っていくんだろ」
 それからとアズライールにツラナミは威月たちが動く準備が完了した連絡を受けたことを報告した。
「お、じゃあ、オレらはそっちに向かった方がよさそうだな」
「まぁ、大勢で行って、その間に見逃してたじゃ意味がないものね」
 そちらは任せましたと憲章はそういい、アズライールを引き摺って、威月との合流地点へと向かう。その後姿を眺め、ツラナミは「いい話はもらえそうねぇけどな」と電話でのやり取りを思い出し、顔を歪めた。

「やはり、厳しいみたいだね」
『そうみたいですね』
 警察署に行ったツラナミから入った報告によると、インドラ・チョークは住民は勿論のことだが旅行者も大勢いるバザール。完全に封鎖ができないとの回答だった。ただ、今回の件に関しては可能な限り協力を惜しまないというもの。
「なるべく、一般人は巻き込みたくないか、協力してもらえるだけ御の字かもしれないな」
 とはえ、どうしたものかと頭を捻るのはすでに木目 隼(aa1024hero002)と共鳴し、一巡程タメルからインドラ・チョークまで駆けたArcard Flawless(aa1024)。
「人を隠すなら人ごみの中というけど、それらしい姿は見なかったね」
『報告にも上がってきたとおり、裏通りを使っているのかもしれないですね』
「そうだね。地図でもそうだけど、随分と複雑に入り組んでるくれちゃってるみたいだ」
 これは上からじゃなかったら迷子になれるねとアークェイドは冗談を吐きだす。
「ま、つまりは真っ直ぐインドラ・チョークに向かえてないって可能性もあるわけなんだけどね」
『確か、どこか負傷しているんですよね』
「らしいね。出来れば、足じゃないことが望ましいね」
 行動が制限されてくると命を諦める可能性もあるからねと言葉を言い終わると同時に彼女の眼に人混みを無理矢理進んでいく拳銃を持った二人組の姿が目に入った。一組を見つけてしまえば、その後ろにもちょこちょこ人混みが乱れている箇所が見て取れた。

「……こっちにはいないね」
『そうね、いないね』
 裏通りには不釣り合いな少女が一人、きょろきょろと周りを見ながら、歩いていた。少女――否、彼女たちはマーロウは怪我をしているみたいだし、主要な大通りを使用しないだろうと仮定した上で、このような裏通りを捜索していた。勿論、自分たちの目視だけでなく、人に尋ね、マーロウの目撃情報も探していた。
「血の跡も見当たらないね」
『じゃあ、こっちじゃないかもしれないね』
 アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)はそう話しながら、次の場所へと足を向ける。
「あらあら、お嬢さん、ここらはあんまり出歩かないほうがいいわよ」
「『?』」
「さっき、ラジオで警察の緊急放送が入ったのよ。なんでも、拳銃を持った人間が近くにいるって」
 怖いわねというのは近くの家から出てきたおばさんだった。彼女はアリスに行くところがないなら、うちに暫くいればいいわと提案してくれる。それにアリスは首を振った。
「探してる人がいるの。知らない?」
 どうだろうかとマーロウの特徴を伝えるとおばさんは首を傾げた。
「……それっぽい子なら、さっきあっちの方に行ったわよ。なんか、顔色悪かったけど」
「ありがとう」
 アリスはおばさんにぺこりとお礼を告げるとすぐに携帯を取り出し、連絡網の中心となるツラナミへ報告する。
「『見つけた』」

 その報はすぐさまツラナミから全員へと伝達される。そして、リンファのふりをして走っていた威月の許にもそれは届いた。
『お、その目撃情報だとここから結構あるみてぇだな』
 幻想蝶の中で地図を広げた火伏静の言葉に威月は素早くスマホで「どうする?」と尋ねる。それに火伏静はこのまま続けようと答えた。
『向こうにいる可能性があるなら、これを続けてりゃ、追手が釣れそうだ』
 それに威月は頷き、引き続き、リンファのふりをして、インドラ・チョークへと借りた声を使いながら歩く。その後ろに不自然な動きをする影が微かに威月の視界に入った。
『こりゃ、かかったな』
「……」
 火伏静の言葉に威月は後ろのいる影に気づかれないように小さくコクりと頷き、不自然じゃないように裏通りへ誘導する。その間、スマホで素早く仲間に連絡を入れた。

 ヴヴヴッと震えるスマホにツラナミはふぅと息を吐き、内容を確認する。そんなツラナミの足元には数人の男たちが獲物を片手に倒れていた。
「……変な奴もいたな」
『……多分、従魔』
 非共鳴時に相手をしていたが、非共鳴では対応できない追手がいた。そのため、ツラナミは素早く38と共鳴し、それを思いっきり蹴った。その際に男は何かを吐き出し、気絶したのだ。非共鳴で通じなかったということは……その答えは簡単だった。それにツラナミはめんどくせぇとばかりに頭を掻き、その旨を素早く書き込む。
『ツラ、上!!』
「あ? んなもん、分かってるさ」
 ナイフを振りかざし、降っていた男にツラナミは一閃。それだけ、十分だった。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……と偶数ということは二人組あたりで動いてるってことか」

 追手の中に従魔付きが混ざっていること、追手は偶数の人数で動いているということが伝達される。
「……さて、今回の件、アレに関係あるんでしょーかねえ?」
『新たなる古龍幇とやらの件、ですか?』
「前に薬がどうこうっつー話を零してたもんで、もしかしたらと思ったんでやがりますがー」
『可能性はなくはないですが、まだ確証が持てませんのでなんとも』
 普通に交わされる会話。しかし、その周りには痛みに蠢く数人の男がいた。
「じゃあ、ちょっと聞いてみようじゃねーっすか」
 ねぇとフィーは視線を落とし、男たちを見る。
「さーてあんたさん、研究所の取引相手の名前とか知ってねえでしょーかねえ? 知ってたら教えて欲しいんですがなー」
 バチリと目が合った男の前にしゃがみ、フィーが尋ねる。しかし、そもそもそういう世界にいる人間である、ぎりっと歯を食いしばり、答えようとしない。
「んー? まぁ言わなくてもいいんでやがりますよー? その場合あんたさんは”居なかった”っつー事になっちまいますが」
 そう言いながら、目の前でアサシンナイフを回して見せれば、その意味が分かるのだろう男は唸る。
「さ、答えてもらいやしょう。研究所の取引相手の名前は? それから、薬とは」
「知らねぇよ」
「嘘はいらねぇんで」
「嘘じゃない! 本当に俺らは知らねぇ。管理してるのは全部、所長だからな。俺らはただ、あの所長の言うことを聞いてるだけだ」
 トスと地面にナイフを突き立てて脅してみるも、男は知らぬの一点張り。それには『本当に知らないみたいですね』とフィリアも口に出すほど。
 ただ、その後、名前は知らないが、数回出入りしている人形のように無表情な男がいたということを死にたくない一心で思い出した男はフィーに伝えた。
「なるほどねぇ」
 そういって、ほっとした男の顔面すれすれにナイフを突き立ててれば、ヒュッと息を飲み、男はこてりと気絶した。
『案外、肝っ玉は小さい人だったみたいですね』
「まぁ、使われる人間なんてそんなもんっすね」

「……もう、リンファ、逃げられた、よな。もう、十分、だよな」
 人通りの全くない裏通りの陰で腕から血を垂れ流した青年は壁に背を預け、小さくそう呟き、目を閉じーー
「十分ではないよ。きみはまだ生きなくてはならない」
 青年の前に降ってきたのはアークェイド。彼女は驚く青年をよそに「見つけるのに苦労したよ」と少し埃まみれになってしまった服を叩いた。
「きみがマーロウで間違いないね」
 僕はこういうものだと青年――マーロウに提示したのはエージェント登録証。それを恐る恐る見つめ、彼女の顔と見比べる。
「えー、じぇんと」
「あぁ。それから、きみが犠牲になって助けようとしたアイアンパンクの少女は我々H.O.P.Eが保護している」
 アイアンパンクの少女が無事ということにマーロウはよかったと涙をこぼす。それにアークェイドは「泣いている暇はないよ」と声をかけるとH.O.P.E制式コートを彼に差し出した。
「彼女に関心があるなら、コレ着てついておいで。護り方を仕込んであげる」
 マーロウはコートに恐る恐る手を伸ばすとしっかりと握った。それをみてアークェイドははこくりと頷いた。
「っと、その前に簡単にだが止血しておかないとな」
 簡易的な処置を施し、その上からコートをかぶせた。
「さぁ、いこうか」
「……はい」
 ツラナミにスマホで素早くマーロウを保護した情報を流し、アークェイドはマーロウを守りながら、支部へと足を向けた。途中、従魔付きの追手に出くわすも、スキル:ロストモーメントを発動。殺傷しないように変えたゴム弾などのおかげで上手く牽制をとれ、そこに素早く双極の拳「陰陽」で拳を撃ち込んだ。それを見たマーロウはただただその戦うアークェイドの姿に「かっこいい」と拳を握り、見つめていた。

 一方でアークェイドがマーロウを保護している中、追手を上手く裏通りに誘導することができた威月は火伏静と共鳴し、敵対していた。ただ、彼らは人間なのだろう、二人が共鳴すると一瞬びくりと体を震わせ、警戒を強めた。そもそも、つられてついてくるのだから、人なのであろうことは予想できたことではあるが。ただ、そこに後から、従魔付きとアズライールたちが合流した。
「いや、発見したから、追っかけてたんだけどねぇ」
 誰も聞いていないというのに言い訳を口にするアズライール。ただ、聞いていたないのは仲間だけでもなく、相手も聞いていない。
「……無明流空掌術……」
 襲い掛かってきた男に威月はアガトラムのまま、腹を狙い、拳を繰り出した。
「あんたらはオレが相手してやるよ」
『派手に打ち上げてやりましょう』

●手に入れた自由
 夜、カトマンズ支部にて、今回の報告が行われていた。勿論、そこにはマーロウとリンファの両名も参加していた。
「あんたさんら、何か知っってねぇですか?」
 フィーが持って帰ってきた情報である人形のような男についての質問に二人はそろって首を傾げる。それにそういうところに顔を出さないから当然かと思われた。
「そういえば、この子たちはどうするんだい? H.O.P.Eとあろう組織がこのまま放り出すわけじゃないよね?」
 もとより身寄りのない二人。引き取り手がないという点をアークェイドが口にすれば、確かになと同意が上がる。
「それならば、ご心配ありません。偶然にも、彼らに融資をしたいと資金提供がありましたので」
 こちらとしてはそれを元手に家の手続きなどを行う予定ですと職員は語る。しかし、エージェントたちは腑に落ちない。タイミングが良すぎるのだ。
「ねぇ、資金提供者は誰?」
「どんな人?」
 アリスとAliceの双子かと思ってしまう少女たちに覗き込まれ、職員はたじたじになる。しかし、それに別の職員が助け舟を出した。
「実は匿名でしたのでわからないのです。もしかしたら、お二人の内のどちらかのご両親かもしれません」
 正式な戸籍など残ってないのでどうかはわかりませんがと答える職員に疑問は払しょくできなかった。
「これからもずっとマーロウと一緒にいられるね」
「うん、今度こそ、リンファを守れるように俺、強くなるから」
 ただ、幸せに手を取り合う二人を見て、エージェントたちは疑問を頭の奥にしまい込んだ。

●男の真意
 中国にある高級ホテルの一室。男は愉快そうに笑みを浮かべ、興味も全くない眼下の夜景を眺めていた。
「どうぞ」
「あぁ」
「……アレは回収しなくてもよかったのですか?」
「ん、あぁ、リンファーー検体No.915だったか。今は泳がせておこう。そのためにあの紙切れはやったんだからな」
 男ーー笛吹は従者のように付き従ってくれる土の言葉に楽しそうに答えた。そう、カトマンズ支部に保護された子供ためにとタイミングよく大量の資金を提供したのは笛吹だった。
「紙、切れですか」
「そうだとも。我々には何の価値もないただの紙切れだ。それでアレが生きれると言うのなら、それでいい。アレが生きることによって今後、面白いことになるからな。今から楽しみで仕方がないよ」
 ただ、H.O.P.Eに関わるのもいいが、回収できなくなっては困るからね、そう言いつつも笑みを絶やさない笛吹。それに土は変わらない声で頷くだけ。ただ、土の胸元にで輝くマリーゴールドを模したオレンジガーネットの中で彼の英雄であるマパチェは「シォンレンもそうやけど、愚神の掌の上から逃げられんやなんて可哀想な子やな」と小さく小さく呟いていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532

重体一覧

参加者

  • エージェント
    アズライールaa0329
    機械|21才|男性|回避
  • エージェント
    憲章aa0329hero001
    英雄|8才|女性|ジャ
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • エージェント
    木目 隼aa1024hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ステイシス
    フィリアaa4205hero002
    英雄|10才|女性|シャド
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