本部

従魔……その性能は抜群です。

gene

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~9人
英雄
4人 / 0~9人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/09/21 18:34

掲示板

オープニング

●くらいまーくらいまー
 そこは某高校自転車部。
 練習場にしている山の道をすごい勢いで登ってくるクライマーの前にエースの植野が両手を広げて立ちはだかった。
「止まれ! 藤!! 走りすぎだ!」
 しかし、クライマーはエースの言葉も聞かずに、彼の横をスピードを上げてすり抜けるとそのまま走る。
「っ……」
 走り去る藤の背中を見つめる植野にアシストの佐々江が声をかけた。
「やはり、あの人たちに頼もう……もう俺たちでは止められない」
「……」
 今朝六時、朝練のために植野が部室を訪れると、藤はすでに部室に来ていた。
 自分のロードバイクをじっと見つめる藤に植野が「どうした?」と声をかけると、藤はロードバイクがいつもとは少し違う気がすると答えた。
 植野も藤のロードバイクを見たが、いつもとどう違うのかよくわからなかった。
「気のせいじゃないか?」と言った植野に、藤も「そうかもな」と頷いて、いつもどおりそのロードバイクに乗った。
 それから十二時間後、午後六時の今まで、藤は山道を登り、下り、走り続けている。
「佐々江、俺のスマートフォンを……」
 取ってきてくれと言う前に、佐々江は自分のスマートフォンを植野に差し出した。
 植野は藤を助けるために、適切な場所……H.O.P.E.に電話をかける。
「藤を……従魔に乗った仲間を助けてください」

解説

●目標
・クライマーの藤を止めてください

●登場
・イマーゴ級従魔憑きロードバイク 一台
・藤 クライマー
・植野 エース
・佐々江 アシスト

●場所と時間
場所:山
時間:夕闇から夜にかけて

●状況
・従魔憑きロードバイクに乗った藤がその走りの軽やかさに魅了され、走り続けています。
・ほぼ従魔の力で動いているため、藤の体力は残っていますが、走ることに夢中になりすぎているためか、はたまた洗脳状態にあるのか、会話はできません。
・植野の考えでは、藤に「勝利」することができれば藤は我に返るはずとのこと。
・藤が走っているコースはいつもの練習コースである。二時間程度で登って下る流れで一周となります。
・エージェントたちが使えるのはいたって普通のロードバイクのため、共鳴した状態で全力で漕いだら壊れる可能性があります。

リプレイ


 ふもとから車で五分ほど山に入ったところ、植野が待つそこにエージェントたちは集まった。
「ロードバイクはこれを使ってください」
 用意されたのは佐々江の父親が経営するSASAE自転車店が好意で無料提供してくれたロードバイクだ。
「僕は自分のロードバイクを使いますので、余ったものは予備にしてください」
 そう申し出た奉丈・遮那(aa0684)は普段からロードバイクに乗っている。
「ふおお、楽しそうなのです! 勝ちますよ、ユエリャン!」
 紫 征四郎(aa0076)はロードバイクを見てテンションを上げ、ぐっと両手に拳を作る。
「ああ、我輩がついているのだ。負ける要素は微塵もないな!」
 そうはりきってロードバイクにまたがったユエリャン・李(aa0076hero002)は二メートルも行かずにこける。
 何度かそれを繰り返したあと、ふっと可憐に微笑んだかと思うとロードバイクをすっと征四郎に渡した。
「わはは、この通りだ! つまり、これは君が乗るべきだろう」
「運動音痴、ここまでとは……!」
「共鳴しよう、おチビちゃん。我輩乗れはしないが、理解はしたでな」
 月亮と出会ってから二度目の共鳴となる征四郎は、二十歳の美しい女性の姿となった。
「レーパン、結構足が出るのですよ……」
 既にはいてきていたレーパンは、大人の姿になると、その短さが気になる。
「気にすることはないだろう。ばんばん見せて行った方が良いぞ、隠すと体も弛むのだ」
 まだどちらが主体で乗るか決めていないダシュク バッツバウンド(aa0044)とアータル ディリングスター(aa0044hero001)はロードバイクをまじまじと見つめる。
「俺がやるの?」
「俺にやらせるのか?」
「質問に質問で返すのずるい……ロードバイク初めて乗るけど、とりあえず本気で漕げばいいんだろ?」
 ダシュクがロードバイクに乗ってみる。
「壊したら弁償だぞ」
「気ヲツケマス」
 壊さない自信がないダシュクは棒読みで返事をした。
「……初仕事がこれですか?」
 こちらもロードバイクを見つめる凛道(aa0068hero002)に木霊・C・リュカ(aa0068)はにっこり微笑む。
「ふふーふ、こういう仕事もどんどん行くからね!」
 とりあえず乗ってみようと、リュカは共鳴するために手を差し出した。
「初めての共同作業だ!」
  凛道は渋い顔をする。
「その言い方は何だか凄く嫌です……」
「ウェディングドレスを用意してあげようか?」
 沙羅が凛道をからかうように言った。
「今日は案内は必要なさそうだな」
 ヴィクターの声にリュカは気配を辿ってハイタッチしに行った。凜道は二人のやりとりを見つめる。
 お互いの手のひらを叩き、そのまま手を離すかと思いきや、リュカはヴィクターの手をしっかり握ってぶんぶん振った。
「今日もよろしくー!」
「ああ……よろしく頼む」
「今日は補給係をお願いするよ!」
「あたしがサポートカーを運転するわ!」
 沙羅の言葉に征四郎が聞く。
「沙羅は運転できるのですか!?」
「できるわよ〜! でも、轢かれそうになったら避けてね!」
「……わ、わかったのです」
 震えながら征四郎は頷いた。
「ろーどばいくに取り付くとは不届き千万な従魔であるぞ!」
 泉興京 桜子(aa0936)が叫ぶ。
「藤ちゃんの体力が尽きる前になんとかしないとねぇ」
 ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)はすでに自転車用ウェアに着替えている桜子と共鳴し、ヘルメットやグローブをつける。そして、桜子用に用意された子供サイズのロードバイクにボトルを装着。
「いつでも行けるわよ!」
「うむ! がんがん行こうぜであるぞ!」
 桜子はそう勢い込んでペダルに足を踏み込み……するすると三メートルほど進んでこけそうになる。
「やっぱり練習は必要ね!」
「うむ! 鍛錬は怠ってはいけないのであるぞ!」
「それに調整もね」と、遮那がサドルやハンドルの高さを調整してくれる。
「登りではフロントギアをインナーにするといいよ」
 遮那のアドバイスに桜子は素直に「わかったのである!」と返事を返した。


「らーらららん♪ ららん♪」
 頭の中に響く歌声に凛道は「ちょっと……」と不満そうな声を出す。
「真面目にやってますか? マスター……」
「レースにはこの曲って決まってるんだよ! 超定番ヒメソング!」
「……ほんとうですか?」
 初乗り自転車がロードバイクとなる凛道はよろよろとはしているが、なんとか転ぶことなく進んでいた。
「もうすぐ藤がここを通過するはずです」
 植野がエージェントたちに声をかけた。
「そのタイミングをスタートにしたいと思うのですが……」
「りょーかい」とダシュクが答える。
「ロードバイクの調整を早くしなきゃですね」
 遮那はダシュクのサドルの高さを上げる。
「俺も手伝います」と佐々江が、まだ調整の終わっていない凜道を止めてそのサドルの高さを調整をする。
「乗ってみてください」
 凜道は高くなったサドルに戸惑ったが、ペダルを漕いでみるとさっきよりも力を入れやすくなったことがわかった。
「そういえば」と遮那が植野に聞いた。
「藤さんはエネルギー補給をしてるんでしょうか?」
「いや、なにも口にしていないはずだ」
「それなら、補給食とかボトルを差し出してみたらどうでしょう? 受け取ってくれるなら少しの間だけでもスピードが落ちるかもしれません」
「確かに。必要ないと感じていても、普段の癖で受け取る可能性は十分あるな……」
 植野が佐々江に声をかけると、佐々江はすでに補給食とボトルを持ってきていた。
「来たぞ!」と、藤の姿が見えたのを確認したヴィクターが報せる。
「ここからが本番であるぞ!」
 桜子は改めて気合いを入れる。
「偽りのない真実を述べよ、何故君は勝ちたいのか」
 頭の中に響いた月亮の言葉に、征四郎は静かに答えた。
「紫 征四郎は、勝たなければ意味がないから……負けるわけにはいかないから」
 佐々江がボトルを掲げて見せると、藤は佐々江に寄っていく。
「藤が受け取ったタイミングをスタートにします」と植野。
 全員、ロードバイクに乗り、ペダルに足をかける。
 植野のカウントダウンが始まる。
「五、四」
 緊張感が高まる。
「三、二」
 藤が手を伸ばす。
「一」
 藤がボトルと補給食を掴む。
「 GO!」
 ペダルを踏み出すエージェントたち。
「くっそ……さすがに早いな」
 あっという間に遠ざかっていく藤の背中にダシュクは思わず舌打ちした。
 道を複数のタイヤが進む音が響く。
「山道とはいえ、トレインはやっぱり有効だと思います」
 遮那が言う。
「トレインを作って風の抵抗を減らしながら走りましょう。最初は僕が先頭で走りますね」
「征四郎も協力するので、交代のタイミングで教えて欲しいのです」
「それじゃ、その時に声かけるね」
 エージェンエトたちは一列になり走る。前を走るロードバイクの後輪に自身の前輪を近づけ、絶妙な距離を保つ。
「馬鹿者、コーナーで大きく回りすぎだ。遮那とか言ったか、先頭の人間にしっかり合わせろ」
 月亮は征四郎に細かに注意をする。
「おい、速度上げ過ぎるなよ。列が乱れる」
 アータルもダシュクに注意を促す。
「学生時代を思い出すなぁー」
 友達とママチャリで競争したことを思い出してダシュクのテンションは上がる。
「おい。聞いているのか?」
「わーってるって」
「……本当だろうな?」
 仕事だということを忘れているかのようにはしゃいでいるダシュクにアータルは呆れる。
「みなさん、追いつく気はないのでしょうか……?」
 凜道がリュカに疑問を投げかける。
「今はみんな、様子見兼体力温存してるんだよ。藤君、クライマーで登りが得意だしね」
「今すぐに追い越すことはできないということですか?」
「それは無理かな。向こうは毎日山を登っているんだ。それに対してお兄さんたちはさっきロードバイクに乗ったばっかりの素人だからね」
 リュカの説明にいまひとつ納得できていない凜道に桜子が後ろから声をかける。
「むふふ! 何やらドキドキワクワクであるな! 凜道殿!」
「え……ええ」
 急に桜子に話しかけられ、凜道は緊張に声を震わせる。
「楽しいのであるぞ!」
「さ、桜子さんが楽しんでいるのでしたら、よよよよかったです……」
 緊張しすぎてどもる。
「凜道ちゃん、かわいいわ〜」
 桜子の口を借りてベルベットがからかうと、凜道の顔が真っ赤になり、自転車がよろよろとトレインから外れかける。
 その凜道の体を、ワゴン車の助手席の窓から身を乗り出したヴィクターが押し戻す。
「しっかり漕がないとトレインから外されるぞ」
「わ、わかってます!」
 凜道はすこし拗ねたように頬を膨らませた。


 遮那がすこしスピードを落とし、征四郎と先頭を変わった。
 スピードを維持した状態で征四郎は鷹の目を使う。
「藤はもうすぐ頂上に着きます」
「それならこちらももうすこしスピードをあげようか」
 遮那の言葉に征四郎は頷いた。
「にっげる~♪ ふじどのを~♪ おいかける~♪ わしたち~♪」
 機嫌よく歌う桜子にベルベットが聞く。
「……ねえ、桜子? その歌、何?」
「わしさくしさっきょくの藤殿をおいかける歌である! 我ながらよくできていると思うのであるぞ!」
「……もうすこし、声のボリューム落としましょうか?」
「なぜであるか?」
 自分が恥ずかしいからとは言えず、ベルベットは困った。
「ボトル、いるか?」
 ワゴン車からそう聞いたヴィクターにベルベットは桜子の口を借りて言った。
「ぜひ、いただくわ! 補給食もね!」
(これでしばらくは歌わないでいてくれるはず!!)と思ったのだが、甘かった。
 エネルギー補給をしながらも桜子は鼻歌で歌を続けた。
(よっぽど気に入ってるのね……)

「これからめちゃくちゃエネルギー使うから、凜道ももらっておこうか?」
 頭の中に響いたリュカの声に、凜道は「わかりました」と答え、ちらりとヴィクターを見た。
「僕もいただきます」
 ヴィクターが差し出すボトルと補給食を凛道は無言で受け取る。
「やけにヴィクター君にはつんつんしてるな〜」
「そんなことありませんよ」
「そうかな〜……」
 山頂に辿り着き、下りに入ると驚くほど速度が速くなる。藤もさすがにあがりすぎる速度に用心してブレーキをかけている姿がカーブに見え隠れする。
「素人の俺たちが彼に勝つためにはそこそこ無茶をしないとね!」
 リュカの言葉に凛道は「わかりました。マスター」と返事を返すと、一人トレインから外れて、仲間を次々と追い越す。
「藤君を驚かせてあげよう!」
 凛道は前方に体重がかからないように注意しながらブレーキはかけずに山を駆けおりる。勢い余って、危うくガードレールの外に飛び出しそうになったが、なんとかハンドルを操作して、カーブを無理やり回る。
「あいつバカなのか?」
 月亮の声が征四郎の頭の中に響く。
「きっと突破口を作ってくれようとしてくれてるのです!」
「トレインを崩してそれぞれで追いますか」
 遮那の言葉に征四郎は頷き、速度を上げる。
「誰かが勝てればおっけー!」とダシュクも飛び出す。
「依頼だが、たまにはハメを外すのも構わないだろう……が、とにかく速度に気をつけろ!!!」
 アータルがダシュクに注意を促す。
「なかなか速度が出ぬの〜」とぼやいたのは桜子だ。
「桜子は体小さいものね〜」
 体重が軽いため、他のエージェントほどの速度は簡単には出ない。
「今はベルベットも小さいのである!」
「そうね〜。共鳴してるからね〜」
「追いつくにはペダルを漕ぐのであるぞ!」
「それはやめたほうがいいわ……ってやめなさいってば!!」
 ベルベットの忠告を無視して桜子はペダルを漕ぐ。
 そして、軽い桜子の体は前のめりになり、宙に放り出される。
「だからやめなさいって言ったのに〜」
「……」
 桜子は覚悟を決めて目を閉じたが、その体はポスンッとなにかに受け止められ、痛みはない。
 そっと桜子が目を開けると、ヴィクターの腕に抱きとめられていることがわかった。
「ヴィクター殿……」
 桜子がお礼を言う前に、体の主導権をベルベットに奪われた。
「きゃ〜! こわかった〜〜〜!!」
 大げさに叫んだベルベットはヴィクターにしがみついた。


 凛道は何度もガードレールから飛び出しそうになりながらなんとか藤を捉え、張り付いていた。
「スピード違反、という罪がこちらの世界にはあるようですよ!」
「確かに、今おまわりさんに会ったら確実に怒られるね〜」
 リュカはそう笑いながら、「でも」と凛道にさらに指示を出した。
「もうちょっと耐えて、もうちょい速くなってみようか?」
「……わかりました。マスター」
 凛道はリュカを信じ、ペダルを踏み込んだ。
 ぐっと藤との距離が縮まり、藤も速度を上げようとする。
 しかし、前のめりになりかけて、藤は再びスピードを落とす。そのチャンスを逃さずにリュカは「前へ!」と凛道を導く。
 凛道はさらにペダルを踏む。ロードバイクが軋んだ音を出したが、そんなことは気にせずにさらに前へと出る。
 藤を追い越した瞬間、藤が息を飲んだのがわかる。
 リュカはこれで藤が我に返ってくれればと思ったが、藤はペダルを踏み込み、凛道を追い越そうとする。
「っく……道は譲りませんよっ……」
 凛道がさらにペダルを回そうとしたその時、ロードバイクが軋み、フレームに亀裂が入った。
「やばい!」
 そうリュカが叫んだのと、凛道がバランスを崩して速度のあがったロードバイクから振り落とされるのは同時だった。
 凛道の体が道路に叩きつけられる。
「大丈夫ですか!?」
 遮那が自転車を停めようとしたのを凛道は厳しい眼差しで拒む。
「行ってください!」
 遮那は深く頷くと速度を上げて藤を追いかける。その後をダシュクが行く。
「リンドウ! リュカ! 先に行っています!」
 征四郎も藤を追う。最後に桜子が走る。
 そして、凛道の傍にワゴン車が止まった。中からヴィクターが降りてくる。
「……あなたの世話になるとは……」と、やはり凛道は不満そうだ。
「なんだ。追いかけないのか?」
「この自転車じゃ無理でしょ」
「シャナが乗らなかったものがあるが……追いかけないなら、ワゴン車に乗るか」
「追いかけます!」
「そうか」と、ヴィクターはワゴン車からロードバイクを下ろした。

「回転数を下げるのだ。これ以上回すと壊れるぞ」
 月亮の指示に、征四郎は「わかっているのです」と答える。
「でも、仲間のために勝たなければいけません……」
 壊れることを恐れずに挑んだ……一瞬の勝利へのチャンスを掴もうとした凛道とリュカの戦いを見ていて、壊れることを恐れることなどできなかった。
「勘違いするな!」
 月亮が厳しい声で言った。
「あいつらの戦い方はあいつらの戦い方だ。同じ方法が正しいわけじゃないし、お嬢ちゃんに必要な戦い方でもない! お嬢ちゃんは絶対に勝つんだろう?」
「……勝ちます。少しでも多くペダルを踏んで、踏んで……いつか兄様まで届くように……絶対に負けません!」
「それなら、まだこのマシンを壊すわけにはいかないだろう?」
 征四郎は深く頷いて、冷静な眼差しを取り戻す。
 その時、前を走っていたダシュクが「あ、やべっ」と叫び、次の瞬間、ダシュクはガードレールを飛び越え、その下の木々の中へ落ちていく。
「大丈夫ですか!?」
 征四郎がそう叫ぶと、木々の中から「おー!」と返事があった。
 ほっと息を吐いて、征四郎はまた前を向く。
 隣に桜子がつく。
「征四郎殿も完全勝利を狙っておるのであるな? ワシとも勝負であるぞ!」
 桜子が機嫌よく口角を上げる。
 遮那が藤の前に出た。そして、じりじりと速度を落とし、藤の動きに合わせて左右にハンドルを切り、藤の妨害を図る。
「二人とも! 下りが終わる前にはやく抜いて!!」
 遮那の言葉を合図に、桜子はさらにスピードを上げる。歌いながら。
「くらいまーには~まけぬ~♪ のぼりきったら~おぼえておくがいい~♪ そなたの首を~いただきにまいる~♪」
「すでに下りだけどね」とベルベットの合いの手が入る。
 征四郎と桜子は藤を抜くと、そのまま速度を上げて走る。
 下りが終わり、平坦な道に入るとギアをアウターにする。
 平坦な道は長くはなく、また登りになる。
 植野から見せてもらった地図を完璧に頭に入れていた桜子が最初に登りの道に入る。その後に征四郎が続く。
「坂に入ったらギア二枚軽く」
 月亮の指示に征四郎は従う。
 桜子も征四郎も懸命にペダルを回す。
 勝ちたい。勝たなければいけない。藤のために……いや、自分自身のためにも。
 登りに入って十数分、あと五分もすればゴールに着くだろうというところで、桜子と征四郎は後ろからすごいスピードで上がってくる自転車のタイヤの音を聞いた。
 二人は顔を見合わせる。
「……嫌な予感しかしないわね」
 ベルベットの呟きに桜子は唾を飲み込み。
 後ろを振り返ると、ダンシングで猛然と登ってくる藤の姿が見えた。
「なななななんであんなに早いのであるか!!?」
「まぁ、向こうは登りのプロだものね〜」
「それにしても怖すぎるのであるぞ!!!」
「逃げるしかないわね」
 全力で漕ぐ桜子の隣で、征四郎も懸命にペダルを回す。
「クライマーってのはすごいものだな」
 月亮が感想を漏らす。
「呑気に感想を言っている場合じゃないのです!」
「では、漕げ。いまからダンシングとか言っても習得は無理だ。それなら漕ぐしかない。血反吐が出るほど漕いでみろ!」
 征四郎と桜子は全力でペダルを回す。
 もうすぐ追いつかれる……征四郎は歯を食いしばり、ペダルを回した。
「わしは流星になるのであるぞーーー!!!」
 桜子が叫ぶ。
 その次の瞬間、植野の声が聞こえた。
「泉興京と紫、同着! 二位、藤!」


「……勝ったのですか?」
 自転車を止めて征四郎が植野に視線を向けると、植野はしっかりと頷いた。
「やったのであるぞ!! ベルベット!!」
 桜子とベルベットは共鳴を解いて喜び合った。
 征四郎が藤を振り返ると、藤は自転車を止め、呆然としている。
「……負けたのか?」
「ああ」と佐々江が頷く。
「……いや、俺はまだ行けるはずだ……まだ、勝てるはずだ……」
「俺たちをおいていくな」
 植野の言葉に藤が顔を上げる。
「お前がいなければ山は登れない。わかるだろう?」
 藤は再びうつむき、涙声となった。
「……すまない」
 藤に続き、遮那がゴールした。その後に、新しい自転車でついてきていた凛道がゴールする。
 凛道はリュカの指示に従い藤が乗っていたロードバイクを軽く叩いた。すると、従魔が白い靄となって出てきた。
 それを桜子が火之迦具鎚でちょんっと突っつくと、もともと力の弱かった従魔はあっけなく消滅する。
「……こんなことしなくても、最初から自転車を攻撃すればよかったのでは?」
 凛道の疑問に耳を傾けながらリュカは植野と佐々江、そして藤の三人を見つめる。
「んー、ふふ、そうだねぇ。……でも、ここにいる皆がそれをしなかった理由、一緒にゆっくり考えようよ」
「……イエス、マスター。誓約の名の下に」
「おつかれさーん」と、遅れてゴールしたのはダシュクだ。
 自転車には乗らず、おかしな方向に折れ曲がった自転車を担いでの到着である。
「脚ぱんぱんだわ」
 走る時の力の配分をいろいろと考えていたはずだったのに、途中、楽しさからそんなことは忘れていた。
「しばらくはお尻も痛いかもしれませんが、それもこのレースのいい思い出ということで」と遮那が微笑む。
「マッサージを欠かすなよ」
 共鳴を解いたアータルが幻想蝶から取り出したタオルをダシュクに渡した。
「まじめか。つか、ばんそこーもくれ」
 木々の中に突っ込んだため、ダシュクの顔も体も擦り傷だらけだった。
「いい顔になったな」と、アータルは鼻で笑った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    奉丈・遮那aa0684
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936

重体一覧

参加者

  • 復活の狼煙
    ダシュク バッツバウンドaa0044
    人間|27才|男性|攻撃
  • 復活の狼煙
    アータル ディリングスターaa0044hero001
    英雄|23才|男性|ドレ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • エージェント
    奉丈・遮那aa0684
    機械|15才|?|生命



  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
前に戻る
ページトップへ戻る