本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】アンナイ

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 6~9人
英雄
9人 / 0~9人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/18 18:02

掲示板

オープニング

●事件のあらまし
 『この世界』と『異世界』の狭間という奇異な場所にドロップゾーンが造られ、テーブルトークRPGのルールブックを媒体に一般人の精神体が拉致されている……という事件が起こった。
 グロリア社は件のドロップゾーンにアクセスするためのコンソール型機材『VR-TTRPGシステム』を開発し、エージェント達はその機械を使ってドロップゾーンに乗り込み調査を行う事となった。
「今回行ってもらうのはここだ。見た感じはゆるふわRPGに出てくる村という感じだが、こんな見た目でもドロップゾーンだ。何があるかは分からない。一般人がいた場合は救助、一般人が敵NPC化していたら精神体を解放するために戦闘だな。従魔や愚神がいる可能性もあるからくれぐれも用心しろ。ルールブックを媒体にしている事から、うっかり引き込まれたヴィランが彷徨っている……という事もあるかもしれん。あとは霊石があったら確保、何もなくてもドロップゾーンの探索……君達の任務は概ねそんな所だな。毎度大変な任務ばかりで済まないが、よろしく頼むぞ」
 オペレーターの言葉にエージェント達は頷いた。目的地はホログラムとして浮かび上がる、まさにゲームの世界。エージェント達は視線で意志疎通を図った後、正しく未知の領域であるドロップゾーンへと飛び込んだ。

●出オチ
「はじめましての方ははじめまして。お久しぶりの方はおひさしぶりどす。僕はパンドラって言います。ここでNPCやらせて頂いてますんで、どうぞよろしゅう~」
 エージェント達は瞠目した。目の前の人物はエージェント達の様子に気付いているのかいないのか、木の看板を持ったままひらひらと右手を振った。特徴のない黒い髪。特徴のない黒い学ラン。イントネーションのおかしい京都弁。マガツヒのマークの入った白い仮面。マガツヒの愚神パンドラが、ご丁寧に『NPCどす』と書かれたたすきを肩に下げて立っている。
「えーっと……すいません、ちょっとメモ見せて下さいね……ここは『ドコカノ村』どす。僕は……あ、村人P! 村人Pどす! さっきのパンドラっていうのはどうか忘れて下さいね! えっと……ムラガ カイブツニ オソワレテイマス。コノママデハ ツミノナイ ムラノヒトタチガ……すいません、このメモ読んでくれると嬉しいどす。あ、霊石はあれとあれとあの家のタンスの中にありますけど、家ごと壊されないように注意して下さいね。じゃ、頑張っていってらっしゃいどす~」
 「村人P」はエージェント達に背を向けすたすたと歩いていくと、村の入口近くのベンチにごく自然に腰を下ろした。エージェント達がどうしたものか分からずそのまま立っていると、一体どういうつもりなのか「頑張ってくださーい」と気負いもなく手をひらひらと振ってくる。何故パンドラがここにいるのか、っていうかNPCってどういう意味か。分からない。分からないがエージェント達はこう思った。
 とりあえずこいつ倒そうか。

 そんなエージェント達の考えごと踏みつぶさんと言わんばかりに、東側からどどどどという謎の足音が聞こえてきた。

●メモの文字(必要事項抜粋)
・敵は「ひつじさん」どす。全部で6匹います
・ひつじさんは東側から来ます
・霊石を優先的に狙ってきますので壊されないよう注意して下さいね
・霊石の入ったタンスには「霊石入ってます」というシールが貼ってます

●看板の文字
・僕(村人P)はNPCです
・僕の事は攻撃出来ますけど、僕を攻撃するとペナルティーが発生します
・どんなペナルティーが起きるかはやってみてのお楽しみどす!
・僕は逃げたり防御したりはしますが、自分からは誰かに攻撃しません。NPCどすから!
・僕は寂しくなったら帰ります
・僕がNPCである限り、僕を攻撃するとペナルティーが発生します

解説

●目標
 メイン:敵NPC殲滅
(彼ら全員を倒すことで『セッション』成功となり、一般人の救助が可能)
 サブ:霊石入手

●ミッションタイプ:【一般人救助/霊石採掘】
※このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
 詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●マップ
 ドコカノ村
 30×30スクエア。家がたくさん並んでおり、周りを木の柵に囲まれている。南側に入口があり、東端、西端、北端の三か所に霊石の入ったタンスの置かれた家がある

●状況
 PCは村の入口にいる。「メモの文字」「看板の文字」はPC全員把握済み
 
●敵情報
 ひつじさん×6【PL情報】 
 愚神に洗脳され、このゾーンの『敵NPC』と化してしまった一般人。かわいい羊の着ぐるみ姿をし、二足歩行で移動。全長3m。ちょっとノロい。攻撃力は低めだが家ぐらいは軽く粉砕する
 ゾーンルーラー支配下にあるため、その攻撃はライヴスを伴う(共鳴している対象へもダメージ付与)
・ちりばらい
 周囲にある瓦礫や人間を掴んで1~6スクエア先に投擲する
・ちりうがち
 前方5スクエアに突進する
・ちりつぶし
 腕を振り回し範囲3スクエアにあるものを攻撃する

 パッシブスキル
・ひつじのきょうじ
 二回連続で攻撃を行う事がある 例:ちりばらい後即ちりうがち

 村人P
 村の入口のベンチに座っている。PCが何もしなければ特に何もしてこない/攻撃されれば回避・防御・逃亡はする。敵NPCが村人Pを攻撃する事はない
【PL情報】
・村人Pを攻撃するとペナルティーとして上からタライ(命中率100%)が落ちてくる(ダメージ/【気絶】付与)
・話し掛ける事は可能だが敵NPCがいる間は「早く倒さないと村が壊滅する」を繰り返し、敵NPCを倒した後でもまともに会話するとは限らない
・仮面を取ろうとするのも「攻撃」と判定される 
・長時間放置するといなくなる

リプレイ

●開始
「あー……もしかして今から≪セッション≫……?」
「かモネー」
 佐倉 樹(aa0340)の呟きに、シルミルテ(aa0340hero001)は歌唱用の合成音声で言葉を返した。パンドラ……「村人P」から渡されたメモは全員で回し読んだ後、樹が確保を希望した。落とさぬよう仕舞った後、改めて仮面の村人へ向き直る。
[カイブツの足音が近づいてきているようです。安全なところに逃げましょう]
 棒読みだった。棒読みの手本のような見事過ぎる棒読みだった。応じなかった場合は「村人」はダミーと判断し、水をたっぷりいれた水筒の口をあけた状態で村人Pの頭上に設置してやろうと思ったが、村人Pは大人しく樹へ右手を差し出した。「握れ」と言わんばかりの手のひらを――握らず、樹は右手首を握って村人Pをその場に立たせた。そして波月 ラルフ(aa4220)に視線を合わせ超棒読みでこう述べる。
[何かみつけたら知らせるから来てほしい。私は村人の安全を優先するよ]
「……分かった」
「パンド……村人P……ひつじさんを全部倒したら、霊石はもう探せない……?」
 樹が村人Pを連れ移動しようとした矢先、木陰 黎夜(aa0061)が黒い学生服に問い掛けた。村人Pは振り返って仮面を傾げ、何も言わずに顔を戻した。答えるつもりはないらしい。そう判断した黎夜は謎の音へ足を向け、御代 つくし(aa0657)も移動する、前に樹へ声を掛ける。
「私はあっちに行ってくるね! いつきちゃんも、気を付けて……!」
 つくしの大切な大好きな友達は、振り返ってつくしに応じ西側へと歩いていった。始麻(aa0179)はその背を見送りつつ、共鳴し声のみとなった贔屓(aa0179hero001)へと問いを投げる。
「……で。つまり俺達がやることは」
『正義のヒーローってところだよ、始まりの君!』
「正義のヒーローだァ……? いや、どう考えても違うだろ……」
 脳裏に響く贔屓の声に始麻は不快そうに呟き、一先ず残ったエージェント達と共に村人Pの示した家、及び何かが向かってくる柵の方へと歩を進めた。律儀に南の入り口から来てくれるなら困りはしないが、どうやらそうもいかないらしい。
「うわぁ、のどかな村だねぇ。鳥がぴよぴよ鳴いてる~ここに住みたい~」
 一方、御童 紗希(aa0339)はほわほわとのんきな声を上げていた。本気か冗談か分からないが、保護者兼変……もといカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が咄嗟に諫めの言葉を放つ。
「バッカ! これから化けモン退治に……」
「東側から、霊石を優先、だったか」
『……ん、全部で6体……見つけ……ひつじ?』
「あらー、ひつじさんメルヒェン~……え……? でかくない?」
 顔を上げたカイ、共鳴した麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)、紗希の目に映ったのは羊の着ぐるみ×6。3m。見た目はファンシーだが、デカい。その姿に大門寺 杏奈(aa4314)は小首を傾げる。
「ひつじ……?」
「どう見ても(大きな)人間だね」
「そっか……よかった」
「アンタは動物だったら遠慮しちゃうからね」
「うん」
 新城 龍子(aa4314hero001)の言葉に動物好きの杏奈はこくりと頷いた。一方黎夜は心なし目をキラキラさせていた。「も、もふもふ、なのかな……ひつじさん……」と手が彷徨う黎夜の姿にアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)が釘を刺す。
「黎夜、誘惑に負けてはダメよ?」
「わ、わかってる、から……」
 などと一同が各々反応を見せる中、巨大な着ぐるみの一体がついに柵へと辿り着いた。始麻は眉間に皺を寄せ、蛇の刺青の入った手を斜め下へと振り落とす。
「まさかこの柵破って来る気じゃねェだろうなあの羊野郎……!!」
『止まる気あるように見えるかい? アレが』
 贔屓の指摘を裏付けるように、ついに敵が柵の一つを踏み締めた。遊夜はそれを視認した後仕方なさそうに首を振る。
「やれやれ、言いたいことも多いが……」
『……ん、まずはひつじ狩り』
 遊夜は猟犬の名を持つ狙撃銃を巨大な「羊」へと定め、樹、と「村人P」が去った方向を一瞥した。保護名目で連れまわして敵の壁にしたいくらいだが、
「今回は諦めるか……ぶん殴りたくはあるが……」
『……ん、碌なことにならなそう』
 とりあえず樹に任せ己は己のなすべき事を、と遊夜は愛銃の引き金を引く。一方、村人P以外にも住人がいる事を考え家を回っていた虎噛 千颯(aa0123)は、聞こえてきた振動音に楽し気な瞳を上げる。
「おっほー! なんだか楽しい状況になってんだなー!」
「楽しんでいる場合ではないでござるよ!」
 はしゃいだ様子を見せる千颯を白虎丸(aa0123hero001)が即座に諫め、千颯は誰もいない家にもう一度だけ視線を向けた。家の中に住人がいた場合「守りきるつもりだが何が起こるかわからない為」と説明し、無理にでも外に出てもらう腹積もりを固めていたが、どうやらそこまで「設定」はなかったようである。ならばよし、と千颯は共鳴し白虎の尾を後ろに垂らし、先程動作確認をした通信機へ声を飛ばす。
「他に村人はいなかった! オレちゃんもそっちに行くからね!」

●防衛
「敵が狙ってんのは……」
『……ん、この方向、あの家辺り?』
 ハウンドドッグを下ろした遊夜はひつじ達の視線を確かめユフォアリーヤは言葉を続けた。ひつじ達の視線の先が危ないのは明白と、今しがた千颯に保証された通信機で探索班に一報入れる。そして再度柵を壊そうとするひつじ達へ瞳を戻し、「4体」しかいない事実に傷の下の目を細める。
「霊石は北にもある、狙われる可能性は十分か」
『……ん、足音に、注意』
 耳を澄ますと北側から微かに音が聞こえてきた。どどどどという今しがた聞いたばかりの足音に、カイが髪の色を黒へと変じた紗希の姿で口を開く。
『やっぱ北に行ってそうだな。あっちゃん、俺とそっち向かうぞ』
「ああ、こっちの事は頼む」
「了解」
 黎夜は遊夜へ短く返し、まずは数を減らすべく黒の猟兵の霧を放った。始麻もライヴスツインセイバーを出現させ、己に注意を向けさせるべく疾風怒濤を叩き込む。
「こほん……『よーし、悪いひつじさん達は勇者がやっつけちゃうぞー!』」
『……なんの真似ですか?』
「こういう遊びって聞いたから! えっと……ロールプレイング、だよね!」
 訝し気なメグル(aa0657hero001)の疑問につくしは快活に答えを返した。しかし彼女の任務は厳密には羊退治ではない。全力移動で訪れた家を覗き込み、その扉にクレヨンで大きなバツを刻み込む。そして別の家を探索中のラルフへクレヨンを揺らして見せる。
「波月さん! 探した家にはこれで印つけておきますね!」
『そもそもてー……あーるぴーじーとは何だ』
 つくしのクレヨンを一瞥した後、ファラン・ステラ(aa4220hero001)はラルフへと問い掛けた。ラルフは霊石を探しながら相棒の疑問に答えてやる。
「遊びの一種って覚えとけ。愚神が主催だし、別物って考えた方がいいと思うが」
『そうだな。敵の陣地だ。何が起こっても不思議はない……注意しろ』
「はいはい、と」
 ファランの忠告を流しつつラルフは別の事を考えていた。この任務が終わった後、ファランが「てー……あーるぴーじー」に再び興味を示したらどう対応するかという事だ。とは言っても
(このお嬢さんにそういうの向いてるか向いてないか判らないし、興味持ったら、実際のを一緒に調べる程度でいいだろ)
 
 18歳の姿に変じた杏奈は救国の聖旗「ジャンヌ」を背後に翻した。杏奈の背から翼のように伸びる旗は『救世主』より『天使』と呼ぶに相応しい景色を作り出す。
「黄金の御旗よ、みんなを守って!」
 杏奈は聖旗に命じつつひつじ達の群れに飛び込み、敵の数を減らすべく怒涛乱舞を展開した。杏奈が旗をなびかせ地面に降り立ったのと同時に、ひつじが杏奈の身体を掴み前方へと投げ捨てる。そこにもう1匹のひつじが突撃し、地に叩きつけられる前の杏奈をさらに向こうへ撥ね飛ばす。
「この……ッ!?」
 反応した始麻を別のひつじの手が掴み、杏奈とは反対の方角へと投げ打った。そこに4体目が突撃する――直前、辿り着いた千颯が《白鷺》を後ろへ振りかぶる。
「今回初お披露目の投槍だぜー!」
『受けてみろでござる!!』
 声と共に放たれたそれは白い一閃となって敵の身体を貫いた。仕留める事は叶わなかったが、戻ってきた短槍を手に千颯は悪童の笑みを零す。
「でっかい羊は後で羊毛とジンギスカンだ!」
『あれを食べる気にはなれないでござるよ……』
「マガツヒのヤツらの攻撃と、似てる……なら、このひつじさんも、似た戦法……?」
 黎夜は敵の見せた攻撃に推測をぽつりと口にした。確実にとは言えないが、これまでのマガツヒとの交戦で見た他のスキルを使う可能性は十分にある。
 短く息を吐き出した後、黎夜は固まっている2体を狙いゴーストウィンドを展開させた。弱体化、牽制、味方への攻撃を逸らすためというのもあるが
「全部倒したら、霊石もう探せねーとか、ちょっと困るし、な……」
「それもそうだな」
 地を蹴った始麻は得物にライヴスを集中させ重い一撃を喰らわせた後、転倒した敵に向かってさらに刃を叩き打った。杏奈もひつじの動きを止めるべくハングドマンを脚へと投げ打つ。
「ありました、霊石です!」
 通信機からつくしの声がし、ラルフはすぐさまつくしの元へと駆けつけた。居場所を偽装するためにタイマーを設定したスマホを物陰に仕込みつつ、敵の動きを警戒しながらつくしに短く問い掛ける。
「どっちが持つ。俺は北に行くつもりだが」
「なら、私が持ちます。私は西に行きますが、あっちはひつじさんはいないので」
 ラルフは頷き同意を示すとつくしと共に外に出た。瞬間、霊石が外に出た事を感知したひつじは狙いをつくしへと定めた。ひつじが突撃したと同時に千颯が咄嗟に間に入り、味方を追い叩く猛攻につくしが大きく目を開く。
「この攻撃……もしかして」
『えぇ、以前の従魔と同じかもしれません。しかしそれならば予測は立てられます』
「距離には気を付けて……だね! 向いてる方向にも気を付けなきゃ!」
 メグルにつくしが答えたと同時に、別の敵がつくし目掛けて二回連続の突進を仕掛けた。やや動きのノロいそれをつくしはしっかり見極め回避し、ラルフがストレートブロウを撃ち込んで敵1体を撃破する。つくしも味方を少しでも支援するべくブルームフレアを解き放ち、残りの霊石を確保しようとそれぞれの方へ走り出す。
「めぇぇえっ!」
 可愛らしい鳴き声と共にひつじ2体が構えを見せたが、1体の前に禁軍装甲で護る黎夜が立ち塞がり、1体を千颯の振るうフラメアが押し留めた。黎夜は至近距離で銀の魔弾を放ちながら、見た目は可愛らしい敵へと牽制を投げ付ける。
「壊すの、禁止……」

●乱舞
 紗希の姿をしたカイと、黒狼の装いとなった遊夜は2体の敵より少し離れた位置に立ちはだかっていた。当然通すつもりはないが、すぐに倒すつもりもない。と、ひつじの1体が2人の意図を知ってか知らずか家の一つに狙いを定めた。そして両腕を振りかぶる――瞬間、カイが紗希の容貌に好戦的な笑みを浮かべる。
『はッ! かかったなのろまな羊め! まずはその両腕落とさせてもらう!』
 言うやカイは飛び掛かりながら屠剣「神斬」を出現させ、ひつじの太い腕目掛けてヘヴィアタックを叩き込んだ。別の1体を遊夜は義眼の内に収め、体勢崩壊、あわよくば転倒を狙ってテレポートショットを膝裏目掛けて撃ち放つ。
「すまないが、ここから先は通行止めだ」
『……ん、ここで、遊ぼう?』
「メェェエッ!」
 遊夜とユフォアリーヤの言葉にひつじは怒りめいた声を上げ、それぞれ獲物目掛けて巨体を丸め突進した。カイは退避ついでに敵の死角へ回り込み、15式自動歩槍「小龍」に換装して引き金を握り込む。遊夜も回避すると伏せたまま狙いを定め、機動力を削ぐために再び膝裏を弾で穿つ。
「動き回られちゃ困るんでな」
「メェエッ!」
 しかしひつじは動きを止めず各々獲物へ突撃してきた。一度目のちりうがちは回避したが、ひつじはそれぞれ獲物を掴み反対へと投げ捨てる。転がり立ち上がった遊夜の内でユフォアリーヤが声を零す。
『……ん、ノロいのに、行動が早い』
「攻撃力は低い……が、やはりスキルが厄介だ」
『……ん、撹乱する』
 遊夜は猟犬の名の銃をひつじ1匹へ定めると、早撃ちの乱射を披露して敵の毛皮に穴を開けた。カイも敵の間に滑り込み、大剣を振り回して怒涛乱舞で叩き打つ。
 ひつじ達は三度獲物に突進したが、『……ん、当たらない、よ?』というユフォアリーヤの笑みと共に遊夜はそれを回避した。カイも攻撃をかわした後、今度はSMGリアールを紗希の手の内に握り込む。
『あっちゃん! 仕上げ行くぞ!』
「合わせる、行くぜ!」
 まずはカイが身を翻し、演舞さながらの動きでひつじに弾丸を叩き込んだ。後ろへ倒れ霧散したそれに紗希の姿で笑みを洩らす。
『ハハハ! 羊どもめ! リンカーなめんじゃねーぞ!』
 遊夜もカイと背を合わせ銃口を敵の眉間へ向けた。ラスト一発をぶち込む前に手向けの言葉を音にする。
「『おやすみなさい、良い旅を」』
 そして眉間を穿たれたひつじも虚空へと立ち消えた。遊夜とのガンカタを終えたカイは銃を仕舞い息を吐く。
『はぁ、なんとかなったかな? あっちゃん平気か?』
「ちょっと掠ったが、問題ない」
 遊夜はH.O.P.E.まんを出して口にし、カイは敵が狙っていた家の中を覗き込んだ。案の定霊石入りのタンスが置いてあったので、藁人形を取り出して扉へと打ち付ける。
『これならわかりやすいだろ。探索班に連絡入れて……あっちゃん、東側の連中大丈夫かな?』
 カイの言葉に遊夜は東へと耳を澄ませた。まだ戦闘音が続いている。一応周囲に異常がないか確認した後、二人は援護のために東へと走っていった。

●探索
[逃げ遅れた人がいるかもしれません。探しましょう]
 樹は素晴らしい程の棒読み台詞で宣言した後、目の前の扉を開いた。左手には村人Pの右手首を掴んだまま。ここまでの移動・探索中、「もしかして巻き込まれでもしたの? それとも自主参加なの?」と聞いてみたり、個人情報に触れない世間話を振ってみたりしたのだが、「早く倒さないと村が壊滅してまいます~」だけでろくな返答は得られなかった。
「いつきちゃん!」
 と、自分を呼ぶ声にいつきはそちらに視線を向けた。見ればつくしが、共鳴して銀に染まった髪をなびかせながら走ってくる。
「霊石見つかった?」
「まだ……」
「じゃあ、一緒に探そう!」
 つくしは樹が調べた扉にクレヨンでバツを大きく書くと、まだ調べていない場所をと別の家に入っていった。樹は笑みを零した後また別の家へと入り、しばらくして「霊石入ってます」というシール付きタンスを発見した。
「……あった、これだね」
 霊石を回収し、討伐班に連絡を入れようとした矢先、北の霊石を回収したラルフが西方面へと辿り着いた。樹は[何か不思議な石みたいだね。カイブツ達の狙いはコレかもしれない。村人の安全のために預けるよ]と棒読みでラルフに霊石を渡し、同じ超棒読みで討伐班に一報入れる。
『何故言い方が違うのだ。元々そういう喋り方ではないよな?』
 「棒読み」という言葉を知らぬファランが樹へ問いを投げ掛けた。ラルフが口を開く前に樹が端的に解説する。
「PL発言とPC発言の区別です」
 樹の淡泊な回答にファランは真面目な疑問符を浮かべ、ラルフが苦笑を浮かべつつ「後で」、ととりなした。霊石を回収した次の任務は霊石を守る事。ラルフは樹やつくしと共に村の中央に足を向けた。

●収束
 杏奈は青と金のオッドアイに3体の敵の姿を捉えた。全身に凍えるような冷気を纏い攻撃性も増しているが、「大切な人の盾となり”守る“こと」、身の内に秘めるその目的は変わらない。
「私の仲間には触れさせないっ!!」
 杏奈は武器を一閃させ敵の身へ傷を走らせた。攻撃を受けたひつじはいななくと、杏奈の細い体を太い腕で薙ぎ飛ばす。別のひつじが追撃を加えようと構えた瞬間、千颯が《白鷺》、《烏羽》を携え我が身を盾に押し留める。
「悪いけど……こっから先は……」
『通行止めでござる!!』
 黎夜もひつじの攻撃を禁軍装甲で止めながら銀の魔弾を撃ち放った。粉塵の止まぬ光景に贔屓が急かす声を上げる。
『さァさ、あまり暴れられるのも面倒だよ。早く一手打たなきゃ』
「……っせェな、分かってンだよ!」
 脳に響く英雄の声に始麻は不快気に吐き捨てると、エージェントを抜けて駆けようとする敵の背目掛け地を蹴った。先程掛けたトップギアに威力を増した光刃を、息もつかせぬ連撃で肉の奥へと叩き込む。
『無事倒せたね、始まりの君』
「だから喋るなって言ってんだろうが……」
 立ち消えた敵の姿に贔屓は褒めの言葉を投げ、始麻は酷い頭痛を堪えるように顔をしかめた。残り2体の内1体に杏奈は再び武器を走らせ、その攻撃ごと叩き潰さんとひつじが突進の構えを見せる。そこに黎夜がすかさず飛び込み禁軍装甲で受け止める。
「虎噛……! そっちに行った……! 気をつけて……!」
 横へ抜けようとする敵の姿に黎夜は出来る限りの声を上げた。千颯は槍の柄で敵の腕を受けながら、わずかながらに苦笑を漏らす。
「多少の無茶は折込済みだけど……流石にこうもバコバコやられるのはね~」
『生命適性で、えむでござるから平気でござろう』
「!? 白虎ちゃん! どこでそんな言葉を覚えてきたの!!」
 天然武人の思わぬ発言に千颯は思わず突っ込んだが、追及している場合ではない。2体が範囲内にいる事を認めた千颯はライブスフィールドを展開させ、そこに樹から「[霊石を全て発見しました]」と超棒読みの連絡が入る。
「アーテル、終わりにしても、いいかな……?」
『いいんじゃないかしら? 遠慮はいらないわ』
 アーテルの言葉に黎夜は遠慮なく、とブルームフレアを炸裂させた。ライヴスの炎に呼ばれるようにカイと遊夜が到着し、最も近くにいた1匹へと得物を向ける。
『死にたい奴はかかってこい! あっちゃん、後処理頼んだぞ!』
 カイは一気呵成を加えた後遊夜へと瞳を向け、遊夜はダンシングバレットで巨大な着ぐるみを霧散させた。最後の1体となった事にひつじが怯んだ声を上げ、そこに始麻と杏奈が双方から刃を放つ。敵の姿は全て消え、それを確認した始麻はさっさと共鳴を解除した。仕舞った刀の代わりに煙草を取り出し口に咥え、二度と来る事がないであろうこの世界をざっと眺めて一息吐いた。

●その時を
「これでやっと自由にお喋り出来ますわー」
 声だけは晴れやかなパンドラに、樹は訝し気な視線を向けた。共鳴は解かぬまま、いつでも攻撃出来る姿勢で再度愚神に問い掛ける。
「……≪セッション≫はこれで終了ってこと?」 
「さあ? 僕は巻き込まれただけですもん。怒らないでおくれやす」
 睨む樹にパンドラは宥めるように両手を上げた。先程の樹の質問に答えている形だが、真実とは限らない。とりあえず会話は成立すると樹は言葉を続けていく。
「メモと看板の情報はどうやって手に入れたの?」
「気付いたら持ってました」
「≪セッション≫終了でNPCの役目も終わった?」
「試してみたら分かりますよ?」
 樹の言葉にパンドラは首を斜めに傾げてみせた。表情は見えず、声から真意は読み取れない。可能なら全スキルを撃ち込んでやりたい所だが……HOPEに報告出来る情報はこれぐらいかと樹は小さく息を吐く。つくしはパンドラの事は樹に任せるつもりだったが、この奇妙な機会にと愚神へ声を掛けてみる。
「何が目的……なんですか?」
「僕は巻き込まれただけですよ。お花も可愛いお嬢さん」
(あれがパンドラ……永平ちゃんの……)
 皆の負傷を治した後、千颯はつくしと会話するパンドラの姿を瞳の奥に映していた。その顔は普段の茶目っ気のある彼ではなく、いつか倒すべき敵を見定める鋭さを持っている。
「あれが倒すべき相手か……」
「千颯……今はその時では無いでござる」
「わかってるよ。倒すべき敵の顔位は把握しておきたいからな」
 とは言え顔は見えないが、癖、考えられる性格を確り刻んでおこうと千颯は愚神を観察した。今は自身のやるべき事を優先だが、いつか来るその時のために。

「そういや、テーブルトークRPGってのはGMっていうゲーム運行役がいる」
 ラルフの言葉にファランは周囲を見渡した。一番考えられるのは仮面を被った愚神だが、奴は「NPC」と名乗っている。
「ここにもいると? ゾーンルーラー以外の支配者がいるのか? ゾーンルーラーが兼任しているとかではなく?」
「全容不明だが、兼任の確率は高いだろ。あ、そうそう……お前の『セッション』、つまんなかった」
 突然、空を見上げそう吐き捨てたラルフにファランは驚きの表情を見せた。空へと述べる行為にではなく、ラルフの見せる、その感情に。
「あっちは人の命で遊ぶの楽しいだろうが俺らはそうじゃないし、格下と思ってなきゃこういう遊びはしないだろ。俺らに覆されるまで精々楽しんで見てればいい」
 ラルフは口を閉ざした後もしばし空を睨んでいた。ファランは初めて見るラルフの様子を驚いたように眺めていた。仮面をつけた愚神は、空に言葉を投げ付けるエージェントを面白そうに見ていたが、ふと自分に近寄ってくる緑衣の影に気が付いた。贔屓は「仮面の君」と呼び掛けると、誰もいない事を確認した後愚神へとさらに近付く。
「それ、僕の事ですか?」
「そうさ。いやね、君と僕は似ていると思うんだ。――本質の部分がさぁ。男を口説く趣味はないよ。ただ、問うてみたい事が一つだけあったのさ。
 特等席で視ているのは楽しかったかい? 仮面の君」
 贔屓の言葉にパンドラは動かなかった。是とも非とも取れぬそれに贔屓は一層足を進める。
「僕は羨ましいのさ。君の立場が。……変わりたいくらいだよ、心からね?」
 まとわりつく蛇のような含みを持つ贔屓の声に、愚神は仮面の下でクッと小さく笑みを漏らした。そして贔屓へと一歩を踏み出し覗くように仮面を傾げる。
「趣味はないなんて寂しい事言わないで――いつでも僕の隣に来てくれてもええんですよ?」
 言って愚神が手を伸ばそうとした――その時、贔屓の身体が消え始めた。「終了」を意味するそれにパンドラは息を吐く。
「今日はお別れみたいですね。それじゃあ皆さん、また今度」
 パンドラは現実に帰るエージェント達にヒラヒラと手を振った。その姿に、遊夜は留めておいた宣言を音に変えて「敵」へと飛ばす。
「首洗って待ってろ、いつかその眉間に叩き込んでやる」
 パンドラが口を開く前にエージェント達の姿は消えた。同時に周囲の景色は崩れ後には愚神だけが残る。パンドラは仮面をわずかに外すと、黒く淀んだ瞳を嬉しそうに細く歪める。
「楽しみにしてますよ」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 二律背反の龍
    始麻aa0179
    人間|24才|男性|攻撃
  • 二律背反の龍
    贔屓aa0179hero001
    英雄|28才|男性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 猛獣ハンター
    新城 龍子aa4314hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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