本部

猫から始まる

水藍

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/08 12:05

掲示板

オープニング

●黒い影が猫とは限らない

「丸っこい頭、艶のある黒い毛並……、そんでもって鋭いゴールドの目。……こんなところでブランド猫のボンベイ様に会えるなんて、今日はツイてんのかぁ?」
 にやにやといやらしい笑みを浮かべながら、よれよれの服を身にまとった男が上機嫌に鼻歌を漏らし始めた。
 ワンボックス型のワゴン車に乗ったその男は、唇から除く黄ばんだ前歯を舌の先で一舐めした後、乗っている車の前を横切った黒猫を追いかける為に道端に車を寄せて駐車した。
「あいつ一匹で一体幾らの金が入るか……、この先一週間の夕飯は豪勢になるな」
 これから得られるであろう利益を頭の中で計算しながら、男が舌なめずりをした。
 男にとっての商売道具である野生動物を捕まえるための罠を小脇に抱えながら、男は黒猫の消えていった路地を足早に進んでいくのであった。

●黒い尻尾が揺れる

 にゃん、と黒一色の体毛を持つ猫がこちらを伺うように一声鳴いて見せた。
「……、ミーコ?」
 鈴を転がしたような可愛らしい声で少女は自身の可愛がっている子猫の名前を呟いた。
 手探りで猫の鳴き声の聞こえた方へと手を伸ばす少女の目は固く閉ざされている。少女は盲目だった。
「紫苑、その子は黒猫よ。ミーコは縞猫でしょう?」
 黒猫の目の前まで伸ばされていた少女――紫苑の手を遮って、紫苑の近くでガーデニングの植え替え作業をしていた女性は紫苑を嗜めた。どうやらこの女性は紫苑の母親の様だ。
 母親に捕まれた手をそのままに、紫苑は溜息を吐いた。
「ねえ、お母さん。ミーコはどこに行ったんだろうね?」
 紫苑に投げかけられた質問に、母親もまた溜息を吐いた。2人の視線の先にいる黒猫が暇そうに1つあくびを溢す。
「さあねぇ……。でも、お隣の犬のリクもそのお隣のミンクちゃんだって居なくなったみたいだし……。最近ペットが居なくなるのが流行ってるみたいね」
「隣のマンションのペットもよ、お母さん。……みんな、どうしちゃったのかしら」
 町内の回覧板で回ってきた情報によると、この町内のみならず、市内で飼われている動物達のほとんどが一斉に姿を消しているらしい。
「……ミーコ、どうしてるのかな……」
 紫苑は祈るような気持ちで顔を上げて空を仰いだ。

●消えていくもふもふ

「どうしたことか……」
 庁舎の一角で、一人の男が頭を抱えている。
「市内の至る所からペットの捜索依頼が集まってくる……、この数は誰がどう見ても異常に違いない」
「お疲れ様です。……また新しく失踪の電話が掛かってきましたよ」
 氷の浮いたアイスコーヒーを頭を抱えている男のデスクに置きながら、若い男性が小脇に抱えたバインダーを男のデスクに積み上げた。
「ああ、お疲れ……。はあ、今度は一体なんの動物だ?………ミーコ、メスの縞猫か」
「普段から猫の失踪はありますけど……、これは異常な数ですね。犯行の手口も巧妙ですし、人為的な可能性も拭いきれません。そうなると、我々ではどうしようもありませんし……、どうでしょう?いっその事HOPEに依頼して犯人を捜索して貰うのは?」
「HOPEか……。そうだな、笑われる事も覚悟して、ここは思い切って依頼をしてみるか……」

解説

依頼人の女の子・紫苑(シオン)の探している猫を見つけるため、ペットを誘拐している犯人を捕まえてください。その際、誘拐されたペット達も可能な限り保護をお願いします。

●街の概要
 都会のベッドタウンです。
 治安はそれなりに良い方ですが、犯罪が日々起こらないというわけではありません。

●環境
 野良犬や野良猫はあまりいません。なので、住民はあまりごみの収集場にネットを張ったりなどの動物対策はしていません。

●ペットの失踪届
 消えたペットの飼い主が失踪届を役場に出しています。
 その中にペットの特徴、最後に見かけた場所、居なくなった時間帯が記載されています。
 必要とあらば役場の職員に問い合わせれば自由に閲覧ができます。

●ヴィラン
 付近に複数の小規模ヴィランが存在しています。
 その中に動物の密売を専門としたものが過去にも検挙されたという記録があり、幹部はいまだ逃走中との情報もあります。
 彼らは犯行途中で誰かに目撃されると逃走を最優先にするので、挟み撃ちにして捕獲すると何か情報を得られるかもしれません。
 また、目撃者からの通報で彼らは大型の青いワンボックスカーを愛用しているとの有力な情報が入っています。

●ミーコの特徴
 探索対象のミーコの特徴です。
 ・縞猫(サバトラ模様)
 ・目の色は黄色
 ・白い花の付いたピンクの首輪をしている
 ・尻尾は長く、先が少し曲がっている

リプレイ

●可愛いあの子は一体何処に?
「低俗なヴィランらしいちんけな犯行ですわねぇ」
 レティシア・オラーノ(aa0332hero001)が、傍らにいる少女スラヴェナ・カフカ(aa0332))にしか聞こえないような極小さい声で相手を見下したような声を漏らした。
「ペットと言えども飼い主さん達には家族を奪われるようなものだよね。頑張って解決しないと!」
 レティシアの愚痴のような独り言など露とも気にしていない様子で、スラヴェナが意気込む。
 そんな相反する態度を見せる二人のすぐ近くで、背筋をピンと伸ばした小さな少女が依頼内容に改めて目を通している。
「ヴィランというのは、本当に何でもやるのですね」
 まさかペットをぬすむなんて、と言外に続けた紫 征四郎(aa0076)の小さな肩を、征四郎の英雄であるガルー・A・A(aa0076hero001)が軽く叩いた。
「まぁ任せとけって! ミーコは俺様たちが必ず見つけ出してやっからよ!」
 自信満々に人懐こい笑みを浮かべるガルーに、征四郎は笑顔を見せる。
「一人じゃ探しにもいけないから、とても悔しくて寂しいよね」
「……」
 掛けている濃い色のサングラスを指で押し上げながら、木霊・C・リュカ(aa0068)が言った。彼の視界は闇に覆われているはずなのに、その視線の先にはしっかりと征四郎とガルーを捉えている。
 そんなリュカを複雑な心境で見つめながら、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は押し黙っている。
「んん、猫……探しに行かない?」
「……咲雪、まずは作戦を立てなくてはいけないでしょう」
「……そうだね」
 眠そうな顔をしながら、マイペースに発言をした後己の英雄であるアリス(aa0040hero001)に窘められた佐藤 咲雪(aa0040)は、再び眠そうな顔であくびを一つ溢した。
「雑談はそこまでにして、本題に移ろうか」
 ぱんぱん、と両手を鳴らした後霧島 侠(aa0782)がにっこりと微笑んだ。
 そんな侠の話題転換に、小鉄(aa0213)がいち早く反応した。
「人の手で動物を捕まえるのは容易ではない、罠の類を人目に付かない所に置いてるでござろう」
 被害にあったペットのリストを黙読しながら、リストから顔を上げずに続ける。
「拙者はその筋から探すでござる、犯人に逆に見つかって警戒されぬよう、注意して探すでござる」
「では、征四郎は青いワンボックスカーを探すのですよ。ガルーは役所にいってきてください」
「失踪届を見てくりゃあいいんだな? ……ついでにそのへんで聞き込みもしてくる」
 着々と己の役割を決めていく面々に、スラヴェナが自前のノートパソコンを取り出した。
「じゃあ、わたしはみんなが集めてきてくれた情報を纏めるね! ……あ、みんなと情報を共有したいから、ちゃんとスマートフォンを持ってる人は確認をこまめにしてね!」
 起動したノートパソコンの傍らに自身のスマートフォンを置いたスラヴェナが、レティシアを見上げる。
 見上げられたレティシアは、ため息を吐きながらもスラヴェナのサポートをする為にスラヴェナのすぐ隣の椅子に腰を下ろした。
「それでは、私は一定の情報が集まるまでここで待機させてもらうよ。スラヴェナとレティシアの2人で情報を処理するのも大変だろうから、情報が一定以上溜まるまでここにいよう。十分に情報が溜まったと判断したとき、私も動くことにしよう」
 侠のその一言に、スラヴェナは力強く頷いたのだった。

●猫の尻尾が掴めない
 役所へと失踪届を見に来たガルーは、その情報の少なさにがっくりと肩を落とした。
(なんてこった……、特徴、最後に見かけた場所、居なくなった時間帯もまともにわかんねぇ奴もいるのかよ……!)
 居なくなったのが人間では無いせいか、失踪届を閲覧するときも役人は面倒くさそうな顔をしたのだった。
「……ありがとうございました」
 分厚いだけであまり旨みの無かった失踪届を仏頂面の役人に返しながら、ガルーは苦々しい気分になった。
 ガルーから失踪届のまとまったファイルを受け取った役人も、どこかやる気が無くこの事件をあまり重要視して居ないようだった。
(わかったのは、捜索依頼のあったミーコの特徴位か……)
 肩を落としたまま、ガルーは役所のカウンターに背を向け、重たい足取りで役所を後にしようとした。
「あの、もしかして、依頼を受けてくださった能力者の方、ですか……?」
 役所の自動ドアをくぐろうとしていたガルーの背中に、男性の声が掛けられた。
 振り返ったガルーが見たものは、肩を息を切らせてこちらを伺う、若い役人の男性だった。
「ああ、まあ……、依頼を請け負った能力者の相棒、みたいな?」
 言葉を濁しながら答え、気まずそうに明後日の方向を見たガルーに対し、若い役人の男性はきらきらと顔を輝かせた。
「よかった……! 依頼を受けてくださったんですね!」
「はぁ……」
 歯切れの悪い返事を繰り返すガルーの様子など気にも留めず、若い役人の男性はほっとした様子でガルーを見た。
「いやぁ、お恥ずかしい話、まさかペットの失踪位で依頼を出すのはどうかと思ったのですがね……。最近、この辺でヴィランが悪さをしてるみたいで。さっきも被害にあいそうになった、って電話があったんですよ」
「……一体どんな被害で?」
「ああ、件のペット誘拐の関係なんですけどね、青いワンボックスカーに乗った男にペットを盗られかけた、とかなんとか……」
「!」
(青いワンボックスカー、だと!?)
 若い役人の男性の口から出た言葉に、ガルーはいち早く反応した。
「……その話、詳しく聞かせてくれねぇか」

●猫の手も借りたい
「届出で傾向がわかると思ったが、根こそぎか、これは。時間帯くらいか、役立つのは」
 いくつかの情報を持って帰って来た小鉄から聞いた情報をノートパソコンに打ち込んでまとめるスラヴェナの傍らで、侠が愚痴をこぼした。
「まあ、最低限の情報が手に入っただけでも良しとしようよ」
 いつの間にやら出かけて帰って来たリュカがいきり立つ侠を宥める様に声を掛けた。
 リュカとオリヴィエは2人でごみ収集所に顔を出して、動物の世話後に出る毛や汚物等がやけに多い地区の有る無し等で敵の拠点がどこにあるか探ったり、ペットが消え始めた時期を目安に周囲で動物臭のする家が増えなかったか聞込みしたりしていたらしい。
 しかし、2人の捜査も空しく目立った手がかりは掴めていなかった。
「皆から入って来た情報も、あんまりめぼしいものはないしねぇ……。ガルーさんに至っては出て行ったきり、なぜか連絡も取れないし……。どうしたんだろうね?」
「……ガルー……」
 青いワンボックスカー探しに出ていた征四郎も一足先に帰ってきており、相棒であるガルーからの連絡が一切無い事を聞いて不安に顔を俯かせる。
「せーちゃん、大丈夫だよ。ガルー君は優秀だ。きっと、何か手がかりを掴んで一時的に連絡が取れないだけだよ!」
「……リュカさん」
 征四郎の小さな頭を撫でてやりながら、リュカは一際明るい声を上げる。
「そうですね……、ガルーは絶対に征四郎の元に帰ってきます。……征四郎も頑張らなくてはなりません!」
「そうそう、その意気だよ! ……でも、とりあえずは休憩も必要、かな?」
「歩き回って疲れただろ。少しくらい休憩した方がいいぜ」
 どこから出してきたのか、オリヴィエが征四郎の目の間にティーカップに入ったミルクティーを差し出した。
 差し出されたミルクティーを受け取りながら、一息つく征四郎たちを横目で確認した侠とスラヴェナは見つめていたノートパソコンから目を離した。
「みなさんが帰ってきたことですし……、今まで待機していた私達が今度は聞き込みに行ってきますね! 皆さんには有力な情報が手に入ったら連絡を差し上げますので、スマートフォンを持っていてください!」
「……そういう事だ。それでは、私たちは失礼する」
 足早に外に出ていった侠とスラヴェナ、そしてレティシアを見送った後、小鉄がぽつりとつぶやいた。
「……拙者もスマホ欲しいでござるなぁ、役場が貸し出してくれぬでござろうか、地図も借りたいでござるよ、書き込んで情報を纏めるでござる」

●猫の尻尾が近づく
 聞き込みに行く、と言って出てきたスラヴェナとレティシアは、ペット泥棒の被害にあった少女・紫苑の家に来ていた。
「私達は役場に依頼されたエージェントです。よろしければ、貴女の飼い猫のミーコちゃんが居なくなった時の状況を教えてくださいませんか?」
 事前に目を通していた資料で知って居た事だったが、ミーコの飼い主である紫苑は盲目の少女だった。
 ミーコが居なくなったことがよほどショックなのか、口を固く閉ざしている紫苑の代わりに彼女の母親が口を開いた。
「居なくなった事に気付いたのは、ミーコに昼食を上げようとした時です。あの子はいつも決まった時間に食事をねだりに来るのですが、その日は時間を過ぎても姿が見えなかったのです」
 紫苑の肩を抱きながら、母親は訥々と語る。
「娘はこの通り、目が見えないものですから、音には敏感なんです。その日はミーコが外に出た時に窓が開く音を聞いていたので、ミーコが外に行ったことは間違いありません」
「……そうですか。ということは、ミーコちゃんがいつもの時間に帰ってこなかったからミーコちゃんが居なくなった事に気付いた、ということですね」
「はい……」
 沈痛な面持ちで返事をした母親に、レティシアは腕を組んだ。どうやらミーコが失踪した瞬間を見ていないらしい。
(ここでも余り重要な手がかりは手に入らないかも知れませんわねぇ……)
「じゃあ、何か不審な人物や不審車両などは目撃していませんか?」
 レティシアの落胆には気付かずに、スラヴェナは質問を続ける。
「不審人物、は見てませんが……、そういえば、その日の夕方に見慣れない青い車は見ました」
「!」
 母親の口から放たれた言葉に、レティシアは思わず身を乗り出した。
「青い車の詳細をお聞きしても?」
「あ、はい……。え、と、確か大きい車で……、ワンボックスカー、って言うんでしたっけ?そんな感じでした」
「……レティ」
「……ええ」
 意味深に頷き合う二人に、母親は少し首を傾げた。
「ああ、お気になさらず。……それでは、ええと……。この付近で狙われそうなペットを飼っているご家庭などはあるでしょうか?」
 気をとりなおしてスラヴェナが何でもない様に質問をかさねる。
「狙われそうなペット……。……ああ、そういえば、家から歩いて10分位の所にあるお友達のお家に、珍しい犬が居るとか……」
 母親が言い切るか言い切らないかの内に、スラヴェナのスマートフォンが着信を知らせる。
「あ……、失礼」
 スラヴェナはその場をレティシアに任せ、スマートフォンを持って廊下に出た。
「はい、スラヴェナです……」
『征四郎なのですよ、スラヴェナさん』
 電話を掛けてきたのは待機している筈の征四郎であった。
「征四郎ちゃん?どうしたの?」
『ガルーが帰って来たのです!それで、青いワンボックスカーに乗った男にペットを盗られそうになったお家があるという話なのです!』
「えっ!」
 征四郎の急いた様子に、スラヴェナは確かな手ごたえを感じた。
『ガルーが言うには、そのお家には珍しい犬が居るそうで……、一度誘拐に失敗しているのです』
「……珍しい、犬」
 どこかで聞いた話に、スラヴェナは思わず息を呑んだ。
『はい。もしかしたら、もう一度そのお家の犬を狙うかもしれない、とガルーが言っているのです!』
 征四郎の言葉に、スラヴェナな何気なく視線を外へとやる。
 スラヴェナの見ている裏通りを、大きな青いワンボックスカーが失踪していった。

●猫の尻尾を捕まえる
 征四郎からの電話をいったん切り、スラヴェナは今回の依頼に参加している能力者全員に一斉送信でメールを送った。
 スラヴェナから入ったメールに、全員が依頼者・紫苑の家の近くに集まる。
「……見たの?」
「はい、私の目の前を例のワンボックスカーが駆け抜けていきました」
 人目に付きにくい空き地に身を寄せ合いながら、咲雪とスラヴェナは北方向を念入りに監視していた。
「まさかこんなに早く行動を起こすとは思わなかったのです」
「相手は随分とせっかちさんだねぇ」
 のんびりと征四郎へと返事をしたリュカと共に、南方向へと望遠鏡を伸ばす征四郎とオリヴィエは真剣な表情だ。
「それにしても……、どうやって盗んだ動物の世話をしているのでござるか? 拙者には見当もつかぬ」
「まぁ、悪知恵の働く奴の思考回路なんて知りたくないけどね」
 小鉄と侠は東方向へと目を光らせている。
「お前ら、真面目に探せよ!」
 一人、ガルーが西方向を見つめる。
 アリスとレティシアは、8人の目が届かないような狭い路地を見回りに行った。
 8人は自分たちの担当している方角を、目を皿のようにして青いワンボックスカーを探している。しかし、いかんせん動くものを探すのは骨が折れるようで、なかなか8対の視界に入らない。
 そんなときだった。スラヴェナのスマートフォンが再び着信を告げた。
「はい、スラヴェナ。……アリスさん、ですか?」
『そうです。今、北北西の方角にいるのですが、青いワンボックスカーを発見しました』
「本当ですか!?」
 スラヴェナの上げた声に、ほかの7人が一気にスラヴェナを振り返った。

●白か黒か、はたまた縞々か
「ここはこの征四郎に任せてください。……作戦があるのです」
 そう言って、征四郎はガルーと共に青いワンボックスカーに近づいていった。
 アリスから発見の報告があった後、8人はアリスに言われた通りの場所に向かった。そこは、依頼者の紫苑の住んでいる住宅街のちょうど真ん中あたりにある何の変哲もない路地だった。
 不用心にも路上駐車された青いワンボックスカーの中には、男が一人乗っているのが確認できた。
「できればヴィランだと確定したいところですが……。しかたないですね、奥の手をつかいましょう」
 そういって、征四郎は自信ありげに上記の言葉を残していってしまったのである。
 きょろきょろと何かを探している様子の征四郎を見ながら、アリスは不安げに咲雪の手を引いた。
「征四郎様、大丈夫でしょうか……?」
「……作戦、あるって言ってた。……たぶん平気」
 そうこうしているうちに、征四郎に動きがあった。
 どこからともなく持ってきた見慣れないボールを、自然を装って青いワンボックスカーの方へを投げたのだ。
「ちょっ!? せ、征四郎殿は何を考えているでござるか!?」
「小鉄くん、まぁまぁ。ここはせーちゃんに任せようよ」
 焦って隠れている路地から飛び出しそうになった小鉄を抑えたリュカはマイペースに笑っている。
 そんな二人の心配をよそに、征四郎が一気に車に近づいて運転席のドアをノックした。
 すると、少し間をあけて不機嫌そうに運転席に座った男が運転席の窓を開けた。
「あのー、すみません。ぼーる、みませんでしたか!」
 いつもよりも随分と幼い口調で言ってのけた征四郎に、運転席に座る男がなにがしかしゃべっている。
「……うまく行くのか?」
「大丈夫でしょう。ああいうのは、小さな子供の方が怪しまれずに済みますわ」
 オリヴィエの言葉に、なぜか自信ありげにレティシアが答えた。
 そうこうしているうちに、ボールを回収した征四郎がこちらへと戻って来た。
 息を切らしながら、征四郎が言い切る。
「動物のにおい、不自然に何かを隠している様子。……間違いなく黒なのです」

●追い詰められた泥棒猫は
 そこからは話が早かった。
 リンクドライブをした征四郎とリュカが退路を塞ぎ、侠が車が発進しない様に立ちふさがり、リンクドライブした咲雪が先陣を切り、そして小鉄が犯人を追い詰める。
 そんな風に綿密に練られた計画の下、あっさりとペット泥棒は確保された。
「ん、素直に、話す」
 がん、と犯人の顔の横に拳を突き立てた咲雪に、犯人の男は震えながら辺りを見渡した。
「な……、何のことだよ!!」
 なおもとぼける犯人に、咲雪は突き立てた拳を引いて、言葉を重ねる。
「ん、お話ししたく、ないなら、股間の玉、を潰して、去勢する。棒も削ぎ落す」
「ひ……、ひぃぃぃぃぃ!!!」
 物騒なことを言ってのける咲雪に、小鉄が仲裁に入る。
「ちょ、っと待つでござる! それはやりすぎなのでは!?」
 焦りを隠せない小鉄に、咲雪は不思議そうな顔を見せた。
 そんな二人の後ろでは、征四郎たちが誘拐されたペットの照合をしていた。
「まさか、車に乗せたまま世話をしていたなんて……」
「こんな狭い場所に閉じ込めて……、あくまで『商品』なのですわね」
 一匹ずつ健康状態を確認しながら、スラヴェナがやるせなさを滲ませながら言った。
 健康だと判断された一匹の猫が、征四郎へとすり寄る。
「帰る家があるのです。幸せになってください」
 そういって、征四郎は柔らかく微笑んだ。
 騒ぎを聞きつけ、住宅街の住人がわらわらと寄ってくる。中には大切なペットを誘拐されたものもいて、自身の大切な家族との再会を喜んでいた。
 そして、その中に依頼者でもある紫苑の姿があった。
 紫苑にいち早く気づいたオリヴィエは、傍らにいたミーコの特徴にあった首輪と付けたサバトラ柄の子猫を抱き上げ、紫苑へと近づいた。
「もう大丈夫、だ。ここにいる」
 ふんわりとした猫の感触に、紫苑がオリヴィエへと笑顔を向けた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避



  • エージェント
    スラヴェナ・カフカaa0332
    人間|12才|女性|攻撃
  • エージェント
    レティシア・オラーノaa0332hero001
    英雄|16才|女性|ソフィ
  • エージェント
    霧島 侠aa0782
    機械|18才|女性|防御



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