本部

【神月】連動シナリオ

【神月】みんなで楽しいパーティーを

鳴海

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
22人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2016/09/05 15:01

掲示板

オープニング

● みんな、お疲れ様。そんなDM

 みなさん、大規模作戦も無事に終わりいかがお過ごしかしら。
 西大寺 遙華です。
 今回の作戦は激戦だったわね、何度ひやひやしたか分からないわ、邪英化した人がいたり、扉の向こうに取り残された人がいたり。
 でも、みんな無事で帰ってこれて何よりよ。
 さて、話は突然変わるのだけど、メリハリって大事よね。
 今までの苦労は全部おいておいて、新しい明日に向かうために何か節目というか、区切りが必要じゃない?
 そんなわけでお得意様のH.O.P.E.の皆さんのために私達グロリア社がお疲れ様会を企画したわ。
 今回は、とても大きなクルーザーで海に出ようと思っているの。
 設備や企画は別紙にまとめたから見てちょうだい。
 大勢の方のさんかお待ちしているわね。
 船内の様子についてはPV風に映像をとったからそれを添付しておくわね、皆さんにとって楽しいクルージングになることを願うわ。
PS ドレスコードは特に考えていないけど、綺麗な格好で来てね

● なんということでしょう
 今回クルージングで使用するのは、グロリア社が誇る旅客船『スプラッシュメドレー号』を貸し切りでご用意。
 クルージングの時間は夕陽が沈み始める15時ごろから、星がいっそう綺麗に見える時間帯23時ごろを予定しております。
 夕陽を見ながら船を出発させ、町灯りが届かない海の上で停泊。パーティーを行います。
 大人な雰囲気のパーティーですが、ドレスがない人も安心。こちらで大人サイズから子供サイズまで、色とりどり136色のフォーマルな衣装を用意しております。
 衣装の貸し出しは搭乗された際の手続きにて行いまして、皆さま一人一人に割り当てられた自室に衣装をお届けさせていただきます。
 この部屋、宿泊目的の簡易的な物ですが、シャワールームや軽食やコーヒーなど用意してございますので、パーティまでおくつろぎください。
 パーティー開始時刻が迫りましたら放送でお知らせいたします。
 甲板までどうぞおこしを。
 こちらには多数の食事を用意してございます。
 手が汚れないようにスプーンに乗せられた小さな料理、フィンガーフード。ドリンクなどもどうぞ。
 甲板の中心にグラスが積んでありますが、お手をふれないようにお願いします。
 また、25メートルと小さいですが、プールも用意してあります、談笑に飽きればひと泳ぎいかがでしょう、当然水着もタオルも貸し出しております。

● 催し物について。
 今回長い船旅を楽しんでいただくためにいくつか催し物を用意しました。
 船上部にシステムキッチンを八台用意。人数が多ければトーナメントで料理勝負をしていただきます。お題は得意料理。
 皆さまの作った料理はパーティー参加者全員で試食いたします。
 また、甲板の角の方にステージを用意しました、一通りの楽器がそろっており演奏者様を募集します、また特別ゲストとして『赤原 光夜』さんおよび『ECCO』さんをお呼びしております。
 最高の音をお楽しみください。
 また仲睦まじい男女の方のためにボートを用意してございます。
 満点の星空の中、二人でオールを回しながら二人っきりの空間を演出してみてはいかがでしょう。
 もちろんカップルの方々以外の方へ貸し出しも可能です。
*ボートにはエンジンもついておりますので戻ってくるのも簡単です。

● 募集
 催し物各種、イベントスタッフの方を募集します。振るってご参加お願いします。
 

解説

目的 みんなで楽しいパーティーをしましょう

 今回は大人な雰囲気のパーティーです。完全なる雑談会ですので、仲の良い方と親交を深めたり、大規模作戦疲れたねぇと話をするのが目的です。
 プールで泳いだり、ボートや料理を楽しんだり、たまのおやすみということでのんびり羽を伸ばしてみるのはいかがでしょうか。

●まとめ
・水着、ドレスの貸し出しは可能
・部屋は一人一部屋、英雄にも能力者にも等しく一部屋。
・料理大会をするので参加者募集
・BGM担当募集。
・ボート貸出可能。

●トークフック
 会話に困った人のためにネタを用意しておきます。数字を記載しておいていただけければ同じ話題の人と話ができます。
1 大規模作戦、印象に残ったことは?
2 休日は何をして過ごしているの?
3 ミッションでどんなところに行ってみたい?
4 今気になることは?(敵とか人とか事柄とか)
5 グロリア社について一言!


リプレイ

プロローグ

 とある港の奥の方。灯りも少なくなり喧騒も遠ざかる海の上に、海上自衛隊の船などに交じってそれはあった。
「すごい大きいよ!」
『酒又 織歌( aa4300 )』の声がバス内に響き渡ると、彼女の指さす方向を注視した。グロリア社の誇るメガクルーザーがそこにあった。
『防人 正護( aa2336 )』はバスを停車させるとタラップの前に立ってバスから降りていくリンカーたちを見守った。
「船に入ったら係員に名前を告げて、カギをもらってくれ、荷物は部屋で管理。着替えも部屋でだ。衣装のカタログはわかりやすいようにベッドの上に置いてあるから……それから」
 そんな正護の声を背に『梵 すもも( aa4430 )』は客船めがけてかけていく。
「ごーか客船でパーティーだよ!」
「走ると転びますよ」
 それを諌める『リデル・ホワイトシェード(aa4430hero001 )』
「とってもお姫さま気分っ」
 後ろを振り返るすもも、リデルを見ながら駆けるものだから、前にいる女性にぶつかってしまった、その少女は柔らかく微笑むとすももの頭をなでた。
「うむ、じゃがあわてずともドレスは逃げぬぞ」
『古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001 )』である。
 アイリスはやんわりすももの手を取ると追いかけてきたリデルのその手に、すももの手を繋いだ。
「ドレス! ドレスあるって! どれがいいかなぁ?」
 どんなものがあるのか、どれなら自分に似合うのか。それを想像するだけで女の子は幸せになれる。
「お主なら、花びらがあしらわれたものなど似合いそうじゃな」
「そんなのあるの?」
「ジーチャンからカタログをかっぱらって少し見たのじゃ。ふふふ、旦那様に見せながら選びたかったものじゃ」
「結婚してるの? あたし可愛いのがいい! 似合うといいなぁ」
「愛らしい姫様ならどれもお似合いになるかと思いますが……」
「そういえば、お姉ちゃんはだれ?」
 そうすももはアイリスを見あげながら言った。
「菖蒲じゃ。アイリスともいう」
 その隣で縮こまっている少女が一人。
「うぅ…………人がいっぱい」
『エイミー クォーツ( aa4234 )』はきょろきょろとあたりを見渡しながら、おどおどと隣に立つ執事の袖をつかんだ。
「マスター? 少しは慣れてくれないと僕達も困るよ?」
『オズワルド(aa4234hero001 )』はやんわりとその手を解いて、微笑みを向ける。
「でも…………」
「せっかく来たんだからさ、楽しんでいかないと損だよ?」
 そう前に立っていた『九龍 蓮( aa3949 )』が手続きを追え、どけるとエイミーのかわりにオズワルドがペンをとった。
 蓮は自分の受け取った鍵をもてあそびながら客船の奥へ進んでいく。『月詠(aa3949hero001 )』とどっちの部屋がいい? なんて話をしつつも内心わくわくするのだろう、足取りがいつもより軽そうだった。
「聚会、久しぶり」
「そうですね。向こうにも機会があったらまた顔を出さないといけませんね」
 そう月読がカギを扉に差し込み部屋に入るのと同タイミングで、隣の部屋から二人の女性が廊下に出てきた。
「ちょっと飯綱比売命、どっちの部屋でもおんなじよ」
『橘 由香里( aa1855 )』が呆れてため息をつく。
「そうかの? いやなにか、こう風水的に」
「方角なんてくるくる変わっちゃうじゃない、私は荷物を起きたいの、早くしてよ」
『飯綱比売命(aa1855hero001 )』は口に手を当てながら悩む、やがて今見た部屋が良いと判断したのか、ベッドの上に倒れ込んだ。
「今年の夏は随分と休養した気がするわ。いいのかしら、こんな遊んでいて」
 由香里が隣に腰を下ろしてパンフレットを眺める。
 本当に沢山の種類のドレスがあり、目移りしてしまう。これはある程度直感で決めないとダメだな。
 そう思った。
「いいのぢゃいいのぢゃ。お主は今までが真面目過ぎたからの」
 そしてふかふかのベットを堪能し終えた飯綱比売命はおもむろに部屋を出る、すると
「お、向こうに良いおのこが!」
 そう誰かの後ろ姿を追おうと足を向ける。
「駄目よ」
 それは由香里に阻止されていた。
 そんな二人の隣をボーイが通り過ぎていく、そのトレイには水のボトルが乗せられていた。少し行ったところで扉を開き、恭しく礼をすると、水を置いて去っていく。
 その光景を『彩咲 姫乃( aa0941 )』は固まってみていた。
「こんな扱いされたことない」
 生まれて初めてである。何もしていないのに頭を下げられるのも。水程度持ってくることに人を使ったこともない。
 なんだか緊張する、やってはいけないことをしている気がする。
「…………。まぁいいか」
「オナカスイター」
『メルト(aa0941hero001)』にクッキーをあげながらカタログに目を通す姫乃、しかし本人にとってそれはあまり意味がない、なぜなら衣装は、似合うものを適当にとさっきのボーイに伝えてしまったからである。
 そして届けられたドレスはというと。
「お持ちいたしました」
 その手に握られていたのは白と黒のドレス。
「なんでさ…………」
 赤面しつつもこれをきるしかないジレンマに襲われる姫乃。
 やがて時間になったので、各々が屋外向けて移動し始める。 
 その廊下を歩く可憐な長髪の美少女。実はあの手この手を使って女子力全開になった姫乃なのだが、普段彼女と会わない人間からすると誰だかわからない。
 エイミーはそんな後ろ姿を見て、こんな人いたっけ? と首をひねる。
「ああ、マスター。まってました」
 そこにはオズワルドが部屋の外で待機していた。オズワルドはエイミーのドレス姿を見ると微笑む。
「綺麗だよ」
「これ、腕とか……」
「大丈夫、誰も笑ったりしないさ」
 そして二人は甲板への道を進む。大きな両開きの扉を押し開けると、そこはきらびやかなパーティー会場になっていた。
「ようこそ、来ていただけてうれしいわ」
 そこにはグロリア社の令嬢、西大寺遙華がいて。
 エイミーに握手を求める。
「今日は楽しんでいってね」 



●レッツパーティー
 甲板が解放されると真っ先に現れたのは『卸 蘿蔔( aa0405 )』だ。
「ふふふ……今日の私はちょっと大人なのです」
 羽のように軽い足取り、浮かべる表情は幸福に染まり、いてもたってもいられないとばかりに『レオンハルト(aa0405hero001 )』の手を引いた。
「……見た目だけ大人っぽくてもな」
蘿蔔は黒のドレスだ。背中をガッツリあけて白い肌を露出している。レオンハルト曰く、夜の社交場では肌を見せることが礼儀らしい。
 対してレオンハルトは定番の燕尾服、蘿蔔が楽しそうに会場を歩くのに任せて一歩下がって歩く。
「おお、そうです、遙華に挨拶しないと」
「あれじゃないか、蘿蔔」
 そうレオンハルトが指さす先には確かに遙華がいた、しかし彼女は二人の男性と話をしている。
「れれれれれ。レオ、遙華がナンパされてます」
「絶対違うだろう」
 遙華をナンパするという不名誉を授かったのは『レイ( aa0632 )』だ。
「来てくれてありがとう、主催の西大寺です。お花見以来かしら」
 ちなみに遙華も黒いロングドレス、煌いて見えるのは糸自体がわずかな光でも反射するからだ、ちょっと大人な雰囲気だが背伸びしている感がいなめない。
 そんな大人になりきれないお姫様の手を取ってお辞儀するレイ。
「今日は精一杯やらせてもらう」
「あなた達の機材は運び込んであるから食事の後に見てみてちょうだい」
「ありがとう、良いステージだ」
 甲板の端のステージを見つけると『カール シェーンハイド(aa0632hero001 )』が意気揚々と歩み寄っていくのが見えた。
 あわててレイはカールの背を追う。
「大人なクルージングパーティー、か…………」
「おお。スゲー眺め、しかもでかい!」
「……カールは……何て言うかな、その反応が既に子供、だ……」
「オレ……今日から大人になるっ! たぶん」 
 苦笑を返すレイである。そんな二人を見送って蘿蔔は言った。
「ナンパじゃなかったです?」
「単なる挨拶だな」
「安心はしましたが。でででも、話しかけるタイミングが」
「やぁ、遙華今日は招いてくれてありがとう」
 そうこうしている間に次の人物に遙華を取られてしまう。『Arcard Flawless( aa1024 )』だ。その肩の上には『Iria Hunter(aa1024hero001 )』が乗っている。
 そしてその手は隣の少女と繋がれていた。
「今日はお洒落だね、遙華」
「ええ、ロクトにこねくり回されて。Arcardもカッコいいわ」
 Arcardの服装は愛用のフロックコートを軸に、やや軍属の趣が入ったセミフォーマルだが、よく似合っていた。だが隣に立つ少女は普段着である。
「Arcard来てくれてうれしいわ、そちらの方は妹さんかしら?」
「ほら、アデノ」
 ちょっと顔を赤らめる『アデノフォーラ・クレセント(aa0014)』彼女はゆっくりと口を開いた。
「…………その、ぇと……Arcardさんと……婚約、した……アデノフォーラ、です……」
「婚約!」
 混乱のあまりフリーズする遙華である。
「あ、いのりさん達だ、挨拶してこよう」
「カフェ『Yours』の方たちですね…………」 
 そんな二人を茫然と見送る遙華
「うう、はる……」
 やっと遙華の目の前から人がいなくなった、だが。
 人見知りというか、恥ずかしがり屋さんの蘿蔔はうまく話しかける隙を見いだせない。
 仕方ないので、レオンハルトが、遙華に話しかけようとする女性に逆に話しかけた。
 そしてやっと蘿蔔は遙華のもとにたどり着けたのである。
「わぁ…………遙華、とってもきれいなのです。そのドレス似合ってますね」
 振り返る遙華、髪が夜に流れて美しく見えた。
「蘿蔔もとても可愛いわ、大人っぽい蘿蔔も素敵ね」
「そうですか?」
 遙華がドリンクを挿しだすと蘿蔔は、ふふふと笑う。
「いつもありがとう。楽しませてもらってるよ」
 そんな二人の間にレオンハルトが入る。その手にはワイングラスが握られていた。
「そして隣の女の子は? 蘿蔔を差し置いてナンパしたの?」
 不穏な雰囲気を纏わせる蘿蔔、そして笑って答えるレオンハルト。
「いや、蘿蔔が話しかけるタイミングを作るために酒又さんに話しかけたんだよ」
「ばらさないでくださーい」
 そう顔を真っ赤にした蘿蔔へ笑みを向けてから、織歌はお辞儀をする。
「初めまして、西大寺さん 酒又 織歌です。よろしくお願いします」
「ええ、織歌さん、きてくださってありがとう、歓迎する…………」
 その時である、遙華は言葉を不自然な部分で切った。同じく蘿蔔も目を見開く、なぜならば。
 その視界に楕円形のシルエット、真っ白い羽毛、つぶらな瞳、巨大な鳥類が映りこんでいたからである。
「「ぺぺぺぺぺ、ペンギンだ!」」
 蘿蔔と遙華は『ペンギン皇帝(aa4300hero001 )』に駆け寄った
「余がペンギン皇帝である……」
「さわっていい?」
「モフモフしていいですか」
「な、むーん」
 助けてほしそうな雰囲気を醸し出すペンギン皇帝、しかし彼を助ける方法が思いつかない。織歌は諦めて言った。
「どうぞ…………」
 少女二人の餌食となるペンギンである。
(失礼の無いよう歓談しつつも、抜け目無く……ああ、美味しい……私、今とっても幸せです)
 そんな織歌の愉悦もつゆ知らずもみくちゃにされるペンギン皇帝、その姿を魚に食事をとる織歌。
 ちなみに織歌は黒と白の落ち着いたホルターネックマーメイド。そしてこれは自前である。
「その辺にしておいた方がいいんじゃないのか?」
 そうレオンハルトは遙華と蘿蔔の手を取った。
「……ん。取り乱したわ」
 そして我に返る遙華。織歌は笑って手を振り、ペンギン皇帝の手を引いてテーブルの方へ歩いて行った。
「そして蘿蔔には挨拶が途中だったわね。今日は楽しんでいってちょうだいね」
「はい! たくさん食べます。そして、遙華」
「どうしたの?」
「えっと、困ったこと、あったらいつでも言ってくださいね…………えと、力になれるかは分からないですけど。がんばる、のです」
 そう蘿蔔が言うと遙華は笑った。
「本当に? じゃあさっそく。一緒にパーティーを回ってくれる人がいないの。一緒に行きましょう?」
 蘿蔔は満面の笑みではいと答える。
「ねぇ、そう言えば雨月を見なかった?」
『水瀬 雨月(aa0801)』はドレスを翻し、蘿蔔と遙華に背をむけ、船の隅の方へと歩き去っていった。




●パーティーの楽しみ方いろいろ

 そして客船は出航した。なにやらトラブルがあったらしく、本来は出航してからのパーティー開始では阿多のだが。
 まぁそれもよい、『世良 霧人( aa3803 )』は海を見ながらそう思っていた。
「こんな大きな船を貸し切りにしてパーティだなんて、グロリア社って凄いんだな…………」
 その問いかけに『クロード(aa3803hero001 )』が答えた。
「赤原様とECCO様もゲストとしていらっしゃるそうです。本当に豪華でございます」
『赤原 光夜』『ECCO』とは、世良夫妻で交友のあるミュージシャンだった、さまざまなイベントやPVの撮影で一緒に仕事をしているうちにいつの間にか仲良くなっていた。
「その演奏もなんだか遅れてるみたいだけど」
「クロード、霧人!」
 突如かわいらしい声が夜に響く。
 手をふりかけてくるのは真紅のドレスを身にまとった『ルナ(aa3447hero001 )』である、彼女を思わず霧人は抱き上げた。
「すごくかわいいね」
「杏奈が着せてくれたのよ、お化粧もしてくれたの」
 いつもより明るさ三割ましのルナからは確かに杏奈の使うファンデーションの香りがした。
「杏奈は?」
 その言葉にルナは階段の上を指差す、この甲板は会場より少し低い位置にあり会場の喧騒の影響を受けにくくなっているのだ。
 だから霧人は『世良 杏奈( aa3447 )』を見上げる形になった。
 ルナとおそろいの真紅のドレスは夜に映え。妖艶さをまとった淑女が、一段一段降りてくる。
「霧人、このドレスどう?似合ってるかしら?」
「…………すごく、綺麗だよ」
 見蕩れている霧人にじっと見つめられると恥ずかしい安奈、二人の間に甘酸っぱい沈黙が流れる。
 そんな二人への助け舟、カメラマンのお姉さんが現れた。
「あら、素敵なお二人さんね」
 そう『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001 )』がカメラを向けると、杏奈は霧人の腕に抱きついた。そんな二人をみやびはパシャリ。
「あら、雅さん」
「何度も任務でお世話になってるわね」
 杏奈と雅が挨拶を交わす。
「どうしたんですか? 今日は」
「今日はカメラマンとしてグロリア社に雇われているのよ。遊び半分仕事半分」
 そう雅は愛おしそうにカメラをなでる。
「アイドル達や参加者はもちろんスタッフ達や絶景も。しっかり一瞬を切り取るわよ」
 そう雅はシャッターを切る。
「そうだ、世良さん……って言ったら二人ともね。杏奈さんあっちにECCOさんがいるわよ」
「本当に?」
 そう雅は世良一家をECCOの元まで案内する。
 会場中心のフードエリアに、ECCOはいた。
「あ! 杏奈さん 霧人さんやんか」
 ECCOは紫のドレスを身にまとっていた、スリットが入っていて色っぽい、流れる髪が輝いて見えるのは特殊なスプレーの効果である。
「ECCOさん久しぶり、来るとは知ってたけど、会えるとうれしい」
 杏奈がそう微笑むのと同時に、雅はECCOの背後の少女に気づく。
「あら。アルじゃない」
『アル( aa1730 ) 』は白を基調としたワンピースドレスを身にまとっていた。
「楽屋で待機してたんだけどどうしてもって……」
「うちのお手てかえしてー」
 そしてアルと共にECCOのおもりをしているのは『鈴宮 夕燈( aa1480 )』彼女はECCOの腕の中でがっちり拘束されていた、かなり気に入られたらしい。
 その光景を眺めながら『Agra・Gilgit(aa1480hero001 )』はニヒルに微笑んでいる。
「この子、もって帰ってええ?」
「かまわないぞ」
「ちょ! あぐやん」
 あわてる夕燈。そんな彼女に笑いながら右手を返すECCO。
「夕燈ちゃん、ケーキ食べた?」
「まだ食べれてへん」
「あの、オレンジ色のとチョコレートのがおいしかったで」
「ザッハトルテや、かわええなぁ」
 そんな怪しい関西弁で会話する二人は姉妹のように仲良く映った。雅はその風景を激写する。
「そういえば? 光夜さんは」
 霧人がECCOに問いかけると。ECCOはチキンを飲み下して言った。
「あの人30分は集中せんとステージ立てへんのや。あとで挨拶に来させる予定やからごめんなぁ」
「夕燈さん綺麗だね」
 アルが言う。 
「ドレス? これなぁ、あぐやんが用意してくれとぉので」
 マーメイドドレスだ、裏地が赤い、手首にも普段通り黒いアームカバー着いてる。
「ちょっとそわそわするなぁ。気馴れへん感じやけど、生地とか高級そうや…………」
 さらにお化粧までAgraにやってもらったようだ、普段とは違って大人っぽく、色っぽくなっている、黙っていれば男子がみんな振り返るレベルの美少女である。
「いい加減こういう服装にも慣れろ」
「うう、今までとなんもかんも違いすぎる」
「まぁ。馬子にも衣装だがな」
「ひっどー、あぐやん、自分で着せてそれはないんとちゃうん?」
「めっちゃ夕燈ちゃん、かわええやん。おもちかえりしてええ?」
 ECCOがしつこく言う。夕燈がかんべんしてぇなと暴れた。



● いつもの空気

 
「みなさーん、お集まりいただきありがとうございます」
 歓談も程ほどに、会場が暖まったころあいで、『小詩 いのり( aa1420 )』がインカムに越し会場に向けて元気いっぱいに声をかけた。
 そのては『影狼( aa1388 ) 』の手につながれている、保護者代わりだった。
「今日は大規模作戦お疲れ様会ということで」
 その声はいのりの操る飛行形スピーカー、エンジェルスビットによって会場響き渡っている。
「参加できなかったみんなの分まで、楽しんじゃおう!」
 最高の笑顔を振りまきながら、純白のイブニングドレスを翻していのりは言った。
「みんな、グラスを持って、もう飲んじゃった人も気にせずグラスを掲げて、乾杯するよ!」


「みんな大規模お疲れ様」
 

 その掛け声と共にグラスを打ち鳴らす音が鳴り響き、会場のざわめきがひときわ大きくなった。
 そんな最初のお勤めを終えたいのりの元に駆け寄ってくる人物がたくさん。
 早速彼女の苦労をねぎらい、大規模作戦について語り合いたいのだろう。彼女は人気者だ。
「こっちだよ魅霊ちゃん」
 そう妹分の手を引いて人ごみを掻き分ける『蔵李・澄香( aa0010 )』
 澄香は共鳴時を髣髴とさせる、桃色のイブニングドレスを身にまとっていた。
「うわぁ」
 見蕩れるいのり。
「あ……」
 顔を赤らめて直視できない澄香。
 いのりはそんな澄香に対して、斜めに立って首を傾ける、少しすねた表情で上目遣いに視線を向けた。
「髪はアップに結って貰っちゃった。澄香、どう? 似合う?」
「か、可愛いんじゃないかな」
「澄香もかわいいよ」
 澄香は笑うといのりに歩み寄り、大きく開いたいのりの背中を指でなぞった。
「うひゃ!」
 直後、澄香もエンジェルスビットを展開。霊力の光をまとわせながら会場を駆け今晩の催し物のスケジュールをコールしている。
「澄香姉さん素敵」
 そんな溌剌とした澄香へきらめくまなざしを送る『魅霊( aa1456 )』
「ねぇねぇ、魅霊ちゃん」
 いのりが魅霊の肩をたたく。
「どうしました?」
「R.I.Pさんは?」
「……どこでしょう」
 パーティー開始直後は見守るように寄り添っていたはずの『R.I.P.(aa1456hero001 )』だが彼女はどこにもいない。
 少しの不安を抱く魅霊。
「いのり、魅霊ちゃん、可愛くない?」
「あの、澄香姉さんが合わせてくれて」
 魅霊は澄香に指示されるままにその場で一回転して見せた。
 チャイナドレス調だがスリットは浅く、シルエットが細いので儚げに見える。
「魅霊ちゃん可愛いから、すごく合わせやすかったよ」
「やぁやぁ皆さん、おそろいで」
 いつものほんわか笑顔で『ハーメル( aa0958 ) 』が登場した、その後ろにつき従うように立つのは『墓守(aa0958hero001 )』
「おや、雷帝令嬢の蔵李さんじゃないか~!」
「神月の智将、ハーメルさんじゃないですか。お久しぶりですね」
 お互い若干恥ずかしい気持ちになり目を伏せる。
「無用な傷つけ合いはよせばよいものを」
「ね~、おかしいね?」
 そう墓守といのりが笑う。
「いのりさんたち飲み物は」
 ワイングラスを回しながらハーメルは言う。
「これから歌うから水でいいよ、おいしい飲み物はそのあとかな」
「これから舞台だったな、応援してるぜ」
 そんな声に振り返るとペットボトルが投げ渡された。女神様天然水と書かれている。 
「ガラナさんだ!」
 そうにやっと笑って挨拶する『ガラナ=スネイク( aa3292 ) 』すでにネクタイを解いてタキシードを着崩してしまっている。
「…………マフィアか、良くてガラの悪いホストみたいね、ガラナ」
「自覚はしてるが、うるせぇロリ巨乳」
 そうガラナをからかって遊ぶのは『リヴァイアサン(aa3292hero001 )』鮮やかな水色のイブニングドレスがまぶしく。大粒のサファイアがよく似合う。
「「うわぁ。リヴァさん綺麗!」」
 いのりと澄香の声が葉持った。
「ニーちゃん、オネーチャン。食べ物がたくさんじゃ!」
 そういって二人の間に入ってきたのは水着の上にパーカーを羽織るアイリスである。そして影狼を抱っこする。
「あれ? 水だめなんじゃ」
「気分じゃ」
 そうアイリスに先導されてテーブルにつくと、金や銀のさじの上に乗っかった多彩な料理が宝石のようだ。
 見た目も可愛い。鮭をムース状にしていくらを乗せたもの。鮮やかな金色のグラタン。一口サイズに巻かれた、ジュノベーゼ、ペペロンチーノ、カルボナーラ等々。手軽なものであれば一口サイズのステーキ、やカニやと普段お目にかかることのない食事の数々に澄香が声にならない声を上げた。
 早速皿の上の料理を滅ぼしにかかる。
「にしても二人はいつもとあまりかわらないね」
 その言葉にハーメルと墓守は食事の手を止めた。
「いや、結構違うよ?」
 ハーメルはタキシードだが、カジュアルにまとまっている、いつもの帽子をもちろんかぶっている。
「帽子を僕のファッションのすべてだと思ってるね?」
 墓守に至っては仮面舞踏会ばりのマスクはいつもどおり、しかし夜の海を思わせる深い黒のドレスがミステリアスに彩っている。むしろ普段より普通というかまとまって見えるという具合。
「帽子でも大丈夫なようにコーディネートしてもらったんだ」
「私も、マスクありでと注文した」
「グロリア社すごいな」
「あ、レミアさん、緋十郎さん」
 そんな澄香の走りよった先には『狒村 緋十郎( aa3678 )』が立っている。
 黒の礼服は糊がパリッ効いていて、控えめにいってボディーガード。普通に言ってその筋の人にしか見えない。
「誰を守ってるの?」
 澄香が問いかける、そんなジョークで緊張がほぐれたのか緋十郎は微笑を返した。
「いや、護るべき相手はまだ」
「緋十郎って、黙っていればほんと屈強な戦士って風貌よね……」
 そのとき、凛と鈴のように鳴る澄み切った声を響かせて緋十郎のお姫様が登場した。
「特殊性癖持ちの変態のくせに。ええ、馬子にも衣装ね、良く似合ってるわ」
『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001 )』である。自前の黒ドレス、ただし外套を部屋においてきているので。袖がなく鎖骨や肩等が露わになっている。
「ちょ、緋十郎、み、見過ぎよ……! 外套脱いだだけでそんなに興奮しなくても」
「いや、いつものレミアとはまた雰囲気が違って……とても良い……!」
「それにしてもどこにいたんですか? レミアさん」
「ああ、蔵李。なんだか見覚えのあるものを見たからそれをどうしようか悩んでいてね……」
 そうレミアは噂の『見覚えのあるもの』を前に押し出した。
「おなかすいたー」
「あれ? メルトさんがいる」
 目の前に出てきた食べ物はすべて食べる、そんな意気込みを纏わせたのメルトは姫乃の相棒であるが、その姫乃はどこへ行ったのだろう。
「メルトさん、姫乃さんはどこへ?」
 いのりが問いかける。
「おなかすいたー」
「遙華のところにいったとか?」
 澄香が首をひねった。
「おなかすいたー」
「食べられちゃったんじゃない? ついに」
 ついにってなんだ。そうひっそりと話を来ていた姫乃は思った。
「ジーチャン、迷子がおるぞ!」
 アイリスがたまたま通りがかった正護を呼び止めていた。そのトレイの上にあったえびを口にして怒られている。
「姫乃、おなかすいたー」
 そして痺れを切らしたメルトがすぐ近くにいた長髪の少女に声をかけた。びくりと跳ねる肩。
 その場にいる全員の視線が、タッパーを持った美少女に向けられる。
「……切実なの。懐事情が」
「…………」
「ちょっと、緋十郎……」
「違う、見とれていたわけではない。失礼だがどこかであったことがないか?」
「な、ナンパだ」
「それも違う」
「おなかすいたー」
 長髪の美少女にすり寄ってくるメルト。
「あっちいっててほしいな……」
「姫乃さんのお姉さんですか!」
 澄香がいうと。
「どう見ても本人じゃろ」
 そうアイリスがいった。
「姫乃の姉の姫菜です」
「………………」
 全員の沈黙が場を満たす、すると澄香は言った。
「ほら、お姉さんだ」
 その発言が種火となり、目の前の女性は誰なのか議論が始まった。しかしその隙を見て颯爽と逃げ出す姫乃である。
「しまった、美少女を逃がした」
 追いかけようとする澄香、その目の前にArcardが立ちふさがる。
「お、若女将だ、いのりもこんばんは、今日は紹介したい人がいるんだ」
 アデノフォーラが腕を組むというより、Arcardの腕にしがみつくような形でぶら下がっている、それが原因なのか不服そうに黙り込んでいるアデノフォーラ。
「あれ?」
「どうしたのアデノ」
 Arcardが問いかけた
「ジャガンナータが…………いないの」
『ジャガンナータ(aa0014hero001)』とは彼女の英雄であるが今は姿を消していた。
「後で探してあげるね。やぁ、みんなおそろいで」
 そう声を上げるArcardへと視線が集中する
「紹介するよボクの婚約者のアデノだよ」
「女の子どうし!!」
「普段は何に対しても"命を賭けるだけ"なんだけどね。でもアデノは特別。掛け値なしに僕の生涯を使える唯一の人だから」



● 音楽とは魂である
 


 すももはリデルに手を取られ階段をあがった、海を見ていたのだがそれにも飽き、ご飯を食べようとやってきたのだが、その料理の美しさにすももは心を奪われた。
「わぁ…………! 色々あって迷っちゃう」
 スプーンに乗っている一口サイズの料理たち、色とりどりの小さなケーキ達。それは一つのアミューズメントのよう。
「スプーンにのってるのかわいい~」
「それぞれ一つずつ頂きましょうか」
「ありがとう! うん、いっぱい食べる」
 そんな二人の空間を彩るように、会場は音楽で満ちていた。
 レイが自身の曲をジャズアレンジ、クラシックアレンジして提供していたのだ。
 レイは綺麗めなゴシックテイストの黒スーツ着用。白いゴシック風のシャツにレイは細い黒ネクタイ、カールは別色のリボンという井出立ち。
 プロのミュージシャンとして会場花を添えつつ輝きを失わない。そんな存在となっていた。
 そんな二人の演奏に『ガイ・フィールグッド(aa4056hero001 )』がサックスで合流する、音に厚みが増した。
「ん~おいしいっ」
「それは良かった」
 そうリデルはすももの口を拭いてやり。すももが差し出したスプーンを見つめる。
「リデルも! おいしいよ!」
「私にですか? 有り難き幸せ」
「ねぇリデル。パーティーってやっぱり歌いながらおどるのがお姫さまだと思うの」
 そうすももは音楽舞台を横目に言った。
「今日は舞踏会では無い様ですが。姫様の望むままに…………さぁ、お手をどうぞ」
 騎士として姫君をエスコートすることは、最高の喜びだ。
「やったー。あ、リデルは歌わなくていいよ…………うん…………」
「え? 何故ですか」
 そうキョトンと疑問符を浮かべるリデル、そんな彼にワイングラスを持って近づく男が一人。
「リデルさんもどうですか?」
『煤原 燃衣( aa2271 ) 』である、ちなみに『ネイ=カースド(aa2271hero001 )』は浴びるように酒をあおってる。
「いや、暁の隊長じゃないか」
 そんな燃衣を見て握手を求めてきたのは『飛岡 豪( aa4056 ) 』である。
「豪さん、いらしてたんですね」
 豪はさっきまで泳いでいたのだろう。短パンで、バキバキの肉体をさらし上半身にまとうのは真っ白いバスタオル。ここだけオリンピックの会場のように見えてしまう。
「せっかくのプールがあるのに誰もいないからあがってきてしまったよ。一緒にどうかな、一勝負」
「あー、普段ならお受けするんですけど。僕演奏を控えておりまして」
 そう燃衣はスティックを見せる、ネイにいたってはすでにギターもベースも取り出して担いでいた。
「ならば、僭越ながらこの緋十郎が。お相手しよう」
「俺も乗った」
 そうタキシードを脱ぎ捨てつつ現れた緋十郎、ガラナ二人のからだもバッキバキである。
「お? やるのか? だったら熱いのつけてやるぜ」
 そうガイがサックスを高らかに吹き鳴らすと。燃衣もネイもあわててステージに上った。
「いくぜ! 舞台仕事手伝ってるうちに身に着けた特技だぜ! 豪熱い勝負を頼んだぜ」
「さー気合入れて! いっきますよーッ! ネーさん!!」
「スズ、テメェ打ち間違えたらブッ飛ばすぞ」
 ドラムにベースにギターがそれぞれうなりをあげる。やがて音は重なりまるで二人の戦いをあおるような勇ましい曲になった。
 直後三人はプールに奔り寄り飛び込んだ。
 25Mのプールをすごいスピードで泳いでいく三人。
「おお、互いに一歩も譲りません」
 いつの間にか澄香といのりの実況と解説がつき。全員が勝負に注目している。
 そして20往復はした頃だろうか。三人は酸欠のあまり途中で水に沈んだ。
「盛り上がってきましたね!」
 燃衣がうれしそうに言うと次の曲をコールする
「「『絆色の種火』」」
 激しいイントロ、たたきつけるようなサウンド、訴えかけるようなビート。それに目覚めさせられた魔人が壇上に現れる。
「いい曲じゃねえか!」
 真っ赤なギターとベースを肩に担いで光夜が乱入してきた。
「たまんねぇなおい! 混ぜろよおい!」
「いいでしょう」
「お前があの光夜だというのなら、楽譜などなくとも混ざれるのだろう?」
 ネイが言う。
「次の曲は」
「されば立ち上がれ」
 アップテンポかつストイックなロック。それについてくるのは光夜だけではないレイとカールもである。
 今度はステージ上で、楽器を武器にした熱い戦いが始まる。

● 続いて可愛く 

「さぁみなさんお待ちかね」
「熱い男子たちの演奏バトルの後はアイドルライブだよ!」
 そういのりと澄香は甲板の左右から走って壇上に向かう。
 そして舞台の真ん前で燃衣は言った。
「サインをください!」
 驚く二人。
「……ずっと。前からファンだったんです」
 震える燃衣の手、それは様々な緊張が入り混じったものである、気恥ずかしさもある。単純にアイドルという存在が好きだという思いもある。
 だが、何より彼女たちと仲良くなりたいそんな思いも混じっていた。
「勿論」
 澄香は左手で色紙を取る。
「ただし、あとでね」
 いのりは右手で色紙を取る。そして悪戯っぽく笑うと、突如スポットライトが二人に当たった。
 妖精の羽のようにまとまったエンジェルスビットを震わせて。会場のみんなに声を届ける。
「というより、煤原さん。ドラムドラム」
「あわわわ、は、はい」
 そうあわててかけていく燃衣、彼のセッティングが整うと二人はインカム越しに会場のみんなに語りかけた。
「みんな、今日は貴重な機会をくれてありがとう」
「ボク達で盛り上げていくから楽しんでいってね」
 空走るレーザーライト、全員の腕に括り付けられたサイリウム、突き上げる拳。

「グロリア社のテーマソング行くよ」

「「ユートピア」」

 そんな二人の快活な声を聴きながら遙華と正護が隅の方で物販を開始した。
「はい、CDはこちらね」
「グッズはこっち、まとめて買うとお得だぞ」
「ふふふ、大盛況ね、すごいわ」
 そうお金の入った透明なボックスを叩いて笑った。
 そんな油断しきった笑顔を直撃するように澄香が言い放つ。
「此処で今回の主催者、西大寺遙華さんに一言を頂戴したいと思います。遙華、ステージにどうぞ!」
「え!」
 有無を言わさずアイリスと影狼に両脇を固められ、ステージ上まで連行される遙華。
「え? なんで私が呼ばれたの?」
 いのりがバックバンドのレイやガイ、燃衣にアイコンタクトを送る、全員が頷いて、流れ始めたのは、聴覚刺すような刺激的なサウンド。 
「では2曲目です。遙華、このタンバリンをどうぞ。聞いて下さい。ベラウバ・ヒューバ!」
「え? ええええ!」
 遙華は意外なリズム感でタンバリンを叩いて見せる。
 そんな不遇な姿を見つめながらアルは自分の番を今か今かと待っていた。
「うんうん、楽しみやんなぁ」
「ECCOさん、よろしくね。赤原さんもお久しぶりですぅ」
 そうアルは営業スマイルで顔をして光夜を威嚇した。
「おう、嬢ちゃん何歌うんだ?」
 それをものともしない光夜。
「ECCOさんと氷の鯨を謳うよ」
 三人の曲が終わるとアルはECCOの手を引いて駆けだした、続けて光夜がギターを手に悠々と登場する。
「これは大切な人を亡くした人に送る歌。あるいは、大切な人が悲しんでいる時に慰めるための歌です」
 アルは告げる。
「「聞いてください、氷の鯨」」
 反転、勢いのある曲調からしっとりとした利かせる曲調へ、澄み渡るアルの声と夜に響くECCOの神秘的な声は調和した。
「じゃあ次の曲。蘿蔔、夕燈さん。皆おいで」
「おい、お呼びだぞ」
 そう背中をおすAgra、夕燈は詰まっていた食べ物を飲み下し、そして頑張るぞ。そう両の拳を握った。
 壇上に歩み寄りながら肩の留め金をはずし。喉の調子を確かめながらアクセサリを付け替えて。
「…………あぐやん何処まで読んでるんやろ」
 スカートの上の部分をはがしてAgra手渡した。
「勿論やるでーっ!!」
 一瞬にしてきらびやかなオレンジ色の衣装に替わる夕燈。彼女が壇上に登ると歓声が沸き上がった。
 次いで遙華が会場のとある方に手を伸ばす。
「蘿蔔も!」
「あわわわわわわ」
 半ばパニックに陥った蘿蔔、その手が誰かの腕を掴もうと泳ぐが、レオンハルトはそれを避ける。
 行って来いよと視線だけ向けて、そして会場皆と一緒に手を叩いた。
「あわわわわわ」
 遙華が壇上から手を伸ばし、蘿蔔はその手を取って舞台へ上がるそして。

「「希望の音~ルネ~」」

 照明が落ち、ゆったりとした曲調のルネが始まる。
 それを歌い上げるのは夕燈。
 続いてアルが登場する。光夜を引きずりながら。
「俺はあんな高い歌えねぇって」
 バックサウンド、およびコーラス担当はECCOと光夜にまかせアルは中央へ。
「大丈夫だよ! ホラホラ行くよ! ……光夜さん、歌好きなんでしょ?」
「女ばっかのとこに俺が行くのが恥ずかしいんだよ」

「皆の心にある光がそれぞれの道標
光に寄り添う絶望も必ず、キラキラした光に変えられる
あなたの『光』は、なんですか?」

『光の音~shine~』が響く。
 それは何度もくじけそうになりながら、アルが見出した光、もしくはまだ追い続けている光。
「お姉さん!」
 雅がカメラを預けて壇上へ
(……声質はアルちゃんと同じでいい?)
 そうアイコンタクトで告げるとアルがウィンクしてくれた。
 そして『影の音~shade~』を静かに重ねる。
 その動画をひっそりととっている姫乃。
「どうするのよそれ」
 レミアが尋ねた。
「三浦 ひかりに送ってやろうと思って」 
 言うと姫乃は少女のように恥ずかしそうに笑った。
「喜んでくれるといいのだけど」
 続いて曲は『太陽の音~Sol~』『月の音~Luna~』
(皆と歌うん楽しいしなぁ。あ、前はしんみりしとぉけど……新しい曲……元気いっぱいお裾分けな感じの……やる……かな?」
 夕燈はそんなアイドルたちの姿を身ながら思った。
 自分もあんなふうに歌が歌いたい、誰かに影響されて、そして誰かを影響する歌が。自分が楽しくなれて、みんなも楽しくなれる歌が。
「夕燈ちゃん、いこか」
「え? うわわわわ」
 ECCOが背を叩いたせいでステージに躍り出る夕燈、飛んでいく右手。
 そして二人で夜宵の音を謳う。
「そして最後に、新人アイドルの蘿蔔です」
「どどど、どうしましょう遙華」
「私も一緒に行くわ、だから聞かせて、私を救ってくれた時の歌。私も一緒に歌うから」
『潮騒の音~accept~』蘿蔔が悲しみも激情も全て受け入れたいそう願って歌った歌。
 それを今は蘿蔔と遙華が二人で歌う。
「西大寺! 卸!」
 レミアが緋十郎の肩の上にのって手を振っている。それに二人は答えた。
「最後にみんなで行こう 春風の音~Thanks~」

● プールサイドでしばしの歓談

 そしてライブは大成功のままに幕を下ろした、CDやDVD、グッズは完売である。
『クラリス・ミカ(aa0010hero001 )』とロクトが大人な顔で何やら話していたのは内緒。
 そして火照った体を覚ましたいと誰もが考えるのか、大体の人間がドリンクコーナーかプールサイドに移っていった。
 それは姫乃も同じようで、プールサイドに水着でいた。普段性別を隠しているが、今日は隠す必要はない。
「さっきよりも人が多いね」
 そうエイミーが言うと、オズワルドはエイミーの手を引いてリクライニングチェアの上に乗せた。
 そんなプールではルナが泳いでいて、世良夫妻は足を水につけ談笑している。
 そんな隣に一人の女の子が座る。由利菜だ。理由としては謝罪するためである。
「ごめんなさい、うちの狐が」
 突如水のなかに引きずり込まれるルナ、彼女は飯綱比売命の餌食となった。
 その前を悠々とガラナが泳いでいく。
「助けましょうか?」
 リヴァイアサンが尋ねた。
「いえ、楽しそうだから放っておきましょう」
 杏奈が言う。
「それにしても、大規模作戦か」
 霧人は言う。
「いろいろあったわね。例えば邪英化。イリスさん達が初めてだったんですよね。仲間の人と戦わなくちゃいけないなんて……」
「仲間内から出たのは初だな」
 杏奈の言葉にガラナが答えた。
「あれは燃えたわね」
 リヴァイアサンが言う。
「あたし達も力になれて良かったわ!」
「重体者もいっぱい出たけどね」
 由香里はそう言うとブクブク沈んでいく。
「ああ、ボクも重体になってしまって。杏奈にも心配かけちゃったし……。下手に動けないし」
「そうなのよね。重体のまま前線に立って他の人に迷惑を掛ける訳にもいかないし」
 由香里が憂うつな病院生活を思い出しながら言った。
「……って、思ったら重体のまま伝説作ってる人がいたわ。世の中化け物が多いわね」
「今後の戦いはどうなるのでしょうか? ヴィラン組織は他にもあるのでしょうか?」
 霧人はまだ見ぬ戦いに思いをはせる。
 そんな静かなプールサイドに追加で何名か現れた。
「いやアイドルたちの実力は知ってたけど、君の相方さんもすごかったね」
 そうArcardは豪の肩を叩いていう。照れる豪。噂の相方ガイはあの後もステージ上でミュージシャン組に拘束されていた。
「ん、集まってる」
 隣のリクライニングチェアに寝そべっていた蓮が、井戸端会議ならぬプールサイド会議に参加した。
「蓮はもう良いのですか、お休みになられなくて」
「すこし、興味がある、みんなの話に」
「普段はみなさんどのように過ごされているのですか?」
 参考までにと月詠がその場に集まっているリンカーに尋ねる。そして立ち話もなんなのでと蓮が中国茶を振る舞った。
 Arcardはそれを一口含むと、アデノフォーラに小声で美味しいよと囁きかけた。
 アデノフォーラはお茶を飲み始める。
「大方アデノと一緒に過ごしてるよ。お茶飲みながら他愛ない雑談とかして―、お互い満足するまで触れ合ってるかな」
「うーん、あまり参考になりませんね」
 月詠の言葉に豪が代わりに答える。
「映画鑑賞か……トレーニングだな。俺の探偵社にスポーツジム同様の設備がある。皆も良かったらどうだ?」
 興味を持ったのはArcardだ、ちょっとしたトレーニング談義に花が咲く。
「きんとれとな、元気じゃのう、おぬしら」
 ざばーっと、ルナと影狼を両脇に抱えた飯綱比売命が姿を見せる。
「わらわは、最近は夏バテ気味でのう、そんな元気もないものじゃから。家でゴロゴロしておる。トリアイナを扇風機の前に立て掛けておくと冷気が風に乗っていい感じに涼しくなるのぢゃ」
「それはいいですね」
 月詠が言った。
「蓮はよく縁側で寝てたり、お犬さんやぬこ村さんたちと遊んでいますよ。あの子たちも喜びそうですね」
 そう話が盛り上がってきたプールサイド、その中でふとArcardは一人の少女に気が付いた。
 アイドルたちの間にも混ざれず寂しそうに憧れの人を見ている少女魅霊だ。
「何をしてるの?」
 Arcardは尋ねる。
「関係ないです」
「そんなことはないんじゃないかな、共犯者だし」
 その言葉に魅霊はひどく傷ついた顔をした。
「後悔しているのかな? あの時のこと」
「……正直なところ、あまり思い出したくはないです」
 魅霊は語りだした、普段さらさない胸の内。ただ、共犯者のArcardだけには伝えらえるこの思い。
「姉さんの友達が邪英化して、解放のために力を尽くしていたあの時」
「私はただ、それまで姉さんと近しかったその人に嫉妬してたがために、何もしなかった。あれは、やってはいけないことだった……」
「だから。あそこに行く資格はない?」
 魅霊は目を瞑る。
「……そういえば、アールの姿を見ていない」
 最初は彼女を探しに出たつもりだった、ただ見つからないまま時がたち、次第にあの輪に混ざり図楽なっていた。
「いつもは黒い修道衣姿だから、すぐわかるはず……」
「あっちにいるよ?」
 そうArcardが指さす方向に少女は駆けて行った。 

● 炎の料理人
 突如銅鑼の音が鳴る。
 本日二回目の出し物は料理大会。
 相変わらず司会者はいのりと澄香である。
「出場者紹介」
 ガイ 杏奈 月詠 ガラナ 正護 飯綱比売命。
 計六名。
「対して審査委員は」 
 由香里 ロクト クラリス リヴァイアサン 織歌の五名。各々名前を呼びあげられるとアピールを返した。
 そして再び銅鑼の音。炎が躍る。
「俺はチャーハンを作るぜ!」
 そう高らかに宣言して、ガイは中華鍋を振りまわした。米が躍る。
「しかもカレーチャーハンだ」
「すごーい、カレー、チャーハン、食いしん坊の味方が一つの皿に」
 澄香が涎を垂らさんばかりのいきおいで実況する。
「人数が多いし…………量があると良いと思ってな」
 ガイが言う、その隣で杏奈は野菜を切ったりゼラチンを溶かしたりと鮮やかな手つき。
「世良家の奥さんは安心感がある料理風景」
「毎日台所に立っているのがわかります」
 月詠はというと。
「中華でいろいろ作ります」
「おおお! カレーチャーハンに対抗できるか」
「餃子、エビチリ、点心、青椒肉絲」
「あああ、澄香よだれが……」
「日本食でもよかったのですが……洋食は苦手ですね」
 その中華に対抗するのは和食担当の正護である。お吸い物、刺身、だしを取った後の昆布を巻いて煮込んだ料理。鮎と椎茸姿焼き。など次々と用意していく。
「そして気になるガラナさんの料理は……」
 澄香が台所を除くと、美しい小皿に小分けにされた料理。
「かかかかか、海戦フレンチです」
 いのりが言う。
「味の想像がつかなさすぎて、あまりお腹が減りません」
 澄香が言った。
「和食の方が得意じゃあるが、こっちの方が雰囲気にゃ合ってんだろ」
 ちなみにそんな熱い料理風景を見ながら飯綱比売命はいなりずしを量産していた。鼻歌交じりでとても楽しそうである。
「パーティーですよ、陛下。美味しいものが食べられそうですね」
 織歌は楽しみすぎて、ナイフとフォークを握った手をぶんぶん振った。
「またか……織歌よ、お主その食べ物に釣られるところは改めた方が良いのではないか?」
「食べる事は生きる事ですよ、陛下。食事を蔑ろにしてはいけません」
「いや、余は別に蔑ろにはしておらんのだが……」
「きっと陛下の好きなお魚も沢山ありますよ」
「む、むぅ…………仕方ないのぅ」
 言いくるめられる皇帝である。
「さぁ、料理ができました、実食を」

● 憂うつ淑女
 調理台の方から上がる歓声を聞きながら雨月は会場を見つめていた。
 一通りの挨拶もすませ、ライブも楽しみはしたがなんだかものたりない。
 雨月はマリンブルーのナイトドレス、その裾を叩いてぼんやりと海を見つめた。
 瞼を下ろすと、視界の端に焼き付いた遙華の姿が見える。彼女は忙しそうだ。
 まぁ、ホストなんだから当然ではある。
 だが、それが少しさみしいと思う心もあった。
 普段、任務で出ている時にはこんな風には思わないだが、こうしてグロリア社令嬢としての姿を見せられてしまうと隔たりを感じずにはいられなかったのだ。
「私は、どう思われているのかしら」
 らしくない、そう思いつつもそう考えてしまうことをやめられなかった。
 こんな顔でどうやって会えばいいのだろう。そう思っていると、後ろから声が。
「壁の花は美しいけど、でも寂しいと思うわ」
 振り返ると遙華が立っていた。
「挨拶はいいの?」
「もう終わったわ。ちょっと用事があるからって澄香や蘿蔔にまかせてきちゃった」
 そう遙華はゆっくりと雨月に歩み寄る。
「雨月だけよ、挨拶していないの」
「ずっと忙しそうだったから」
「気遣ってくれたのね、ありがとう」
 そう言うと遙華は雨月の手を取って言った。
「大規模お疲れ様、雨月にはずっとお世話になっちゃったわね。これからもよろしくね」
「いいのよ、そんなこと」
「ううん、言わせて。雨月には私がエージェント活動するようになったころから支えてもらってるもの、あの時は素直に言えなかったけど、今なら言える」
 あの時、というのはヘリが落ちた時だ。あの時遙華は傲慢で、何もかもが完璧にできると思っていて、初めての失敗に取り乱した。その時責めるでもなく優しく接してくれたこと、そしてずっとそのスタンスで支えてくれたことを感謝している。  
「ありがとう、雨月。いつか恩返しができたらと思うわ」
 言葉を失う雨月。
「ねぇ、一緒に行きましょう。ほとんどお仕事が終わったから未成年組でトランプしましょって話をしているの」
「あなた、どれだけトランプ好きなの?」
 そう雨月の手を引いて駆ける遙華、二人は楽しそうだ、陰鬱な空気など欠片もない。
「ねぇみんな、私の友達を紹介するわ。知ってる人も多いと思うけど」
 そう真っ先に声を駆けたのはアイリスと夕燈とアルである。三人は仲良くおしゃべりしていた。
「あ、私は知ってるよ、PV撮影したもん。アルだよ」
「何度か見たことあるよ。雨月さんよろしくやね」
「あと、姫乃もきて」
 その言葉に華奢な方が揺れる。音がしそうなくらいにかくかくと首が後ろに回って遙華を捉えた。
「わわわ、私は姫菜」
「もうとっくにばれてるから、ばれてたからもう普通にしてていいわよ」
 沈む姫乃である。
「トランプしましょう」
 唐突に言い放つ遙華、そして少女たちはメンバー集めに奔走することになった。

●2人占めの星空 

 船が停泊してからはボートの貸し出しが可能になる。
 会場の喧騒を忘れて二人きりになれるいい機会だ、そう緋十郎はレミアを誘って海の上に出た。
 そんな二人のシルエットが重なったのを見ないふりしながら、ハーメルもボートに乗り込んだ。
 本当のことを言うと、単純にオールを回したくなっただけなのだが変な空気が漂っているので若干後悔している。
「この世界はよいな」
 そうハーメルの後から墓守がボートに乗り込んだ。
「今日は、珍しく饒舌だね」
 今日は沢山人と話をしていた、アイドル周辺の人達とは特に。
「私は一人を守るための英雄だっただからこんな風に息をつけたことなど今までなかったよ」
 墓守はボートに乗り込むも、立ち尽くしたままあたりを見渡していた。
 そんな墓守をハーメルは見上げる。その姿から少しでも目をそらすと、消えてしまいそうだったから。
「私の油断は、奴の。親友の死に直結するからだ」
「それは……」
 ハーメルは、何と声をかけていいか分からなかった。口下手ではないと思っていたが、こんな時気の利いた言葉を返せない自分がもどかしい。
「なぁ、ハーメル、君は成長したな」
 墓守の視線が、過去ではなくハーメルに注がれる。
「どうしたの? いきなり」
 ハーメルは苦笑いを返す。
「成長したと言えば、そうそう、先の戦いで思い出したことがある」
 墓守は短く息をつくと、自分の仮面に手をかけた。
「名前を思い出した」
「本当に?」
 ハーメルは喜んだ、まるで自分のことのように。
「だから……」
 その時強く風が吹いた、墓守の髪が風に舞う、船の明りに薄く照らされたそれはぞっとするほど美しく。ハーメルの意識をひきつけて離さない。
「聞いてほしいんだ、私の名を」
 その細く長い指先が、マスクの表面を滑る、指先に力がこもり。そしてマスクが外される。
「私の、名前は」
「え! ちょっと待って、心の準備が」
 そう後ろに後退したハーメル、その背でカチッと何かのレバーをひねってしまう。
 次の瞬間。全速前身。ボートがあらぬ方向へ飛んで行ってしまい、墓守はハーメルの上に倒れ込んだ。
「おい、ぶつかるぞ!」
 次の瞬間、緋十郎のボートに激突、海の中に落ちる緋十郎とレミアである。
「うわ! ごごごごごめんなさい」
 それを笑う墓守。
「笑い事じゃ、早く助けないと」
 そう起き上がろうとした、ハーメルの視線が墓守にくぎ付けになる。
 今まで見ることの叶わなかった素顔。そして、彼女の唇が震えた。
「私の名をおぼえていてほしい。私は――」
 そんな一騒動を甲板の端っこで眺めているのはR.I.P。
 彼女はひとしきりパーティーを楽しんだ後ここで一休みしていたのだ。
「うふふ、パーティードレスだなんていつぶりなのかしら」
 そして背後の気配に声をかける
「……あら? どうしたの? さっきからずっと見てるけれど……魅霊」
 魅霊はおずおずと姿を現した。
「綺麗ね魅霊、澄香さんに選んでもらったのかしら」
 コクリとうなづく魅霊。
「もしかして、私の格好って変なのかしら?」
「ちがう、アール、とっても……綺麗」
「ありがとう、こちらにくる?」
 二人は姉妹のように寄り添った。

● 安息の夜
 夜も深まりよい子は寝る時間、力尽きた相方を運ぶものが続出し始めた。
 すももを抱きかかえるリデル。
 エイミーを運ぶオズワルド。
 アデノフォーラを部屋まで運ぶArcard。
 それを監視するジャガンナータ。彼は常に見晴らしのいい場所で主に悪態を働かないか監視していたのである。
 そのほかにも恋人たちも部屋に帰るものが多い、例えば先ほど海に落ちたレミア達。
「部屋って、一人一部屋なのね……」
「……どうした、寂しいのか?」
 二人は着替えが届くのを待ちながら部屋の中に突っ立っていた。ベットを汚すわけにはいかないと思ったのだ。
「な、べべべ別に寂しくなんか……!」
そうか、ならば……俺は寂しい」
「そ、そう、緋十郎が寂しいのなら仕方無いわね、許すわ、わたしの部屋にいなさい……!」
 と言っても、船が町に戻るまでは長らく時間がある。その時間をどう過ごすのかは自由だ。例えば蘿蔔たちのように甲板で涼んでみたり。
「……夜は、ちょっと冷えますね」
「ああ、夏が終わるな……」
 レオンハルトがネクタイをずらしていった。
 そんな蘿蔔へ雨月が走り寄ってきた
「遙華が探していたわよ」
「え?」
 そして蘿蔔の人見知りが発動する。
「えっと…………」
「そんなに緊張しなくてもいいわ、みんなでトランプをやるそうよ」
「すみちゃんたちは?」
「そっちは遙華が探しにいってるから、私たちは遙華の部屋に行きましょう」
 そして噂の澄香といのりと言えば。彼女たちは船内部のキッチンにいた。
 いのりがぐつぐつと何か作っているかと思えば、澄香の前に出てきたのはあつあつの手打ちきつねそばだ。
「うわああああ、慣れ親しんだ日本のあじ、疲れたお腹にもやさしいよ」
 澄香は大喜びでほおばっていく。
「クラリスさんもどうぞ」
「ありがとう、いただくわね」
 クラリスは今回の会ものすごく忙しかったらしく、食事にありつけていないそうだった。
 だから残りもので適当に作られた料理をばくばくと食べている。この後さらに別の打ち合わせがあるらしい。
「なんでも36時間テレビ、なる企画があるそうですよ」
 そしてうどんをすする。
「おかわりもあるよ」
「さすがいのり。いのりの手料理が一番おいしい」
 ラブラブな二人である。そんな空間に空気を読めず割って入る遙華。
「澄香こんなところにいた」
 その姿を見ると澄香があわてて立ち上がる。
「プレゼントがあるんだ」
 澄香が結晶をさしだした。
「これはクリスタロスをベースにロクト様と開発した剣、その刃が砕け出来た欠片です」
 クラリスが解説を入れる。
「澄香ちゃんのライヴスで出来た音響く護石のコピーです」
「綺麗ね、あの子の色そのままよ」
「ルネシリーズDLへのお礼として応募者全員へプレゼントしています。この石もまた、多くの人の手にあって欲しいのです」
「ありがとう、私から言うことは感謝だけよ。ロクトと話はもうしてあるのでしょう? あ、そして私からもプレゼントがあるの、と言ってももうあなた達の背中についているのだけど」
 二人はお互いの背中を見た、今は収納されている翼状のスピーカー。
「優勝おめでとう、コンテストにはグロリア社も関わっててね。これは二人のために一足早くロールアウトしたエンジェルスビットよ。使ってくれるとうれしいわ」
「ありがとう遙華」
「大切にするね」
 そう二人は微笑んで、遙華は気恥ずかしくなって視線をふせた。
「そうだ、これからみんなでトランプやって遊ぶのよ。由香里やルナも呼んでやりたいの、こない?」
「ご飯食べたら行くね」
 そう澄香はうどんを平らげた、おかわりがあとどれくらい続くかはわからない。

エピローグ
 そして甲板に残ったのはお酒好きな大人たち。
 杏奈の膝の上に頭を置いて眠る霧人、暇を持て余した二人の英雄をアイリスがトランプに誘いに来た。
 その平和な光景を燃衣は見つめるが、踵を返し海を見つめる。
 燃衣は過去とこれからを見つめて。
「………………」
 そんな燃衣に、ネイがアブサンの瓶に口をつける。
「……辛いか?」
「ネーさんそれ、そのまま飲むお酒じゃ……」
「……辞めるか?」
「……冗談を。《抜け殻》のボクを知ってる癖に」
これまでの歩み、殺した戦い、守った人、守れなかった人。怒り憎しみ、痛みと悲しみ。
 気付けば生来の気弱さが悲鳴をあげている。
「……まぁ、な……そして俺は、呪いをかけた」
「……最近、ふと思う事があるんです……」
 似た境遇の者は沢山居る。しかし自分の周りに《憎む者》は居ない。この船と同じで、自分だけが闇を見ている。
 本当に隊長をしてて良いのか。
「時々、自分が恐ろしくなります、そしてひどく遠くにいる感じもします。柄にもなく何かを救えれば、そう思ってたてた暁。それが自分にはとても似合わないものだと思うことがあります」
 ネイは黙って瓶に口を。
「……次は仲間が死ぬかもしれない」
「だとしたらどうする?」
「強くなります、もう、だれも」
 燃衣は思い出していた、目の前で失われていった、数々の命。
「誰も死なせないように僕が、強くなります」
 その犠牲を無駄にしないためにできることを、始めよう、そう強く強く胸に刻んだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 久遠の誓いを君と 
    アデノフォーラ・クレセントaa0014
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    ジャガンナータaa0014hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • 赤い瞳のハンター
    Iria Hunteraa1024hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • エージェント
    影狼aa1388
    機械|15才|?|攻撃



  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃



  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    R.I.P.aa1456hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • ~トワイライトツヴァイ~
    鈴宮 夕燈aa1480
    機械|18才|女性|生命
  • 陰に日向に 
    Agra・Gilgitaa1480hero001
    英雄|53才|男性|バト
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 海上戦士
    ガラナ=スネイクaa3292
    機械|25才|男性|攻撃
  • 荒波少女
    リヴァイアサンaa3292hero001
    英雄|17才|女性|ドレ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
  • 任侠の流儀
    九龍 蓮aa3949
    獣人|12才|?|防御
  • Knight of 忠
    月詠aa3949hero001
    英雄|24才|男性|バト
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
  • エージェント
    エイミー クォーツaa4234
    獣人|11才|女性|回避
  • エージェント
    オズワルドaa4234hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • Hoaloha
    梵 すももaa4430
    人間|9才|女性|生命
  • エージェント
    リデル・ホワイトシェードaa4430hero001
    英雄|24才|男性|カオ
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