本部

【神月】連動シナリオ

【神月】波乱の一般常識講習会

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/09/04 16:45

掲示板

オープニング

●一般常識って、美味しいの?
「辞退させていただきます!」
 スタントマンは、机を思いっきり叩いた。
 現代社会に馴染めない英雄のために、HOPEの支部では講習会が開かれていた。スタントマンは「もしも契約者が危険な目にあったら」という状況を作るために招かれていた。
「申し訳ありません。あれは……本当に不足の事態でした」
 講習会中に「もしも、契約者が交通事故にあいそうになったら」という講習がおこなわれた。世間知らず代表のアルメイヤはエステル役のスタントマンに向かって突っ込んでくる車(別のスタントマンが運転していた)を一刀両断したあげく、車を運転していたスタントマンに危うく暴行を加えるところであった。
 エステルがアルメイヤを宥めてくれたから事なきを得たものの、一歩間違えれば大惨事である。ますます英雄たちに現代社会の常識を教えることが課題として見直されるなかで、協力を仰いでいたスタントマンたちが一斉に協力を辞退してしまった。
「……仕方がありません。現代の生活になれた英雄とそのパートナーを講師役兼スタントマン役として招きましょう。生徒の英雄たちも再度募集すべきでしょう」
 HOPEの職員が、ため息をついた。
「急を要する件は『もしもパートナーに危険がせまったときの対処』『一般社会の基本的なルール(強奪・盗みはいけません)』『簡単な料理の作り方』ぐらいですかね」
「料理の項目はいらないだろう?」
「このあいだ、電子レンジを大爆発させてアパートを追い出された英雄がいます。ちなみにアルメイヤにもカレーを作ってもらいましたが……離乳食が完成しました」
 刻み過ぎである。
 さらにいえば、彼女は料理を加熱することもしなかった。
 離乳食にもなっていない。
 現代社会は便利な道具で溢れているが、使いこなせなければ意味がない。電子レンジを爆発させて、アパートを追い出されるのがオチである。
「分かった。料理というか……電子レンジとガスコンロの使い方も教えるべきなんだな」
 ため息をつきながら職員は、本日のアルメイヤの成績表を見た。

 パートナーに危険がせまったとき――車両切り捨て。
 買い物――強奪。
 簡単な料理――火の通ってない離乳食を製作。

たぶん、これが学校だったら赤点だったであろう。

●一般常識って、難しい
 アルメイヤは、困っていた。
 滅多にないことではあるが、反省していた。
「くっ……こんなものをエステルに食べさせられない」
 皿の上には、みじん切りのニンジン。
 料理とは、とても思えないものであった。
 今度の猟師講習だけは、真面目にやろう。
 他の人間が聞いていたら、おそらくは他の科目も真面目にやれと突っ込んだであろう。

解説

 一般常識が不安な英雄とそのパートナーのために、講習会をおこないます。
 以下は募集要項と講習内容となります。

募集要項
・一般常識に自信がない英雄とパートナーの皆様
・一般常識に強い英雄とパートナーの皆様

講習内容

もしもパートナーに危険がせまったときの対処……一般常識に長けた先輩方に講師役やスタントマン役をやっていただき、もしもの時の対処方法を学びます。今回は『もしもパートナーが交通事故に会いそうになったら』という題材で進めさせていただきます。

一般社会の基本的なルール……先輩英雄を講師に迎えながら、一般的な買い物の仕方を学びます。今回はカレーに必要な材料を一から揃えていただきます。

料理教室……簡単な料理と調理器具(ガスコンロと電子レンジ)の使い方をレクチャーします。料理の内容は、レンジ電磁を使った時間短縮カレーを予定しています。

アルメイヤ……一般常識が全くない問題児。放っておくと車両を一刀両断したり、店で明らかにカレーの材料ではないキュウリやアサリといった食材やグミといった菓子などを購入しようとたり、離乳食を量産したりする。

エステル……基本的にアルメイヤを見守っており、声をかければアルメイヤを止めてくれる。

リプレイ

●アンケート
パートナーをお持ちのあなたに質問です。
最近「自分のパートナーが常識知らずだな」と思った事はありませんか? そのときのエピソードを教えてください。

・ゴキブリを銃殺しようとします。あと、僕の事を人前でも変態様と呼びます。
PN:女性とスイーツを愛するワイルドブラット

・貢がれるのが当然な世界からやってきた英雄が、うらやま……働いたら負けとか言ってるんだぜ。
PN:霊媒師

・成長期なのに、買い物に出かけると菓子ばかりを買ってきてしまう。
PN:固茹でタマゴ

・お嬢様のお育ちが高貴すぎて、目が離せません。
PN:さぼりたい執事

・特にない……でしょうか?
PN:黒

●一般常識講習~交通ルール編~
 晴海 嘉久也(aa0780)は、事前アンケートを見て頭を抱えたくなった。一般常識を学ぶための講習会に講師役として参加することとなったので、念のために事前アンケートを取ることにしたのだ。その結果が、上記である。問題児はアルメイヤだけで、後は楽だろうと思っていたのだが意外な伏兵が大勢いそうである。
「……皆さん。もしもパートナーが車にひかれそうになったら、どのような対処をしますか?」
 いきなり実戦に移すのも怖かったので、試しで生徒達に尋ねてみる。一番最初に手を上げたのはギシャ(aa3141)であった。
「どらごんなら戦車にひかれてもきっと無事だから、だいじょふだいじょぶ」
 さすがに戦車は無理があるのではないだろうか。
『ギシャなら背後から迫ろうと避けるから、心配する必要はない。その程度の信頼をせずに何のパートナーだ』
 どらごん(aa3141hero001)の言葉には重みがあるが、何かがちょっと違う。
「僕が車にひかれそうになったら、だぜ。よーく考えて答えてくれよ」
 天宮 愁治(aa4355)の言葉に、ヘンリカ・アネリーゼ(aa4355hero001)は頷く。
『車に一斉射撃をしたのちに、手榴弾を投げます。周囲の被害を確認し、ご主人さまと現場を離脱します。これが正解です、ご主人様』
 愁治は、息を飲んだ。
 それは交通事故ではなくて戦闘ではないだろうか、と。だが、彼女こそはアンケートにゴキブリを銃殺したと書かせた脳味噌筋肉メイドなのである。
『事故……カレーがこぼれるよね?』
 カレーを食べる会である、と騙されて連れてこられたレイキ(aa4286hero001)は首をかしげる。てっきり皆で、シーフードにしようか? ビーフにしようか? それともカレーウドン? みたいな話をするかと思っていたのに、蓋を開けてみれば何故か交通事故の話だ。
「運転手さんが車のドアを開けてくれるまで、杏樹は待ってるの」
 泉 杏樹(aa0045)の回答に、周囲が首をかしげる。杏樹の回答の真意を察した榊 守(aa0045hero001)は、お嬢様のバブリーな日常を説明する。
『お嬢様は車は運転手がドアを開けて、目的地に送り届けてくれるものだとしか思っていないのです』
 榊の言葉に、中城 凱(aa0406)は衝撃を受ける。
「お嬢様……恐るべきだ」
「……タクシーは、そうですよね」
 柳生 楓(aa3403)も驚きを隠せない。育ちの違いを見せつけられる、というのはこういう時に使う言葉なのだろう。
 生徒のアルメイヤは、うむうむと頷きながらノートにメモをとっていた。
「アルメイヤ様、なんのメモをとっていたのでしょうか?」
 魅霊(aa1456)は、そっとアルメイヤに話しかけてみた。魅霊は、ずっとアルメイヤのことが気にかかっていたのだ。だからR.I.P.(aa1456hero001)と相談して、一般常識はあるが生徒側として参加したのである。そして、話をすることでアルメイヤの母国語や彼女自身のことを知れるかもしれないと思ったのだ。
「ああ。意見をまとめて、エステルが事故にあったときの対処を新しく考えてみた」
 なぜ、悪い方の意見を参考にした。
 その場にいた全員が、思わずアルメイヤにツッコみを入れる。
「アルメイヤ様……これは」
 魅霊は、見せてもらったメモを読んで震えた。
 ――できるだけ銃器を使い、止めを刺す。運転手は、戦車に引かれても多分平気なので放置。
『あらあら、止めを刺しちゃったようね』
 R.I.P.の穏やかな声色に騙されそうになるが、書かれていることは全く穏やかではない。
 空想上のことだが、車を運転していた人間があまりに可哀想だ。
 続出する珍回答にナラカ(aa0098hero001)は、ケタケタと笑っていた。こうなるとは予測していたが、実際見ると楽しくてたまらない。
「あー、笑ったぞ。私と覚者では、ああはいかぬな」
 目じりに浮いた涙をぬぐって、ナラカは自身のパートナーを見やる。八朔 カゲリ(aa0098)には無論一般常識があり、珍回答など期待はできない。
「やる気はあるのか?」
 カゲリは、ナラカとは違いため息をついていた。
 珍回答を笑う気にもなれない。
 これは、酷い。
 酷過ぎる。
「まずは、共鳴だ。これだけでも、パートナーが轢かれて怪我を負う事は避けられる。リンカーならではの対策とも言える。一般的には救急車を呼ぶぐらいか? 基本、庇おうと飛び出せば共に轢かれるのがオチだから、飛び出して助けようとは思うな」
 カゲリの言葉に、氷室 詩乃(aa3403hero001)は頷く。
『たしかに、リンカーならではだよね。英雄が傍にいるときなら即共鳴をして、上がった身体能力を活かして車を避けることもできるよ』
 楓はこっそり
「ライヴスを介さない攻撃のダメージはならないけど……」
 と呟く。
 だが、この方法はおススメしてはならないと楓は自制する。たしかに、共鳴したリンカーは無事かもしれないが、あまりに心臓に悪い。
「車両を蜂の巣に? 貴方はエステルさんを借金塗れにするおつもりで?」
 七三分けにスーツをびしっと決めた高橋 直房(aa4286)が、アルメイヤの間違いを指摘する。
「はっきり言って、貴方のしたことは彼女を苦しめただけです。それで助けたつもりとは、勘違いも甚だしい。常識が無いなら何もなさらないでください。役に立ちたいのであれば学んでください」
 カゲリは、その言葉聞き思わず頷いていた。自分の言いたい事を直房は、実に朗弁に語る。アルメイヤも一応は、自分に常識がないとは自覚しているのだろう。何も言わずに、直房の話を聞いていた。
「よろしい。では、わたくしが正しい当たり屋の仕方を――まずは共鳴します」
『それは、一般常識ではないですよね』
 一般常識ではなく、犯罪を教えそうな直房にエスティア ヘレスティス(aa0780hero001)が微笑みかける。嘉久也や道場の人が教えてくれたおかげで、エスティアも日常生活で困らないぐらいの常識はあった。当たり屋の知識は、あきらかに一般常識ではない。
「当たり屋とはなんでしょうか?」
 エステルが、首をかしげた。
 嘉久也は、こほんと咳払いをする。
「事故にあったと嘘を言って、賠償金などを要求する詐欺ですね」
 簡単な説明にエステルは、納得したようであった。
 嘉久也は、その様子にエステルは一般常識がある子供であると考えた。アルメイヤが奇行に走ってしまうのは「幼い契約者を守りたい」という気持ちと、エステルがアルメイヤを止められないということに起因しているのだろう。これまでのことでやや前向きにはなっているものの生来エステルは、内向的な性格だ。アルメイヤのようにぐいぐいと進んでしまう体育会系の人間を止めるのは不得意なのだろう。
「まずは、武器を仕舞う事と武装や暴力に頼らずに対処する事を教えていきたいと思います。まあ、日常においては危険だと思う場所はしっかりと避けるもしくは法的に適切な方法をとって乗り切ることが大切で、万が一の時でもリンクすれば大抵は何とかなるモノですね。ヴィランが悪者扱いされている理由の一つは、これが守れなかったから……なんですよね」
「さすが、晴海様。とても、分かりやすいです」
 魅霊とR.I.P.に拍手をもらうが、一般常識のある彼女達に通じたところで安心はできない。一般常識がない唯我独尊な生徒たちは、一体何を考えているのやら。どこからか「見つからなければ大丈夫」という、まったく大丈夫ではない言葉が聞こえてくるのも気のせいだと信じたい。
「エスティア、どういうふうにどういうふうにすれば分かりやすいですかね?」
 英雄たちは、違う世界の常識に戸惑うものだ。
 エスティアにも多少なりともその経験はあったために、嘉久也は彼女の聞いてみることにした。
「そうですね。やっぱり、実戦あるのみでしょうか?」
 その一言で、一般常識講習会屋外の部が開催されることに決定した。
『カレーは……』
 レイキは、まだここが一般常識講習会であると気がついていなかった。

●一般常識講習屋外の部~買い物編~
 楓と詩乃による突っ込んできた車のかわし方――大抵の事は共鳴すれば大丈夫――の説明を実地で見学した一同は、近くのスーパーまで買い出しに出かけることにした。
 だが、それに不満を漏らした者がいた。
 直房である。
「ネットならカレーに限らず、レシピがすぐ調べられます。スーパー? 実際に行く必要はありません。今のご時世、大手スーパーは自社通販サイトを完備しています。安い方がいい? チラシを片手にスーパーをハシゴする必要はありません。そんな貴方に【値段.com】です」 
 直房の意見も間違っているわけではない。だが、買い物初心者の人間達にネット通販はあまりにレベルが高すぎるであろう。
「材料だけではなく、レトルトのご飯とルーも用意したらどうだろうか?」
 レンジでチンするだけで食べられるものがあるのならば、そういうものがあると知ることも大切であるとカゲリは言う。
『甘口と中カラどちらがいいだろうか?』
 礼野 智美(aa0406hero001)は、買い物カートを押しながら考える。自分達の分のみを作るのならばならまないが、今回は比較的若い仲間たちが多い。手堅く、甘口で責めるべきか。凱は、それに対して若干不満そうであったが。
『無事に、買い物は終わりそうか?』
 ナラカが不意に尋ねてきて、カゲリは何となくではあるが寒気がした。この買い物は、波乱に満ちたものになる。そんな予感がしたのである。
「好きな物を好きなだけ食べればいーよねー。ホープでちゃんと働いてて、お金持ちだしー。大人買い?」
 スーパーについたとたんにお菓子売り場に特攻したのは、ギシャであった。どらごんはそれを止めようとしたのだが、残念ながら彼は最大の天敵に捕まってしまったのである。その天敵とは――スーパーに来てもはしゃぎまわる子供たちである。
『人とは外見で判断する悲しい生き物だな。……こらガキ共、叩くな蹴るな』
 店のマスコットだとしか思われていないどらごんを尻目に、年齢層の若い生徒たちがフラフラと菓子コーナーに引き寄せられていく。
「チーチョコ……」
 一口サイズのチョコ菓子を見つけた杏樹の目が輝く。しかも、パッケージには『新発売 限定商品 新食感』の魅惑のワードが三つも。後ろで見ていた、ギシャとエステルもごくりと唾を飲み込む。
『欲しい品と金を交換する。品と金が釣り合ってるかが重要でございます』
 榊の言葉に、杏樹は素直に頷いて財布からお金を取りだした。その金額は、明らかにチョコ1個分には多すぎる。だが、杏樹は戸惑っていた。
「ちょこ…一万クレジットで、たりない…です? 榊さん、お金ください」
『お嬢様、お金が多すぎです……えっ、お嬢様?』
 さすがの榊も、一瞬言葉を失った。
 杏樹は、買い物かごに大量にチョコを入れ始めたのだ。それでも……一万クレジット以上にはならないだろうが。
「カレーに、ちょこ、隠し味、お友達に、聞いたの。いっぱいいれたら、すごく、おいしいカレーに、なるの」
 杏樹は一生懸命に説明するが、榊は一瞬だが遠い目をした。
 果たして出来あがるのは、カレー味のチョコなのか。チョコ味のカレーなのか。
『……フム、種類が多いですね。聞きましょう』
 事前に楓が書いたメモを片手に、ヘンリカは悩んだ。そして、彼女が考える最適な答えを実行する。彼女は、スーパーの客を捕まえて銃を突きつけたのだ。
『カレーの材料を選びなさい。5秒以内です』
「ヘンリカ様、それはダメです!」
 魅霊が止めてくれたために大惨事にはいたらなかったが、まさかの行動に教師陣の肝は冷えた。
「突然ですが、ヘンリカちゃんの常識クイズタ~イム! 家の中にゴキブリ! さてどうする?」
『銃で撃ち殺します』
 愁治の言葉に、ヘンリカが答える。
「買い物に行く際気をつけるコトは?」
『ブツを奪取されないように人目を避けます。怪しい人物は拘束し尋問します』
「家を出る際に確認することは?」
『各種防犯トラップです。中でも玄関の爆弾は一歩間違えると帰宅時に爆発するので、細心の注意を払います。』
「――はい、こんな奴ですがどうにかして下さい!」
 愁治は、血の涙を流していた。
 どんな日常生活が営まれているのか、あまり聞きたくはない。
「思ったより、大変そうですね」
 離戸 薫(aa0416)は、ヘンリカの珍回答に瞬きを繰り返すぐらいのことしかできない。
『銃は……いくらなんでも過激すぎです』
 文明レベルがほぼ一緒の異世界からやってきた美森 あやか(aa0416hero001)も薫と同意見であった。
「買い物に行く際は事前に欲しいもの、または必要なものをメモし、不必要なものを買うことを極力避けましょう。お店に行ってからどうしても欲しくなったものは、財布と相談というのが普通でしょうか?」
 楓はそんな一般的なことを教えながら、買い物カゴに可笑しな物体を放り込んだアルメイヤを捕まえた。
「アルメイヤさん、これはなんでしょうか?」
「エステルの成長を考えたカレーの材料だ」
 アルメイヤはきっぱりと言った。だが、カレーには絶対に入れはいけない高級ブルーチーズとアスリートの味方プロテインが、どのようにエステルと結びつきのかは分からなかった。
「チーズはカルシウムで骨を丈夫にし、プロテインは筋肉を作る。エステルの体の成長には必要なものばかりだ」
 知識としては正しいが、カレーに入れるものとしては間違っている。
 R.I.P.はそれを見ながら「アルメイヤ様は、エステルさんのことをとっても考えているんですね」とほのぼのしていた。魅霊はエステルを見ながらも、若干ではあるがスパイスコーナーに後ろ髪がひかれていた。カレーをルーから作りたいが、残念ながらそれは今日の趣旨に反する。
「このメンバーなら、ルーは甘口か?」
 カゲリが、レトルトのルーとご飯を持ってきた。
 そんな一同から少し離れたところで、直房がスマホをいじっていた。どうやら、未だにネット通販をオススメしたいらいし。
「ネット通販は、まず品揃えが圧倒的に豊富です。即日配達してくれるところも結構ありますし、一定金額以上をまとめて買えば送料も無料です。スマホやPCの操作が不安な方は、この機会に覚えましょう。2時間みっちり教えて、今なら5千クレジットで構いません」
 いや、違う。
 ご近所の主婦相手に、小遣い稼ぎをしようとしている。
「って。おめー目を離したら何を勝手にポチってんのレイキさんよー。買うのはカレーの材料だっつんてんだろうが、何で初物の松茸とかカートに入れてんの。頭おかしいの!?」
 しかも、本日おとどけの速達便か!
 いつの間にか直房の携帯は、レイキにとられてしまっていたらしい。
『美味しそうだった、カレーに入れよう? キノコカレーは、カロリー控えめで美味しいよね』
 レイキの手には、スーパーで配られている無料のチラシ~美味しいキノコカレーの作り方~が握られていた。

●一般常識講習~調理編~
「まずは基本。包丁の持ち方と野菜の切り方」
クマちゃんがプリントされたエプロンで、愁治が生徒たちに調理道具の使用方法を伝授する。だが、初っ端から生徒達の包丁の握り方は物騒だ。自分の手を切りそうというか……敵を刺して止めを刺しそうというか。
「……なまじ戦闘とかで刃物使ってるとその癖出ちゃうから。料理には、料理の刃物の流儀ってのがあるんだよ~。そこ、疎かにしたら戦いでも勝てないでしょ? 料理も同じだよ」
 愁治は、がんばってフォローした。
 後ろで、ヘンリカがまな板を一刀両断しているも見ないことにした。
『包丁は片手で持って、もう片方の手で野菜を押さえるんだよ。ほら、にゃん子の手だよ』
 こんなふうに詩乃が、慣れない包丁に戸惑っている生徒を指導する。
 包丁を両手で持っていたアルメイヤも「なるほど」と、素直に片手持ちに切り変えた。一方で、ぽりぽりと生野菜を食べていたのはギシャであった。先ほど買ってきたお菓子を摘んでいたら喉が渇いたために、生野菜で水分の補給をしたかったのであろう。
「電気やガスがない所で育ったからねー。こういうのが当たり前にあることが一般常識と言われても困るかなー」
 ニンジン美味しい、とつまみ食いを繰り返すギシャの隣では、どらごんが真剣な目をしていた。彼の視線の先には、自身の手が。その手は、あまり細かい作業向きではない。どらごんは、ふっと息を吐いた。
 人には向き不向きがあるのである。
 どらごんは、それを十分に知っている。
 だから、デリバリーにしよう。
 彼は、そう誓った。
 魅霊は他の生徒たちとは違い、手早く野菜を切っていた。旅館の手伝いをしていることもあって、魅霊は料理が得意だ。生徒役としていることが、少し申し訳なく思えてしまうぐらいには得意だ。
『にゃん子の手……』
 魅霊は、ちらっとアルメイヤの様子を見た。よかった、ニンジンのみじん切りにはいたっていない。だが、次の瞬間アルメイヤはニンジンに爪をたてて押さえつけた。
「アルメイヤ様。それはにゃん子はにゃん子でも、威嚇するときのほうのにゃん子ですよね……」
 ニンジンには、アルメイヤの爪跡がくっきり。
「ニンジンの皮って、どこまでなの?」
 杏樹はピーラーでニンジンの皮を剥きながら、首をかしげる。何処まで剥いてもニンジンは赤くて、どこからが食べられる部分なのかわからない。いつのまにかニンジンはすっかりなくなってしまった。
『皆さん、お嬢様のようにピーラーは使いすぎてはいけませんよ。食べる部分がなくなってしまいます』
 榊は、生徒全員にアドバイスをしたが残念ながらピーラーで皮むきという文明的なことをしていたのは、杏樹だけのようであった。生徒のほぼ全員が、皮をむかずに切っている。
『……ワイルドだな』
 思わず素の口調が出てしまう榊であった。
「皆さん、ご飯も炊いてくださいね。電気釜を使えば、あっという間に美味しいご飯が炊けますから」
 嘉久也が、やってみてくださいと声をかける。
『一番楽そうだよね。あたしがやる』
 レイキが手を上げて、ご飯係となった。彼女は人数分の米を計り、水を入れて、そのまま電気釜へと投入した。
「……洗ってませんよね」
 嘉久也は、思わずツッコんだ。
『テレビで洗わなくてもいいお米があるって見たよ』
「これは無洗米じゃありません」
 洗ってください、と嘉久也はレイキに指示を出す。
「次は玉ねぎを炒めようか。炒める時は丁寧に。野菜がこぼれないように。赤ん坊を触るくらいのつもりでいいんだよ」
 飴色になるまで炒めるんだぜ、と愁治は指示を出す。その隣ではカゲリが、レトルトのルーを温めにためにお湯を沸かしていた。一般常識があるが家事が壊滅的なカゲリは、冒険を犯さない。最も安全な王道――もといレトルトの道を行く。
『ガスコンロは周りに燃える物がないか確認し……』
 榊の隣で、杏樹が目を輝かせていた。
「コンロ、初めて触ったの。かちっで、ぼーで、すごいの、魔法です」
「あー、マシュマロ焼きたいね」
 ギシャの言葉に、杏樹は頷く。
 ここはキャンプ場ではない。
『コラ。火で遊んだら、おねしょするよ。ちゃんと、玉ねぎを炒めて』
 詩乃の指導に、杏樹とギシャもさすがに大人しくなる。
 これならば、なんとか事故もなくカレーが出来上がるかもしれない。誰もが、そう思ったそのとき。
 がっしゃーん。
 雷が落ちたのかと思うほどの大きな音が聞こえた。
「くっ、20人の敵に囲まれた時ですら、これほど恐ろしいと感じたことはありませんでした……!」
 音の発生原因は、ヘンリカと電子レンジであった。
 一体何をどうしたのか、電子レンジは黒い煙を吐いている。ちなみに電子レンジからでていたものは、黒い物体X。いったい、温められる前はどんなものであったのかは分からない。
「なっ……何を入れたんでしょうか?」
 電子レンジが爆発することに驚いた楓が、目を丸くしていた。
『あれは武器の一種なのだな』
 とアルメイヤが納得しそうになり、魅霊が必死で食品を温める機械であることを説明する。カゲリはご飯を温めるのに電子レンジを使うのをあきらめて、ルーを入れていた鍋にご飯のパックも一緒に投入した。
「電子レンジって、すごいのね。やってみたい……」
『お嬢様、電子レンジは爆発する玩具ではないのです』
 杏樹から見れば楽しそうでも、榊から見れば弁償が発生してしまう事故だ。
『事故はあったけど、あとはカレーを煮込むだけよね』
 隠し味になにを入れようか、とレイキは調味料が入っている棚を漁りだす。
『初心者は隠し味をいれないほうがいいよ。大抵は、それが失敗のなんだよ』
 詩乃の言葉に、楓はくすりと笑う。
 楓も最初の頃はより美味しくしようとして、痛い目を見てきたからだ。
『カレールーだけでも、十分に美味しく仕上がるものだぞ』
 ナラカも頷くが、杏樹はぼそりと呟いた。
「……チョコいれたいの」
『後はルーを入れるだけですから、大丈夫そうですよね』
「そうですね。ここまで、長かった……」
 嘉久也は、思わず遠い目をする。
 今日は本当につかれたが、それももうすぐ終わる。トラブルは多々あったが、ここでカレーが黒い物体Xに進化するなんてことはないであろう。
「ルーをいれるよ」
 ギシャが、鍋のなかに人数分のカレールーを入れていく。
 後はルーが溶ければ、完成だ。

●いただきまーす
 レイキは、電子釜を開けた。ほっこり炊けた白いご飯の湯気が、なんとも言えない幸福観をもたらす。カレーを盛りつければ、カレーライスの出来あがり。
 ――いただきます。
 全員が手を合わせた。
「おいしいですね」
 R.I.P.が、微笑む。
 たしかに、絶品というほどではないが普通にカレーである。
 講師役の人間達は、そろってほっとしていた。途中でいくつものアクシデントはあったが、なんとかカレーというアンサーにはたどり着けたようである。
「短剣とか異世界とのことがひととおり終わったみたいだけど、これからどうするのー?」
 ギシャはカレーをもぐもぐと食べながら、エステルに訪ねる。
「まだ……ちゃんとは決めていません。今は、アルメイヤと一緒に生活する事を考えて行きたいです」
 エステルは、しっかりとしていた。
 故に、リンカーである自分がこれからのことを考えなければ分かっていた。
 カゲリは、アルメイヤを上手く導けないエステルに何か言おうと考えていたが止める。エステルとアルメイヤは互いに対しての責任を持っているし、相棒の為にも時には諭したり手を差し出すことも必要だ。そう諭すつもりだったのだが、少なくともエステルは分かっている。だが、自分ではできないから講習会というものを頼ったのであろう。
「これが――エステルの分かりにくい優しさか」
『隠し味と同じか』
 ナラカが、カレーを食べながらにやりと笑っていた。
 魅霊は、カレーを食べながら本日のことをメモしたノートをアルメイヤに手渡す。魅霊が見た限り、アルメイヤは結果を急ぎすぎて過程が疎かになってしまうタイプである。だから、今日の事を思いだせるようにノートを作ったのだ。
「アルメイヤ様、よかったら使ってください。それと……まずは手順を教えて、それを順番にこなすところから始めるのがいいのだと思います」
 アルメイヤはノートを受け取り、それをパラパラとめくった。そして、若干不安げに魅霊を見る。おそらく、アルメイヤはこんなときにどんな顔をすれば良いのか分からないのだろう。
「……すまない」
『よかったら、今度一緒に……』
 魅霊の言葉は、薫の疑問に遮られた。
「あれ? 誰か、エリンギを入れたんでしょうか? 」
 薫が、カレースプーン片手に首をかしげる。
『たしかに、独特の食感がしますね』
 と、あやかも首をかしげた。
「誰か、キノコを買ってたか?」
『俺は見てないぞ』
 凱と智美もそろって首をかしげた。
 だが、買い物では誰一人としてエリンギを購入していなかったような気がする。
『荷物が届いていたようだぞ』
 デリバリーのカレーを買いに行っていたどらごんが、どこかで見たようなダンボールを持ってきた。それは直房がネットショッピングで、レイキに松茸を買わされたスーパーのダンボールであった。
「まさか……」
 直房は、嫌な予感がしてレイキの方を見た。
 レイキは、胸を張って答える。
『松茸は、ちゃんとあたしがカレーに入れたよ』
 その日、杏樹以外の全員が「もったいない!」と悲鳴を上げたという。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    R.I.P.aa1456hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 悪事を知悉る(しる)男
    高橋 直房aa4286
    人間|43才|男性|命中
  • エージェント
    レイキaa4286hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • エージェント
    天宮 愁治aa4355
    獣人|25才|男性|命中
  • エージェント
    ヘンリカ・アネリーゼaa4355hero001
    英雄|29才|女性|カオ
前に戻る
ページトップへ戻る