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かき氷案募集中!

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/04 18:42

掲示板

オープニング

●人が足りない
「あぁ、困った困った……」
 彼女は困っていた。
 誰に言うでもなく困っていた。
 彼女の職業は雑誌編集者である。
 いや正確に言えば兼雑誌編集者である。
 より正確に言うならばなんでもやると(自称)評判のリンカーである。
「どうしよう、期限はもう無いし……」
 ちらりとカレンダーを見れば、数日後にでかでかと赤丸がついている。
 何を隠そう、彼女はこの赤丸日までにとある記事を仕上げなければならないのだ。
 そのタイトルは、『リンカーが食べたい!特大かき氷!!』。
 超人的肉体を持つリンカーならば何を食べても大丈夫だろうし、せっかくならネタ作りにとゲテモノ系も集めてみたはいいものの。
「あー……あー……」
 肝心の作る人間が集まらないのだ。
 ネタはある。それはもう豊富にある。シロップだって買いあさってきた。だがいかんせん人が。作る人も食べる人もいない。
「こうなったら自分で作るしか……」
 いや待てよ。こんなことが前にもあったはずだ。あれは確か。
「そうだ!」
 彼女はひらめいた。
「これを依頼として出せばいいんだ!」

●急募!
 大急ぎで用意した依頼書が無事に受理されたのを確認し、彼女は胸を撫で下ろす。
「よし、これで後は待つばかり!」

 ●【急募】かき氷案募集中!●
 貴方の思う最強のかき氷を教えてください!
 最強と最強が集まればきっともう世界最高のかき氷のはず!
 夏の機会にぜひどうぞ!
 ・年齢:不問
 ・性別:不問
 ・適性:不問

 種類豊富なトッピング・シロップをご用意してご参加お待ちしております!

●という表向き理由がありまして
 彼女はひっそりとコーナーを作成していた。
 その名も『闇かき氷』。
 好きなシロップ、好きなトッピング、もしくはネタになるトッピングを持ち寄って、それを食べたらどうなるのか。
 美味しいかき氷が出来るのか。
 それとも。
「協力してもらえますように~……!」
 彼女は祈りながら、その日を待つのであった。

解説

●目的(表)
自分の思う最強のかき氷を作り、完食する。

●目的(裏)
彼女からお願いされる闇かき氷作りに協力し、完食する。

●場所
都内から少し離れた所にある一軒家。
叫び声をあげても近くに民家は無いので安心。

●補足
【自分の思う最強のかき氷】をプレイングに書いていただければと思います。
また、闇かき氷作りにご協力頂ける場合は【闇かき氷に入れるもの】もプレイングに書いていただきたく思います。
ただし、目的(裏)はあくまで(裏)です。
目的(表)が達成された後に発生するサブミッションのようなものだとお考え下さい。

リプレイ

●かき氷作り開始です!
 晴れ渡る空。白い雲。炎天下の屋外。誰もが外に出るのを嫌がるであろう夏の暑い日に、冷え冷えのかき氷作成会場には十六名の猛者達が集まっていた。何故猛者なのかは後ほど分かるとして、それぞれが挨拶を済ませて最強のかき氷作り開始だ。
「わ。いっぱいあるー!」
 目を輝かせてトッピングに悩むのは榛名 縁(aa1575)。どんな最強かき氷を作るかはまだ考えていないが、美味しいものを食べられるしと参加した彼。ウィンクルム(aa1575hero001)にもこれは依頼だからと釘を刺されているがーー。
「……あ!」
『お決まりですか』
 どうやら何を作るか決まったようで、ウィンクルムと共に榛名は調理台の方へと向かう。かき氷器をしっかり持っているのはウィンクルムで、氷を削るのは彼に任せたようだ。
 一方、オリヴィエや伊邪那美(aa0127hero001)に話しかけに行った白虎丸(aa0123hero001)とは別室で、早々に最強かき氷を決めた虎噛 千颯(aa0123)は闇かき氷に着手していた。かき氷の下に茶色のねばねばを潜ませ、あとはアレを掛けて友人に差し出せば。
「ふっふっふ……」
 反応を想像して笑みを零す虎噛。彼の餌食予定もとい標的にされている友人、ガルー・A・A(aa0076hero001)はというと。
『メインが砕いた氷というシンプルさ故に、かき氷には無限の可能性があるんだ。つまり……』
 と紫 征四郎(aa0076)に話している最中だったがーー唐突な悪寒に身震いした。会場が冷えているからだろうか。いやしかし。思わず言葉を止めた所で「早く作り始めるのですよ!」と紫に背中を押され、首を傾げつつもトッピング選びにかかる。
 木霊・C・リュカ(aa0068)やオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)も既に最強かき氷を決め、作成に取り掛かっていた。木霊は赤ワインをオレンジジュースで割ったサングリアを凍らせ、オリヴィエはフルーツ缶を開けて果物とシロップをそれぞれ分けている。木霊は楽しそうに、オリヴィエはいつも通りの表情でてきぱきと調理を進めて行く。
『日和、そのアイスピックは……?』
 己の能力者が持つ鋭い物体に疑問を抱くのはライン・ブルーローゼン(aa1453hero001)。問われた能力者、散夏 日和(aa1453)はアイスピックを構えたままふわりと微笑み。
「こう……がりがりっと削るのでしょう?」
 一度やってみたかったと言って嬉しそうにしている散夏。見た目はお嬢様の彼女だが、行動はとてもアクティブだ。
『恐らくそれは使わない、と思う……すまない』
 そっとかき氷器を差し出すラインに散夏はあらあらと微笑してアイスピックを幻想蝶の中にしまう。その様子を見てラインの狼耳が僅かにぺたんとなったが、幸か不幸かかき氷にわくわくしているお嬢様は気づかなかったようだ。
 皆から少し離れた調理台で作成している御神 恭也(aa0127)は、なんだか嫌な予感がしていた。主に友人達の作る闇かき氷に。ちなみに隣の伊邪那美は、食べられなければ恭也に食べて貰えば良いかなと考えているので、それも彼の嫌な予感に当てはまっているのかもしれない。手の掛かる妹のような英雄と共に彼は今日を生き延びられるのだろうか。
 なお、ダシュク バッツバウンド(aa0044)のように闇かき氷に全力を尽くす者もいるということを忘れてはならない。匂いや色の為、彼は虎噛とはまた別の部屋で闇かき氷作成中だ。綺麗な方の最強かき氷作りを任されたアータル ディリングスター(aa0044hero001)はイチゴを煮詰める鍋の前で待機中。ダシュクはかき氷なんてシロップをかけてしまえばいいと言っていたが、アータルは細部まで拘ったかき氷を作るつもりだ。奥深い故に拘らなければ意味が無いのだから。
『かき氷……氷の菓子か』
 珍しそうに言うファラン・ステラ(aa4220hero001)に、かき氷器を抱えて運ぶ波月 ラルフ(aa4220)は「ファランも知ってんのか」と少し驚く。自身の英雄ではあるが、まだ踏み込めない・踏み込まない部分も多くある為だ。
『私の世界にもあったが、私が食べられるようなものではなかったぞ。食べられるのは金持ち位だ』
「……ま、冷凍技術もなければ、氷なんて一部の特権階級しか食わないだろうな」
 だからこそ。夏の風物詩たるかき氷を、この危なっかしい英雄に堪能させたいのだ。

●お披露目です!
 完成した最強かき氷、完成してしまった闇かき氷がそれぞれの机の上に並べられる。闇かき氷にはドライアイス入りの箱が被せられており中身が見えないだけに、余計に怖い。しかしお楽しみは後に取っておいて、まずは安全なはずの最強かき氷から。
「俺はシンプルにレモンのグラニータだ」
 波月の机の上にあるかき氷はシチリア産のかき氷。レモンのシロップを凍らせてから砕いたもので、かき氷よりは滑らかな口当たりになるのが特徴だ。
 彼の隣に座るファランの最強かき氷はメロンの器に入ったメロンかき氷。かき氷を食べたことが無い彼女は、食べてみたい物を入れたらどうだという波月のアドバイスに従ってみたのだ。ふわふわの氷、ピューレにしたメロン果実、以前食べた綿飴。星や月の形をしたメロン。それから、中身の無くなったメロンの皮を器にして、完成。
「綿飴……前に祭りで買ったが、気に入ったのか?」
 どこかからかうように話しかける波月に、ファランはうるさいとだけ答える。波月も気にせず、くくっと笑うのみ。
『俺はこれだ』
 ダシュクに任され、自身の思う『最強のいちごかき氷』を作成したアータル。ふわふわの氷の上に掛けられたのはイチゴの果肉が残ったシロップだ。食感もしっかりあるから、普通のかき氷とはまた違う一品。
『お好みで練乳もかけるといい』
『……練乳』
 ずいっと差し出されたチューブを見て、木霊と共に試食に来ていたオリヴィエがそっと目を逸らす。何か思い当たることがあったようだが、今はまだ誰も気づかない。
「俺はこれだな」
 御神が出したのは果物がふんだんに使われたかき氷。果汁100%、果物そのものを絞って凍らせた果汁氷を削り、トッピングには氷と同じ果物を。
『……なんか、地味だね』
「俺は見た目には拘らん。今まで融けると味が薄くなる事に不満を感じていたが、これなら溶けても薄まる事は無い」
 見た目に唸る伊邪那美と、味が良ければ全て良しな御神。そう言う伊邪那美は何を作ったのかと促され、彼女が出した一品はこちら。
『どう? 一つのカキ氷で七種類の味が楽しめるでしょ』
 ふふん、と得意げに言う伊邪那美の前には色とりどりのシロップが掛けられたかき氷が鎮座している。何より大きい。そして色のせいか迫力がある。が、しかし。
「……言いにくいんだが一般的に売られているシロップは着色料と香料が違うだけで味は一緒だぞ」
『うそ……でしょ?』
 驚愕する伊邪那美は周囲を見渡すが、御神と同じくガルーも首を横に振る。
『まぁあれはあれで美味いんだけどな』
 そう言うガルーはシロップを自作するスイーツ系男子で。
「うちのかき氷はだいたいガルーの手作りシロップですね」
 いろいろ試せないけれど美味しいと紫が言う彼のかき氷は――ミントのシロップにチョコソースをかけた、チョコミントのかき氷。
『今日はアルコール抜いたシロップ持ってきたぜ』
 本来ならお酒を使った大人のかき氷が好みのガルーだが、今回はお酒抜き。子供でも食べられるようにという配慮だ。
「征四郎の最強かき氷はカルプスの『しろくま』なのです」
 紫の最強かき氷は、練乳の代わりに皆大好きカルプス原液を掛け、果物を沢山あしらった一品だ。
「ペンギンのデコ白玉を乗せるの、ガルーがたまに作ってくれるのですよっ」
 ふふ、と嬉しそうに笑う紫。その様子を感じて同じく微笑む木霊の作った最強かき氷は。
「甘酸っぱくて後味さっぱりなのがお兄さん大好きなんだよね」
 凍らせておいたサングリアを削り、ミックスフルーツを混ぜてガラス容器に盛り付け。出来上がったのは赤が鮮やかなかき氷だ。別の容器には氷に掛けて楽しめるようにと用意された梅酒シロップと梅シロップがあり。
「甘さが足りなかったら缶々の蜜を最後にちょっとかければ完成だよ!」
 と、ミックスフルーツの缶を示す木霊。中には甘いシロップが残されており、ガルーと同じく子供への配慮が窺える。
 そんな木霊と共にかき氷を作ったオリヴィエの作品は、果物のシャーベットとミックスフルーツのシロップを凍らせて作ったかき氷。色味が混ざらないように果物を盛る位置を分け、くっきり綺麗に仕上げられている。甘くなりすぎないようにシロップは控えめで、みぞれシロップとカルピス原液が掛けられるように用意されている。
『……果物の、シャーベットは食べやすかった、から』
 いつもと変わらないように見える表情に、ほんの微かに嬉しさが混じる。これが木霊に教わって出来上がったオリヴィエの最強かき氷だ。
「これが俺ちゃんの考えた最強のかき氷だぜ!」
 ばばんと机の上に出された虎噛の最強かき氷。ふわふわの氷に蜜柑と白桃をたっぷり散らして甘いシロップを掛けて出来上がった一品だ。がしかし。 
『……無難に逃げたでござるな……』
 虎噛に厳しい白虎丸がぼそりと呟く。だが、誰だって美味しい物が食べたい。この後に控えているものを考えると余計に。
「そういう白虎ちゃんのはどうなの!」
『俺の最強のかき氷はこれでござる! このかき氷こそ最強の組み合わせでござるよ!』
 渾身のドヤ顔を決めつつ最強かき氷を机に出す白虎丸。白と緑のコントラストが鮮やかで、頂点には小倉餡、追加で白玉も有りますが。
「白虎ちゃん……それは俗に宇治金時と言います」
 相棒の虎噛がぽつり。天然な白虎丸は自分が考えたんだと首を傾げるが、
「いえ、すでに商品化してます」
『してるね』
 虎噛だけでなく伊邪那美にも頷かれ、しょんぼりの白虎丸である。最強への道はなかなかに険しい。
 次に出されたのは榛名とウィンクルムで作った最強かき氷だ。かき氷の横には賽の目に着られた牛乳寒天と砂糖のみの寒天が散らされ、上からは金と銀のアラザンが。シロップは練乳のみというシンプルイズベスト。
「他のトッピングとの相性も良さそうだから、食べるひとが好きなの乗せることでそのひとにとっての最強になるかも? って思って」
 ほわっと微笑む榛名の言葉に隣に立つウィンクルムが頷く。自分自身の最強だけではなく、誰かの最強にもなれるようにと作られた彼ららしい品だ。
 そして。
「トリは私ですわね。ライン!」
 微笑み佇む散夏が英雄の名前を呼んで軽く手を打ち鳴らすと、ラインが散夏の作成した最強かき氷を持ってやってきた。乗せられた数々のフルーツ。光を反射してきらきら輝くそれらは、見ただけで高級品だと分かる。
「アプリコット、マンゴー、メロン、葡萄にチェリー。季節のフルーツ目白押しです!」
 ブルーハワイのシロップが掛けられて爽やかさも増したかき氷。確かに色々な意味で(主に金額的意味合いで)最強である。なお、このフルーツ諸々が入っていたのはラインの幻想蝶である。アイスピックも入っていたがフルーツも盛りだくさんだったようで、さすがのラインも口を開こうとするが……。
『君の役に立っているならいい』
 楽しそうな散夏を見たからか、そう言って再び口を閉ざした。
「ラインは何を作りましたの?」
 散夏の横に並べられたラインの最強かき氷は……真っ白だ。
『僕は……最強ではないから。すまない、思い付かなくて』
 真っ白な氷に砂糖を溶かしたシロップを掛けた、みぞれと呼ばれるかき氷。榛名達とはまた違う意味でシンプルなかき氷を見て、散夏はふふっと笑う。
「成程、貴方らしくて宜しいんではなくて。でもそれでは寂しいですし……」
 取り出したのはビンに入った赤色の花。きらきら輝くそれは薔薇の砂糖漬けだ。ラインの作ったみぞれのかき氷の上に花をいくつか散らして、白に赤が映える。
「うん! これでいいですわね!」
『……流石日和だな』
 満足気な散夏に感心するライン。以上14点が最強かき氷である。ちなみにダシュクの作成した最恐かき氷という名の闇かき氷はもう少し後でのお披露目の為、ここでは割愛。
 さて、実食だ!

●いざ、実食です!
 各々に試食用小皿やスプーンが配られ、溶けないようにドライアイス備え付けの箱も用意され、会話しながらの実食が始まった。
『……美味しい』
 自身の作ったメロンかき氷を食しながらほわっと、周囲から見れば分からない程度に微笑むファラン。そんな彼女の元に、小皿とスプーンを携えた榛名とウィンクルムがやって来た。
「一口下さいな♪」
 ファランが食べているのとは別に用意されたメロンかき氷を示して言う榛名。少しだけ言葉を選んだファランだが、『好きにしろ』という言葉と共に榛名の方へ試食用メロンかき氷を差し出す。それに感謝を述べ、いただきますと言ってからウィンクルムも榛名もぱくり。
「わ、すっごく美味しい!」
『これは何ですか?』
『……綿飴だ』
 ほわほわ喜ぶ榛名と、食感と味に驚きつつも指差すウィンクルム。そしてそれに答えるファラン。警戒心が強い為か一匹狼の雰囲気もあるファランに対し、榛名は動じることなく「もう一口!」とお願いして見せる。何しろ美味しい物が食べられるからと参加した榛名だ。出来ればもう一口。もう一口だけ食べたいとにじみ出る感情。
『お願い出来ますか?』
 榛名の様子に苦笑しつつ、ウィンクルムはファランに許可を願う。ファランもファランで、自身の作った物を手放しで美味しいと言われるのはそこまで嫌な気持ちでは無い。
『そちらのかき氷と交換なら』
 そう言う彼女に榛名もウィンクルムも勿論と約束をして、二口目突入だ。彼女の様子を横目でそれとなく見ていた波月の元には、スイーツ系男子であるガルーやオリヴィエ。甘酸っぱいさっぱり物好きな木霊と興味津々な紫がやってきていた。
『これどうやって作るんだ?』
「あぁ、それはな……」
 早速一口食べてレシピ談義に花を咲かせるガルーと波月。彼らの横でオリヴィエはガルーが作成したチョコミントのかき氷をしゃりしゃりと食べ、木霊には紫がカルプスしろくまかき氷を「あーん」付きで渡している。オリヴィエの作った果物シャーベットかき氷はレシピ談義を終えたガルーが食べ、梅酒シロップの掛かった木霊のかき氷は紫が食べる。
「頭がきーんってするのです!」
 お返しにと木霊が差し出したかき氷を食べて、年相応にはしゃぐ紫。その様子を今はカメラマンである依頼人が陰に隠れてこっそり激写しているが、どうやら気づかれなかったようである。
『すごい……』
 豪華なフルーツたっぷりかき氷を見上げ、伊邪那美がぽつり。彼女からは見上げる位置に存在するマンゴーがとてもきらきらして見える。
「ふふ。宜しければどうぞ?」
 見上げたままで首を痛めそうな伊邪那美に散夏は一口ずつ果物を取り分け、ブルーハワイの部分も小皿に入れて手渡す。溢れ出そうな果物をもぐもぐ食べて、ぱぁっと顔を輝かせる伊邪那美。ラインも散夏に見えない位置でこっそりもぐもぐしている。中々食べられない代物なのだから、こういう時に食べておかなければ。
『う……』
 食べ過ぎてキーンとしてしまうのはお約束として。

「恭也ちゃんもこういうのやるって何だかやっぱり高校生な感じがして安心するわ~」
 御神作成果汁100%かき氷を食しつつ、うんうんと頷く虎噛。言われた御神も虎噛の蜜柑と白桃かき氷を食べながらなかなか大変だったと応じる。
『伊邪那美殿の最強はどんなのでござるか?』
 しょんぼりから復活した白虎丸が戻ってきた伊邪那美に声を掛けると、伊邪那美はそっと七色かき氷を前に出す。
『見た目、綺麗だから!』
『そうでござるな、綺麗でござる!』
 互いに互いのかき氷を食べ、美味しいに決まっている、とか、シロップだし間違いはない、など会話をしつつ、完食。
「白虎ちゃん、俺ちゃんのかき氷も食べていいぜ……」
「伊邪那美も食べるか?」
 英雄の肩にぽんと手を置き、自身のかき氷を差し出す能力者達であった。依頼人、思わずぱしゃり。

 最強のいちごかき氷を作ったアータルの元には、様々なかき氷を求めて歩き回る散夏と波月の姿がある。
「ふわふわですわね」
「果肉も残ってるし、水っぽくなくていいな」
『あぁ。丁寧にじっくり煮込んだからな』
 得意げに言うアータルは散夏や波月のかき氷を食べて少し嬉しそうだ。インスピレーションが湧いた!とラインを呼んで別のかき氷を作成に向かう散夏を見送り、波月は別の小皿をアータルに渡す。
「俺の英雄の分にな」
『……なるほど』
 かくして小皿には一人分のかき氷が盛られ、それは座っているファランの元へ届けられる。タイミングよく、約束通りに自身の最強かき氷を持ってきた榛名やウィンクルムも加えて四人で榛名達のかき氷を実食。
『不思議な食感だ』
 寒天を味わうファランにウィンクルムが、混ぜて食べて見て下さいとアドバイス。そのまま食べてもいいが、かき氷に混ぜて食べて二度楽しめる。
「あ、あんこと抹茶ソフト乗せてみよかな」
 途中までかき氷を食べた榛名がふと声をあげ、冷蔵庫から抹茶のアイスと餡子を取り出す。
『では私も同じものを』
 すっと手を挙げたウィンクルム。俺もと言う波月に尋ねられ、折角だからと頷いたファランにも。かき氷の上に抹茶と餡子を乗せて、再びぱくり。
「わ、これ凄く合う!」
『ええ。美味しいですね』
「日本の味って感じだな」
『……美味しい』
 ほっこりとかき氷を楽しむ四人。しかしそうこうしている間に日も落ちてきて、さすがに冷えてきた。
「ホットミルク用意してこよっか」
 榛名の言葉に賛成して台所に向かうと、同じように温まるものをと考えた御神と伊邪那美の姿があった。
「体が冷えてはいけないからな」
 どこか遠くを見つめる御神。そう、忘れてはならない。今日のかき氷は、これで終わりではないのだ。

●最後のお仕事です!
「頑張りました!」
 ふーと汗を拭う依頼人。そう、彼女はずっと頑張っていたのだ。何しろ闇かき氷。参加者には伝わっていなかったかもしれなくて申し訳ないという気持ちも少しはあるが、何しろ闇かき氷。つまり、彼女的に。
「これが、闇かき氷です」
 闇かき氷に入れてくれ、もしくはこれが闇かき氷だと提出されたもの。
 全て、混ぜてみました!

 シロップは、単体でかけるとほんのり甘さがあると提出された甘酒。変なのを掛けてもと気遣った練乳。たっぷりのカルプスに冷製コンポタージュ。酢醤油で酸っぱさも持ち合わせつつ、イカスミと先ほど体を温めたホットミルクが提供されている。氷は牛乳氷に変更されていて、トッピングはあの種・フルーツのシロップ漬け・頂点に君臨する蟹や天麩羅。さらにはブルーベリーや餡子、中には納豆――そして。
 それら全てを覆い隠す、麻婆豆腐である。この為だけに闇かき氷を作成していたダシュク。崩れにくい豆腐に豆板醤、更にはハバネロも加えて辛さ増し増し。赤いというよりは赤黒いというか、色んな物が合わさってなんだかすごいものになっている。氷が溶けないようにちゃんと冷えているので、辛さは多少抑えられている……かもしれないのが優しさといえば優しさだろうか。


 なおダシュクの作成していた様子だが。
「ただのマーボーじゃあつまんねーよな」
 そう言いながらも楽しそうにぶっかけています。これを自分が食べるということを知っていながらの行動。さすがである。さすがであるが……参加者のほとんどがどうしようこれという顔で闇かき氷を見つめている。依頼人はうきうき顔でかき氷を人数分取り分けている。食べねば終わらない。でも最初の犠牲者はちょっと困る。
 その後、公正なじゃんけんの結果――榛名がスプーンを握った。
「……いただきます」
 出来るだけ安全そうな部分を掬い、一口。そして口元を押さえる。
「……うっ……なに、こ、れ……」
 色々な味が混ざっている。甘い、酸っぱい、辛い、甘い、そして凄まじい匂い。
「これ……完食、しなきゃ、だめ……?」
 既に涙目の榛名を見て、深呼吸をするウィンクルム。
「……ウィン?」
『私にお任せ下さい』
 忠義の為ならば、これくらいは。息を止め、なるべく咀嚼をせずに喉奥に流し込む。
「だ、だいじょぶ……?」
『貴方を護ることができたと思えば大した事では……』
 固い忠義心を持つウィンクルム。だがさすがの彼も麻婆豆腐がつかえたのか軽く咳き込んだ。
「帰ったら、めいっぱいおいしいごはん、作るね」
『楽しみにしていますよ』
 榛名ペア、どうにか完食。
「ああ、私もうお腹一杯ですの」
 自分に取り分けられた皿を見て、すっと横に流す散夏。流した先は勿論ラインだ。
「太っても困りますし、ライン、どうぞ?」
 これにはさすがに驚愕するライン。
『い、いや僕は君ほど大食いでも無いし、すまないが遠慮し……』
 開けたが最後。ラインの口の中にスプーンが入る。当然ながら持っているのは散夏である。ぴしっと固まったラインの口の中にどんどんとかき氷を詰めていき、散夏ペアも完食。
『恭也』
「判っている。如何にかしてこの場を潜り抜けるぞ」
 皿から目を背けて脱出を図る二人の肩をがっしりと掴む二つの手。
「大丈夫、すぐ回復出来る」
『伊邪那美殿、気合でござる』
 虎噛と白虎丸の微笑に内心ひきつる二人。逃げられない。多分どれだけのダメージを負ったとしても。やるしかーーない。
 覚悟を決めた二人から離れ、虎噛はガルーに手を振る。
『ん、なーにちーちゃん……』
 紫の入れた責任をと納豆を食べ進めていたガルーだが、顔を上げれば虎噛が差し出すかき氷が目の前に。
「ガルーちゃん、君にはこれを進呈しよう」
 コンデンスミルクが掛けられた、美味しそうなかき氷。これは口直しに最適だろう。
『征四郎殿……ガルー殿の勇姿をその目に刻むでござるよ……』
 首を傾げる紫。白虎丸に言われた通りガルーに目を向ければ、スプーンに救い上げられたかき氷に纏わりつく茶色の物体。
「あ……!」
 白に隠された茶色の物体の正体は、納豆。一度あることは二度ある。
『げっほ』
 ガルー、あえなく撃沈。しかし彼の様子を見て、今度は白虎丸が虎噛の肩を叩く。
『さぁ、千颯食べるでござるよ!』
「……見るからに臭いのと赤いんですけど……?」
 それもそのはず。かき氷に混ざっているのは潰された臭豆腐だし、その上にどこから入手したのか一番やばい辛さを誇るアレが掛けられている。
「臭っ! そして辛っ!」
 闇かき氷に比べれば材料はシンプルだがそれぞれがやばすぎて逆にやばい。超やばい。一口食べるや否や水を求めて走る虎噛を見つめ、あれが混ざらなくて本当に良かったと復活したガルーは思う。
 一方、早々に闇かき氷を完食してダシュクの様子を眺めるアータル。
「いただきます!! ……うん、辛い!!!」
『……お前は本当に馬鹿だな』
 唇をぷっくりと腫らし、それでも笑うこの相棒。軽蔑もすれば尊敬もする対象だが、今はどちらかと言うなら軽蔑側だ。
『仕方ないな、俺のを食べるか?』
 一口二口しか残っていない小皿を差し出せば、ダシュクは目を瞬かせる。
「い、いただきます。……う、うめぇ……!」
『……ダシュク、お前は本当に馬鹿だな』
 今度はしっかりと一音ずつ区切って言えば、二度も言うなとやさぐれるダシュクである。だがそんな彼の前にも闇かき氷がまだ残っていること、忘れてはならない。
「あはは……お兄さん困っちゃったな!」
『……』
 どうにか半分までは詰め込んだ木霊と同じく、お茶を飲みつつ半分まで平らげたオリヴィエの二人。溶けてくれれば流し込めるのかもしれないが、ぎりぎりまで冷やされていたせいかどうにも溶けだしてくれない。しかしここで救世主現る。
『貸してみろ』
 空になった皿を代わりに差し出し、オリヴィエの皿を取り上げる目の据わったガルー。納豆かき氷を食し、自身に課された闇かき氷も食し、紫の分も食し、ふらふらではあるが勢いのまま皿を上向けて喉に流し込む。ガルー、闇かき氷三皿分完食。さすがに木霊の分は無理だとギブアップし、紫とオリヴィエと木霊の三人でどうにか一皿完食。
 そして。
『皆で食べるからこういうのはいいかもしれんな』
 闇かき氷を軽々平らげたファランに天麩羅を追加で渡しつつ、「だな」と波月も頷く。
「かき氷、美味かったか?」
『………美味しかった。私の世界にはないものだったしな』
 普通のかき氷も、闇かき氷も。どうやら堪能してもらえたようで。
「そいつは良かった」
 波月はそう言って、皿を片付け始めるのだった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 復活の狼煙
    ダシュク バッツバウンドaa0044
    人間|27才|男性|攻撃
  • 復活の狼煙
    アータル ディリングスターaa0044hero001
    英雄|23才|男性|ドレ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • ブルームーン
    ライン・ブルーローゼンaa1453hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575
    人間|20才|男性|生命
  • エージェント
    ウィンクルムaa1575hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
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