本部

【幻島】暑いから夏島の川へ行こう!

紅玉

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/08/29 20:15

掲示板

オープニング

●幻島
 ロンドン支部長、キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は季節島をH.O.P.E.関係者の憩いの場と決めた。一般の観光客も受け入れるものの、これに関してはそれなりの監査を経ての許可制となる。
 ここはロンドンの大英図書館・館長室。
「世界中のセレブがオカンムリみたいねぇ。H.O.P.E.が季節島を独り占めしたって、話題独占中よ」
 ソファに座る英雄ヴォルフガング・ファウスト(az0056hero001)はなまめかしい指先で蒲萄の一粒を自らの口の中へ放り込む。
「人聞きが悪いですね。それらの方々も手続きさえ踏めば利用できますよ。……以前よりもチェックが厳しくなっているので大変だとは思いますが」
 デスクに着いているキュリスが手にした書類に目を通しながら、ヴォルフガングに答えた。
「キュリスって真面目そうなのに、中身は悪人なんだから」
「ファウスト、誤解されるような物言いはやめてもらえますか?」
「いいじゃない。蒲萄、食べる? おいしいわよ」
「後で頂きますので」
 俯き気味のキュリスが顔をあげるとヴォルフガングが愉快に笑う。そして館長室を立ち去っていく。ドアが閉まったとき、キュリスは小さくため息をついた。
「誰にでも休息は必要です。H.O.P.E.職員、リンカーのみなさんにも……」
 キュリスは振り返る。そして窓の外に広がる青空を眺めるのだった。

●暑い! ならば川に行けばいいじゃない!
 幻島の様々なツアーがずらりと並んでいる中。
「海、泳げない。山、登るのイヤ」
 弩 静華が眉間にしわを寄せる。
「そういえば、川でキャンプ出来る話があるけど……」
「川、釣り、水浴び、外で料理……悪くないね」
 圓 冥人の言葉を聞いた静華は頷く。
「そう言うと思って、暑いから川へ行こうツアーを企画しました」
「幻島に私も行ってみたかったですわ! 皆様と楽しく羽を伸ばしたいですわ~」
 オペレーターやモデル業で忙しいティリア・マーティスは行く気満々で声を上げる。
「でも、道具とかどうするのかな?」
「現地でレンタル可能ですよ」
 冥人の疑問をトリス・ファタ・モルガナが答える。
「ですから、着替えが入ったカバン1つでも良いのですわ♪」
 と、嬉しそうに話す彼らを見てアナタは、夏島の川のキャンプツアーに参加する事にした。

解説

●人物
圓 冥人
日本酒を持っていく様子。

弩 静華
釣り竿、モリを持って行って捕まえる気満々。

ティリア・マーティス
水着、浴衣等の衣類だけ持参。

トリス・ファタ・モルガナ
夏島の調査する。

●場所
夏島の川

●日時
途中で帰ることは可能です。
一泊出来ます。

●レンタル
釣竿、水着、ボート、キャンプの道具一式等が有料ですが現地で借りれます。

リプレイ

●夏への扉
「アル! ヒーローにもたまには休暇が必要だと思うんだ!」
 東雲 マコト(aa2412)は前触れもなく相棒にそう切り出す。
「……なんだマコト、薮から棒に」
 いきなり脈絡の無い事を言い出した相棒に、バーティン アルリオ(aa2412hero001)はやや呆れた顔でそう聞き返す。東雲はその眼前に幻島ツアーのチラシを差し出した。
「という訳で行くよ! いざ幻島一泊二日休暇!」

●夏島
「夏休みの最後の最後にやっと……遊びに来ることができました。任務と補習とか。普段以上に忙しかったですし」
 卸 蘿蔔(aa0405)は強い日差しから眩しげに目を覆い、感慨深げに呟く。
「大規模な戦いもあったしな……でも補習は自業自得だろう」
 一応同意しつつ、レオンハルト(aa0405hero001)は突っ込みを忘れない。とは言え久しぶりの行楽だ。浮かれるのも仕方ない。
 強い日差し。川面に照り返す銀鱗の輝き。岩に砕ける清流の飛沫。夏草の匂いを孕んだ暑気と、それを払う涼やかな風。夏の陽を鮮やかな緑の葉が遮り、映し出す濃い影の色は、夏だけが作り出すコントラスト――それがクリュリアの見せる幻だとしても、夏独特の高揚感は紛れもなく本物だ。
「綺麗な川ですね……でも川って、何をして遊ぶのでしょう? レオンは知ってます?」
 だが、アウトドアに不慣れな蘿蔔はその高揚感を持て余している様だ。川面を見つめ思案顔の相棒に、レオンハルトは悪戯心を起こす。
「そうだなぁ……それなりに深いところを見つけて、それなりに高い岩とかを見つけて」
 レオンハルトは辺りを見回し、お誂え向きの岩を見付けると蘿蔔の手を引いて誘導する。蘿蔔は特に疑いもせず従った。
「飛び降りる」
 言うと、レオンハルトは蘿蔔を川に着き落とした。
「……え?」
 きょとんとした声。それに続き、夏の空にキラキラと光る水柱が上がった。

●川遊び
「楽しんでいるみたいですわね」
 男性陣の目につかぬ様木陰で水着に着替え、板が多い面子にあって、なかなか目立つスタイルのティリア・マーティス(29)は、高く上がった飛沫を見て呟く。
「さぁー! 全力で遊ぶぞー!」
 その横を、さっさと水着になった東雲が走り抜け、勢いのまま水面へと飛び込む。ツアーは一泊二日。生き急ぐ様に遊ばねば損だ。
「おっと?」
 その水滴は、溺れる蘿蔔に手を差し伸べていたレオンハルトにまで飛んだ。
「あ、ごめんなさい!」
「……どうせ、レオンも濡れちゃいます」
 東雲の謝罪に、蘿蔔はそう呟き、差し出されたレオンハルトの手をグッと掴む。
「あっ?」
 蘿蔔はそのまま勢いを付けてレオンハルトの胸に飛び込む。濡れた身体。水を吸った服。ベチャリと音がして、レオンハルトの身体もズブ濡れになる。
「おあいこ……ですよね?」
 そう言って、蘿蔔は小さく笑った。

「我が女王が肌を傷めてはいけませんので、僭越ながら日焼け止めを提案致します」
 着替え終えたアルセイド(aa0784hero001)はルーシャン(aa0784)にそう提案する。王子様の提案に、ルーシャンはその場にちょこんと座り彼に背を向けた。チョコミント色のタンクトップフリルは露出の少ない方だが、アルセイドは丁寧に日焼け止めを塗る。
「ルーシャンちゃん、今日は思いっきり遊ぼうね! 水着も似合ってる!」
 丁度塗り終えた頃、猫井 透真(aa3525)が二人に声を掛けた。白雪 沙羅(aa3525hero001)共々、以前からの友人だ。
「アリスが日焼け止めも塗ってくれたから、思いっきり遊べるの♪」
「アルセイドさんも宜しくお願いしm……って、いつ見てもモデルみたいだよなー……」
 普段は下ろす髪を結い上げ、チノパンに七部袖のサマーニットにを羽織ったアルセイドの姿は、まるでファッション誌の表紙を切り取ったかの様だ。
「とーまとは偉い違いにゃ」
「俺みたいな小市民と比較するのも失礼だよ、沙羅……」
 沙羅のからかいに反論する気も起きない。とまれ、猫井はルーシャンを誘いに来たのだ。
「まずは川遊びしようか。川は流れもあるし、あまり深いところに行かないように注意しないとね」

「Arcardちゃんは、遊ばないのですか?」
 夏島に不似合いなフロックコート。その上物騒にもライフル等を携えたArcard Flawless(aa1024)に、トリス・ファタ・モルガナがそう尋ねる。
「Arcard……ちゃん?」
 聞き慣れる呼ばれ方に、Arcardは思わずトリスの顔を見返す。
「その格好、暑くありませんか?」
「アイリは涼しい場所を見付けるのが得意だからね。それに……愚神が人間の都合に合わせて餌場を選ぶと?」
 Arcardは取り合わない。
「相方の機嫌を損ねられては次の仕事に差し支えるんでね、監視しに来ただけのことだ」
 視線はトリスでなく、圓 冥人に向けられていた。敵意の視線。それを受け、冥人は苦笑いする。
「嫌われていますね」
「赤い狂犬はそういうヤツだからね。敵とみなした相手との間に出来た壁は、バベルの塔より高いよ」
 ティリアと共にBBQの設営をしつつ、冥人は小さく肩をすくめた。

「川に来たら釣るしかなかろう!」
 麻生 遊夜(aa0452)は釣り竿を構え、清流に向かって野獣の眼光を向けた。
「……ん、大物に期待」
 寄り添うユフォアリーヤ(aa0452hero001)は、そう言って黒ビキニの隙間から伸びた尻尾を振る。
「場所移動したり、ウキ釣り、ミャク釣り、ドブ釣りにルアーと色々試すのも良さそうだ。アユ、イワナにヤマメ、マスやら有名所も狙い目だが……ここは夏島だ、他にも面白いもんが釣れるかもしれん」
 古語に一生を楽しむなら釣りを覚えろと言う。遊夜のはしゃぎぶりを見ると、それも正しいのではないかと思えてくる。
「……ん、楽しそうだねぇ……あ、大きいのがいる」
 ユフォアリーヤはクスクス笑って川面を指し示す。彼女は釣りよりも、遊夜を見ている方が楽しい様だ。それに、釣りも初めてとなるとスムーズには行かない様である。
「ん、これは、釣り道具」
 そんな初心者の一人が、弩 静華。遊夜と同じように釣り竿を構えはしたが、慣れない道具の扱いに苦心している様だ。見かねた遊夜はレクチャーに乗り出す。
「弩さん、そこはな……」
「ん、そうなのか?」
「うわわ……ルアーが……」
 水に濡れた服をフラワービキニに着替えた蘿蔔も釣りに挑戦するが、ルアーを木に引っかけたりとやはり苦戦。遊夜はやはり見かね、そちらの面倒も見た。
「えっと……あ、ありがとうございます……」
 初対面というわけではないが、人見知りの蘿蔔はたどたどしく礼を言う。他の女性と絡む遊夜に、ユフォアリーヤは身を少し寄せた。
「とりあえずこんなとこか? あとは実践と行こうぜ」
「あ……はい」
「ん、助かった」
 遊夜に礼を言い、静華と蘿蔔は水面に針を落とす。それを見届け、遊夜は少し放れた木陰に移り、そこで竿を下ろしてのんびりとウキを眺めた。
「友釣りでアユを狙うのも良いが、五目釣りも楽しそうだな」
「……ん、のんびり」
 ユフォアリーヤはクスクスと笑う。
 同じ木陰には、元気に泳ぎ回る相棒とは反対に、ラジオを聞きながらのんびりと釣り糸を垂らすアルリオの姿もあった。
「こんなゆっくりと過ごすのも考えてみれば久しぶりかもな」
 エージェントは激務だ。時に日常が戦場と同義であり、悲劇は日課ですらある。だがやはり、日常とは穏やかな時間なのだ。
「がうっ!」
「ん、Iria、君?」
 と、静華の元にArcardの英雄Iria Hunter(aa1024hero001)が来訪する。Iriaは静華の袖を引き、手に持った竹槍を指差すと、次にそれを川面に向け、突き刺す動作を見せた。
「ん、勝負、と言う事?」
 静華の言葉にIriaはコクコクと頷く。静華も銛は持ってきている。ただ、泳げないのが難点だが……。
「む、負けない」
 勝負を挑まれて引く事は出来ない。静華は釣りを一時中断し、銛を手に取る。
「……おー!」
 Iriaは楽しそうな声を上げた。相棒と違い、川遊びを楽しむ気は満々だ。とは言えここは足も立たないし、釣りの邪魔になる――。

「では、勝負です」
「がう!」
 静華とIriaは浅瀬に移動し競争を開始した。
 同じ浅瀬ではルーシャンと猫井達が川遊び。アルセイドは籠に入れた果物を川に沈めた後BBQの仕度にまわった。
「お兄ちゃん、こう見えても背だけはあるから捕まっていいからね!」
 小さなルーシャンが深みにはまらない様、猫井は彼女に体を貸す。逆に危ない光景の様な気もするが、取り敢えず気にする者は居ない。
 それより、水色のワンピースに身を包む白雪は、水中の魚に興味がある様だ。水面に映る影を、バシャバシャと無心に叩いている。
「沙羅お姉ちゃん、お魚採ってるの? 私もやってみる……☆」
 それに興味を引かれたらしい。ルーシャンは猫井の元を放れ、水をパシャパシャと跳ねさせて白雪の元に駈け寄る。
「あっ!?」
 と、猫井が止める間もなく、ルーシャンは水中の魚影に突撃した。無造作な突撃は、しかし派手な水飛沫を上げ不発に終わる。
「うー……なかなか捕まらないの……BBQのおかずにできたらと思ってたのに……」
「よし、ルーシャン。沙羅姉さんが化け猫流の魚の採り方を教えてやるにゃ!」
 シュンとするルーシャンの姿に、白雪は猫としてか年上としての矜持か、胸を張ってそう宣言した。
「川魚は岩陰に隠れてるから、そーっと近づいて突くように採るにゃ!」
「うんわかった、沙羅お姉ちゃん♪」
「って、沙羅! 何吹き込んでるんだよ!! あああ。アルセイドさんうちの化け猫がすみません……」
 白雪と並んで水面を見つめるルーシャンを、猫井は慌ててそれを止める。しかし……。
「ダメなの、猫お兄ちゃん……?」
「うっ……」
 悲しげな視線が猫井を貫く。それに絶えられる程、彼の精神は強くない。
「ルーシャンちゃん、川魚は俺が採るからそんな悲しい顔しないでっっ!!」

「そんな狩り方が、あるとは」
 一方、Iriaと静華の対決は、Iria8匹、静華6匹という結果でIriaの勝利に終わる。ネビロスの操糸をクロスボウの矢に結んだ効率的な狩りと、静華が頑なに泳ぎを避けた事が勝敗を分けた。
「がうー!」
 短い髪と夏の素肌に水滴を弾かせ、Iriaは勝利の雄叫びを上げる。
「一つ、賢くなった」
 勝ったIriaを素直に賞賛し、静華は水から上がった。Iriaはそのまま浅瀬に残り、白雪達に混ざって狩りを続ける。静華は再び竿を取って釣りに挑む。
「えと、ちょっと……お久しぶりですね」
 その鈴鹿の元に、釣りに飽きたのか蘿蔔がふらふらと寄って来る。
「蘿蔔、君? 久しぶり、です」
「何か釣れましたか?」
「ん、余り。銛では、取ったが」
「そうですか、私は全然……」
 コミュ力の低い蘿蔔と静華だが、何とか会話を続ける。
「実は私の黒の猟兵から、バレンタインの時に戦ったちょこぉのような……猛獣が出るようになってしまって……困ってるの、です。あの従魔と何か関係あるのでしょうか?」
「それは、興味深い、です」
 何の話をしているのかと思えば、他愛のない世間話を交える取り留めの無い会話。だが、蘿蔔の以前からすれば格段の変化だろう。
「学校の勉強、難しいんですよ……補習になっちゃって」
「新しい、知識が、増えるのは、楽しい、ものですが」
「勉強好きな人って、よくそんな事言いますよね……」
 もっとも、相互理解が深まったかは定かでない。

「っとと、釣りって案外難しいな……」
 当たりに合わせて竿を上げたアルリオだったがが、タイミングが悪かったのか獲物はバレてしまった。
「失敗したな……どうしたらそんな釣れるんだ?」
 餌のない針を苦い顔で見つめ、アルリオは順調に釣果を上げる遊夜に聞く。
「そうだなあ、例えば……」
 が、アルリオの問いに答えようしたその時、遊夜の首にしなやかな腕が回される。
「……ん、獲れた」
 腕の主は、少し前浅瀬の方へ行ったユフォアリーヤ。そこでの銛突きにも飽きたのか、構ってと言うように、濡れた肢体を遊夜の背にのし掛ける。
「だぁ冷てぇ!」
 遊夜は思わず悲鳴を上げた。それでも竿は放さなかったが――退屈したユフォアリーヤは釣りを続けさせてくれそうにない。
「……ん、遊ぼう?」
 クスクスと笑うユフォアリーヤに遊夜は嘆息する。少し放っておき過ぎたかもしれない。釣果はもう充分だし、構ってやるべきだろう――。
「へいへい、お嬢様のお望みのままに」
「……ん!」
 嬉しそうに笑うユフォアリーヤを背にしたまま、遊夜は竿を放して立ち上がり、浅瀬の方へ歩いてゆく。
「……まあ、のんびりやるか」
 一部始終を見ていたアルリオは、嘆息し再び水面に針を投げる。緩やかな時間――だがその平穏も、全力泳法で川を下るマコトによって破壊された。
「うわわっ、ごめんなさーい!」
 滝登りをした後、その勢いのまま滝を下って来た様だ。凄まじ水泳の勢いに、水面はかき乱され魚影は四方へ散った。アルリオは、天を仰ぐ。
「いいさ……魚はまた戻ってくる」
 流しっぱなしのラジオから響く歌が、夏の終わりを奏でた。

「そういえば……私、アイス持ってて。えと、皆さん……よかったら、食べません、か?」
 皆が遊び疲れた頃、蘿蔔は思い出した様に町中商店街と書かれたタオルを取り出す。悪魔的冷気を孕むタオルの中には、キンキンに冷えたアイスが入っている。
 そう言われれば、皆少し遊び疲れた。休暇の中にも一時の休息が必要かもしれない。
「あー…」
 夏の気怠さ。遊夜は川面に浮き輪を浮かべ、揺蕩いながら皆が集まるざわめき聞く。ユフォアリーヤはその胸に頬を寄せた。
「……ん、楽しかったねぇ」
 夏の空気と二人の体温。肌に汗を浮く。喉が渇いた。きっと、アイスは美味いだろう。

●孤島のグルメ
「猫お兄ちゃんがご飯作ってくれたの?」
 猫井からBBQ肉を受け取り、ルーシャンは満面の笑みを浮かべる。甘く焦げた香りが、疲れた体に食欲をそそった。
「こう見えても俺、料理だけは得意だからね! コーンとか野菜もあるから。ルーシャンちゃんやアルセイドさんのお口に合うといいけど」
「わぁ、美味しそうなのvありがとう!」
「肉や野菜も良い焼き加減です。流石のお手並みですね猫井さん。白雪さん、お好きなものがあれば御取り致しましょう」
 猫井と共にBBQの準備をしたアルセイドは白雪に聞く。
「沙羅? こいつは何でも食べるから……」
「むぐー?」
 猫井の言葉通り、白雪は目の前の食材に無造作に噛み付いている。
「沙羅お姉ちゃん猫舌さん?ふーふーして冷ましてあげるの」
 そう言って、ルーシャンは焦げ目の付いたコーンを吹き冷ます。その光景に、アルセイド目を細めて柔らかく微笑む。
「読書に耽りがちだったルゥ様も、最近は外で積極的に遊ばれる事も多くなりました
御友人らのおかげですね……」

「うむ、そうそう…上手いぞ」
 持参した米を一生懸命研ぐIriaの頭を遊夜はポンポンと叩く。
「がう!」
 自身はIriaを横目に気遣いつつ、釣り上げた魚を焼く為の窯を作る。どうせ食べるなら美味く喰いたい。
「うー?」
 Iriaは試行錯誤。どうやら米と狩猟した食材で料理を作りたい様だが……。
「どうした? こう見えて料理には自信あるんだぜ?」
 その様子をみて、子供好きのアルリオがIriaに声を掛ける。厳つい外見も、英雄のIriaは恐れる様子を見せない。
「がうがう!」
 Iriaは竹槍と食材を手に示し、身振り手振り、やりたい事を知らせようとする。
「うむ、よく分からないが……竹か、面白いかも知れないな」

 一方、手早く釜を組上げた遊夜は、さっそく今日の釣果に串を入れ、火で炙った。
「アユは串焼き、これは譲れん」
「……ん、拘りだね」
 料理する遊夜を見ながら、ユフォアリーヤは焼き上がった魚をモグモグと食べる。鮎の串焼きだけではない。塩焼きはもちろん、イワナやニジマス、ヤマメの刺身も試してみたい。
「旨そうですね、遊夜さん……こいつが加われば、もっと旨くなると思いませんか?」
 と、その匂いに誘われたのか、冥人がふらりと現れる。手には酒瓶。鮎と日本酒。その組み合わせは魔力に等しい。
「酒かあ……なら、唐揚げもいいかな」
 と、蘿蔔のお守りをしていたレオンハルトが、その単語に反応した。
「ふむ、酒か……」
 酒精に引かれ、つい足がそちらに向かう。だが、静白がその袖を引く。人見知りの蘿蔔に、酒盛りはハードルが高い。
「私、お酒飲めないし……」
「そうだな……でも、俺は飲みたい」
 そう言うと、レオンハルトは袖を掴む蘿蔔の手を引き寄せ、抱き上げる様に腕を腰に回した。
「あっ……?」
「飲めなくても、楽しむ事は出来るだろう?」

 遊夜達が焼き魚で飲み始めた頃、猫井達のBBQにも酒が投入される。
「アルセイドさん、カクテル作って下さるんですか?」
「ええ、リクエストがあれば、どうぞ」
「俺、そういうの馴染みないんでお任せで……」
「私も何でも飲むにゃ!」
「では……」
 猫井達の言葉を受け、アルセイドは各々にカクテルを作る。猫井に「サマー・デ・ライト」白雪には「プシーキャット」。そしてルーシャンには、魔法の時間「シンデレラ」。
「アリスのカクテル、果物いっぱいで綺麗……♪」
 川で冷やしておいた果物を飾り付けたトロピカルなカクテルは、ルーシャンのお気に召した様だ。
「何て言うか大人の味ですね。俺もこういうのが似合う大人になりたい……」
「とーまはお茶がお似合いにゃ」
 猫井は感心した様子で呟き、即座に白雪から突っ込まれた。尚、三人に渡されたカクテルは何れもノン・アルコールである。

「よし、上手く炊きあがったな」
「おー!」
 Iriaと共に調理を続けていたアルリオは、窯の中から黒く焼けた竹筒を取り出し、予め空けて置いた切り込みから節の中を開く。
 ふわっ、と、竹の風味と、少し焦げた米の香ばしい匂いが広がる。竹筒の中身は、Iriaがとった食材を米と一緒に蒸したもの。単純な料理だが、清々しい竹の香りと、直火で炊いた米の味は、料亭の御膳にも劣らない。
「美味しそう……」
 途中から側に張り付いていた東雲も、その匂いについ指を咥える。これなら、酒を飲めない蘿蔔等の面々にも悦んで貰えるだろう。そう考え、アルリオ達とIriaは手分けして皆に配る。
「がう!」
 Iriaが真っ先に向かうのは、当然Arcard。相変わらずの完全武装だが、相棒が嬉しそうに持ってきた竹筒は素直に受け取った。
「いい香りだ……ありがとうアイリ」

●夏の星座
「星がすごいな。こんなに沢山の星見たの子供の頃以来かも」
 食事を終え、緩やかな時間を迎えた夜。猫井達は夏島の小高い丘に登り、星を眺めていた。都会の光に犯されぬ夜空は、普段は見えぬ小さな星を天球に映す。
「ここはお星様がとっても綺麗で、夜の中にいると星に包まれてるみたい……」
 ルーシャンは星座盤を片手に、アルセイドと星を探す。
「夏の星座は……ルーシャンちゃん、あそこに天の川が見えるだろ? あの上の方にあるのが織姫星で、下の方にあるのが彦星……」
 猫井もそれに倣い、星が形作る神話の姿を追う。だが、長い時間ではない。夜空を見上げるルーシャンの瞳はゆっくりと瞼に覆われ、想いは夜空から夢に移る。
「……って、寝ちゃったみたいだね。今日はいっぱい遊んだから疲れたかな」
「このまま、起こさぬ様テントへお運びします」
 小さな体を抱き上げ、アルセイドは小声で猫井に伝える。猫井は小さく頷いた。アルセイドは小さく返礼し丘を降りる。
 猫井は、ふと白雪を見た。やはりというかこちらも早々に寝息を立てている。
「むにゃ……もう食べられないにゃ」
「沙羅も、そんなとこで寝てると風邪引くぞ」

●花火
 一方の面子は、夕食から花火大会に移行していた。
「~♪」
「危ねぇぞ、気をつけろよー?」
「ユフォアリーヤちゃん、花火を振り回してはいけませんよ」
 両手に持った花火をぶんぶんと振り回すユフォアリーヤに、トリスと遊夜から教育的指導が入った。近くでは、Iriaや蘿蔔も花火の美しさを楽しんでいるが、東雲の姿は見えない。
「こんなところでどうしたマコト、柄にもなく星空なんて見つめちまって」
 皆から少し離れた場所で、一人空を見上げる相棒にアルリオは声を掛ける。
「……いやーちょっと考え事、柄にもなくね。あの時アルに出会えなかったら……アルの言葉がなかったらこうした今がなく、もっと暗い人生を送っていたのかなって」
「……マコト。どんなにありがたい言葉も届く人間にしか届かねんだよ」
 何時になく感傷的な東雲に、アルリオは言葉を費やす。
「名言一つで人生変わるなら世の中ハッピーライフだ、ビューティフルワールドだ。けどな言葉にそこまでの力はない。それを受け取った人間に力があるかだ。今があるのは誰でもないお前の力で勝ち取った今なんだよ……さぁ、こんなところで腐ってないで皆の所に戻るぞ、花火だ花火やりたかったんだろ?」
「……うん!」
 感傷を払う様に元気よく応え、東雲は花火をしている河原の方に駆けた。そして花火を振り回し――。
「必殺!花火六刀流! 秘技!線香花火巨大火玉!」
「東雲ちゃんも、花火を振り回してはいけません」
 やはり、トリスの教育的指導を受ける。

●夏宵
「……暑い」
「……ん」
 ユフォアリーヤに枕にされ、魘される遊夜の呻きが聞こえる。
「暑いな……」
 Iriaを抱いて寝るArcardも、同じ様に蒸し暑い。些か不本意な休暇だった。信頼の置けぬ小僧と一緒では……しかし。
「えぅ?」
 IriaがArcardの顔を見る。
「楽しかったかい?」
「あい!」
「ああ、それなら良かった」
 ArcardはIriaを抱え込む様に抱きしめた。高い体温――寝苦しさは一層増す。

●夏の終わりに
 後日、東雲の撮った写真がツアーのメンバーに送付される。
 少しだけ懐かしい景色。蘿蔔は届けられた写真を眺め、小さな感傷と共に呟いた。
「今年の夏休みは……色々大変だったけど、充実してた気がしますね。最後に遊べましたし」
「補習がなかったらどっか連れていったんだけどね……」
 永久の夏島――それでも、夏は過ぎ去ってゆく。


担当:白田熊手

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 希望の守り人
    ルーシャンaa0784
    人間|7才|女性|生命
  • 絶望を越えた絆
    アルセイドaa0784hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • 赤い瞳のハンター
    Iria Hunteraa1024hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412
    人間|19才|女性|回避
  • ヒーロー魂
    バーティン アルリオaa2412hero001
    英雄|26才|男性|ドレ
  • エージェント
    猫井 透真aa3525
    人間|20才|男性|命中
  • エージェント
    白雪 沙羅aa3525hero001
    英雄|12才|女性|ソフィ
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