本部

【幻島】夕焼けクルージングプラン

時鳥

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/08/30 18:35

みんなの思い出もっと見る

掲示板

オープニング

●夕焼けクルージングプラン
 世界中のセレブの御用達だった季節島。
 先日のセラエノとの騒ぎの末、H.O.P.E.本部が買い取り、H.O.P.E.関係者の憩いの場として新たなる道を歩もうとしていた。
 季節島は幻で出来た四つの島。一つ一つが春、夏、秋、冬、と季節をそれぞれいつでも楽しめるようになっている。

 春島。満開の桜が島中を覆い、舞い散る淡い桃色の花弁は歌い踊っているよう。ふんわりと暖かさを感じる気候はまるで天国。
 夏島。島の一角で新緑が青々しく己を主張し、海と砂浜、輝く太陽と力強く燦燦と降り注ぐ太陽。
 秋島。赤、黄色、と紅葉に埋め尽くされ甘い熟した果実の香りが漂ってくる。
 冬島。白銀の雪に覆われた幻想的な世界。

 その島々を囲む美しい海を赤く夕日が照らし出す中、ゆっくりと客船で巡る。
 静かなさざ波が耳に心地よく、潮風が身体を優しく撫でていく。
 そんなロマンティックなプランを体験してみませんか?

●プラン内容
 夏島からスタートし、秋島、冬島、春島と巡って夏島に帰ってくるルートとなります。
 ほんのり空が赤みがかった頃、夏島から幻影の鯨が客船に乗る皆様をお見送り。
 秋島では夕日に照らされた紅葉と秋の味覚の香りが楽しめます。
 冬島は白銀の世界が赤く染まり、ダイヤモンドダストが輝き舞う。
 春島では満開の桜と暖かい気候が出迎えてくれる。
 夏島に戻る頃、殆ど日が沈みかけている中、幻影のイルカ達が皆様の帰りを迎えてくれます。

 船の室内では気温を夏島に近い温度に設定している為、夏島から水着などでのご搭乗も可能です。
 デッキなど外の部分は各島の気候の影響を受けます。寒さ対策としてコートなどの貸し出しを行っています。
 飲み物が一人一つ無料サービスされます。カウンターへお声かけの上、事前に渡されるチケットをお渡しください。

解説

●目的
 夕焼けの中、季節島の島々を巡るクルージングを楽しむ

●ルート
 夏島→秋島→冬島→春島→夏島

●客船
 白い三階建ての外輪船。
 一階にカウンターやおみやげ、軽食を販売しているところがある。殆どが室内となっている。
 一階の少ないデッキ部分にはベンチがいくつか置いてある。
 二階は半分が室内、半分がデッキ。二階デッキには二人掛けのテーブルと椅子がいくつか設置されている。
 三階部分は全てデッキになっており、360度見渡すことが出来る。

●無料サービス
 ドリンクが一人一つ、事前に渡されたチケットと交換でカウンターで受け取れる。
「ペアセットで」
 と頼むと二本が絡みハートに象られたストローの刺さった大きめな丸いグラスに入って出てくる。チケット一枚、一人でも交換可能。

リプレイ


 僅かに空に赤色が混じり始めた頃、白い外輪船が出港の汽笛を鳴らし夏島の海岸をゆっくりと後にする。
「お船! おっきい! すっごいですねぇ!」
「はしゃぎすぎて落ちるなよ……」
 紫の長い髪とワンピースを潮風に靡かせはしゃいで船の縁から身を乗り出す紫 征四郎(aa0076)にガルー・A・A(aa0076hero001)は注意を促す。征四郎は麦わら帽子を手で抑えガルーを振り返った。征四郎の腕と足には包帯が巻かれている。
 征四郎もガルーもクルーズというのは初めての体験で、平静を装っているガルーも内心はそわそわとしていた。
「ふふーふ、いいね! 何かセレブになったみたい」
「セレブはこんな早くに船酔いしない」
 征四郎の隣で船の縁に凭れ掛かっている木霊・C・リュカ(aa0068)が呟くとオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が呆れて突っ込んだ。
 強い光に弱いリュカはサングラスをかけ、日焼け止めもしっかりと塗っている。酔い止めも船が出る前に飲んだものの効いてくるまでまだ時間があるようだった。
 リュカの虚弱体質にオリヴィエは相変わらず難儀な体質だな、と改めて思う。共鳴しなければ世界を見ることのできないリュカの為に手にしているビデオカメラを回す。
「お兄さんも後で見たいから綺麗に撮っておいてね!」
 と、準備をしている時にリュカに言われたからだ。
「鯨さんが見えましたよ! 潮を吹いてる!」
 そんなオリヴィエを引き戻したのは大はしゃぎしている征四郎の声だった。顔を上げれば夏島の近くに大きな鯨の背があった。背中のてっぺんから噴きだした潮が空中に煌めき虹まで姿を見せた。
 征四郎はリュカが見えなくても一緒に楽しめるよう音や雰囲気を一つ一つ順次説明していく。
「行ってきまーす!」
 彼らと同じ右舷の縁に身を任せラフな夏服を着た男性が二人。榛名 縁(aa1575)とウィンクルム(aa1575hero001)だ。縁は鯨に大きく手を振っていた。鯨への挨拶が終わると縁はウィンクルムに声を掛け船内の探索に出かける。
 更にもう一組、鯨に手を振っているのは月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)だった。鯨と共に夏島が遠くなっていくと手を下ろし由利菜は感慨深そうに島を見つめる。
「……あそこに行けば、いつでも常夏の島を満喫できるんですね」
「だが島から離れれば今年の夏は僅かだ。存分に楽しむといい」
 ぽつり、と由利菜が呟くと隣に佇むリーヴスラシルが一つ頷いて見せる。二人は残り少ない夏を楽しもうとしていた。由利菜が徐々に見えてくる秋島に視線を移す。
「一年中季節が決まった島……不思議ですね」
「オーパーツには未だ多くの謎が眠っているな……」
 オーパーツ『クリュリア』の力で四つの季節に彩られた島々に二人は思いを馳せた。

 一階のカウンターで、緊張した面持ちの水着にTシャツ姿の九動 レン(aa0174)と平然としてワンピースを風に靡かせているユーリヤ・メギストス(aa0174hero001)がチケットで飲み物を引き換えていた。
 カップルとかデートっぽいことを体験してみたい、と思っていたレンはペアセットを頼んでみたかった。しかし結局恥ずかしくて頼むことは出来ず、別々に注文する。
 レンはオレンジジュース、ユーリヤは白い乳酸菌飲料を頼んだ。この世の中でその乳酸菌飲料ほど美味しい飲み物は無い、とユーリヤは思っている。
「それ、美味しいー?」
 一階のベンチに腰掛けドリンクを味わっているとレンはユーリアの顔を横から覗き込んで問いかける。もちろん、と頷くユーリア。
「じゃあ、ちょっとちょうだい」
「ダメ」
 おねだりするレンにユーリアはぴしゃり、と即答した。
「ちょっとくらい……」
「それは間接キスになるから!」
 もう一度頼み込もうとするレンにユーリアは更に理由をつけて断る。しゅん、としょげるレン。
 ユーリアはそんなレンをスルーし立ち上がる。おやつ用にあんぱんを買いに行こうと思ったのだ。ちなみにユーリアは粒餡派であり、「あんぱんを初めて食べた時は、和洋の高度な融合に感動したよ」とは彼女談。
 レンも立ち上がり慌ててそんなユーリアの後を追った。
 カウンターで飲み物を引き換えていたのは彼等だけではない。リュカとガルーが二人、ペアセットを引き換えた。
「ぴゃああ!! そそそそれはあの、リュカ、ハート……!?」
 リュカが持ってきたドリンクを目にして征四郎が驚いてわたわたとしている。
「せっかくだからペアのにしてみたけど、せーちゃん一緒に飲んでみる?」
 征四郎の動揺が声から伝わってきたリュカはからかい混じりに誘ってみた。
「は、はいっ」
 咄嗟に返事をしてから更に傍から見ても動揺がすさまじく両手をわたわたとする征四郎。結局照れながらもリュカと一緒にストローを咥える。夕日以上に征四郎の頬が赤く染まっていた。
(顔が熱い。こればかりは、リュカに見られる心配がなくて、よかったのです……)
 征四郎は顔を赤くしながらもそんなことを思う。
 ビデオカメラを回していたオリヴィエの前にガルーはことん、とペアセット特有の丸いグラスを置く。からかってやろう、という魂胆だった。
 が、しかし、二本刺さったストローの片側をペキペキと容赦なく折り曲げ、自分だけストローに口をつけてジュースを頂くオリヴィエの行動は鬼の所業と言ってもいいだろう。
「えっちょっと取り上げるのは酷くない? ねぇ」
 ガルーが抗議の声を上げるも、スルーするオリヴィエ。からかおうとしたのが運の尽きというやつか。それでも一口ぐらいは頂こうと隙を探してオリヴィエをじっと見つめるガルーだった。

 船の最上階。ベンチに腰掛け餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)はそれぞれ脇にチケットで交換したトロピカルドリンクを置いてのんびりと過ごしていた。眼前に広がり青から紫、そして赤が侵食していく空を眺めている。赤く染まり始めた雲は緩やかに流れていた。
「あー、極楽、天に昇っちゃうね」
 と、百薬は零す。
「普段から飛んでる天使じゃなかったのかい」
 すかさず望月が突っ込んだ。こんなやり取りは二人の日常だ。
「うわー見晴らし良いねえ」
 望月と百薬が寛いでいる三階へ、縁達が階段を上ってきた。
「美しい四季の景観が臨めそうですね」
「ね! 楽しみだねえ」
「お兄さんたちこんにちは」
 楽し気にやり取りをしている縁達に望月が声を掛ける。こんにちは、と縁が清涼感のある笑顔で手を軽く振って答えた。
「先客が結構いますね。見晴らしがいいからでしょうか」
 次いで階段を上ってきた迫間 央(aa1445)が四人の姿を認めて軽く頭を下げた。その後ろをマイヤ サーア(aa1445hero001)が上ってくる。白いウェディングドレスが夕日に反射し僅かに赤みがかったように見え、幻想的だ。
「迫間君もきてたんだ。二人?」
「マイヤと息抜きに来たんですよ」
 知り合いの顔を認めた望月が央に問いかけると後ろに居るマイヤに視線を向けて央は答えた。央は望月が座るベンチに寄り、近くにいた縁達と自己紹介や挨拶を交わす。
 そこへ更にもう一組が姿を現した。レンとユーリアだ。ユーリアは大量のあんぱんを抱え、先客達の顔を一巡した後、
「お近づきの印にあんぱん食べる?」
 と、全員にあんぱんを配り始めた。デート気分でいたレンは少し動揺を見せる。
「わぁ、ありがとう。丁度自己紹介してたんだよ」
 あんぱんを受け取りながら縁がユーリアとレンに笑いかける。「そちらは?」という央の問いかけに二人も混じって自己紹介を始めた。


 紅葉に彩られた秋島に差し掛かると甘い熟した果物の匂いも船へと届いてくる。
 事前にガイドブックやパンフレットで仕入れていた情報でユーリアに島の説明をするレン。当のユーリアは「一体どういう仕組の幻なんだろう」「収益はどれぐらいなんだろう」ということにしか関心が向いていない為、生返事を返している。
 その様子を見て色々と察した縁はレンの肩を軽く叩いて「頑張ってね」と声援を送っておく。びっくりして動揺するレン。笑いながらあんぱんのお礼をし縁達は三階デッキを後にする。央もそれで気が付き同じようにマイヤと共にデッキを後にした。
 ちなみに望月と百薬は豪華客船の映画のワンシーンを再現したい、と船首へと向かっていた。
 三階デッキに取り残されるレンとユーリア。二人きり、目の前には色鮮やかな紅葉と赤い空が広がっている。肌寒さを感じたレンは急いでコートを借りに行き、雰囲気を出すようにそっとユーリヤの肩に掛ける。
「ありがとう」
 すぐに気がついたユーリアはレンに振り返り素直に礼を口にした。嬉しくなって少しはにかむレン。
「季節って何気なく過ぎてくけど、こうして見せられると美しいものだねー」
「人間って不思議だね。ただの自然現象なのに、色々な感情を抱くんだから」
 と、カップルらしさ、を考えながらレンは言ったもののユーリアは思ったことを率直に返す。ただ、目の前の光景は綺麗だった。

「一足先に秋が来た……そんな表現がぴったりだな」
「採取できるなら、フルーツパフェを作るのに持っていこうかな……?」
 果実の香りに、これからの季節に、思いを馳せるリーヴスラシルと由利菜。由利菜の作るフルーツパフェは美味しいだろう。二人はフルーツのジュースをチケットと交換していた。
 そこへ豪華客船のワンシーンを船首でハタハタ服をはためかせ堪能し終えた望月と百薬が由利菜達を見つける。
「由利菜ちゃんラシルちゃんとはいつも厳しい戦場ばかりでこういう場でのんびりの雰囲気って滅多にないもんね」
「そうだな、だから息抜きだ」
 リーヴスラシルが望月の言葉に頷く。リーヴスラシルが由利菜に視線を向けると彼女も微笑んで首を縦に揺らした。その様子を見て望月は「相変わらず仲良いよね」と思う。
 秋島の間中四人は仲良く会話を続けた。

「先日の花火も見事でしたがこちらもまた美しいものです」
「それにすっごく甘くていい匂い、する」
 デッキを下りながらウィンクルムが広がる紅葉に視線を向け感慨深そうに呟く。鼻腔を擽る香りに刺激されお腹が鳴る縁。貰ったあんぱんもあるが此処は食事タイムにしよう、と一階まで下りてきた。縁が軽食を、ウィンクルムがドリンクを引き換えて二階のテーブル席で合流、という流れだったが……。
「ウィンーこっちこっち……ええっ!?」
 ウィンクルムが持ってきたペアセットのグラスを見て心底驚く縁。ウィンクルムは不思議そうに首を傾ける。
「……? どうかなさいましたか?」
「……いや。なんで、それ、なの」
 と、縁が説明を求めると、カウンターで「ペア」と聞こえたので頷いたらこれを渡されたらしい、ということをウィンクルムは話した。そこでウィンクルムは縁の反応がおかしく、もしや失敗をしたのか、と謝る。
 くすっと笑いを零してなんてことない、という風に持ってきた軽食をテーブルに置いて食事を縁は促した。食事は温かく秋特有の食材に彩られとても美味しそうだ。
 そんな軽食を食べ終えた後、二人はペアセットに挑戦してみる。二人で双方に伸びたストローを口に咥える。
「お、思ってた以上に恥ずかし……」
 一口飲んでみるものの顔が真っ赤になる縁。幸運なことに二階には誰もいない。
「申し訳ございません……あの。同時に飲まなければ良いのでは」
 ウィンクルムが提案した内容に縁はハッとした顔をする。
「そ、それだ!」
 と、叫んで交互に回し飲みを始めた。ストローがハート形なのは変わらないが二人で飲むよりはずっと恥ずかしくない。
 同じように秋の香りに誘われてリュカも軽食を取れる場所へ移動していた。
「スイートポテトとか栗のパフェとか無いかな!」
 リュカの言葉を聞いて征四郎がメニューを確認する。もちろん、甘いスイーツは何種類も用意されていた。
 オリヴィエ、ガルーも含めて秋の味覚スイーツをわいわいと堪能する。
 ちなみに征四郎の分の支払いはリュカが喜んで払ったがガルーは自腹だった。
「可愛いマドモアゼル専用の対応ですぅー」
 と言われ取り付く島もない。もちろんオリヴィエがどうこうしてくれるはずもなかった。

 船はゆったりと秋島を通り過ぎていく。そんな秋島を見送りながら甲板で並んで立つ央とマイヤ。
「俺達がH.O.P.E.に登録してから、そろそろ1年か……」
「エージェントとしての央の始まりね」
 感慨深く過去に想いを馳せる二人。央は改めてマイヤに向き直った。
「……いつも一緒に居てくれてありがとうな」
「前にも言ったじゃない。央が1人の時に愚神に襲われたら何も出来ないわ。私は愚神を殺す機会を失うし、央が死んでしまったら……私も消えるだけ……央にはそんな終わり方、してほしくないもの。私は、愚神退治の為のガジェットでいいのよ」
「……俺は、マイヤにも幸せであって欲しい……かな」
 央の純粋な気持ちを乗せた言葉に少し間を空けてからマイヤは悪戯な笑みを浮かべた。
「じゃあ、央が彼女と喧嘩別れしたとしたら、私と一緒になる?」
「……気の長い話だな。そうなったら、頼んでもいいのかな?」
「そうならなくても……一緒に居るもの。それが私達の誓約でしょう?」
 悪戯に問いかけた台詞に央は真剣に答えた。改めて自分たちの契約を思い出しマイヤは央の口元を見つめる。どうしても、視線は合わせられなかった。
「けど、あの娘達は、私が居てもいいと言ってくれたわ。だから央は二重人格の彼女と私、3人まとめて幸せにしてほしいの。してくれるかしら?」
「……やれるだけやってみる」
 目を閉じて脳裏にかあの娘達の顔を思い浮かべ、気持ちを確認するように央に問いかけるマイヤ。強く、央は頷いた。
「して貰わないと困るわよ?」
 小さく口元に笑みを浮かべてマイヤは目を開けた。


 冬島は夕日に白い雪とダイヤモンドダストが反射し別世界のような美しさを放っていた。
 夕日を受け煌く細氷に言葉も無く見とれる縁。寒風にぶるっとするとウィンクルムが自分のコートを縁に掛けた。
「ありがと。でもウィン、寒くない?」
「私は貴方の傍にいるだけで充分暖かいので」
 ウィンクルムの言葉に少し呆れ顔をしてくすり、と縁は笑う。
「それじゃあ遠慮なく、借ります」
 そんな会話をしている彼らと同じ右舷にいた由利菜もまた冬島の光景に目を輝かせている。地元静岡ではあまり雪が降らなかった為、珍しいのだ。リーヴスラシルもその光景を見つめるが、ミッドガルドで雪が降っていたか記憶ははっきりしない。冬の景色にリーヴスラシルが由利菜の誕生日が12月6日なのを思い出す。
「……私には、誕生日の記憶はない。仮に知っていたとしても、星の周期や月日の数も……年代も違う。この世界の暦に換算するのは容易ではない」
「ラシル……それって、ちょっと寂しい?」
「心配は無用だ。それにユリナとの契約日なら、この世界に降り立った記念日として相応しい」
 由利菜が問いかけるとふっ、と柔らかく笑みを浮かべ、彼女と出会ったあの日に想いを馳せた。
 一方、望月と百薬は薄着のままデッキでいつまでコートを借りないで居られるかチャレンジをしていた。冬の涼しい気持ちを味わいたい、その気持ちは分かるが、涼しいを通り越して寒い。
「夏の暑さも必要よね、かき氷が美味しいし」
 あまりの寒さに百薬がそんな悟りきったことを言った。
 そして、その寒さ、気温差に耐えられずリュカは体調を崩してしまった。ガルーを呼んで室内に運んで貰う。
「お兄さんは繊細なの!」
 まったく、と言いたげなガルーにリュカはぷんすこするも付き添って背中擦ってくれる征四郎にすぐに大丈夫だよ。と声を掛ける。
「大丈夫なら良いのですよ」
 その一言に笑顔が零れるリュカ。ほっ、として自然と微笑む征四郎。どんな時でも、隣に居られるのが嬉しい。と征四郎はリュカを見つめながら思った。

 冬の寒さ故か誰もいなくなっている三階デッキへ普段着のままオリヴィエは上がってきた。一度依頼で訪れた冬島。あの時は吹雪いてたしヘリから飛び降りるわで景色を見るどころでは無かった。少し荘厳ささへ感じさせる光景に見入る。
 ただ静かな波の音が冷たい空間に響く。
 じっと冬島を見つめていると唐突に首にマフラーが巻かれた。暖かさにもふっ、と首を竦める。誰が巻いたのか、オリヴィエには分かっていた。
「なに見てんの」
 大人しくマフラーを巻かれたオリヴィエの横にコートを着た格好で並びながらガルーも冬島へと視線を向ける。
「……ああ、あれか。ダイヤモンドダスト、珍しい現象だからな」
 様々な条件が重ならなければ見ることが難しい現象だと、ガルーのあまり浪漫の無い語り口に渋い顔を返すオリヴィエ。
「……ん、これはわかる、‘綺麗’だ」
 けれども、やはり瞳に映る光景は綺麗で、オリヴィエは素直にそのことを認める。
「綺麗っていうのがあんまりわかんないけど」
 と、更にオリヴィエの顔を渋くさせそうなことを言いながらガルーはオリヴィエの瞳を見つめる。白が染まる夕焼けの赤金は、リーヴィの目の色にも少し似ている。と、ふと思ったから。

 冬島が徐々に遠ざかる頃、並んで立つ二人の元にリュカと征四郎が合流する。体調も回復したようだ。冬島でも記念写真を撮ろう、と、征四郎がカメラを構える。何回か交代で全員が映るように撮る。秋島でも同じようにカメラに思い出を閉じ込めた。これから向かう春島でも撮るだろう。ビデオとカメラで出来うる限りの思い出を、後でリュカが見れるように、と。幻は写真の中でもはっきりと映っている。

 桜色が一面に広がる春島。
「わ、満開だねえ」
「桜よりも菓子に夢中な様ですね」
 と、花見をしながら縁は団子を頬張る。その様子をウィンクルムが的確に表現した。
「お花見ながら食べるとおいしさ倍増なの」
 もぐもぐと団子を食べながら言い切る縁に、ウィンクルムも「では私も」と団子を食べ始めた。
「なんだか眠くなってくるねえ……」
「そうですね……ユカリ?」
 食べ終わると温暖な気候に瞼が重くなる。縁はウィンクルムの肩に凭れ掛かり小さく寝息を立て始めた。それにぽかん、とするも少ししてウィンクルムは暖かな眼差しで縁の寝顔を見つめていた。
 一方、リーヴスラシルとの契約日が7月31日だったのだが、大規模作戦の多忙でプレゼントを渡せなかったことが心残りだった由利菜はシューズ「韋駄天」を持ってきていた。
「プレゼント、契約日に渡せなくて……ごめんなさい」
「気にするな、ユリナは大規模作戦で余裕がなかったはずだ。それに私は見返りを求めて、ユリナとの契約日を記念日としたわけではないぞ」
 差し出されたシューズを見て首を横に揺らすリーヴスラシル。
「ラシルの気持ちは分かるけど……この靴、受け取って。学校での教習や、今後の実戦で役に立つと思うから」
「……全く、主に言われたら断れないな」
 由利菜に再度そのように言われると手を伸ばしシューズを受け取る。その表情からは喜びが滲み出ていた。
 その頃、カウンターに姿を見せたマイヤと央。
「……何か飲みましょうか」
 マイヤはチケットを手にしカウンターでペアセットを注文した。軽く狼狽える央。
「私ともそういう関係でいてくれるんしょう? 付き合いなさいな」
 さらり、とマイヤは言い切り、2階のデッキのテーブルに二人で座る。
「……ねぇ、前に春島で私達が見た幻影。あの女性は……」
 春島を眺めながらマイヤはぽつ、っと切り出した。
「うん、昔の……な」
「少し……私に似てたわね」
「そうだな……でも、マイヤは優しいから。あいつは俺の為に自分を殺すなんて絶対しないよ」
 幻島奪還の依頼で訪れ、その時のことを思い出しながらぽつぽつと二人は話す。
「私が……央と巡り合う為にこの世界に来たのだとしたら、今の私のこの姿は央が望んだ物なんじゃないかって……今は思うようになったわ」
「容姿?服装?」
「……どっちもよ」
 言いたいことを言い終えるとマイヤは艶っぽく笑いながらすっと姿を消す。いつもの場所、幻想蝶の中に戻ったのだった。


 春島を過ぎた頃、日が傾き星も僅かに顔を見せ始めている。
「えっとね、風景も綺麗だけど、ユーリヤも綺麗だよ」
 二人で並んで過ぎていく島を眺めながら頑張ってレンはそう切り出した。
「大丈夫……? 熱でもあるの……?」
 レンの額に手を当て体調を確認するユーリヤ。その反応にレンはがくっと肩を落とした。その二人の斜め後方のベンチ。
「そろそろ到着ですよ」
「……ん? 僕、寝てた……?」
「それはもうぐっすりと」
 肩に凭れずっと眠っていた縁をウィンクルムは優しく揺すって起こした。もっと早く起こしてくれれば、という縁にあまりに気持ちよさそうだったから、と弁明するウィンクルム。そんな二人の目の前の海でイルカが跳ねて空へ躍り出る。
 夏島に近づき、帰りを出迎えてくれているのだ。
「出航時より随分小さくなりましたね」
「あれは鯨さんじゃなくてイルカさんだよ」
 ウィンクルムが天然を発揮すると縁はくすっと笑って訂正する。そして「ただいまー!」とイルカに手を振った。
 同じようにイルカを見ていた征四郎達四人。イルカにはしゃぐ征四郎の声に嬉しそうにして微笑んでいるリュカ。きっちりビデオカメラは回してる? とオリヴィエに尋ねる。もちろん、旅の一部始終を記録していた。
「そうです。リュカにこれをあげるのですよ」
 と、征四郎が季節島の絵葉書を四枚、リュカへとプレゼントする。絵葉書だということ、どういう絵葉書なのかも征四郎は丁寧に説明する。もう、夏島はすぐそこだ。出来るだけ長くリュカと話していたかった。
「リーヴィには俺様から」
 ビデオカメラを回しているオリヴィエの手に猫が月に前足を掛けている少しお洒落な金色のキーホルダーを乗せる。
「こないだの指輪のお礼、な」
 そう言ったガルーの言葉に振り向いたオリヴィエの表情は、まだ残る太陽の光で逆光になってよく分からない。近くにいたガルーだけにしか、その表情を読み取ることは出来なかった。
 
 夏島に辿りつき、あと少しでというところで名残惜しくなりレンは最後のチャンス、とばかりにそっとユーリヤの手を握る。
 手を繋いで来たレンにユーリアは「レンはまだ幼いから、薄暗くなって迷子とか不安なのかな」と解釈し、そのまま抵抗することなく手を繋いでいた。
 ユーリアの内心など知らず、予想外に良い反応が返ってうるうると感動するレン。
 レンとしては最後はとてもデートっぽい、ような気がした。二人は手を繋いで下船する。その後ろから降りてきているのは望月と百薬だ。
「いろんな景色が集まっててすごいね」
 百薬が次々移り変わっていった景色に感心したように零す。
「どうなってるんだろう、これって年中いつ来てもいいってことよね。また呼んでくれるかな」
 と、望月が首を傾ける。
「まぁ、何よりここですっきり気持ちを入れ替えて次の依頼にも臨めるってものね」
 しっかりと四島を堪能した望月はぐっと伸びをした。
「次はすいか食べる依頼がいいな」
「賛成」
 と、マイペースに会話を続ける望月と百薬。
 皆が下船した後で、一人まだ残っている央は夜の帳が下りた空を見上げて佇んでいた。マイヤの船の上での表情を思い出し、こんなに笑う彼女を見たのは初めてかも知れない。と思う。そして、今の彼女の笑みが心からの物である事を願っていた。

みんなの思い出もっと見る

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • エージェント
    九動 レンaa0174
    人間|13才|男性|回避
  • エージェント
    ユーリヤ・メギストスaa0174hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575
    人間|20才|男性|生命
  • エージェント
    ウィンクルムaa1575hero001
    英雄|28才|男性|バト
前に戻る
ページトップへ戻る