本部

水遊び in 紫峰翁大學とかいう危険地帯

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/09/07 18:52

掲示板

オープニング

●プールじゃプールじゃ

 当然のように真夏日の続く中で、エージェントたちは筑波にある『紫峰翁大學』という学府を朝から訪れていた。
 その敷地は広大で、比例して学生数も多く、いわば名門大学。ライヴス関連の学科があることから、リンカーも数多く在籍している。
 そんな施設を訪れたのは、研究協力のためだった。

 ライヴス技術の発展のため自発的に、あるいはH.O.P.E.から依願(の名を借りた強制命令)でやってきた一行はすぐに仕事に取りかかり、昼過ぎには解放された。
 なんやかんや体の良い実験体として扱われるお仕事を何とか乗りきった一行は、快適なる我が家へと一刻も早く帰りたかった。だから、敷地外に出るだけでも10分以上はかかりそうな、紫峰翁大學の広大さを心底呪った。もはや1個の街と呼べるほどに、紫峰翁大學は規格外のスケールを誇っているのだ。

 それほど巨大なスケール感を持つからなのだろうか、学内にはレジャープールらしきものも見受けられた。
 遠くのほうに、ウォータースライダーっぽいコースが空中でうねっていたり、何かすごい高い飛びこみ台っぽいのとか……。

 いやいや、どういうことやねん。
 大学の敷地内に、いっぱしの施設なみのレジャープールって。

 異様な光景に一行が目を奪われていることに気づいた案内の職員は、にっこりと笑みを湛えて言った。

「あれは建築学科の学生たちが制作したものでして、彼らもリンカーなだけあって発想が大きいというか、やることが無謀というか……まぁできてしまったわけなんですね、これが」

 学生制作ってレベルじゃねえぞ。
 普通に利用者からお金を取れるほどの出来栄えに、一行はしきりに感心した。
 すると、職員はこう続けた。

「普段は学生たちがちらほら遊んでいるのですが、今は誰も使っていないようですね……。どうです? あれ、寄っていきますか? うちの頼みごとを聞いてもらったわけですし、よろしければ。たぶん水着とかも貸し出し用の物があったと思いますよ、遊びごとには抜かりないですからねぇ、うちの学生たちは……」

 ははは、と職員は困ったように笑っている。
 エージェントたちも、愛想を返す。

 そして、是非とも遊んでいきたいと、詰め寄るように頼んだ。
 だって暑いんだもの。とにかく汗が止まらないほどには暑いんだもの!


 優しい職員さんに連れられて到着したプールは、やはり間近で見ても立派な造りだった。
 長大なウォータースライダー、ゆらゆらと波が揺らぐプール、あとなんかめっちゃ高い飛びこみ台。下から見上げるととても首が疲れる。とても普通の人間が利用できるような高さではないのは、制作者がリンカーだからなのだろうか。
 それにやたら重厚な造りの水鉄砲まで、脇に揃えられているじゃないか。遊びには手を抜かない学生たちだというのも、なるほど確かにそうらしい。

 で、あれば。
 このプールでは、充分に楽しい時間が過ごせるんじゃないかな。わざわざ筑波まで足を運んだ甲斐はあったんじゃないかな。
 巨大なプールの輝く水面を眺めながら、エージェントたちは期待に心躍らせていた。


 規格外の『紫峰翁大學』らしく、そのプールのアトラクションも規格外であることなど知る由もなく。

解説

■概要
 仕事で筑波の『紫峰翁大學』を訪れたエージェントたち。
 用件を終えて帰ろうとするが、道中で学生たちが設えたというレジャープールを発見する。
 外観はお金取れるレベルの出来栄えに感心していると、関係者に声をかけられた。
 遊んでいかれますか、と。
 一行はお言葉に甘えてプールでひととき過ごすことにする。
 ところがやっぱり、色々と問題はあるようなのだった。

■プール
・ウォータースライダー『インフィニティ』
 外観は普通だが、平均時速60kmで滑るなかなかの危険アトラクション。
 しかも学生の悪戯心により、終着点がない。コースは循環し、力ずくで出なければ延々と滑ることになる。
 能力者単体で滑ってしまった場合は、誰かに助けてもらいましょう。

・波のプール『ディープインパクト』
 通常は安全な波しか生まれないが、時たま15m級のビッグウェーブが来る。
 その水圧に遊んでいる者らはぐっちゃぐちゃにされること必至。
 嬉しいポロリ、嬉しくないポロリの可能性(ロマン)。

・飛びこみ台『スカイタワー』
 高さ100mぐらいあるクレイジーな台。まず上るのに一苦労。
 頂点から飛びこめば盛大なスプラッシュが起こるだろう。10、30、50mからも飛びこみはできる。
 能力者単体で100mにチャレンジするのはやめましょう。いのちだいじに。

・ウォーターガン『キリングショット』
 殺人級の威力を誇る水鉄砲型AGW。紫峰翁大學の学生の試作品。
 本来はAGWとしての運用を考えられていたわけではなく、リンカーならではのすげえ玩具作ろうぜという発想で生まれたモノ。開発者がバカだったので威力が半端ないことになっただけである。
 ハンドガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、ショットガン等々をラインナップ。
 AGWとしての力は共鳴状態でなければ発揮されない。よって非共鳴状態ならば普通に玩具として安全に使えるらしい。

リプレイ

●プール?

 水着に着替えてやってきた御宮 裕樹(aa4419)とトゥマス ウォルフガング(aa4419hero001)は、壮観なプールを見渡す。
「この間と良い水場に縁があるな……」
「そだなー、でもこれ凄くね? もう個人のレベルじゃねーだろコレ」
 目の前には一般のレジャー施設すら超えるほどの大規模なプールがあるのだ。学生のバカで熱い情熱にトゥマスは呆れたように言った。
「ところでその格好なんぞ、この間普通の水着着てなかったか?」
 トゥマスの疑問に裕樹が振り返る。彼は何故かスキンタイプのウェットスーツを着ているのだ。ちなみにトゥマスは普通の海パン。
「この間は判ってたから耐水ファンデつけてたんだが、今回予定外だったんで背中隠せるのにしてんだよ」
「……あー、そーいえばお前背中にスジ者ばりに刺青あったっけ」
 立派な刺青を晒しては景観を損なう、という裕樹なりの配慮のようだ。
「ほわあああ、すっごいプールですねぇ!」
「よく出来てんな。こっちの世界のプールってのはこんなでけぇのか」
 紫 征四郎(aa0076)は巨大プールに目を丸くしており、隣のガルー・A・A(aa0076hero001)は学生らの技術に感心。シンプルなサーフパンツのガルーとは対照的に、征四郎はスカート付きの水着にパーカー、手足の火傷は包帯でカバー。
「怖いのはやだ! 怖いのは絶対しないんだから!!」
 征四郎たちの後ろでは、木霊・C・リュカ(aa0068)がやかましく騒ぎ、それをオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)がじっと見ていた。リュカは長袖長ズボンの露出少なめスタイルにサングラス、更に日焼け止めに日傘という完全装備。オリヴィエはサーフパンツにゴーグル装着、両手に浮き輪とビート板というこちらも完全装備。2人とも泳げません。
「そんなの大丈夫だぜー、リュカちゃん! 一緒に楽しもうぜー!」
「ちーちゃん!」
 夏に放置してはいけない男・虎噛 千颯(aa0123)が降臨。今はハーフパンツタイプの水着を着ているが、いつまで保つか。
「オリヴィエ殿も楽しまれるといいでござるよ」
 千颯に続いて白虎丸(aa0123hero001)もやってきて、オリヴィエに声をかけた。彼も同じくハーフパンツだが、上にはラッシュガードを羽織りそこはかとなく監視員の風情。いや事実彼は監視員、色々な意味で。ちなみに虎の被り物は安心の防水仕様。
 そこに遅れて麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)も姿を現した。遊夜は黒いトランクスタイプと無難だが、リーヤは黒のホルターネックビキニにパレオ装着、おまけに尻尾もぶんぶん振れて見るからにバカンスモード。
 他方、旧 式(aa0545)は相棒についてちょっとした不安を抱いていた。
「ドナ、間違ってもビキニなんて着るなよ?」
「あ? なんでだよ? アタシのセクシーさに男どもの下半身がたえらんねーからか?」
 深刻な顔でそう言ってきた式に、ドナ・ドナ(aa0545hero001)はニヤニヤと笑って応じた。
「条例に引っかかるからだよ。喜ぶのはその手の変態だけだ」
「あ゛? テメエの下半身にアームストロングなんて名前付けてる変態に言われたくねーよ!」
「うるせー! 名前だけでも格好よくしとかねーと体通りのプリチーで俺が不憫だろ!」
「知らねーよ、この童貞が」
「どう……っ、何言ってるのかしらね、まったく」
 ワンピース水着の志々 紅夏(aa4282)が式たちのやりとりに赤面し、ふいっと視線を逸らす。乙女。
 乙女といえば音無 桜狐(aa3177)も乙女と言える歳だが、彼女は猫柳 千佳(aa3177hero001)に無理やり連れられて大學まで足を運んできたゆえにあまり興が乗らない様子だった。
「ぬぅ、縁側で日向ぼっこしてたかったのじゃがのぉ……」
「今の時期、それは暑いだけにゃ。それよりこっちで涼しく遊ぶにゃー♪」
 無表情のまま枯れたことを仰る桜狐に、千佳が呆れ笑いを浮かべて返した。服装も紐で結ぶ赤いツーピースビキニの千佳に比べ、桜狐は褌にサラシ。実に枯れている。

●欠陥遊具

 準備体操を終えて、遊夜は100メートルの飛びこみ台『スカイタワー』を指してリーヤに提案。
「最初に飛び込んで気分をスッキリさせようか」
「……ん、行く……一番高い所から?」
「そうだな……この高さは滅多にねぇし、行くか!」
「……ん!」
 いっそう尻尾を振り回すリーヤを背に担ぎ、遊夜はいざ高みへ上る。
 数分かけて頂点へたどり着き、飛びこみ台から下のほうを覗きこむと、もはや仲間たちの姿が点としか視認できない。
「これはまた……スリルとかってレベルじゃねぇな」
「……ん、生身だと弾ける」
 身の危険を感じ遊夜は足がすくむ思いで喉を鳴らし、リーヤもこくりと頷いた。
「仕方ない……リーヤ、行って良いぞ」
「……ん!」
 主導権をリーヤの譲り共鳴すると、リーヤは楽しそうに身を投げ出した。
 猛烈な速度で降下、着水。
 砲撃を喰らったかのような水柱が立った。
 少しすると沈んでいたリーヤが浮上、ぶるぶると頭を振って水を切る。
「……ん、癖になる」
 痛気持ちいい、とかいうやつかもしれない。

 盛大なスプラッシュを間近に眺めていた桜狐は、視線をスカイタワーに戻す。
「これを作った者は馬鹿かのぉ……て、千佳!?」
「あれは楽しそうにゃ! さぁ、行くにゃよ!」
 呆れていたところを千佳に無理やり共鳴され、桜狐はデスダイビングにチャレンジするハメになる。
(「……お、おぬし、まさか頂上から飛ぶつもりかの!? 待つのじゃ……!」
「聞こえないにゃよー!!」
 ウキウキ気分で上りきり、スカイタワー頂上に千佳は到達。少し息切れして肩が上下しているが、それでもなお彼女は元気だ。
「流石に登るのはエレベーター欲しかったにゃー。それじゃあ一気に行くにゃー♪」
(「『行くにゃー♪』……じゃないのじゃ! わしはゴメンじゃぁぁ!」)
 桜狐の抵抗むなしく、千佳は勢いよくダイブした。
 2本目の水柱が立ち昇ると、やはり千佳も嬉しげに顔を出す。
「もう1回やるにゃよ!」
(「わしは付き合いたくないのじゃ……」)

 一方、高速ウォータースライダー『インフィニティ』では。
「共鳴して滑ろうぜ」
「断る」
「なんでだよ?」
「その前にお約束やんなきゃダメだろ?」
「お約束……?」
 ウォータースライダーのお約束。
 それは。
「押すなよ? 押すなよ?」
「それは押せってことだよな」
「あ゛、テメエ、ドナふざけんなぁぁぁぁぁぁー」
 悪魔的笑いを湛えたドナが、嬉々としてコースに蹴り飛ばした。これがお約束みたいっす。

「わあぁあぁぁぁ~っほぉぉぉぉい!!」
 コースアウトしかねない速度でずーっと滑っているのはトゥマスだ。時速60キロにも及ぶそのアトラクションで、死ぬのも辞さぬレベルで加速してコースを滑走するさまは、まさに阿呆。
 そしてトゥマスを追走する形で、千颯も全力でインフィニティを楽しんでいた。
「やっぱり夏といったらプールだろ!」
 少年のような笑顔でただただコースに身を任せる千颯。ただひたすら滑り、トゥマスともども2周目に突入する。
「エンドレスに回れるとかマジウケるーww」
「っははは! これ出れねえんですけどおー!!」
 笑いながら周回する2人。一応、白虎丸が待機してサルベージに備えている。千颯とトゥマスが飽きたら引き上げてやるつもりだ。
 しかしその前に、助けを求める者が1人。
「ちょ、ちょっと! どうやって止まるのーー!?」
 白虎丸が振り向くと、わーわー騒ぐ紅夏が流れてきていた。彼女は共鳴していたがそれでも脱出は大変なのだろう。白虎丸は彼女を終わりなき奔流から救出した。
「大丈夫でござるか?」
「えぇ……あ、いや! 別に自分で出られたわよ!? 困っていたわけじゃないし!」
 本当は感謝しているのにツンな態度になってしまう紅夏。ツンデレだから仕方ない。
「……素朴な疑問だが、アレ本当に遊具か? 一度乗ったら自力で降りれないってもはや拷問用具だろう……」
 紅夏がサルベージされた様子をスカイタワー50メートル台で見ていた裕樹は、そう呟いた。確かに遊具としては欠陥品以外の何物でもない。
 だが我関せず、そんなことはとりあえず放っておいて、彼はしなる台上で優雅な跳躍を繰り出し、空中で美しく回転して滑るように着水した。水柱が昇ることのない着水の技術、彼の無駄技能のひとつである。

●凶器

「どれから行こうか迷いますねぇ……ん、オリヴィエ?」
 どのアトラクションを遊ぼうかと考えていた征四郎が、何やら立ち尽くして吟味しているオリヴィエを見つけて駆け寄った。
 彼が見ていたのは、このプールに用意された遊具の水鉄砲のようだ。様々なタイプの銃が立てかけられて並んでおり、銃器使いのオリヴィエは興味を持ったらしい。
「きりんぐしょっと……これ、水鉄砲なのですね。そうだ、オリヴィエ、勝負するのです!」
 水鉄砲といえば撃ちあいが定番、ということでリュカ&オリヴィエ、征四郎&ガルーで分かれて対決を行うことにした。色々銃をピックアップして、リュカとガルーを引っぱって波のプールに向かう。
「じゃあ負けたほうが罰ゲームだね! ここのアトラクション色々おかしいみたいだから、それ全部やるってことでどうかな!」
(……フラグが次々と)
 超ノリ気で対決の罰ゲーム設定をするリュカを見て、オリヴィエは何となく未来が見えるような気がした。
 そんなこんなで、2組によるキリングショット撃ちあい対決の開幕である。
「絶対に負けないのです!」
 小ぶりなハンドガンを装備した征四郎は闘志みなぎる表情で、ぴゅんぴゅん水弾を飛ばした。軌道は直線的で水圧の高さを感じさせるが、それでも威力は玩具程度に過ぎない。
 しかし銃の造りは精巧で、ガルーは征四郎に持たされたショットガンを見て戸惑う。
「おい、ちょっとこれ水鉄砲だろ? 本格的すぎて訳わかんねぇんだけど」
「いいから撃つのですガルー! 弾幕薄いのです!」
「どうやって……って危ねぇ!」
 ショットガンの扱いに困っているガルーの頬を、水弾がかすめた。飛来したほうを見るとオリヴィエがハンドガンを向けている。
「容赦ないのね……俺様がこういうの苦手って知ってるでしょ!」
「……まず弱いほうを狙う」
「まぁそうするよな……ところでコレの安全装置ってどう外すんだ?」
 問答無用でオリヴィエの射撃。ガルーは慌てて水中に潜ってかわした。
 すぐに水中に撃ちこもうとするオリヴィエだが、それを遮るように弾が飛んできた。
「……征四郎か? いや、違う……」
 邪魔してきたのは征四郎、ではなくリュカだった。
「そこだね! お兄さんには見えてるんだから!!」
 リュカが空気に喋りかけながら、アサルトライフルを手当たり次第に乱射している。対決において戦力外であるのみならず、むしろ敵を利しているとは全く気づいていない模様。
「……何してるんだ……」
「隙ありなのです!」
 トリガーハッピーになってる相方に呆れていたオリヴィエに、水中を潜って近づいていた征四郎が銃撃。
 オリヴィエは手持ちのビート板を盾にして使い、ハンドガンを向けて反撃する。
 だが今度は征四郎がガルーを盾に使って防御。ひどいけど、征四郎はそれほどに負けたくないのである。
 更に征四郎は反転、リュカに向かった。手練のオリヴィエよりも、仕留めやすいリュカを狙う。
「……待て」
「ガルー、オリヴィエ押さえておいてください!」
「やだー卑怯者! そういうとこ嫌いじゃないわよ!」
 オリヴィエの足止めを任されたガルーは、とりあえず。
 銃の撃ち方がわからんのでぶん投げた。物理的攻撃こそジャスティス。
 でもあっさりとオリヴィエに叩き落とされて、逆にハンドガンの集中攻撃を喰らう。
「ガルー、銃は壊さないでくださいよ!」
「わかってるけどぉ! それどこじゃないってぇ!」
 備品を壊すなと征四郎から注意が飛ぶけど、ガルーはオリヴィエから逃げるので精いっぱいだ。
 そこに、唐突な参戦者が現れる。
「楽しく遊んでいるわね。私も1枚噛ませてもらうわ!」
 何か楽しそうに遊んでいる征四郎たちを見て、紅夏もキリングショットを持ちだして無差別射撃をしかけてきた。
 総員退避、紅夏の射線から逃げる逃げる。
 だがリュカだけは更なる無差別攻撃で応対し、波のプールはみるみるカオスっていく。
 そんな混沌の中、波に揺られてざぶざぶ泳いでいた裕樹が急に止まり、皆が扱っている水鉄砲に興味を示す。
「水鉄砲のAGW……? 共鳴状態だとガチで殺傷能力がある?」
 裕樹は水から上がると並べられたキリングショットを確認しに行き、その中からスナイパーライフルを手に取る。
「……トゥマス、共鳴を」
「ですよねー! そういう流れですよねー!!」
 言われるままにトゥマスは共鳴に応じ、裕樹はいっそう危ない目になって、試射するために的になりそうな物を探し求め始めた。
 混沌の波のプールでは未だ撃ちあいが続いていたが、式とドナはそれをかわしつつじーっとプール内に留まっていた。式のたっての希望だった。
「ここはポロリが生まれる気がする」
「お巡りさーん、コイツでーす」
「はいはい、ちっちゃい子は条例さんに引っかかるからここは立ち入り禁止だよ~」
「うるせー」
 言葉よりも先に放たれたグーパンチが式の顔面を捉えるが、式はそれでもへこたれない。
「俺だけだと怪しまれるが……、ドナ、テメエがいれば自然な形でポロリを待つことができる」
「アタシを利用すんじゃねー」
「まあそう言うな。帰りに煙草一箱買ってやんから」
「チッ……しゃーねえ」
 式の願いに応じ、ドナも渋々ご一緒してやることにした。
 銃撃飛び交う戦場から離れた場所では、桜狐と千佳、遊夜とリーヤがわりかしまったり遊んでいた。
 桜狐、遊夜はともに波に揺られるまま浮き具でぷかぷかと過ごし、千佳は周囲を泳ぎ回り、リーヤは少し離れたところで断続的な波と戯れている。
「……あー、こういうのも悪くねぇなぁ」
「ふぅ、ここならゆらゆらと揺れているだけじゃしいいかのぉ……。まったりできそうじゃ……」
 喧騒は遠く、スーパーまったりモードの桜狐と遊夜。
「僕はもっと強い波でもいいかにゃー? そのほうが面白そうにゃー♪」
 千佳は何度もデスダイブを敢行した割には元気で、桜狐の周囲をぐるぐる泳いでいる。
 実に平和に時間が流れる。
 だが、異変。
「ゆらゆら……ぬ? 何か波が……」
 まず桜狐が気づく。波が大きくなったような。
「……ん、ユーヤぁ、何か来るー」
 続けてリーヤ。ある一点を指差して遊夜に告げた。
「あん?」
 遊夜は体を起こし、リーヤが指し示す方向に目を向けた。
 巨大な水の壁が迫っていた。
「なんっじゃありゃぁ!」
「……キャー♪」
 リーヤを庇おうと急いで泳いでいった遊夜だったが、彼女のもとに着いたところであえなく波に飲まれた。
 次いで桜狐と千佳もさくっと飲まれる。
「ぬぁぁ!? なんじゃこれは……!?」
「そうそうこれぐらい強く……って、流石に強すぎにゃよー!? うみみみ!?」
 大波にさらわれた4人は、まるで洗濯機にでもかけられたように水中で長いこと踊らされてしまった。
「酷い目にあったのじゃ……」
「うう、どれだけ激しいにゃ。あ、桜狐、胸、胸隠すにゃ」
「千佳どうしたのかの? 胸……ぬ……!? じゃが千佳、お主も……」
「……うに? 僕もにゃー!?」
 水面から出た桜狐と千佳は、どちらもポロリしていた。お胸が露になっており、慌てて隠す。
「……やーん♪」
「……あー、すまん」
 遊夜とリーヤもポロっていた。下をポロった遊夜は浮き輪で問題箇所をカバーして何か諦めた表情、リーヤはポロった胸を隠しつつ遊夜を嬉しげに見つめている。
 ここだ、ここで女子がポロっているぞ! 式はどうした!
「なんだよこのビックウェーブは! 俺のアームストロングがコンニチハしたら女共が沸き立つだろ! ってホント俺の海パンどこ行った?!」
 ポロリを待望していた式、悲しくも自分がポロリしていた。欲張って近くで待機してたのがいけない。離れていれば波にもまれずにポロリを目撃できたかもしれないのに。
「相変わらず可愛いな~、テメエのアームストロングは」
「バカ! 見んな!」
 ドナがまたニヤニヤと笑って式の下半身に視線を向け、式はすぐに両手で覆い隠す。
「そんなに恥ずかしがんなって。可愛くていいじゃねーか。可愛すぎて卑猥さ0だし、隠さなくていんじゃね?」
「だから隠すんだよ!」
「勿体ねーな。フェミ共も笑顔で許すレベルの可愛さなのによ」
 可愛いと評される式のアームストロングは、幸か不幸かその場の誰にも見られずに済んだ。
 紫峰翁の学生らが作った波のプール『ディープインパクト』恐るべし、だったが、一行の中にはそれに目を輝かせてしまう輩もいた。
「あれは! まさに俺ちゃんの為のもの!!」
 全裸になることに命を懸ける男、千颯である。プールサイドで大波の威力を目の当たりにした千颯はピーンと閃き、意気揚々とプールに飛びこんだ。
 待つべきは、かの大波。あれにもみくちゃにされている間にフルオープンパージ……それしかない!
 っつーしょーもない一念が通じたのか、ものの数秒でディープインパクト再来。
 今度の大波は広範囲に及び、戦っていたリュカや征四郎たち、紅夏もがっつりさらわれた。おかげで戦闘どころではない。
「こんなプールで普通に遊べるわけないでしょ……!」
 口に流れこんだ水を咳払いで出しながら、紅夏も身を起こす。
 だが、顔を上げた瞬間に目に飛びこんできたのは――。

 大波の中、プロの犯行によりモロリ(ポロリを装ったモロ出し)した千颯のドヤ顔だった。

 紅夏は一瞬で耳まで真っ赤にして赤面し、共鳴。
 ドヤっている千颯に涙目で剛腕(ビンタ)を振り抜いた。
「信じられないわ、ちょっと、何開放的になっちゃってんのよ! そういうのは好きな人の前だけにしなさいよバカ信じられない!」
「ふふ……俺ちゃんの息子はどこにも恥じる事は――」
 紅夏に抗弁もせずむしろ千颯は胸を張ったが、股間にどえらい衝撃を感じて思わず悶絶。
 オリヴィエが千颯の息子を撃ちぬいていた。
「オ、オリヴィエちゃん……!」
「すまん、(つい)当てた」
 スナイパーライフルを構えた彼の隣では、リュカが笑い転げている。
 そして、モロリあるところに彼あり。
「こっっっっっっっっんの痴れ者がぁぁぁぁ!!!」
 鬼の形相で監視員もとい白虎丸が猛然と走ってきて、千颯にえげつないボディブローを喰らわせた。
「びゃ、白虎ちゃん……追いうちとかひどすぎると思うんだぜ……」
 現時点での千颯のダメージ累計――共鳴した紅夏のビンタ+非共鳴オリヴィエの息子撃ち+白虎丸のボディブロー=死ぬかもしんない。
「ひどいのはお前でござる……公衆の面前で粗末なものを出しおってからに!!」
「白虎ちゃん酷い! 俺ちゃんのは粗末なんかじゃないんだぜ! 立派な息子なんだぜ!」
「そうだ白虎丸! 千颯のが粗末だったら式のアームストロングは一体何なんだ!!」
「おいバカやめろ。とんでもねートコに俺のアームストロングを持ち出すんじゃねー!」
 慌ててドナの口を塞いで引っこむ式。何だか悲しい気分になるだろうが。
「今日という今日は許さないでござる!!」
「ちょ、どこ連れてく気なんだぜ白虎ちゃん!?」
 未だダメージで身動き取れない状態の千颯を担ぎ上げ、白虎丸はスカイタワーの頂上からぽいっと放り投げた。
「生命適性なお前ならこの程度の高さ平気でござろう」
「この高さはさすがに危ないぜ白虎ちゃんんん!?」
 どっぼぉーんと千颯が着水すれば素早く回収・共鳴して回復、そして再び頂上から放り投げる。この繰り返しで千颯をいたぶる白虎丸。
 すべてモロリへの罰なのです。

●事後

「やだって言ったのに!!」
「……」
 ぶわっと涙するリュカに、隣で何ともいえない表情をするオリヴィエ。2人はスカイタワーの頂上に立っている。
「罰ゲーム言い出したのリュカちゃんでしょ?」
 ポンとリュカの肩に手を置いたガルー、ニヤニヤ。
 リュカとオリヴィエ、征四郎とガルーは、パニックが収まった後に共鳴しての水鉄砲対決を行った。オリヴィエたちはダンシングバレットやテレポートショットを駆使、征四郎らはALブーツまで持ち出すという本格的戦闘になったのだが、結果は無事にフラグを回収して征四郎らの勝利となった。
「濡れたパーカー顔に投げつけるなんて卑怯だよ、せーちゃん!」
「ふふふ、卑怯ではないのです。征四郎はベストを尽くしたのですよ」
 ということで、リュカとオリヴィエはアトラクション巡りという絶叫体験をするハメになったのだ。
 ちなみに両者の戦闘は、裕樹も見ていた。キリングショットの試射をしまくって満足気に帰ってきたところで、その銃を用いた戦闘が行われていれば見るしかなかった。
 彼がその時、しきりに頷いていたのが、トゥマスは何だか怖くって。
「後で“これ……欲しいな”とか言い出さねぇだろうな……スキルで増殖させて消火活動にも使えるな、とか言って……」
「ほう、その発想は無かった、良い着眼点だな」
「藪蛇ッ!?」

 飛びこみと大波ですっかり疲れきった遊夜は、浮き輪に乗るリーヤを抱える形でインフィニティを滑っていた。
「わかっちゃいたが、これもまたスゲェな」
「……ん、すごいスピードだねぇ」
 高速ゆえに姿勢制御も大変で、遊夜は必死な表情でコースアウトしないよう滑走。リーヤは特にすることもなく、スピード感を楽しんでいた。
 が。
「……これ何時になったら終わるんだ」
「……」
「……リーヤ?」
「……ん」
 遊夜に体をすり寄せて、ぬくもりを感じて良い感じに眠りに入るリーヤ。遊び疲れたようです。
「起きろ、やばいぞ!」
 スライダーに終着点が設定されていないことに気づいた遊夜は焦り始めるが、対してリーヤは満足そうな顔ですやすやと寝息を立て始めた。
「……覚悟決めるか」
 そう心を決めた瞬間、突如背後から超速の物体が接近。
 気配を感じた遊夜は何とか横にかわしたが、その正体は。
「うひゃひゃひゃ! 水着が破けるー白虎ちゃん! 勝手にフルオープンパージしちゃうんだぜー!」
 千颯だった。白虎丸のお仕置きで、手足を縛られた状態でインフィニティに投げこまれていたのだ。
 しかも千颯の足には巨斧『シュナイデン』が括りつけられている。モロリした千颯を断罪すべく、紅夏が白虎丸に提案して重石代わりに取りつけたものだ。
「当たったら……死ぬ!」
 重量武器が取りつけられた高速物体に衝突した日には……非共鳴の遊夜は間違いなく逝く。
「おい、リーヤ! 起きろ!」
「……」
 すやぁ、と反応すらないリーヤ。
「…………覚悟、決めるか」
 遊夜は真顔だった。今日、死ぬかもな。

「何だか清々しい気分でござるよ」
「えぇ、何だか楽しかったわ」
 千颯をインフィニティに放りこんで気分よく帰宅の準備を始める白虎丸と紅夏は、晴れやかだった。
 正直トンデモプールだった、というのが紅夏の感想ではあったが、それでも楽しく過ごせたことに変わりはなかった。
(出てこないあいつもこういうのを知ってほしいんだけどね。何があったか知らないけど、あんたの好きな人はそういうのを望む人じゃないと思うんだけど)
 幻想蝶をなでる紅夏は、かすかに笑んで更衣室へと歩いていく。


 あ、遊夜たちは後に学生の手で救出してもらったそうです。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 堕落せし者
    旧 式aa0545
    人間|24才|男性|防御
  • エージェント
    ドナ・ドナaa0545hero001
    英雄|22才|女性|ブレ
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • 断罪乙女
    志々 紅夏aa4282
    人間|23才|女性|攻撃



  • エージェント
    御宮 裕樹aa4419
    人間|24才|男性|命中
  • エージェント
    トゥマス ウォルフガングaa4419hero001
    英雄|20才|男性|カオ
前に戻る
ページトップへ戻る