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ゆかたdeショッピングモール
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最終発言2016/08/24 22:02:07 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/08/26 14:24:09
オープニング
●庶民的理想郷の夏
シャンゴリラTOKYO。『東京』と名の付く先人たちと同じく、東京都ではないどこかに存在するショッピングモールである。全国展開と呼ぶのがためらわれるほど、見事に主要都市を避けた広がりを見せるシャンゴリラグループの一店舗だ。
地方ほどの広さはないが、豊富なイベントやキャンペーンが行われるのがシャンゴリラTOKYOの魅力だ。任務に疲れたそこのあなたも、お友達や恋人と気軽に遊びたいあなたも、ぜひ遊びに来てほしい。まだまだ暑~い夏を涼し~いシャンゴリラで過ごしてみてはいかがだろうか?
●シャンゴリラ☆インフォメーション
1、浴衣でショッピング☆
浴衣でお越しのお客様は店内商品全品5%引き! 映画館やフードコート、ビアガーデンでも有効! 当日購入した浴衣でもOKです(着替えスペースあり)。
2、タワーかき氷チャレンジ☆
高さ55cm、器の直径55cmの巨大かき氷! 25分以内に完食で参加費無料!
3、お化け屋敷『大猩々(おうしょうじょう)屋敷の亡霊』
亡霊が彷徨う廃墟を探索せよ! 君は呪いに打ち勝てるか!?
4、シャンゴリ☆ビアガーデン
屋上庭園が夏季限定でビアガーデンに! ゴリ盛ジョッキビール(1555ml)がおすすめ!
解説
大型ショッピングモール「シャンゴリラ」。3階建て。屋上はイベントスペース。
ファッションから専門店までなんでも揃い、レストランも各種充実。一般人が思いつく限りの店舗があるといってよい。
※ご自由にお好きな店舗をプレイング内で登場させてもOKです。
少なくともあるのは各種ファッション、インテリア、雑貨、本、ゲームセンター、レストラン、スーパー、楽器屋、スポーツ用品店、おもちゃ屋、映画館、フードコート。
ショッピングモールにありそうもないもの(武器屋、カジノなど)はご遠慮ください。
【イベント補足】
1、浴衣でショッピング☆
浴衣だけを集めた特設会場の他、各ショップで買うこともできます。
2、タワーかき氷チャレンジ☆
シロップ使い放題。味はいちご、メロン、ブルーハワイ、レモン。
3、お化け屋敷『大猩々屋敷の亡霊』
小規模ながら本格的な怖さが自慢。殺人事件があったという廃墟(日本家屋)を探索する。お化け役は人間が演じているので、
臨機応変に怖がらせてくれる。白装束に長い黒髪の女性や落ち武者など純和風の幽霊が出る。不気味な井戸も完備。
4、シャンゴリ☆ビアガーデン
ビールだけでなく各種酒類やソフトドリンクも有り。居酒屋にあるようなメニューなら、自由に出してOKです。
当日は花火大会があります。会場からは少し遠いのですが、それゆえに穴場です。
※すべてのイベントに参加する必要はありません。買い物だけのご利用も大歓迎です。
※買い物や飲食によってアイテムが増えることはありませんのでご了承ください。また、通貨も減りません。
リプレイ
●ようこそお客様!
「あ~、せっかくの夏休みなんだから、どっか行きたいよ~」
「……行けばいいじゃないか」
漫画雑誌を広げる大宮 朝霞(aa0476)にニクノイーサ(aa0476hero001)が気のない返事を返す。
「そうだ! シャンゴリラに行こうよ!」
「シャン……ゴリラ!?」
命名者のセンスを疑うそれは。
「大型ショッピングモールだよ! 映画館とかもあるんだよ!」
朝霞はつば広帽子を颯爽と被って、ニクノイーサと共に熱気のプールに飛び込んだ。
紫を基調とした浴衣を着たフィー(aa4205)は、時間通りにやってきた楪 アルト(aa4349)に手を振った。
「……きょ、今日は……よろしくな……べ、別に1人でも良かったんだけどお前が一緒に行きたいって言ったから仕方なくついてきてやってるだけだからな!!!」
するり、と手を繋がれアルトは二の句が継げなくなる。
「とりあえず浴衣を持ってねーっつー事ですし、まずはそっからでやがりますね。はぐれねえでくだせーよ? "お嬢様"」
「って、お、お嬢様ってガラじゃねーよ!!!」
仲睦まじく――アルトに言ったら怒られるだろうが――歩いて行くふたりの背中を見送ったヒルフェ(aa4205hero001)はニヤリと笑った。
「さて、あいつらが楽しんでいる間に俺も楽しんで来るか」
その隣を抜けていくのは軽やかな鼻歌。
「きょーは佐助とでぇと♪ でぇと♪」
古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001)は家を出た時からずっとこの調子である。淡い水色の袖を広げてターン。浴衣でなければスキップしているだろう相棒に防人 正護(aa2336)は言う。
「転ぶなよ。浴衣が台無しになるぞ」
到着して間もなく古賀 佐助(aa2087)とリア=サイレンス(aa2087hero001)もやってきた。
「お待たせ、アイリスちゃん。お、いいな、浴衣姿のアイリスちゃんもスッゲー可愛いぜ!」
「全然待ってなんかないよ、来たばっかだもん。えへへ~♪ 佐助も浴衣凄く似合うね♪」
佐助はシンプルな緑色の浴衣から伸びた手を菖蒲に差し出した。ここからは別行動だ。
「へぇ、お化け屋敷なんてあんのか、ちょっと気になるし行ってみようぜ」
「え!? あ、後でね……?」
正護はリアの目当てを聞くが「期間限定のリッチミルクエクレア」、つまり持ち帰りの生菓子らしい。
「それなら適当にぶらつくか。レストラン街でうまい菓子を食べるのも良いな」
リアは頭頂部の癖毛を揺らして頷いた。
『浴衣デート、楽しんでね(*´艸`*)』
「……カルディアも楽しんでこい」
『それは勿論(≧ω≦)b和香君と楽しんでくるよ!!』
看板を次々取り出し会話をするカルディア・W・トゥーナ(aa4241)は背中に竜の意匠が入った紺の甚兵衛姿、ソーマ・W・ギースベルト(aa4241hero001)は竹林柄の浴衣に愛用のマフラーを合わせている。
「……デート?」
「その単語を口にすんじゃねェ!ただでさえ、緊張してるのに……」
ソーマの恋人である久楽 香月(aa4422)は黒地に青薔薇の浴衣、かんざしを挿しハーフアップにした髪が涼やかだ。鬼神丸 和香(aa4422hero001)は子供向けの金魚柄の浴衣が愛らしい。
「拙者……」
「あー、和香はカルに気になったところに連れて行ってもらえ」
「承知」
迷子にならないようにとソーマが香月の手を取る。ビクッとして固まった香月をソーマが振り返る。
「な、なんでもねぇ!」
だから離さないで、なんて口が裂けても言えないが。熱くなる顔をごまかそうと会話を繋ぐ。ふたりともショッピングにはあまり興味がないからと、映画館に向かうことにした。
●まずは浴衣売り場へ!
「みてよニック!『浴衣でお越しのお客様は店内商品全品5%引き!』だって!」
「そうだな。朝霞は浴衣でお越しではないがな」
沈黙。
「あっ、いまココで買っても有効みたいよ。ニック、浴衣を買いに行くわよ!」
浴衣売り場には色とりどりの浴衣がグラデーションを描いて並べられている。朝霞は黄緑色、ニクノイーサは紺色の浴衣を購入してさっそく着替える。
「みてみてニック! どう? 似合う?」
ヒーローポーズではなく、袖を広げた可愛らしいポーズをとった朝霞が言う。
「……似合っているんじゃないか? たぶんな」
「もうちょっと褒めてくれてもいいんじゃないの?」
頬を膨らませる朝霞にニクノイーサが根負けする。
「そうだな。綺麗だな」
「よし!」
意気揚々と歩き出す朝霞。
(これで5%割引されても、この浴衣代でかえって高くついたと思うんだが……それは言わないでおくか。朝霞が楽しいならそれでいい)
ニクノイーサは隣に追いついて朝霞の話に耳を傾けた。
「ちょっと多用する時期は過ぎちゃったけど、いいよね」
男性用の浴衣売り場で木霊・C・リュカ(aa0068)が言った。
「……来年も着れば問題ない」
オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は早くも心が決まったようで深緑色の浴衣を持っている。レトロなタッチで描かれた金木犀の小花が天の川の様に散らばる柄が美しい。
「んー、どうしようかねぇ」
「リュカにはこれが良いんじゃないですか?」
紫 征四郎(aa0076)が手に取ったのは、夜空のような紺地の浴衣。
「オリヴィエはどう思います?」
「似合うと思う」
「別に何でもいいけど……」とガルー・A・A(aa0076hero001)は黒色の浴衣と銀色の帯を手に取る。その小指に以前贈った指輪を見つけてオリヴィエは眼を見開く。
「あんたはいつも通りだな」
言葉だけは呆れ調子だったけれど。ガルーの普段着も黒い着物なのだから言わずにはいられない。
「どの柄もとてもかわいいのですが、征四郎は白梅柄が好きですよ。これにするのです」
「へえ、白梅の柄かぁ。縁起も良いし、レトロな感じがお兄さん好きかも」
征四郎も心に響く柄が見つかったようで、小物類の買い物に移っている。
「あ……」
「何か見つけた? お兄さんも見たいなー」
赤地に白梅と千鳥の帯留め。拡大した画像を征四郎が見せるとリュカが太鼓判を押す。煮え切らない征四郎に支払いのことなら心配ないと言うと、申し訳なさそうに言う。
「もう一つ、欲しいものがあるのです……どっちか決めるので待っててくれますか?」
着物と同じ柄の和風ポーチ。遠慮しなくていいのに、と思いつつリュカは耳打ちした。
「だってすごくすごくかわいいですよ……!」
ガルーは渋い顔をした。「そっちはガルーちゃんにおねだりすればいいんだよ」と吹き込んだらしい。
「同じ布で作ってあるってことは、別の店には置いてないんじゃないか?」
「そうですよ! ここで買わなきゃ後悔します!」
オリヴィエも征四郎の味方らしい。3対1。ガルーは白旗を振った。
「好きなもん買って構わねーですよ、金は私が出すんでね」
会場を歩いていると、アルトがピンク色の浴衣を着たマネキンの前で足を止める。
「いいんじゃねーですか。その色、似合いそうです」
パーテーションで作られた簡易の着替えスペースへ移動する。
「……は、恥ずかしーからあっち行ってろよ! こ、これくれー1人で……」
「あ、左前」
「は!? な、何だよそれ」
続けようとするが用途不明の紐やら布ばかり。観念してフィーの助けを借りる。
「……あ、ありがとな。代わりと言っちゃなんだがなんか奢るから!」
アルトは顔を真っ赤にしながらフィーの手を引いて部屋を出た。
ガルーは征四郎の髪を緩くアップし簪を差すと、次の『客』を手招く。
「リーヴィもおいで、髪やってあげる」
ワックスで整えつつ和柄のヘアピンを付ける。
「おら、男前になったぞ」
あんまりおとなしいものだから、強めに背中を叩いてやった。少し俯き気味だった顔を上げて、軽く睨む表情はいつもの彼だった。
行き先を悩む四人は、店内にいくつも張られたポスターに目を止めた。
「ふむ、これは中々……」
「……ん、楽しそうだね」
黒い浴衣の麻生 遊夜(aa0452)が顎に手を当てて言えば、同じく黒地に彼岸花の浴衣を着たユフォアリーヤがくすくす笑う。
「遊夜さんにリーヤちゃん?」
リュカが奇遇だと言うと遊夜も頷く。リーヤはその背中に隠れて小さく挨拶した。
「孤児院の子供らと来るための下見なんだ」
今、浴衣を買ってきたという彼らに道を訊き特設会場に向かう。
「そろそろガキ共の浴衣も新調したい所だな」
「……ん、御下がりばかりも、良くない」
子供用コーナーも広く取られており、目移りしてしまう。
「……ん、これ可愛い」
リーヤが院の少女の名を出すと遊夜が感心しながら同意する。
「ああ、確かにこれは似合そうだな」
彼自身はあまりセンスに自信がない。続いて男児用を見てみる。
「こっちは……これで良さそうかね?」
「……ん、こっちが良い」
断言だ。甘えん坊なリーヤが今日は頼もしい。子供服やおもちゃ屋、本屋やスポーツ用品店など子供たちの喜びそうな店も下見することにした。
「さて、浴衣も買った事でやがりますし、買い物を楽しむとしましょーか?」
慣れない様子のアルトをリードし、フィーは年頃の女の子が喜びそうな小物やアクセサリーの店を回ることにする。
「キラキラして綺麗だな……え、こんなに高いのか?」
アルトがアクセサリーに気を取られている間にフィーが少しだけ側を離れたのだが、彼女は知る由もなかった。
●お好みの映画を
「どの映画がいい? 香月が好きなのを選べばいい」
「オレは、ソーマと見られるならどれでもいいぜ」
恋人の好みは把握済みだ。彼は感動系の映画を選ぶ。
「……俺はしいて言うなら、これか」
「じゃあ、オレもこれがいい」
可愛い彼女に支払いはさせられないというのがソーマの考えだ。だますようだが仕方ない。
「売店が混みそうだな。俺はチケットの列に並ぶから香月は飲み物を買ってきてくれるか?」
そう言って札を差し出す。
「いいぜ。けど金は自分で出す」
「言い方は悪いが使い走りのようなものだ。奢らせてくれ」
香月は納得したようで売店へ向かった。ソーマが全ての支払いを済ませたと気づいたのは上映開始後だった。
物語の中の少女は祖父が残した刀を振るって、悪と戦う。時に孤独に苛まれながら彼女は足を止めない。一見無表情な彼女だが、祖父の墓前に語り掛ける時だけは優しい表情を見せる。今は祖父と幼い彼女が出てくる回想シーンだ。
(……やべ、涙が。いつもなら袖で拭けるけど……)
隣からハンカチが差し出される。暗かったけれど、彼は愛しそうに香月を見ていて――。『わりぃ』と口パクで言って下を向いた。
「いま話題の怪獣映画を観に行くわよ! 特撮好きとしては、コレを観ないわけにはいかないわよね!」
スカートを翻し足を速める朝霞。映画は逃げないと思うのだが。
「映画を見るのにはそれなりの作法があるのよ!」
ポップコーンとコーラをセット。パンフレットは購入済み。完璧な布陣だ。一人で堪能するのも良いけれど、二人で見れば感想を言い合う楽しみがある。相手から疑問が出れば自分が解説しよう。特報を指して何か言おうとする相棒に、朝霞は「しー」と人差し指を立てた。
●大猩々屋敷への挑戦・その1
「子供1人」
「怖いお化けがいるから気を付けてね」
店員の言葉に吹き出しそうになった。ヒルフェの体が霧状に変化する。
「許可ハトッテネエガ、マアイイダロ」
ホラーは、タイミングとスピードが命。まずはじっと待つ。そして客が自分に気づいたら、じりじりと寄っていく。
「いやあああああ」
派手なカップルが猛ダッシュで逃げていく。ヒルフェも鬼ではない。全力で脅かすのはいけ好かないリア充だけである。が。
「ぴゃあああああ!!! りゅ、リュカ、逃げますよ!」
「ン?」
驚かすまでもなく脱兎のごとく逃げ去った者たちに、ものすごく見覚えがあった気がした。
時間は少し遡る。お化け屋敷の受付は酷く陰気な女だった。
「まあ、可愛いお嬢ちゃん」
赤い舌で唇をペロリ。征四郎が悲鳴を我慢して受け取ると、それは日本人形。
「殺された女の子のお部屋へ返してあげて。適当な場所に置いてきちゃ駄目よ。……貴女の家まで『ついて』きちゃうから」
なかなかの役者だと感心しつつ、ガルーも人形を受け取る。
「この1年でちいとは怖がり克服したか、後でリュカちゃんに聞くからな」
「ま、まっかせてください! リュカ、いきますよ!」
小さな手がリュカの手をぎゅっと握る。包むように握り返して後発組に手を振る。入るなりギィという音がして征四郎の身が大きく跳ねる。
「家が軋んだだけみたい。ちょっとびっくりしたね」
驚いたのは事実なのでそう言ってみる。征四郎が『ちょっと』どころではなく怖がっているのは感じ取れるけれど、気づかない振りだ。
「殺人事件って、ほんとにあったのでしょうか……?」
「ふふーふ、あったかもねぇ」
断続的に聞こえるのは風の音か、死者の呻きか。征四郎は何としてでも風のいたずら説を推したいのだが。
――返して。お人形。返してェエ。
「う……」
涙がじわりと湧き出して、悲鳴も出ない。
「うん、返してあげる。待っててね」
「リュカ……」
穏やかな彼の声と体温。心の中の何かが溶けていく。恐怖心、そして強がり。
「ガルーには秘密ですけど、怖くないことないのです。今でもおばけ、怖い……」
強がるのは置いていかれたくないから。子ども扱いは嫌だから。でも今は、リュカは置いていかないってわかるから。
「リュカは全然怖くなさそうですけど、その、なにかコツとかあるのです……?」
「コツかぁ、んーん……そうだね、今はせーちゃんがいてくれるからかな!」
「征四郎が?」
その言葉が何より嬉しい。
「これ、早く返してあげよう。持ち主の子、きっと寂しがってるから」
ぎゅっと手を握り合ったふたりは、少女の部屋へと辿り着く。母に抱かれた少女――ここだけはホログラムが使用されている――は光の粒となって消えた。
解放されたかに見えた屋敷に現れた霧状の人物に征四郎が悲鳴を上げたのは前述の通りである。
「リーヴィはお手手繋がなくても大丈夫?」
差し出された手に、そっぽを向き余計なお世話だと返す。
「やだもう可愛げねぇなぁ」
楽しそうに言うガルーと仏頂面のオリヴィエが屋敷に侵入する。ガルーはこっそり同行者の歩幅に合わせて歩く。ふたり並ぶのがやっとの狭い廊下だ。
「あ、そうそう」
ガルーが言う。だがそのとき、突然斜め後ろのふすまが空く。
「どっちかっていうとお前撃つなよ? あれ中身人間だからな」
言われたオリヴィエは、悔し気に銃をホルスターに収める。反射的に手に取ってしまったのだ。
「まぁ、お前さんらしいとこは嫌いじゃないけど」
廊下を逃げながらガルーが言う。言葉に詰まったオリヴィエは、結局聞こえなかった振りをした。
●お買い物もお食事もお任せ☆
「あ、古本屋」
『ちょっとだけ覗いていこうか?( *´艸`)』
ベストセラー本や人気コミックの題が掛かれた派手な看板。忙しそうに歩き回る店員。通路を埋め尽くす立ち読みの人々。
「全然、違う」
住み家としている古書店との違いに、和香は興味津々といった様子だ。
『最近はこういう古本屋の方が多いんだって(゚д゚)!』
「いつか、翡翠堂、大きくなる?」
その眼には和香自身も自覚がないような、おぼろげな不安。だからカルディナは断言する。
『ならないよΣb( `・ω・´)』
映画はハッピーエンドで、エンドロールが終わった瞬間ふたり同時に安堵の息を吐いた。それがおかしくて笑う。
「もうこんな時間か。和香もカルも腹減らしてっかも」
「フードコートで合流しよう」
先に到着してメニューを決めた後、「目が赤いぞ」と言われた香月は急いで手洗いへ。またしても支払いの機会を逃して悔しがるのだった。
「これが今の流行りかね?」
「……ん、皆持ってるって、言ってた」
「ならこれが駄々っ子対象か……」
変身ヒーローのおもちゃを前にメモをとる遊夜。真剣な顔でリーヤが頷く。
「……ん、予算組む」
資金繰りは厳しいがそこは腕の見せ所。例えば。
「……ふむ、この辺は買っとくか」
「……ん、これは必要」
野菜の絵が表紙の参考書。食費節約の為、家庭菜園の規模拡大は急務である。人気児童小説の最新作は売り切れないうちにキープするとして、後は子供たちと相談しながら買うのも楽しいだろう。
「ビアガーデンは屋上庭園にあるんだったか。子供たちは喜びそうだ」
店員に聞いてみると家族連れも多いそうだ。
「ふむ、居酒屋メニューにドリンクでも行けそうだな」
「……ん、普段食べないのも多い、喜ぶと思う」
レストラン街に移動したふたりを誘うのは、肉食べ放題バイキング。
「ガキ共の為にも今は節約せんとな」
「……ん」
まさにシャングリラ。蕩けた表情でふわふわの尻尾を揺らしながらも、ほのぼのできない勢いで肉を頬張るリーヤ。元を取るのは容易だろう。遊夜は心の中で声援を送った。
「ふむ、うちの新商品が充実しているな」
ウインドウショッピングの合間にグロリア社員としての市場調査、というのがいかにも正護らしい。特にお目当ての品が無くても案外時間が潰れるものだ。リアは家電売り場や雑貨屋などを大抵はぼんやりと、時には興味深そうに眺めていた。
「『振るだけ☆アイスメイカー』……?」
買うべきかどうかリアが悩んでいると、店内放送がイベントのお知らせを始めた。
●夏のデザートはいかが?
「ん、かき氷でやがりますか……ってやたらでかくねえです? あれ」
見ると『タワーかき氷チャレンジ☆』という垂れ幕。店員が寄って来てルール説明をする。
「む、無料!! だがこのデカさ………くっ、背に腹は変えられん!! あたしだけでも!!!」
「普通ので十分でしょー、というかわざわざあんなん食う必要もねーでしょーよ」
「そ、そっか……そうだよな」
フードコートで普通のかき氷を頂くことにする。
「あたしは……グレープにするから、フィーは何がいい?」
「じゃー、メロンで」
有言実行で、支払いはアルトだ。コツコツ貯めたのであろう硬貨を寄せ集める少女を店員が優しい眼で見ていた。
「あんたさんの方も少し貰っていいでしょーかね? こっちも少しあげるんで」
フィーが口を開ける。
「ば、ば、ば、ばかじゃねえの!?」
「ほら、溶けちまいますよ」
「う……1回だけだからな」
お返しに自分もスプーンを差し出すと、少し躊躇いつつも食べてくれた。
「あ、そうだ、ちっと目を閉じててもらっても?」
「……はぁああああ!!! え、ちょ、ここで!!!」
周りが大声に振り返るが、すぐに興味を無くす。
「え、えと……えと……め、目ぇつぶりゃあ……いいんだよな……へ、変な事、すんじゃねーぞ……」
アルトは目を閉じてじっと待つ。鼓動が高鳴る。震えが止まらない。そっとこめかみあたりの髪を梳かれ、後ろに流される。
「目開けていーですよ」
(え? だってまだ……)
戸惑いながら、アルトが震えるまつげを持ち上げる。
「私普段こういうの買わねーから疎いんでやがりますがー、まぁ付き合って貰っちまったお礼っつー事でね、安モンで悪いですが」
フィーは内カメラを起動させたスマホを渡す。髪につけられたヘアピンを見て、これ以上ないくらい真っ赤な顔のアルトが意外そうな表情をした。
「ん? あんたさんなにを期待したんで?」
「……バカ―! あたしの……あたしの……――……を返せー!!!」
涙目になりながらフィーをポカポカ叩く。
「あたしの……何でごぜーますか? よく聞こえなかったんですがねー」
「誰が言うかバカー!」
その答えはアルトの心の中にしまわれたのであった。
この日、シャンゴリラに伝説が生まれた。白百合模様の白い浴衣を身に纏う純白の美少女。しかしその実態はブラックホール。
「……お代わり、お願いします」
一杯目のイチゴ味を途切れることなく食べ続けたリアは、次の獲物をメロンの緑に染める。正護が見る限り、タワーかき氷の完食に成功する者自体が稀だ。青い顔で腹を抑える男からかき氷を取り上げる。
「そんな! 勿体ない!」
「挑戦権を放棄すれば連れと分け合うこともできる。金が勿体ないというのなら今後は無茶をしないことだな」
正護に貫録負けした男だが、恐らく彼より年上である。
「次はレモン……」
結局リアのペースは4杯目を完食するまで落ちることがなかった。店員が興奮気味に言う。
「成功者様のポラロイド写真を展示してるんです。一枚良いですか? むしろお願いします、拡大コピーして殿堂入りとして張り出したいので!」
リアが正護を探すとなぜか店員に指導を行っていた。メニューだの、安全面だのという言葉が漏れ聞こえる。彼に休日という概念はないのかもしれない。
●大猩々屋敷への挑戦・その2
『和香君、お化け屋敷に行こうよ!』
「お化け屋敷、なに? カル、行く? なれば、拙者も」
首をかしげる和香。お化け屋敷は未体験のようだ。
(お化けとか信じてないから、僕は怖くないけど、和香君はどうだろう)
一抹の不安を抱えながらカルディアは出発する。和香は片手に日本人形、片手に武器をぎゅっと握っている。
「痛い……痛いィ……」
着崩れた白い着物の男が言う。異様なのは腹部に広がる真っ赤な染みだ。情けない台詞を吐いているが、襲われるのは間違いない。
『お化けだよ、逃げよう!( >Д<;)』
幸いにも看板の文字は読めるくらいの明るさだ。
「お化け、敵?」
カルディアは武器を構えようとする和香を急いで制止する。
『待って、待って、和香君!! 武器は(乂・ω・´)ダメェー』
「敵じゃない?」
首が何度も縦に振られる。紙袋が激しく鳴った。――多分、この場で一番恐怖を感じたのは幽霊役の従業員である。このあともカルディアの看板は数回活躍するのだが、『焦り』や『驚き』の顔文字が踊っていたことは言うまでもない。
一方、古賀夫妻は。
「お、おばけ……暗いのも怖いのもやなのにぃ……うぅ……離れないでね?」
ぎゅっと身を縮めた菖蒲は始終佐助にピッタリとくっついたまま。ろくに目も開けずに引っ張られていく。
「大丈夫だって、何があってもオレが一緒についてるからさ!」
「うん……」
力ない声、いつものようには続かない会話。自然、そのほかの音が耳に良く入るわけで。
「何故ェ……なぜ殺したあぁアあァ」
井戸の中から髪を振り乱した女性が現れる。全身は青白く発光していて、目はうつろだ。
「私は死んだのに、その女は生きている。ずるい……あなたもこっちに」
より怖がっている方を名指しという作戦は効果的かもしれないが、今回ばかりはよろしくない。佐助は片手で優しく菖蒲の体を包み込み、もう片方の手で「抑えて抑えて」のジェスチャーをする。
女は真っ赤な歯を見せて口が裂けんばかりに笑った。佐助も流石に不気味だと思った。しかし彼女の親指がぐっと上向きに立てられたので脱力した。
「あいつ足が遅いみたいだ。落ち着いて避難しような」
頭をポンポンと撫でる。菖蒲の眼が一瞬だけ開いて佐助を見つめると、安心したようにまた閉じる。至近距離で涙目の上目遣い。が、ときめいている場合じゃない。
「ほら、もうちょっとだから頑張ろうぜ、アイリスちゃん」
屋敷を出ても佐助にくっついたまま震える菖蒲を連れて、佐助は屋上へと向かった。
「こういうアトラクションは久々だな、昔とどう変わったやら」
遊夜は眼鏡を押し上げ、大掛かりなセットを見上げる。
「……ん」
リーヤは別の闘志を燃やしていた。背中からおぶさるように抱き着いても、遊夜は無反応。危険がないか確認中だ。
「……ん、おとーさんは、心配性だねぇ」
咎められないのならリーヤにだって考えがある。温かい背中に頬ずりしてみたり、すんすんと遊夜の香りを吸い込んだり。手を伸ばしてくる霊なんて目に入らない。――井戸から漏れる「恨めしや」は実感が伴っていた。
「うむ、お化け役も上々、他も危険なし……問題ないな」
「……ん、本番が楽しみだね」
出口の明るさに目を細めて満足そうにふたりは言った。
●最後は花火で
日が落ちた。さりげなく香月を前にしてエスカーレーターに乗り込み、これからの予定を話し合う。
「どうした、香月。疲れたなら、遠慮なく言えよ」
「いや、その……たまたま、聞いたんだけど」
小さくなっていく声に耳を澄ます。
「ここの屋上、花火が見えんだって。だから、その……」
「行こう。俺も香月と一緒に見たい」
香月はソーマに背を向けてしまう。顔が見えない代わりに耳が赤く染まるのをソーマははっきりと見た。
シャンゴリ☆ビアガーデンは盛況を見せていた。
「とりあえず、ビール中ジョッキで!」
「俺は、エール酒だな」
「中ジョッキ2つでお願いします!」
「おい」
ツッコミを受け流して朝霞はメニューを開く。
「朝霞、これはなんだ?」
「えいひれ? エイって魚のひれを乾燥させたのよ。食べてみる?」
頷くと、朝霞の元気な声が遠くの店員に飛ぶ。
「すみませーん! 枝豆とー、焼き鳥盛り合わせ! あと、えいひれください!」
間もなくビールが2つ届く。
「それじゃニック、かんぱーい!」
「乾杯」
景気よくグラスをぶつける。
「ぷはーっ! 最初の一口がおいしいのよね! 最高よね!」
「そうだな。エール酒は最高だな」
律儀に謝る朝霞に「これも悪くない」と返す。喉の渇きに染み入る風味だ。
「あ、ニック。えいひれがきたよ。どう?」
「……あぁ。なかなかイケるな」
20歳の女子と異世界の青年は、順調に日本の居酒屋に染まっていくのであった。
押し寄せる熱気。佐助は妻を促しかき氷を注文する。
「お、アイリスちゃんはイチゴか、それも美味そうだなー」
「はい佐助、あー……ん、どう? 美味しい? えへへ~♪」
「んじゃ、オレもお返しに、はい、あーん」
「ん、ブルーハワイも美味しいね♪」
周りは夏だがここだけは春色だ。色づいた舌を見せ合って笑う。
「お、花火始まったぜ! ちょっと遠いかもだけど、十分見えるし、綺麗だなー、たーまや―……ってな」
菖蒲が別の方向を指さして佐助の肩を叩く。
「あ、見て見て!あれあの花火お花みたいだよ~、かーぎやー♪……あれ?」
菖蒲の髪にはこっそり買っておいた簪。
「……はい、アイリスちゃん、プレゼントだぜ。さっき怖がらせちゃった、お詫びも兼ねてな」
「ううん、別にもう大丈夫だよ。それに佐助いたから頑張れたんだもん」
袖の中から袋を取り出し、中からS.Kのイニシャルペンダントを取り出す。
「実はね、私も準備していたんだ……」
佐助の首の後ろに手を回して留める。
「すっごく似合うよ♪」
「これからもよろしくな、アイリスちゃん。来年もこうやって、2人並んで花火でも見ようぜ?」
菖蒲は笑顔で頷く。
「こちらこそ、これからもよろしくね♪ 来年もこーやって花火見るの、約束だよ♪」
正護と保冷剤入りの袋を下げたリアもビアガーデンへ。ノンアルコールビールとデザートドリンクで乾杯だ。リアの食欲――ただしスイーツ限定――に舌を巻いていると、知った声が聞こえた。
「初代が至高って言われるけど私的には2代目も悪くないと思うの!」
朝霞たちと相席して飲んでいると、リアが呟く。
「……花火、綺麗ですね……」
「ああ」
そして正護に凭れて眠ってしまった。正護はリアをおぶって帰るのは勿論、出来上がっている朝霞たちの引率も視野に入れた。
別の席には香月とソーマが。
「あ、香月」
相棒と感動を共有したかったのだろう。行きたそうにする和香の肩に手をかけてカルディアは首を振った。「あっち→」と促すカルディアに和香は渋々ついていく。
『頑張ってね、ソーマ( *・ω・)9゛』
気配に気づいたソーマにカルディアは小さく手を振った。
「向こうでも花火はあったが、ここまでは綺麗じゃなかったな」
「ふーん、そうなんだな。なら、これから一緒にいっぱい見ようぜ」
花火を目で追いながら何でもないような調子で言う。ノンアルコールのカルーアミルクを一口飲むと、ソーマを見て微笑んだ。
「そうだな。次はどこに行こうか?」
「もう次の予定か? 気の早えー奴」
並んで光の花を見つめるふたりの背中は幸せに満ちていた。彼女となら、きっとこれからだってずっと――。ソーマは「綺麗だな」という声に相槌を打ちながら、恋人の顔を盗み見た。
「本当に、綺麗だな」
――シャンゴリラ閉店です! またのお越しを!
結果
シナリオ成功度 | 普通 |
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