本部

神社護衛騎士団ここにあり

弐号

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
7人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/08/25 21:03

掲示板

オープニング

●和風神殿
 異質。あまりにも異質。
 ここは都内のとある神社の境内である。
 そこそこの広さを誇り、毎朝敬虔な神主が一日もさぼる事なく掃除をし、清潔を保っているいかにも日本的な牧歌的風景。
 その境内に突如巨大な西洋甲冑が居座っていた。
「……ええと」
 日課として掃除をしに来た神主が思わず言葉を失い立ち尽くす。
 しかも一つではない。ずらっと並ぶことおおよそ十数体。
 まるで神殿を守る騎士のように、鳥居から本殿に至る道の両脇に綺麗に整列して直立していた。
 そして、その最奥。賽銭箱の前にひときわ大きい、おそらく5mほどはあろうかというほどの巨大騎士甲冑。
「従魔でしょうか? なんというか、せめてもう少し景観との調和を図ってほしいものですが……」
 どこかずれた感想を神主が呟く。
 鎧たちは剣を掲げ、今のところ動く様子はない。
 まあ、だからといって近づく気には全くなれないが。
「……とりあえず、H.O.P.E.にご連絡致しましょうか」
 神主は落ち着いた様子でそう言って、本日立ち入り禁止という張り紙を張ってその場から立ち去る事にした。


「とりあえず、現状はまだ被害は出ておりませんが……」
 ジェイソン・ブリッツ(az0023)が資料を開きながらエージェント達に告げる。
「当然ですが放っておくわけにはいきません。小さい方の鎧の数は全部で10体。それなりに多いですが、恐らくミーレス級で、一体一体は左程強敵ではないでしょう。大きい方はデグリオ級と思われます。こちらは多少注意が必要です。ですが、皆さんなら問題なく対応できるはずです。よろしくお願いします」
 机に資料を置き、ジェイソンは一つ頭を下げた。

解説

●敵
・ミーレス級従魔「リビングメイル」 10体
 西洋騎士甲冑の姿をした従魔。
 鎧そのものが本体で中身は存在しない。
 見た目通りそれなりにタフだが、足はあまり早くない。メインウェポンは両手剣だが、場合によっては弓も扱うようである。
 神社の境内に侵入した者、あるいは危害を加えようとする者をを攻撃するようだ。


・デグリオ級従魔「リビングナイト」1体
 5mほどある巨大甲冑。
 ハルバードを片手で操り、逆の手に巨大な盾を装備している。
 動きは左程早くないが、巨大な分攻撃範囲は広い。


●場所
 神社の境内。
 それなりに広く戦うのには不自由しないだろう。
 神社に行くまで100段ほどの長い階段があり、ここから転げ落ちるとそれなりに痛い上に多少時間のロスがある。(共鳴中であればダメージは無い)
 小高い丘の上にあり、周辺では一番高いロケーションである。

リプレイ

●荘厳なる違和感
「なるほど、こりゃ確かに似合わねぇな」
 百段もの階段を上った先に見えてきた神社の境内を目にして赤城 龍哉(aa0090)が苦笑いを浮かべる。
 神社の鳥居の向こうにずらりと並ぶ西洋鎧。不思議な光景が視界に広がる。
「せめて鎧兜なら様になったでしょうに」
 その傍らで頷くのは龍哉の相棒であるヴァルトラウテ(aa0090hero001)だ。そういう彼女の恰好はどちらかというと従魔達の恰好に近い白銀の鎧ではあるが。
「……ある意味テンプル騎士団という事でしょうか?」
 九字原 昂(aa0919)が呆れたように頭を掻く。
「……う。何となくオレ的に苦手な空気がするのは気の所為?」
「何だ、カール。疚しい過去でもあるんじゃないか?」
 苦虫を噛み潰したような顔で言うカール シェーンハイド(aa0632hero001)にレイ(aa0632)が珍しくどこか楽し気に問いかける。
「……っな! そんな過去、オレが持ってるわけないじゃん! レイ、酷い……っ!」
 カールの子供っぽい仕草に、口に咥えていた煙草を携帯灰皿に運びレイは喉を鳴らして笑う。
「ジンジャとは神聖な場所だったか?」
「うん、静かで凛とした雰囲気で俺は好き。」
 顎に手を当て考えるナイン(aa1592hero001)に楠葉 悠登(aa1592)がニコッと笑顔で伝える。
「……今は全然違うけどね。従魔を退治して取り戻さなきゃ……」
 言葉の途中で表情を引き締めて鎧の群れを見やる。
「従魔を倒すのはもちろんだが、中の神に失礼のないようにな。異教の者も多いだろうが、郷に入っては郷に従うというものだ」
 鳥居を下から眺めながら霧島 侠(aa0782)が言う。
「鳥居を前に一礼」
 そう言って侠が礼をすると他の数人も習って礼をする。
「参道の真ん中は神の通り道だ。人間は端に寄り……」
「オレ、一応神様だけど」
 侠の話の途中で『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)が自分の顔を指さす。彼女は自称ではあるが、一応異国の神である。
「……」
 しばし見つめ合う二人。
「なら良い。真ん中を通っていいぞ」
「えっ、いいんですか!?」
 てっきり怒られるとばかり思っていた新星 魅流沙(aa2842)が素っ頓狂な声を上げる。
「日本では異国だろうと異世界だろうと神は神だ。問題ない」
「真ん中が神様の通り道となると……」
 稲穂が参道の先を指さしながら呟く。
「アレはやっぱり邪魔よねぇ」
 その指の先にいるのは凄まじく巨大な体を持つ鎧の従魔。その背はおおよそ5mに達しようかというほどであり、小柄な稲穂(aa0213hero001)ではこの距離でも少し首をあげ見上げる必要があるほどの巨体であった。
「いやぁ、でかいでござるなぁ!」
「感心するのはいいけど、もっと気を引き締めて!」
 どこか楽し気な声を上げる小鉄(aa0213)の袖を引っ張り稲穂が注意する。
 巨大なものを見て喜ぶのはある種、男のサガである。
「ふん、つまりはあの従魔を滅ぼせばいい話しなわけだろ」
 煙草の煙を燻らせながら黛香月(aa0790)が従魔を睨み付ける。
「なんだか久しぶりね、この手のシンプルな仕事」
「いや、まったく。ここ最近癖のある敵とばかりだった」
 感慨深く言うのはリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)とクレア・マクミラン(aa1631)の二人。
「今回はどう見ても正面からガチンコって奴だな」
「悪の従魔を倒す! それこそが正義の正しい行い!」
 龍哉が力強く胸元で拳を合わせて気合を入れる横でユーガ・アストレア(aa4363)が勢いよく叫ぶ。その後ろには彼女の英雄兼従者のカルカ(aa4363hero001)。
「ご主人様の御心のままに。有象無象の区別なく、一切合切を切り捨てて下さいませ」
 カルカは恭しく頭を下げ主人の言葉に同意する。
「敵は明らかに力押しタイプでござる。怪我したときはクレア殿、頼むでござるよ」
「分かってますよ。衛生兵の名に懸けて救いますから。多分、小鉄さんには必要ないと思いますけど」
 小鉄の鍛え抜かれた体を見ながらクレアが返す。
「前置きはそろそろいいだろう」
 香月の神が黒から透き通った銀色へと変化していく。
「勝負だ、従魔ども。貴様らと私の宿命の戦いだ!」
 香月の怒りに満ちた声が戦いの開始の合図となった。

●正義執行!
『サイドついたぜ。準備はいいか?』
「こっちは万端だ、九字原は大丈夫か?」
 レイからの通信を受け、龍哉が周りの反応を見てから返す。
『いつでもどうぞ』
 境内の横手の茂みに身を隠した昂から応答が返ってくる。
「開戦だ。ライヴスフィールド、展開!」
 侠の宣言と共に、彼女の頭上を中心に光輪が広範囲にわたって広がっていく。
『まずはアルペジオで畳みかけるぜ』
 真っ先に動いたのはレイ。立ち並ぶ鎧達に続けざま3発の弾丸が叩き込まれる。
 鋭い金属音と共に鎧達がバランスを崩す。
「見た目通りの固さですね」
 レイの弾丸が貫通しなかったのを確認してクレアが呟く。
 参道に並んでいた鎧達は一斉に弾丸の飛んできた方へと体の向きを変えた。
 ガッチャガッチャと騒がしい音を立てながら騎士団が境内の右手の方へと移動していく。
「今です! ゴーストウィンド!」
 騎士達が参道の横からどけたタイミングを見計らって、魅流沙が魔力の乗った風を吹き付ける。数体の鎧が風に煽られてその装甲の表面を溶かす。
 移動中に背後からの攻撃を受け、鎧達のいくつかが鳥居の方を振り返った。
「どこに目を付けてるんですか。こっちですよ」
 その振り返った数体を昂の投擲した女郎蜘蛛が拘束する。
「……って、もともと持ってませんでしたっけ」
「その隙、もらうぞ!」
 好機と見て香月が一気に拘束されたリビングメイルたちへと迫る。
「蹴散らす!」
 両手に光刃を握り、拘束された鎧や先ほど防御の劣化した鎧を次々と斬り付けていく。
「今でござる!」
「おう!」
 それを合図に正面で待機していた面々が一斉に境内に流れ込む。ある者は正面のリビングナイトに、ある者は右手のリビングメイルの集団へ。
 その動きを察してメイルの一部がナイトへ向かう一行の進路を塞ごうと動く。
「カオティックソウル!」
 ユーガがそう叫ぶと共に全身が真っ赤に輝く走行で覆われていく。それは彼女が正義を執行する戦闘装束。
「存在が悪! よって成敗!」
 ビシィっとその道を塞ごうとしたメイル達を指さすと、その頭上に無数の短剣が浮かび上がる。
「降り注げ!」
 宣言と共に雨の如く短剣が降り注ぐ。メイルも剣で防ごうと試みるが、如何せん数が数だ。防ぎきれるものではない。
 兜や鎧をベコベコにへこませながらメイル達が剣を振り回す。
「正義の前に粗大ゴミになってリサイクルされるがよい! ハーッハハハ!」
 腰に手を当てたユーガの高らかな笑いが境内に響き渡った。

●巨人襲来
「よし、小さい方は振り切ったでござるな!」
「俺達も行くぜ、小鉄さん!」
 メイルの集団と仲間たちが戦っている間に小鉄と龍哉の二人が参道を真っすぐに突っ切って巨大鎧へと迫る。
「まずは、挨拶代わりだ! 食らいな!」
 龍哉が手に屠剣「神斬」を掴み、縦一文字に振るう。
「行け、烈華!」
 振るった斬撃がそのままライヴスの刃となってリビングナイトへと迫る。
「――」
 その巨大な騎士は左手に持った盾を前に突き出し、その刃を受け止める。
 無論それは想定通りだ。直撃を狙うには距離があり過ぎるし、なにより素直過ぎる。つまりこの攻撃の意図はダメージではない。
「よし、釣れた!」
 リビングナイトがゆっくりと前に出始めたのを確認して龍哉が叫ぶ。
 その目的はリビングナイトの注意をこちらに向ける事、そして神社の本殿から遠ざける事だ。
「拙者は回り込む故、こっちはお願いするでござる、赤城殿!」
「おう、そっちはよろしく頼むぜ!」
 参道から外れ、裏へと回り込もうと進路を変える小鉄に一声掛け、龍哉が剣を正眼に構える。
「お前の相手は俺達だ。ふんぞり返ってる場合じゃねぇぜ?」
 ニヤリと笑い、まっすぐ巨大騎士を睨み付けた。

●鎧断ち
「食らえっ!」
 悠登の横薙ぎに払った槍がリビングメイルの頭を強く叩く。
 ガツンという金属音。
 本来ならそれで頭の部分が吹っ飛ぶはずであるが、目に見えない力で支えられているのか、ガクンと横に傾くのみで終わる。
「っと、やっぱり硬いな」
 とどめを刺しきれない事を悟った悠登が素早く槍を引き後ろに下がる。
「――」
 この従魔に感情があるかどうかは定かではないが、少なくともやられたらやり返すという行動原理はあるらしい。悠登が退いた分を詰めんとメイルが剣を担ぎ追う。
『悠登、来るぞ』
「任せろ!」
 それを見て引いた槍をくるりと一回転し、槍を脇に構える。
 激しい激突音。
「――!」
 メイルが袈裟切りに振り下ろした剣は、槍とは逆の手に装着した銀色の盾により防がれていた。
「俺も守りの固さには結構自信があってね」
 メイルの空っぽの目元をみてニヤリと笑う。
「足を止めたな」
 剣を防がれ動きの止まったメイルを、クレアの大剣が後ろから一刀両断にする。
「さすが」
「まず、一体」
 両手で振るったそれを再び持ち上げ構えを取る。
 一刀の元に鎧を切り裂いたクレアの攻撃力を警戒したのか、何体かのメイルがその切っ先を彼女へ向ける。
「面倒だ。ミーレスごときにいつまでも時間はかけられん。まとめて来い」
「俺も忘れないでくれよ」
 その挑発が聞こえたのか否か、クレアと悠登に数体のメイルが襲い掛かった。

●包囲持久戦
「フン!」
 侠が飛んできた矢をシールドで弾き飛ばす。
「狙われているか……」
 続けて正面から剣を振り上げつつ迫るメイルを見ながら呟く。
 フリーの敵を作らないために複数の敵を相手取っているが、それが故にほぼ囲まれる状況が作り出されてしまっている。
「お邪魔します……!」
 と、横合いから鋼線で結ばれた二対の短剣が飛来し、リビングメイルの手首に巻き付いていく。
 昂の投げたハングドマンだ。
「礼を言うぞ、九字原」
 生じた隙に侠の手がメイルへと向けられる。
「ブラッドオペレート!」
 侠の生み出したライヴスの羽毛の様な刃ががメイルに吹き付ける。
「くっ、倒しきれんか!」
 後ろにバランスを崩しながらも踏みとどまったメイルを見て侠が口惜し気に漏らす。
「なら、壊れるまで殴るまでだ!」
 横から突っ込んできた香月がライヴスを大量に込めた重い一撃を叩きつける。
「――」
 メイルの胸元が大きくへこむが、しかし未だ倒れない。
「しつこい! 大人しく寝ていろ!」
 体勢を立て直した侠が正面から力任せにバンカーメイスを叩き込み、兜が完全に陥没する。
 ほぼスクラップと化し、ようやくそのメイルは動かなくなった。
「攻撃は何とかいなせるが、如何せん破壊力不足だな……」
 油断せずメイスを構えなおし、香月と背中合わせに辺りを警戒する侠。
 その視界の隅に弓を構えるメイルの姿が映った。
「矢が来るぞ、黛!」
 咄嗟に背後の香月へ警告する。
「む……?」
 が、弓を構えていたメイルが急にバランスを崩し、弓を取り落とした。
『動きがトロいから狙いやすいぜ』
 通信機から聞こえたのはレイの低い声。どうやら状況を察知した彼がメイルの持つ弓を撃ち落としたらしい。
『弓持ちは俺と正義馬鹿でやる。そっちは近接に専念しろ』
『誰が正義馬鹿だ! だが、心得た! 悪を滅する為に従おう!』
「有り難い。恩に着るぞ」
 軽く帽子を被りなおし礼を一言いうと、侠は目の前のリビングメイル達を睨み付けた。
「神の住処を侵す不心得者共にはお仕置きをしてやらんとな!」
「さあ来い、その首を狩らせろ。私の怒りが、憎しみが収まるまで!」
 侠と香月の気迫がまるで風のようにリビングメイル達に吹き付けた。

●巨体震撼
 ズシン、とその巨体が動く度に軽く地面が揺れるのを龍哉は知覚した。
「重そうだな。ま、当たり前か」
『呑気に喋ってる暇はありませんわよ』
「言われんでも!」
 龍哉が剣を構えなおす。
 騎士の動きは見た目には鈍重だが如何せんあの巨体である。歩幅の大きさ故に接近する速度は見た目以上に早かった。
 そして――
「来る!」
 その巨体故武器の射程もより長い。
 5、6mは離れた間合いから一気にハルバードを振り下ろす。
「ちっ!」
 ハルバードの先端が参道の石畳を叩き割る。
 身構えていたから避けられたものの、ハルバードの先端速度は想像よりかなり速い。
 威力も無論、推して知るべし。
「お主の相手は此方でござる!」
 リビングナイトの背後に回り込んだ小鉄が刀を担ぎ接近する。
「――」
 しかし、如何せん距離がある。リビングナイトは一切小鉄の方を振り返らず、地面に突き刺さったハルバードを、まるで時計の針のように回転させ小鉄に振るう。
「うぬっ!」
 地面を這うように迫るその攻撃を跳んで躱す小鉄。
『こーちゃん、前!』
 稲穂の声に視線を上げると目の前にはナイトが左手に持つ巨大な盾。
(いかん!)
 空中では体勢を変えられない。いや、何より盾が大きすぎる。ここからの回避は不可能。
(南無三!)
 現状選択の余地はない。覚悟を決め防御の態勢を取る小鉄。
「♪~」
 しかし、ナイトが盾を突き出すよりも早く、小鉄の後ろから高らかな歌が聞こえる。
「――!」
 その歌に押されるかのようにナイトが後ろにつんのめる。
 魅流沙の放った精霊の詩である。
「ま、間に合いました!」
『間一髪だな!』
 魅流沙がほっと胸を撫で下ろす。境内の入口からここまでライブスラスターで一気に移動し、敵の盾を押し戻したのだ。ギリギリのタイミングであった。
「かたじけない」
 小鉄はその間に地面に着地し、ナイトが体勢を立て直すより先に一旦距離を取った。
 その今まで小鉄がいた空間にナイトが全体重を掛けて押し込んだ盾が大きな音と共に叩きつけられる。
「助かったでござるよ、ニボシ殿」
「ニイボシです! ニ・イ・ボ・シ!」
『おいおい、コントやってる場合じゃねぇぜ』
 リビングナイトがゆっくりと立ち上がるのを見ながらシリウスが呼び掛ける。
「今度はこっちだ、デカブツ!」
 結果的に背後を取る形になった龍哉が再び斬撃を放ち攻撃を仕掛ける。
「――」
 即座に振り返り、これを盾で防ぐ騎士。
 その動作を見て小鉄がボソリと呟いた。
「赤城殿。この従魔、もしや死角が無いのでは」
「……」
 通信機越しに拾った小鉄の呟きに考える。
 確かに言われてみればそもそも目が無い。人の形をしているので何となく人と同じように考えてしまっていたが、考えてみればあり得る話である。
「面倒くせぇ奴だな!」
 思わず本音がそのまま口から洩れる。
『自棄になるのはよくないですわよ』
「分かってる。……見たところ動き自体は大した事はねぇ。とにかくデカくて長いのが厄介ってだけだ」
 冷静に状況を思い返し、敵の能力の把握に努める。
『ドロップゾーンを展開するような従魔達に比べれば、ですわね』
「ああ。さあ、こっからが本番だぜ!」
 気合一新。剣を握りなおし、龍哉は巨大騎士に向かって駆けだした。

●掃討戦
「半数ほどに減ったか……」
 クレアが数の減った敵を数え、ちらりとリビングナイトの方へと視線を向ける。決して劣勢というわけではないが、攻めあぐねている雰囲気だ。手数が足りないのだろう。
「こちらは任せる。私はデクリオ級を叩きにいく」
「了解。任せて」
 悠登の返答に無言で頷き、クレアが踵を返しリビングナイトの方へと駆け出す。
 その前に一体のリビングメイルが立ちふさがる。
「切り伏せる、止めてみろ」
 リビングメイルの振り下ろした長剣と、クレアが振り上げた長剣が激突する。
「くっ」
 そのまま鍔迫り合いへと移行し、リビングメイルが上から力任せに上から押さえつける。ミーレス級とはいえ従魔は従魔。単純な膂力では上回られている。
 だが――
「隙だらけですよ」
 潜伏で気配を消し近づいた昂が、背後からメイルの胸を孤月で刺し貫く。
 それで力尽きたのか、孤月に刺さった胸部部分のみを残して鎧が瓦解し、ガランと音を立てて崩れた。
「さあ、早く」
「すまん、助かった」
 短く最低限のやり取りだけ交わして、クレアがその場を立ち去る。
「――!」
「おっと!」
 クレアを見送った昂に斬りかかってきた剣を寸でのところで屈んで避ける。
「危ないですね……!」
 沈み込んだ姿勢のまま、敵の膝目掛けて刀を突き出す。
 狙いは間接の隙間。
「――よし」
 確かな手応えと共に刃が膝と腿の隙間に入り込んだのを確認する。そのまま地面に倒れ込む勢いを利用して刀をねじる。
「――」
 ガギッという鈍い音と共にメイルの膝から下がスポッと脱げ落ちる。
「今だ、挟め!」
 その隙を逃さず侠と香月がそれぞれ左右からタイミングを合わせて胸元を叩く。
「潰れろ!」
 香月の掛け声の通り、両側からプレスされペシャンコになりメイルが地面に落ちる。
「この突き、受けきれるか……!?」
 さらに奥で悠登が敵三体に囲まれつつも、起死回生の一突きで一体のリビングメイルを葬っていた。
 敵に囲まれつつも何とか状況を保てているのは、悠登のタフさをいかにも物語っていた。
『こっちはもういいな。俺もデカい方に行くぜ』
「構わん。こちらもすぐ終わる」
 レイからの通信に侠が返しながら、残りのメイルを片付けんと悠登の援護へ向かった。

●迦具土の拳
「ち、なかなか近づけねぇ」
 リビングナイトの振るうハルバードを後ろに飛び退いて避けながら、龍哉が毒づく。
 リビングメイルは攻撃が避けられた事を悟ると、すぐに武器を引っ込めどこから攻撃が来ても対処できるよう構えを取っていた。
 動きは左程早くない。いや、デクリオ級の動きとしてはむしろ遅い部類に入るだろう。
 だが、長い。あまりにも深い懐に近付き難く、また安易な飛び道具は盾で防がれる。
 互いに決め手に欠ける膠着状態であると言えた。
「待たせたな、三人とも!」
 そこへ駆けてくるクレア。
『よし、チャンスだ! 気合入れろ、魅流沙!』
「うん!」
 クレアの参戦を見て、真っ先に魅流沙が魔力の乗った歌をナイトに向かって放つ。
 ダメージよりも足止めを目的とした攻撃だ。リビングナイトはそれをいつも通り盾で受け止める。
「まずは拙者が!」
 全員が一度に跳び込んでも、それこそ一度に薙ぎ払われるだけだ。今求められるのは息の合った連携による波状攻撃。
 それを読み取っていの一番に小鉄が飛び出す。
 その小鉄へ横薙ぎのハルバードが高速で迫る。
「なんの!」
 それを今度は伏せて躱す。足は止まるが跳んでしまっては最初の二の舞だ。
「よし続くぜ!」
『次鋒ヴァルトラウテ、行きます!』
「それはやめろ!」
 ここぞとばかりに不吉な台詞を挟んでくるヴァルにツッコミを入れつつも龍哉がナイトに向かって駆ける。
「――」
 龍哉に振るわれるのは盾の方だ。龍哉へ叩き付けんと横薙ぎに振るわれるそれは、ほとんど壁のようなものである。
「一か八かだ、覚悟はいいか、ヴァル!」
『それは愚問というものですわ、龍哉』
 ヴァルの返答に満足すると龍哉はグッと拳を握り腰だめに構えた。
「赤城の流儀は波濤の如く! 時に大波の如し!」
 気合と共に盾に正拳を突き出す。
 拳と盾がぶつかり合うのと同時にそこを中心に爆発が起こる。
 さすがに勢いを完全には殺しきれず龍哉もその場に尻餅を突いて倒れるが、その一撃はリビングメイルの姿勢を大きく崩す事に成功していた。
「ここは突っ切るぞ!」
 この機を逃すわけにはいかない。クレアが一気にナイトに肉薄する。
「――」
 しかし、リビングナイトの方も半ば無理やり体勢を立て直し、ハルバードを振りかぶる。
『アタッカ(休みなく)で行くぜ』
 そのタイミングでレイの放った弾丸が通常ならありえない角度――頭上より降り注ぎリビングナイトの兜を叩く。
「――」
 さすがに警戒の埒外だったのか、ナイトの動きが一瞬鈍る。
「そら、どこを見ている」
 駆け込んだクレアがすれ違いざま、その膝を切りつける。
「やはり雑魚よりは大分固いな」
 膝の接合部が少し裂けるが、しかしまだ倒れない。
「まだまだ行くよ! ブルームフレア!」
 畳みかけるように魅流沙が魔力を爆発させ、リビングナイトに建て直しの隙を与えない。
「一番厄介なのを潰させてもらうぜ!」
 再び烈華に持ち替えた龍哉が下から突き上げるように、盾を持つ方の手首に突き刺す。
「ち、浅い!」
 手首に切っ先が潜るが、両断するには及ばない。
「なら、追加だ」
「レイッ!?」
 唐突に横から聞こえた低いハスキーボイスに龍哉が驚愕の声を上げる。
 ジャックポットであるはずの彼がいつの間にかこの至近距離まで肉薄していた。
「持っていけ!」
 レイの視線が狙いを付けた手首に収束していく。ほとんど銃口を察知させたような至近距離から弾丸が放たれた。
 金属がきしむ音。
 零距離で放たれたレイの弾丸はナイトの手首を貫通し、穴を穿った。
「――」
 自身の体の異常を悟ったリビングメイルがハルバードの柄の部分を器用に動かし、足元にいるレイと龍哉を突いた。
「ぐっ!」
 咄嗟に避けきれずレイが勢いよく跳ね飛ばされる。
「無茶をするでござる!」
 今までハルバードで牽制をされ近づけていなかった小鉄が一気にナイトに肉薄する。
「とうっ!」
 小鉄はあえてナイト本体を通り過ぎ左手の盾に向かって跳びかかる。
「最後の一押しでござる!」
 盾の裏側からライヴスを乗せた拳を叩き込む。
 ついにその巨大な盾は吹き飛び、大きな音を立てて境内の地面に倒れ込んだ。
『魅流沙っ!』
「分かってる!」
 今までさんざん魔法を弾いてきたその盾が無くなったのを見て魅流沙が手にライヴスを集中させる。
「これで……勝負です! サンダァァランス!」
 ステップを踏んで射線に味方を巻き込まぬよう位置取りを修正しながら、魅流沙は合わせた両手から巨大な雷の槍を放つ。
「――」
 槍に胸元を貫かれリビングナイトが一瞬体を痙攣させ、その動きを止める。
「決着の時だ」
 クレアが今度はナイトの膝の裏から斬りつける。
「そのまま倒れるでござる! 疾風、怒涛!」
 膝の表裏両面に傷かついたところで最後のだめ押しに小鉄が三連撃を加え、完全にその足を両断する。
「――」
 大きな轟音を境内全体に轟かせ、リビングナイトがついに背中から地面に倒れ伏せる。
「赤城の流儀は波濤の如く!」
 龍哉が体をめぐる全てのライヴスを右手の拳に集中させ、地面を蹴り大きく跳躍した。
 その落下点はリビングナイトの胸元。
「時に津波の如し!」
 文字通りの全身全霊。
 龍哉の全てを掛けた必殺の拳はリビングナイトの鎧を貫き、地面まで到達した。

●新パワースポット誕生
「この度は本当にありがとうございました」
「いえいえ、これはご丁寧にどうも」
 白髪が少し混じり始めた初老の男性がエージェント達に深々と頭を下げ、カルカがそれに鏡映しのようにお辞儀を返す。
 事が片付くまで別の場所で待機してもらっていたこの神社の神主だ。
「頭を下げる事はりません! ボクたちは正義を成しただけですから!」
「神主さんも被害者なんですから……頭を上げてください」
 ユーゴの言葉に昂も続き、神主に告げる。
「此度は任務でござったが、次があれば一対一で仕合たいものでござるな」
「次があったら神主さんも困ると思うんだけど……」
「む、確かに。それは失礼」
「いえいえ……」
 小鉄の言葉に神主が頭を上げてにこやかに首を振る。柔和な笑顔が印象的な人だった。
「何度出てきても潰してやればいいだけの話だ」
「小さい方ならまだしも、デカい方はもう戦いたくないですね……」
「本当ひたすら硬くて面倒な相手だったわよねぇ……」
 闘志を燃やす香月にクレアとリリアンがうんざりした口調で返す。
「まあ、無事倒した事だし良いだろう。最後に参拝していく事にしよう」
「そうですね。せっかくですし」
 侠の提案に魅流沙が同意する。
「あ、そういえばこちらの神様はどんな後利益がある神様なんですか?」
「金運上昇、商売繁盛に御利益があると言われています。神様への敬意を忘れなかった方にはきっと今後の生活で神様もお礼をして下さると思いますよ」
「本当? だといいなー。あ、俺もお参りしてこ。ナインも行く?」
「ああ」
 勢いよく駆け出して振り返った悠登にナインも続き神社の本殿へ向かっていく。
「私もこの場所……ジンジャは好きだ」
「そうなの?」
「どこか懐かしい。また連れてきてくれ」
(……遊びたいだけなんじゃ?)
 うずうずと楽しそうに体を揺らすナインを見てそんな感想を抱く。
「ハイハーイ、神主のオジサン。これ、一応戦いの被害情報まとめた奴」
「これはご親切にどうも」
 カールが差し出したメモを受け取り神主が頭を下げる。
「従魔達の残骸も一か所に集めといたからよ。多分後でH.O.P.E.が回収に来ると思うぜ」
「さすがにあの大きさの鉄塊はなかなか骨が折れましたわ……」
 ふうと溜息を吐きながらヴァルと龍哉が並んで気か付いてくる。
「境内のダメージの方は大した事ねぇ。石畳が何か所か割れたくらいだ。一番でかい跡は……アレだな」
「うっ……」
 レイが指さした場所を見て龍哉がうめき声をあげる。
 それは境内の石畳に深々と刻まれた拳の跡。ライヴスによって補強されて撃ち込まれたそれは本来の拳よりも一回りも二回りも大きく、一際目を引くものだった。
「あー、いやすまねぇな。気を回す余裕がなくてよ……」
「いえいえ、謝らないでください」
 軽く頭を抱えて謝罪する龍哉を神主が手で制する。
「神社には妖怪退治の逸話は付きもの。むしろうちの神社にも箔が付いたというものです。あの拳の跡は従魔退治の証拠として残しておきますよ」
「それはそれで、なんつうか恥ずいな……」
 照れ笑いを浮かべ龍哉は困ったように頭を掻いた。

 その後、騎士団に挑むエージェント達の様子は絵巻物として制作され、この神社に語り継がれる事になったという。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • エージェント
    霧島 侠aa0782
    機械|18才|女性|防御



  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃




  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842
    人間|20才|女性|生命
  • 疾風迅雷
    『破壊神?』シリウスaa2842hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
  • 絶狂正義
    ユーガ・アストレアaa4363
    獣人|16才|女性|攻撃
  • カタストロフィリア
    カルカaa4363hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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