本部

【神月】連動シナリオ

【神月】アステレオン・ラビュリンス

gene

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/08/12 21:03

掲示板

オープニング

●まわる天球儀
 アステレオンの中央にある記念博物館には『アイオーン・スフィア』が展示されている。『アイオーン・スフィア』は、天動説を唱えていたアリストテレスが作らせた天体の円運動を再現するための天球儀である。天動説のため、当然、中心には地球を模した球体があり、その周りを月を模した球体、遊星天、恒星天、赤道と横道を表すリングがある。
 
 アステレオン・ラヴュリンスと呼ばれることになるドロップゾーンが発生する数時間ほど前、記念博物館の警備員は今日もどうせ事件など何も起こるまいと高を括り、警備員室で瓶ビールを数本空けていた。すっかり気持ちよくなった男は散歩がてら見回りをすることにした。
 暗く静寂に満ちた記念博物館内を下手な鼻歌を歌いながら歩く。
 ふと、『アイオーン・スフィア』と名のついた古い天球儀が気になった。
 球体を中心にいくつものリングが囲み、中心の球体の一番近くには細いリングに一つ小さめの球体が付いていた。その球体が月を表していることを警備員は知らなかったけれど、幾つかのリングを動かすことができることは知っていた。
 それで、おもちゃ代わりに月のついた細いリングをくるくると回してみた。
 くるくるくるくると何度も回しているうちに、その細いリングがカチッと右側にずれた。
 そこで警備員の酔いが覚める。自分は展示品を壊してしまったんじゃないかと冷や汗が出る。さっきと同じ位置に直してしまえばいいのでは? とも思ったが、どれほどずれたのかなどわからない。
「……お、覚えていない」
 考えた結論はそれだ。
 自分は酔っていて、見回りという仕事はちゃんとしたが、他の行動は一切覚えていない。この天球儀が壊れたのもきっと、客の誰かがいじったせいだ。そうだ。そういうことにしてしまおう。
 無茶苦茶な話ではあるが、そもそも仕事中にビールを飲んでしまうような男である。こんな無茶苦茶な話を自分に言い聞かせて納得するのにはそう時間はかからなかった。
 男は気を取り直して見回りを再開した。
 月を模した球体をつけた細いリングがカチッと右側にずれた瞬間、偶然なのか、運命なのか、それはまさにその瞬間の夜空の状況を表していた。
 つまり、現在の月食と同じ状態を再現していたのだ。

 そうしてそこに、もう一つの小さな世界(ドロップゾーン)が生まれた。

●守られるオーパーツ
 アステレオン・ラヴュリンス内に取り残された一般市民を救出しに来ていたヴィクターは都市の中央にひときわ立派な建物を見つける。
 入り口に記念博物館という文字を見つけ、中に逃げ遅れた人がいないか確認しようとすると、入り口の扉についたガラス窓を男が叩いていた。
「助けてくれ!!」と警備員の制服を着た男は叫ぶ。
 その男はまるで水中にでもいるかのように体が浮いていた。
「扉が、開かないのか……?」
 ヴィクターがノブを回してみても、その扉はビクともしない。
「離れててくれ!」
 警備員を扉から離すと、ヴィクターは右手の機械から照射されるライヴスのレーザーで扉を壊した。
「やっと扉が開いた!」と、警備員は建物から外に出ようとしたが、彼は急に床に倒れた。
「大丈夫か!?」
 男に近寄ったヴィクターも、建物に入った途端に強力な重力を感じて地面に倒れそうになる。
 片膝を立ててなんとか地面に倒れるのは免れたものの、それ以上は動けない。
 しかし、次の瞬間には急に体が軽くなり、普通に立てるようになった。
「……重力、変動……か」
 立ち上がりながら警備員は「ああ」と答える。
「無重力になったり、さっきみたいに急に強力な重力が襲ってきたり、大変だったよ。いや、でも助かった。とにかくこれで逃げられる」
 そう言って建物から出ようとした警備員の腕をヴィクターは掴んだ。
「お前はここの警備員だろう? 案内を頼む」
「いやいやいやいや」と警備員は慌てて首を横に振る。
「重力はコロコロ変わるし、展示室にはサモヴィラがいるんだ。かんべんしてくれ!」
「サモヴィラ?」
「サモヴィラってのは妖精だ。足元まである美しい金髪を持った少女みたいな妖精だが、自分が守護しているものが傷つけられると怒って、相手が死ぬまで踊らせる怖い妖精でもある」
「なるほど……それなら、展示室まで案内してくれ」
 ヴィクターは嫌がる警備員を引きずるようにして歩き出した。
「いーやーだぁぁぁぁぁ!!!」なんていう警備員の悲鳴などヴィクターには聞こえない。

解説

●目標
・ドロップゾーンの原因解明と消滅

●登場
・サモヴィラ 五体(ミーレス級)
 サモヴィラとは、マケドニアやブルガリアに伝わる妖精である。
 元は森の女神で動植物を守護していたが、この記念博物館にいるのは強力なライヴスに引き寄せられた従魔である。
 見た目は五、六歳の少女で、宙に浮いて五人で仲良く踊っている。
 人を見つけると踊りに誘うが、踊りが下手だと怒り、いつ終わるとも知れない特訓が始まる。
〈PL情報〉『アイオーン・スフィア』を守るときには犬歯が伸び、目が赤くなり、吸血鬼化する。噛まれた場合にはライヴスを奪われる。

●状況
・これまでの調査で記念博物館にドロップゾーンの原因があることはわかっています。
・ドロップゾーンの原因解明と消滅が目標ですが、原因となったものはできるだけ無傷な状態での保護が求められます。
・重力変動は不規則であり、いつどのタイミングで起こるかわかりません。
・従魔サモヴィラは重力変動の影響を受けません。
・従魔サモヴィラについてはヴィクターからH.O.P.E.へ、H.O.P.E.から『あなた』たちへ情報が共有されます。(ヴィクターはサモヴィラの踊りの特訓から逃げ、展示室の外まで撤退しています。)

※OP前半はPL情報となります。

リプレイ

●小心者の警備員
 記念博物館の入り口にやってきたエージェントたちは、H.O.P.E.からもらった地図を確認している九字原 昂(aa0919)を先頭に慎重に建物の中に入る。
「……博物館か。素敵な素敵な知識の溜まり場。初仕事で良い場所に来れたもんだ」
 星川 凪海(aa4343)は先輩エージェントたちの後に続いて建物に入りながらそう呟いた。
「……そう」とAstica(aa4343hero001)が相槌を打つ。
「あぁ、そうさ」と凪海は改めて頷いた。
「溜まった知識達の為にも、お前の目的の為にも。さぁ、ひと仕事だ」
 凪海たちのさらに後ろをだるそうに歩きながら佐藤 咲雪(aa0040)は本心を呟いた。
「……めんどくさい」
 そんな相棒の言葉にアリス(aa0040hero001)は咲雪の頬をつねった。
「お仕事だからちゃんとやろうか?」
 集団の前の方、昴のすぐ後ろを歩いているのは北条 ゆら(aa0651)とシド (aa0651hero001)だ。
「重力変動か。興味深いねー」
 ヴィクターからの報告を思い出して、ゆらは軽い足取りで建物の奥へと進む。
「遊びに来たんじゃないからな」と、シドは横目でゆらを見た。
「もう私をなんだと思ってるの? お仕事はいつも真面目に真剣に取り組んでるよー」
 しかし、ゆらの様子はこれからピクニックにでも行くかのように、見るからにウキウキとしている。
「そうは見えんから心配なんだ……」
 シドは自分がしっかりするしかないとでも言うように背筋を正した。
 その時、ゆらお待ちかねの無重力が起こった。
「これが重力変動か」
 志賀谷 京子(aa0150)もまた、興味深そうに宙に浮く感覚を味わう。
「無重力も高重力もさすがにはじめてかな」
「経験のある人のほうが珍しいでしょう」とアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が答える。
「宇宙に行った気分になれるね」
「出来るなら、宇宙には本当に行ってみたいものです」
 アリッサの言葉に、京子も賛同する。
「……ん、これはいい」
 年齢の割には大きな胸が軽くなり、咲雪は軽くなった体をくるりと回転させ、その頬を誰も気づかない程度に緩めた。しかし、その頬のかすかな緩みも次の相棒の言葉によりすぐに消えることになる。
「高重力になったら、逆にキツくなるわね」
 アリスの一言により、咲雪のやる気ゲージは一気に下がる。
「……ん、その時は……帰り、たい」
「今日もしっかり仕事しましょうね」
 アリスはまたしても咲雪の頬をつねる。
 京子は壁や天井を蹴ったり、手で軽く押したりしながら、無重力の中でもうまいこと前進する。他のエージェントたちもそれに見習って進んだ。
 柱に捕まって方向転換すると、展示室の扉の前にヴィクターの姿を見つける。
「ヴィクター!」
 ゆらが手を振ると、ヴィクターも軽く手を上げて応える。
 次の瞬間、無重量から通常の重力に戻り、エージェントたちは慌てて体勢を整えて床に足を着いた。
 咲雪は不意に戻って来た胸の重さに前のめりに転びそうになる。それを慌ててアリスが支えた。
 ヴィクターの隣に警備員の制服を着た男が気まずそうに立っていた。
「ドロップゾーンが現れた日の行動を教えてください」
 昴の質問に警備員は顔色を変え、目を泳がせる。
「お、俺は、いつもどおりに見回りをしただけだ……それ以上は知らない」
 明らかにそれ以上を知っている……しかも、後ろめたさがあるというそぶりだ。
「起きたことはどうしょうもありませんから、あなたを責める気はありません。何があったのか正直に話してください」
 京子の言葉に、警備員はちらりと京子を見る。
「……ほんのちょっと、酒を飲んで見回りしていたんだ」
「仕事中にお酒?」と、ゆらは眉間にしわを寄せる。
「ほんのすこしだ。本当に、すこしだけだ」
 警備員の言葉に問題はそこじゃないとは誰もがツッコミたかったが、みんななんとかそれを堪えた。この小心者の男から話を聞きだす方が先だ。
「それで?」と京子が話を促す。
「ちょっと……天球儀……アイオーン・スフィアをほんのちょっとだけいじったんだ」
「展示品を?」と八朔 カゲリ(aa0098)が聞くと、警備員はさらに顔を青くした。
「ほんのすこしだ。本当に、すこしだけつついた程度なんだ!」
 だから、問題はそこじゃない。
「この男が警備員でこの博物館は大丈夫なのか?」
 ナラカ(aa0098hero001)が眉間にしわを寄せて言った。
「それで?」と東海林聖(aa0203)が呆れ顔をしながらも話を促す。
「そしたら、リングがちょっとずれたんだ……」
「壊しちゃったんですか?」と新星 魅流沙(aa2842)。
「いや、ほんのすこしだ。本当にすこしだけだ!!」
「そういうことじゃないわよ!!」
 堪えきれなくなった凪海が一喝した。

●踊る従魔
「とにかく……あとは任せておいて」
 情けない顔をしている警備員に京子はそう告げると、アリッサと共鳴して展示室の扉を開けた。
「物を壊さねぇように気をつけねーとな」
 聖の言葉に凪海が頷く。
「せっかくの知識の溜まり場だからね」
 従魔と戦うことになっても慎重に行こうと思っていた聖と凪海は展示室に入って愕然とした。
 展示室の壁は白く、床には黄土色の絨毯が敷かれていたが、その床の上には壺やガラス細工などの破片が散らばっていた。鉄製の物も凹んだり傷ついたりしている。
「……せっかくの知識たちが……」
 凪海はその惨状にショックを受ける。
「きっと無重力が切れた時に落ちたり、高重力になった時に床に打ち付けられて壊れたんですね」
 昴は割れた陶器の欠片を手にとって言った。
「展示品に気を取られている場合じゃないわ。サモヴィラよ」
 京子の言葉に聖と凪海、そして昴が緊張を取り戻したその次の瞬間、再び無重力となる。
 体が浮き上がるエージェントたちの前に無重力の影響を受けずに宙にまっすぐに浮かぶサモヴィラ五体が近づいてきた。
 金色の美しい長い髪を持つ愛らしいサモヴィラたちの後ろ……展示室の中央あたりに青白い光を放ちながら浮き上がる天球儀があった。
「……ん、原因、アレっぽい?」
 咲雪の言葉に、彼女の頭の中でアリスが答える。
「警備員が言っていたやつね……壊したって言っていたけど、何かがトリガーになって起動したと考えるのが自然よ、動かせそうなのは惑星の位置かしら?」
 他のエージェントたちもアイオーン・スフィアを見つめる。
「お腹空いたから……早く天球儀を回収して、ご飯食べに行く」
 聖は脳内に聞こえたLe..(aa0203hero001)の言葉に「さっき食べたばっかだろ」と返す。
 アイオーン・スフィアから改めて愛らしい姿のサモヴィラへ視線を移すと、横一列に並んだサモヴィラたちは薄緑色のスカートの裾を持ってぺこりとお辞儀をした。
 そして、サモヴィラ五体はエージェントたちに右手を差し出した。
 あまりにも無垢に見える瞳に、カゲリは一瞬、妹の幼い頃を思い出す。そんなカゲリの心を覗いたかのように、一体のサモヴィラがカゲリの手に触れようとした。
 それに気づいた魅流沙はカゲリとサモヴィラの間に入ると、サモヴィラの白く小さな手を取った。
「サモヴィラさんたち、私が踊りのお相手をします」
 魅流沙が手をつないだサモヴィラとくるりと回るとサモヴィラたちは魅流沙にわらわらと寄ってきた。
「試しに誘いに乗ってみます」と他のエージェントたちに魅流沙は微笑んだ。
 『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)は魅流沙の頭の中で語りかける。
「踊り、か……気持ちはわかるが、あまり従魔に入れ込みすぎんなよ。……後が辛くなるぜ」
「わかっています」と答えた魅流沙は四体のサモヴィラと軽やかに踊り出す。
 無重力のため、サモヴィラに合わせてステップを踏むのは難しいが、魅流沙はサモヴィラたちの手を握って体勢を安定させて腰を魅惑的に動かし、サモヴィラたちの周りをくるりと回ったり、サモヴィラたちが回るのを促したりして踊った。壁、備え付けの展示台も使い、軽やかにかつダイナミックに踊ってみせる。
 魅流沙の踊りに、思わずゆらたちも拍手する。そんな中、一体のサモヴィラはまだエージェントたちを見ている。
「……踊り手が足りなくて不満なのかしら? という訳で、シド、踊れ」
「なんで、そうなる……!?」
 慌てるシドの背中をゆらはぐいぐいとサモヴィラの方へ押す。
「シドのダーンス! 一生に一度見られるかってシーンです。サモヴィラちゃんに合わせるのよー」
「無理を言うな。手足を動かすだけで精一杯だ!」
 クソッ! と、シドは眉間に深い皺を寄せて、無重力の中たどたどしく動くが……それはまるで水中で溺れてもがいているかのようだった。
 サモヴィラが魅流沙の見事な踊りとシドのもがき具合に気を取られている隙に、咲雪は潜伏のスキルを使い、無重力を利用してアイオーン・スフィアの直上まで近づいていた。
 咲雪は壁を蹴り、アイオーン・スフィアの奪取を図るが、魅流沙と踊っていた一体のサモヴィラがそれに気づく。
 途端、サモヴィラの目が赤くなり、犬歯が伸び、恐ろしい形相となって咲雪へと飛びかかる。
 無重力の状態で戦闘の体勢を整えるのが遅れた咲雪の肩を掴み、サモヴィラはその首筋に噛みついた。

●吸血鬼にご用心
「イタッ!」
 サモヴィラは咲雪の首にしっかりと牙を立ててライヴスを吸い取る。そんなサモヴィラにカゲリは奈落の焔刃をふるって、サモヴィラの気をそらした。そして、咲雪の体から引き剥がすと、サモヴィラと咲雪の間に割り込んだ。
 カゲリに邪魔をされて腹を立てたサモヴィラは犬歯をむき出しにして怒り、赤い目を燃えるようにして今度はカゲリに飛びかかった。
 しかし、昴が放ったハングドマンの鋼線がサモヴィラを拘束する。
 咲雪がアサシンナイフを鋭く投げ、サモヴィラの胸を貫くと、サモヴィラは咆哮を上げながら塵と化した。
 シドと踊っているサモヴィラは軽やかなステップを踏みながらシドの手を取り、くるくると回る。
「やめろ……目が回る……」
 目が回ったところに普通の重力に戻り、シドは体勢を立て直すこともできずに床に落ちた。
「っ!」
 思いっきり腰を打ち付けたシドはまだぼやける目を片手で押さえた。
 しかし、その手をサモヴィラは再び握る。魅流沙のところから手助けに来たらしい二体のサモヴィラもシドの腰を支えて立たせる。
 そして、サモヴィラは三体でシドに踊りの指導を始める。
 一体のサモヴィラがシドの前に立ってステップを見せ、二体のサモヴィラはシドの左右の足をそれぞれつかんで動かそうとする。
「シドの踊りがあんまりだったから、レッスンが始まっちゃったわ」
「お前、わかってて、俺を行かせただろ!」
「もちろんそうだけどー!」
 ゆらはにこりと笑って、シドに手を伸ばした。
「そろそろ真面目にやろうか?」
「お前がな!」と怒りながらも、シドはゆらの手を握る。そして、二人は共鳴した。
 シドと共鳴したゆらはサモヴィラも納得の軽やかなステップを見せる。
「最初からお前が踊れよ!」と脳内でシドが叫んだ。
「貴重な体験、おつかれさまよー!」
「さてと」と、ゆらは口門を上げる。
「いくら可愛い妖精さんの姿をしていても従魔は従魔。排除する」
 ゆらは雷神ノ書を開くと、雷でサモヴィラを攻撃する。
「……共鳴したら容赦ねえな」とシド。
 一体だけとなったサモヴィラに「あなたたちはなぜここに?」などと会話を試みていた魅流沙だったが、サモヴィラはただくるくると愛らしく踊るばかりで返答を返すことはなかった。
「やっぱり、お話しして解決というのは難しいみたいですね」
  魅流沙がサモヴィラから離れようとすると、サモヴィラは魅流沙にぴったりくっついてくる。
「踊りの時間は終わりです」
 魅流沙は拒絶の風を使い、ライヴスの風をまとうと速度を上げた。
 魅流沙とサモヴィラとの距離が離れると、潜伏で近づいていた昴が奇襲をかける。
 昴の孤月はサモヴィラが防御のために顔の前に掲げた腕を切り落とした。
 腕を切り落とされた痛みのためか、怒りのためか、サモヴィラは吸血鬼へと姿を変え、昴へと襲いかかる。
 昴の後方にいた京子は九陽神弓を構え、ダンシングパレットのスキルを使い、矢を放つ。サモヴィラの牙を狙って放たれた矢をサモヴィラは避けた。
「一回避けても終わりじゃないよ」
 京子の言葉通り、矢は壁や天井にあたり、サモヴィラの背にまっすぐに飛んでいき……その背から胸にかけて貫いた。
「っし! 行くぜルゥ!!」
 聖が共鳴しているルゥにそう声をかけて駆け出そうとすると、またしても重力が変動した。
  今度は無重力ではなく、高重力だ。下から強力な磁石で引き寄せられているような……上から無理やり押しつぶされているような感じとなる。
 出鼻をくじかれた聖だったが、厳しい特訓を課せられたかのようで、テンションが上がる。
「……バカみてェに身体が重い……が、こんくらい! 修行中の重りみてーなモンだな!!」
 他のエージェントたちが重力の重さに各々耐えている中、聖は根性のみでじりじりと前進する。
「……ヒジリー……バカなのは知ってたけど……バカなの?」
 脳内でルゥが思わず失礼なつぶやきをした。
 京子も高重力の中で前進しようとしたが、床に押し潰れさないように耐えているのが精一杯で動くことができない。それでもなんとか九陽神弓を構え、矢を引く……しかし、高重力の中で弓弦を引くのは難しく、苦心する。
 自分たちに狙いを定めていることに気がついた一体のサモヴィラがその形相を少女から吸血鬼に変えて京子に向かってくる。
「や、ばい……」
 ぐっと弓弦を引く腕に力を入れる。
 次の瞬間、急に体が軽くなり、弦はいとも簡単に引かれ、京子は反射的に矢を放つ。
 しかし、通常の重力ではなく無重力になっていたため、高重力内で力んでいた分の力で体は反り返り、その状態で放たれた矢は上方へとずれてサモヴィラの斜め上を通る。
 京子の放った矢のことを全く気にすることなく、サモヴィラは真っ直ぐに向かってきたが、聖が衝撃波を放つとサモヴィラは塵となって消えた。
「大丈夫か?」という聖の言葉に京子は頷いた。
 初戦闘となる凪海はしばらく他のエージェントたちの戦いぶりを見ていたが、思い切って身につけたばかりのスキルを使うことにした。
「うまくいってくれればいいけど……」
 凪海はストームエッジのスキルを使い、刀剣を多数召喚し、二体のサモヴィラに刀剣の雨を降らせる。
 それはサモヴィラに傷を負わせることには成功したが、致命傷とはならなかったようだ。
 傷を負って気の立ったサモヴィラの犬歯は伸び、吸血鬼の姿となる。
「さっきまであんなに可愛かったのに……」と、魅流沙は残念に思う。
 しかし、どんなに可愛くてもサモヴィラは従魔だ。
 魅流沙はウィザードセンスでライヴスを活性化させると、精霊の詩でサモヴィラを攻撃する。
 凪海に襲いかかろうとしていた二体のサモヴィラは、美しい歌声に包まれるようにして消滅した。

●アイオーン・スフィア
「これ、星の配置は今現在と同じなの?」
 五体のサモヴィラを全て倒し終わり、京子は無重力を利用して宙に浮いているアイオン・スフィアを手に取った。
 エージェントたちは無重力の中を動くのにだいぶ慣れてきていた。
「あの警備員の話からすると、このリングをいじったってことよね……この天球儀と重力の関係は、潮の満ち引きと月の関係みたいなものなのかしら?」
「グランドクロスとか、惑星直列とかの状態にするとなにか起きそうだね。実際に試すのは怖いけどさ」とアリッサ。
「基本的には、特定の意味を持たないランダムな配置にすればいいんじゃないかなと思うけど……」
 京子がリングを動かそうとした時、またしても重力が変わった。
「っ!」
 無重力で浮いていたところからの高重力のため、エージェントたちは床に叩きつけられたような状態になる。
 ゆらが京子を心配してアイオーン・スフィアが浮いているところを見ると、京子は必死にアイオーン・スフィアにしがみついていた。
「京子! リングを動かせる?」
「なんとかやってみるわ!」
 京子は抱えるようにしてしがみついているアイオーン・スフィアの幾つかのリングを動かしてみた。
 球体のついた一番細いリングを動かした時、アイオーン・スフィアから放たれていた青い光が波紋を広げるように展示室内中……さらには博物館の外にまで広がり、高重力がなくなった。
 次の瞬間、力を封印されたアイオーン・スフィアは落下し、それに合わせて京子も落下する。
 床に尻もちをついて、「イタイッ!」と京子は叫んだ。
「……ドロップゾーンはなくなったみたいだな」
 空気が軽くなったのを感じて、聖が言う。
「お尻は痛いけど……無重力は楽しかったよね!」
 京子がお尻を撫でながら言うと、共鳴を解いたアリッサが「空を飛ぶのはあんな感じでしょうか」と言った。
「オーパーツひとつでドロップゾーン生成できるってやばいわね……」
 アイオーン・スフィアが浮いていたあたりや、飾られていたと思われる棚の周辺を調べて、凪海がつぶやく。
「何かもっといろんな要因が重なってドロップゾーンができたのかと思ったけど、アイオーン・スフィア以外は何もないわ……愚神共がせっせとライヴス集めて成し得ることを道具ひとつでできてしまうんだから、すごい力ね」
 ゆらは床に散らばった展示品を広い、棚に置いた。
「従魔もドロップゾーンもなんとかなった。あとはゆっくり貴重な品々を見たかったんだけど……結構壊れちゃってるわね」
 壊れたものは修復師に期待するしかない。
「俺は酒が飲みたい……」と共鳴を解いたシドが言った。
「踊った後の一杯はちょー最高だね!」
「……」
 満面の笑みを浮かべるゆらにシドは深い深いため息をついた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
  • エージェント
    星川 凪海aa4343

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842
    人間|20才|女性|生命
  • 疾風迅雷
    『破壊神?』シリウスaa2842hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
  • エージェント
    星川 凪海aa4343
    人間|27才|女性|命中
  • エージェント
    Asticaaa4343hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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