本部

わんぱくリンカー保育園!

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/08/13 18:53

掲示板

オープニング

●ちびっこかいじゅう
 HOPEには様々なエージェントがいる。もちろんパパやママもいる。パパやママだって任務に行く。しかも突発的な任務もある。そんな時は、支部内で手の空いた者が面倒を見てくれたりする。困ったときはお互い様だ。
 「リンカーの子供は、リンカーになる可能性が高い」というデータが知られている。結果、幼い子供ながらにリンカーとして目覚めるというパターンも頻繁ではないが確認されている。その場合、彼らの保育にあたる人間には細心の注意と、それなりの腕っぷしが必要である。その点で今回のメンバーは最悪だった。集まった経緯については省略するが、リンカーの子供が4人、一堂に会してしまったのだ。英雄と合わせると8人。全員が小学生未満の子供である。

エントリーナンバー1
ワガママプリンセス・姫子(ひめこ)ちゃん&泣き虫な恥ずかしがり屋・野乃(のの)ちゃん
「HOPEのせーふくってかわいい! 姫子も着たいなあ。えーやだやだ、ぜったい着るのー!」
「あぅ……しらないひと……。こわいよぉ、姫ちゃぁん……」

エントリーナンバー2
のんびりにゃんこ・エミルくん&ワイルドわんこ・拓狼(たくろう)くん
「……おなかすいたなぁ。キミ、おかし持ってる?」
「うおおおおー! なんだよ、はしりまわっちゃいけねえのか? つまんねえのっ!」

エントリーナンバー3
超無口な職人肌・剛吾(ごうご)くん&おしゃべり「なぜなぜ」星人・千里(せんり)ちゃん
「……」
「ねえねえ、剛吾のパパはどこ行ったの? 『にんむ』ってなになに? 千里に教えてー!」

エントリーナンバー4
ちっちゃな大和撫子・珠貴(たまき)ちゃん&ちっちゃな騎士・剣(つるぎ)くん
「よろしくおねがいしますわ、お兄様、お姉様」
「珠貴のかあさんが帰るまでつきあってやってもいいけど……珠貴をいじめたら俺がゆるさねえからな」

※セリフに子供たちの知らない漢字が含まれますが、読みやすさの観点から最低限の変換を行っております。

 対するは、非リンカーの職員2名。
「こらー! やめなさーい!」
 部屋の中では4人――共鳴済なのだ――の怪獣が暴れまわっている。
 フリフリのミニドレスを着た魔法少女・姫子は大泣きしている。見た目は姫子なのだが、泣き虫な野乃の要素も顕在化しているらしい。泣いているだけならまだいいが、その場にある机や椅子やおもちゃが飛び回っているのは彼女の力である。
 姫子の攻撃から逃げ惑う女性職員の頬に水がかかる。小さなスナイパーと化した剛吾だ。見た目は千里なのだが、無口かつ眼光鋭くなっているところが剛吾を思い起こさせる。目、頬、口。職員のポイントメイクが流れる。彼らとしては目立つ的を狙ったという認識しかないのだろうが。
 男性職員の足に組み付き、互角以上のお相撲を取るのは、普段はおしとやかな珠貴だ。体を操るのは剣で、しかも少し幼児退行しているため、ろくに話が通じない。
「あっ、それは後でみんなで食べるおやつ!」
 混乱の最中、忍者のように獲物に近寄り、無尽蔵の食欲を満たすのはエミルだ。少し身長が伸びたおかげでぽっちゃりさが控えめになったかわりに、猫の耳と尻尾が大ぶりになっている。拓狼の影響か、野生動物のように素早く身軽だ。

●ばとんたっち
 ゴジ◯を生身の隊員が2人きりで相手にするような無謀な戦いは長くは続かなかった。男性職員が足を滑らせ転倒したのだ。そして軽い脳震盪を起こして気絶してしまった。
「だ、誰か来てー!」
 ひとり生き残った女性職員は声の限りに叫んだ。
「だーれーかー! たーすーけーてー!」
 それは幸運にも、通りすがりのエージェントたちに届いた。

 気絶した彼は、特に体に異常はなかったが大事をとって眠っている。女性職員はできれば側についていたいという。どちらにせよ、彼女にはあの小さな怪獣たちを任せるのは難しいだろう。散々暴れて満足した――男性職員への心配もあったのだろうが――子供たちは共鳴を解きおとなしくしている。
 乗り掛かった船だ。親たちが帰ってくるまで3時間。この子たちの面倒は自分たちが見よう。エージェントたちは決意した。

●リンカーほいくえん・めいぼ
※能力者(年齢)+英雄(推定年齢)

姫子ちゃん(5歳)+野乃ちゃん(5歳)
 ふたりともお洋服とお人形が好き。可愛いものは何でも好き。引っ込み思案な野乃は姫子に振り回され気味だが、お互いに相手のことが大好き。機嫌を損ねる(沸点は低い)とリンク。クラスはソフィスビショップ。リンクするといつもより更に感情表現が激しくなる。ヤダヤダと泣き叫ぶことが多い。

エミルくん(4歳)+拓狼くん(5歳)
 食いしん坊ふたり組。エミルはのんびり屋だが、食べる時だけ素早い猫のワイルドブラッド。料理にも興味津々。拓狼はやんちゃで、熱しやすく冷めやすい。またにおいに敏感。クラスはシャドウルーカー。お腹が空くと野性的な気分になりリンク。ちょこまかと壁や天井を走り回ったり、つまみ食いしたりする。

剛吾くん(3歳)+千里ちゃん(6歳)。
 無口少年と超おしゃべりな「なぜなぜ」星人。剛吾は粘土や工作好き。無口だが、気持ちがぜんぶ表情に出るタイプ。千里は読書(絵本)が好きだが、年上なので剛吾に付き合うことが多い。クラスはジャックポット。作品が気に入った出来にならないと不機嫌に。リンクし、百発百中の水鉄砲で攻撃。

珠貴ちゃん(4歳)と剣くん (6歳)
 おっとり敬語お嬢様と反抗期(?)男子。珠貴はおしとやかだがヒーローものや武道に憧れる一面も。剣は珠貴だけには優しく、彼女を守るのが使命だと思っている。クラスはブレイブナイト。珠貴ちゃんがはしゃぎたいときにリンク。パンチやキックは子供だからといって侮れない。

解説

【おやくそく】
・時間は14時~17時。
・場所はHOPE東京海上支部の空いた部屋(会議室など)。HOPE敷地内から出るのはNG。
・子供たちは能力者と英雄のペアごとに4部屋に分かれる。
・折り畳み机やパイプ椅子など、備品は部屋の外に撤去可能。
・おもちゃは各自の持ち物や、支部に常備された物が使用可能(不自然でない範囲で、お好きなおもちゃがあることにしてOK)。

【ひみつのじょうほう】
数時間とはいえ家族と離れる不安は大きいのでしょう。必ず一度は子供たちが機嫌を損ね、リンクをしてしまいます。対応をお書きください。

リプレイ

●あたらしいせんせい
「なんだ、どうした!? 愚神か! 愚神殺せばいいのか!?」
 嬉々として部屋に飛び込んだ五々六(aa1568hero001)だったが、事情を理解するや否や興味を失う。子守なんて、自分のところの能力者だけで十分だ。――まあ、報酬が出るならやってもいいが。七海が。
「えっ」
 五々六は眠り始めた。職員は共鳴したふたりを見てやる気満々と理解したらしい。獅子ヶ谷 七海(aa1568)が逃れるための言葉を思いつく前に、酒又 織歌(aa4300)が話し始めてしまう。
「園児のお世話ですか……子供は好きなので構いませんけれど。子供は発想が面白くて、見ていて飽きませんしね」
 飛岡 豪(aa4056)とガイ・フィールグッド(aa4056hero001)も協力を申し出る。
「自分の子供を育てるのも大変なのに、他人の子供を複数、それも能力者……。想像を絶する大変さだったろう。後は任せて、休んでいてくれ」
「よっしゃあ! いっちょやるか! 【怪獣退治】は手慣れたモンだぜ!」
 エージェントたちは子供たちが待つ4つの部屋に別れる。御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)は入室前に戸を薄く開け、様子を伺う。
「ふむ……職員に怪我を負わした事を叱ろうと思ったが、ちゃんと反省をしている様だな」
「一時の感情の高ぶりで暴走することは有っても、やって良い事と悪い事はしっかり躾けられているみたいだね」
 織歌がその会話に加わった。直径50cm、長さは70cmあまりの『メガジャンボスイカ』を抱えて。
「これ、どうせなら皆で美味しく食べた方が幸せですよね。おやつに関しては、親御さんの承諾を頂いてるみたいですし」
「俺は調理室に向かおう。伊邪那美は子供たちの好みを聞いてきてくれ」
「任せて、御姉さんであるボクが詳しく聞き出して来るからね」
 注意をする間もなく廊下を走っていく相棒。恭也は呟いた。
「……園児は八人以上いる様だな」

●すないぱーぐみ
「こんにちは! まいだはまいだだよ! いっしょにあそぼー!」
 まいだ(aa0122)の唐突な挨拶に獅子道 黎焔(aa0122hero001)は呆れる。
「ばか、まいだ。こいつら驚いてんだろ? ……えーと、あー……一緒に遊ぼうぜ」
「おー? ごめんなさい。ごめんなさいだけど、れいえんいってることいっしょだよ?」
「う、うるせえな!?」
 千里の口がむずむずしだす。
「なんでけんかしてるの?」
「別に喧嘩ってほどでも……」
「あなたはまいだちゃんのお姉ちゃん?」
「いや、英雄だ」
 九郎(aa4139hero001)は粘土で遊び始めた剛吾の隣に座る。
「僕も一緒にやってもいい?」
 剛吾は頷くと粘土を差し出し、まいだと九郎を隣に座らせる。手には首の長い生き物。触覚と体中に散らばったイボのようなものがなんだか怖い。
「……怪獣?」
「あ、きりんさん?」
 まいだが言うと、剛吾は首をぶんぶんと縦に振って笑う。出会ってから一言も発しない彼だが、表情は雄弁だ。
「ふふ、君は芸術家なんだね」
「すごい! なんでわかったの? 千里はいつも間違えるの」
 黎焔の即興物語に耳を傾けていた千里が反応する。
「んー、わかんない! なんでだろー?」
 まいだと千里は「なんでだろ」「なんでだろ」と繰り返して笑う。子供の笑いのツボは独特だ。
「そうだ、黎焔ちゃん、ひーろーはなにをみつけたの?」
「ああ。そっちをみるとな、川の中から従魔が飛び出しきて暴れてるんだ」
「なんで川にいるの? くるしいよ?」
 ひとつ話すたびに疑問が挟まれ、なかなか進まない。話はまだ序盤だ。
「それはな、河童の従魔だったからだ。『きゅうりをよこせ人間共!』」
「かっぱってなんできゅうりすきなの?」
「あーうっせぇな! 好きなもんは好きなんだよ!」
 しまった、と思う。
「いけないんだよー」
 まいだが言う。怖がらせてしまったか? が、彼女らの視界に千里の姿はなく。
「じゃ、ばーんしてあそぼ?」
 不穏な言葉で剛吾をあやしていた。キリンの次の作品がうまくいかない剛吾がぐずっていたのだ。九郎が眉尻を下げる。
「ごめん、止められなかった」
 水鉄砲スナイパーが目覚める。まいだは作りかけの粘土が犠牲にならないよう保護する。
「僕が相手になるよ!」
「ったく。これから河童の水かけ攻撃を撃破する予定だったのに……冷てっ」
 小さな体を机の裏に隠し、狙い撃ち。既に自分なりのスタイルを確立している。
「残念だったね。大人はこんな攻撃ができるんだ!」
 斜め上へと放物線を描く水は、机の向こうの剛吾の頭上に降り注ぐ。たまらず飛び出すが、獲物を九郎に変え顔面狙いの一撃を放つ。
「冷たい! ……って消えた?」
「下!」
 距離をとっていたまいだには見えていた。スライディングからの近距離攻撃。狙撃だけが能ではない、と。将来が楽しみである。
「面白くなってきたね」
 が。
「……さむい」
 共鳴が解ける。3人は急いで預かっていた着替えを用意する。冷房も一時オフだ。
「おやつができたよー」
 呼びに来た伊邪那美が水浸しの室内に驚いたのは言うまでもない。
「おかたづけしたらすぐいくね」
「剛吾も千里も手伝うんだぞ」
 子供たちは慣れっこなのか「任せて」と頷いた。

●ないとぐみ
 最初からクライマックス。旧 式(aa0545)の脳内をそんな言葉が流れていった。
「剣ちゃん! 本物のひーろーですわ!」
「さがってろ。ゆうかいはんかもしれないぞ」
「え? だったら成敗しなくては!」
 まだ自己紹介も済んでいないのに――式は、怪我だけはしないよう盾を構える。
「違うぞ! 俺は正義の戦士、グッド」
 脛に膝蹴り。名乗りの途中に攻撃とは卑劣である。
「痛たた。いきなり敵意を向けられるとは! どうすれば……!」
「ま、気にすんなって。ガキの頃って自分で自分の気持ちがコントロールできねーし、力発散すりゃ落ち着くだろ」
 少しショックを受けたガイだが、すぐに立ち直った。そうか、発散させてあげればいいのか。
「ハッハッハ! よくぞ見抜いたな! オレはグッドファイヤーではない……悪の戦士ジャークファイヤーだ! さあ、かかって来い!」
 両手を振り回しながら珠貴が突進する。
「甘い!」
 両わきに手を差し入れて体を持ち上げると、『高い高い』をしながらぐるぐる回る。バタバタと暴れる珠貴だが、力の差は歴然。ガイは悪役っぽい高笑いを上げている。
「どうだ、目が回るだろう!」
「くそー!」
 少しふらつく足元で式へターゲット変更。可愛らしい蹴りは見た目の割に重い。
「大丈夫か、ジャークシャドウ!」
「勝手に名付けるな。あと言動が悪役っぽくねぇよ」
 珠貴は息を切らしながらこちらを睨み付けるが、正義と悪との攻防はそれから5分と続かなかった。
「ごめんなさい!」
 体力が尽きたふたりに改めて自己紹介する。式はゆっくりと語り掛ける。
「俺たちはお前らと楽しく遊ぼうと思ってきた。だから悲しかった」
 剣はばつが悪そうに言う。
「いたかったか?」
「痛かった。俺たちはリンカーだから大丈夫だったが、もしそうじゃない奴をやっつけちまったら大怪我させるかもしれねぇ」
 珠貴は泣きそうな顔をする。
「お母様みたいな正義のひーろーになりたいのに」
「なれるさ! 正義を守りたいって心があるんだから」
 珠貴は不安そうにガイを見上げる。式は持参した絵本を取り出す。
「ま、そのためには何が正義かってことをよく考えなきゃな。こいつらと一緒に考えてみるか」
 それはふたりの勇者がぶつかったり助け合ったりして困難を乗り越える冒険の話。悪い竜の一族ながら善い心を持った竜を倒すかどうかのシーンでは、勇者をなぞるようにして珠貴と剣の意見が割れる。
「すぐに答えの出る問題じゃないよな。これは宿題にすっか。帰ってからふたりで考えてみな。次はガイお兄さんの出番だ」
 悩んだ後は気持ちの良い勧善懲悪を。ガイの出演するヒーローショーの映像をみんなで見る。
「式って顔こわいけど、式が兄ちゃんだったら楽しそうだな。兄ちゃんにしてはチビだけど」
 兄か――式は思う。幼い英雄たちは恐らく前の世界の家族のことは覚えていないのだろう。英雄はたった一人でこの世界にやって来る。珠貴への想いの強さは当然のことなのかもしれない。――反抗的な性格は元々だと思うが。式は笑う剣にデコピンした。
「おい、半分以上悪口じゃねぇか」

●まじょっこぐみ
「……うへ、うへへ……パパママが来るまで、宜しくね!」
 涎を垂らしてニヤけ顔の青色鬼 蓮日(aa2439hero001)。魔の手が子供たちに迫る。
「……嗚呼……御仏よ、コレも試練なノデすカ……」
 鬼子母神 焔織(aa2439)は嘆く。野乃は早くも泣いている。姫子は七海の背に張り付く。一気に距離が縮まったのは良いことだが、七海にとってはそれすら幸運とはいえない。
「やぁーんっ! 可愛いーっ!」
 ドアが開いた。
「どうかしたんですか?」
 紙袋をもった国塚 深散(aa4139)は、子供たちに目線を合わせるように床に座る。
「だれ?」
 姫子は綺麗な黒髪のお姉さんに興味津々。野乃も姫子の陰に隠れてついてくる。
「私は深散。こちらはうさ子ちゃんとわん太郎くんです」
 対子供用の鉄板装備、パペットだ。蓮日に犬を託し深散とうさぎは袋を探る。
「今日は着せ替え遊びをしましょう」
 借りてきたHOPEの制服をピンでサイズ調整し順番に着せる。
「姫子、せーふく似合う?」
「ええ、とっても」
 最小サイズの制服でもやはりぶかぶかだが、彼女たちは満足げだ。
「素敵ですよ、野乃ちゃん」
 頬を染めて野乃がはにかむ。つられて深散が柔らかに笑う。その時、悲鳴が平和な空気を切り裂いた。
「ちょっとだけかしてよ!」
「いやあああ! トラあああああ!」
 姫子がトラ――七海が肌身離さず持つぬいぐるみ――を引っ張る。子供の喧嘩としては珍しくもない状況だが、七海の取り乱し方は常軌を逸しており発狂寸前と言った風情。叩かれた姫子の手は真っ赤に色づいている。
「ののちゃん!」
 共鳴。姫子と野乃の力で机や椅子が浮き上がる。
「……ころす!」
 その凶暴性は彼女に元来備わっていたものなのか、英雄からの忌まわしき薫陶か。魔法vs物理。七海は浮き上がったパイプ椅子を片手で掴んで振り上げる。
「七海ちゃんのばか!」
 突風。軽い体は浮き上がり、地面にしりもちをつく。はずみで手放した椅子が頭上に降って来る。いい音がした。
「おい、ガキぃ」
 ドスのきいた声。
「……俺ぁ見ての通りの紳士なんでな。一度目は許してやる。次は殺すぞ」
 彼は言葉だけ残して眠りにつく。手を出さないのはHOPEに利便性を感じているからにすぎない。事実、女子供だろうと良心の呵責なく殺す男である。――暴力を振るう者は、暴力を振るわれるリスクを背負っている。リンカーの手で振るわれる力となれば、なおさらだ。お姫様たちには過激すぎるお灸だが効き目はあるだろう。あんな風になりたくない、という反面教師という形ならば。
 深散は小さな魔法少女の前に立ちはだかり、抱擁した。
「どうしました? お姉さんに教えてください」
 背中をぽんぽんと叩く。放たれる言葉はぐじゅぐじゅとはっきりしない。
「一緒に深呼吸しましょう。吸ってー、吐いてー」
 七海は蓮日にそっと抱き込まれる。不思議な感覚だ。まるで母親の腕に抱かれているような――。ぺろり。
「あ」
 頬を這う濡れた感触。物理的な耐性こそ高いが、精神的なストレスにはこの上なく弱い七海。負荷がかかりすぎると――。学校でのあだ名の一つは、マーライオン七海だ。
「ワタシたちに任せテ避難を……」
 深散は鬼気迫る表情で頷くと、姫子と野乃を伴って廊下に出た。
「……トラと遊びたかったの」
「可愛いですもんね。でも乱暴はいけません。後で謝りましょうね」

●どうぶつぐみ
 白いお腹――胸か?――を反らせてペンギン皇帝(aa4300hero001)は鷹揚に言う。
「幼子は未来の象徴であり、国の宝である。此処は余の国ではないが、それは変わらぬ真理であろう。その世話をするに否やは無いが……あれは何をしておるのか。楽しそうであるな……余も混ぜてくれぬであろうか」
「素直に『一緒に遊びたい』って言ったらどうですか?」
 さらりとつっこみ、織歌は子供たちの元へ。
「お姉ちゃんは織歌と言います。織歌お姉ちゃんで良いですよ。お名前、聞かせてくれますか?」
 コミカルなシャチのイラスト付きエプロンをつけた織歌に、エミルと拓狼が元気に挨拶した。
「一般的には可愛いとされるものであるか……余はそのイラストに本能的恐怖を感じるのだが」
 エミルが皇帝に熱い視線を注ぐ。人望、いやペンギン望のなせる業と思いきや。
「おいしそう」
「ヒッ」
 鬼ごっこが始まった。
「俺も走るぜー!」
「ははっ元気で良いな。俺から逃げ切れたら、ご褒美をやろう。もちろん、甘いものだ」
 幼児たちの眼が輝く。彼らの鼻は部屋の隅の机に置かれた果物の匂いもかぎ取っている。
「待て!」
 鬼役の豪は素早さを活かして拓狼を追い詰めるが、ギリギリのところで逃がす。いつもは追う側の彼にとって追いかけられるというのは新鮮な刺激らしい。
「お、織歌、助けんか。余の生命の危機であるぞ」
「追いかけられると普段より速く走れるらしいです。これは鍛錬のチャンスです」
 鬼でもないのに皇帝を追い続けるエミルの眼も真剣だ。
「なになに、鬼ごっこ? ボクも混ぜてー」
 合流した伊邪那美もきゃーきゃー言いながら豪の腕をすり抜ける。がちゃりという音が聞こえ目を向けると、ドアを開けた恭也と目が合った。その場で立ち止まり、夢中で遊んでいたことをごまかすように乱れた髪を直す。
「準備できたぞ」
「い……今行くよ」

●おやつのじかん
「こんな感じでいいの、恭也お兄ちゃん?」
「ああ。うまいじゃないか、エミル」
 スイカの果肉をスプーンでくりぬく。赤いまん丸がころん。エミルは眼を輝かす。
「なーなー織歌姉ちゃん、俺の方が速いだろっ?」
「はい。よくできました」
 くりぬき作業を終えると子供たちは空腹を訴える。
「おなかすいたぁ」
 恭也は声を落として言った。
「一口だけな。皆で一緒に食べるのも美味く感じるが、つまみ食いをした時の美味さは別格だからな」
「あの~、ボクが手を出すのは禁じられてるんだけど?」
「お前の場合は、つまみ食いの量じゃないだろうが……」
 伊邪那美と豪はフルーツをカットしていたらしい。
「む~。ま、いいや。こっちも切り終わったよ」
 メガジャンボなスイカの器いっぱいに盛られたのは、フルーツポンチ。
「こんなんじゃ足りねえぜ」
 拓狼の野性が顔を出す。伊邪那美がお姉さんらしく諭す。
「美味しそうだけどみんなのおやつだからね。ボクも我慢するからもうちょっと待とう」
「やだ!」
 拓狼の姿が消え少し成長したエミルが牙をむく。冷蔵庫にスイカを運ぼうとした伊邪那美に突進する。
「こら!」
 鋭い声。恭也の視線がエミルを射抜いた。蛇に睨まれた蛙だ。
「人にされて嫌なことをするな。誰かにおやつを取られたら悲しいだろう? 自分たちのせいで友達にひもじい思いをさせていいのか」
「うう、だめだよぉ」
 尻尾を下げてエミルが唸る。ぐぐぅとお腹が鳴った。
「友人への香港土産だったが……非常事態だ、仕方ない。……許せ」
 豪は銘菓「蟠桃」を取り出した。
「さあ、エミル。ご褒美のお菓子がまだだったな。好きなだけ食べると良い」
「いいの?」
「……まあ、おやつの独り占めは我慢できたからな」
 お菓子が消えていくのを見ながら、織歌と伊邪那美が話す。
「来年はこの子たちをスイカ狩りに誘うのもいいかもしれませんね」
「それ名案!」
 深散たちがやってきた。前半戦の騒がしさが嘘のようにおやつタイムは平和に過ぎる。
「こんなおっきいスイカはじめてみたー」
「お姉ちゃんが頑張ったご褒美に貰ったんですよ。スイカが砂浜をぴょんぴょんはねて爆発して……」
 後から合流した組が食べている間に、姫子班とエミル班はクッキーの型抜きにも挑戦した。
「お花のかたちかわいいー」
「はやくくっきーにならないかなぁ」
 オーブンをセットした子供たちは別室へ移動した。
「残り1時間を切ったか……」
 恭也が名残惜しそうに呟いた。

●ひーろーしょー
(子供が泣いているのを見るのは嫌なんですよね……それって、とっても幸せじゃないですから)
 部屋の隅では織歌が七海を手当てしている。
「こぶにはなってませんね。気分は悪くありませんか?」
 力なく頷く年下の少女に織歌は胸を痛める。
「よしよし、大丈夫ですよ」
 共鳴状態の自分をノーガードで抱き締めてくるとは。お人良しだ、と七海は思う。蓮日とは別の意味で力が抜ける。
「よーし今からみーんな大好き《ひーろーしょー》を始めるぞー! 拍手だー!」
 ぱちぱちと可愛らしい音。
「じゃあ珠貴ちゃんっ!キミのパパは普段何をしてるっ!」
「ひーろーですわ!」
 珠貴が元気に答えた。
「そーだ! 今回はー……《同じ力を持つ君達が知るべき大事なこと》を見せてあげよー!」
 蓮日は黒いマントを羽織る。
「焔織ーっ!」
 彼はため息をひとつ吐くとナレーションを開始する。
「あるトコロに《羅刹女の主》と呼ばレる鬼女がイマしタ……」
「食べ物も綺麗な服も好きなだけ奪った。次は遊び相手だ。弱い奴は私に逆らえぬ。おもちゃにして好きなだけ遊ぶのだ!」
 最前列のエミルを抱き上げる。
「い、いやだぁ」
「ふははー! 《力》の無いヤツには選択権はないのだーっ!」
「待てい!」
「何もノ……だ!」
「俺は悪を打ち倒す赤色巨星……。正義の使者、爆炎竜装ゴーガイン!」
 焔織が主人を庇うように立つ。
「《羅刹女の主》よ! お前の好きにはさせんぞ! エミルを離せ!」
 悪のリンカーは手下との共鳴で自己を強化する。
「……ハァ。一発、打ち込ンデ、みて下サイ……」
 小声の合図で両者が動く。《羅刹女の主》は迫る拳をいなし、敵を後ろから抱いて拘束する。と、一瞬蓮日の姿に戻り解説する。
「ニシシシ、もし君がフツーの子に力を使うと、相手はこーなるんだ!」
 ゴーガインは締め上げられ苦し気な声を上げる。迫真の演技だ。すっかりショーの世界に取り込まれた子供たちがざわめく。
「がんばれ!」
「私たちは悪のリンカーにはなりませんわ! ゴーガインのようなひーろーになるのです!」
 次々上がる応援の声。ゴーガインの手が悪党の腕を強く掴む。
「むっ、なんだこの力は」
「うおおおおお!」
 ゴーガインが拘束を解き、悪の化身に向き直る。
「信じてくれるものがいる限り、俺は負けない!」
 鋭い突きを受けまいと、黒マントがはためく。右へ左へ。スピード感ある攻防はヒーローの優勢に傾いていく。
「ぐはー☆ 絆の力これ程とはー!」
 豪快な回し蹴りに合わせて吹っ飛ぶ《羅刹女の主》。拍手が巻き起こった。
「かっこいーねー!」
 まいだが手を叩きながら言うと、剛吾がこっくりと頷く。
 共鳴を解いた蓮日はマントを脱ぐ。
「さて! 大事な事は分かったか! それは……《人の気持ちを知る事》だ!」
 ゴーガインが続ける。
「俺たちは強い力を持っている。だからこそ悪い心を持ってしまうと《羅刹女の主》みたいになってしまうんだ」
「良い心を持ったら?」
 千里が尋ねる。
「それなら大丈夫! ゴーガインのように強くて優しいヒーローになれる!」
 蓮日の言葉に子供たちは沸く。しかし。
「野乃はダメかも……りんくするとね、ひとのきもちがわかんなくなっちゃう」
 子供たちはそれぞれの相棒と話し始める。エージェントたちは思っていた。反省する素直さを持つ彼らならきっと大丈夫だと。

●ばいばいまたね
「ねーんね……ころーりよー……」
 蓮日の膝枕でまいだが眠っている。先生役を頑張って疲れたらしい。
「……可愛い、寝顔でスね」
「うむ……う、うふ……せ、せめて……ひと舐め……」
「……ダメでス」
 焔織の手刀がヒットした。そしていよいよお別れの時。
「深散お姉ちゃんとばいばいするのさみしいよぉ」
 姫子が涙をこらえて言う。普段ならもっと駄々をこねるところを健気に我慢している。
「私は姫子ちゃんのお母様たちと同じHOPEの仲間です。また会えますよ」
 深散が促すと姫子は七海に向き直る。
「トラをとろうとしてごめんね。転ばせてごめんね」
 年下に先手をとられた七海は消え入りそうな声で「ごめんね」と返す。「殺す」発言は五々六のせいなので少し不本意だ。
「七海ちゃんもまたあそぼ」
「……う、うん」
 「嫌」と言いかけるが、ここは大人の対応だ。この場をしのげばそうそう会うこともないと信じて。
 蓮日は近づいてきた姫子と野乃の頭を撫でた。蓮日の暴走から守ってくれる焔織と、愛情が過剰なだけで本当は優しい蓮日。ちゃんと伝わっていたのだ。
「お世話になりました」
 剛吾の父に合わせて黎焔と九郎、少し遅れてまいだもお辞儀をする。
「お話、すごくおもしろかったんだよ!」
「仲良くしてもらえてよかったな」
「うん、黎焔ちゃん大好きー!」
 千里は無邪気に抱き着く。
「お顔赤いよ? なんで?」
「うるせぇ、じゃなくて……ちょっと部屋が暑いんだよ」
 剛吾は作品をまいだと九郎に差し出す。魔界の動物園から来たに違いない『キリン』と、銃口からミミズにしか見えない水が飛び出した『水鉄砲』。予想外のプレゼントにふたりは感激する。
「ともだち」
「友情のしるしだって」
 照れくさいが嬉しい、まっすぐな好意だ。
「バイバイ、また遊ぼうね!」
 九郎はホープマンがプリントされた風船をプレゼントした。他の子供たちが風船の列に並ぶ中、珠貴はもじもじしながらガイの袖を引く。
「私、ガイお兄様のショーを見に行きたいです」
「いいぜ! 日程が決まったら連絡するからな」
 ガイはほのかな恋心の視線に気づいていないが、剣はえらく複雑な表情をしている。式は隣にしゃがむ。
「珠貴を守らなくていいのか?」
「……ガイはわるものじゃないし、痛いのしたらダメだから」
「よし。お父さんとお母さんをあんま困らせんなよ」
「おう!」
 拳同士をぶつける。剣は『母』の元へ走っていく。
「珠貴、剣、粗相はなかった? その顔は……何かしましたわね?」
 厳しい言葉を放つ彼女の眼は、しかし慈愛に満ちていた。突然現れた『息子』も彼女にとって本物の家族なのだ。
「不思議なものですよね、リンカーと英雄の縁って」
 焼きあがったクッキーを配っていた深散がしみじみと言った。
「多めに作ったのでまいだちゃんと七海ちゃんもどうぞ。ペンギンさんもいかがです?」
「おお、くるしゅうないぞ!」
 子供たちは最高の笑顔を見せて帰っていった。
「子供の相手は疲れるな。職員の人達の凄さが感じられたな」
「また、年寄り臭い事を……恭也にだってあんな頃があったでしょ。……あったよね?」
「なぜ、疑問形なんだ……まあ、あったとは思うが記憶には無いな」
「ちょっと、見て見たかったな~」
 微笑ましいやりとりをする恭也と伊邪那美。逆に七海は不機嫌そのものだ。
「やっぱり子どもなんて、ろくなもんじゃないよね。ね、トラ。うるさいし、すぐ泣くし」
「なに目線なんだよ。どの口が言ってんの、それ? ゲロ吐いた口が言ってんの?」
 職員が感謝を伝えると、豪が当然のことをしたまでだと首を振る。
「必ず、エージェントを最低一組、手伝いに来るよう俺から掛け合おう」
「オレ達もまた手伝うぜ!」
 こうして一日限定の保育園は閉園した。最後は元気に――せんせい、さようなら!

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139

重体一覧

参加者

  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御
  • まいださんの保護者の方
    獅子道 黎焔aa0122hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 堕落せし者
    旧 式aa0545
    人間|24才|男性|防御



  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439
    人間|18才|男性|命中
  • 流血の慈母
    青色鬼 蓮日aa2439hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
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