本部

ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/07/27 13:55

掲示板

オープニング

●超異変
 李永平(az0057)は一心不乱に紙粘土を重ねていた。紙粘土を重ねては首を傾げ、首を傾げては紙粘土を重ね、小さすぎて聞き取れないが何かをぶつぶつ呟いている。エージェント達(無事な方)は表情が死んでいる永平から視線を逸らし、永平以外のエージェント達(無事じゃない方)にもそれぞれに視線を向けた。エージェント達(無事じゃない方)もまた永平と同じように、一心不乱に紙粘土をぺたぺたぺたぺた重ねている。
 一体何がどうしてこうなったのか。説明するにはちょっと時間を遡る必要がある。

●きっかけ
「粘土細工を教える教室に変な箱が出たらしい」
 オペレーターの言葉に、エージェント達の頭から小さな「?」がぶっ飛んだ。ただ一人永平だけは噛み付きそうな表情でオペレーターへと身を乗り出す。
「それはパンドラの従魔か? ああん?」
「俺に凄まないでくれ。関係があるかどうかは分からん。だがまあ、とりあえず調査、必要があれば討伐だ。今の所特に被害らしい被害はなく、部屋のど真ん中に陣取って困っているからなんとかしてくれという事だ。でかさは一辺50cm……結構でかいな。まあ、よろしく頼む。まさか粘土教室だからって突然粘土細工を作りだしたくなった、とかいう事にはならないと思うから、多分」

解説

●状況
 PCの半数+永平が粘土像を作り始めた

●やる事
【像を作る人】
 1時間で「憧れの人」の像を作る。「憧れの上司・異性・自分」など『憧れ』であればなんでも可。大きさは自由/ものによっては完成しない場合もある
 1時間後に作品の発表会を行った後正気に戻る
 
【作らない人】
 基本自由。外に出ても可

●場所
 市民館講堂
 粘土教室のため貸し切り。10×10sq。フローリング。現在一般人立ち入り禁止。歩いて5分の所にコンビニあり。日中。晴天

●NPC情報
 李永平
 何かを呟きながら胸像を作っている。背中を見ようとすると一瞬正気に戻るがすぐ像製作に戻る
【PL情報】
 放置すると劉士文の胸像を完成させる

 花陣
 最初は永平の様子に爆笑するがその内飽きて寝る

 劉士文
 HOPEのFAXを用い永平の写真を送る事は可能/ものによっては秘書にもみ消される

●使用可能物品
 紙粘土(大量)、水入りバケツ、座布団、その他粘土像作りに必要な物品(マスタリング対象)、携行品

●敵情報【PL情報】
 変な箱×1
 講堂にいる人間の半数に【洗脳(粘土像を作る)】付与。洗脳された人間は1時間粘土像を作る事しか考えられなくなる/粘土像を作る速度とクオリティーがめちゃくちゃ上がる/一瞬正気に戻る事があってもすぐ像製作に戻る。共鳴した場合は洗脳を受けている方が主体となり共鳴状態で像を作る/共鳴解除(洗脳を受けていない方が離脱する事)は可能
 外装が非常に脆くどんどん崩れており、現在では一辺1cm程度。部屋の何処かにいるが放置しても1時間程度で消滅。ライヴスは超微弱

●その他
・能力者・英雄どちらかを「像を作る人」、どちらかを「作らない人」に設定する事。英雄不参加の場合は能力者を「作る人」、英雄は幻想蝶待機(描写なし)となる
・コンビ二で物品を購入する場合、3000G程度であれば徴収なし(マスタリング対象)/購入物はアイテム配布とはならない

リプレイ

●緊迫
「永平さん待って!」
 まほらま(aa2289hero001)と共鳴したGーYA(aa2289)は一人施設に突入しようとした永平の腕を強く掴んだ。噛み付くような赤い瞳にGーYAは必死に言葉を紡ぐ。
「どんな危険があるか未知数なんだ」
『独断先行は悪手だわ、あたし達を少しは信用なさい』
 諫めるGーYAとまほらまの言葉に永平は声を詰まらせた。GーYAの手を払った後、気まずそうに息を吐く。
「悪い……」
「いいよ、それじゃあ行こうか」
 GーYAはライヴスゴーグルを装着し、施設に被害を与えぬ様ネビロスの操糸を携えた。目だけで相互に合図を送り、戸を開け一斉に中へ踏み込む。

 以上、シリアスモード終わり。

●ぺたぺたこねこね
「いったい何が!?」
 GーYAは拳を握りながら渾身の思いで叫びを上げた。先程までは確かにシリアスだったはずなのに、永平と、共鳴を解除したまほらまは我を忘れて粘土をぺたぺた捏ねている。GーYAは永平に近付くと、まず頬をつんつんした。「だーれだ」と目隠しした。頭を撫でた。しかし変わらず粘土を捏ねる永平に、GーYAは永平の頭をなでなでしつつ仲間達に視線を向ける。
「見てよコレ」
「なんつーか永平は毎回運ねぇな……厄年かよ」
 『ありえない行動が出来てしまう重大さアピール』するGーYAの言葉に朱殷(aa3877hero001)が同情気味に呟いた。虎噛 千颯(aa0123)は指を差しながら涙を滝のごとく噴出する。
「ちょっ! 白虎ちゃん何してるの!! マジウケるーwww」
「いやぁ、まさかこうなるとは思わなかったな」
「黎夜? 黎夜さん? つぅ? ……聞いていないわね、これ」
 千颯、蛇塚 悠理(aa1708)、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の声に、白虎丸(aa0123hero001)、蛇塚 連理(aa1708hero001)、木陰 黎夜(aa0061)は答えず熱心に粘土をこねこねこねこね。桜宮 飛鳥(aa2427hero001)も「……楓? 楓?? どうした」と雪峰 楓(aa2427)の名を戸惑い気味に呼んでいたが、ぺたぺたする相棒の姿に額に手を当て首を振る。
「おい、なにが『突然粘土細工を作りだしたくなった、とかいう事にはならないと思うから、多分』だ」
「うはwwマジで反応無い系?」
 沈む飛鳥とは対照的に、千颯は永平の胸を後ろからフリーダムした。このまま行くと好き勝手自由人の定例事項になるかもしれない。朱殷はやはりぺたぺたしている椋実(aa3877)から永平に視線を戻し「厄年だな」と呟いた。
「……よし、仕事しよ」
「従魔が原因? どこにいんだ?  しっかし、ファランが一生懸命制作中だ」
 ぺったぺたぺたしているシルミルテ(aa0340hero001)の姿に佐倉 樹(aa0340)が深く考えることをそこらに投げ捨て、周囲を見渡した後にファラン・ステラ(aa4220hero001)を一瞥した波月 ラルフ(aa4220)が口を開いた。とりあえず従魔を探す事は大前提。正気を保っているメンバーでさくっと講堂を探した後、樹の提案で物陰を徹底的に捜索する事にした。椅子等もひっくり返して直ぐに戻してを繰り返し、ついに千颯が「あ」と小さく声を上げる。
「んー箱ってこれかな? なんか小さいし特に警戒の必要なさそうかな?」
 千颯の元に皆が集まり「これ」に揃って視線を向けた。箱、と呼ぶにはあまりにも小さい何かにアーテルは顎に指を添える。
「聞いていた大きさよりもかなり小さいですね」
「こんなに小さくなっているという事は外装が脆いのでしょうか。スマホで変化過程を動画撮影しておきましょう。それと位置固定を」
 樹はアーテルと共にインスタントカメラで従魔(?)の姿を取った後、「平和的鈍器(角)」として所持していたザッシィを取り出した。結婚情報誌に囲まれる従魔の姿にGーYAが考えを口にする。
「とりあえず危険はなさそうだし見守る事にしましょうか。警戒は必要ですが途中で止める方が危険かもしれないし」
 一同は賛成し、ぺたぺたしている仲間の様子を傍で見守る事にした。稍乃 チカ(aa0046hero001)もやはり無言のままぺたぺたぐにぐにしている邦衛 八宏(aa0046)の姿を眺めていたが、3分も経たない所で勢いよく立ち上がる。
「うん! なんかな! 待ってるの飽きたわ!! おーっし、今のうちにコンビ二に買い出し行くぞ! 金ならあるし!」
「……ここにいてもしょうがない気がする。付き合うか」
 チカの言葉に飛鳥もその場に立ち上がった。椋実の様子を見ていた朱殷は羽毛に覆われた腕を上げる。
「お、買い出し行くんか! すまんが俺は見張っているわ。大福的なアイスを頼む」
「(一応、仕事ですし)私も観察しておきます。バニラ二つと白く○一つ、一つは誰かさん用に、出来ればどちらもカップで」
「アイスはオレちゃんジャリジャリくんでよろろ~。味はコーラ味でな~!」
「俺はパ○コのチョコ味、まほらまは白く○カップ。まほらまのお気に入りなんだよね」
「花陣、お前も行かね?」
 朱殷、樹、千颯、GーYAのリクエストをメモした後、チカは車椅子に座る花陣へと視線を向けた。「行く」と二つ返事した花陣に、粘土をこね始めた連理を面白そうに見ていた悠理が近付き車椅子に手を掛ける。
「手伝うよ。折角だし、車椅子を押させてもらってもいいかな?」
「よろしく頼むわ」
「私もご一緒させて頂きます」
 ヨハン・リントヴルム(aa1933)の様子を見ていたパトリツィア(aa1933hero001)も立ち上がり、「コンビ二でアイスの情報収集」も兼ねてラルフも同行を希望した。アーテルも荷物持ちについて行こう、とした所で、さりげなく絵の具を製作者達の近くに置く。
「絵の具、良かったら使って下さいね?」
 無言の製作者達を一瞥した後、「ではよろしく」と残留組に頼み、アーテルも講堂を後にした。

●買い出し
「暑くありませんか?」
 パトリツィアの問い掛けに花陣は桃色の瞳を向けた。好意的な言葉を無表情に述べるパトリツィアに花陣は軽く右手を上げる。
「大丈夫。サンキューお姉ちゃん」
「……そうですか」
 パトリツィアは何かを含むように呟きその場を離れ、代わりにアーテルが傍に寄り花陣の頭上に日傘を差した。「至れり尽くせりって感じだな」と花陣がアーテルから傘を受け取り、そうこうしている内に一行はコンビニへと辿り着く。
「アイスか……俺はス○カバーとか好きだな。食感が変わるのが面白いよね」
「俺は安値のソーダ味のアイスバー。何だかんだでこれが一番好きでな。ファランにもバニラにチョコ掛け買っていくか」
「俺はシャーベットが好きです。普段はお徳用の小さなアイスが沢山入ってるものを買いますが……」
 悠理とラルフのアイス談義を聞きながら(お徳用じゃない方が喜びそうだな)と思ったアーテルは自分に苺カキ氷、黎夜にカップのチョコレートアイスを手に取った。少々の贅沢も今日ぐらいはいいだろう。
「それと麦茶やスポドリ等の飲料と、紙コップも買いましょう。熱中症になると脳がゆで卵のようになる、と聞いたので避けたいですよね」
「俺は自分用にサイダーとアイスキャンデー。八宏にはゆるゆるに溶けたたま○アイスを買ってくぜ。こいつをちょん切ると中から溶けたアイスが、こう、どびゃーって出てくんだぜ? イタズラにはもってこいだろ!」
「しかし、この世界の物は未だによくわからんな。何と言うか、実感が湧かん。何だって氷菓子なんぞが庶民の手の届くところにあるのだか……」
 アーテルとチカの声を聞きつつ、侍装束をまとう飛鳥はむうと首を斜めに傾げた。パトリツィアも自分と主用に白く○カップを二つ買い、「車椅子の花陣の速さに合わせて帰るとアイスが溶けかねない」との考えから、時間を稼ぐための氷もカゴの中に放り込む。店員に頼んでアイスを囲むように氷を袋に入れてもらい、率先して荷物を持ち皆と共に歩いていく。
「お姉ちゃん、大丈夫か」
 と、花陣がパトリツィアへ視線を向け口を開いた。パトリツィアは一瞬無表情で花陣を見つめ、「大丈夫ですよ」と表面上は笑むように目を細めた。

●こねこねぺたぺた
 粘土作りメンバーは一心不乱に各々作業に当たっていた。八宏は無心で粘土を捏ねては重ねていき、白虎丸はすごいスピードで粘土を粘土に叩きつける。アニメの鼻歌付きの椋実はヘラ二刀流の妙技を見せ、シルミルテも新聞紙を水に濡らしてΩ型の大まかな芯を作り、そこにぺたこね貼り付けるという技巧を見せている。そして楓は粘土をぺたぺたしながら何故かハァハァ×2していた。
「ふ、ふふふ……そう、飛鳥さんの腰回りはこう、ここにホクロがあってですねぇ……そう、そうそう。こうですよ、こう。いい感じです……」
「人は器用だよなぁ。細かい作業は俺には無理だな!! ムクは……布団とか食べ物とかだろうな! ……ん、ありゃあ違うか? なんだ、顔、か?」
 全員の様子を見回っていた朱殷は椋実の作品に首を傾げた。実はちょっと作りたいのだが、羽毛と一体化している朱殷の手では難しい相談だ。
「まほらまは……何作るんだ? あ、ケーキか!」
「シルミルテのは芯の形からすると……人?」
「永平ちゃんはどうせ士文ちゃんじゃないかなー。というかこれで違ったらそっちが驚きだぜ! 白虎ちゃんが誰を作るのか正直そっちの方が興味アリなんだぜ……と、永平ちゃんの作った大作と製作状況はちゃんと残しておかないとな」
 GーYAや樹と作製予想を繰り広げつつ千颯はパシャリと写メを撮った。そこにアイス組が揃って帰還し、飛鳥とラルフがそれぞれ相棒と途中経過を覗き込む。
「……うん? 待て、これは……私か?? なんだこの異様なまでの作りこみは。……何だか寒気がしてきたぞ」
「ファランは黙々と……自分作ってるっぽいな。……この世界の可愛い服着てみたかったのか。年頃だな。今度姉貴(従姉)にでも頼むか」
「……何を作っているんだか……」
 悠理は熱心な連理の手元を訝し気に覗き込んだ。熱心ではあるのだが端的に言えば詳細不明だ。槍と盾を持っている人のようにも見えるのだが……
「まあとりあえず食うヤツは食って飲むヤツは飲んどけ。暑いなーしかし。そろそろプールとか行きてぇんだけどなー、毎日あんな死人みたいなのと一緒じゃ、お化け屋敷の気分しか味わえねーよ」
 買ってきたものを配り歩いたチカは、他愛無い愚痴と世間話をこぼしつつ日陰の上に寝そべった。身体を丸め涼しい床を堪能する様は正に猫の如しである。
「涼の取り方? 俺ちゃんはフルオープンパージだからみんなもパージすると良いんだぜ! みんなどんな感じ~?」
「エアコン……と言ってしまうと風情が無いね。そうだな……出来るだけ涼しい格好をするように努めているよ」
「窓の外に簾設置して日陰作って、網戸にして風通し良くする……とかかな。家電は基本扇風機で、偶に冷風機派、です」
「うちはもっぱら扇風機ですね。家にエアコンがないもので窓を開けて蚊取り線香を焚いて、あとは旬のものを食べたり打ち水をしたりでしょうか。日中どうしても暑さが我慢できない時はバイト先の喫茶店や図書館に逃げ込みます」
「俺も打ち水やるぜ。意外にあれ温度下がるんだよな、しかも手軽だ。ちょっとリッチなら鍾乳洞なんか見に行くとひんやりする」
「俺はエアコンに扇風機併用。あとは涼しくなる夜行動かな。移動の時幻想蝶へ避難できる英雄はいいよね。ところであれは男なのか女なのか……」
 千颯、悠理、樹、アーテル、ラルフ、と順に話を聞きGーYAは最後に息を吐いた。飛鳥は「……ふむ」とアイスをもっきゅもっきゅしていたが、突然のアイスクリーム頭痛に「……!?」とこめかみに手を当てる。
「永平さんの作っているサイズは大きめですね。黎夜のは……人の全身図? ……もしかして尊敬してる人でしょうか?」
「アーテルちゃんもそう思う? 永平ちゃんは士文ちゃんだと思うけど……って、あれ?」
 アーテルに同意を示した千颯は、そこで白虎丸の前にある像の形に気が付いた。15分というマッハで完成したそれの完成度自体は高くはない。しかしはっきりと分かる姿に千颯がはしゃいだ声を上げる。
「あ! これもしかしてオレちゃんじゃない!? もーやだー白虎ちゃんったらオレちゃんの事尊敬とかしちゃってたの~?」
「チェストォォォォ!」
 瞬間、白虎丸のいい拳がグシャァァッと粘土にめり込んだ。一瞬にして粘土()になった物体に千颯がカタコトで悲鳴を上げる。
「アイエエエエエ!! ビャッコ! ビャッコ! ナンデ!!?」
 白虎丸は答えなかった。再びどっしり腰を据え、潰した粘土をぺたこねぺたこね捏ね始めた。ぽたぽたと透明なものを垂れ流す千颯を尻目に悠理が樹に話し掛ける。
「隣、いいかな」
 樹は「どうぞ」と声を返し、悠理は隣に腰を下ろした。しばし逡巡を見せた後、意を決して口を開く。
「佐倉さんの……えぇと……あぁいや、関係性は分からないからいいか。水落葵くんと親しくさせてもらっていて……もし良ければ、佐倉さんから見た彼はどんな人か聞かせてもらえないかな」
 悠理の問いに樹はふむと考え込んだ。該当者の愛称を頭に浮かべ、ほぼ表情を変えないまま傍らのイケメンに答えを返す。
「おじさんです」
「おじさん」
「おじさん」
「皆は憧れの人を作っているのか。まほらまは……剣? ……あ、ねえ花陣さん、花陣さんと永平さんにとって劉さんってどんな存在なの?」
 思い立ったGーYAは車椅子の花陣へ声を掛けた。花陣はGーYAの言葉に得意気に胸を反らす。
「漢の中の漢、侠の中の侠、二言三言じゃ兄貴の凄さは表す事は出来ねえなぁ」
「憧れ……か、永平さんがちょっと羨ましいや。そう言えばさ……」
 GーYAからのひそひそ話に花陣はチカを指差した。日陰に寝そべるチカに「見たらすぐ破棄するから」と条件と事情を説明すると、チカはニヤニヤしながらGーYAにそれを送信した。とある場所での秘密写真、人目のない所に移動したGーYAは秘密写真を視界に収め一秒後に噴出する。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
 ひとしきりヘンな笑いで堪能し脳に写真を記憶したGーYAは、写真を消去した後何食わぬ顔で皆の元へと戻ってきた。見たって知られたら……ヤバい気がする! この秘密は墓まで持って行こうとGーYAは固く決意した。
「相方は何作ってると思う? あと完成すると思うか? そうだ、ファランは人見知りだからさ、あんまからかわないでやってくれ。タイプ的にはあのドーベルマン的なにーちゃんと同系統なんだけどな。犬を連想させるという意味で」
「了解したよ。作っているのは……さぁ、なんだろうね? 完成は……微妙な所かな?」
「そう言えば、箱の様子はどうでしょうか」
 ラルフと『笑顔』で首を傾げる悠理の会話を耳にしたアーテルは、情報誌に囲まれている従魔の元へと歩いていった。見ると箱の姿は半分程に崩れており、それを目の当たりにしたGーYAは箱に必死のエールを送る。
「頑張れ、頑張れ!」
「気が散るなあ……」
 騒がしい仲間達の姿にヨハンはぼそりと呟いた。とは言っても別に止めはしないが。肌や髪は絵の具を混ぜ込みながら重ねていき、装束は表面が乾いてから。ぺたぺたと作業を進めながらヨハンはふふ、と笑みを零す。
 楓は禍々しいオーラを放ちながら制作作業に当たっていた。サイズはさほど大きくはない、1時間程度で終わる位の全身像だが、服の下のアレコレもやたらと作りこまれている、毎日毎日ねっとりじっくり見ていないと出来ないレベルの細部までのリアルぶりだ。
「髪がすごく長いのは……そうですねぇ、針金か何かを芯にでもしましょうか。細かいところはヘラとかつまようじで……色を付けようとすると紙粘土って薄くなっちゃうんですよねー。今回は間に合いそうにないですけど。ふ、ふふ……ふふふ……」

●発表会
 異変発生から一時間後、エージェント達は何故か円の形に座っていた。まず初めに黎夜が椅子から立ち上がり、ドレスを着たゴツいゴリ……もとい一応人間の像を前に出す。
「キャシーお姉さん……うちの友だち……気遣いができるしいろんな意味で強くてたくましい人だと思う。キャシーお姉さん自身になりたいってわけじゃねーけど……キャシーお姉さんみたいにもっと積極的になりたいって思う」
「えっと……僕はお師匠様……ガイル・アードレッドさんを作りました。幼い頃から、日本の忍者(ニンヤ)にすごく憧れてて、20年前のあの日にも、忍者ショーを観る予定だったんです。それに僕、子供の頃は子供らしい事なんて全然できなかったから……お師匠様と、他のエージェント達と、正月遊びしたり、バーゲンセールで乱闘したり……お師匠様に弟子入りして、毎日楽しかった」
「素晴らしい出来ですね、ご主人様。そういえば昔から、ご主人様は絵を描いたりするのは上手でいらっしゃいました……」
 肌や髪の色、青い装束まで見事に再現された像をパトリツィアは素直に称賛し、アーテルも黎夜の作品に微笑みながら頷いた。黎夜は手先は器用だが普段の工作レベルは幼稚園児で、絵に関してはアーテル曰く「一言で表すと這い寄る混沌、あるいは迫りくる狂気」。しかしこの全身像は小さいながらもよく出来ている。
 八宏は自分の作品の出来栄えに我が事ながら唖然としていた。完成した像を抱え、お通夜のような表情で無言のままに俯いていた。無口な引きこもりである八宏にとっては人間全般が「憧れ」の対象で、 自分以外の人間がみんな眩しく見える。その純粋な憧れを形にするつもりだったのだが、無心で作り上げたそれは小さな人間の像を無理やり組み合わせて人間の形にしたというか、はっきり言ってサイコパスレベル。どう贔屓目に見てもキモイ。呪具のような像を抱える八宏にチカは遠慮容赦ない批難轟々を口にする。
「何それ、全人類を呪い殺せるオーパーツ?? 先進的なアート??」
「……」
「まあまあ、なんか凄いじゃないか。すごく気持ちが籠ってるぞ」
「迫力があります、邦衛さん」
 どうしてこのようなものが出来たのか自覚も無く、自分の作品に対する擁護も出来ない八宏にラルフと樹が褒め言葉を述べた。
 一方、まほらまと楓は得意満面な笑みを浮かべていた。片や彩色まで完璧な剣のオブジェonデコレーションされたケーキ、片やリアル過ぎる飛鳥像。見せつけられる何かの粋にGーYAと飛鳥が口を開く。
「ナニこの匠の技……」
「キレイでしょう? この剣……懐かしい気がするわね。何でかしらぁ?」
「はい、私の飛鳥さんの像です!! ほら、この胸から腰にかけてのラインがですね……。ふふふ、もうすぐこれがすべて私のもの……。頭の上からつま先まですべて……。ふ、ふふふふ……♪」
「……目が爛々と輝いているわけだが。アレは一体どうしてしまったのか。そういえば、楓は細工物があんなに上手かったか?? そういう心得はあまり無かったような気がするが。……しかし、この禍々しい像はどうするのだ。邪気を放っているぞ」
 GーYAは発表会を動画撮影しながらぽそりと呟き、飛鳥は憧れは間違いなさそうだが、尋常ではないぱぅわーを発する己の姿をした像に若干顔を青ざめさせた。

 千颯は一人泣き濡れていた。白虎丸の前には見事に叩き潰された粘土像(だったもの)。潰した後にまた作り、完成したらまた潰すを時間の限り繰り返した白虎丸は、まるで日頃の鬱憤を晴らしたかの様な心なしか晴れやかな顔で満足そうに立っていた。
「全く覚えておらぬでござるが清々しい気分でござる。……? 千颯どうしたでござるか?」
「オレちゃんの心はズタボロだよ……」
「??? 変な千颯でござるな?」
「くっ……こんな時白虎ちゃんの天然が憎い……」
「ワタシは大事デ大好きデ白がトッテも似合ウ友達ダヨ! 新聞紙デ芯を作ッテ、トレードマークな三ツ編みは首の横カラ前に垂らス形にしテ体に沿わセテ、天ノ川みたイナ緑ノ目はアルミホイルを一度軽くクシャットさせテから、伸ばシテ緑ノセロハン折り紙ヲ貼り付けマシタ!」
 ギリィッと悲しみを露わにする千颯とは対称的に、シルミルテはえっへんと自分の作品をアピールした。新聞紙、アルミホイル、セロハン折り紙、はさみ、カッターを駆使し、細部や強度にまで拘って完成した大人の拳二つ分程度の粘土像は、優しげな微笑も含め友達への大好きがよく表現されていた。
「それで、連理は何を作ったのかな?」
「あ? みりゃ分かるだろ! 説明する必要性を感じねーしっ」
 悠理の言葉に連理はぷいっとそっぽを向いた。絵心、もとい粘土心が無い連理も箱の能力なのかクオリティーは上がったようだが、「槍と盾を持っているようにも見える30cmくらいの人っぽい仁王立ちした何か」、という所までしか分からない。「ようやく人らしさが出た」「ちゃんと二本の腕と二本の脚がある」だけで「すごい」という感想が出る程である。
 しかし悠理は(可愛いからいいか)という、安定の黙っていればイケメンクオリティーで「そっか」の一言で話を終えた。

 朱殷は目の前にある像の姿に沈黙した。鼻歌を歌いながらひたすら捏ねられて出来た像は驚く程精巧で、どことなく共鳴後の椋実に似た顔立ちをした顔像だった。だが、笑顔。だから椋実でないと分かる。髪はミドルボブ、眉は少し太いようだ。黙っている朱殷に椋実は半分夢を見ているような様相で呟いた。
「んーなんだろうー、夢でよく見るの。なんだろね??」
「ムク……?」
「あれ……? なんだね……? いつも笑ってた、から、すきな顔……」
 困惑したように声を絞る椋実の頭を、朱殷は右手でぽふぽふ撫でた。やはり意識がはっきりしないのか、いつもは出る文句もなく椋実は黙って朱殷に頭を撫でられていた。

●終了
 ファランは何とも言えない表情でふるふると震えていた。視線を横に逸らせば「お疲れ様」と茶髪の男が何故か情報誌に手を合わせ、正面に視線を戻せば何故か自分の像がある。「……はっ!?」と気付けばこの状態。混乱するのも無理はない。ファランは像を見つめたまま呆然と両手で頭を抱える。
「何だ、これは……私が、作ったのか? ラルフ……ッ!? まさか、これは、従魔の所業というのか!?」
 ラルフに問い詰めようとしたファランはそこで周囲の様子と眼差しに気が付いた。辺りにはいくつもの粘土像。そして何故か複数の優しい瞳。従魔の仕業で像を作った者と作っていない者がいる。ファランは瞬時にそれを察した。像を作った皆と不覚を分かち合えるだろうか、という考えが頭を過ぎる一方で、何かを察したような優しい瞳がいたたまれない。ファランの中で二人の己がせめぎ合い、そして人見知りのファランが勝利のゴングを打ち鳴らした。
「やめろ、やめてくれ、そんな目で見るな!」
「まあまあファラン、アイスでも食っとけ」
「アイス……?」
 ファランはラルフからチョコバニラアイスを受け取ると、口に入れ「美味しい……」と声を漏らした。しかし誤魔化された事にはっと気付き声を上げる。
「って違う、餌付けするな! 不覚過ぎる……今すぐ記憶から消せ!」
「永平、だっけ? お前も元気出せよ」
 吠えるファランを宥めつつ、ラルフは先程「ド―ベルマン」と評した永平に視線を向けた。敬愛する男の像を傍に置き暗雲を背負う永平に、ラルフは先程の永平の言葉を思い出しながら声を掛ける。
「そこまで憧れることが出来るって俺はいいと思うがな。俺は自分の上司は嫌いじゃねぇが憧れてもねぇし。お前もアイスでも食っとけよ」
「どうぞ」
 ラルフの声を引き継ぐように、樹が市民館の冷蔵庫で保管しておいたバニラアイスを永平へと差し出した。永平はしばらく黙っていたがアイスを受け取り、口にした所で立ち直った千颯がハイテンションで顔を出す。
「あ、それ新作? 一口ちょうだーい? あ? そういうの駄目系?」
 永平は少し眉をひそめて千颯を見たが、木べらでアイスを一口すくうと無言で千颯に差し出した。ぱくりと口にし「サンキュー」と去っていった千颯の姿を見送った後、今度はヨハンが永平の真横に幽鬼のように近付いた。20年前のあの日、古龍幇の末端組織と言われるヴィランズに誘拐されたあの日、その日から今までの『人生』を思い返しながら、ヨハンは傍らに座る古龍幇にだけ聞こえるように呪詛を吐く。
「李永平、お前はいいよな。同じヴィランでも、慕ってくれる部下がいて、信頼してくれる上司がいて。復讐を果たすこともできて。若いからまだいくらでも人生やり直せるしね。お前達に復讐を果たして、やっと僕は『不幸な拉致の被害者』じゃなくなって、『ヨハン・リントヴルム』としての人生を始められるはずだった。……僕の人生はね、HOPEが古龍幇と手を結んだあの日、始まりもせずに終わったんだよ」
 永平は顔を上げ、自分をじっと見降ろしているヨハンへと視線を向けた。そして顔を戻し、ヨハンにだけ聞こえるように音を絞り言葉を返す。
「自分から始めようとしない奴に、始まりが来る訳ねえだろう」
「……!」
「今更おキレイぶるつもりはねえ。喧嘩なら買うからいつでも来いよ。ただし他の連中の迷惑にならない所でな」
 永平の言葉にヨハンは拳を握り締め、背を向けその場を去っていった。永平はその背を一瞥した後、息を吐いて再びアイスを口に運んだ。

「デきタ―」
 正気に戻った後余った紙粘土を拝借したシルミルテは、最近よく遊んでくれる(?)英雄の手の平サイズ像を完成させた。白いお饅頭のようなフォルム、顔の黄金比に拘ったそれに満足気な笑みを浮かべると、手をしっかり洗い、それから取っておいたアイスの蓋をぱかりと開ける。
「花陣チャンも一口いかガ?」
「サンキュー。遠慮なく頂戴するわ」
「よお、楽しそうだな」
 そこにチカが歩み寄り花陣の顔を覗き込んだ。悪戯っぽい笑みを浮かべ花陣の肩に腕を回す。
「こうやってバカな事してんの、楽しいだろ? ……けど、お前らをそのまんまにしとく訳にもいかねぇよな。なんつったらいいかな、お前とは良いダチになれそうだからさ?」
 花陣は少し目を開き、それから「サンキュー」と口にした。チカは腕を外し、溶けたたま○アイスを持って八宏の元へと歩いていった。どう悪戯しようか算段しながらふっと表情を和らげる。
(俺も八宏も、珍しく無茶はするかもな)
 ガラにも無いし、口に出すつもりもないが、例え胸の内だけでも呟かずにはいられなかった。

 椋実は自分が作った粘土像をじっと見つめた。その様子を朱殷は少し離れて眺めていた。
(そいつはアレだな、母親ってやつなんかね)
 椋実の様子から意識して作った訳ではなさそうだ。身体が勝手に作ったとでも言えばいいのか。朱殷は頬を掻きながらひっそりと息を吐く。
(記憶はないのに身体は覚えてたってか……夢、ね……俺じゃあまだまだ埋めらんねぇなぁ……)
「なーしゅあんー」
 名を呼ばれ、朱殷は椋実の元へと赴いた。変わらず像を見つめる椋実へと朱殷は首を傾げ問い掛ける。
「気になるのか?」
「……たぶんどこかであった気がする」
「そうか……夢ン中とかかね?」
「んー??」
「お、これ食うか? 買ってきてもらった」
「おー、これは大福的なアイスだー」
「好きだろ?」
「うんむ!」
「礼いっとけよー」
「わかったー。あ、永平の作ったの、かわいー」
 いつもの調子に戻った椋実は劉士文の胸像に少しズレた感想を述べた。その様子に苦笑した後、朱殷は粘土像を大事に箱に入れ幻想蝶に仕舞い込む。そこに椋実の声が大きく響いた。
「しゅあんー見てみろこれすごいー」
「ああ、ちょっと待ってろって大声出さなくてもわかるから!」
 
「アーテル」
 黎夜の声に、アーテルは視線を横に向けた。黎夜は少し迷った後、小さな声でそれを告げる。
「アーテルは、憧れよりも……信頼の方が大きい、かな……」
「……そう」
「いいなーアーテルちゃん。オレちゃんなんかさー」
 目元を和らげたアーテルの横から千颯がにゅっと顔を出した。白虎丸としては一応千颯の事は尊敬しているのだが(色々思う所はあるが)(尊敬していない所も多いが)、口にすると面倒そうなのでそのまま放置する事にした。

「佐倉さん」
 シルミルテの二つの作品の出来栄えを比較したり、報告用資料をまとめていた樹に悠理は改めて声を掛けた。自分を見つめる橙の瞳に悠理はにこりと目を細める。
「今日はありがとう。迷っていたあの時以来、久々に話せて嬉しかったよ。
 ところで、実は劉さんに写真を、と思ってて、良ければ選ぶのを手伝ってもらえないかな」
「それならオレちゃんも参加させて~」
「これとか面白いと思うぞ」
 悠理の提案に千颯とラルフもこっそりと参戦した。GーYAもまほらまの完成品を幻想蝶に入れた後、コスパが良く時間差で2本食べられるチョコアイスを口にしながら、永平に内緒で写真の選定作業を開始した。


 士文は送られた写真をおかしそうに眺めていた。最初は何事かと思ったが、今は苦笑しつつ手元にあるFAXを見つめている。
「恥ずかしい奴だな」
 それは永平の作った自分の姿の胸像の写真。千颯からは「巨匠永平渾身の作品!!」、悠理からは「憧れの人の像みたいです」、GーYAからは「永平さんの言葉です」と添えられた文章と、 逡巡した後書き添えられた「先日の事謝る気はありません、が礼を欠いた事はすみませんでした」というメッセージ。それから色々とデコられた永平の製作状況や、作り終えた後のドヤ顔や、花陣の楽しそうな顔。エージェント達と部下の映る写真を眺めながら士文は表情を緩めていた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中
  • メイドの矜持
    パトリツィア・リントヴルムaa1933hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • プロの変態
    雪峰 楓aa2427
    人間|24才|女性|攻撃
  • イロコイ朴念仁※
    桜宮 飛鳥aa2427hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 巡り合う者
    椋実aa3877
    獣人|11才|女性|命中
  • 巡り合う者
    朱殷aa3877hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
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