本部

花一匁

saki

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/31 18:29

掲示板

オープニング

●花一匁
 手を繋いで一列になった子供たちが向かい合い、楽しげに歌を歌っている。

勝ってうれしい花一匁
負けてくやしい花一匁
隣のおばさんちょっと来ておくれ
鬼が怖くて行かれません
お釜をかぶってちょっと来ておくれ
お釜底抜け行かれません
お布団かぶってちょっと来ておくれ
お布団破れて行かれません
あの子がほしい あの子じゃわからん
その子がほしい その子じゃわからん
相談しましょ そうしましょ

 小さな子供は歌詞の内容を気にしないが、その歌詞は人買いの歌である。何気なく歌われ、遊びになっているのだが、大人になって聞いてみればよくよく首を傾げたくなるような内容だ。
 そんな内容を歌いながら「決まった!」「××ちゃんがほしい」とじゃんけんをしている様は、子供らしくてとても微笑ましい。
 片方の列の人数が減り、もう片方の列にどんどん人が増えていく。
 そしてとうとう片方の列にいる子供は一人になった筈だった。しかし、その子供は手を引かれたのである。
 あたかももう一人いるかのように手が繋がれた。
「えっ」と子供はそちらを見ると、そこに同じくらいの大きさの子供がいた。無造作に伸ばされた髪からして、女の子なのだろう。しかし、子供が着ているのは着古して薄っぺらくなった着物であり、その足は裸足であった。そして何より、その顔が無かったのである。
 そう、見えないのではなくて無かったのだ。
 真っ黒というよりは真っ暗な顔の中で、にやっとチェシャ猫のようにシニカルな笑みを浮かべた口元だけがやけに浮いて見えた。
 子供の異変に、もう一列の子供たちも気が付いた。そして、着物の顔がそちらに向くと、何もない顔に口だけ浮かんでいるのを見て「ぎゃぁ」と声を上げて一目散に駆けだした。
「待って! 置いて行かないで!」と、手を繋がれた子供が叫ぶが誰も振り返りはしない。
 子供も走って逃げたかったが、繋がれた手はぴくりとも動かなかった。
 恐怖で怯えた子供が「来るな! 放せ!」と震える声で言い、首を振るが、女の子は距離を詰めた。
 吐息がかかりそうなくらい近くまで顔を近づけると、『遊びましょう』とそう言った。
 そして怯える子供が声もなく泣き喚くのにも構わず、再び『遊ぼう』と言った。
 その言葉を聞いた瞬間、子供はふっと意識を無くして地面に倒れた。
 女の子は倒れている子供を置いて、手を繋いだまま楽し気に笑い声を上げて去って行った。
 心配になった子供たちが大人を連れて戻って来た時、倒れている子供以外その場には何もいなかった。そして、子供の意識は未だ戻らない。

解説

●目的
→子供の意識を戻すこと

●補足
→子供に関与した女の子に関しては、歌の通りです。
 人買いに買われて親元を離れ、連れられて行く途中に逃げ出したものの、
 足を滑らせ、打ちどころが悪くて女の子は死にました。
 その女の子の骨は発見されることなく朽ち、しかしイマーゴ級の従魔が複数集まってその骨に憑りつくことよって実体にも近い物を持ったゴーストのような存在になっています。
→女の子は一人寂しく死んだので、遊び相手として子供を連れて行きました。
 女の子はイマーゴ級の従魔が寄り集まってランクが上がったミーレス級のゴースト種であり、人の霊体を身体から離す力はあるものの、戦闘能力は全くありません。
 また、掴まれでもしない限り連れて行かれることはないので、戦闘に関しては殆ど脅威にはなりません。
→女の子を倒す、もしくは成仏させることによって子供の意識は回復します。

リプレイ

●行動開始
 件の女の子が接触してきた状況を確認し、邦衛 八宏(aa0046)は眉根を寄せた。「亡くなった少女の心を、少しでも埋めて送り出せればええのやけど……」と、普段は長文を話すのが苦手な為に口にすることはないのだが、内心ではそう思っていると稍乃 チカ(aa0046hero001)が『意識がない子も心配だけど、女の子の事もどうにかしたいよな』と背中を叩いた。その言葉に、八宏は「…あぁ」と頷いた。

 北里芽衣(aa1416)は、にこにこと楽しそうにしているアリス・ドリームイーター(aa1416hero001)の手を引いていた。お揃いの花柄の着物姿が可愛らしく、周囲から微笑ましさを誘う。
 芽衣と遊べるということにアリスはご機嫌なのだ。そんなアリスに微笑みながら、芽衣は「何して遊ぼうか?」と尋ねながらも、心の中では「危険でもできれば成仏させたい」と思った。

「花一匁…《真珠一個の重さ》でスか…」と呟く鬼子母神 焔織(aa2439)に、青色鬼 蓮日(aa2439hero001)は『…フン! この歌は嫌いだ。子宝に勝る宝石など、あるものか…ッ』と苛立たし気に吐き捨てた。その語調の粗さから嫌悪が籠っているのがわかる。
 しかし、それをすぐさま消し去ると蓮日はすぐさま『芽衣ちゃんっ! 危なくなったらボクが守ってあげぐほっ!』と芽衣に近づけば、アリスから『アリスの芽衣になにかしたら噛みついてやるわぁ!』という威嚇と、間髪入れず焔織から「シレッと抱き付コウとしナイ」と制裁が入った。

●情報収集
 九字原 昂(aa0919)は従魔について調べていた。
「まぁ、身の上には同情しますが、だからと言って何をしてもいい訳ではないですからね。……とはいえ、なるべく穏便に済ませたい所ですが」というのが、昴の言い分だ。
 従魔をおびき寄せた後、未練を絶たせる方向に持っていくのにはどうすれば良いのか。そしてそれを実行する為に、従魔の情報収集に励むのであった。

「……意識、不明ですか…」と、煤原 燃衣(aa2271)は訪れた病院で呟いた。
『……スズ、単にライヴスが目的ならば、既に死んでいる筈。…恐らく、何かしら別の目的がある…だろう………だが…』と、不機嫌そうに眉根を寄せたネイ=カースド(aa2271hero001)に燃衣は憎悪も露わに「………えぇ」と頷く。
「…"敵"……です。このままでは…親御さんから、友達から、この子自身から…命が奪われる。相手が誰であれ……ボクは、許せない…ッ」
 過去を思い出した燃衣の様に、ネイは『少女は『遊ぼう』と言ったそうです、或いは人間の意識に取り付いた従魔なのかも…しれません』と推測を立てる。そして、他の仲間に指示を飛ばす。
『……【暁】…及び、他のメンバーに連絡。敵を斃すだけでは、意識が戻らん可能性がある……故に、少女の調査、対処は任せる。但し…制限時間は、完全な日没……そこが恐らく、子供の生命力の限界、だ』
「……イザと言う時は……ボクがこの手で……殺します…ッ。【暁】訓示…《されば立ち上がって行動せよ いかなる運命にも 勇気をもって》…ご武運をッ!」

 黒金 蛍丸(aa2951)は「意識不明になった子がどこで何をしていてそうなったのか、をまずは聞きましょう」と詩乃(aa2951hero001)を伴って、一緒に花一匁をしていた子供たちに話を聞いていく。
 怖くて逃げだしたとはいえ、やはり子供心に友達を見捨てて逃げたというのは重くのしかかっているのだろう。泣き、つっかえながらたどたどしく話している。
 そんな子供達を「大丈夫ですよ。お友達は助けますから」と蛍丸は宥め、詩乃はおろおろとしながらも慰めた。

●合流
 燃衣とネイを除き、他のメンバーは合流した。
 件の女の子にメインで接する予定の芽衣に、念の為にと昴はデスマークをかける。これは、見失ってしまった時用の対処だ。万が一ということも考え、保険をかけたようなものである。
 まずは、女の子と遭遇した状況に近づけようと花一匁をする。蛍丸と詩乃は周囲警戒の為、身を隠して様子を見守っている。
 この花一匁という歌だが、地方によって微妙に歌詞が違ったりする。その為、ここに居るメンバーで歌い合わせようにも誤差が生じる為、今回は子供達が歌ったもので揃えることに決めた。
 通常の花一匁と同様、手を繋いで一列に並ぶ。

「『勝ってうれしい花一匁
負けてくやしい花一匁
隣のおばさんちょっと来ておくれ
鬼が怖くて行かれません
お釜をかぶってちょっと来ておくれ
お釜底抜け行かれません
お布団かぶってちょっと来ておくれ
お布団破れて行かれません
あの子がほしい あの子じゃわからん
その子がほしい その子じゃわからん
相談しましょ そうしましょ』」

 前に進んで蹴るように足を出して、後ろに下がってというのを繰り返して歌い、じゃんけんをする。
 特に問題なく進み、途中で相手方に行った蓮日が再び芽衣と手を繋ごうとし、『じゃあ、芽衣ちゃんぐほっ! いや、今のは別におかしくないだろう!』「イヤ、何となくツイ……」と焔織がやり取りをし、そこにアリスが『いいぞ! もっとやれぇ』と囃し立てたが、それもまぁ些細なことであろう。

 そうこうしている内に、2対多数という形になった。
 それでもまだ続行していると、芽衣とアリスが繋いでいるだけだったのに、芽衣のもう片方の空いていた手に何かが触れている感触があった。
 芽衣がそちらを見ると、古ぼけた着物姿の女の子が居た。不思議と顔ははっきりとせず、ただ口元だけがやけにはっきりとしている為に目につく。
 にぃっとした口が『遊びましょう』と囁く。
 それを見て、芽衣はにこりと笑むと頷く。
「ね、あなたも一緒に遊ぼう」と言う芽衣の言葉に続き、アリスも笑みを浮かべて『あなた名前は? 私はアリス、こっちは芽衣よ!』と話しかけた。
 女の子の口元が弧を描く。
 そこに、八宏が近づいてきた。丸腰のまま、女の子を怖がらせないように膝をついて目線を合わせ、彼女の見えない目を覗き込む。
「……………貴女と、お話を………しに参りました」と言うと、首を傾げる女の子に、チカが明るく『大丈夫大丈夫。こいつ見た目悪党だけど、お前みたいなのには優しいからさ、遊ぼうぜ! 俺らと一緒に!』と促した。
 そしてチカは『なぁ、嬢ちゃん、名前は?』と問えば、女の子は口を噤んだ。言いたくないのか分からないのかは判断がつかないが、口にしたくないということは伝わってきた。
『じゃあさ、何か考えようぜ。んー……どうせなら可愛いのがいいよな、花とか、色の名前とかか?』
 その言葉に、女の子は首を傾げた。それにチカも腕を組んで『うん、そうだよな。難しいよな』と頷く。
『では、単純だが、花一匁をやるお友達……ということで、そこから取って花はどうだ?』と、チカの背後から蓮日がひょっこりと顔を覗かせた。それに、「まァ…、花の名前はセンスがイリますカラ、由来はとのアレ、無難とイエバ無難な名前デスね」と焔織も頷いた。
『おっ、花か。確かに花って響きが可愛いよな。これでも良いか?』とチカが尋ねると、女の子ははにかむように口元に笑みを浮かべて頷いた。
「決まりだね」と芽衣が手を合わせる。『よろしくね、花ちゃん!』とアリスも笑む。
 様子を見ていた蛍丸と詩乃も加わり、皆で遊ぶ。

 任務ではあるものの、花に心を開いてもらえるように、童心に返ったつもりで遊ぶ。途中、八宏が何かを思ったのか遊びの輪から抜け、花一匁で遊んでいる姿を撮影した。そして、何処かへと全力で走り去った。
 他の昔からあるような遊びも交えてある程度遊びつくすと、休憩をしようと詩乃がジュースを差し入れた。
 初め、不思議そうにしていた女の子であったが、缶を開けてあげると他のメンバーに倣いおっかなびっくり飲んで、口元を綻ばせた。見えない筈の目が心なしか輝いているようにも見える。
 嬉しそうにしている花に、詩乃は『美味しいですか?』と問うと、彼女は顔を上下に振るようにして頷いた。「それは良かったです」と蛍丸も笑む。
 そこに、焔織が「お嬢さン、お嬢さン……男の子は、今…何処に居るのカナ?」と問うと、花は首を傾げた。そして顎に指を当てた。それは、自身を指しているのか、それとも考えているという意思表示なのかはわからない。
 それに更に蓮日が『キミは何処から来たのだ! 本当の名前は? ……《親》はー?』と問いを重ねると、花の顔が強張ったのが見えた。
 空気がびりびりと振動している。
 ラップ音のように大きな音がする。
『……よし! 最後に覚えとる事は何だー? …その足は、どうした!』
 蓮日がそう言えば、更に音が大きくなった。
 しかし、不意にその音は止まった。蛍丸が「冷静になってください…ね?」と、花にクリアレイをかけたのである。言い聞かせるような口調と共にかけられたそれ、そして『大丈夫ですよ。大丈夫。花ちゃんは良い子ですね』と宥めるように背中を撫でる詩乃の優しげな声に、花は多少なりとも冷静さを取り戻したらしい。
『えぇ、大丈夫ですよ。辛いことなら、無理に言わなくて良いですよ』「そうですよ。それよりも、僕たちと楽しいことをしましょう」と詩乃と蛍丸に言われて、花は完全に落ち着きを取り戻した。
 しかし、花の表情は晴れない。
 ごねるかのように花は芽衣の袖を引いた。
『ねぇ、遊びましょう』と花が言う。
 それで、芽衣は何かを掴まれているような、引きずり込まれるような気がした。すぐさま共鳴すると「ここで遊ぼう。帰る時間まで。友達を呼んでもいいからね、みんなで遊ぶの」と提案した。
 すると、一緒に遊ぶというワードが良かったのか、花は再び笑みを浮かべた。
「次は何をしたいかな?」と昴が尋ねると、花は身振り手振りで伝えてこようとする。それを微笑ましそうに見て、「じゃあ、何の遊びが一番好きなのかな?」と問うと花ははっきりと『花一匁』と答えた。
「そうだね。僕も久しぶりにやったら、とても楽しいよ。じゃあ、もっとやろうか」と昴が促すと、パッと立ち上がった。
 はやく、はやくとばかりに、背中を押され、昴は苦笑する。

 一体どれくらい時間が経ったのだろう。
 西日が強く指している。
 夕暮れだ。
 そんな中、燃衣とネイから連絡が入った。

●病院にて
 念の為、何かあったら連絡を入れてもらえるように病院に頼んでいた燃衣とネイであったが、連絡を受けて病院へと急行した。
 件の男の子の状態が急変したとの連絡である。
 燃衣は病室内に入ると、医師と彼の両親に断りを入れてからライヴスを……、自分の生命力を直接注ぎ込む。
「ダメだ…ダメだ…ッ 君の行く所は…そっちじゃない…ッ!」と、必死になって注ぎ込むが、『……バイタル低下。もう時間が無いぞ……ッ!』というネイの声が無常にも響く。
 それでも強く注ぎ込めば、どうにかバイタルが多少なりとも持ち直した。
『……往くしか、無いだろう』と、ネイが呟く。
 そして「………えぇ」と燃衣は頷くと、蛍丸に連絡を入れた。
「こちら煤原……《撃滅》行動…開始……現地に移動します。……気遣いありがとう、蛍丸さん…。でも、大丈夫……ボクとネーさんの誓いは……そういう事だから」
 二人は覚悟を決めた表情になると、他のメンバーの元へと急行した。

●花と
 連絡を受け、もう時間がないということを蛍丸は伝えると、蓮日は『焔織ッ! 此度はボクがヤるッ! 体を貸せ!』と共鳴した。
 そして、これまで花が口を噤んでいたことを突きつける。
『痛くて冷たかったか? 悲しくて寂しかったか? …ならば……ボクはキミから沢山を《奪う》ぞ…ッ。子の魂も、お前の苦しみも全てだ…ッ!』
 そう言うと、花は首を振った。厭厭をするかのように、激しく髪を振り乱す。
 そして、再びのラップ音。
 そこに介入するかのように、蛍丸が優しく「夕方になったら、子供は家にかえらないといけないんですよ」と口を開いた。昴も「早くお家に帰らないと、家族が心配してしまうんだよ」と諭すようにして、「花ちゃんがとっても寂しい想いをしたのはわかるんだ。けれど、その子だって家族がいるんだから、今度はその子が寂しい想いをしてしまうのは解るよね?」と続けた。
 その先を蛍丸が引き継ぐ。
「連れて行った男の子の家族がとても心配しています。考えてみてください。花ちゃんが連れて行った男の子の両親が、どんな気持ちで帰ってこない子供を待っているか……」
 花は口元を歪めた。そして、『……知らない』と呟いた。
 小さく呟いた後、今度は戦慄くようにして『知らない!』と叫んだ。
『おっかぁは私がいらなくなったんだ! だから私を売ったんだ! 手を引かれて連れて行かれて、イヤだった。イヤでイヤでもうダメだった。だから私は、男の人の気が逸れた時に家に帰ろうとしたのに』
 だから、だから……と叫びながら『……帰りたい』とぽつりと零した。
『帰りたい、帰りたい、お家に帰りたい。おっかぁ、私お手伝いも何でもするからいらない子にしないで……』
 そう言って花は泣き出した。目はないのに、涙がこぼれているかのように見えた。
『花ちゃん……』と呟き、口元を覆って詩乃も泣き出した。花には昴がすっとハンカチを差し出した。
「大丈夫ですよ…これからも、僕らは友達です。一人じゃないですよ?」と、蛍丸は慰めにかかる。

 蓮日は一気呵成を発動する。しかし、攻撃はせず飛び付いて蟹バサミから抱擁する。
『子よ! お前が連れて行った子には親が居る! 帰る場所がある! そしてお前にも…ッ!』
 抱きしめ、『帰る場所があるんだよッ!』と強く言えば花は人目もはばからず『うあぁああぁ』と泣き出した。

 八宏も戻ってくると、チカと顔を見合わせた。そして、そこで何人も幼くしてこの世を去った子供を見てきたものの、未だそれに悔しさを覚えている八宏――一人になることの心細さ、誰かにそばにいて欲しいという願いに共感するチカは痛い程気持ちがわかった。
 二人が近くに行くと、蓮日は花を解放した。
『ごめんな、嬢ちゃん。俺らがしてやれることはこれぐらいだ。手ェ合わせて、あんたの事思い出して……ここから一人で進まなきゃなんねぇあんたを、遠くから応援するぐらいだよ』
 そう言うチカに続き、八宏は何故か慣れた様子で、少女の細い肩を抱く。
「…………申し訳、ありません………。僕達も、その方も、今は亡き貴女を救うことは叶いません。……ですから、泣いて、笑って下さい。痛みを、少しでも置いていって……またいつか、今度はもっと………」
 そして目を合わせるように覗き込み、「また、遊びましょう」と言って、先程急いで現像してきた写真を花に握らせた。
 花は写真を見て、口角を上げた。泣いていた為、不格好にはなっていたが、それは確かに笑みであった。

 その様を、日蔭に隠れ、身を潜めていた焔衣とネイは見ていた。
 子供の状態を聞き、ぎりぎりまでは見守ろうというスタンスなのである。しかし、もしもの場合があればその時は一気に倒すつもりではある。
 現在の状況を見るに、間に合いそうではあるものの、最後まで気を抜くつもりはない。「もう無理だ」という言葉を聞いたら、すぐにでも奇襲攻撃をする準備はできている。
 これからの展開を集中しながら、二人は集中して目を向け続けた。

 蓮日と芽衣は手を繋ぐと、静かに歌い始めた。
『「……夕焼け小焼けで日が暮れて~…山のお寺の鐘が鳴る~……おててつないでみな帰ろう~…カラスと一緒に帰りましょう~…」』
 歌っている間にも、タイムリミットは迫っている。あの男の子もそうだが、自分たちの身の保障もできない。それを危惧し、焔織は「れ、蓮日さマ…このママでは我々モ…」と声を出すが、それを蓮日は『いいから意識を寝ろ焔織ッ!』と一蹴すると、『さ、さぁ子よ…日が暮れたぞ、おまんま食べて、ねんねだぞ…っ。寒かったろう、ほら…温めてあげよう…っ!』と花を再び抱きしめた。
『また今度遊ぼうぜ』とチカが、「怖いことは何もないよ」と昴が、「次遊べるのを楽しみにしているね」と蓮日が、『楽しかったよ』とアリスが、「大丈夫ですよ」と蛍丸が、『花ちゃんのこと、忘れませんから』と詩乃が口々に言う。
 そして蓮日に『さぁ』と促され、花はうんと頷いた。
『また遊ぼうね』
 その言葉とともに、花は笑った。大輪の花が咲いたかのような笑みである。
 不思議なことに、あれだけ花の顔は見えなかったというのに、何故だか可愛らしいそれが見えたような気がした。
 言葉とともに、花の姿は消えていた。
 しかし、微かにだがライヴスの残滓が光り、そして消えた。
 そして、蓮日が抱きしめていた女の子は、もう着物とも呼べない襤褸を纏った白骨であった。今にも崩れそうなそれから想定するに、矢張り随分と昔のものであったのだろう。
 従魔化してしまっていたとはいえ、何ともやるせない想いが其々の胸を過る。昔は口減らしで子供を売ることも、姥捨て山もあったのだからごく普通のことなのかもしれないが、それでも現在から考えると信じられないことだ。

「これで、ようやくあの子も終わることができましたね……」と、花が居た場所から目を逸らさずに昴が呟いた。
『花ちゃん、向こうでお友達できるかな? それでいっぱい遊べれば良いよな』とチカが八宏を仰ぎ見ると、彼はチカの髪をかき回した。

 男の子の様子を確認した焔衣とネイであるが、持ち直したとのことだ。念の為に、その姿を見に二人は病院へと向かうことにした。
 その際、その吉報を聞き、一同はほっと胸を撫で下ろした。
 幾ら花が寂しかったとはいえ、かわいそうであるとはいえ、これで男の子に万が一のことがあったら目も当てられないからだ。

 焔織と蓮日で、お骨に藁人形を添えて焚き、供養をする。
 二人の言葉は言霊のように、厳かに響く。
「『……仏、諸の羅刹女に告げたまわく……~~~…況や、親不孝をや…』」
 そして、最後まで唱え終わると焔織は息を吐き出した。
「…フゥ、終わりデスね。……蓮日さマ…?」
 焔織が視線を向けると、蓮日は潤んだ瞳で『……ちゃんと…帰るんだぞ』と呟き、焔織もそれを「………」と言葉もなく見守った。
「遊べて、楽しかったですよ。どうか安らかに」と芽衣は目を伏せた。
 供養に付き添っていた芽衣は、「怪我はその、してませんけど、大丈夫ですか、青色鬼さん?」と心配げに声をかけると、蓮日はばっと顔を上げて抱きつくが、『…ニィ…! 芽衣ちゃん! 芽衣ちゃぁぁあん! 怪我してな……ぐ、ぐが…』「…ハァ…」と、ある意味お約束展開で焔織に阻止された。
 それをアリスが『もっともっとやっちゃいなさい!』と囃し立てる。
 そしてアリスが『芽衣、花一匁しましょ』と声を上げ、「え、二人で?」と芽衣が首を傾げる。しかし、アリスは『みんなも呼ぶのよー! まだ遊び足りないもの!』と元気いっぱいに言うのを見て、「うん。じゃあまたいっぱい遊ぼ、日が暮れるまで」と後日遊ぶことを約束した。それを見て、また蓮日が『それじゃあ、ボクも是非!』と名乗り上げ、焔織が蓮日の頭をスパンと叩いた。

 供養の様を見守っていた蛍丸と詩乃は、後日また花を持って訪れるつもりだ。彼女のあの笑顔を見たら、色鮮やかなものの方が相応しいようにも思えた。
 そして「世が世なら…違った人生も送れたのでしょうか…今度はそうあって欲しいです」と、蟠った想いを口にした。詩乃も頷きながら涙をぬぐった。
 蛍丸は、「さぁ、行きましょうか」と詩乃を促す。これから二人は意識を取り戻した子供が落ち着いてから事情を説明し、恐怖として記憶に残らないように、ケアに向かうつもりだ。焔衣とネイも居るだろうが、男の子の様子を覗くことくらい問題ないだろう。


 其々思うことはあっただろうが、従魔も無事にいなくなり、これにて依頼完遂である。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439

重体一覧

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中
  • 遊ぶの大好き
    アリス・ドリームイーターaa1416hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439
    人間|18才|男性|命中
  • 流血の慈母
    青色鬼 蓮日aa2439hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
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