本部

【神月】連動シナリオ

【神月】七夕に願いを叩き込め!

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~10人
英雄
7人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/07/23 19:51

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-

掲示板

オープニング

●七夕の夜
 風がふくとサラサラサラと葉がすれる耳障りのいい音がする。
 H.O.P.E.東京支部前の広場には大きな笹飾りが何本も飾られていた。寄付されたそれをリンカーたちが山奥から引き抜いて来たらしい。ただ、あまりにも巨大な笹なので、高い部分には一般の人たちには飾ることが出来ない。そのためエージェントたちが書いた短冊が飾られているらしい。────もっとも、エージェントの短冊が高い位置にあるのは、エージェントのイメージを壊しかねない一部の短冊を一般人に見せないため、なんて噂もあるが。
 ────きれいな笹飾りだなあ……。
 それを見上げる少年、颯(ワタル)は感嘆のため息をついた。星空を背景に色とりどりの笹飾りや短冊を飾って、さらさらと揺れるそれはとても幻想的できれいだ。
「あなたもどうぞ」
 H.O.P.E.の職員が颯に一枚の短冊を手渡した。
「あなたも」
 続けて、職員は颯の後ろに居る少女にも短冊を渡した。
「…………これは? なに?」
 少女が職員に声をかけて、颯はギクリとした。職員は一瞬、少女と颯を見て、そして笑った。
「あら、あなたたちはリンカーなのね」
 リンカー。英雄と共鳴する側の能力者(ライヴス・リンカー)、そして、リンクする英雄と能力者のことも総じて言う言葉だ。
「ぼっ、僕は……! その!」
 颯は慌てて、そして、足元を見ながら半ば叫ぶように言った。
「僕はっ……僕は、英雄との誓約を解除しに来たんですっ!」


 アル=イスカンダリーヤ遺跡群で開いた門。その影響で各地に新たな英雄が現れ、それに呼応するように能力者として覚醒する者たちが現れた。
 颯もそのひとりだった。
 本が好きで勉強が嫌い、発言する勇気は無いけれど何かと理屈はこねる。颯はそんな一面があり、それを嫌う一部の同級生から長くいじめられていた。そして、長いいじめに耐える生活のせいで颯は何かとネガティブに物事を捕らえるようになっていた。
 七夕も近いある日のこと。小学校で配られた短冊をずっと机に放置したままの颯を心配したのか、母親が小さな笹を買って颯の部屋の窓の外に括りつけた。
「六年生になって、今さら七夕なんて」
 母親の手前そう言ったものの、本当は颯も七夕飾りをやりたかった。ただ、学校でクラスメイトに短冊を見られるのが嫌だったのだ。不器用に七夕飾りを作って笹に飾ると、颯は最後に短冊を手にした。
「願い、なんて────」
 それでも、颯はそれを書いた。小さな笹飾りの天辺にそれを飾って、颯は願いを呟いた。
「……勇気が欲しいです────ともだちが、欲しいです……」

『いいよ』

 突然かけられた声に驚く颯の手を、誰かがぎゅっと掴んだ。颯とおなじくらいの掌。
「わたしの名前はニハル。あなたの英雄になりましょう」
 薄ぼんやりと光る、緋色の差し色の白い作務衣を来た少女が颯の手をしっかりと握って彼を見ていた。
 ────英雄と契約してリンカーになり大活躍をする。そんな夢を何度思い描いたことだろう。
 その日のうちに、颯はニハルと契約しリンカーになった…………のだが。
『レガトゥス級愚神を阻止したエージェント達です!』
 家族にニハルを紹介したその翌日、テレビではアル=イスカンダリーヤ遺跡群の戦いについての特番が行われていた。その異様な様子と、重い傷を負ったエージェント達の姿に颯は恐怖した。
 そして、誓約の解除とニハルの保護を求めてH.O.P.E.東京支部へと向かったのだった。



●『先輩』たち
「────そうなんだ」
 話を聞いたH.O.P.E.職員の男性は、颯とニハルを交互に見た。
「ぼっ、僕なんかがリンカーになんてなれるわけないんですっ! そんな、勇気があったら、クラスだって僕……」
「リンカーだからって、激しい戦闘ばかりしているわけじゃないんだよ?」
「でも、僕は……僕には無理です────」
 職員の男声は、頭を垂れる颯の隣のニハルに優しく尋ねた。
「きみはどうしたいの?」
「────わたしは、わたしは出来れば颯と……」
 絆を結んだふたりは魂で結びつく。ニハルは颯が心配のようだった。
「そうだねえ、どうしたもんか────」
 職員の男性は広場に来ていたエージェントたちを振り返った。皆、いつの間にかなんとなく近くに集まっていたのだ。
 そこへ、慌てた別な女性職員が飛び込んで来た。
「すみません! どなたかいらっしゃいませんか、従魔が!」


 広場は、いつの間にか冷たい光に満ちていた。
 空を見上げると、そこには小さな銀色のプレートが集まって夜空と広場を遮断していた。
「なんだ、あれは…………」
「従魔です。調べたところ、他所でも発生したことがあるらしく『ダゲレオ』と呼ばれています。銀板に映した生物のライヴスを奪う特殊な従魔なんですが、厄介なことに特に有効な対処方法が『ライヴスを撃ち込む』ことしかないんです」
「ライヴスを撃ち込む?」
「はい。スキルなども効きはするのですが効果が薄く……、それが一番効果的なんです」
 そう言って職員は巨大なロケットランチャーを指さした。何人もの職員が広場の中心にそれを運び込んでいるが、リンカーでさえ何人も居なければ支えられない大きさだ。
「あれでライヴスを撃ち込むのか?」
「はい、リンカーの皆様にはライヴスの提供と、あのランチャーを支えて頂きたいのです! あ、ライヴスの提供と言っても────」
 そう言って、職員は小さなプラスチックによく似た物質で出来たプレートと、なぜかマジックを取り出した。

「リンカーの皆様は、ここにですね。英雄とそれぞれ一枚ずつライヴスを込めてお願いごとを書いてください」

「────はあ?」
 どうやら、そのプレートは特殊なものらしく、願い事を書くことによってより効率的にライヴスを込めることができるようだ。そして、そのライヴスの込めたプレートを詰めた弾丸をあの『タゲレオ』に撃ち込む作戦らしい。
「颯くん、ニハルくん。リンカーをやめるにしろ何にしろ。今は君もリンカーとして助けてくれるかい? 大丈夫、以前にも成功した作戦だから危険は無いはずだ」
 颯たちにそう声をかけた職員の男性は、エージェントたちを振り返ってこう言った。

「エージェントの皆様には、颯くんの最初で最後かもしれない依頼のご協力をお願いするよ。先輩として、リンカーとしての姿を颯くんたちに見せてあげて欲しい」

解説

目的:願いの力で、星空を覆う従魔の壁を打ち破れ

英雄たちとRPを楽しむシナリオです。
時間にはまだ余裕があるので、みんなで話しながら願い事を書いてください。
そして、英雄との絆やリンカーとしての在り方、勇気と自信を颯くんに教えてあげてください。

ステージ:H.O.P.E.東京支部広場
イベントごとなどに使われる広めの広場です。ランチャーをぶっ放しても問題ありません。
一般人も居ますが、従魔の登場で、銀板に映りライヴスを取られないよう端の方に退避しています。

ロケットランチャー:
重さもさることながら、不格好なので参加エージェントの大多数で支えないと照準が定まらない大きさです。
弾丸は従魔と激突した瞬間、爆発とともに消えますので願い事の回収は不可能です。

従魔:タゲレオ
銀のプレート型従魔。映った生物のライヴスを少しずつ奪う。
スキルも聞くが、今回の方法がより効率的に駆除できる。
また、ライヴスが多くある場所に沸きやすいという噂や梅雨時期によく発生するのでは?という噂があるが今回のクエストには関係ない。

リプレイ

●笹日和の悪魔

 さらさらさら……。
 大量の笹の葉が擦れあって心地よい音を奏でる。
 昼間の蒸し暑さを陽の沈んだ夜の、涼しく心地よい風が払っていく。
「いい空ね、笹日和だわ」
 夜空を見上げた餅 望月(aa0843)の言葉に、同じく空を見上げた百薬(aa0843hero001)が問う。
「そんなのあるの?」
「あるってことにしとこうよ」
 七夕まつりのためか浴衣の多い広場でも、自称天使の百薬はいつもの羽根を着けていた。彼女は今もその羽根で自由自在に飛べるつもりだが、実際はこの夜空を飛ぶこともできない。
 ふたりがのんびりと笑い合った、その時だった。
「緊急事態」
 素早く異変を察知した望月が足を止めた。
 慌ただしくなる広場。どうやら従魔が出たらしい。
「この場にあたしたちがいた事を、空の上で後悔してもらおうか」
 数々の依頼をこなした望月たちは、いつの間にか熟練したエージェントへと成長していた。


「あれ、お空に穴が空いたよ────」
 子供の不思議そうな声に唐沢 九繰(aa1379)は夜空を見上げた。
 パタパタパタパタ────。
 星たちがフリップボードをひっくり返すマスゲームでも始めたかのように、ちいさな銀板がどんどんと広がって、夜空を銀色に染めていく。
 すでにエージェント稼業も長くなって来た九繰には、それがなんであるかすぐに察しがついた。
「わあ、変な従魔ですね」
 H.O.P.E.の職員たちが七夕まつりの一般参加者たちを安全に誘導しているのを見て安堵しながらも、九繰たちは敵の様子を伺う。誘導しながらポツポツと説明している職員たちの説明によると、従魔は『タゲレオ』という名で、銀板に映った生物のライヴスを奪うものらしい。
「写真に写ると魂を抜かれる、といった感じですね」
 どこからそんな知識を得たのか。
 エミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)の言葉に九繰は頷く。
「エージェントの皆様! ご協力をお願いします!」
 銀板に映らない位置にテーブルを寄せて、職員たちが声を張り上げる。
 彼女たちはここへは簡単な事務手続きのために寄ったのだが────従魔退治ならば仕方ない。
 ふたりは顔を見合わせて小さく頷き合った。


「……? …………?? 願い事を……書く?」
 プラスチックによく似た物質で出来たプレートとマジックを渡されて、今宮 真琴(aa0573)は首を傾げた。
「ええ、この物質はこれでもAGWでして、皆さんに集中して触れてもらうことによって効率的にライヴスをですね……」
「そんな攻撃方法もあるんか……」
 その説明に、少し驚いたような不思議そうな顔で手元のプレートを弄ぶ奈良 ハル(aa0573hero001)。
「なんか最近のH.O.P.E.、なんでもありだよね」
「うむ、さすがじゃな」
 ハルは面白そうに笑って、きゅぽん、とマジックの蓋を取った。
 一方、泉興京 桜子(aa0936)は力強く空を見上げた。
「なんとめんような従魔であるか! わしがたおしれくれようぞ!!」
「へえ~、面白い敵もいるのね~。なかなか風流じゃない」
 能力者の少女の隣でベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)は空を見上げた。一メートル近く身長差のあるベルベットと桜子の視ている景色は同じなのだろうか。板状の従魔が広がる銀色の空は地上の七夕飾りを映してある意味美しい。
「さあ! べるべっとよ! ねがいごとをかくぞ!」
 プレートとマジックを握りしめ、勇ましく勢い込む桜子の顔はきらきらと輝いていている。
 ────たなばた! たなばた! たんざくであるぞー!
 勇猛果敢なブレイブナイトである桜子だが、この時ばかりはまだ幼い少女らしくはしゃいだ愛らしい様子であった。
 そして、桜子と同じくらいの年頃の少女がもう一人。
 厳しい瞳でプレートを見つめるその少女の隣で、彼女の相棒であるガルー・A・A(aa0076hero001)は微かなため息を吐き出した。
「俺様は七夕ってのイマイチ好きになれねぇな。自分の願いなんざ自分で叶えるものだ。そうだろ?」
 ガルーの問いかけに、少女でありながら年齢にそぐわない凛々しさと利発さを持つ彼の相棒は言った。
「願い事が一つに決められないのです……!」
「征四郎……」
「父さまに認めて貰いたいとか、強くなりたいとか……」
 そこまで言って、二枚のプレートを握りしめた紫 征四郎(aa0076)は相棒の視線に気付く。
「ガルーは決めないなら、分けてくれてもいいのですよ?」
「…………」
「あっ」
 ガルーは征四郎の手から、ひょいと無言でプレートを一枚取り上げた。
 そんなふたりの様子を眺めていたオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に、彼のパートナーである木霊・C・リュカ(aa0068)が尋ねる。
「じゃあ今、天の川見えてないんだね」
 重度の弱視者である彼の言葉に、少年は改めて空を見上げて彼に教える。
「ん、銀色でいっぱいだ」
「七夕に晴れるのって珍しいのに。倒して星空を取り戻そう! って奴かな!」
 好奇心旺盛なリュカはどこか楽しそうにも見えた。対してオリヴィエは少し考える。
「あれはあれで、銀に写った地上が星の様に見えなくもないが」
 銀板に映ったのは、色鮮やかに飾りつけられた笹飾り。そして会場に吊るされた提灯や足元に点った小さな照明が瞬いている。従魔にライヴスが奪われないために、すべての来場者を銀板に映る位置から移動させたため、空に映った七夕会場はとても非現実的で心惹かれる不思議な世界でもあった。
「…………?」
 ふと、オリヴィエは自分と同じように銀板を見上げている颯に気付いた。隣には影のように和装の少女が並んでいる。彼らの後ろに立つH.O.P.E.職員が、そんなオリヴィエの視線に気付いて小さく頷く。
 ────これは、任されたということだろうか。
 戸惑いながらもオリヴィエは、リュカを近場小さなのベンチに座らせると颯の傍にしゃがみ込んだ。
 「────今の願い事は、芸事上達には限らないんだな……」
 サラ、また笹の音がする。
 颯はオリヴィエの存在にビクリと過剰に肩を揺らした。警戒されたのがわかったが、オリヴィエはとりあえず配られたプレートを眺めて書くべき願い事を考える。七夕は知っているが、短冊に願いを書き込むのは初めてなのだ。
 リュカは空を見上げた。リュカの目では空に銀色か白い色が広がってるのがわかる程度だ。
「願いを込めればいいんだもんね!」
 リュカの言葉に、颯が呟く。
「願いって────僕、でも……」
 戸惑う颯は、先程の説明では新人リンカーらしい。
「征四郎がきたからにはもう大丈夫、颯のこともしっかりお守りするのですよっ!」
 いつの間にか近づいた征四郎が颯を元気づけるようににっこりと笑いかけた。途端にぶわりと颯の両目から涙が溢れ出す。
「わ、征四郎のせいでしょうか」
「────っ、違う、僕…………」
「安心、したんですよね」
 九繰が颯の丸まって小刻みに震えている小さな背中を優しく撫でた。その場に居たエージェントたちは、先程聞くとはなしに聞いてしまった颯の話を思い出して言葉を探した。
「笹の葉に願いを乗せて~♪」
 一瞬、静まったその場に虎噛 千颯(aa0123)が口ずさむ歌が流れた。千颯は既にマジックで何かをプレートに書き始めている。
「何でござるか? その歌は」
 同じくプレートとマジックを両手に持った精巧なホワイトタイガーの被り物を被った大柄な英雄。千颯が不思議そうに自分の相棒を見た。
「えー、白虎ちゃん知らないのー? 俺ちゃんのオリジナルソング」
「知るわけ無いでござる!」
 ふたりのやりとりに、泣きだした颯が噴き出した。
「ほら、折角の七夕の祭りなんだし、さっさと従魔を倒して花火でもしようぜー!」
「虎噛さん!」
「花火!」
 明るい千颯の言葉に、エージェントたちはふたたびワイワイと願いごとを書き始めた。たまたま知り合いが多かったこともあって、その場はすぐに楽しい雰囲気になった。
「颯どの、ぜんせんだけがたたかいではないのであるぞ。わしらりんかーはこうほうしえんもりっぱなしごとなのである!」
「そうよぉ。まぁ、無理しなくていいんじゃないかしら? 肩の力抜きなさいよ」
 ぐっとサムズアップする桜子と、ベルベット。
「急なお仕事ですけど、よろしくね」
 そして、笑顔の九繰たちに励まされるように、颯はプレートを手に取った。



●願いに力を込めて

「ねがいごとをかくのはとくいであるぞ! まかせるのである!」
 えっへん、と身体を反らせ胸を張ってプレートに向かった桜子の隣で九繰はうーんと唸った。
「ううん、願い事……願い事」
 プレートをかざし、ぶつぶつ言いながら悩む九繰の横でサラサラと願い事を書き上げるエミナ。彼女は、その願い事を設置された折り畳みテーブルの上に伏せる。
「思いつかないならテーマを絞るのはどうですか。元は技能の習得を祈願するようですし」
 悩む九繰を見かねたエミナのアドバイスだが、九繰はピンとこない様子で頭を捻る。
「んーと、どうしようかなー」
 九繰と同じく、真剣に悩む真琴が隣の英雄の目線に気付いて慌ててプレートを伏せる。
「あ、ハルちゃん、みちゃダメだよ!」
「別に減るもんじゃないんじゃし」
「こーゆーのはね、見たらご利益が減るの!」
 真剣な様子の真琴に、ハルが呆れたように相棒を見る。
「いやこれ、従魔迎撃用なんじゃが」
「想いを込めて効果バツグンだって言ってた!」
 即座に力強く返す真琴。
 その隣で百薬がキュキュッと音を立ててプレートにマジックを滑らせた。
「えっとね、どんぶり羊羹がいい」
「え? バケツプリンの水羊羹バージョンみたいなの?」
 思わず、聞き返す望月の言葉に甘いものが大好きな真琴が反応する。
「どんぶり羊羹……っ!」
「ちょっといいなって思っちゃったじゃない」
 望月もつい想像してしまう。
「どんぶりで羊羹って作れるんでしょうか」
「あんこと寒天があれば……できるはずです」
 九繰とエミナが具体的な方法を考え出す。
「…………九繰、技能の上達なら料理スキルを磨くなんてどうでしょうか」
「いいですね、料理スキルを磨いて女子力UP! なんて」
「女子力!」
「女子力って技能なのかな?」
「女子力アップって書くと、料理以外に何がアップするの?」
「胸のサイズアップ、は関係ないか」
「…………関係ない……かな……」
「関係ないですね!」
「スタイルは良くなりたいよね」
「色合わせや化粧もそうじゃろうなぁ……」
「モテ力? 素敵な人にいいなって思われたら素敵だよね」
「いいですね」
「……素敵、ですね……」
「会話力──?」
「接客スキル?」
「接敵スキル、攻撃力ですか?」
「至近距離から壁、ドン!」
「……それは物理────」
 女子力の話題が段々本来の意味であるフェミニンな魅力や美意識から外れて行く。
 なんとなく、そんなお姉さんたちの会話を聞いていた桜子はプレートに力強く書いた。
『はやくおとなになりたい』
 桜子の子供らしいダイナミックな文字の書かれたプレートの横で、ベルベットもマジックを動かしてキュキュッとプレートに達筆かつ流麗な文字を綴る。
『いけめん』
 それは美しい手跡ではあったが、なにか怨念のようなものを感じるプレートであった。


『全員、今年も健康平穏!』
「何かどこもきな臭いもんね、皆あんま無茶しないように!」
 視力が悪いになりにも、ライヴスを込めるためにプレートに願い事を書いたリュカは明るく言った。
「せーちゃんは何お願いした?」
「ひみつ、なのです!」
 リュカに尋ねられた征四郎は自分のプレートをしまう。『ステキなオトナのレディになりたい』、そう書いた自分のプレートをリュカに見られるのはなんとなくいやだった。彼を嫌いではないだけに。
「リーヴィ、ところで、お前さんのお願いってなんだったの?」
 ガルーも楽しそうに、プレートを持つオリヴィエに絡む。たまたま見えたそのプレートには『白銀が楽しく過ごせているように』と書かれていた。『白銀』とは、本物そっくりのVRゲーム世界へダイブする依頼でオリヴィエが育てた子供の名前だった。
「……できないことだけ神頼みくらいがちょうどいい」
 同じ依頼を受け白銀のことも知っているガルーの眼差しに対して、オリヴィエは少々むすっとした顔になる。
 ────自分のことも、自分の手に届く範囲のことも自分で何とかする。
 だから、それがオリヴィエの初めて書いた七夕の願いだった。


 ────真琴が無事で。
 願いを描こうとしたハルのペン先が止まる。
 ────ん、違うか。
 一旦止まったペン先が、ふたたびスムーズに動き出す。
『真琴を傷つけたら誰であろうが殺す』
「こうかの」
 ハルの文字は達筆過ぎて、その場の誰にも何と書いてあるかは読めなかった。
 ────……変な習慣よなぁ。
 願い事について友人同士でわいわいと騒ぐ真琴をなんとなく見ていたハルは、視線を感じ振り返る。
 友人達と楽しそうな真琴たちを、颯がじっと見ている。
 ────ふむ。
 だが、ハルの視線は颯ではなく、その隣のニハルに向いた。
 ──── 一緒にいたいのか、いたくないのか、それだけじゃと思うんじゃがなぁ……?
 同じ英雄ではあったが、ただ黙って颯に連れられてここまで来たニハルの気持ちを、ハルはうまく察することができなかった。

 ────ハルちゃんと、ずっと一緒にいられますように……とか書こうと思ったけど、消えちゃうしなぁ。
 さらさらと願いを書き始めた友人たちを見て、散々悩んでいた真琴も願いが固まってきた。
「こっちにしようー」
『スイカサイズのモンブランが、食べたいです……』
 そこまで書いて、ペン先が一瞬だけ止まる。
 キュ……キュキュキュキュッ。
 ────あと……さんと……さんの絡みがもっとみれますように…………!
 ペン先が煩悩に従って友人たちの名前を書き出していく。にへらっと笑う真琴の表情に、碌な願い事は書いてないであろうことを察したハルが内心頭を抱えた。
 ライヴスを込めた真琴の願いは星に届くのだろうか、そして、……さんと……さんの運命は────。
「ん? 気になる?? たいしたこと書いてないよー」
 自分をジッと見ている颯に気付いた真琴は苦笑した。
「……内緒だよ?」
 こっそりとプレートを見せてくれたお姉さんに、颯は不思議そうに尋ねる。
「……さんって」
「────わわあっ!」
「真琴っ!」


「どんぶり────っと」
 プレートに食べたいリクエストを書き始めた英雄を、望月は一応止めてみた。
「こういうのって『いつまでも一緒にいられますように』とか書くもんでしょ?」
 しかし、百薬はそのまま羊羹、と書きながら答えた。
「だって、お願いなんてしなくても、いつまでも一緒にいるんだから」
「それもそうか。────他のみんなも、どうもちらほらどうでもよさげな願い事書いてる人がいるようだね」
 一瞬、真琴たちの辺りからこの場に居ない誰かの名前が聞こえた気がしたが、双方のために望月は気にしないことにした。
「あたしもなんか俗っぽいのにしようかな。────?」
 ハルから軽く説教を受けている真琴の隣で、颯がプレートを手にもじもじとしている。
 ────あの悩み多そうな少年は何してるのかな。
「颯くん? キミも願い事でも考えたら?」
 少し年上の望月に声をかけられて、颯は照れたように戸惑ったように手元のプレートをひっくり返した。
「H.O.P.E.もこういうお気楽イベントをさらっとやってのけるのが楽しいよね。山奥から大きな笹を引き抜いてくるのも大事な仕事とか言うんだから」
 望月が言うのは、広場に飾られた大きな笹のことだ。
「ワタシはね、おやつを食べるお仕事が好き」
「えっ!?」
「それはそれで警備とかなんか名目あったじゃないの。あぁ、でもまた食べ放題依頼とかやりたいわね」
 楽しそうな望月と百薬のやり取りに見入る颯とニハル。
 話しながら、なんの気なしに百薬の羽根を見ていた望月の脳裏に願い事が閃いた。
 ────願い事か、わかったよ。
 ライヴスを込めて、プレートに描く。
『二人で一緒に飛べますように』


『白虎ちゃんがH.O.P.E公認ゆるキャラになりますように』
 千颯の願いを見た白虎丸(aa0123hero001)が嘆く。
「何故、息子の成長を祈願しないでござるか!」
「息子は七夕に頼らなくても立派に成長するからな」
 信じて疑わない真性の親馬鹿発言の後、千颯は白虎丸のプレートに気付く。
『千颯がまともに働きますように』
「えー? 白虎ちゃんそれ酷くない~、俺ちゃん超働いてるし~」
「だったら、店にちゃんと立つでござる! 変なものばかり作りおって! でござる!」
 ひとしきり騒いだ後、小さな字で願い事を書いている颯に千颯は近付いた。
『勇気がほしい、友達がほしい』
 プレートの片隅に書かれた、星でさえ願いを拾えないような小さな文字。
 それを見た千颯は一度、軽く唇を結んだ。
「颯ちゃん」
 賑やかに騒ぐ千颯を気安く感じているのだろう、少年はちらりと年上のエージェントを見た。千颯はそのまま、ぽんと軽く颯の肩を叩き、まだ背の低い彼に目線を合わせた。
「怖いし、不安だろう。でもな、自分が決めた事からは逃げるな」
 びくりと少年の肩が小さく跳ねた。その目が見開かれ、その大きな瞳に真剣な面持ちの千颯が映る。
「いいか、一度逃げ癖がついてしまったらそれを払拭する事は並大抵の事では出来ない。
 ────そして、リンカーを辞めるという事はニハルと一緒にはいられない。お前はそれで本当にいいのか?」
「…………僕────」
 颯は初めて気付いたとばかりに、隣でただ黙って佇むニハルを見た。初めて会ったばかりの自分の友達になってくれると言い、自分をなぜか心配してくれる英雄の少女。
「誰だって初めての事は怖いでござる。それに、てれびじょんで傷ついた者を見たのでは尚更でござる」
 反対側からぬっと白虎丸が顔を出す。
「ただ、忘れないで欲しいでござる。俺たち英雄は颯殿たち能力者と誓約する事で絆と一緒にこの世界で生きる意味を貰うのでござるよ。
 ────勇気というのは誰もが持っているものでござる。颯殿がその一歩を踏み出すのが怖いのでござるなら、俺が背中を押すでござるよ」
 ……虎の被り物であるはずのその顔が、優しく見えるのはなぜだろう。
「大丈夫でござる。こう見えても俺はそこそこ強いのでござるよ。任せるでござる」
 白虎丸の手が少年の頭を撫でた。子供に慣れたふたりの温かな掌から温かいなにか強い力が颯に流れ込んだ。
 大人たちと話す颯を、ニハルは少し離れた場所で黙って見つめていた。
 そんな彼女の目線を遮るように、緑髪の少年が立った。
「言わないと伝わらない、はっきり声に出せ……あんた、あれの友達、なんだろ」
「…………」
 オリヴィエはニハルの手に何も書いていないプレートを渡した。
「……多分、このまま別れたら、きっとあいつがでかくなってもこの別れが傷になる。勇気なんて持てないまま。
 あんたは勇気、出せるか?」
「ゆうき」
 ニハルはオリヴィエの言葉を口の中で繰り返し、真っ直ぐに目の前の英雄の少年を見た。
「わたしは武器。誓約を、颯を護る刃…………英雄とはそういうものではないの?」



●願い事の爆弾

 「折角のお願い事なんだし、これだ! って思えるものがいいですよね……」
 そう思う九繰だったが、自分の目標や夢などは己の力で少しずつ叶えていいて、願い事として、今、ここに書くにはふさわしくないような気がした。
 ────うーん、そうですね。
 数分悩んだ後、なにかを思いついたらしい九繰は、一生懸命ライヴスを込めるイメージをしながら、それをつらつらとプレートに書き込んだ。
「そろそろ、プレートを弾丸に詰めてください!」
 H.O.P.E.の職員たちに促されて、エージェントたちはプレートを入れる弾丸の蓋を開く。最後にエミナの『おいしいカニに出会えますように』と書かれたプレートと、九繰の『楽しい夏になりますように!』というプレートが納められると、弾丸はしっかりと封がされた。
「何、このデザイン! もうちょっとなんとかならなかったの!?」
 無骨なロケットランチャーと弾丸にベルベットが眉をしかめる。
「おお、凄いライヴスです」
 一方、弾丸の小さなディスプレイに表示されたグラフを見て、白衣を羽織った職員が嬉しそうな声をあげた。
「問題は、このロケットランチャーです。とても重いのでエージェントの皆様に共鳴して支えてもらいたいのですが……」
 最初に颯に話しかけた職員が少年を見つめる。
「颯くん、ニハルちゃん。きみたちにもお願いできるかな?」
 颯は一瞬、千颯を、そして周りのエージェントたちを見てから、恐る恐る頷いた。
「ありがとう。タゲレオが襲ってくることは無いはずだけど、念のため、ここにある武器の中からなにか持っててくれるかな」
 ロケットランチャーと共に持ち込まれた、武器を詰めたケースが開かれる。ニハルは躊躇わずにケースの中のそれへ手を伸ばし、それを見たハルは思わず嬉しそうに笑った。
「共鳴(リンク)するの、初めてだ……」
 おどおどと、颯がニハルの正面に立つ。ニハルがしっかりと颯を見た。
「────能力者と英雄が、お互いの存在を認識し、幻想蝶に触れる」
 誰かが、ふたりに言う。
 小さな、尖った石英のようなものをニハルが差し出した。それがリンカーたち一組一組によって違う結晶体────誓約の証である『幻想蝶(ライヴスメモリー)』であることは、その場の誰もがわかっていた。

 この世界に存在する能力者を依代に、英雄は自らの魂を能力者と一体化させる。
 それは、現世界に存在できない英雄が、この世界との強固な繋がりを結ぶこと。
 その強固な繋がり、それを『誓約』と呼ぶ。

 颯とニハルの指先が幻想蝶に触れる…………。
 幻想蝶の名前の由来である蝶のような光の粒子がふたりを包み込んだ。


 ────英雄と誓約を交わした者たちこそが、能力者《リンカー》となる。


 光の中でふたり影は一人になり、やがてそこには颯より少し背の高い少年が佇んでいた。
「颯くんにも手伝ってもらって、天の川にでかい花火を打ち上げようじゃないの」
 自身も共鳴し大きな羽を背負った望月が、銀色の空を指さす。
「むむ! わしのぱわーをすれば、このていどかんたんなのであるぞ!!」
 もふもふとした獣の耳と尻尾を生やした桜子が、どや顔でロケットランチャーの横に立つ。颯より小さかったこの少女は攻守に優れたブレイブナイトだ。
「あっ」
「狙いは任せて!」
 チョコバーをくわえて、後ろから颯を支えたのは狐の耳を生やした真琴だ。
 ずっしりとした重さのためふらふらと揺れそうになったロケットランチャーが急に安定した。
 振り返ると、虎耳を生やした千颯がにやりと笑った。
「ま、ここは俺ちゃんが支えますよってな!」
「私もいます」
 突然現れた凛々しい騎士然とした青年が『征四郎』だと気付くと、颯は目を丸くした。
 エージェントたちに支えられたロケットランチャーが、まっすぐに天を狙う。
「ね、ね、撃つ時はあれかな。たまやーって言う?」
 珍しく共鳴後の意識を担当したリュカが、美しい金の瞳で夜空を見上げた。夜空を覆うあの銀板が砕けて消える様子はきっと綺麗だろう。
「ちょい右で、そう!」
 真琴は、微かに震えながら引き金の辺りで指先を彷徨わせている颯に囁いた。
「落ち着いて、大丈夫。……いくよ……」
 ────3……2……1……。
 カウントダウンするエージェントたちの声が合わさった。
「今!!」
 ジャックポットである真琴の鋭い合図。反射的に颯の指先がトリガーを引いた。
 風を切る砲弾の音。
 そして、爆発。
「たーまやー」
「たまやー」
「たーまやーであるぞー!」
 爆音とともに、タゲレオが粉々に割れる────しかし。
「あれ、やばくない!?」
 従魔が造った銀板のサイズは、いつの間にか増えたタゲレオによって最初の想定よりだいぶ大きくなっていた。破壊しきれなかった大きめの銀板の欠片が一枚、あろうことか真っ直ぐに広間へ落ちていく。
「七夕飾りが……」
 慌てて幻想蝶から愛用の銃を取り出そうとした真琴を押しのけて、颯が飛び出した。
「颯────」
 颯の周りの空間に鈍い光を放つ硬質の物体が大量に現れた。それは、ニハルが選んだ銃だった。一丁だったはずのそれは多数に増えて空間を埋め尽くすと、その銃口を空へと向けた。
 ────《上天驟打》。」
 真琴の脳裏に、以前戦った着物姿の愚神の姿が浮かぶ。
 空中に浮かんだ銃は一斉に、落下する大きめの銀板の欠片を撃つ!
「よっしゃ!」
 銀板は砕けはしなかったものの弾丸に弾かれて軌道をずらし、笹の上ではなく誰も居ない広場の片隅に落下した。
「いたっ?」
 落下した銀板の行方を眺めていたエージェントたちの頭に、こつん、と何かが落ちた。
 涼しい音を立てて、風に散らされ始めた砲煙の間から落ちて来たのは銀色の塊だった。
「タゲ────レオ?」
「タゲレオが憑依した銀板か、弾丸の欠片じゃない?」
 拾い上げたそれは柔らかそうな見た目の銀色で、不思議と星の形をしていた。
「お星さま!」
 どこかで、同じようにそれを拾い上げたらしい子供の声が響く。
 念のために手を翳して目を守りながら見上げると、なんとなく以前より澄んだ星空からきらきらと輝く光の粒がまばらに落ちてくる。
「────綺麗……」
 銀の雨粒はしゃらしゃらと涼やかなを音を立てながら広場の堅い石畳を叩く。
 それは数分間だけ降り注ぎ、広場の人々の七夕の記憶を彩った。



●颯とニハル

「初仕事、お疲れ様! 無事成功ですね」
 九繰の声に、広場の隅に座り込んでいた颯とニハルは顔を上げた。
 タゲレオによって荒らされた広間の後片付けは、エージェントと一般参加者たちの協力によって速やかに行われた。
「花火やろう花火、そういう気分だよね。避難してた皆さんも一緒に」
「七夕に花火ってなんだか乙だね~」
 望月の言葉に乗り気の千颯と白虎丸。
「今回は手持ちでござるから、千颯の小遣いから差し引きは無しでござるな」
「あれは経費で落ちたよね……」
 すると、リュカがにっこりと笑う。
「近くにコンビニとかあれば、花火だけじゃなくてお菓子とかも買ってこれるね!」
 エージェントだけではなく、周囲の一般人の数まで数え始めたリュカにH.O.P.E.職員が慌てて声をかける。
「いやいや、すみません! 従魔を倒して片付けまで手伝って頂いたのに、そんなことまでは!」
「こういう時にぱっと使うもんだよ」
 そんなリュカを押し留めて、颯に最初に声をかけた職員は言った。
「花火もお菓子もこちらで用意しますから、エージェントの皆様はせめて楽しんでいってください。
 ────颯くんも、お疲れさま!」
「……え」
「従魔退治の、いわゆる報酬だよね!」
 報酬、の声に颯とニハルは顔を見合わせた。


 花火が配られ始めると、颯を見ていたガルーが口を開いた。
「お前が誓約を解除して、ニハルが別の能力者と誓約を結ばなかった場合、ニハルはそこで消えることになるぞ」
 ぎょっとした颯はガルーを見た。それはまるで脅すかような言葉だが、けれども、彼にその意図は無く。
『ニハル! すごい、凄い!』
『颯!』
 タゲレオにスキルによる銃撃を行った後、共鳴を解除したニハルと颯は年相応にはしゃいだ顔で互いの両手を打ち合わせた。初々しいけれど絆を感じるふたりの姿────エージェント歴も長くなって来たガルーは全く同じ顔をした新人リンカーの姿を何度か見かけたことがあった。
 そして、未だ言葉少ななニハルを見ながら、ガルーはなんとなく自分が納めた願い事を思い出す。
 ────『誓約後のこの時間が、もう少しだけ続きますように』。
 願いの短冊など、と思った自分が書いた願い。
「……、あー、だから、……それが理由でも良いんじゃねぇか? ニハルを助ける。共に生きる。まずはそこからでもよ」
 ────俺様は知らない生き方だけど……多分、そういうのも、あるんだろ。
 どこか不器用さのあるガルーの言葉に、変わらず颯が答える。
「でも……戦うのは、こわい」
 内容は同じでも、初めて出会った時より少しだけはっきりとした颯の声。
「そうだね、よくわかるよ」
 いつの間にか集まっていたリュカや征四郎たちに気付き、ガルーは気まずそうに口を閉じた。
「ただ、男としてはちょーっとかっこわるいぞ、颯ちゃん。女の子の意見も聞かず勝手に決めちゃ駄目だ」
 白杖をついたリュカは颯を励ますように続けた。
「しっかり構えて、まずは受け止めなきゃ。ね!」
 その場に居たエージェントたちは、ガルーやリュカと同じ気持ちだった。
 自分たちもリンカーであるがゆえに、ニハルと颯の絆がしっかりと結ばれていることを全員が感じ取っていた。
「いきなり戦うんじゃなくて、少しずつで良いと思います。能力を試してみたり、誰かの頼みを聞いたりして探してみれば、きっと出来ることが見つかると思う」
 言葉を選びながら、一歩、前に進み出た征四郎が颯の手を握った。
「勇気は既にここにありますよ。だって颯は、今を変えたくてニハルの手をとったのでしょう?」
 ────今踏み出した一歩で、あなたは必ず変われるから。
 胸の中で呟いたその言葉は征四郎自身の経験から生まれたものだ。だから、口には出さない。颯が自分でそう思う日が来てほしいから。
「全部がキツイ仕事じゃないし、仕事の好みも人それぞれです!」
 言いながら、九繰は過去の激しい戦闘を思い出し、「あの日はホントに濃い一日だった……」と一瞬しみじみとしかけた。
 もちろん、つらくきつい仕事もある。しかし、リンカーを必要とするのは戦闘の依頼だけではない。
 ────楽しかった依頼だって、たくさんありますし────なにより。
「私、普段は趣味と夢の為に活動しているんですよ!」
 九繰はちらりとエミナを見た後に、ニハルに笑いかけた。
「せっかくの縁で出会えたのだから、エージェント活動はさておき、英雄と一緒に過ごしてみたらどうでしょう?
 出来るかできないかは、やってみてから考えても遅くない! なーんて」
「九繰はちょっと考え無さすぎですが」
 エミナのツッコミに九繰が頭を掻く。
 しばらく黙り込んだ颯が、改めて口を開く。
「────そうだね。僕……もうちょっとニハルと居るよ」
「もちろん、そうでしょうけど焦らず────えっ!?」
 驚くエージェントたちに、颯は胸の前で握りこんだ自分の両手を見つめた。
「……ありがとう。僕、戦ったりはまだ、できるかわからないけど……ニハルと一緒に居てみようと思う────。みんなみたいに、仲良くなれたら、それから、先だけど、なにかできたらって…………」
 ニハルも颯を見た。
 それから、真っ直ぐに、自分たちを気遣うエージェントたちの顔を見回した。
「わたしも、みんなのように颯と一緒にいたい。武器ではなく、仲間として。それが、タゲレオに撃ち込んだわたしの願いです」



●花火大会

「チハヤ! 征四郎も手持ち花火欲しいのです! 激しいの!」
 征四郎は千颯が開封しているたくさんの花火から何本か抜くと腕に抱えた。
「颯も、ニハルも、どうですか?」
「すごい、いっぱいある!」
「これはなんでしょうか」
 広場は花火を楽しむ人たちの笑顔とはしゃぐ声で満ちていた。
 水の入ったバケツの用意を手伝っていた望月と百薬が、遅れて千颯の元へ花火を求めてやってきた。
「ワタシね、パラシュートのがいいの、ばしってキャッチよ」
 百薬の言葉に望月が並べられたパラシュート花火を手に取る。
「あれ意外と楽しいよね、どっちが先に取るか競争しちゃうよ────わっ!」
 パン! と鋭い音と共に、誰かが放ったネズミ花火が弾ける。
「面白い!」
 ふたりはパラシュート花火を持ったまま、地面を滑るネズミ花火を仲良く目で追う。
「わしは派手な花火を用意するのである!」
「そういうのもいいけど、あたしは線香花火みたいなものすきよぉ」
 嬉しそうに花火を選ぶ桜子の横でベルベットは小さく束になったままの花火に手を伸ばす。
「私も静かな花火を少しやりたいです!」
「ご一緒しましょう」
 ベルベットが、九繰とエミナと一緒に比較的穏やかな花火を選んでいると。
「見よ、このわしの花火さばきをーーー!!」
 両手に花火を持った和服姿の少女が、剣舞のようにクルクルと回り出した。それに気づいたベルベットのまなじりが吊り上がる。
「さくらこぉーーー!!! あんた、そんなことしたら、あぶないでしょぉーーー!」
 花火を持ったまま、ぴゅうっと逃げ出す桜子をベルベットが全力で追う。
 一方、たくさんの花火を抱えた征四郎はリュカの隣で花火に火を点ける。
「これは白い光でススキの穂のように広がるのです! ────これは、赤と青、雪の結晶のような光があちこちに弾けていますよ!」
 丁寧にひとつひとつ、リュカに花火を説明する征四郎。リュカはそれを笑顔でうんうんと頷いて聞いた。


「折角だから、ドカンと打ち上げ花火も欲しいよなー」
 白虎丸の足元に蛇花火を放ちながら千颯が呟くと、それを聞いていた一人の職員がサムズアップをした。


「打ち上げやりたい人、居たら共鳴して手伝いよろしくー!」
 千颯の声に、エージェントたちは「打ち上げ??」と怪訝な表情を浮かべた。
「花火大会だぜー!」
「花火大会とな! わしも、さんかさせていただきたいのであるぞ!」
 ベルベットに捕獲されていた桜子が顔を輝かせて、英雄の手からするりと逃げた。
「桜子ちゃんは共鳴してからおいでなー」
「べるべっと!」
「ちょ、ちょっとこれ────」
 共鳴した千颯が抱えたロケットランチャーを見て、ベルベットが顔を強張らせる。
「ちゃんとH.O.P.E.の許可を貰ってるんだぜ!」
「現場判断だからね!」
 花火弾を用意した白衣の職員が慌てて訂正する。
 そんな千颯をじっと見ていた颯がそっと真琴の袖を引く。
「空に打ち上げるだけなら、照準も合わせんでもいいし、全員じゃなくても大丈夫じゃろ」
 ハルがいつの間にか手にしていたH.O.P.E.のロゴ入りの団扇で仰ぎながら口を開くと、颯は首を振った。
「僕もレベルが上がると耳とか翼が生えるの?」
「…………生えない、か……な……」
「おっ、そうだ。颯がロケとランチャー増やせば派手なのが打ち上がるんじゃないのか?」
 名案! とばかりに千颯が手を叩くと、颯はちょっとだけ得意そうな顔でニハルを見た。ニハルが難しい顔で頷くとふたりの間に幻想蝶が舞う。
 だが、共鳴した颯はちょっと変な顔をした。
「ん……、どうすればいいのか……わかんない?」
「え、さっきやったじゃない?」
「ええと────」
 すると、真琴が噴き出した。
「大丈夫、一緒に居ればゆっくりできるようになるよ……!」
「そうですよ! さっきのは七夕の奇跡、かもですね!」
「まあ、気にすんなって!」
 しょぼんと、共鳴を解いた颯の隣に座った真琴は、手に持った花火に火を点けた。ぱちぱちと元気な光が跳ねる。
「……ボクはね、ひとりじゃ何もできないんだー。隊の皆がいたからここまで来れた。今でも戦うのは怖いけど、でもみんなが傷つくのはもっと怖い。だから、守るために戦うの」
 真琴とハルは、ストックしていた別の花火をそれぞれ颯とニハルに一本ずつ渡す。
「戦うだけがリンカーじゃないしの。やれることは多いはずじゃよ。怖いならワタシらにまかせておけ。お主はその子を守ってやればよい」
 花火の炎を危なくない範囲でふたりに寄せると、真琴とハルから火種を貰った颯たちの花火も明るい炎を吹き出した。
「でもね、ボクはハルちゃんがいれば頑張れる」
「真琴がいればワタシは無敵じゃのぅ」
「だから大丈夫!」
「うむ、大丈夫じゃ」
「願いはとどくよ!!」
 半ば自分たちに言い聞かせるように頷き合う真琴とハル。
 傍で花火を抱えていた征四郎が、ガルーの隣で満面の笑みを浮かべた。
「大変なこともいっぱいですが────、楽しいこともいっぱい、あるのですよ!」
 「そうだな」と答えたガルーの声は、ドン、と夜空に花火を打ち上げたロケットランチャーがかき消した。
「たーまーやー!」
 何人かが楽しげに声をあげた。

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結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
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