本部

月の女神の赤い唇は残酷に弧を描く

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形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/30 20:13

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掲示板

オープニング

●壁の装飾
「……っさ、ま……どうし、て……?」
 黄色いサンタの服を着た少年に、長い黒髪を揺らした女性がその白い肌に映える赤い唇を持ち上げてみせた。
「どうして? ただ飽きただけよ?」
 その白い手は、少年の細い首にそっと添えられている。
 力を込められたわけでもなかったが、少年の顔はどんどん青白くなり、その目は虚ろになっていく。
「私を怖がらなかったお前のことは面白いと思って自由にさせていたが、あまりにチンケな遊びに気づいたのよ。お前が私を怖がらなかったのは、ただ知性が足りなかっただけなのだと」
 ライヴスを失った少年にはもう彼女の声は聞こえていない。
「美しいものは好きだけれど、馬鹿は嫌いだわ」
 首から美しい指が離れると、少年の体は宙を浮き、黒曜石のような冷たい漆黒の壁に引き寄せられていく。
 少年は腕を胸の前でクロスして、壁に貼り付けられる。
 その少年の並びには何人もの端正な顔立ちの少年、青年たちが飾られていた。

●欠けゆく月
「スウェーデンとその周辺の地域で少年や青年たちが行方不明になる事件が多発している」
 沼津はエージェントたちを集めて言った。
「学校からの帰宅途中に一人でいるところをさらわれた者もいるが、友人たちや家族がほんの一瞬目を離した間に忽然と消えてしまった者もいる」
「神隠しみたいね……」と、沙羅が呟く。
「日本でも目撃された黄色いサンタもスウェーデンの行方不明の少年によく似ているという情報もあるし、愚神が絡んでいるのかもしれない。そこで、調査を頼みたい」
「いいか」と、沼津はエージェントたちに釘をさす。
「今回は調査だけだ。相手がどんな愚神なのか、はたまた従魔なのかはわからない。くれぐれも無茶はしないでくれ」
「わかっている」と、ヴィクターは無感情に答えた。
「行くぞ。沙羅」
 ワープゲートへ進むヴィクターの後を追う沙羅の手からタロットカードが溢れ落ちる。
「ヴィクター! ちょっと待って!」
 そうヴィクターに声をかけながら、落ちたカードを見ると、裏返しになっているカードたちの中に一枚だけ絵柄が見えているカードがあった。
 偶然の必然……それは、人が意図を持って引くよりも確かな答え。

 大アルカナ 月の正位置

 迷い、動揺、偽り……隠れた敵。
 月のように状況は刻々と変化し、そしてその変化に心は振り回され、安定を失っていく……それは抗えない運命。
「……」
 沙羅の胸に言い知れぬ不安が波のように押し寄せてきた。

解説

●目標
・『神隠し』のような事件について、それに愚神や従魔、ヴィランが関わっているのかを調査してください。
・愚神や従魔、ヴィランが関わっているのであれば、その存在についてさらに調べてください。
(ただし、深追い等の無理はしないこと)

●登場(PL情報)
・謎の愚神
 イエローサンタに扮していた少年に愚神としての力を貸していた者
 美少年や美青年を収集するのが趣味
 美しさを保つ程度にはライヴスを残しておきながら、少年や青年をドロップゾーン内に飾っている

●場所と時間
場所:スウェーデン イエローサンタ似の少年が消えた小さな村から調査を開始
時間:日中

●状況
・スウェーデンで少年や青年が忽然と消える『神隠し』のような事件が多発しています。
・幾度かエージェントたちも対峙したことのあるイエローサンタも愚神本体ではなく、行方不明者の一人である可能性が出てきました。
・今回の沙羅のタロットは『月』のカードです。

リプレイ

●美少年
 スウェーデンには美少年、美青年が多いことは有名な話だ。彼らを一目見て分かるのは、その造形が彫刻のように美しいということである。
 それはこの小さな村でも変わらなかった。
 そんな美形など見慣れているであろう村人がチラチラと視線を送る人々がいた。
「もぉせーちゃんもおりびえちゃんもかわかっこいいわ! 桜子は馬子にも衣装よ★」
 紫 征四郎(aa0076)の髪は首の後ろで結われ、カーディガンと膝下までのハーフパンツにハイソックスという出で立ちだ。いつもは凛とした美人という印象だが、今日はメイクや服装により中性的な少年の姿である。
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は薄い桃色のシャツに濃いオレンジのネクタイと白いスーツ。ぶっきらぼうでクールな印象は変わらないものの、銃やライフルはSPに任せて乗馬でもしてそうな品性を感じる。
 泉興京 桜子(aa0936)の髪は一本の三つ編み、白いシャツに濃いピンクのネクタイ、黒いハーフパンツである。可愛らしさは服装やメイクで男装しても隠せるものではなく、変わらずに可愛いが、ベルベットの腕前により、なんとか少年に見える姿となっていた。
「流石ベルベットさん、センスが良いですね」
 ガルー・A・A(aa0076hero001)の言葉に「でしょう?」とベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)は満足げに微笑む。
「桜子もオリヴィエも、よくにあってるのです!」
「リーヴィもそういう服はちいと新鮮だな……七五三よりは結婚式か」
「俺も見たい〜!」と木霊・C・リュカ(aa0068)が地団駄を踏む。
「よっし! それじゃ、これ以上美少年&美青年が被害に遭わないように調べるのよ!!!」
 いつも以上に気合の入ったベルベットに桜子は戦慄を覚える。
 澄み切った空気を征四郎は胸いっぱいに吸い込んだ。
「スウェーデンは涼しいですね。空気もきれいなのです」
「観光に来たんじゃねぇけどな」
 ガルーはそう言いながらも、征四郎同様にきれいな空気を堪能する。
 リュカとオリヴィエはH.O.P.E.からの資料に再度目を通す。
「さて、ね。神かはたまた愚神か……大穴でヴィラン?」
「あのサンタ、回避能力は優れていた。あれで元はただの人間だとしたら、力を与えた奴の強さはかなりだと思う」
 オリヴィエが見ているイエローについての資料を横から眺めながら「そうだな」とヴィクターはうなづく。
「えっへへーよろしく」と満面の笑顔でリュカはヴィクターに手を差し出した。
 握手かと思い、その手を握ったヴィクターの腕をリュカはしっかりと握って、ブンブンと振る。先日の猫たちの散歩の時のように。
「今日は共鳴するんじゃないのか?」
「いざとなったらするかもだけど、調査中はしないよー!」
「そうか……それじゃ、杖の代わりをさせてもらおう」
「ありがとー! それと、はい、これもよろしく」
 リュカはカメラをヴィクターに渡す。
「……調査資料になりそうなものを、撮ればいいんだな」
「違うよー! オリヴィエの勇姿を撮って!」
「そんなのいらないから」と、オリヴィエはそっぽを向く。
 照れているのであろうオリヴィエに沙羅が「仲が良くていいわね」と微笑んだ。
「せーちゃんと桜子ちゃんの勇姿はガルーちゃんよろしくね!」
「おー!」とカメラを構えてガルーは答える。
「男の子のふり、任せるのですよ!」
 実家時代は男の子らしくしていたことを思い出して、征四郎は凛々しい少年を演じて歩き出す。
 ジェフ 立川(aa3694hero001)がヴィクターへ手を伸ばした。これは握手である。
「初顔合わせだな、世話になる。貴方なら愚神の目を引いてくれそうだ」
「いや、自分はこの格好で行くから」と、ヴィクターは黒い帽子を目深にかぶり、サングラスをかけた。
「……いや、それはやめたほうがいいんじゃないのかな」
 ジェフは苦笑し、沙羅は「不審すぎるわ」と眉間にしわを寄せた。
「愚神も人間を顔で判別したりするんだ~!」
 華留 希(aa3646hero001)の言葉にチラリと麻端 和頼(aa3646)は少年姿の希に視線を向ける。
「……お前と気が合いそうか?」
「アタシはもっと美意識高いしー!」
 希はえっへん! とでも言いたげに胸を張った。
「ところで、さらわれてもいいように、ちゃんと下着の中に……」
「発信器でしょ! ちゃんとつけたわよ!」
 もしもの時、ポケットの中では簡単に見つかってしまうかもしれないため、希は下着の中に発信器を忍ばせた。
「何人も行方不明なんだよね……生きてる可能性があるなら助けたいよ」
 優しい五十嵐 七海(aa3694)の言葉に和頼はうなづく。
「ライヴスが残っているなら、もしかすると……」
「待ってる家族が居ると思うんだ。せめて手掛かりだけでも……」
 七海は和頼の服の裾をぎゅっと掴んだ。
「大丈夫だ。きっと、助けるから」
 和頼は七海の頭を撫でた。
「これだけの人が消えてるのに掴めてないのは相手がかなり用心深く狡賢いって事だろう」
 ジェフが言う。
「チャンスが有れば助けるが、まだ情報不足だ……深追いはするなよ」
「わかってはいるが……」
「どんなに時間がかかっても、助けてあげないとね!」
 希が和頼の言葉の続きを言った。
「和頼って、七海がいる時は人が変わったみたいに優しくなるよね」
「……うっせ」と、和頼は耳を赤くする。

●性格に問題あり
 リュカとオリヴィエはヴィクターたちと一緒に隣村のさらに隣にある街に来ていた。
 イエロー似の少年がいた村は小さな村で、隣の村の警察が担当していたが、行方不明者が周辺地域にも発生しているため、この街の警察が周辺の情報をまとめていた。
「行方不明者の年齢層と最終目撃場所や時間帯、それから行方不明時の状況等を教えてほしいのですが」
 そう依頼したリュカに担当者は非協力的な様子だ。
「まぁ、ちょいと時間はかかりますがね、待っててくださいな」
 見るからに協力する気などなさそうな無精髭の男が顎をかきながら言った。
「なぜ、時間がかかるんだ?」
 オリヴィエが眉間に深いしわを寄せる。
「もう資料はまとまっているはずだろう?」
「いや、あっちこっちで似たような事件が起きてるもんでね」
 この男に任せて大丈夫なんだろうかとオリヴィエは不安になったが、リュカはニコニコとその表情を崩さない。
「では、そのあちこちで起きている資料を全ていただけますか?」
「は? それは無理だ。俺たちが担当しているのはこの街と周辺の村の事件だからな他の都市や国をまたいだ資料までは……」
「じゃ、すぐに出ますよね?」
 リュカの表情は変わらない。それがかえって、担当者には不気味に見えたのかもしれない。
「わ、わかったよ……」
 男はいそいそと資料を取り揃え始めた。

「イエローはエーリクという名前だったのですね」
 リュカからメールで送られてきた資料に征四郎は目を通して言った。
 男装した征四郎と桜子は、地図を見ながら村の市場の中を歩く。
 リュカからの情報をもとに、地図には神隠しがあった場所に丸と時刻やその他の情報を書き留めた。
「君たち、二人だけかい? 最近、神隠しにあう者が多いから、危ないよ」
 愛らしい少年が二人でいるとそれだけで村の人は話しかけてくれる。
「気づいているかい? あそこに、あやしい人たちが……」
 話しかけてくれたおじさんは、壁に隠れるガルーとベルベットをチラリと見る。
「ああ〜、あれらのことは気にしないでほしいのである!」
 桜子と征四郎が壁の影に身を小さくする大の大人二人を隠そうとブンブンと手を振ると、「なんだ、知り合いなのかい」とおじさんは笑った。
「やっぱり、大の大人が二人で壁に隠れてるっていうのは絵面的にきついものが……」
 ガルーのつぶやきにベルベットが「でも、仕方ないわ」と答える。
「何かあればすぐに駆けつけられるように周囲に注意を払わないと!」
 何人目かの村人に桜子はそれまでと同じ質問を繰り返す。
「ちかごろここでかみかくしがあったようであるが、なにかこころあたりはあるまいか?」
 野菜を入れている籠を持っていたおばさんは「神隠しのことなら……」と話してくれる。
「うちの近所の子も、ある日突然いなくなっちゃったね……」
「どんな子でしたか?」
「綺麗な顔の子よ」
「この写真の中にいますか?」
 征四郎はスマートフォンで被害者の写真を見せる。
「ああ、この子よ」と、おばさんは一人の青年を指差した。
「この子も見たことあるわ」
 そうおばさんが指差したのはイエローに扮していたエーリクである。
「この子も近所に住んでいたのですか?」
「いいえ。この子は、この村の中では有名なのよ」
「……有名?」
「女の子のことが好きで、あっちこっちで声をかけていたから……でも、本当は女の子よりも自分のことが大好きなのよね」
「……」
 それは確かに、イエローだと征四郎は呆れながらも確信を抱く。
「面倒な子だと思っていた大人もいたと思うけど、私は可愛いと思っていたわ。昨年の冬から姿を見ないから、この田舎の村を出て行ったのかと噂していたの。この子も神隠しに?」
 征四郎はうなづく。
「イエロー……いえ、エーリクがこの村を出たと思ったのはどうしてですか? ご両親が引っ越しでもされたのですか?」
「エーリクには母親がいなくて、父親と二人暮しだったんだけれど、その父親と喧嘩して家を飛び出したって噂があったから」
 こんな小さな村ではささやかな事件も村中に知れてしまう。ただ、真実は少し捻じ曲げられ、多少の尾ひれがつくため、正確な情報が広がるわけではない。
 エーリクの父親がただの家出だとは思わなかったからこそ、警察にエーリクの情報があるのだろう。
(やっぱり、この神隠しを起こしているのは愚神……?)
 おばさんの証言からもエーリクがイエローで間違いはないだろうと征四郎は考えた。
 桜子はおばさんの近所に住んでいたという青年について聞いた。
「この青年はどんな人物だったのであるか?」
「そうね……頭が良くて、その分人を見下すようなきつい性格だったわね」
 確かに、きつい目つきをしていると、桜子と征四郎も感じる写真だった。

●罪を犯す者
「ノルウェーにも獣人いるか?」
 和頼と七海は愚神に警戒されないように獣人ペアを装い、村の中を歩いていた。
「……目立てば逆に疑わねえだろ」
「そうね」と、七海は自然な仕草で和頼の腕に腕を回す。
「リュカから情報きてるな」
 スマートフォンを取り出して和頼はメールをチェックする。
 和頼たちの前を兄弟のふりをしている希とジェフが歩いていた。
「兄ちゃん、あっちにレアがいそうだヨ!」
 希は最近流行りのゲームに夢中になっている演技をしながら周辺を探索する。
「ちゃんと足元は見えてるのか?」
 ジェフがそんなことを言っている間にも希は小石を踏んづけて転びそうになった。
「っ! 危ないぞ」
 ぐらついた希の体をジェフが支える。
 そんな二人の横を見るからに粗暴な二人が通り過ぎる。
「あの獣人の女、キレーだし高く売れそうだな」
「ああ。でも、あの男が付いている限りはさらうのは無理だな……」
 こそこそと話す男たちの会話を聞いた希とジェフは顔を見合わせた。
 ジェフは七海を振り返り、怪しい男二人を指差し、尾行することを伝える。

「性格に共通点があるかもしれません……だと」
 征四郎からのメールをオリヴィエは読み上げる。
「面白い情報だね」と、リュカは感心する。
「共通点は美形という見た目だけじゃなかった……ってことか」
 ヴィクターの言葉に「だな」とオリヴィエはうなづく。
 リュカはスマートフォンの喋ったことを文章にする機能を使って征四郎にメールを返す。
『それは警察では得られなかった情報だね。手分けしてもっと情報を集めよう』
 そして、二時間後には村の入り口に立っている看板の下で集合することとした。

 ジェフと希が男たちの後を追うと、壊れた納屋のようなところに入っていった。
「どう?」と、少し後ろから和頼と付いてきていた七海が聞く。
「あそこの納屋に入っていったよ」
 希の言葉に、和頼は拳を手のひらに打ち付ける。
「よっし、じゃ、乗り込むか!」
「もうちょっと様子を見たらどうだ?」
「んなこと言ってる間に被害者が増えたらどーすんだ?」
「しかし、彼らが何者なのか、何をしているのか知らぬままに突入するというのは早急すぎるだろ」
 和頼とジェフがかみ合わない意見を言い合っているうちに、希と七海は納屋に近づいて中の様子を探る。
 板作りの納屋の壁に耳を当てると、男たちの会話が聞こえてきた。
「ルキアの引き渡し、今日の夜だったよな?」
「それにしても、本当にキレイだよな」
「ああ。金持ちが欲しがるのもわかるぜ」
 男たちの話に、希と七海は顔を見合わせる。
「キレイっていうのは、少年のことかな?」
「わからないけど、今日の夜、誰かに売り飛ばしちゃうんだとしたら、助けるのは今のうちね……」
 なんて七海が言っている間に、納屋のボロい扉が蹴破られた。
「神隠しについて聞かせてもらおーか?」
「な、なんだ!? お前……」と、男が動揺している間に、和頼の拳が男の左頬にめり込み、男は後ろに吹っ飛んだ。
「くっそ……」
 もう一人の男が幻想蝶を取り出すと、中から出てきた英雄と共鳴し、銃を構えた。しかし、ジェフの長い足によりいとも簡単に銃は蹴り上げられる。
「さっさと言わねえと頭から食うぞ!」
 和頼は武器を持たないヴィランの胸ぐらを掴んで殴った。
「さっさと吐け!」
 殴り続ける手は止まらない。そのままではしゃべることなど無理であるのに、和頼は無茶な要求を突きつける。
「やり過ぎちゃダメー!!」
 七海が和頼の腕を掴んでようやくそれは止まる。
「……っと、ヤベえ……やり過ぎたか?」
「ちょっと……」と不満そうな声を出したのは希である。
「こいつ、一応、ヴィランだよ? レベルが驚くほど低かったんだろうけどさ、でもヴィランだよ? それをあたしと共鳴もしないでボコボコにするのやめようか? あたしの存在意義が問われるから」
 希はぷくーっと頬を膨らませる。
「おーい。こいつ、どうする?」
 ジェフは最初に吹っ飛ばされて、納屋の隅で怯えていた男を引きずってきた。
「どうやら、こっちはフツーの人間……いや、犯罪者だから人間としてはフツーじゃないか……フツーの犯罪者みたいだけど」
「知ってる事全部吐きやがれ!」と、和頼が脅すと、男は震えながら叫んだ。
「か、神隠しのことなんて知らねーよ!」
「さっきのルキアっていうのはなんのこと?」
「ルキアってのは、そこの従魔だよ」
 七海の問いかけに男は藁の下に隠してあった檻を指差した。
「従魔……」
 檻の中には金色に光る球体のような従魔がいた。
「神隠しのことなんて一切知らねーし……むしろ俺らも迷惑してるんだよ!」
 ヴィランの言葉に、「どういうこと?」と七海が聞く。
「俺たちは面白い従魔を捕まえて売ってるんだ。行方不明者の数名は俺たちの顧客だ」
「……まさか」
 七海は驚く。同情すべき被害者だと思っていた青年たちの中には、同情しきれない輩もいたのだ。

●蜘蛛の糸
 森と森を切り開いたような細い一本道、隣村との境に立つ看板の下で桜子、征四郎、リュカ、ヴィクターとそれぞれの英雄たちが集まっていた。
 遅れてやってきた七海と和頼たちに沙羅が手を振る。
「遅かったわね」
「ちょっとヴィランを……」
 ボコボコにしていて遅れたとは言いづらく、七海が口ごもる。
「大した情報は得られなかったが、被害者も一癖ありそうだということはわかった」
 和頼の言葉にガルーが「やっぱりか」と答える。
「こっちでも、ちょっと癖のある人たちだったことがわかったのです」
「傲慢な性格だったり、乱暴者だったり……中には、少し変わった生物を集めていた人たちもいたようであるぞ」
 征四郎と桜子の報告に、ジェフが補足する。
「少し変わった生物というのは、おそらく従魔のことです」
「さっき七海ちゃんが言いかけたヴィランが、従魔と関係あるの?」
「はい」と七海はリュカにうなづき、詳細を説明した。
 次にベルベットが報告する。
「人をさらうのに細くて人通りのない裏道を使ったんじゃないかと思ったけど、田舎だからあんまり細い道自体がないのよね。あっても、全部、広い道に繋がってるから、昼間に誰にも見つからないってのは難しいわ。夜なら余裕だけど、夜にさらわれたっていう例は少ないみたいだし……」
 ベルベットは印をつけた地図を改めて眺める。
「蜘蛛なら通れる隙間だったらあるんだけどね〜! 実際、蜘蛛の巣張ってたし」
「蜘蛛……ね」
 そう呟いたオリヴィエの襟首に細い糸のようなものが付いていることにガルーは気づいた。
「リーヴィ、蜘蛛の糸くっつけてるぞ?」
 その糸は随分長く、森の木々につながっているようだった。
 ガルーが糸をとってやろうと手を伸ばしたその時、オリヴィエの体には一瞬にして幾十もの白い糸が巻きついた。
「っ!?」
 オリヴィエは身じろいだが糸は緩むどころかさらにきつくなり、オリヴィエの体を宙へ吊るし上げる。
 エージェントたちが上を見ると、いつの間にか木々の間に大きな蜘蛛の巣ができ、そしてそこにはオリヴィエを捕らえた全長一メートルほどの蜘蛛がいた。
「オリヴィエ!」
 慌てるリュカを手で制して征四郎とガルーは共鳴すると、雷上動で矢を放った。
 その鋭い一矢はオリヴィエを吊るしていた蜘蛛の糸を切り、次の一矢は従魔である蜘蛛にあたる。蜘蛛はあっけなく塵と化した。
 地面に落ちるオリヴィエをヴィクターが抱きとめた。
「あーあ」と、高い女の声がその場に響いた。
「弱いけど、すごく使える子だったのに……もったいない」
 木の陰から現れた美しい黒髪の女に征四郎は矢のように鋭い眼差しを向ける。
「あなたが少年達を攫った愚神ですか?」
 征四郎は矢の先を愚神へ向ける。
 希と共鳴した和頼もバンカーメイスを構える。
「エーリクもあなたのところにいるのですか!?」
 征四郎の言葉に「エーリク?」と愚神は首をかしげてしばし考える。
 そして、「あー」と何か思い出したかのように声をあげた。
「アレね……アレなら、この前壁に飾ったところよ」
「壁にって……どういうことだ?」
 和頼の目がますます鋭くなる。
「きれいな子たちはみーんな壁に飾るの。ライヴスを少しだけ残すと、長持ちするのよ」
 愚神は小さな蜘蛛を一匹捕まえると、フーッと息を吹きかけた。
「あのおバカな坊やを通してあなたたちを見ていた時も思ったけれど、私好みの顔をしている人間が多いのよね……」
 息を吹きかけられた蜘蛛は大きくなる。
「指示を出すまで森でごはんでも食べていなさい」
 そう愚神が蜘蛛に囁くと、従魔は森の奥へと進んで行く。
「あなたたちを、あの壁に飾ったらどんなに素敵かしら」
「特に、」と、愚神はオリヴィエを見つめた。
「彼はこの辺じゃなかなか見ないタイプのお人形さんね……すごく素敵だわ」
「そんなことさせないのです!」
 征四郎に視線を移し、愚神はがっかりしたような表情を見せる。
「あなたたちも、男の子だったらよかったのに」
 しかし、次の瞬間には、愚神の真っ赤な唇は三日月のように弧を描く。
「今度はあなたたちの国に遊びに行くわ。退屈しのぎに」
 愚神は踵を返して、蜘蛛が消えた方へと歩いていく。
「待つのです!」
「征四郎、熱くなるな」とガルーの声が頭の中に響く。
「沼津のおっさんも言ってただろ? 今回は深い追いはするな」
「でも……」
 糸から解放されたオリヴィエが征四郎の肩に触れる。
「また必ず対峙する時が来る」
 森の中に愚神の姿は消える。
「その時には、あの傲慢な赤い唇が弧を描けなくしてやる……」
 エージェントたちは森の先をまっすぐに見つめた。

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結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
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