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夏だ! 海だ! 大ダコだ!
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いあ いあ くとぅるふ?
最終発言2016/07/11 22:33:12 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/07/08 06:03:45
オープニング
●夏だ! 海だ! 大ダコだ!
夏である。夏と言えば、海水浴である。
「というわけで、皆さんには海水浴も楽しんでいただけます」
スタッフはにこやかに話す。『も』とはどういうことなのか、と気づいた聡いエージェントの一人が尋ねても、その表情に変化はなかった。
「実はですね、ODビーチに従魔が現れまして。皆さんにお集まりいただいたのは他でもなく、これを討伐していただきたいのです」
いつ現れるかわからないので、それまでは警備もかねて海水浴をお楽しみいただけるのです、とスタッフは続ける。にこやかに。
「炎天下ですし、数名の班を作って警備を交替制にする計画です。時間になったら、心置きなく交替してくださいね。ベストコンディションでなければ、戦闘に支障も出ますし……。ちなみに、こちらがその従魔です」
スタッフは、正面のモニターに画像を映し出した。
「目撃証言、及び一般の方が偶然撮影していた写真を提供していただいたものです。ごらんのような形状と大きさをしています」
それ以上の説明はいらなかった。写真はとても明瞭だったから。
モニターには、大きなタコがはっきりと映っていた。
「全長は7メートルほど。種類としてはミズダコと思われます。普通のミズダコでも、足を広げると3~5メートルになるらしいですね。絡みつかれて溺死するという事件も起きるくらい、力が強くて危険なタコです。一説によると、迷路も解くくらい頭がいいとか。貝類や甲殻類も食べるくらいに顎も強力です」
ラッコ、いるか、アザラシ、トド、サメなどが天敵と言われているようだが、大きな個体になるとサメすら倒してしまった事例もあるらしい。
「というかなり危険なタコです。しかし、もちろん弱点はあります。身体が巨大で軟体のため、陸に上がると自重を支えられなくなるのです」
巨大化している分、それは顕著になっていると考えられる。何とか陸上へおびき出せればいいのだが……。
「頭の部分は刺身にするとおいしいんですよね、柔らかくて。おでんの具としても最高だし……。あ、これは関係ないですね。ともかく、警備と従魔の討伐、よろしくお願いいたします」
解説
●目的
大ダコの従魔を討伐します。発見されるまでは、ODビーチを警備します。警備中に海水浴を楽しむこともできます。
●大ダコ従魔
デクリオ級。ミズダコ。長く柔らかい足と強力な吸盤、甲殻類すらかみ砕く顎が脅威です。力が強く、絡みつかれたら危険です。水中での戦闘は困難を極めると予想されます。逆に陸に上がると、身体が柔らかすぎるために自重を支えられず、動けなくなります。巨大化しており、全長7メートルほどになっています。もともと知能も高いタコです。
リプレイ
●ODビーチ
いい天気で、平日だというのに人出の多いビーチである。昨今は必ずしも土日祝日が休日には当たらないので、海の家などの営業にも曜日日にちはそこまで大きく影響しないようだ。
しかし、ビーチの警護と戦闘が控えているエージェント達にとって、一般人の存在は割と緊張を強いられる。被害を出さないよう気を遣うからだ。
「巨大タコが出てくるまでは、警備しながら海水浴していいんだってさ。」
「今は海の中に潜っているのですか……」
世良 霧人(aa3803)とクロード(aa3803hero001)は、水着でビーチを歩いていた。休憩中の散歩でもあるが、任務の関係上これはこれで警邏でもあるかもしれない。いつ従魔が現れるかわからないため、班分けをしてビーチ警護するのが今回の任務だからだ。暑さで体調を崩さないよう、時間を決めてきちんと休憩もしている。ちなみに同じB班の鶏冠井 玉子(aa0798)とオーロックス(aa0798hero001)は、海の家でカレーを食べているだろう。玉子曰く、『夏の海でしなければならないこと第三位』なのだそうだ。味が微妙なのもまた乙らしい。
「うーみーにゃー♪ 暑い時は冷たい海にゃね♪ ……それにしても桜狐、水着それしかなかったにゃ」
猫柳 千佳(aa3177hero001)が汗を掻いているのは、暑さのせいだけではない。
「……水着、久しぶりに着た気がするのぉ……。む? これは下着ではなく水着の方じゃから問題なかろ……」
音無 桜狐(aa3177)が、サラシに褌というすごい格好で更衣室から出てきたからである。千佳は、ツーピースにパレオを巻いているから対比がすごかった。道行く観光客達がぽかんとしている。
「と、とりあえず泳ぐにゃ」
注目が痛くて、千佳は桜狐を海へ連れて行った。爽やかな潮風と冷たい海水は、一気に解放感を呼び覚ます。
「あ、あそこにクロードさんがいるにゃ」
水のかけっこをして遊んでいた千佳が、波打ち際のクロードに気づく。クロードは背筋をぴんと伸ばし、おもむろに口を開いた。
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ……」
「ちょっクロード! 何唱えてるの!?」
すかさず突っ込みを入れる霧人。
「こういうものを唱えれば、姿を現すのではないかと思いまして」
「出て来ないって! クトゥルフじゃないから! ここにルルイエは沈んでないから!」
出てきたらそれはそれで、この場にいる人達全員のなにがしかの値をチェックしなければならないところだ。
「なんだか大変そうにゃ」
「うむ……」
それはさておき。
せっかくなので霧人とクロードも誘って、浅いところで遊ぶことにした。波打ち際で波と追いかけっこをしたり、砂山を作ってみたり、遊び方はたくさんある。
「それはなんじゃ?」
桜狐が、クロードが日陰のパラソルに移動させたクーラーボックスに目を留めた。
「マグロでございます。おびき寄せる際の餌として使用いたします」
「なるほど」
「確か他にもマグロを持ってきた人が……あ、いたいた」
霧人の示した先には、玉子とオーロックスがいた。しゃがみ込んで何かを探している様子だ。
「何を探してるにゃ?」
「貝じゃないかな」
確か、『夏の海でしなければならないことベスト3』の第二位が、磯の潮だまりで食べられる貝を探すことと言っていた気がする。
「一位はなんじゃ?」
「巨大ダコを釣り上げることだそうでございます」
「……」
まさに今回の任務は、玉子にとって趣味と実益を兼ねた仕事のようだ。
『釣りは魚と人との知恵比べだが、相手が大ダコともなればもはや戦争だ。全身全霊で挑み、それでも尚、勝てるかどうかは五分と五分。それがタコとの戦いだ。興奮を抑えることなどできやしない』
と、熱く語っていた。
玉子とオーロックスは、マグロのクーラーボックスをゴムボートに積んで海へ出て行った。海の中に撒いて、タコをおびき寄せる準備をするようだ。
「大丈夫かにゃ?」
「ALブーツも装備してるらしいけど……」
打ち合わせでは、玉子達がタコを砂浜へ吹き飛ばし、その上で倒すことになっている。水中では敵に有利だからだ。
うまく行くだろうか。
●ふんぐるい
結局タコは出現しないまま、見回りは交替することになった。
「久しぶりに思いっきり泳げるわね! すごい楽しみだわ!」
「おいリブ、目的が従魔退治なの忘れんじゃねぇぞ」
ガラナ=スネイク(aa3292)の言葉に、リヴァイアサン(aa3292hero001)は満面の笑みで振り返る。
「わかってるわかってるって♪」
「……本当にわかってんのかよ……」
そのまま二人は海へ入っていったが、ガラナだけしばらくしてから砂浜で休憩していた。
「何よガラナ、もう疲れたの? 情けないわね!」
「……るっせぇよ、元海龍のお前と一緒にすんな。十回も全力の競泳に付き合えば十分だろうが」
「じゃあ、あたしもう少し泳いでるわねー♪」
「……マジで従魔忘れんてんじゃねぇだろうな……?」
ちょっと心配になるガラナであった。
「タコ……タコねぇ……。美味けりゃなんでもいいや」
「あっづぅ……泳がないとやってられなーい!」
タコを食べる気満々の一ノ瀬 春翔(aa3715)と、アリス・レッドクイーン(aa3715hero001)もそれなりに海水浴を楽しみつつ警備している。
「ホント……暑くなったな。夏ってのはこれだから苦手だぜ……」
「でもこうやってのんびーり出来るならそれはそれでいいとおもーう!」
傍目にはのんびりだが、実は囮も兼ねているので命がけだったりもする。
「ミズダコ一本釣り……ってな」
「餌がアリス達ってのがちょっと……うん」
命綱もつけているが、相手はサメすらも倒す八本足の猛者である。油断はできない。
「海じゃ! 裸のイケメンが仰山おるぞ! なんじゃアガサ、暑そうな格好をして」
カリオフィリア(aa3950hero001)はホルターネックビキニという大胆な格好だが、アガサ(aa3950)は鉄壁の守りを誇る姿である。
「これでもスイムウェアよ」
下にハーフパンツまではいている。炎天下のビーチではけっこう暑そうだ。
「タコ退治とな!? 緑色の粘液滴る石の都に眠る我が眷属が目覚めたのかえ? 星辰は正しい位置じゃったかのう」
「退治? 違うわよ。食べるのよ」
「食うとな!? わらわの仲間を…!」
「いい加減にしなさいよ、あなた召喚前の記憶曖昧じゃなくて? 何を知ったかぶっているの?」
ここにも一人、ふんぐるいな人がいたようである。
その時だった。
ビーチ中に、甲高いサイレンが響き渡った。
「タコが出たぞー!」
B班のメンバーが、叫びながら海へ向かっていた。すでに従魔のことは連絡してあったため、警備員の人達も協力してまず一般人の避難に当たった。
「む、タコさん出た見たいにゃね。桜狐、さくっと倒しちゃうにゃ♪」
「むぅ、もう少し堪能していたかったがしょうがないの……」
桜狐と千佳が、早速共鳴した。
「いあ! いあ! 我が同族たる偉大なる古き神々の一柱よ! 巨石のお家で夢見ながらわらわを待っておったのかえ?」
「うるさいのよタコ邪神」
盛り上がるカリオフィリア、ぼそりと突っ込むアガサ。しかし行動は迅速に、ALBセイレーンを装備した上で海へ向かって走った。
ガラナは急いでリヴァイアサンと合流したが、あわてすぎて水着の上が外れた彼女は大パニックだった。
「キャぁ!? あ! ちょ、ガラナくんな! 今はちょっと待って! くんなってばバカー!」
「うるせぇ! 知るか後にしろ!」
ちゃっかりガン見しつつ、ガラナは強制的に共鳴した。こちらもセイレーンで海上へ移動し、撒き餌のマグロをばらまく。
「夏のALBは爽快じゃの」
「もう使う事無いと思っていたけどね」
マグロが撒かれた辺りを中心に、カリオフィリアとアガサはタコを警戒する。避難活動を終えたメンバーも次々戦闘予定地の砂浜や波打ち際に集まってきたが、アガサは男性が苦手なのであまり近づかない。
「共鳴するぞ」
「わかってるわ」
二人は共鳴し、同時に『守るべき誓い』を発動させる。命綱をつけているので、タコが誘導されて絡みついてきたら、陸にいる仲間達に引っ張ってもらう手筈だ。
しばらくは、何もなかった。しかし、感じられた。
黒い影が、少しずつ少しずつ大きく海面に広がってくるのが。
「う、うわっ!」
陸で、誰かが声を上げた。
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ……!」
誰かが召喚呪文を唱えるのも聞こえた。
まるでそれに呼応するかのように、海面を割ってそれが出現する。
七メートル前後、という前情報はあった。しかし数字を聞くのと眼前で目の当たりにするのとでは、脅威が違う。
二本の触腕が、もっとも近くにいたアガサをしっかりと捉えた。
「吸盤が吸いついてくるわ…! 思ったより不快ね」
しかしこれも作戦の内。こちらに分がある陸上戦に持ち込むには、ここでタコを捕らえて引っ張るしかないのだ。触腕を切って逃げられないよう、柔らかい頭部に力一杯しがみつく。
『そんな事よりアガサよ、骨が折れるぞ』
頭の中で聞こえる声には、極力冷静に答えた。
「これが仕事よ……問題ないわ」
とは言っても、痛いものは痛い。陸地はまだかと思っていると、目の端を何かが横切って行った。
「こっちだ! 餌もあるぞ!」
霧人がマグロを投げたのだ。彼も共鳴して『守るべき誓い』をつかい、第二の囮となっている。それが功を奏したのか、タコはアガサを捕まえたままゆっくりと移動を始めた。
「女郎蜘蛛!」
共鳴した春翔がスキルを発動させ、さらにタコを捕縛する。そのまま牽引し、砂浜がどんどん近づいてきた。すでに他のメンバーも共鳴し、戦闘準備は整っている。
「とうとうこのときが来たな!」
タコの背面に玉子が回り込んだのは、かなり砂浜が近づいた時だった。
「なるべく傷をつけないように! 食感に関わるから!」
といいつつ、しっかりストレートブロウの構えである。
「ブッ飛べオラぁ!」
こちらもトップギア使用の上で、ストレートブロウ発動のガラナ。
ほぼ同時、一点集中の必殺攻撃。
春翔は間一髪で間合いを取っていたが、絡みつかれたままのアガサはタコもろとも上空へ吹き飛ばされた。
「危ない!」
霧人が、ネビロスの繰糸を振るう。標的を容赦なく切り裂く金属製の糸は、砂浜に激突するよりも早くアガサを拘束していたタコの腕を切り払う。自由を取り戻したアガサは、中空で身体をひねりうまく受け身を取って着地した。
ミズダコは、その巨大さと身体の柔らかさ故に、陸上では自重を支えることができない。ぐにゃりと広がってもぞもぞ動いている。これで動きの自由さは封じたことになるが、その脅威である顎の強さと吸盤のある足の締め付けが脅威であることに変わりはない。
『近寄れないなら猫ロケットパンチを撃つにゃー♪』
「……ぶよぶよしてて殴って効果があるかわからぬがこれしか出来ぬしのぉ……」
触手を警戒し、桜狐は中近距離からナックルを飛ばして攻撃している。触手の射程範囲外で、タコの攻撃は届かない。
「後は煮るなり焼くなりってかぁ? 覚悟しろよタコ公……!」
海上から帰還したガラナも攻撃に加わり、スキル多用の上容赦なくぼこぼこに殴りまくる。
春翔は、足への攻撃を優先させている。
「はっ!」
スキルで動きを止めたあと、すかさず根元から一本切断する。砂浜に投げ出された足はしばらくうねうねと動いていたが、やがて大人しくなった。
「一丁上がり!」
攻撃を封じる意味もあるが、一番の理由はあとの料理で使いやすいようにである。玉子がこっそり足を回収していた。
その時である。
ぬるぬると蠢いていたタコが、突然触腕を大きく振るった。鞭のようにしなり、叩きつけられた攻撃を間一髪で避けたのは霧人だ。
「危ない……!」
「このタコが!」
ガラナがすかさずストレートブロウを放つ。勢いの乗った攻撃は、触腕を引きちぎって吹き飛ばした。
イグニスを構えたアガサが、タコの頭部目がけて火炎を放射する。タコにもし悲鳴を上げることができたなら、恐らく絶叫していたであろう。火炎を纏って悶絶する姿が、悲痛ですらあった。
「早く片をつけましょう」
「そうだな」
春翔が、神斬を構え直す。二メートルを超える大剣に、ライヴスが込められていく。紅の刀身が、陽光を受けて気高く煌めいた。
「はあっ!」
渾身の斬撃が、深海の猛者目がけて飛んでいく。
鈍い破壊音、轟々と舞い上がる砂つぶて。
そして。
戦いは終了した。
●タコ三昧
玉子の包丁が、華麗に舞う。綺麗に洗われた大ダコの身が、あっという間に解体されていく。
「刺身で食べても良いが、今回は串を打ち焼いて食べようと思う」
これが本当のたこ焼き。しかも豪快。浜ではすでにたき火の準備も万端である。
「大きいタコだし調理のしがいがありそうにゃね? 色々と作ってみるにゃー?」
千佳も張り切ってタコを捌いている。ミズダコの頭は柔らかいので、刺身として食べてもとてもおいしい。しかし足の大きさを考えると、一本でもいったい何人分のたこ焼きになることやら。
「料理は千佳に任せるのじゃ……」
桜狐は、食べる専門に徹することにしていた。
「アレどう考えてもお前の自業自得だろ」
共鳴を解除した後リヴァイアサンによって頬に紅葉を作られたガラナは、憮然としながらもせっせと手を動かしていた。海の男なので、海洋生物の調理には自信がある。というか、板前級の腕である。
「うっさい! ガラナ、ガン見してたじゃないの!」
「見なきゃ男じゃねぇ」
「威張んな!」
言い合いながらも、料理の手は休めない二人。
「タコはまず塩茹でにしてスライス、オリーブ油とパプリカで味をつければ酒のつまみに最適だ」
「……アレ? どっかで聞いたような……」
「受け売りだしな」
シンプルかつヘルシーで、他の人の料理と一緒に食べても相性抜群だろう。新鮮な素材は、その持ち味を生かすことが最高の調理法である。
「……やっぱり食べるんですね、それ」
「食べて大丈夫なのでしょうか?」
霧人とクロードは、もっぱら下ごしらえのお手伝いだ。量がものすごいため、すでにもうお腹がいっぱいになった気さえする。
「タコの味わい方を教えてあげるわ、タコ墨はイカ墨より美味だけど、とれる量が少なくて取り出すのも難しいから出回らないのよ」
蘊蓄を語るアガサだが、料理には参加せずできあがるのを眺めている。戦闘で少し疲れてもいた。
「やめるのじゃ……! 恐ろしい……煮えたオリーブ油の匂いがするぞ」
カリオフィリアはがたがた震えている。
「食うのも弔いという事なのじゃろうかの。アガサが死ななくてよかったぞ」
へたをすると溺死者が出る事故すら起こりうる最強のタコだが、食せるのであればそれを味わうこともまた供養になるのかもしれない。
結局エージェント達だけでは食べきれないので、安全を確認して戻ってきた海の家の人達や、海水浴客達に配ることにした。おかげで、ODビーチはちょっとしたタコ祭りの様相を呈してきた。
「うまい!」
玉子は豪快に串焼きのタコにかぶりつきつつ、ビールを飲み干す。オーロックスももちろんお相伴しているが、時折さりげなく立ち上がって追加を人々に配膳する気配りも忘れない。
ちなみに『夏の海でしなければならないことベスト3』栄光の第一位が、『巨大ダコを釣り上げる!』。
「限りなく正解に近い夏の過ごし方と言えるだろう」
玉子はご満悦だった。
「はい、桜狐、あーんして食べさせてあげるにゃ♪」
「……む、わしは一人で食べられるのじゃがの……」
かいがいしい千佳に、少し照れる桜狐。ほかほかのたこ焼きも、新鮮に輝くたこ刺しも、盛りつけも美しくうまくできた。捌いたばかりのタコの身は弾力があり、たこ焼きを噛む度にじゅわじゅわとうまみの汁が口の中に広がる。刺身は歯ごたえがありながらもほどよく柔らかく、頭の部分は足とは違ったおいしさがあった。
お裾分けしてもらったそれらと、自分で作った料理を肴に、ガラナは酒を飲む。が、それ以上に喫煙量が多い。そこそこ吸う程度の春翔と一緒に、喫煙者用テーブルにいる。
「プハーッ! お疲れさーん」
調理を手伝いながらすでにビールを飲んでいた春翔は、出てくる料理を次々食べてご機嫌だ。
「ビーチで美味しいご飯……贅沢だねぇ」
アリスは、少し離れたところのテーブルでまったりと料理を楽しんでいた。タコ串がおいしい。戦闘に加えて海水浴もしたので、すっかり空腹だったのだ。まだまだ食べられる。
「ちょっと海の方歩くか?」
だがしばらくして、春翔が誘いに来たので小休止することにする。
「折角の海だぜ? 遊ばなきゃ損だろ」
「食べて遊んでまた食べる……贅沢だねぇ」
酒が入っているので春翔は海に入れないが、散歩くらいなら腹ごなしにちょうどいい。
「うん……おいしい」
「おいしいですな……」
もとは従魔なので若干尻込みしていた霧人とクロードも、一口食べた瞬間の味わいに負けていた。料理担当者達の腕もよかったのだろう、巨大さに圧倒されたことも戦闘の記憶も、この味を前にしては無力だった。
アガサとカリオフィリアも、静かに料理を堪能している。日が長くない季節だが、そろそろ夕暮れ時で日射しも弱まり、風が気持ちいい。
「何、肋骨が痛いとな? それはいかん、ほら、しっかり食べて滋養をつけるのじゃ」
「そんなにいっぺんに出されても食べきれないわ」
アガサは呆れつつも、ちゃんと勧められたものは食べている。
安全のことも考えて、完全に日が落ちる前にタコ祭りは終了となった。もともとODビーチの海の家は、夜間営業はなしである。
たき火の始末、ゴミの回収及び分別などは、同じタコを食べた人々全員で行った。おかげでかなり迅速に作業が進む。
「少し食材が残ったから、これは帰ってからいろいろ研究してみよう」
玉子が上機嫌なのは、ビールのせいだけではないだろう。オーロックス共々、意気揚々と片付けをしている。
「楽しかったにゃー♪」
「……美味だったのぅ……」
満腹の千佳と桜狐も、楽しいひとときの余韻に浸っている。
「あ、こっちにも紙皿が」
「このゴミ袋空いてんぞ」
「ありがとう存じます」
「そろそろ新しいの持ってくるね」
霧人、ガラナ、クロード、リヴァイアサンは、ゴミの分別担当だ。なかなかチームワークがいい。
アガサとカリオフィリアは、一つ作業終えたところだった。
「帰ったらちゃんとシャワーを浴びたいわ」
「うむ。海の家のシャワーは水の勢いが微妙じゃったな」
よくあることである。
「ひと夏の思い出、ってな」
「たのしかったー!」
きちんとゴミを所定の場所に運んで、春翔とアリスは笑みを交わした。
そろそろ、空は暗くなり始めている。だが明日になればまた日は昇り、人々が楽しみを求めてこの海へ集うのだ。
夏は、まだまだこれからである。始まったばかりなのだから。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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