本部

花嫁探しの教会

東川 善通

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/14 00:17

掲示板

オープニング

●悪夢の結婚式
 ジューンブライド。6月の結婚、それは花嫁になることを夢見る女性たちが一度は思い描く理想の結婚式。
 そして、ここにも一組。圧倒的なスケールを誇る長崎の教会で今、まさに結婚式を執り行っている恋人たちがいた。
「健やかなる時も病める時もーー」
 神父によって、誓いの言葉が読み上げられ、新郎新婦ともに未来を思い浮かべ、誓う。
 式も佳境に入り、無事に終わりを迎えられるはずだった。誓いのキスの際、新婦の目の前で新郎が鉱石に貫かれなければ……。
 新郎は何が起こったかわからないまま絶命し、場は沈黙とかした。
「うむ、見た目は良いな」
 新郎の奥にいたのは英国紳士を思わせる男。その男の背には青く輝く鉱石の翼。その翼と同じものが新郎の体を貫いていた。男はそんな新郎を一瞥することなく、宙から新婦をしげしげと観察したかと思うと、そう告げる。
「いやぁあああああ!!」
 彼女は脳の情報処理が追いつくと同時に金切り声を上げると、男は煩わしそうに眉を顰める。
「やれ、これもまた不合格だな」
 そう男が呟くや否や、彼女の純白のドレスは深紅のドレスに変貌した。それを見ていた参列者たちは次は我が身かと慄き、恐怖にかられる体を無理矢理動かし、一人また一人と出口を目指す。
「実に見苦しい」
 出入り口に殺到する人を見下しそう告げると翼を震わせた。カラカラカラと音を立てたそれに人々は恐怖を増幅させる。出口に一番遠い祭壇の傍、腰を抜かした神父が恐怖に顔を引きつらせながら口にした。
「……か、神への冒涜だ」
「神? そのようなものは知らぬな」

●悪魔な教会
 ビデオに映されていた結婚式は華やかなものではなかった。むしろ、悪夢のようなもので、最後にその場に立っていたのは翼をもつ男一人だった。
 見ただけでもわかる。その男が人ではないことは。
 その男の名は「アール」という。これはビデオの中で彼が名乗っていた名である。
「見ていただいたように、愚神アールは結婚式会場にいたものを皆殺しにしております。なお、被害はこの教会だけであり、他の教会には現れてない様子。そのことから潜伏先はここである可能性が考えられます」
 また、数匹ほど翼を持つ猫の姿も映っており、これらはアールの従魔だと思われるとオペレーターの女性は続けた。涼やかな口調に対し、その目には怒りを滲ませている。
 それもそのはずである。愚神が出現せず、上手くことが進めば、彼女もそこで結婚式を挙げるはずだったのだから。「やっと、彼が腰をあげてくれたのよ」と嬉しそうに語った数日後に結婚式が取り止めになった上に彼氏から「まだ、俺たちは結婚するなって神様が言ってるんだろ」なんて言われてしまったのだから。彼女からしたら今回の件は堪ったもんじゃないのだろう。
 ただ、今にも暴れたいほどの怒りを抑え、オペレーターとしての役割を全うする。
「しかし、どこにアールとその従魔が潜んでいるかわかりません。そのため、被害を増やさないためにここで行われる予定だった結婚式は全て中止されました。当然のことではありますが、至急探し出し、討伐お願いします」
 彼女はそう言い、君たちにアールの資料を渡し、部屋を後にした。「漸く、結婚式ができると思ったのに」と最後に怒りを滲ませた声でそう呟いて。

解説

 愚神と従魔の討伐。

【】はPCの知ることのできない情報

●デクリオ級愚神「アール」
 自らを伯爵と名乗る英国紳士風な中年の男性。背には青く輝く鉱石の翼を、手には杖を持つ。ただし、浮遊しているようだが、この翼で飛んでいるわけではない模様。また、翼は尖った羽の集合体である。何度となく、彼の捜索が行われたが、発見には至らなかったと報告書にも上がっている。
 【防御力、物攻は高い。ただし、移動力などは低い】

・戦闘形態
 翼での攻撃と羽根での攻撃。自由に翼は動かせるようで、それは剣にも盾にもなりうる。羽根の攻撃は翼から羽を飛ばすものになる。抜けたところにはすぐに羽が生え、元に戻る。
 【近戦は杖と翼を使っての攻撃となる。杖の攻撃はあまり高くない。杖、翼、どちらか一方を使っているときは片方は使用できない。
 攻撃範囲(スクエア):翼1~2、羽根1~5、杖1】

●ミレース級従魔「ネロ」
 アールと同様の翼を持つ猫型従魔。アール同様翼での攻撃と引っ掻き攻撃が主。ただし、アールとは違い、羽根を飛ばすことはできない。

●教会
 長崎にある教会。圧倒的なスケールを誇るため、女性に人気があったが現在は立ち入り禁止となっている。入り口から祭壇までは20m。横は16m。天井までの高さは10mとなっている。
 教会の持ち主はできるだけ、壊さないようにとのこと。

リプレイ

●結婚式準備
 オペレーターが去ったのち、エージェントたちはさて、如何に愚神をおびき出そうかと会議するとこになった。
「幾ら探しても見つからぬとは面妖でござるな?」
「まぁ、愚神だし、そんな事もあるんじゃないか?」
 どういうことだと首を傾げる宍影(aa1166hero001)に軽く骸 麟(aa1166)が答える。それに全くと言わんばかりに宍影は溜息を落とした。
「……はあ、それでよく骸忍術の後裔を名乗れるでござるな!」
「え? ええ?」
「探せぬものを探すのが本来の忍びの途、それをそんな事もあんじゃない? あーし、たるいしーなどと! 麟殿、忍びの風上にも置けませぬぞ」
「そ、そこまで言ってねえ! つか、誰だよ? それ」
 やれやれと言う宍影に麟は彼に突っかかっていく。そんな麟を大家に持つエステル バルヴィノヴァ(aa1165)と泥眼(aa1165hero001)は愚神に対して怒りを滲ませていた。
「神聖な結婚式をこの様な形で汚すなど許せません……この愚神の企みは絶対に阻止です!」
「エステル……そうね、絶対に許せないわね。でも、どうしてこの愚神はこんな事をするのかしら?」
「……そうですね、この様に女性の権利を踏みにじるものにはしっかりと問い詰めて反省して貰ってからリンボに戻って貰うべきです」
「……愚神の行う事に理由なんて求めても仕方ないかも知れないけど、彼らがどうしてそうなのかは常に明らかにして行かないと彼らを克服する事なんて出来ないものね」
 同じ女として、許せないと思いつつ、何故このようなことを行ったのかと彼女たちは問い詰めようと心に誓う。また彼女たちと同様に愚神の行動に疑問を抱くものがいた。石井 菊次郎(aa0866)とテミス(aa0866hero001)である。
「教会に花嫁を探しにやって来た愚神と言う訳ですか? 花嫁の略奪はトリックスターの役割ですがこの愚神は何を演じようとしているのでしょう?」
「……略奪と言うには些か血生臭いな。道化は大概捕えられて煮物となるのがオチだ。此奴にも相応しい鍋を用意してやらねばな」
「……それもこの瞳の話を聞いてからですが」
 己の目をこのようにした愚神と繋がっているのかもしれない。いや、そうでなかったとしても、何かを知っているかもしれない。そう、菊次郎は感じた。
「この教会有名よね……良いなあ。あたしもここでしたいな」
「ふむ、この宗教はこの世界の反対側で発生したらしいが……この地にもこの様な大きな聖堂を残すとはかなりの生命力を持った教えなのだな」
「そうね、ここは多くの殉教者と原爆の被害者を出した場所でもあるの……その意味で日本のキリスト教の生命力の象徴みたいな地ではあるわね」
 一方で資料として渡された教会のパンフレットを眺め、蝶埜 月世(aa1384)がうっとりとそう零せば、隣で同様にパンフレットを覗いていたアイザック メイフィールド(aa1384hero001)は彼女とは違い、宗教の方へ興味を抱いたようだ。そんな彼に「そっちの展開は要らないんだけど……」と思いつつも、長崎という地がどのような地なのか彼に説いた。

「役どころはこんな感じでしょうか」
 須河 真里亞(aa3167)がキュッキュとペンを走らせ、ホワイトボードに書き込む。そのホワイトボードに『おとり大作戦!』とでかでかと書かれ、その下に新郎新婦、神父、他というように役が書かれている。愚神を探しても見つからなかったというのであれば、もうここはおびき出すしかないというのがエージェント全員の見解だ。
「ほお……やはり余の魅力を考えるとこの役しか収まらぬという事だな」
「リンクして普通の男になる奴が他に見当たらないだけだ……だから、こいつが調子づく役目は嫌なんだよ」
「まあ、そう言うな、報告によれば愚神の第一撃を受けかねない危険な役目だ。ふむ、実力を持っても余しかないでは無いか?」
「分かった…俺たち以外で出来る奴は居ない、それはそうだ。だからそのどや顔を早く仕舞え。只でさえ鬱陶しい季節なんだからな」
 新郎のところに自分たちの名前が書き込まれたことにマリオン(aa1168hero001)は至極当然のことだと胸を張った。それにただの消去法だろと頭を押えるのは彼の相棒である雁間 恭一(aa1168)である。しかし、マリオンのいうことにも一理ある。それは資料を拝見する限り、愚神の最初の一撃は新郎。それは間違いのないこと。故に新郎をする者はその一撃を確実に受けることになるのだ。
「俺がやってもいいんですが、何分、狼男ですからねぇ」
 流石にそれでは愚神も怪しむだろうと頬を掻くのは真里亞の相方である愛宕 敏成(aa3167hero001)である。
「いや、そもそも、美人な蝶埜君におっさんが新郎ってかわいそすぎ」
「おっさんって、いや、おっさんだけどな」
 新婦の欄には月世の名前が書き込まれ、それを見た真里亞は敏成の言葉にはぁと溜息を落とす。それに反論しようと口を開くが反論には至らなかった。
 尚、神父役には菊次郎が当てられ、その他、エステルと真里亞たちは参列者役となった。麟はすぐに行動できるように参列者としてはなく、祭壇の傍に潜むことを表明する。それでは流石に参列者が少ないのでは、ともなり、他エージェントに参列者としてとも考えたが、被害を最小にしなければならないこともあり、大人数になれば、動きが制限される。
「それに室内戦だ。人が少ない方が敵の動きが見えるだろう」
 特に猫型の従魔は映像からして小さめ。それが大勢の中に紛れると厄介だというのはマリオンである。それには全員が頷いた。
「まぁ、一般的には大勢でやるかもしれないけど、カップルだけとかっていう結婚式もあるのよね」
「それに愚神がそれを理解しているかどうかなんてわかりませんから、その方向でいきましょう」
 月世の言葉にエステルが頷く。そして、女性陣を中心に式の流れ、動きが構築されていった。
「なんで、女っつーのはこういうのが好きなんだ?」
「オレにはさっぱりだぞ?」
「まぁ、麟殿は麟殿でござるからな」
「どういう意味だ」
 これがこうで、あれがそうでなどと話し合う女性陣を見て、頭を掻く恭一。それに話に入らず、菊次郎と動きの打ち合わせをしていた麟が首を傾げれば、それはしょうがないとばかりに宍影が口を開く。それにやはり喰いつくのは麟であった。
「今回の愚神は当たりか、はずれか」
 はずれだったとしても、ヒントさえあればと小さく菊次郎は呟き、テミスはそれを黙って聞いていた。

●結婚式当日
 教会へ赴く前に真里亞はかのオペレーターを尋ねていた。
「んん? 結婚式ってどういう事だぎゃー? ちょっと、真里亞ちんに話して見ないカニカニ?」
「おい、真里亞プライベートな事だぞ? それにそのしゃべり方色々崩壊してるからやめろ」
「えー?だって結婚式だよ? 興味……心配するよね? ね?」
「今、言い間違えしたな? したよな? ……ちょっと失礼しました……早く行くぞ!」
 朝からどこに行くかと思えばとブツブツ呟きながら、敏成は真里亞をオペレーターから引き離す。
「今日、頑張って退治してきますから。結婚諦めないでくださいね」
 全員集合してるからと敏成はオペレーターに一礼し、真里亞は大きな声でそう言って、敏成を扇動し始めた。その姿にオペレーターは小さく「ありがとう」と呟いたが、それは風に消えた。

 新郎の控室では恭一と共鳴したマリオンが服を確認していた。
「ふむ、流石余だな」
『いや、こういうもんは誰にだって似合うもんだろ』
「わかっておらんな。見よ、服が余に着てもらって喜んでいるだろう」
『……あっそ』
 全身鏡の前でどや顔を披露するマリオンに反論する気を失った恭一は黙った。そして、そこに純白のドレスに身を包み、マリオン同様、アイザックと共鳴した月世が姿を現す。
「準備はいいようね」
「ほう、この赤毛の女中々では無いか? 愚神を屠った後ハネムーンに出かけるのも一興だな」
『……問題は起こすなよ』
 上から下までじっくりとみたマリオンがそんな感想を零せば、中で恭一が溜息を零した。一方、月世もマリオンの姿を見て、「これで、黒髪だったら」と溜息を零していた。

 同時刻、式場ではエージェント達がバタバタと動きまわっていた。その中で、神父役の菊次郎は新郎新婦と同様にテミスと共鳴を交わし、ラジエルの書を祭壇の上に広げ、如何にもこれから式が始まるという雰囲気を醸し出す。しかし、そうする一方で集中力を高め、些細な音ですら、反応できるように気を張っていた。
「鉱物の羽は動けば、音がしていましたね」
『ほんの微かな音だったがな』
「えぇ、ですが、無音ではありませんから」
 音を拾うことは可能と菊次郎は続けた。
 実は式の段取りが粗方決まったあと、何度も全員で動画を見た。その際、麟が新郎が貫かれる少し前に微かな音を聞き取っていた。そこから、その音を頼りにすれば、タイミングを計ることができるのではないか。そう全員の考えが一致すると、その音を頭に叩き込んだのだ。
「何はともあれ、話せるタイミングがあればよいのですが」
『どう、興味を引くかだな』
 本当に花嫁を探しているのであれば、月世に興味を、もしくは参列者として参加しているエステル達でも構わない。興味さえ持ってもらえさえすれば、話すことなど容易に達成できそうだ。しかし、そうでなかった場合は、容易にはいかなない可能性が高い。
「ザッとだが、教会内を探ってみた。だが、どこにも愚神の姿は見られなかった」
「そうですか。そうなるとこの場に既にいる可能性もあります。そうそう、祭壇の内へ」
「おう」
 宍影と共鳴し、忍び姿になった麟は忍びであることを生かし、教会内をくまなく探った。しかし、その成果は全くなかったという。そう、警戒してかスキル潜伏を発動させて、菊次郎へ報告した。それに菊次郎は本を確認するふりをしつつ、自分の立つ祭壇の窪みへ彼女を誘導する。麟はそれに頷くと、祭壇の内へ身を隠した。そこで、いつでも放てるようネビロスの操糸を幻想蝶より取り出し、構える。
 その間にも準備は整ったようで、手伝ってくれたエージェントたちは彼らに頑張ってくれとばかりにこくりと頷き、教会より立ち去った。
 そして、漸く式場入りする四人の参列者。彼女たちは両サイドに分かれることなく、左サイドに仲良く腰を下ろした。それはいつでも攻撃モーションに移れるようにするための準備だった。
「いよいよね」
「えぇ、そうですね。失敗は許されません」
 膝の上で拳を握ったエステルに泥眼は大丈夫、そういうかのようにそっとその手を包み込んだ。
「まだかな。そろそろ始まってもいいよね」
「こら、真里亞、大人しく待て」
「大人しくできるわけないでしょ。だって、美女と美男の花嫁花婿姿だよ」
 おとり作戦だというのに如何にも楽しみにしてますと言わんばかりの真里亞。張り詰めた空気の中に彼女のような存在がいてくれたおかげか微かに鉱石がこすれるような音が六人の耳へ届いた。
「動きだしましたね」
「えぇ、ここからは油断できないわ」
「本当に擦れる音がするもんだな」
「うーん、結構近い?」
 エステルと泥眼は気合を入れ直し、敏成と真里亞は音の発生源を辿るように耳を澄ませた。
「細々とした音も聞こえるようになったでござるな」
「おそらく、猫のような従魔も合わせて動き出しているのでしょう」
 擦れるような音の他にカツカツと何かがぶつかる音も合わせて聞こえてくるようになり、麟の口を借りて宍影が言葉に出せば、同様に聞こえていたのだろう菊次郎が猫型従魔ネロも動いているのだろうと推測を立てた。
 そして、そんな音がぴたりと止んだその時、式場の正面扉が開かれた。
 一歩一歩、足を進める新郎新婦。本来であれば、新郎は祭壇の前で待ち、新婦は父親に連れられて歩くはずだった。しかし、今回は所詮おとり。更に言ってしまえば、そういうこと自体知らないであろう愚神が相手なのだ。多少の違いには気づかないだろうと踏んでの判断だった。
「――この仕事が終わったら、余とハネムーンに行かんか」
 ただ、そんなことを知ったこっちゃないとばかりに祭壇への身廊でマリオンは真っ直ぐ正面を向きつつも、小声で月世を誘っていた。しかし、月世は我関せずを貫く。マリオンの中では恭一が「このバカが」と呟いていたが、それはマリオンに届かなかった。
 そうして、祭壇へ到着するとなんちゃって結婚式が始まった。式の間、式場には菊次郎の声だけが響いていた。そして、式は動画と同じ誓いのキスへと差し掛かる。
「それでは、誓いのキスを」
 菊次郎はそう言うと同時に祭壇に置いていたラジエルの書を手に持ち、その下では麟がネビロスの操糸を張る。
 マリオンはリハーサルで習った通り、月世に向き合い、彼女の顔を覆うベールをまくり上げた。その瞬間、微かだが今までよりも一番大きく擦れる音が全員の耳に届く。
「余の口づけがもらえるとは、よほど貴殿は運がいい」
 そういって、マリオンが月世に顔を近づけた瞬間、何かが空気を切り裂く音が式場に響く。それにすぐに対応したのは菊次郎だった。銀の魔弾を放ち、何かの軌道をマリオンからそらす。何かはドスッと鈍い音を立て、マリオンの脇に突き刺さった。
「ふむ、運が良い。いや、違うな。はじめから知っていたか」
 全員が声のした方を見上げれば、そこには背に青く輝く鉱石の翼を持ち、英国紳士を象る愚神アールがそこにいた。彼はマリオンのことを運が良いというもののすぐにその場の空気を察した。
「ふ、まったく無粋な奴だ……やはり現れたか? 確かに女に不足しそうな面相だが、少しは恥と言うものを知ったらどうだ?」
『それをお前が言うか?』
 あと少しだったと小さく呟き、武装を纏ったマリオンに恭一は引き攣った笑みを浮かべた。
「本日この様な形でお招きしたのは予てより御身が花嫁を求められているとの話をお聞きしての事。我らが同胞より御身の意を射止めんとする者共を集めて参りました。宜しければ品定めなど……」
 そんな二人の一方で菊次郎は今かとラジエルの書を閉じ、両手を広げ、口上を述べる。それにアールは面白いと目を細めた。
「確かに見目も良い。声も上げぬ」
 一番良いかもしれんなと言いつつ、アールは菊次郎へと目を向ける。
「面白いなれば、貴様の目が面白いな。それは、人の目ではあるまい」
 私と同じ匂いがするとアールは自分の目にそれを映し、笑みを浮かべる。まさか、自分の目に興味を抱かれるとは思っていなかった菊次郎だが、すぐに「では」と声をあげた。
「一つ質問をお許しください。このような瞳を持つものをご存知ですか?」
「否、知らぬな。同族に興味などないに等しい」
「そうですか、それは残念です……ただ、乙女らの純情を無碍なくすると御身に取って良く無い事が起こりそうですが」
 そういうが早いか菊次郎はアールから間合いを取り、再びラジエルの書を構える。その様子にアールは実に愉快とばかりにクツクツと笑い声をあげた。
「アールさんでしたか? あなたに聞きたい事があります。あなたはトロフィーワイフと言う言葉を知っていますか? アメリカの成金などが見せびらかし用の女性を次々と使い捨ての様に妻にしてゆくと言うものです。貴方は上品そうに振る舞っていますが行っている事はその成金と同じなのです。人間の成金と同じ品性と思われて恥ずかしくは無いのですか?!」
「ふむ、面白いことをいう。されど、それはいささか不愉快な話だな。貴様ら、下等な輩と同様に扱われるのはな。第一、貴様らはこの私に目を掛けてもらえて喜ぶべきなのだ」
 わかるか、小娘とエステルの言葉に返すアール。それにエステルは眉を顰め、その言葉を吐き捨てた。
「……最悪です。反省の欠片も見られません……こんな女性の敵は殲滅しか無いです」
『……確かに彼の心には無明が憑りついているわね。仕方ないわ』
 エステルの言葉に泥眼も同意を返す。そして、蜻蛉切を構える彼女にアールは「故に下等。されど面白し」と言葉を零した。
「良い余興だ」
 そういうと、彼の周りに数匹の猫型従魔ネロが姿を現した。ネロたちはカラカラと翼を鳴らしたかと思うと近くにいた真里亞たちに飛びかかった。
「ぐららららら! 今日は気分が良いから特別に真っ二つにしてやる!」
『いつもは三枚だよ!』
 真里亞と共鳴し、獣人の姿になった敏成は威嚇とばかりにライオンハートを構え、ネロの攻撃を流す。それが開始とばかりに月世、マリオン、菊次郎もアールと対峙する。
「余に一撃を浴びせようとは愚行であったと思い知らせてやろう」
 礼装剣・蒼華を構えたマリオンがアールへ斬りかかる。それにアールは自身の翼でガードをしようとするが、動かない。
「ったく、すっかりタイミングを失っちまったじゃねぇか。ま、骸闇糸操法ってな!」
 潜伏を使用し、麟はネビロスの操糸をアールが菊次郎やエステルに興味を持っている間に翼に絡めていた。そのため、翼が使えず、マリオンの攻撃を見事に受けてしまう。しかし、「ぐぅっ」と唸るものの大きなダメージではなかったようでアールは翼から羽を落とすと、ネビロスの操糸を解いてしまった。
「やれやれ、やってくれるね。されど、無駄というもの」
 アールは翼をカラカラと震わせ、全員に向けて鉱石の羽を飛ばした。鋭く尖った羽は木の椅子など容易く貫いて見せた。それもあって、祭壇に隠れ、攻撃を躱そうとした菊次郎の腕を羽が抉る。
「羽は厄介ですね」
「余があの羽を斬って落としてやろうぞ」
「ならば、俺たちがアールの目を引きつけますよ」
「しかたがないわね。やるわよ」
 多少、傷を負いつつもまずは翼を斬りおとすということにマリオン、菊次郎、月世で決める。麟にもそれを根回しし、マリオンがアールの翼を狙えるようアールを誘導に注力する。

「小さいから、これはこれで厄介ですね」
「ちょこまかちょこまかと」
エステルと敏成はネロ六体と追いかけっこをしていた。ネロの体長があまりにも小さいため、大振りの攻撃は勿論、かなり集中しなければ、当てるのも難しかった。
「こっちも厄介ですが、あちらもあちらで厄介そうですね」
 アールの羽の雨に苦戦をする麟、菊次郎、月世の姿を目の端にとらえつつ、エステルはライヴスフィールドを展開した。
「これで、少しは楽になるのでは?」
「ぐららら、いいな! そんじゃ、次は俺の攻撃を喰らいな!」
 敏成は近くにいたネロにライヴスショットお見舞いする。すると、その余波で他五体にもダメージを与えることに成功した。
「すみませんが、あちらの援護に行ってきます」
「おう、向こうの方がやっぱり厄介みたいだからな。こっちは任せろ」
 敏成はエステルをアールの方へ送り、ネロと一人対峙した。

 敏成がネロと格闘する中、月世たちもアールとの格闘を繰り広げていた。月世と菊次郎が引きつけ、マリオンが背後から斬りかかる作戦は見事、成功し、アールの背からは片翼が教会の地面に落ちていた。
「言っておくけど、これだけでは許されないわよ」
 そういうと月世はドラゴンスレイヤーでアールにへヴィアタックを与える。それに続くように菊次郎がネロがアールの傍に来た瞬間を狙い、ゴーストウィンドを放つ。
「言ったでしょう、良く無い事が起こりそうだと」
 風に包まれ、呻くアールに冷たく菊次郎は言葉をかけた。しかし、それはアールには届いていない。
「これで終いぞ」
 マリオンは礼装剣・蒼華にライヴスを纏わせ、アールの体を一撃を与えた。その一撃は、最後の一撃だったようで、アールは鉱石の翼と共に教会の地面にガシャンと音を立てて、落下した。
 それと同時に敏成の方もネロを何とか倒し終わったようで、狼の周りに猫の死体が転がるという異様な光景となっていた。

●幸せな結婚式
 教会の被害は結構なものだった。しかし、アールやネロの翼であった鉱物は珍しいものだったのか、高値で売買がなされ、プラマイ0というよりも若干プラスな状態となった。
 そして、綺麗になった教会に再びエージェントたちは集まっていた。今回は討伐ではなく、ただの参列者として。彼らの目の前で式を行うのはかのオペレーターだった。
 あの日、終わった後に真里亞に「こんなに早く解決したのは神様の思し召しだよね」と言われ、オペレーターがそれを彼氏に行ったら、「それもそうだな」と頬を掻いて、再び結婚式に向けて準備をしたのだ。
 そうして、彼女たちはエージェントたちの活躍のおかげで幸せな結婚式をすることができた。
 そして、これから、新しい生活へ一歩を踏み出すのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168

重体一覧

参加者

  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • 憧れの先輩
    須河 真里亞aa3167
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 月の軌跡を探求せし者
    愛宕 敏成aa3167hero001
    英雄|47才|男性|ブレ
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