本部

【SE】存在しないでくれ

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/03 21:58

掲示板

オープニング

●捕捉
 その書類を『上司』に見せられた時、眼帯姿の愚神は衝動に身を任せ、嗤っていた。
「ここにいやがったか。これで殺せる……!」
 そして人の形をした憎悪が動き出す。

●経緯
 かつて病弱な身体を持つ少女がいた。
 クリエイティヴイヤーで発達した医療技術でも快復できない彼女は強い薬を投与され、機械に体を連結して命を繋いでいた。
 そんな彼女は医師になる夢を持っていた。
「いつか、なれるさ」
 病室の『妹』がいつも望んでいる医学関係の本を渡しながら、『兄』は妹を励ましていた。
「それはどうかしら。こう見えて、私は私なりに世界が分かっているつもりだから」
 本を受け取り、兄に向けられた大人びた少女の笑みが、兄の心を締め付けた。
 彼女も『兄』も知っている。
 彼女は医師になる事はできない。
 そして病が彼女にいつもの苦痛を贈り、周囲が慌ただしくなる。
 ――自分達に出来る事は何もない。
 苦悶する少女の治療にあたる医師達が、そう家族に告げた。
 もっと彼女に体力があれば。もっと彼女に……。
 そんな医師達の言葉を聞くたびに、『兄』の心が憎悪でくすぶる。
 遠からず彼女は死ぬ。その時をどう迎えればいいのか。
 誰よりも医者になりたがっているはずの彼女が、どうして医師になれない体でいるのか。
 どうして最新技術をもってしても彼女を治せないのか。
 彼女をこんなに苦しめる世界が憎く、呪わしい。
 世界を『殺してやりたい』と。
 そしてついに『その時』が来る。
 少女に繋がる機器に映る生命活動の波形がフラットな一本線になり、医師達が蘇生措置を施すが、変化がない事を確認した医師達はその活動を止め、事務的な口調で家族達に告げる。
「残念ですが……」
 奇妙なまでに静かになった病室に、家族達の慟哭だけが響いていた。
 この後その経緯に不明な点が多いが記録に残る大切な出来事は3つ。
 1つ目は、少女の兄がこの日以降姿を消したこと。
 2つ目は、少女が葬儀中蘇生して大騒ぎになったこと。
 3つ目は、その後少女は驚異的な快復を見せ、医学系の大学へ進み、医師になったこと。
 少女の名は、橘(たちばな)美弥(みや)。その兄の名は、橘(たちばな)忍(しのぶ)と言った。
 
●兄妹の今
「『シュドゥント・エジクタンス』(ある筈のない存在達)をよく調べたらわかった話の1つだよ」
 ジョセフ・イトウ(az0028)は事もなげに己の暴いた事実を口にする。
「『蘇生した』後、橘美弥が寡黙で淡々とした性格になったと記録にあった。その時既に愚神ヒーリショナーになっていたと考えるのが自然だけど、問題はその後の『橘美弥』の動きだよね」
 ジョセフが機械を操作すると、部屋のスクリーン上に『橘美弥』が取得した医学系の大学の学生証、医師免許や様々な証明書が顔写真付きで映し出される。
「『橘美弥』はその後医学系の大学に受験して合格し、大学で知識や技術を得て医師になった。実際そう歩んだのはヒーリショナーってことになる」
 そうなると、ヒーリショナーが奪ったという橘美弥の『医者になりたい』という夢は。
「結果だけ見れば叶えてるとも言えるんだよね。やってる事は別にすればだけど」
 ジョセフの不穏な言葉と共に、画面がとある家族写真に切り替わる。
 その中に写る『橘美弥』の隣に、見覚えのある顔を見つけたリンカー達もいた。
「橘美弥の隣にいるのは橘(たちばな)忍(しのぶ)。橘美弥の兄だよ」
 ジョセフの操作で次の画面が映された時、リンカー達の見覚えは確信に変わった。
「今の名は愚神フィロ。以前海外で暴れた愚神組織『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達)の1体だ」
 眼帯で片目を隠し、憎悪に満ちた顔をこちらに向ける『橘忍』がそこに映っていた。
「今こいつはヒーリショナーのいる施設を襲撃中だ。既に施設へ派遣されていたH.O.P.E.所属のリンカー達が応戦したが、全員撃退されたから今回施設にいる人達を救いに行く依頼になったんだ」
 現在何故かヒーリショナーが出撃し、施設外でフィロと交戦中との事だが、現地に先行した真継 優輝(az0045)からの連絡ではヒーリショナーのほうが劣勢との事だ。

●浄化こそ我が楽園
 刃が煌めき、交錯する金属音が響く中、フィロは眼前の愚神に問う。
「俺はなぁ。てめえに『俺の妹を殺して喰って、夢を奪って生き延びていることに罪悪感はないのか』って聞いてんだよっ!」
 憎悪を振り絞って放たれたフィロの怒号と刃がヒーリショナーにぶつけられ、彼女の体が不可視の刃で切り裂かれたが、彼女は何の感情も見せずに淡々と応えた。
「ない。これは彼女との『取り決め』の結果だ」
「何の取り決めだ、答えろ! 答えてから死ね!」
 フィロの問いに答えずヒーリショナーが横に飛びのくと、先程まで彼女の立っていた場所をフィロの斬風が地面を削りながら通過する。
「贅沢は言わない! 無様に苦しめとか望まない! ただこれ以上存在しないでくれ! その姿は妹の、美弥のものなんだ!」
 慟哭まじりのフィロの叫びと共に、ヒーリショナーの周囲の空間が煌めいて刃が殺到し、数本の刃がヒーリショナーの体を切り刻む。
「君が私を殺すのと、周囲にいる人間達も殺そうとするのは無関係のはずだが」
「いいや、無関係じゃないね。『この世界に存在する人間達全てが赦せない』。立派に関係ある」
 事もなげにフィロは己の抱える憎悪の正体を明かしたが、ヒーリショナーは淡々と、こう応じた。
「君に妹はいない」
「何が言いてえ、人喰い風情が」
 フィロが片手を振るうと風切り音が4つ重なり、それは斬風と化してヒーリショナーの前後左右から絡みつく。
「確かに私は人喰いだ。それは認める」
 ヒーリショナーは槍を顕現して周囲に旋回すると、複数の火花や金属音と共に、殺到する刃を弾き飛ばした。
「だが、君もそうだ。君はフィロであって、橘忍ではない」
「それが何だってんだ」
 フィロの表情が憎悪でさらに歪み、声も冷えていく。
「これまでの君の言動や行動から鑑みると、君はもう『私が憎いのか。人間全てが憎いのか。世界が憎いのかわからなくなっている』。違う?」
 ヒーリショナーの言葉に、フィロは弾かれたように嗤い出す。
 腹を抱え、頭を片手でおさえてフィロは嗤う。
「そうだよ、その通りだよ! もう『俺』には何が憎いのかわからねえのさ!」
 そう嗤った後、フィロの表情と瞳が憎悪で引き締まり、周囲に再び刃の輝きが帯びていく。
「だがてめえやこの周囲にいる連中全員ぶった斬れば、少しはスッキリするってことは分かるんだよ!」
 世界は不条理で満ち、呪わしい。
 大切な存在を見殺しにして、自分から奪った人間達は、その存在自体がおぞましい。
 すべてが赦せない。
 だからこの世界と人間全てを斬り刻み『楽園』へと浄化する。
 それがフィロの担う『楽園』にして、橘忍が軸とする『悲しみ』だった。

解説

●目標
 施設の人々の命を救う(愚神達の生死は不問)

●登場
 愚神ヒーリショナー
 愚神集団『シュドゥント・エジクタンス』(ある筈のない存在達。以下SEと略)所属の愚神。
 人の痛みを喰う特殊能力と医師橘(たちばな)美弥(みや)としての活動が人々に歓迎されているため、H.O.P.E.との間で約定が交わされ、条件付きで黙認されている。
 H.O.P.E.には槍や以下の術も使うと申告しているが判断は自由。現在負傷中。
 
 相消
 自身より範囲(1)以内にいる対象のグッドステータス、状態異常を全て消す。識別不可。
 
 愚神フィロ
 愚神組織『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達。以下PMと略)所属の愚神。人間や世界を憎み人の話を聞く耳は持たない。ケントォリオ級。
 2回行動。ライヴスで空気を圧縮硬化し無数の刃を構築して攻防する。予備動作や前兆あり。
 
 防刃
 射程3sq以上の攻撃を、物理魔法問わず無数の刃で『切り刻み』防ぐ。
 
 煌刃
 最大射程10sq、範囲(5)内の空間に浮遊する刃を無数に構築し切り刻む。
 PL情報:【減退】効果のある刃も複数含む。
 
 真継優輝
 今回唯一の有志。使用スキルはケアレイ、クリアレイ、リジェネーション。皆様の指示に従う。

 患者達
 『橘美弥』のもとへ自分の意志で集った末期患者達。家族を含めた全員が『彼女』の正体を承知の上で『治療』を望んでいる。現在施設職員達に守られ施設内に避難中。

●状況
 とある街にある病院兼介護施設。小高い丘の上にある。
 その前に広がる駐車場の中で現在ヒーリショナーとフィロが交戦中。(判定上での駐車場の広さは無限)
 SE所属の他の愚神達と上記フィロの増援であるPMの従魔達は、施設より離れた場所にある無人の地帯で交戦中。
 H.O.P.E.別働隊が施設への通路を維持しているが、周囲が危険な状況なので、皆様の要請に応じられるのは真継優輝のみ。無線貸与済み。

リプレイ

●つまづき
 とある地方にある小高い丘にある施設にH.O.P.E.エージェント達が到着した時、周囲では異様な轟音が響いていた。
 金属同士の激突音が施設右遠方で響いたかと思えば、直後に正面奥方向で何かが潰れる音、今度は左奥で軋む何かが複数粉砕される音が起きる。
 この施設にいる医師、橘(たちばな)美弥(みや)の顔を持つ愚神ヒーリショナーは、既に施設外で現在この施設を襲撃に来た愚神組織「パラダイス・メーカーズ(楽園の作り手達。以下PMと略)の1体、愚神フィロと交戦中だが、それとは別の存在達が交戦中発する音の群れだ。
 カグヤ・アトラクア(aa0535)は現場に到着するなりクー・ナンナ(aa0535hero001)と共鳴し、『全力移動』で動き出していた。
 クーとの間で余人には聞かれてはならないやりとりを交わしながらも、カグヤは仲間にはあまり聞かせられない動機のもと、ヒーリショナーのもとへ全力で疾駆する。
(あはは、彼女も大変だ)
 クーはカグヤの中でそう笑っていた。
 カグヤの後をLe..(aa0203hero001)と共鳴し、顕現した武器や身体にライトグリーンの光風を纏う姿に変じた東海林聖(aa0203)が、輝夜(aa0175hero001)と共鳴し、その髪を心なしか常より長くした金の髪、瞳を金色に変え、白磁の着物を纏う姿となった御門 鈴音(aa0175)と共に、施設の人達が避難を終える時間を稼ぐためフィロのいる戦場へ征く。
 その後を、メグル(aa0657hero001)と共鳴し、髪に銀の長髪、瞳にメグルの色を纏う姿となった御代 つくし(aa0657)が、施設に向かった仲間達とスマホで連絡を取り合いながら奔走する。
 愚神フィロに、愚神ヒーリショナーを憎むのを止めろとは言えない。
 事前に判明している情報によれば、今ヒーリショナーと戦っている愚神フィロは、人間だったころの名前は橘(たちばな)忍(しのぶ)。『橘美弥』の兄にあたる。 
 『橘忍』の憎しみが正当かどうかと言えば、正当だ。妹を喰った仇が妹の姿となっているのだから。
「私だって、大切な友達や仲間が愚神に成り代わっていたってことになったら、平静でいられる自信が無いよっ」
 だが今『橘忍』にあるのは行き場のない憎悪だけだと、つくしには思えてならない。
「他の人を巻き込むのは間違ってる。例え『仇』を討ったとしても、憎しみは止まらないと思う」
 だから『橘忍』の『今の』憎悪は止めさせたい。
(それが自己満足では無いと言い切れますか)
 メグルの指摘につくしは力なく『わからない』と首を横に振ったが、『それでも』と言葉を継ぐ。
「やれるだけのことはやる。ううん、やり遂げたい」
 このままなんて納得出来ないから。恐らくみんなにとっても。
 一方、共鳴したテミス(aa0866hero001)を、顕現した魔法書への十字の意匠として纏わせた石井 菊次郎(aa0866)は、仲間達とは異なる目的を秘めていた。
「何とかあの眼帯の奥の物が何か聞き出したい所ですが」
 フィロの片目は紫色で十字型の瞳孔だが金縁はない。
(奴もそれが何か知らぬかも知れぬぞ)
 テミスはそう菊次郎に忠告するがそれ以上に危惧する事があった。
(主よ。依頼の中で目標よりも別の個人的な事に優先する姿勢を周囲に見せ続ければ、巡り巡って主自身の首を絞める危険が高くなるぞ)
 魔法書からテミスが、菊次郎に向け今は目標達成に集中するよう警告していたが、菊次郎は曖昧な口調で応じた。
「試したいことがありますから、やれることはするつもりです」
 仲間達が愚神フィロのもとへ向かう中、施設に向かったナガル・クロッソニア(aa3796)は千冬(aa3796hero001)と共鳴し、髪を千冬と同じ色に、瞳の瞳孔を縦にした姿に変じた後、鷹の目を使い『これから施設の人達が避難できそうな安全な場所』を必死に探っていた。
 同じく宿輪 遥(aa2214hero001)と共鳴した宿輪 永(aa2214)も、施設内で避難している人達の位置情報を知るため施設内を動き回り、全員の無事を確認後、スマホでナガルや既に戦場へ先行した仲間達に連絡を入れていた。
 そんな中ナガルの探索結果は、これからナガルや永がやろうとした事を止めるものだった。
『駄目です! 私達は大丈夫でも、施設の皆さんを外に出す為に必要な、安全な場所がどこにも見当たりません!』
 既にナラカ(aa0098hero001)と共鳴し、髪を銀の長髪に、瞳を真紅を纏う姿に変じた八朔 カゲリ(aa0098)も仲間達の各行動を援護できる位置で周囲の状況把握に努めていたが、同様の見解に至っていた。
 ナラカとの共鳴で得られた、カゲリの卓越した動体視力をもってしても、施設周囲では3体の影が一瞬だけ現れては消え、従魔と思しき異形の集団と交錯し、破砕音を残して離れては再び消える光景が拾えるのみだ。
 カゲリの見たところ、3体の影はヒーリショナーと同じ愚神集団「シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)」の愚神達で、それらと交戦しているのはPMの愚神フィロが率いてきた従魔達だろう。
(覚者よ。これが愚神同士の殺し合いか)
「人々のいる地域近くで起きてもらいたくないがな」
 内にいるナラカへそう応えるカゲリだったが、ナガルや永に現状と『外への避難誘導は危険』と自身の判断を添えて伝えた後、愚神フィロのもとへ向かう。
 もしナガルや永が今施設にいる人達を安全な場所を確保した上で、その場所まで安全に移動させるとするならば。
 今施設周囲で交戦する愚神や従魔達に、『施設の人達が避難できる安全な場所と、安全に避難誘導できる時間とルートを用意できる様戦ってくれ』と頼み、協力してもらう必要がある。
 永は首を横に振った。
「……連中……が、協力……する筈、が……ない」
 つまり今こうして施設の中で争いが収まるのを待っている現状が最も安全だと、ナガルや永は思い直し、目下最大の脅威である愚神フィロを撃退して人々を守ることに方針を切り替えた。
「大丈夫です、『橘さん』は、我々が守りますよ」
 一時的にナガルとの共鳴を解いた千冬が、施設にいた職員や患者達を安心させる言葉をかけて回った後、再びナガルと千冬は共鳴し、『橘美弥』のいる戦場へ急ぐ。
 当面この施設内で危機はないと判断し共鳴を解いた遥もまた、言葉を選んで永を『支援』していた。
「今あの愚神を助けなかったら、H.O.P.E.がこの施設の人達に何を言われるかわからないから、ね」
 助けに行きたいという、個人的な感情はあえて呑みこみ、遥は所属する組織の評判に影響するという物言いで永に加勢する事を訴え、ようやく永も応じた。
「……分かった」
 お前がそう言うならと、永と遥は再び共鳴し、フィロのいる戦場へと向かった。

●到達
 宙を駆け巡る刃が、一斉にヒーリショナーに襲いかかる。
 だがそこへ一陣の疾風が割り込むと、疾風はグランガチシールドという凧型の盾を掲げたカグヤとなった。
 殺到する刃はカグヤのグランガチシールドを乱打するが、刃はカグヤに届かず、弾かれる金属音をカグヤの周囲に響かせるだけだ。
「情報通り、全力で急げば間に合ったの」
 現場に先行していた真継優輝(az0045)からの連絡内容の中にあった『皆様が「急いで」向かえば、ヒーリショナーがフィロに喰われる事態を防ぎ、施設や周囲にいる人達を救う事ができます』という文章にある緊急性をカグヤは見抜き、全力でヒーリショナーのもとへ急ぎ、こうして間に合った。
「待たせたの。自身の傷を治すのは苦手なのかの?」
 カグヤはそう言いながら満身創痍のヒーリショナーにケアレイを注ぐ。
「邪魔すんじゃねえっ!」
 フィロの怒号と共にカグヤの周囲に刃の輝きが帯びていく。
「あぁ、何やら向こうで羽虫の音がやけにうるさいの。ちょっと下がっておれ」
 カグヤはあえてフィロを羽虫扱いしたが、無論これはフィロの憎悪を自身に集中させヒーリショナーを下がらせると共に、後続の仲間達が到着できる時間を稼ぐためだが、思惑通りフィロはカグヤに向け右腕を振るう。
 カグヤの前後左右から顕現し、軌道を変えて襲い掛かる刃の猛攻を、カグヤの盾が受け流すごとにその周囲に火花と金属音を咲かす。
「うるさい羽虫は叩いてつぶすかの」
 ヒーリショナーが下がるのを見たカグヤはグランガチシールドを構えたままフィロに突進し、盾を鈍器代わりにして殴りつけた。
 激高したフィロの放つ刃はカグヤに殺到するが、カグヤの全身にフィロの刃光と刃が弾かれる火花や金属音をカグヤの全身に狂い咲かせるだけで、一向に刃がカグヤを斬る様子が見られない。
 そしてそれは他の仲間達がこの戦場に到着するだけの時間を稼ぐ事にもなった。
「これでも食らって落ち着きやがれ!」
 緑光の旋風と化した聖が現場に到着するなり、ライオンハートの先端で駐車場に残る車の残骸を掬い取り、フィロに向け投擲する。
 車の残骸にライヴスは伴っておらず、当然フィロは嘲笑の形に顔の肉皮を歪めて飛来する車の残骸を避けようとしない。
 だが車の残骸がフィロの眼前で真っ二つに引き裂かれ、残骸の後方から横殴りの血色の斬風と化した鈴音が、倍加する勢いでフィロに襲い掛かってきた。
 聖の投擲に合わせ、車の残骸の軌道を目晦ましにしてフィロに突進していた鈴音は、残骸がフィロの視界を遮る瞬間、鬼の力を注ぎ込み鍛える事で生まれたとされる『鬼神の剣』を轟然と翻し、空間に3条の血色の輝線を閃かせ、引き裂いた車の残骸の先で、目を剥いたフィロの身を3度斬り裂いた。
(わらわの力でそなたが何をしようと咎めるつもりはないが。おぬしはどうするつもりじゃ)
 内より鈴音に向けて響く輝夜の声には、鈴音がこの愚神フィロに対し、どう向き合うのかを問うていた。
 愚神フィロとして討つのか。人間『橘忍』として向き合うか。
「いつもと同じよ。……私は愚神って存在がものすごく憎いもの」
 フィロの斬撃に巻き込まれぬよう、落下した車の残骸を置き土産に残し、疾走の反動で後方に飛びのいた鈴音は素気なくそう輝夜に呟いだが、内心の声は輝夜にだけ聞こえた。
 実際、鈴音の『愚神は全て駆逐すべし』という決意は、事前に鈴音が閲覧した今回の各愚神に関する報告書の内容を前に、少し揺らぎが生じていた。
 だが輝夜からすれば、その揺らいでいる心の方が、本来怯えながらも人々の間に生まれる陽だまりの暖かさに憧れ、守ろうとする鈴音の性根に近いと思うが、それは今言うべき話ではないと思い直し、鈴音のフォローに集中する。
 飛び退く鈴音を追撃するフィロに向け、突如影が刃と化したような斬撃がフィロの右横から飛来し、フィロの身を切り裂いた。
「【防刃】だったか。自動防御というわけではなさそうだな」
 戦場に到着し、【奈落の焔刃】の銘を冠する漆黒の刀剣を振るったカゲリが冷静にフィロの防御手段の解析も兼ね、援護の刃を振るっていた。
 その間にも、今度はフィロの左横の間合い外に到達していた菊次郎からの、『脳と直結できる魔法書』の攻撃がフィロに直撃し、フィロの体を跳ね飛ばした。
「防御の手数を減らす中で攻撃が通る場合もあるなら、無駄と分かる攻撃もやる価値があります」
 そう言いながらも菊次郎は次の手を打つため、静かに移動を開始する。
 菊次郎の攻撃から跳ね起きたフィロの周囲が刃の輝きを帯びていき、先程車の残骸を投擲した聖が鈴音と入れ替わるように前に進み出ると、あからさまにため息をついてこう言った。
「フィロとか言ったな。テメーの『憎しみ』ってのは、ヒーリショナーへの嫉妬じゃねェのか」
 その言葉にフィロは何も答えず右手を振り、聖に向け周囲から無数の刃が殺到して聖を切り裂いていくが、構わず聖はフィロに肉薄するなり自分の赤色の大剣にLe..の支援も受けライヴスを集中し、雷光の速度で獅子の咆哮と共にライオンハートの刀身を繰り出してフィロを転倒させ、さらに追撃の刃を放ってフィロの身を穿った。
「あのヒーリショナーという愚神に言った言葉の全て、私達は把握しています」
 『鬼神の剣』を構え、険しい表情のまま、鈴音も聖の説得の支援に乗り出す。
 実は現場に先行し情報収集も行っていた真継優輝は、ヒーリショナーと戦っていた時フィロが発した言葉全てを記録し、本部へ送り皆様にも情報を提供していた。
「テメーはただ、そうやって他人に武器を振り回して当り散らしてる『人間』なんだよ」
 聖の言葉は先程聖の放った攻撃よりも深く、フィロの心に突き刺さる。
「うるせぇ!」
 フィロの咆哮と共に周囲が無数の刃が煌めきと共に顕現する。
 そこへ聖を援護すべく鈴音が体を低くして、まっしぐらに駆けてきた。
 それに気づいたフィロは鈴音に向け複数の刃を放つ。
 さながら地を這う突風と化した鈴音は、頭上を通過する数本の刃で背中を斬られながら、疾風の速度でフィロの膝へ鬼神の刃を繰り出すクロスカウンターを放ち、膝を貫かれたフィロはがくりと片足を地面につく。
 その間に聖と鈴音はするすると退避し、起き上がったフィロに向け突如現れた業火が螺旋を描いて絡みつき、周囲に展開していた刃を炎が砕き、それ以上の追撃を停止させる。
(どうやらフィロの刃は切れ味はよくても、耐久性はないようですね)
 ブルームフレアを放って鈴音の退避を援護したつくしに向け、内よりメグルが助言を送る。
「そうみたいだね。みんな、聞いて!」
 直ちにつくしはメグルの見解を周囲に伝え、その間にもナガルと永もまた戦場に到着する。
(マスター。東海林さんと御門さんが負傷されている模様です。真継さんに治療の指示を出して下さい)
「わかりました。真継さん、こちらに!」
 千冬の助言を受け、待機させていた真継優輝に指示を出し、聖の負傷は優輝が治療する。
「こちらは……俺、が……やる」
 鈴音の負傷は永の放つ治癒の光によって治療される中、聖や鈴音達が合流後、ヒーリショナーの治療をしていたカグヤもまた戻ってきた。
 こうして全員この場に揃ったが、まだ危機は残っていた。
 
●恩讐の行方
 永とカゲリはそれぞれの思惑から、説得への不参加を表明し、それぞれ引いた位置から状況の推移を見守っていた。
 永は、説得にあたる仲間達には言わないが『関係ない。愚神どちらも滅べばいい』という、愚神に大切な人を奪われた人間なら当たり前の感情を抱えているからだが、説得が不首尾に終わった時に備え、いつでも飛び出し仲間を守る態勢はとっていた。
 カゲリ、そして内にいるナラカはそれぞれの見解があった。
 ナラカは、口にはしないが仲間達の説得や行動によって、フィロの憎悪が何かに昇華する可能性に期待している。
(これは説得という道を選んだ仲間にとっても試練じゃな。そう思わぬか、覚者よ?)
「俺は全ての存在と感情を『そういうものだ』と肯定する。それだけだ」
 仲間には言わないが、説得というのは見る角度を変えれば己の理屈を相手に押し付ける危険を含むものだとも、カゲリは考えていた。
 そんな中、最初の口火を切ったのは聖だった。
「テメーの『何が憎いかわからねー』ってのは『テメーの弱さからの逃げ』だ」
 聖の中にいるLe..の見解は少し聖とは異なる。
(憎しみ……否定しない。けど……『中身』が伴わないのは憎いという気持ちに縋ってる、だけ)
 本当に憎んでいるのは『橘美弥』を救えなかった自分自身。それを認めたくないから『世界や人間』を憎む。
 それが『橘忍』の弱さと、Le..や聖、輝夜より助言を受けた鈴音も見抜き、鈴音もフィロに語りかける。
「私達に自分の弱さを突きつけられるのが、そんなに怖いのですか?」
「黙れ!」
 フィロは鈴音に向け大きく両手を振ると、煌めきを残さない刃が、鈴音の両脇の地面を切断した。
「何を怯えているんです? 人間が憎いのなら『人間である私達の言葉なんて何とも思わないでしょう?』」
 鈴音の言葉は、フィロ、いや『橘忍』の抱える矛盾を暴いた。
 本当に人間が憎いだけの存在なら、人間の言葉に耳を貸さないはずなのに。
 今、彼は人間である鈴音や聖達の言葉に動揺している。
「黙れ黙れ黙れ!」
 フィロの周囲に刃の輝きが帯びる。
「黙るのは御身のほうですよ」
 不意にフィロの後ろから菊次郎の声が響くと共に、突き出された菊次郎の手から呪詛の咆哮と共に放たれた闇色の蛇の群れがフィロに絡みついて強引にその意識を奪う。
 その間につくしはあえてフィロの前に回り込んで、自分の声にライヴスを乗せた『支配者の言葉』をフィロに向けて発動し、フィロにその効力を浸透させることに成功した。
 予定では幻影蝶も使うつもりだったが、メグルより『説得の行方次第では即時討伐の状況に陥る可能性も否定できません。その時の為にそれは温存しておいた方がいい』との助言に従った結果だ。
 そしてつくしがフィロに対し術を通し強制したのは『私達の話を聞いて下さい』だった。
 意識を取り戻したフィロに、つくしは橘忍の抱く憎悪も尊重する言い方で語りだす。
「美弥さんが交わした『取り決め』が何なのか、聞いてからじゃ駄目なんですか」
 つくしはおよその内容は推測していたが、今それが何なのか知り、話せるのはヒーリショナーしかいない。
「美弥さんは、医師になりたかったんですよね。でも『今の』ヒーリショナーを殺したら、美弥さんの『夢』を無駄にすると思えませんか」
「あいつが美弥を喰って、夢を奪って無駄にしやがったんだ!」
 フィロの言葉につくしは唇をかむ。
 フィロを倒したいわけじゃない。ただ自分の推測が本当ならヒーリショナーを殺させるわけにかいかない。けれど上手い言葉が見つからない。
 そこへ思いがけない言葉がフィロに注がれる。
「ヒーリショナーが橘美弥に憑依する前は、医師など目指していなかったぞよ」
 それはカグヤからの指摘だった。彼女は持参していた名刺に記載した連絡先にいたSEのラカオスに連絡し、ヒーリショナーと橘美弥の関係についての情報を聞きだしていた。
「じゃ、なんで。なんで奴は医師に」
「もう『忍さん』はお気づきなのではありませんか?」
 それはこれまで『もし自分があの両者の立場なら?』と葛藤を続けていたナガルからの『説得』だった。
 大切な家族が愚神に喰われ、その人に成り代わって目の前にいる。
 ヒーリショナーの行動は、愚神の範疇を越えない。収奪のため人の世話をし、人を治療する。
 それでも『彼女』を必要とする人達がいるから、ナガルは彼女を『悪』と断罪できる自信がない。
 ナガルには、何が正しいのかわからないが、それでもわかる事はある。
「医師になりたい。医師を目指すなんて、『夢』がないとできませんよ」
 ナガルとカグヤの言葉に後押しされ、つくしはフィロにこう訴えた。 
「美弥さんの夢は奪われたんじゃない。受け継がれたんじゃないですか?」
 つくしの言葉は、憎悪で歪む『橘忍』の心にも十分沁み渡る効果があった。
 だとすれば美弥の『夢』や『願いは』。
 『奴』に形を変え今も生き続けているのだろうか。
 いつしかフィロの周囲から殺気が消える。
 そんな時だった。
「説得は終わったようですね。では、今度は俺からの話です。御身はこの瞳についてご存知ではありませんか?」
 それまで沈黙を保っていた菊次郎が、フィロに己の瞳を見せながら、そう尋ねてきた。
 この時フィロは『知らねえ』と答えたが、菊次郎は、フィロの瞳は上位存在が配下の愚神を支配する『枷』か何かであり、支配から解放すれば自分の求める情報をフィロからより詳細に得られるのではと推測し『枷』を外す行動に出た。
 それが菊次郎からフィロに放った銀の弾丸だった。
 菊次郎の銀の弾丸はフィロの顔面に直撃し、眼帯ごとフィロの右目を貫き、フィロは穴の開いた右目から塵を噴き上げのけぞった。
「ぶっ殺すぞ、てめえ!」
 フィロの刃が煌めくことなく、いきなり菊次郎の体を切り裂き、菊次郎は自分の推測と試す行動の読み違いに気付いたがもう遅い。
「決裂……だ、な」
 それまで状況を見守っていた永が負傷した菊次郎のもとへ向かう中、カゲリもまた仲間達を援護できる位置につく。
(先程御門を襲った刃と同じ種類のものか)
 間合を置いて状況を確認していたカゲリは、今フィロの放った刃がこれまでなかった『超高速の斬撃』だと見抜くと直ちに仲間達に伝達する。
 その間にも刃同士が激突する不快な音がエージェントたちの周囲で響き渡り、フィロは豪雨のような密度で『煌めく刃』と『超高速の斬撃』を全方向に向けて射出する。
 殺意を滾らせ襲いくる刃の群れにエージェント達が切り裂かれる中、刃の奔流を強引にせき止めたのはカグヤのグランガチシールドだった。
 カグヤの背後に安全地帯が出来たのを確認したナガルが優輝に指示を出し、カゲリが冷静に見抜いた刃の奔流の射程外より周囲の負傷者を優輝と協力して集め、カゲリの援護のもと、永や優輝のケアレイ、そしてカグヤが周囲に放ったケアレインで仲間達の負傷が癒される。
 その間にフィロにどうにか接近したつくしが小さく詫び発した幻影蝶がフィロに纏わりつき、フィロの『強さ』と意志を奪いその身を急速に朽ちさせ、フィロの猛攻を強引に止め仲間達へと繋ぐ。
 つくしの稼いだ貴重な時間と機会を活かし、トップギアで自分の攻撃力装填を終えた鈴音は、同じくトップギアによる攻撃力増強を終えた聖と共に、聖は緑光の疾風と化し、鈴音は真紅の疾風と化してフィロの左右に殺到する。
 温存していた電光石火の斬撃を聖はフィロに放つ中、反対側から肉薄した鈴音より鬼神の剣風が渦を巻き、3条の剣閃と化しフィロの両腕と健在だった足を斬り飛ばすと、何かが割れる音と共にフィロが地面に倒れ伏し、周囲を斬り裂く刃の群れが霧散した。
「美弥は……何と、言ってた?」
 崩壊の始まったフィロ、いや『橘忍』は辛うじてそう呟いた。

●取り決め 
 ヒーリショナーは『橘美弥』との間でやりとりした事を、その場にいる全員にも聞こえるよう告げた。
「橘美弥は、自分にはもう時間がないが、『私』にはあると言った」
 この世界には、私みたいに痛みのない平穏な時間を願い、求める人達が沢山いる。
 だから私の代わりに『貴方が』そうした人達の医師になり、自分のような人達を『救ってくれる』なら。
「自分の命と体、そして『生き方』を私にあげると言った。私は承諾し全てをもらった」
 それが橘美弥とヒーリショナーの取り決めだった。
 つくしの推察通り、取り決めの内容は橘美弥自身が願ったものだった。
 橘忍はため息の後『そうか。よかった』と呟いて目を閉じ、光の粒子と化し、空に消えていった。
 愚神フィロが滅びれば、長く依代だった橘忍の身も消える定めだった。
「不服か、覚者よ」
「なるようになっただけだ」
 カゲリはそう言うと、施設の避難体制解除の為、ナラカや共鳴を解いたナガル、千冬と共に施設へ向かう。
 カグヤから『未だに戦闘中』と思われるSEの連絡先を聞きだしたナガルは、スマホでラカオスに連絡をとると『敵は殲滅しました』との回答を得られたので、直ちに仲間達にも施設の人達に残る脅威が去った事を伝えて回る。
 H.O.P.E.別働隊達もかけつけ、施設の人達の避難解除作業、負傷したエージェント達の治療やアイテムの補充など慌ただしく作業が進められナガルや千冬もそれを手伝う。
 その中で菊次郎は負傷が残り施設内で『治療』を受けるヒーリショナーを、自分の瞳とフィロの瞳の関係。瞳の事情を知るであろうPMの愚神ズセに関する事等について質問攻めにしていたが、ヒーリショナーは全て『知らない』と答えたため、既にテミスと共に帰路についていた。
 なおこの依頼の中でカグヤとクー、ヒーリショナー3者の間で交わされたやりとりについては記載を差し控えさせて頂く。
「悩むなら自分の心に正直になれと言うたのに『太る』とはどういう意味じゃ」
「輝夜みたく欲望に忠実過ぎて、喰って寝てばかりじゃそうなるって言っただけ」 
 どこか楽しげに言い争う鈴音や輝夜も、つくしやメグル、聖やLe..達も交え帰路につく。
 戦闘での治療を終え共鳴を解いた永は遥と共に帰路につく。
「ハル、大丈夫……か?」
「……あぁ。問題……ない」
 そう。どちらが正しいのかなど問題ではないと、永は心の中で呟く。
「……今日の、誓約は……。愚神はいつか滅ぶべきだ」
 俺の意志は俺のものだ。変えるつもりも無い。
 永の決意は揺るがない。
 「……わかった」
 遥もそれがわかっているのだろう。素直に『誓約』を受けるだけに留めた。
 広がる『闇』はいまだ深い。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 永aa2214
    人間|25才|男性|防御
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 遥aa2214hero001
    英雄|18才|男性|バト
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • エージェント
    千冬aa3796hero001
    英雄|25才|男性|シャド
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