本部

【神月】連動シナリオ

【神月】盗め、大王の宝剣!

時鳥

形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/27 18:39

掲示板

オープニング

●タオからの依頼メール
 タオ・レーレ (az0020)経由で、エージェント達に一通のメールが舞い込んだ。
 内容は下記の通りである。

「これはH.O.P.Eの依頼とは関係がありません。
 ですが、皆さんのお力をお借りしたいと思っています。私個人からの依頼です。
 そして、どうかこの件はH.O.P.Eへは内密にお願いします。後々、H.O.P.Eへは私から連絡をさせて頂く所存ですが、今はどうか漏らさないでください。
 多くはこのメールではお教えすることはできませんが、とある屋敷に忍び込んでほしいのです。
 そしてある物を盗み出してほしい。犯罪のような頼み事ですが、これには訳があります。訳は引き受けてくれるのであれば詳しくお話しすることも厭いません。
 それでも構わない方はタオ・レーレまでご返信の程、よろしくお願いします。
 また、もしこの依頼を引き受けてくれそうな方をご存知でしたらこのメールを転送して頂ければ幸いです。

 タオ・レーレ」

 もし、タオと面識がある者であればこの内容がとてもおかしいことが分かるかもしれない。だがアドレスは間違いなくタオのものだった。

●本当の依頼主
 タオと英雄のゼファー・ローデン(az0020hero001)はイタリア南部のとある町に来ていた。イギリスやエジプトで短剣絡みの騒動が起こっているのは知っていた。自分も何か力になれないか、と考えている矢先だった。
 警察署の前を通りがかった際、怪しい男が叫びながら何かを訴えるも警察署から追い出されているところに遭遇した。警察署の扉が閉まると男は疲れ切った顔でため息を逃がす。くたびれたベージュのコートを羽織り、赤毛の髪は伸び放題で、それを後ろで無造作に結んでいる。
 彼が叫んでいたマフィアが、盗掘がという言葉が気になったタオは男性に声をかけた。もしかしたら証拠がなく警察に相手にされなくて困っているのかもしれない。マフィアという悪党に困らされているならば、と考えるとタオは男性を放ってはおけなかった。
 それがことの始まりだった。

 小さなカフェの一角に男性とタオとゼファーはテーブルを囲むように腰かけていた。ゼファーは男の怪しさにおどおどしながら口を噤みタオに身を寄せている。周りに誰も居ないことを確認してから男は口を開いた。
「私の名はコラード。考古学者です。とある剣を長年探していたのですが、それがこの地に住むファミリー、グラーベフルトのボスの元にあることまで分かったのです。グラーベフルトのボスは考古学趣味があり、金にモノを言わせて盗掘品を買収したり、実際に盗掘屋と契約して遺跡から盗掘を行わせていたりとしているのですが、ここの警察はファミリーとの癒着が酷くそのことを話しても相手にもしてくれず……」
「そうだったんですね。それならH.O.P.Eへ依頼をすればいいと思いますよ!」
 コラードの話を聞いて同情したような顔をするタオ。だがすぐに名案とばかりに明るい笑みを浮かべた。しかし、コラードは首を横に振る。
「いや、それは……ダメです」
「どうしてですか!?」
「私は……セラエノに属している人間です」
 暫く話そうか迷った沈黙の末、沈痛な面持ちでコラードが放った一言にタオもゼファーも身構える。セラエノ、と今H.O.P.Eが敵対している組織の名が出れば仕方のないことだ。
「すみません、ですが、私はセラエノを抜けたいのです」
「えっ!?」
 その様子に慌てて言葉を更に繋げるコラード。しかし、その直後怯えた様子で辺りを見回す。もしこれがセラエノにばれればすぐに追手が差し向けられるだろう。
 驚くタオにしーっと声を潜めるよう指示しながらコラードは続けた。
「抜けるとすぐセラエノに追われる身にもなりますし、それに今、H.O.P.Eへ助けを求めるとその情報がセラエノに伝わりアレクサンドロスの宝剣がセラエノに渡ってしまう可能性が出てくる。ですのでH.O.P.Eへ依頼することはできないんです」
「宝剣――って! もしかして生命の樹の短剣のことっ! ですか?」
「いいえ、それとは違います。ゴルディアスの結び目をご存知ですか?」
 タオは首を横に揺らす。するとコラードはゴルディアスの結び目について簡単に説明をしてくれた。その話はこんな感じだ。
 貧しい農民だったゴルディアスは神サバジオスの神託により、フリギアの王となる。
 彼は自身が乗ってきた牛車を神サバジオスに捧げるため、柱にミズキの樹皮でできた丈夫な紐を使い、牛車の前方に長く突き出ている二本の棒、轅をしっかりと結びつけた。
 そして、「この結び目を解くことができた者こそ、アジアの王になるであろう」と予言を残す。
 この結び目はゴルディアスの結び目として知れ渡り、多くの者が挑んだが何百年も解けはしなかった。
 しかしアレクサンドロス大王が遠征の際、この結び目に挑んだ。普通の手段では解くことはできなかったが、持っていた剣を紐に振り下ろした瞬間、いとも簡単に紐は切断され解けたのである。
「そしてそのゴルディアスの結び目を切った剣がグラーベフルトファミリーが保有している剣なのです」
「でも、それ、伝説だろ?」
「そうだよね……あの、なんでそんなに欲しているんですか?」
 やっとゼファーが慣れて来たのか少し口を開く。タオが不思議そうに首を傾げた。
「それは……私は長年調べてきましたが、世界蝕以降、ライヴスと亜異世界化について知識を得るにつれ、ゴルディアスの結び目における伝説は、ゴルディアスの結び目そのものが亜異世界化していたのであり、それ故に誰も断ち切れなかったのではないかとという仮説に辿りつきました」
 コラードの説明についていけず首を傾げるタオ。
「簡単に言えば、アレクサンドロスの剣は亜異世界化を解除できる特殊な能力を持つのではないか、ということです。もしかしたら能力は別のものかもしれませんが、とても重要なものであることは間違いないです」
 徐々に説明に力の入っていくコラード。
「ですから、タオさん。お願いします! エージェントの横の繋がりを使って、マフィアから宝剣を盗み出してくれる人を探してくれませんか?」
「――っ! 私が!?」
「もし宝剣を手に入れることができましたらアレクサンドリア支部に寄贈し、セラエノで培った技術も加え研究に貢献します。約束します! ですから、お願いします!」
 懸命に頼み込むコラード。このまま放っておくことはタオの性格からして出来なかった。

 色々と話し合った結果、コラードが考えた文章をタオのスマフォから知り合いにメールで送った。
 そして、コラードは念の為アングラな方法でも別途、協力者を募る。できれば協力者は多い方がありがたい。
 ファミリー、グラーベフルトの住処に忍び込み、アレクサンドロスの宝剣を盗み出してくれるエージェントは果たしているのだろうか。

解説

●目的
 深夜2時にグラーベフルトのボスの屋敷に忍び込み、アレクサンドロスの宝剣を盗み出すこと

●アレクサンドロスの宝剣
 古すぎるためか柄は存在せず、刀身と鞘のみ。
 刃は不思議と赤みがかっており、まるで刃に血が纏わりついているようにも見える。
 鞘は古いものであるが王に相応しい細かい装飾が彫られている。
 現在は屋敷の倉庫の奥の部屋に白い布のひかれたケースに入れられ飾られている。ケースには鍵がかかっている。

●屋敷
 丘の上にある大きな屋敷。
 庭は視界を遮るように大きな樹木に囲われ、頑丈な門が行く手を阻む。
 屋敷の海岸沿いの一角は崖なのでそこだけ樹木は存在しない。
 庭には番犬が6匹放たれている。
 屋敷の中に入るとまず、広い玄関ホールがあり、右手に2つ、左手に3つ、正面に二つドアがある。
 右手のドア入り口手前から、貯蔵庫、キッチン。左手のドアは同じく手前が浴室、奥二つのドアがトイレ。正面は二つとも同じパーティーホールに通じている。パーティーホールが崖に面しており、窓ガラスは天井から床まで、外の景色が楽しめるようになっている。
 二階と地下に向かう階段があり、二階には主に客室とパーティールームの真上がボスの寝室となっている。二階の廊下全般から玄関ホールが見渡せる。玄関ホールからも二階の廊下に人が立っていればよく見える。
 地下は倉庫だが、奥に一つ重たい金属製の分厚いドアがあり、その先にボスが趣味で集めたものが収められている。この金属製のドアの鍵はボスが寝室に持ち込んでおり、サイドチェストの一番上の引き出しにしまってある。
 玄関ホールに二人、二階のボスの寝室前に二人、倉庫の中を見まわっているものが二人、全員能力者で共鳴をしており警備の為にうろついている。

●タオについて
 タオ達はコラードがセラエノ脱退がばれた際に襲われても大丈夫なように彼の護衛についており、同行は基本しません。

リプレイ


 タオとコラードの依頼を引き受けたのは8組のエージェントだった。時間は正午頃。
「んー、H.O.P.Eの支援が無いダーティな仕事と聞いていましたが結構真面目そうな方々が参加していらっしゃいますよねぇ」
 集まったうちの一人、東城 栄二(aa2852)が面々を視線で見回しながら独り言を零す。コラードの非正規からの依頼を受け参加した彼はタオのメールの呼びかけで集まった数人が意外だったのだろう。また、栄二以外は英雄と共にこの場にいるが、彼だけは一人で現れた。栄二の英雄カノン(aa2852hero001)はとても怖がりで、指輪――幻想蝶の中から出てくることが滅多にないのだ。
 コラードがタオのメールの件と依頼を受けてくれたことへの礼、また、タオに話したことと同じ依頼の内容を全員に説明した。話が終わると国塚 深散(aa4139)が九郎(aa4139hero001)へと振り返る。
「H.O.P.Eの依頼ではなかったのですか?」
「H.O.P.Eの依頼とは言ってないさ」
 深散の問いかけに九郎が少し楽しそうに答える。最初、タオのメールを受け取った九郎は、「タオさんから依頼のメールだ。急ぎみたいだからすぐに出よう」とだけ言った。確かにH.O.P.Eの依頼とは言っていない。H.O.P.Eの依頼ではない、とも言ってないが。急ぎ、との一言にすぐに深散は快諾し、タオと連絡を取って今に至る。
 そんな深散と九郎のやり取りをかわいいな、と見ているのがシエロ レミプリク(aa0575)。その頭にがっしり引っ付いているのはナト アマタ(aa0575hero001)だ。九郎達とは面識があり、一緒にきていた。
 詳細を聞き終えた月鏡 由利菜(aa0873)は事情は理解するものの「盗む」ということに難色を示す。が、リーヴスラシル(aa0873hero001)が「悪の組織グラーベフルトから宝剣奪取する任務」と言い換えることで複雑ながらも引き受けることとした。
(大英博物館の防衛戦とは逆の立場……複雑な気分です)
「宝剣はマフィアでは扱えん、連中に灸を据える意味でも、丁度いい機会だ」
 まだ複雑そうに俯く由利菜を説得するようにリーヴスラシルは言葉を続ける。一方、その隣。
「押し込みか? 雁間、久し振りの本業だが腕は鈍って居ないだろうな?」
「煩え……何が本業だ! 俺は真面目なH.O.P.Eのエージェントだぜ? 回収任務って言え、回収任務」
 マリオン(aa1168hero001)が雁間 恭一(aa1168)の顔を見上げて問いかけると大きな声で恭一は反論した。昔、流されるまま犯罪に手を染めたことがある恭一だが今はしっかりとH.O.P.Eのエージェントとして活動しているのだ。
「確かに言葉を飾れば実態が変わるかの様な言い方は役人染みているな。失礼した」
「H.O.P.Eは役所じゃねえぞ? せ、正……あー、まあ良いか。兎も角言葉には気を付けろ! 誰が聞いてるか分からねえ」
「その辺りは審問官に怯える祭司の様でもあるな。H.O.P.Eは宗教団体か?」
「……分かった。押し込みで構わねえからもう黙れ」
 一応、宿の部屋での作戦会議だが、薄い壁であるし声が外に聞こえる可能性もある。確かに今、H.O.P.Eの関係者であることを誰かに聞かれるのはまずい。反論を諦めて恭一はとりあえずマリオンを黙らせる。
「では、侵入する深夜2時までに情報収集を行いませんか?」
 そう切り出したのは構築の魔女(aa0281hero001)。周辺の地図や屋敷の見取り図などが手に入ればリスクは大幅に減る。また、情報を得ることでスムーズに侵入することが可能になるだろう。彼女の提案に異議を唱える者はいなかった。構築の魔女の隣にはただ黙って彼女の能力者、辺是 落児(aa0281)が立っていた。


 構築の魔女の提案の元、付近の地図や屋敷周辺の情報。不動産情報から施工計画等を入手。
「……施工の情報は、役所に申請しなければいけないはず」
 マフィアがその手順を踏んでいるか怪しいところではあったが構築の魔女の読みが当たり、情報を多く取得できた。また、彼女の提案で、複数人が事前に屋敷の外から内部の状況を確認。内部を隠すような樹木の隙間から番犬の存在が見てとれた。
 その集めた情報を基に全員で役割を分担。共鳴をし潜入班、囮班と別れて深夜2時を迎えた。服装はそれぞれイメージプロジェクター等を活用し普段とは違うものとなっている。グラーベフルトと敵対するマフィアを装い、呼び名は聞かれても大丈夫なよう偽名で呼び合う作戦だ。
 まずは屋敷の正面、やや右手。事前に把握してあるセンサーの見える場所から塀を軽やかに飛び越える。その瞬間、大きな音が鳴り響いた。ビーッビーッという警告音に犬の吠える声が重なる。
 それとほぼ同時刻、屋敷正面の門を栄二が乗り越えた。素性が分からないように顔上半分を覆う仮面をつけている。
 犬が2匹、栄二に向かい牙を向きだしに襲い掛かってきた。ステップを踏み犬を避け横を抜けて屋敷に全力で向かう。玄関ホールで警備に当たっていたマフィアが一人、警報に誘い出され扉が開いた。その瞬間、栄二が魔導銃50AEを構え引き金を引く。弾は扉にキィンッと跳ねた。
「誰だっ!」
 マフィア構成員が手にした銃を栄二に向かい構える。弾が当たらぬよう拒絶の風を纏い、目視されたことを確認すると栄二は横に飛び構成員を外へと誘導していく。構成員が放った銃弾が栄二の横を抜けていった。
「くそっ! 猫かなにかじゃねぇのか!」
 一人で出てきた構成員は警報が猫や自然動物が鳴らしたものだと思って高をくくっていたのか、栄二の存在に舌打ちをする。追いかけるべく足に力を込める構成員。栄二に向かい発砲をしながら追いかけて屋敷から構成員が離れた、その時――、屋敷の中のパーティーホールからガラスが威勢よく割れる音が響いた。

「確かに奇襲性抜群だけどさあ、なーんでウチ崖登ってるの……?」
(……シエロ、ファイト)
 時間は少し遡り、囮班が一人、シエロとナト。逆関節になっている機械の脚を器用に使いながら普通に歩いているかのごとく登っている。彼女はイメージプロジェクターを使ってSF暗殺者風のぴっちりスニーキングスーツへと変身済み。その服装を選ぶ際、悪者ごっこ、と本人は意気込んでいた。髪型もポニーテールに変え仮面も被り、口の中には呪符「牡丹灯籠」を仕込んである。
 その横、少し離れた場所をトレッキングセットを駆使し、登っているのが由利菜。H.O.P.Eの依頼ではない都合上、別人を装う必要があると判断し彼女もイメージプロジェクターでイブニングドレスを投影、黒髪茶眼のイタリア人女性風の姿に変身していた。
(もし日本人の父の血を強く受けたなら、私は黒い髪と茶色の眼を……)
 そんな思いが今の姿に反映されている。忍足袋で足音を殺し、闇に隠れながら移動。クリスタルエッジはライヴスを光に変化させて刃に纏わすことが出来るため、光源用だ。
 上の方に明かりはついていない。パーティーホールには現時点では誰もいない、ということだろう。
(館の内部情報は少ない。消音したスマホでマッピングを行いたい)
 リーヴスラシルがその様子を見て由利菜に提案をしている最中、まずはシエロが先に目的のガラス張りの壁に到達。そして背中に背負った全長131cm、携帯用の多連装ロケット砲、ブリーガーファウストG3で壁をぶち抜く。
 ドカーンッガッシャーンッ!!!
 と、ど派手な音と共にシエロはパーティーホールへと飛び込んだ。
「イヤッハァ! カチコミだー!!」
 大きな声と音にすぐにマフィア構成員が一人、パーティーホールへ向かってきた。電気がつけられる一瞬前に由利菜もホールへの潜入に成功。テーブルの陰に隠れ、自身は構成員から見つからない位置を保つ。
「カチコミだと?! どこの組のもんだ!」
 シエロの言葉にいきり立つ構成員。彼女は18.9cm程の二対一組の青色の銃に武器を持ち変える。その間にボスの寝室前から一人、倉庫から一人、警備にあたっていた構成員がパーティーホールに走り込んでくる。シエロはそれを確認すると青銃を構えトリオを発動し目にも留まらぬ早撃ちの乱射で弾幕と牽制をかけた。
「HAHAHAHAHA! 止められるもんなら止めてみなぁ!!」
(……ノリノリだー)
 これぞ悪役、そのもののノリで銃を連射するシエロ。急襲ではあったが流石はマフィアと言ったところか、すぐに敵も銃を構えシエロに向かい引き金を引く。ど派手な音を立て銃撃戦が始まった。
 由利菜は先に物陰を伝ってパーティーホールを抜け出す。
(……陽動の準備が完了するまでは、身を隠す)
 それがリーヴスラシルの意志だ。
 玄関ホールに辿りつくと玄関の扉は開きっぱなしで外の栄二の銃撃戦の音も聞こえてくる。一階にはもう構成員は残っていないようだった。ひっそりと二階を見つからないように確認する。一人、不穏な音に辺りを警戒している構成員が目に留まった。他に人影は見当たらない。
 次の瞬間、屋敷の電気が一斉にぶつっ、と切れた。
 構築の魔女が送電線を切断し電力供給を遮断したのだ。急遽暗闇に包まれる屋敷。エージェント達は事前に知っていた為、動揺はない。
 そして、これを機に潜入班が動き出す。


 深散がライヴスで鷹を生成し、緋褪(aa0646hero001)の「この暗さの中で鳥目じゃ何も見えん。ライトアイを掛けてもらえ」というアドバイスを受け大宮 朝霞(aa0476)がライトアイを鷹にかけた。その鷹で辺りの様子を伺う。鷹ならば崖側のパーティーホールの偵察も容易だ。
 朝霞は手にドッグフードを持ってわくわくとしている。情報収集の合間に買ってきたのだ。
「朝霞、そのドッグフードはなんだ?」
「マフィアのお屋敷といったら、たいていドーベルマンとかいそうじゃない? だからコレで見逃してもらうのよ」
 などと、ニクノイーサ(aa0476hero001)に突っ込まれていたが、朝霞は胸を張って言い切った。それが数時間前。
 一方、來燈澄 真赭(aa0646)は眠たそうな不満そうな顔をしている。睡眠時間を削っての仕事で気が立っているのだ。
「夜はね、寝る時間なのよ。そもそも騒ぎを起こして警備釣り出すならこんな時間の必要もないよね? うちの睡眠時間をかえせー」
(潜入班でよかったかも知れんが、警備が残ってた場合やり過ぎないように気をつけないとまずいか?)
「さっさと終わらせて寝るよ」
 と、ぶちぶち自身の英雄、緋褪とやり取りを交わしている。
 そんな潜入班三人を護衛という役割で見守っているのは恭一だ。何かあればまず自分が囮になり、潜入班がばれない様にする心積もりである。
「犬が2匹、まだこちら側にいますね」
 栄二の外の誘導で犬4匹と構成員一人は侵入口とした壁の反対側に釣りだされている。しかし、侵入口に選んだ側を徘徊している2匹だけ、動く気配はない。そういうふうに躾をされているのか。
 恭一が破魔弓でやれば早いだろう。と呟くも、それは事前に真赭に却下されている。極度の犬バカであり、優先度合いが犬>越えられない壁>動物>>>一般人の彼女が例え敵の番犬であっても傷つけることを許すはずはなかった。
「ドッグフード撒いてみますね!」
 言うより早く、朝霞は手にしたドッグフードを投げた。その音に犬が反応し、二匹ともそちらに向かう。だが、食べるわけではなく、辺りを気にしながら犬達はドッグフード周りの匂いを嗅いでいる。
 そこで屋敷の電気が消える。警報も鳴りやんだ。潜入開始の合図だ。
 電気が消えると同時に庭に飛び降りる朝霞。彼女は普段の共鳴時の服装を黒くしたものを着用している。彼女いわく、『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』なのだそうだ。
 セーフティガスを二匹、固まっている犬達に放つ朝霞。番犬は瞬時に眠りに落ち大人しくなる。
「よし! ……ふふふっ。今夜の私は、怪盗ブラック・ウラワンダーよ!」
(……それ、名乗ってしまっているんじゃないのか?)
 無事安全に犬を大人しくさせることが出来、満足げに、朝霞はさあ、これから突入、という気持ちを込めてポーズを決め前口上を放つ。しかし即座に相棒にツッコミをいれられた。
「あ……。それじゃあ怪盗ブラック・カプチーノってことで!」
(それはそれで、ブラックなのか、カプチーノなのか、どっちだ?)
「もう! さっきからニックはうるさいわよ! さっさと屋敷に潜入するわよ!」
 はたから見れば一人漫才だろうか。そんな朝霞の隣に他の3人も下りてきた。深散は使わなかった睡眠薬を含ませたガーゼを手にもって置く。もしかしたら栄二のところへ行った犬が途中で戻ってくるかもしれないからだ。そして、朝霞がその場の全員にライトアイを掛けたのち、足早に解放されている玄関へと4人は向かった。
 何事もなく玄関ホールへ入るとパーティーホールから銃撃の音がより大きく聞こえてくる。由利菜が4人の元へ2階から駆けてきた。停電直後、由利菜は寝室前にいた構成員を暗闇に乗じてライヴスリッパーを使い気絶させていた。玄関ホールにはもう敵は誰一人居ない。
「玄関ホールは大丈夫です。あの部屋だけ護衛が居て鍵がかかっているので重要な部屋ではないでしょうか」
「ボスの部屋ですね。行きましょう」
 鷹の目で事前にそこがボスの寝室であると知る深散は由利菜の言葉に頷き、2階のドアを見上げる。
「私はそれなら、お宝がありそうな場所を探します」
 そこで朝霞が分れる旨を提案する。ここで相談をゆっくりしている暇はない。鍵開けが出来る真赭と深散、由利菜はボスの寝室へ。朝霞と恭一は地下倉庫へ向かって別れた。

 地下倉庫へと足音を殺し下りていく朝霞と恭一。物音に恭一が待て、と朝霞を止める。倉庫に一人、構成員が残っていたことに気が付いたのだ。暗闇の中こちらはライトアイで姿をよく見ることが出来る。しかし敵もリンカー。ライトアイを使用している可能性もある。
 そこで、外で拾っておいた小石を構成員の向かって右側に投げる。注意が逸れた瞬間、急接近しライヴスリッパーを叩き込んだ。
 その場に崩れ落ちる敵。
 気絶させることに成功したようだ。恭一は構成員が目を覚ます前に縛り上げ猿轡を噛ませると倉庫の木箱の間に押し込めておく。
「大丈夫そうだな。行くぜ」
 他に足音らしきものは聞こえない。上から聞こえてくる銃撃の音が激しいものの、安全そうなことを確認し、恭一は朝霞を促して奥へと進む。辺りを見回し、重要そうなものを探しながら進んだ。そして奥の重たい金属製のドアを見つける。
 朝霞がドアを押したり触ったりして調べ始めた。恭一は他に敵が来ないか倉庫の入り口の方を見張っている。
「この扉、開かないね。壊すのは……ちょっと無理かな?」
(扉の鍵を探すか。こういうのは一番偉い奴が持っているんじゃないのか?)
 びくともしない扉に考え込む朝霞。ニクノイーサがアドバイスをするとよし、とライヴス通信機を取り出した。最初に全員と登録は済ませてある。
「こちら、ブラック・ウラワンダーです。ローザさん、聞こえますか?」
 そしてボス部屋に侵入したであろう仲間に通信を入れた。

 ボス部屋前、真赭が鍵師を使いドアの錠を解放する。深散と由利菜がそれぞれ構え、真赭が罠師を発動しながら扉を開ける。これですぐ罠があるかどうかが分かるはずだ。
 開けた瞬間、罠はなかったが銃弾が飛んでくる。幸運にも誰にも当たることはなかったが、それが合図であり由利菜が飛び込んでボスが手にした武器を剣で弾き飛ばした。そこへ深散のノーブルレイが唸りを上げふくよかな腹をした中年男性の体に絡みつく。
 3対1、そのことに気が付いたボスはそれ以上の抵抗をやめた。外の銃撃音はまだ続いていることから、更に仲間がいること、現状が不利なことを一瞬で悟ったようだった。経験からくる判断だろうか。
「盗掘して手に入れた宝はどこにありますか?」
「さあ? なんのことだか分からんな」
 淡々と問い詰める深散。しかし、ボスは答える気が全くない、という態度を見せる。拘束されているがすぐには殺されない、と判断したのだろう。そこへ朝霞から由利菜に連絡が入る。
「ローザ、ボスに倉庫の奥の扉の鍵を持ってない? って聞いてください」
 由利菜の偽名を呼びながら用件を伝える朝霞。由利菜が倉庫の奥の扉、と復唱した時、ぴくっとボスが僅かに反応し視線がサイドチェストに一瞬向けられた。それを深散は見逃さない。すぐにサイドチェストの一番上の引き出しから開けてみた。中には一つだけ装飾の派手な鍵が収まっている。
 そして、ボスには聞こえないように声を潜め、構築の魔女へと通信を入れる。
「宝剣の場所は地下倉庫のようです。鍵も入手したので今から向かいます。援護をお願いします。戦力過剰なようであれば、脱出経路の確保にも分かれましょう」
「分かりました。他の二人にも伝えます」
 そう受け答えをしすぐに通信を切る。すぐに栄二とシエロにも連絡が回るだろう。
「嘘を吐いていないとも限らないので、簀巻きのまま担いで倉庫とやらに向かっては? 人質にも使えますし?」
 振り返りただベッドを眺めて早く寝たいと思っていた真赭に取り出した鍵を渡しながら怖いことをさらり、と言ってのける深散。真赭は首を横に振った。
「嘘を吐いている可能性もあるので私はもう少しこの部屋を調べていきます。警察との癒着の証拠も見つかるかもしれませんし?」
 そう言ってボスをちらり、と脅すように見遣る。それにボスは苦々し気に眉を顰めたが特に何も言わなかった。その提案に由利菜も別の部屋を調べる旨を二人に告げる。必然的に真赭が倉庫の朝霞達に鍵を届けることとなった。
 偶然とはいえ、別れたことでよりスムーズに鍵の回収を行うことが出来たようだ。


 地下倉庫へ鍵を真赭が持ってくると早速、朝霞が扉を開ける。中はまるで美術館の一角のようにそれぞれがケースに収められ、綺麗に陳列されていた。その光景を見て、朝霞は構築の魔女が周囲に怪しいものがないか注意しておいてください、と言っていたことを思い出した。セラエノがコラードの行動を本当に把握していないのか、グラーベフルトと協力関係にあるかもしれない。
そんな可能性を口にしていた。だが、朝霞にも真赭にもすぐに分かるようなオカシイものはなにもない。杞憂だろうか。
 部屋の中を見まわっているとコラードが教えてくれた刃が赤みがかった刀身を真赭が最初に見つけた。白い布の上で赤が映える。ケースにかかっている鍵をさくっと開けて真赭は布に包み回収する。
(これが亜異世界化解除の宝剣か。研究結果がドロップゾーン破壊の一助となればいいが無駄足となると後が怖いな……)
 緋褪がそんなことを呟くが、真赭は眠気がそろそろMAXになりそうで、それどころではない。朝霞はすぐに回収完了、これから撤退、と通信機で仲間に連絡を入れる。
 眠い真赭だったが、この宝剣だけを持ち帰っては後々H.O.P.E絡みだとばれる可能性を考慮し、他のケースの鍵も開けていった。カモフラージュのため、と朝霞に話し、二人で適当に高そうなものをチョイスして手に抱える。
 倉庫入り口で見張りをしてくれていた恭一のもとに戻り、地下から階段を駆け上っていった。

 シエロは基本的にフリーガーファウストG3をぶっ放していた。しかし、それをうまく避けて接近してくる構成員ににやり、と笑って。
「カァッ!」
 隠し持っていた牡丹灯籠をブレスのように吐いて反撃する。
「隠し玉ってやつダゼェ!」
 などと、随時楽しそうに応戦していた。しかし、流石に幾らか浅い傷を受けている。そこへ宝剣回収成功の知らせが届く。敵はまだ2人辛うじて残っているが、フラッシュバンで強烈な閃光を放ちそのまま崖へ姿を眩ませた。
 栄二も時同じくして回収の知らせを聞き、壁を飛び越え表へと脱出を図る。
(大丈夫なの?)
 怖くて外の様子がよく分かっていないカノンが心配そうに栄二に声を掛ける。
「もう終わりましたよ」
 安心させるように答え、ちらり、と何を思ったか栄二は屋敷を振り返った。
「しかし、盗掘品だらけの屋敷からその盗掘品を盗み出すとはなんとも皮肉なものですねぇ」
 感慨深そうに彼は呟く。そして踵を返し、夜の闇の中、仲間との合流地点に足を急がした。
 そして、別れていた由利菜は近い崖の方から脱出。他は玄関ホールで合流し、恭一がしんがりを務め、後ろからの襲撃に備えながら真っすぐ庭を通って屋敷を抜け出した。その直後、遠くからパトカーのようなサイレンが聞こえてくる。
 どうやら警察か、もしくは増援が来ていたようだった。あれだけ騒げばそれも当然かもしれない。が、かなり迅速に回収に成功した為、増援と鉢合わせることは回避できた。


 コラード達が待つ宿の一室。無事、宝剣の回収を終え、戻ってきた面々が顔を合わせている。そこに真赭達の姿はなかった。安全な場所まで移動が終わると緋褪に体ごと丸投げしそのまま真赭は寝入ってしまったのだ。本当にギリギリで耐えていたのだろう。
「じゃあ後はよろしく。おやすみ」
 そう緋褪は全員に声を掛け、自分達が取っている宿へと、真赭をおぶって帰って行った。
「そうですか、残念。挨拶したかったな!」
 真赭達のことを聞き、前の依頼で彼女達と出会ったタオは残念そうに俯く。ちなみにゼファーは英雄なのに幻想蝶の中で寝ていた。
 その横でコラードは布から宝剣を取り出し中身の確認を熱心に行っている。長年追い求めてきた宝が目の前にあるせいか、彼の表情は明るく瞳が輝いているように見えた。
「もし、これが本物の宝剣なら……ライヴスを注いだら反応はあるのでしょうか?」
 出来ることならレートを上げライヴスブローで宝剣にライヴスを注ぎ込み様子を見てみたい旨を由利菜はコラードに告げる。
「どうでしょうか。実物は初めて手に入れましたし、ただ……壊れてしまっても困るので実験をするとしてもきちんとした施設で行うのがベストでしょう」
 古く柄も存在しない剣である。壊れる可能性を指摘され、由利菜は大人しく諦めた。
「しかし、本当に皆さん、ありがとうございます!」
 宝剣の確認が終わり、布に包んで大切そうに抱えるとコラードは全員に向かい勢いよく頭を下げた。
「こんな、自分で言うのもなんですが怪しい人間の怪しい頼みを聞いて頂いて、何と言っていいか……」
「いいんですよ! 顔を上げて下さい!」
「そうですよ! 困ったときはお互い様です!」
 元気に明るく笑顔でいう朝霞。タオも頷いて朝霞の後に続く。
「これからどうするのでしょうか?」
「アレクサンドリア支部に向かう、という話でしたがコラードさんお一人で向かわれるのですか?」
 深散と構築の魔女が次いでコラードに問いかけた。するとコラードはタオに宝剣を預かってもらいアレクサンドリア支部まで同行してもらう予定だということを話す。アレクサンドリア支部の大図書館にはライヴスや異次元理論に関する論文、AGWなどの新技術に関する研究資料などが豊富であり、宝剣の力を解き明かすには最適だろう、と。
「向こうに着きましたら、ご連絡します」
 もう一度礼の言葉を添えてコラードが全員に挨拶する。夜が明け空が白んできたところで解散の運びとなった。
 こうして、静かに誰にもH.O.P.Eエージェントが関わったことなど悟られることなく無事解決することができた。
 アレクサンドロス大王の宝剣は更なる研究の進展へと貢献することだろう。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 守護する魔導士
    東城 栄二aa2852
    人間|21才|男性|命中
  • 引き籠りマスター
    カノンaa2852hero001
    英雄|10才|女性|ソフィ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
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