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好きって言わないと出られない部屋
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/06/14 23:42:29
オープニング
●謎の部屋
相棒とともに目を覚ます。そこに広がっていたのは、何もない空間。
闇。闇。闇。
ここはいったいどこなのだろう。
不安に思っていると、部屋の中に、どこからか誰かの声が響き渡る。
「ここはあなたの精神世界。……いいえ、あなた方、というべきかしら。
あなたたちは、永遠にここから出ることはできないわ。
そう……恋愛でもしてくれない限りね!」
現れたのは、上から下までピンク色の、背の低い小さなご婦人であった。
なんていう言い草だろうか。
シリアスさが、一気に霧に霧散していく。
「ジューンブライドの妖精、あたしはカプチューン。仲間からはお騒がせキューピッドと呼ばれているわ!」
カプチューンはくるりと回った。
「絆って素晴らしいと思わない? 恋愛って素敵よね? あたしを満足させたら、この部屋から解放してあげます。言っておくけど、あたしは手怖いわ……! めったなことでは、掛け算だなんて認めませんからね!」
何を言っているのかいまいちわからないが、何とかする必要がありそうだ。
「さあ、目を閉じて思い浮かべてみて。あなたたちはどこの場所にいるの?」
「あなたたちは……何を考えているの?」
「やりたかったけど、できなかったことは、ない?」
何もない空間は、思い描いたとおりに変化していく――。
解説
●目標
この空間から脱出することよっ! 絆を見せてちょうだいっ!
ちなみに、夢落ちよ! 命の心配はないわ!
そんな都合のいい従魔がいるわけないじゃないの!
失敗? しないわよ!
記憶? 残ってるかもしれないし残ってないかもしれないわ!
●脱出条件
あたしが満足すれば、この異空間の壁が破れる(=目が覚める)わ!
または、あたしを倒すって手もあるけど……。
●プレイング
場所とシチュエーション、何をして絆を確かめるかを教えて頂戴ね!
夢の中だけの設定があったら、それも教えて頂戴ね。
英雄と能力者ペアごと、それぞればらばらの異空間になっているけど、相互に許可が取れている場合は、ん~!
4人だとか、ペアを変えての二人でもいいわ。
ペアの共有した異空間は、ほかのペアに漏れることはないわ。
え、え、おひとりさま!?
えっと……「あの頃は楽しかったなあ」なんて、思い出話のひとつでもすれば、あたしの涙腺が緩むんじゃないかしら。
●補足
・恋愛に限らず、カプチューンは常に守備範囲が広い。絆だろうと、友情だろうと、時には憎しみあいのケンカだろうと、独自の解釈を交えながら、”実質絆”判定が出る。親子の絆でも、戦友でもなんでもよい。
・ひととおりシーンが終わり、カプチューンは満足すると、拍手をしながら異空間に姿を現す。「元の世界に戻してあげるわ!」と言われるが、この際にぶった斬ることもできる。そうすると、一足飛びに異空間から出られる。
・あまりにきわどい、R-18に抵触するような内容だと、カプチューンは「カーット! カット! カット!」と言いながら姿を現し、強制的に仕切り直しとなる。
●禁則事項
・R-18の行為はできません。夢の中でも描写できないことはいつもと変わりません。
リプレイ
●奇妙な現象
「いったいどういうことっすかねえ、これは……」
「全く妙な空間だぜ」
異空間を見回す屍食祭祀典(aa1358hero001)と鬼嶋 轟(aa1358)。
食べるものはないか、と、屍食祭祀典はごそごそと異空間をあさる。
●ツラナミと38の場合
(ふむふむ……気だるげな殿方と、可憐な少女ね……。殿方の方は、裏の人間って感じがするわ。あら、女のコの表情が乏しいわ。ひょっとして、二人の仲はうまくいってないのかしら? 私がなんとかしないとね!)
異空間に飛ばされた、ツラナミ(aa1426)と38(aa1426hero001)。
何が浮かぶかと言われても、二人には何も浮かばなかった。静かなままに任せていると、気が付けばそこは、薄暗い路地裏だった。
「……おい。部屋っつってなかったか?」
ツラナミの言葉に、38は空を見上げた。天井はない。
ぼんやりと周囲を見渡す38。方や、無表情に煙草を吸い始めるツラナミ。ツラナミの煙草の火が、薄暗い路地で点と輝いた。
38が不意に口を開く。
『……ここ……覚え、てる。わたしが、来た……ところ。誓約、交わした……』
ここは、二人にとって大事な場所に違いないのだ。カプチューンはそっと二人を見守ることに決めた。
ツラナミはふっと煙を吐くと、路地を見据えた。ここは、ツラナミが38を拾った場所。38は、己の名前以外の全てを忘れた状態でこの世界にやってきた。彼女は数時間ここで佇んでいたのだ。――ツラナミと出会うまでは。
「あー……そういやこんな場所だっけか。20年近く前だっつーのによく覚えてたもんだ。……で? どうしろって?」
『恋愛、しろ……って……言ってた、けど。するの?』
「お前、恋愛だのかけ算だのやり方分かってんの? 俺は知らんぞ」
『………』
38は無言で首を横に振るだけだった。
「……どうしたもんかねぇ……」
二人は途方に暮れると、とりあえず、他に手はないか周囲をくまなく調査することにした。
路地裏は、延々と続いているようにも思えた。きれいな星空があったかと思えば、すぐに曇った霧に煙る。上空を鴉が横切った。散らかったゴミが、足元でがさりと音を立てる。
これは、かつての風景なのだろうか。それとも、ただただ似た場所であるのだろうか。少しずつ姿を変えながら、いつまでたっても路地裏が続く。
ツラナミと38は、しんとした中を、肩を並べて歩いていく。
しばらく歩いていくと、二人は元の場所に戻っていた。
出られないと分かって、気だるげな表情を浮かべるツラナミ。38がツラナミの名前を呼ぶ。
『ツラ』
ツラナミは足を止める。
『もし、今のツラに……あの時と同じく、誓約……持ちかけたら……受けて、くれる?』
「……愚問だな」
38の言葉に、ツラナミは即答した。
「確かに誓約を結ばなければ、一々面倒な手続きを踏む必要も、ガキを拾う必要も、エージェント登録する必要もなく、先代連中と同じように世間の隅でひっそりとやれていただろうが……このご時世だ。当時の世界触が始まった直後ならともかく、今じゃあリンカーでなければ差し支える仕事もそこそこある」
ツラナミは38の方へと向き直った。
「多少の手間賃を払っても、英雄は必要。なら、契約するのはお前だ」
(あら?)
静かに二人を見守っていたカプチューンは、はたと気が付いた。
この二人は、共に在るのが当たり前なのだ。証明も何もない。そう無意識下で思っている2人では、こんな事態にも、何をする必要すらないのだった。
隣にいることに疑問を持たない二人。その関係は、一見してあまりにささやかだった。
(絆を試す、なんて考えが野暮だったのね)
カプチューンはぼんやりと二人の”絆”に見入っていた。この暗がりの空間が、少しだけ優しく見える。
「これでもダメなら仕方ないな」
『……』
ツラナミは舌打ちをすると、38を持ち上げる。
二人は「恋愛っぽそうな行動」を片っ端から試してみるようだった。お姫様抱っこをしてみたり、額をくっつけてみたり。参考資料は、幼き頃の養子に読み聞かせた絵本等である。
次第に過激さを増していくその行動に、カプチューンは慌ててて帯びだした。
「カットカァーット! 待って! 待って! オッケーよ!!! ばっちりだわ!!!」
カプチューンが姿を現すと、ツラナミと38が素早く共鳴する。ツラナミの片目が紅く染まる。互いの「パートナー」としての信頼が、共鳴を確固たるものにする。
振り向きざまに、シルフィードでの一撃。確かな手ごたえ。
(やれやれ)
共鳴した二人は光に包まれ、元の世界へと戻っていた――。
●木霊と紫の場合
(イタタタタタ……。でも、負けないわ! 心は満たされているんですからね!)
並行世界での打撃に、カプチューンの映像が一瞬だけゆがむ。
(こっちは、優しそうなそうなお兄さんに、あら、しっかりしてそうな女の子だわ!)
この空間にいたのは、紫 征四郎(aa0076)と木霊・C・リュカ(aa0068)だ。
「年齢差だけでカットされたりしない? カプちゃんこれ大丈夫?」
どことなく苦笑する木霊に、カプチューンはくるりと丸を描くと、そそくさと奥へと引っ込む。
つんと消毒液のにおいが鼻につく。
ここは、昼下がりの病院の個室だ。――紫と木霊が、初めて出会った場所である。二人は、入院着を身にまとっていた。柔らかな日光が窓辺からそそぐ。
二人っきりだ。
「え、えーっと、リュカ」
「何だか不思議だね!」
この状況に動揺している紫に対して、木霊は、ただただ面白がっているようである。
木霊はベッドに腰掛けると、ぽんぽんと隣を叩く。おいで、というように。
ゆったりとした会話が続く。
天気がどうとか、日ごろはどうだとか、英雄はどうだとか、他愛もない話だ。
紫はいつもよりも少しだけぎこちない。木霊がいつも通りなのが、意識しているのを自覚させられるようでもある。
しばらくすると、木霊は、「それで、」と紫の方を向く。
「お互いに、思いを伝えなきゃいけないんだったっけ?」
「そ、そうでしたね……」
いよいよ、本題に入った。
(好きだって思ってるのは間違いないですし、それをただちゃんと伝えればいいのです。全然難しい……ことでは……)
紫は、膝の上のそろえた手を見つめている。木霊の顔を直視できないのはどうしてだろうか。
(……なんだか改まるとすっごい言いにくいのですよ……!)
「とはいってもねえ。うーん、これじゃあだめかなあ」
木霊は紫の、紫色の美しい髪を掬い取ると、軽くキスを落とした。
「ぴゃあ!?」
紫は思いっきり立ち上がると、ベッドの裏に隠れてしまう。
「あ」
(……!? 征四郎はなんで隠れてるのです……!?)
とくんとくんと心臓が早鐘を打っている。どうしてこんなに大げさに反応してしまうのか。頭を抱える。
「お兄さんせーちゃんとお話ししたいなー、出てきてくれないかなー」
(もう……!)
木霊の口調は、少し演技がかったものだ。
それでも、紫はすぐに戻り、膝に乗っかる。……いつもみたいに。
さらさらと紫の髪を梳く木霊。背中から感じられる木霊の声が、少しだけ真剣みを帯びる。
「あの時、この病室に飛び込んできてくれてありがとう。ずっと言いたかった。……寂しくて、怖くて、怯えてたんだ。憧れてた、明るい世界の方に最初に呼んでくれた。ありがとう、親愛なる小さな友人。大好きだよ!」
夢の中だからなのだろうか。木霊はいつもより少しだけ、たっぷりの蜂蜜をかけた様な、そんな愛と感謝の言葉を紡ぐ。
紫だって、同じ気持ちだ。覚悟を決めると、紫は自分なりの言葉を紡ぐ。
「リュカ、大好きですよ。いっぱいいっぱい暖かくしてくれた。今度は征四郎が、返していかなきゃって思ってるのです」
紫は身を乗り出すと、木霊の頬に軽くキスを落とす。
「おっと!」
少しだけ驚いた顔をして、すぐに木霊はくすぐったそうな笑みを浮かべる。
(恋する気持ちを正しく伝えるのは、まだ勇気が足りないけれど……)
これが、今のところの精一杯だ。
「素晴らしいわっ! なんて、なんて素晴らしいのかしら!」
ぱちぱちと、拍手の音が響いていた。
●枦川とキリエの場合
(ああ、微笑ましいわ、微笑ましいわ……!)
カプチューンは満足して、いそいそと次の空間へと向かう。
(このペアはっと……あら、とても好奇心旺盛そうな殿方と、面倒見がよさそうなお兄さんね! けど、なんだか、……今までの反応と違うわね)
この空間にいるのは、枦川 七生(aa0994)とキリエ(aa0994hero001)である。
「成程、今現在、私とキリエの精神は共有されているという事かね」
枦川はうんうんと頷きながら、好奇心に満ち溢れた目をあちこちに向ける。たびたび質問を挟みながら、積極的にこの空間の理屈を解明していく構えである。
「あー……すみません。先生の事は無視してどうぞ、お話続けてください」
やんわりと枦川をなだめるキリエ。構わず、枦川はまっすぐ向き直る。
「問いたいことは沢山ある、不可思議な現象だ、ならば解明したくなるのは当然だろう」
捕まって標本にもされそうだとでも思ったのかもしれない。ごゆっくりー、と言い残して、カプチューンは弾けるように消えた。
二人のいた異空間じみた部屋が、ゆっくりと姿を変えていく。そこは一見して、普通の部屋に思えた。
「ここは……私の自宅か。成程、私の記憶の中でも最もキリエと一緒にいる場所だ」
枦川は家具に触りながら、頷く。
(ソファ、テーブル……ここはリビングだな。リビング以外は……ああ、ドアが開かないか)
キリエはガチャガチャとドアノブをひねってみるが、案の定、開く気配はない。どうしたものかと思案していると、「キリエ」と彼の名を呼ぶ声がした。
「さて、精神世界、という事は、だ。キリエ。今現在ここに在る私達は、生身ではない、そこでだ」
枦川はどかりとソファーに腰かける。
「……」
先生がまた面倒なことを言い始める予感がした。
「”ここから出ない”事が可能かどうか、を試してみよう」
(……あ、本当に面倒なこと言ってる)
キリエにかまわず、枦川はとつとつとしゃべる。
「精神体であれば空腹や眠気はないだろう、現実にリンクしたものであれば感じるかもしれない。ここで長期間を過ごした場合、現実にどう変化が起こっているのか。気にはならないかね?」
(先生、本気で出る気がなさそうだし。でも絆を確かめる、って言ったってなあ…うーん、これ、カプチューンさんはきっとどこかで見てるか聞いてるかしてるんだよな)
キリエはきょろきょろと辺りを見回すと、こっそりと呼びかけてみる。
「カプチューンさん、先生がこの調子なので、どうにか僕一人だけでも出してくれませんかね」
それを耳ざとく聞きつけた枦川は、心底不思議そうな表情を浮かべた。
「……? 何を言ってるんだ、キリエ。ここでの時間が無限なら、お前と一緒にいてこそ価値がある」
「なんでこういう時だけ聞いてるんですかね!? というかそれってどういう、あー……はい、まあ、その。はい…それが誓約、ですもんね」
いずれ解明し、される関係。枦川はソファーを指し示す。
「我々には会話が足りない、人間一人、理解しようというのだから有限な時間では足りる筈がない。ならばこの場は、その為の空間だ」
(先生、あなた本当に馬鹿な人だな。貴方はもう僕以上に、僕の事をわかってるでしょうが)
キリエは重々しくため息を吐く。
「いや、わかってないのかな……」
「どうかしたかな?」
(溜息も出ますよ、そりゃあ)
「座りなさいキリエ、ここならゆっくりお前を解明できる」
「……お断りします、タイムセール逃したらどうするんですか」
カプチューンは考えていた。
一見して、探求心にあふれる人物に見えるけれども、枦川の好奇心は、身を滅ぼしかねないほどのものにも思える。キリエが、社会との接点を保ち、それをつなぎとめているようにも思える。
逆もまたしかり、キリエもまた、おそらくは彼に救われている部分があるに違いない。
(これって、確かに絆よね)
拍手をしようとしていたカプチューンは、少しだけ手を止める。
もう少しだけ、二人の時間を見ていたいような気がした。
「ここから出ない」という選択肢。カプチューンは、そんなこと考えてすらいなかった。
カプチューンが出て行かずとも、夢は、どうせ、――覚めるのだから。
●ガルーとオリヴィエの場合
(改めて思ったけど、当たり前だとか、日常もいいものよね)
知ることは。面白い。――たしかにそうだ。カプチューンは次の世界へと向かう。
(あら……今度のペアは、さっきの病院で見た子たちの片割れね。あっちが陽だまりなら、こっちはまた別の空気があるわ。お互いに、強く信頼しあってる気はするんだけど……うーん?)
木霊と紫の英雄、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)とガルー・A・A(aa0076hero001)がここにいた。
そこは、パーティー会場のような世界。二人には、それが以前、仕事で恋人を演じた空間であると分かっただろう。
『前の時は七五三だっつってからかったが、改めて見ると似合ってるよな。流石に七五三は言い過ぎたわ七五三っていうより……』
最後まで言ってのける前に、オリヴィエが拳を握った。
『痛い痛いがっつり殴らないで!』
ブラックスーツを着こなすガルーは、縮こまった。
『あんたは相変わらず柄が悪いというか、胡散臭い』
『まぁ何だ、しっかり恋愛して見せれば良いんだろ?』
思い切りよく言うガルー。
(こういう時思い切りが良い点は尊敬できるような、できないような)
オリヴィエはそんなことを思うのだった。
以前も仕事で恋人は演じたが、しかし、今回は仕事ではない。オリヴィエのやる気は底辺だった。外には出たいけれど、言われた通りにするのは何か嫌である。
恋人らしい、と言われると。オリヴィエは、ベタな知識しか持っていない。
(恋文? 手を繋ぐ? それとも……)
『っと、なんだ、つながるのか?』
ガルーは、着信があった自分の携帯電話を取り出した。そこには、目の前のオリヴィエから送られた果たし状が届いていた。
『……』
恋愛っぽいことを考えて、ここにたどり着いたのだろう。
オリヴィエは何をしたら良いかわからず、目をそらした。
『……き、……嫌いじゃない』
オリヴィエは、とりあえずの『好き』の一言も中々言えない。それに対して、ガルーは割り切っているようだった。
『ああ?』
ガルーは耳元に顔を寄せると、囁く。
『オリヴィエ、愛してるぜ』
『!』
前髪を払って、額にキスをしてみる。とりあえず、オリヴィエはガルーの腕に爪を立ててみた。
『痛ぇ。おい、さっきからどういう知識だ』
ガルーは片方の手で壁を押す。逃げ道をふさぐような格好になった瞬間、オリヴィエは目の前の腹にパンチを食らわせる。
『ぐおっ……』
ただ、そこに腹があるから。反射的な行動だった。
ガルーは腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。
(そろそろ、決めるか)
『……』
なんとなく、ガルーの真剣さが増した気がした。
(無表情が怒ったり拗ねたりするのが可愛くていつもはからかってばかりだけど)
ガルーは少しだけ息を吸った。
『好きだ、リーヴィ。誰より信頼できるし、気に入ってるし。成長するのを隣で見ていたいと思ってる』
本心だった。この想いがなんなのかまだわからない。
(大切だってことはわかる。今はそれじゃ駄目だろうか)
作られた言葉じゃないからだろうか。オリヴィエは、愛の言葉にどこかもやっとする物を心に抱く。
(……なんかこう、前の時と雰囲気が違う?)
ガルーもまた、オリヴィエの態度にうろたえているようだ。
『リーヴィ、うんとかはいとか……このままじゃ此処から出られねぇぞ?』
ガルーは頭を抱える。
『……ダメそうだったら、せめてオリヴィエだけは返してあげてくれ』
(そういうところが……)
オリヴィエがゆっくりと動く。頬にキスを落とした。
『!』
ガルーは驚いた顔をした。
『……もし戻って、どっちも今日のことを覚えてたら。そん時答え合わせしようぜ』
『……、あんたが、何も覚えてないことを祈ってる』
(気づかなかったことにしよう、……それで、いつも通りだ)
この情が一体どういう形をとろうとしているのか、緩くでも自覚してしまえば酷く不毛な物で。
ぱちぱちぱちと、拍手が降り注ぐ。甲高い声。
彼らが、元の世界でこのことを覚えていたのかどうか――それは、彼らのみぞ知る。
●天野とルナの場合
(とんでもないものを見てしまったわ。もう、10年先まで妖精やってけそうね!)
カプチューンは感動のあまりハンカチをかむ。
(お次は、と……あら! 純情そうな高校生と、百戦錬磨の雰囲気のお嬢さん。好き! そういうの好きよ! 早速、応援に回りましょう!)
次の異空間に現れたのは、天野 一羽(aa3515)とルナ(aa3515hero001)だ。
「……なんだこれ、今日ルナと通った道だ。確か、教会があって結婚式やってて……。あ……。」
天野が記憶を手繰り寄せると、ちょうど教会の鐘が鳴る。
「うふふっ♪ 一羽ちゃん、あれが結婚式っていうのよね? そ。今日、教会から出てくるお嫁さんとお婿さん、見たわよね♪」
ルナはにこにこと笑う。
「いいなぁ。お嫁さんのドレス、綺麗よねー。ウェディングドレスでしょ??」
(ウェディング、ドレスかあ……)
遠くで、ライスシャワーを浴びる花嫁と花婿が笑顔を振りまいている。
天野は、ルナがウエディングドレスを着ているところを想像してみた。純白のドレスに、ふわりと美しく編み込まれた金の髪がたゆたうような光景……。どんなドレスでも、きっとルナはこの上なく上手に着こなすだろうと思えた。
そんなことを考えていると、ルナは、くるりと天野に向き直る。
「ね、一羽ちゃん。私たちも結婚しましょ♪」
「えっ!? いや、あのね、結婚てそう簡単にできるものじゃ……」
天野はたじたじと数歩下がる。その様子に、ルナは不思議そうな表情を浮かべた。
「……?? 結婚って、好きな人同士がするんでしょ? 私は一羽ちゃん大好きよ??」
そこまで言うと、ルナは少しだけ言いよどむ。
「……ひょっとして、私のこと、嫌い??」
元の世界でのサキュバスだったルナである。経験値は無限大ではあるが、ことさらにピュアな恋愛となれば、話は別だ。
天野がどう答えたものか迷っていると、みるみると悲しげな顔になっている。
「いや、そうじゃなくってね。ルナのことはその、ええと、ボクだってごにょごにょごにょ……」
語尾は、小さく尾を引いて消えていった。ルナの表情は晴れない。焦りが、だんだんと言動をあやふやにしていく。
「えーと、うーん……。ほら、結婚って男のほうは18歳までできないし……」
「えっ、じゃあ、18歳になったら結婚してくれるってことよね♪」
その言葉に、天野ははっとした。言質を取られた。
「……あれっ?? いや、ええと……うわっ!?」
「やったぁ♪ 大好き!!」
嫌なわけではない。それだけにどうしたものかと思っている隙に、ルナが天野の腕に飛び込んできた。柔らかい感触が腕に伝わってくる。
ルナは、天野に抱き着いてすりすりと頬を寄せる。
「あと2年なんてあっと言う間よー。これはあれね、花嫁修業しろってことよねー♪」
はたと目が合った。
ルナは、不思議な表情を見せた。
「ね、一羽ちゃん……」
ルナは、目を閉じて天野に顔を寄せる。同居しているとはいえ、天野とルナはまだキスもしたことがない関係である。
心臓の音が耳元まで聞こえる。目を閉じた。重なるか、重ならないかと言ったとき。
「コングラッチュレイショ~~~ン!」
パアン、パアンとクラッカーの音。……誰かが叫んだ気がする。誰だっけ?
(夢……か)
目を覚ました天野は、隣にルナがいることに気が付いた。
「……えっ、いや、あれっ?? ……って、うわあああっ!? なんで隣にいるのさ!?」
「んー、おはよー。朝のちゅー、いるー??」
何も変わった様子はない。夢の中での思い出が頭の中を駆け巡っていく。少しずつ思い出すと、じわじわと恥ずかしくなってきた。ルナもまた、この不可思議な現象を覚えているようだ。
「んふふ~♪」
枕に顔をうずめる天野の横で、ルナはとても幸せそうな顔をしていた。
エージェントたちが見た、奇妙な夢。果たして、あれは現実だったのだろうか――。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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