本部

広告塔の少女~いのり歌う鎮魂歌~

鳴海

形態
ショートEX
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2016/06/19 23:36

掲示板

オープニング

● ECCO再襲来
「いやあ、よかったなぁ、この前のPV。けっこう売れてん、うはうはやったわぁ」
「そう、それはよかったわね」
 遙華は、また突如訪れたECCOに紅茶を振る舞いながら、適当に相槌を打った。
「やっぱ戦闘は生が一番ええなぁ」
「結構大変だったのよ、貴方に従魔を近づけさせないように工夫したり」
「そこは、感謝してます……」
 そうECCOは紅茶を一口含むと本題に入る。
「それでPV第二弾でなぁ、うちの新曲任せたいんよ」
「ふーん、今度はどんな感じ?」
「今回は、別れの歌。死んでしまった大切な君に思いを伝える曲、かなぁ」
 遙華のティーカップを手に取る動作が一瞬止まる。
「それは、前回からの流れを汲んだ曲?」
「ん? ちゃうなぁ。イメージとしては、高校生三人組の一人が死んでしまって、それぞれ思いを打ち明けるって曲やんなぁ」
「しっとりめ?」
「せやんなぁ」
 てへへと笑うECCO。最近では勢いのある曲を歌うことが多かったが、そのクリスタルボイスは心情を歌うときに真価が発揮されると評判だった。
「歌って見せようか」
 そうECCOはいたずらっぽく笑うと、胸の前で手を組んで会議室で歌って見せた。

 在りし日の記憶を。ここにおいて歩むこと。
 君は笑うだろうか、意気地なしと。
 痛む胸引きずって、歩けない僕を君は笑うだろうか。
 

「これは曲の出だし」
 まるで会議室全体が楽器になってしまったように、震える、そんな感覚を遙華は受けた。
「そんでな、今回はうちの役もやってほしいねん」
「あなたはPVに出ないってこと?」
「今回は用途がちがくてな、ライブ用やねん」
 訊けば、ライブで歌っている後ろで流れているPVが欲しいのだという。
 いわば二人で歌っているような、演出にしたいと。
 まぁ遙華はいろいろその演出の効果について話をされたが、半分もわからなかった。
 勉強しないとなぁと思いながら、細かい調整に入る。


●PVイメージ

 今回は高校生三人の友情、そして別たれてしまう道、がテーマ。
 なぜ三人なのかというと、対比を演出するため。
 まず登場人物が三人『あなた』『僕』『私』
 ちなみにこの呼称で性別を特定するわけではなく、女子男子どちらがやっても問題ない。
「一人目、せやなぁ『僕』にしとこか。『僕』はその死を受け入れてしまったがために悲しみに飲まれてしまうんよ」
 仲の良かった友達の死の整理ができず、毎晩うなされて起きる『僕』は自分を抱きしめ『あなた』のいない生活にひたすら耐える。
「対して、『私』は死から目をそらしてしまうんよ。まるでそんな人は最初からいなかった、そんな風に振る舞うことで、心が痛まないように一生懸命になるんやな」
 そんな『私』と『僕』は徐々に対立するようになっていく。学校一番の仲良し三人組。その称号はもう過去の物。
「そんな三人のところに『魔女』が現れるんよ」
『魔女』とは見透かしたような言葉で、青年たちの心を暴いていき、最後に『あなた』の残した思いを伝える人物だという。
「三人の担任でも、『あなた』のお母さんでも、普段の役回りは任せるわ。まったくの謎の人にしてもいいとおもうしなぁ」
「でな、『ECCO』つまりは歌を歌う役やな、この三人組の家族のだれかってポジションにしてほしいんよ」
 身近で物語の行く末を眺めながら歌うという構図にしたいのだという。
「時に助言を、時に温かく見守り、一連の事件を優しく見守りながら歌う感じで。もちろん役として登場してもらってええ。これが二人」
「ふたり?」
「この曲、本来であればうちと。そしてうちの友達と謳うはずだったんよ。でもな、もう……」
 遙華は思い出していた。先月の愚神暴走事件。それに巻き込まれたアイドルが確かいたはずだ。
「ごめんな、漠然と語ってしまったなぁ。纏めようか」

● 大まかな流れ
 『あなた』の死。告別式。雨の中墓の前から動かない『僕』そして早々に立ち去る『私』言葉少なく、二人の道はここで別たれた。
 そこから数日の時間が流れる。その時間を『僕』は胸を痛ませながら、『私』は僕のことを見苦しく思いながら過ごす。
 やがて、『あなた』との思い出の品を捨ててしまおうとする『私』に『僕』が激怒する。これまでにないほどのケンカに発展した二人の間に。
 これまで傍観するだけだった『魔女』が現れる。
『魔女』は二人に見せたいものを見せると言って彼らを山奥へ案内する。そこには小さな病院があり、そこに『あなた』が最後を迎えた病室があった。
 そこには三人で笑って移っている写真がそして『魔女』は二人に手紙を手渡す。
 そこには震える字で二人に当てたメッセージが込められている。

 *メッセージ内容は希望がなければ下記の通りになります。皆さんの意見によって変えられます。*

『僕』へ、君が私がいなくなってしまったこと、そんなに悲しんでくれるなんて、少し嬉しいと思ってしまう。そんな私は悪い子かな。
 でもね、君が苦しんでる姿は見たくないよ。
 だから、こう考えてみようよ。私は度に出たんだ。
 つらく厳しい旅だけど。いつか姿を変えて君に会いに行くよ。その時笑ってくれていないと嫌だな。
 また、私たちは出会えるから。だから今すぐ私を振り切る必要はないよ。
 前だけ向いて。

『私』へ、私の死で足を止めないのはあなたの強さ。そして私の憧れ。
 私はそれを責めないよ。
 でもね、無理をしてるなら、泣いていいんだよ。一度泣いたくらいじゃあなたが折れないのは私が一番知ってる。だから泣いてもいいんだよ。
 

 この手紙がどうやってもたらされたかは『魔女』しか知りません。黄泉の国に行ってもらってきた、とかの超設定でも構いません。なにせ『魔女』ですから。

歌詞は一番が『私』の心情メイン。
 『あなた』の死を受け入れられない『私』をあなたはどう思うか。
 笑うだろうか、怒るだろうか、どちらにせよ。『あなた』との思い出をなかったことにする『私』の行為をどうか許してほしい、『私』はあなたの思いと決別して生きていく。
二番は『僕』の心情メイン。
『あなた』の死を受け入れられない、『あなた』のいない現実が、毎朝目覚める度に押し寄せて、夜眠るときにはつらくなるほど染みついて。
『僕』はいったいどこを目指して生きていけばいいのだろう。『僕』はこれからどうして生きていけばいいのだろう。

解説

目標。PVを成功させるべく、演じる

曲名 氷の鯨

登場人物
『あなた』『僕』『私』『魔女』『ECCO1』『ECCO2』
 大まかな流れはOPで説明した通り。外枠しか埋まっていないので演出を追加することは可能。
 今回は能力者と英雄一組につき。名前付きの役は一名のみ。
 余った能力者、英雄はモブキャラや、撮影協力をしていただくことになります。

登場人物説明
『あなた』性別未定
 死んでしまった仲良し三人組の一人。死因はお任せ。
 僕と私の思い出のシーンでしか出番がないが、二人にたくさんの言葉を残す、いわば影の主役。
 カットシーンで多く登場。歌唱シーンに多く登場予定。

『僕』性別未定
 死に傷つき、終わることのない悲しみに飲まれてしまった主人公1
 次第に精神を病んでいく、さらに『私』が悲しんでいる素振りを見せないことを責める。

『私』性別未定
 死から目を背け、まるで『あなた』のことなんて忘れてしまったかのように振る舞う主人公2
 実際にその痛みを忘れているわけではなく、ふとした日常に『あなた』の面影を見て胸を痛ませている。

『魔女』可能であれば女性
 青少年導く大人ポジション。『あなた』からのメッセージを受け取っており、それを渡す役目を担う。メッセージの中身はこう

『ECCO1』『ECCO2』性別未定
 三人のうちの家族で会ったり、特に親しいものであったり。
 物語上はわき役だが、歌っているのはこの人。
 劇中には、ECCOたちだけで歌うカットがたくさん入る予定。
 歌を歌うときの演出であったり、主人公たちにかける言葉であったり、魔女の補佐で会ったり、劇中では一番自由度が高い故に難しいキャラクター。
 ECCO1,2の希望があれば、歌詞に自分のフレーズを入れることが可能
 演奏ができるなら、演奏もしていただいて構わない。

リプレイ


 OP ~お別れの日~


 誰にも大切な人がいる。別れを経験した人も、この世には沢山。
 だからこれは君たちに送る、そして君たちに送られることになる歌。

 雨が降っていた、悲しみの雨。全て押し流すような激しい水の音と、全身に感じる冷たさ。鬱陶しく張り付くシャツの感触。
 そしてそれら全てどうでもよくしてしまうほどの深い、深い悲しみ。
 墓地は独特の雰囲気に包まれている。背の低い墓石には『アル(aa1730)』という名前が刻まれており、その前には少女が座り込んでいた。
 その名を愛おしそうになぞりながら、美しい黒髪をただ雨風にさらされるままに揺らして、その現実を嘆く。
「いつまでそうしているつもりなの?」
『ナガル・クロッソニア(aa3796)』の声に『水瀬 雨月(aa0801)』は一瞬顔を上げ、振り返り彼女を一瞥した。しかしすぐに顔を下に向け。そして黙り込んでしまう。
「風邪、ひくよ?」
 それは、同じく雨に打たれるナガルも同じだろう、彼女だって傘はささずに長時間立ち続けているのだから。
 ナガルは雨月の背を見つめ、そして次いで空を見上げた、そして再び目を閉じる。
 その頬を雨粒が伝っていく。
「心に、穴が開いたようよ。今でもまだ信じられない。でも現実なのよね……」
 雨月は絞り出すように言った。
「実感がわかないわ、明日また部室に行けば、あの子があの弾けるような笑顔で、私たちを迎えてくれるんじゃないかと、思ってしまう」
 雨月は鮮明に思い描くことができた。
 蜜を溶かしたような夕暮れの教室。
 彼女がピアノの上から飛び降りて、そして楽譜をてに近寄ってくる。
 そして満面の笑顔でこういうのだ。
『今日は、何を謳う?』
 そう問いかけるアルの顔、しかしその表情は読み取れない。記憶の中の彼女はなぜか目元までしか映らないから。
「やめてよ」
 その言葉を突っぱねるように、ナガルは冷たく言い放つ。
「いつまでも、そこでめそめそしてればいい、私は。行くから」
 そうナガルは、雨月の言葉に気を悪くしたのか、踵を返して墓地を早々に立ち去ってしまう。
 二人をいばらのような孤独が、隔て包み込む。


「世界は、残酷にも姿を変えるものよ」


 そう女性の声が、響いた。
 墓地に、空に、世界に。
 やがて鉛色の雲に亀裂が入り。赤々と燃える夕陽が姿を見せる。
 その光が差し込む墓石は雨粒で煌き、その墓の前に雨月はいなかった。

「それでも、人はそう簡単に変われはしないのよ」
 
 その声が響き、夕焼けが滲むように世界を照らす。
 ぼやけた視界の向こうに。少女たちの笑い声が聞こえた。
 しかし、その声に表情をしかめたのはナガルだ。
 場面は教室、たなびくカーテンの向こうに開かれた窓が見える。
 彼女は手にした譜面の切れ端を教室の窓から空に舞わせる。
 対して雨月がいたのは音楽室、そのその青い瞳いっぱいに涙をため、瞬きすると其れがピアノの鍵盤の上に落ちる。
 彼女は痛む胸に体引きずるようにして教室を後にした。
 
『僕』の涙。『私』の苦しみ。それが世界に満ち足りた時、音が聞こえた
 
 いつの間にか音楽室には『世良 杏奈(aa3447)』が佇んでいた、その視線の先には『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が『榊原・沙耶(aa1188)』と共鳴し鍵盤に指を置いている。
 杏奈は悲しげに微笑むと、風で舞い込んできた楽譜の切れ端を手に取って、雨月の涙を掬い取る。
 次の瞬間、杏奈が手を振るうと譜面と涙が光り輝く無数の粒となり、周囲に広がったそして、その粒はすぐに地面に落ちるように思われたが違う、空中で一つ一つが停止し、煌きながら形を変えていく。
 ポリゴンのように形を変えながら広がって。繋がって、やがて一体の人形が生まれた。
 その体は傷つき、関節は錆び、くすんだ装甲の痛々しい姿『黒鉄・霊(aa1397hero001)』だった
 黒鉄は肩に背負ったスピーカーに自身のギターを接続する。
 音楽室にキィーンと音が響いた。
 そして沙羅のピアノ伴奏が始まった。沙羅が緩やかに口を開く。

《『あなた』の死を受け入れられない 『私』をあなたはどう思うかな。
 笑うか怒るかそれすら『私』にはわからなくて》

 これは『僕』と『私』が『あなた』と別れる物語。

一章 『私』
 
   懺悔と自責の念に苛まれた様に、重々しく悲しげなペサンテ。
   鋭く響く悲しみと息苦しさが鮮烈なメロディ。
   沙羅の声はどこまでも高く伸びた。
   その声は人類に許されたそれを越え、神代に届くまでの響きを見せる。
   沙羅は銀色の髪で目元を覆いながら黒鉄に視線を向けると。
   黒鉄の指がギターの上を滑る。
   者悲しくも突き刺さるような旋律が世界を満たしていく。 
   これは『私』が『あなた』を忘れるまでの一楽章。

   *   *

 彼女が死んだ。ちょっとした病気であっさり死んだ。
 昔から体が弱くて、学校を休む日はあった。だがこんなことになるなんて夢にも思わなくて。
 彼女自身、いつかこの世界を去ることになるなんて一言も言ってなくて。
「なんで……私に言ってくれなかったのかな……」
 彼女が休んだ日なんかは、ナガルと雨月はさみしいね、なんて笑ったものだった。
 けれど、そんな日々は今日でおしまい。
 もうその日を思い返すこともしない。だって、私は……。
「なんで、部室に来ないの?」
 その声で物思いから帰ると目の前に雨月がいた。
 ここは学校の廊下、時刻は一限目開始前。彼女とはクラスが違う、だからこんなところで会うなんて自分に会いに来たから以外に考えられなかった。
 普段冷静な彼女からすると珍しく、朝のHRが終わると同時に飛んできたようだ。
「部活、やめるの?」
 部活とは、彼女たちが所属していたゴスペル部。
 雨月、ナガル、そして。もうすでにいなくなってしまった少女アルは三人だけの同期であり、ずっと一緒にいたいと願えるほどの友人だったのだ。
 だけど、今は違う、そうナガルは眉をひそめる。
「雨月こそ、部室に行かない方がいいんじゃないかな?」
 ナガルは笑って見せた、冷たく、鋭利に。
 雨月が傷ついていくのがわかった。けど止められない。
 だって、自分が雨月を慰めることなんてありえないから。
 もう、忘れると誓ったんだから。
「めそめそしている人がいたら、練習の邪魔になるよ?」
 そう、ナガルは雨月の隣をすり抜けて歩き出す、体育の準備をしないといけない。ただでさえ雨月のせいで遅れてしまったのだ、急がないと。
 そう、思いつつもナガルは足を止めてしまう。
 そして、一向にそこを動こうとしない雨月に言った。
「ずっと、そこに突っ立ていられると、みんなの邪魔よ」
 そして今度こそ本当に、ナガルはその場を後にした。

 ナガルは部活にはもう一週間も行っていない。そろそろ傷心では許されなくなるころだ。
 だが、それでもいいのだとナガルは思った。アルがいなくなってから、途端に全てがどうでもよくなってしまった。
 それどころか、今は謳うことが忌まわしい。彼女と共に愛したものすべてが、とても憎らしい。
 やめてしまってもいいか。
 そう思って、部活が始まらないまだ早い時間に、部室へと向かう。。
「あら、出てこれるようになったの? もう大丈夫?」
 そう沙羅は鍵盤を弾く手を止めてナガルを見つめた。杏奈は黙ってナガルを見つめている。
「いえ、今日は大事な話があって……」
 そうナガルは手元の紙を一枚差し出して見せる。杏奈はそれを拒否することなく受け取って行った。
「誰でも、心から力が奪われることはあるわ。だから休むことは悪いことじゃないのよ」
「でも、私もう、歌えないんです」
「それは違うわ。歌えないなんてことはない。それにあなたは謳うことをやめると、きっとだめになってしまうと思うの、よく考えて」
 ナガルは思った、謳わなければだめになるというのはどういうことなのだろう。
「まるで、私にはゴスペルが必要だって言ってるみたいですね」
「そうじゃないの?」
 杏奈は首をかしげる。
「別に、私と歌に関係はありませんから、あの子が無理やり私と雨月を入れただけです」
 そうナガルは二人の静止を振り切って退出してしまった。そして去り際に暗い顔でこういった。
「もう、続ける意味もありませんから」

   *   *

 その夜ナガルは夢を見た。
 教室、暗くなる一歩手前の紫色の空、白色蛍光をともして、部活のあと、なんとなくわかれるのが名残惜しくて、三人は教室で話をしていた。
 くだらない話しかしなかった、国語の先生がかつらだとか、隣のクラスの子が付き合っているとか。そして。彼女は突然言ったのだ。
「君の声、綺麗だね。謳うのすきでしょ。もっと聞いていたいな」
 最初は何を言っているのかと思った。あまりに場面に似つかわしくない言葉。
 しかもそのセリフは一度、聞いたことがある。
「一緒にゴスペルしようよ」
 そうそれは、入学式、彼女に初めて話しかけられた時のセリフで。
 自分の人生を変えたセリフで。

「アル!」

 そう自分の叫びで目覚めたナガル。そして目覚めたナガルを襲ったのは不快感だった。
 喉が干からびていて、唇が張り付く。そして押し寄せてくる、絶望感、喪失感。
 それにナガルは。四つん這いになって耐えた。
 嗚咽をかみ殺して、涙が流れないように拳を握って耐えた。涙腺を閉めるように強く目を瞑り、沸き上がる思いを押さえつけ、そして何度も何度も繰り返し言った。
 アルはもういない、忘れないといけない。ここにおいて行かないといけない。
 雨月のように、涙して足を止めてはいけない。そのために、自分のすべきことはなんだ。なんだ…… 
 次の日、全ての楽譜を返すために音楽室へナガルは足を運んだ。
 幸い授業の狭間で音楽室には誰もいない。
 そう音楽室にはだれも、ただ、廊下の物陰で雨月はそれを見ていた。
 ナガルを見つけたのは全くの偶然だったけれど、抱えていた楽譜に見覚えがあって後をつけてきてしまった。
 雨月はナガルが姿を消したことを確認し、音楽室に入る。
 そこには、見慣れない不思議な何かが立っていた。
「え? ロボット?」
 魔女が作った傷だらけの人形。黒鉄がゆったりとした動作で一冊の楽譜を手渡してきた。
 その楽譜を受け取るときに手が重なる、直後流れ込んでくる。ナガルの感情。

『大好きだったんだもの。『あなた』の歌が!』

「あなた……まさか」
 そう顔を上げた時には、雨月の前から黒鉄は消え去っていた。
 そして雨月は楽譜を開く。
 その楽譜は、三人で次の大会歌おうと、コピーして、自分たちで綴じた。手作りの楽譜。
 それは三人の努力の証、最初から最後まで、三人の走り書きがびっしり書かれていた。みんなでお互いの声を聞きあって書き込まれた注意やアドバイス。
 その最初の一ページが途中まで切り割かれていた。
「ナガル、あなた……」
 途中まで。
 そう、ナガルには最後のページまで、破くことができなかったのだ


 二章 『僕』

   喪失感と『私』への憤り。喪失感から憤りを表す様にクレッシェンド
   強く強く、ギターの音がとがり、聞くものの耳に残るようなサウンド。
   壊れていくような強さが。『僕』と『私』の別たれていく様を表現してい    た。
   ギターは踊るようにステージの中央へ。祈るように佇む少女へ手を伸ばし。
   少女は首を振ってその手を取ることを拒否する、代わりに。
   その少女は「ごめんね」と言った。
   これは『僕』が『わたし』と向き合うまでの第二楽章  

   *   *

 二人の出会いは今日のように雨が降る日だった。
 入学早々の行事やら、何やらで人に合わせるのに疲れてくたくたの雨月は、帰りのバス停で。それを待つ間にうとうとしていた。
 コクリコクリと船をこぎ始めたそのあたりだったろうか。
 幻覚のように薄っぺらい夢から目覚めてみる隣に座っていたのがアルだった。
「君の声綺麗だね」
 そうアルは雨月に唐突に話かけてきた。
 雨月は人見知りをするタイプではなかったが、このぐいぐいくる感じに面食らってしまって、素直に言葉を返せない。
 そこから二人はゆっくりと話を始めた。
 このとき、雨月はアルのことが苦手だったように思う。このように明らかに騒がしいタイプは関わる前に一閃引いてしまうのが、雨月だ。
 だが、言葉を交わすうちに雨月は、アルのことがだんだんと好きになっていたのを覚えている。
「じゃあ、明日部室においでよ、まずは見学から」
 気が付けば雨月はゴスペル部を見学するという流れになっており、次の日約束通りに部室に向かうと、そこでナガルと初めてであった。
 そして雨月ここで歌を謳っていくことを決心する。
 それは雨月にとって、穏やかで心地よい時間だった。
 そしてそんな幸せな日々を唐突に失うことになる。
 届かない場所に行ってしまったアル。そして冷たくなってしまったナガル。
 昨日とは全く別の世界が雨月を襲う。
「今日はもう休んだ方がいいわ。雨月」
 そしてその影響は着実に生活へと出始めた。
 雨月のソロパート、明るく全員を引っ張っていくような歌声でないといけないのに、その声は正しい音程をなぞることすらできていない。
「いったん休憩にしましょう、雨月はこっちへ」
 音をわざと高く鳴らして、沙羅は微笑みかける。 
「はい、沙羅先輩」
 雨月の頬を涙が伝う。自分でもわかっていた。
 ずっと前から音程もリズムもくるっていた。隠しようがなくらいにがたがただったのだ。
 そんな雨月を準備室に呼び出して杏奈は一枚の紙を差し出した。
「退部……届け? あの子はなんて?」
 そこにはナガルの名前が書かれている。
「もう、ここにいる意味はないって」
 雨月は拳を握りしめた。
「あなたはそれでいいの?」
 雨月はかすれた声で答える。
「よくないわ」
 でも、どうすることもできない、同時にそうとも思った。
「だめね、私。アルがいないと何もできない。何をやってもうまくいかない。ナガルを引き留めることだってできない」
「先生……」
 沙羅はそんな雨月の姿を見かねて声をかけた。
「そうね………………。ねぇ水瀬さん。しばらくここで待っててくれるかしら。あの子と話をする必要があるでしょう? 連れてくるわ」
 その時チャイムが鳴った、部活終了の下校時間。
 雨月は反射的に思っただろう、ナガルが学校に残っているわけがないと。

   *   *

 ナガルは校舎裏のベンチで時間をつぶしていた、家族に部活をやめたことを伝えるのが億劫で、なんとなくこの時間まで学校に残ってしまったのだ。
 そして特にやることもないナガルは、今は校舎裏のベンチで本を読んでいた。
 彼女の読んでいる本を取り上げたのは、巨大なロボット。
「え! ええ!」
 戸惑うナガル、しかも黒鉄はギターを担いでいる、じゃーんとかき鳴らすその姿は何とも冗談みたいな光景だった。
「だ、だれか……」
 すぐにナガルは人を呼ぼうかと思ったが、その口を黒鉄は人差し指一本立てて止めさせる。
 傷だらけの体で、錆びついた関節で何かを訴えようとする黒鉄を見て思いとどまった。
 そしてこのロボットはどうやらナガルをどこかに連れて行きたいらしい。二人は校舎に入り階段を上る。
「ねぇ、どこにむかってるんです?」
 そして二人がたどり着いたのは音楽室。その扉を開けるとそこには、雨月が立っていた。
 振り返るナガル、しかし、黒鉄の姿はどこにもない。
 そんな狐につままれたような納得のいかなさを覚えるナガルに、雨月は紙を一枚突きつけた。
「ねぇ、これどういうこと?」
 ナガルの退部届である。
「私、他にやりたい事あったから! それに、試験も近いし……」
 ナガルはそっぽを向いて小さな声でそう言った。
「嘘よね、だったらなんで楽譜を破いたりしたの! しかも全部破けなかったでしょ?」
「何勝手にみてるの!」
 ナガルは、確かに誰にも見つけられないように本棚に入れたはずなのにと、うろたえる。
「本当は歌はやめたくないくせに、なんで!」
「私は前を見たいの! 邪魔しないでよ!」
「そんなの、前を向いていることにならないわ!」
「だったらあなたみたいにめそめそ泣けばいいの? みんなに迷惑かけて、気を使わせて!」
 二人の叫びが廊下の向こうまで響く。
「だからって、全部なかったことに、なかったように振る舞うなんて、絶対に許さない」
「知らない! そんなもの、私は知らない」
「アルは確かにいたわ。私達三人で過ごした時間は、かけがえのないものだったんじゃないの!?」
「うるさい、あんな奴!」
 乾いた音が音楽室にこだまする。目に涙をためた雨月がナガルの頬を叩いたのだ。
 燃えるような怒りの視線を雨月に注ぐナガル。
「だったら、だったら私はどうすればいいのよ!」
「だって、大好きだったんだもの。『アル』の奏でる音が。『アル』が『私』や『雨月』と一緒にいてくれた事が」 
 そう叫び崩れ落ちたナガルの体。ついに言ってしまった、認めてしまった。
 それを認めてしまえばきっと自分はどこにもいけなくなる、そう知りながら。
 ナガルは自分の体を抱きしめる。
 ひどく寒かった、あの雨にうたれた日のように体も心も冷え切っていた。 

 その時高く伴奏が響く。突き刺さるようなギターサウンドをかき鳴らしながら、黒鉄は音楽室を見上げる。
 黒鉄は謳う、いなくなってしまった少女に「なぜ死んだの?」「なんで戻ってこないの?」そう問いかける歌を。

《もし空にこの思いが届くなら、あの子を返してはくれませんか》

 その全身の傷が痛々しく光るが、黒鉄の歌声は綺麗だ。
 その音色に、歌に導かれるようにナガルは再び口を開く。

《私たちはこんなにも傷ついて 前を向けそうにありません》

「だから、なかったことにしたの。『あなた』が居ないと思ったら、また、私何も出来なくなっちゃうから!」
 それは雨月に訴える言葉ではなかった、今は亡き彼女への言葉。

《あの子と過ごした季節を否定することができない私は》

「……でも、私に『あなた』の音は出せない。だから音楽を辞めることにするの」
 そんな彼女に雨月は静かに言った。

《巡るだろうあの子のいない日々を思い。涙を流します》

「私もアルも、いない方がよかった?」

《どうか、どうか、あの子の笑顔だけ、もう一度見られませんか?》

 ここから伴奏が続く、PVオリジナルの長めの伴奏。沙羅はそれを丁寧に刻んでいく。
 物語の転調部分、救いに至るための《魔女》の存在を際立たせるために強く、強く。
 二人の少女はお互いを見つめ合った、涙を流し佇む雨月。大きく目を見開いてそれを見上げるナガル。
 その二人の前に現れたのは、赤い衣身にまとう魔女。杏奈の姿。
 
「あなたは?」 
 雨月が尋ねた。彼女たちは魔女の正体を見抜けないのだ。なぜなら彼女は魔女だから。
「貴方達に、見せたい物があるの。アルに頼まれたのよ」
 ついてきて、そう魔女は二人を視線を引き。ついてくることを促した。


    幕間

 これはメイキング映像、というか撮影の合間の風景。
「お前が音楽やれるってのが未だに意外だよ」
「私もよ……」
 感心しながら撮影を見守っていた『五郎丸 孤五郎(aa1397)』は黒鉄に言った。
「おや、見るのは初めてか……」
 孤五郎は遙華のコップにお茶を注ぐ。
「ありがとう」
「歌っていると欠落した重要な部分を色々と思い出せるような気がするんです」
 黒鉄が言う。
「不思議ね」
「歌や音楽を用いる作戦や活動が意外と多かったのかもしれません」
「そのギターとアンプを前に使った時はバリバリのアニソンだったけど今回みたいな曲も行けるんだな」
 孤五郎が黒鉄の肩のメガソニック・フルテンを叩いて見せた。お気に入りなんだろう、綺麗に手入れされている。
「失う辛さは何処にでも誰にでもある物でその御し方も人それぞれ、私も例外ではありません。ですから登場人物達の心情も理解できます、後はそれを歌に乗せるだけ……」
「お前、本当に戦闘マシーンだったのか?」
 そんな話をしながらお弁当をつつく孤五郎と遙華。
 現在お昼時。英語で言うとランチタイム。みんなで撮影の合間の談笑に浸っていた。
 ちなみにだ、PV撮影は土日の学校を借りて行っている。当然のごとく控室は教室である。
 生徒たちの出入りも激しいが、意外と最近の子は大人しく撮影にはかなり気を使ってくれていた。 
 あとでお菓子でも持っていこうと思う遙華である。
「じゃまするなぁ」
 その時がらりと開け放たれる扉。元気にECCOが入ってきた。
 唐突の来訪に沸き立つ一同、その姿に喜びの声を上げる『ルナ(aa3447hero001)』
「またECCOさんに会えるなんて感激ね!」
 ルナは杏奈とECCOを交互に見ながら言った。
「引き続き参加させて頂きました。よろしくお願いします。」
「ECCOさんとまた会えて嬉しいな」
 アルがいい握手を求める。
「お久し振りね。今回もお世話になります」
『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』がそう頭を下げるとECCOは言った。
「いや、お世話になってるのはうちのほうやんか。また受けてくれてありがとうなぁ、結構な無茶ぶりで協力しもらえるかひやひやだったんや」
「あら、また会えたわね」
 そう共鳴を解いて、沙耶と沙羅はECCOに挨拶をした。
 そんな盛り上がる一団に対して、へやの隅っこでナガルと雨月は打ち合わせを続けている。
 当然だろう、一番出番が多いのだ。セリフや演技、見直さないといけないことはたくさんある。
「初めて人を演じるの……ちょっと緊張するけど、頑張らなくちゃ!」
「私もよ、うまくできてるかしら?」
『千冬(aa3796hero001)』はそんな二人のご飯やお茶やメイクに忙しそうである。
「私は裏方のサポートをさせて頂きます。ご命令や指示がありましたら何なりと」
 そう、今回は裏方に徹する構えのようだ。
「ねぇ、ところであなたはだれ?」
 そう雨月を教室の隅から見つめる男に遙華は声をかける。
 全身を黄色の衣で覆った異常な風体の男、明らかに不審者であり、遙華にはここにいる誰かの関係者であるという情報はなかった。
「ああ、それ。アムブロシアよ」
「え! あれがアムブロシア!? は、はじめまして」
 びっくりのあまり丁寧になってしまった遙華は『アムブロシア(aa0801hero001)』に握手を願い出ていた。



第三章 『あなた』

 Cメロ。澄み切ったピアノの音、沙羅の眼差しが空へ向けられる。
 部隊は病院に移った。セピア色のノイズ交じりの映像。そこに映るのは。アル。
 これは過去。アルが消えてしまう少し前。 
 そしてサビへ。
 響くような二人の歌声は響きあうように重なっていく。
 これは『あなた』の思いを遂げる第三楽章

    *   *

「アル、お見舞いに来たわよ」
 杏奈が病室に入ると、彼女はいつもとは変わらない笑顔をみせた。
 彼女は三日前、部活中に倒れ、それから彼女の容態を知った。
 もうとっくに限界だったそうだ。それを学校に来たいからという理由だけで薬で酷使していた。
「なぜ、病院で療養しようと思わなかったの?」
 その質問にアルは答えて見せた。
「歌うのが、楽しかったから」

「ねぇ、先生。お願いがあるんだ」
 

 そんな最後に見たアルの姿を思い出して杏奈は足を止めた。
 あの時と違い、杏奈は鮮やかなドレスでここにいる。
 だが思いは一緒だ。
「この病室よ」 
 そう杏奈が指示した病室の戸をナガルは開ける、すると仲に誰か立っているのが見えた。
「アル!?」
 違う、似ても似つかない、ロボットが佇んでいた。
「そうよね、いるわけが……」
 二人は病室の中に入り、あたりを見渡した。そして彼女がやはりいないことを悟ると雨月はがっくりと肩を落とす。
 しかし、魔女は知っている、ここには彼女が、まだいることを。
 魔女は首だけ回して振り返る、開け放した病室の扉を見るとそこには一人の少女が佇んでいた。二人には見えない、けれどそこにいる少女。その少女に魔女はウインクを投げた。
「あなた……」
 雨月は黒鉄に触れてみる、その冷たい体からはやはり悲しみのようなものが伝わってくる、それも自分のものではなく、ナガルの。
「この子はあなたたちの思いから生まれたのよ」
 杏奈が言った。
「この部屋はあの子がその日を旅立った時のままになってるわ」
 杏奈の言葉にナガルは悲しげに眼を細めた、そしてベット脇にある棚に飾られた小さなコルクボードを見た。
 そこには三人で写っている写真ばかり。部活、遠征、休日。
 二人が家に泊まりに来たときに取ったいたずら写真。
 それらすべてが、アルの宝物だったという。
「あの子はとっくの昔に昔に、手遅れだったそうよ、けどお迎えの日が来るまで、二人のそばにいたいって、薬を使って登校していたのよ。そして理由がもう一つ」
 魔女は手を振ると、手紙を二通差し出してみせた。
「自分が死んだあと悲しむあなた達の気持ちをどうしたら楽にしてあげられるか、ずっと、それを考えていたのよ」

『自分が死んだら、きっと2人はとても悲しんで、心を壊してしまうかもしれない。もしそんな事があったら、2人にこの手紙を渡して欲しい』

 杏奈は思い出していた、アルが手紙を差し出した時の言葉を。
「これは、アルから貴方達へのの最後の言葉よ。受け取って」
 雨月はその手紙を抱き留め
 ナガルは恐る恐る便箋の風を切った。
「アルの字だ」
 ナガルの頬を涙が伝うのを雨月は見た。

《『ナガル』へ
 足を止めない強さはボクの憧れ》
「アル……」
 その字は震えていた、彼女の柔らかい字体だったけど、痛みに耐えかねて途中で止まるように、不自然にインクの滲んでいる場所があった。
《時々それが危なっかしく思えてしまう。強いからこそふとした拍子に折れそうで。
無理するのは努力家の貴女の良くない癖だねぇ、この意地っ張りさんめ★
……ずっとつらかったね、よく頑張ったね。泣いてもいいよ》

「っう、やだ、やだよ。アル!」 

《『雨月』へ
クールな貴女が悲しんでくれてる。何でこんなに嬉しいのかな
でもずっとそうだと、ボク心配で安心して向こうにいけないや》
 
 雨月はナガルの隣に膝を下ろして、その背を優しく抱いた。
 そしてその体制のまま手紙に目を通していく。

《今は沢山泣いて、落ち着いたら歩こう
 前だけ見ろなんて言わない。下向いても戻っても良い。歩いてさえすれば。
 あなたが奏でる音の中にボクはいる
 歌を通していつでも会えるよ 》


「おいてかないでよ、いかないでよ、ねえ……っ!」
「アル……」
 二人は涙する。
 二人の手をとる黒鉄、その体は徐々に傷を癒し、輝きを帯びていく
 そして輝き、雨はやみ、闇は払われ。そして。
 二人を見守る少女は安心したように笑った。
 これでよかったの? そう視線だけで問いかける杏奈に。
 少女アルは頷いて見せる。
 だがやがて、口元は震え、頬を涙が伝う。駆け寄りたい衝動を律してただ二人を見守り続けた。
 そう、彼女は二人に歩み寄るわけにはいかないのだ。
 アルはそれを望んだのだ。別れることを、彼女たちが前をむいて歩くことを。
 だからアルは黒鉄の手を取った。
「怖さは無いよ」
 首をひねる黒鉄。
「大丈夫」
 そのまま二人は廊下を歩いていく。
「でもね、やっぱり……やっぱり、もっと生きたかったなぁ…っ」
 光が二人を包んでいく、黒鉄の体の傷がどんどん癒えていき、体は輝きを帯びていく。
「『私』……私、あなたの分も、生きていくから」
 ナガルがそうつぶやくと、雨月はその言葉に頷いた。
 そんな二人の方に杏奈は手を置くと、愛おしそうに頭を撫でる。
「心の傷はすぐに癒えるものじゃない。長い時間をかけないと治らないわ。でも、貴方達ならきっと大丈夫。必ず、乗り越えられる。必ず、夜明けは来るから……!」
 そう伝えた直後、風が吹いた。赤いスカートが翻り。
 顔を上げた二人の前から杏奈はいつの間にか消え去っていた。

   *   *

 そんな不思議な体験をした次の日のこと。二人は笑いあいながら登校した。
 晴れ晴れとした顔をして、ゆっくり地面を踏みしめるように、そして彼女の愛した歌を謳いながら。
 そんな姿を校門の前に立つ杏奈が声をかける。。
「急ぎなさい、遅刻するわよ」
「はーい」
 そう駆け出すふたり、そんな二人の背中を見ながら杏奈は微笑んだ。
「もう2人は大丈夫よ。しっかり前を向いて歩んでいけるわ。」


エピローグ

 その日、再度集められたリンカー、そしてECCOの前で完成した映像の試写会をした。
 暗い部屋に明かりが灯り。良い出来だったPVの感想をがやがやと述べ始める一同。
 その中で杏奈は感想を聞こうとECCOを振り返った、その頬を涙が伝っていた。
「今回のPVは何点中何点?」
「満点……どころの話じゃないわ。唯一無二よ。ありがとう。本当に……」
 そう口元を抑え、さめざめと涙を流すECCOへ沙羅は言った
「ECCOさんの相棒として一緒に歌えたみたいで、光栄だったわ」
 二人は泣きじゃくるECCOの背に手をあて、さする。
「もし良かったら、聞かせて貰えるかしら。そのアイドルさんがどんな人だったか
それと、また呼んでね。絶対に力になるわ」
「うれしいなぁ」
 ECCOは嘘くさい関西弁に戻って言った。
「うん、今度聞いてな、そしてもし、この歌『氷の鯨』が必要になった時は、歌ってほしい。ここにあったのはストーリーは偽物かもしれへんけど、思いは本物やから。みんなが込めてくれたんよ。本当にありがとう」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730

重体一覧

参加者

  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 汝、Arkの矛となり
    五郎丸 孤五郎aa1397
    機械|15才|?|攻撃
  • 残照を《謳う》 
    黒鉄・霊aa1397hero001
    英雄|15才|?|ドレ
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • エージェント
    千冬aa3796hero001
    英雄|25才|男性|シャド
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