本部

ようこそ、ゴブリンの森!

弐号

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/18 22:06

掲示板

オープニング

●森林の邪精
「くそっ、またやられた!」
 無残に食い荒らされた大根を手に取り初老の男が口惜しげに叫んだ。
「これじゃあ、商売上がったりだぜ」
 改めて畑の惨状を見渡し、思わずため息が漏れる。
 このように丹精込めて育てた作物を荒らされるのは今月で既に5件目。しかも、この兄弟の畑を狙われるのは2回目だ。
「このまま被害が続けば出荷量が細る。せっかく軌道に乗ってきたっていうのに……」
 男の作る大根は希少価値の高い高級路線の代物である。一個一個の単価が高いため、少しの被害でも損害が大きくなる。保険がある為すぐにどうこうという事はないが、せっかく軌道に乗ってきたところに出荷量が減れば『アクシデントに弱い品種』というイメージを顧客に与えかねない。それは絶対に避けたい状況だった。
「せっかく作った柵もあっさり破壊しやがるし、いったい何の獣なんだってんだ」
「おーい、父さん」
 と、そこでタブレットを片手に青年が駆け寄ってきた。20代くらいだろうか、朴訥で真面目そうな青年である。
「どうした、大樹」
「うん、前に設置したカメラの映像チェックしてみたんだけど……ほら、これ」
 大樹と呼ばれた青年は手に持ったタブレットを操作して映像を呼び出す。
 そこには深夜の暗闇をそろそろと静かに歩く小さな人のような姿が映っていた。しかも、それは一匹ではない。少なくともその映像の中で三匹は確認できた。
「なんだ、こいつは」
「うーん、よくは分からないけど、よくゲームで見るゴブリンってのによく似てるね」
「ゴブリン?」
「うん、まあ……簡単に言えば――」
 青年がタブレットをひっこめ、畑の裏側に広がる森の方に視線を移した。
「従魔だよ。従魔がこの森にいるんだ、父さん」
 管理者がいなくなって久しい放置された森林。そこに何者かがいる。

●H.O.P.E.会議室
「それでは、皆さん今回の任務についてご説明させていただきます」
 ジェイソン・ブリッツ (az0023)がプロジェクターを起動しながらエージェント達に向かって説明を始める。
「経緯については今ご説明させていただいた通りです。まだ、直接の確認は出来ておりませんが、小型の亜人タイプの従魔が森の中に潜んでいるものと思われます」
 プロジェクターに周辺地図を含めた地図が表示される。田舎の山間の小さな町。そのさらに端の方の森が赤い丸で囲まれている。ここが問題の森なのだろう。
「森、というよりは小高い丘、と言った方が正しいでしょうか。おおよそおおよそ3キロ四方。かなり広く、緩やかな傾斜に全く管理されておらず生い茂った木々と、調査は困難が予想されます」
 プロジェクターから顔を離し、エージェント達の方へと視線を移す。
「調査の方法はお任せいたします。従魔といえど活動には拠点が必要です。それを探し破壊してください。それとこれは推測になりますが、この従魔は長期間に渡って活動しており、ライヴスの貯蓄状況によっては成長した個体がいる可能性が考えられます。ただ、人的被害は出ていないので大した量は溜まっていないと思いますが……念のため、警戒してください。それでは、健闘を祈ります」

解説

●敵
※敵情報はPL情報となります
・ミーレス級従魔『レッドキャップゴブリン』 数不明
1m強程度の小柄な人型従魔。すばしっこく動き回り、手に持つ剣や斧、時には弓で攻撃をしてくる。攻撃力はそこそこにあるが守りは脆い。形勢が不利になると増援を呼んだり、仲間のいる方へ合流を図ったりと有利な状況を維持しようとする。組織だった行動はあまり得意ではなく、基本囲んで叩く以外に戦略はない。

・ミーレス級従魔『ブルーキャップゴブリン』 数不明
レッドキャップとほぼ同じ容姿だが帽子の色だけが違う。こちらは魔法攻撃を主にしており、遠隔で攻撃を仕掛けてくる。ダメージは大した事がないが、減退や翻弄などのバッドステータスを付与する攻撃が多い。習性についてはレッドキャップと変わらない。レッドキャップに比べ数は少ない。

・デグリオ級従魔『ホブゴブリン』 一体
拠点を守るゴブリン達のボス。身長は一回り大きく人間と同サイズである。鎧を装備し、ゴブリンよりはタフである。巨大なこん棒を装備し力任せに振りまわしてくる。その際衝撃のバッドステータスを付与する場合がある。拠点を守る事に注力しており、そこから撤退はしない。他のゴブリンに指示を出す程度の知能はあり、ホブゴブリンの元だとゴブリン達も多少組織だった行動を行う。しかし、従魔である為、意思の疎通は困難である。

リプレイ

●従魔の森
「どうも皆さん本日はようこそお越しくださいました。今日はよろしくお願いします」
 ニコニコと人の好さそうな笑顔を浮かべながら朴訥な雰囲気の青年がぺこりと頭を下げる。今回の被害にあった農家の息子である。
「これはご丁寧に。こちらこそ、よろしくお願いします」
「……よろしく」
 先頭にいた木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が応じて頭を下げる。
「早速で申し訳ありませんけど、例の映像見せてもらえませんか?」
 負けず劣らず柔和な笑みを浮かべて九字原 昂(aa0919)が大樹に話しかける。
「ええ、分かりました。これなんですけど……」
 と言って、傍らに置いてあったタブレットを操作し、動画を再生する。そこにはちまちまとした動きで大根を持ち出すゴブリン達の姿が映っていた。
「ゴブリンか……農家の方も大変だなぁ……」
「イノシシ程度ならともかく、従魔相手では仕方ないか……」
 高天原 凱(aa0990)と真龍寺 凱(aa0990hero001)がその映像を見て呟く。
「ゴブリンかぁ。やっぱ、啼き声は『ゴブゴブ』とか『ゴブー』とか?」
 あははっと警戒に笑いながらカール シェーンハイド(aa0632hero001)が奇妙な声真似を披露する。彼の相棒であるレイ(aa0632)はその隣で苦虫をかみつぶしたような顔を披露していた。
「……どうでもいい、が……その声音を変えるの、やめろ。気色悪い……」
「レイの意地悪~! 渾身の演技だったのにィ!」
 例の冷徹な言い回しにシェーンが口を尖らせて文句を言う。だが、それはさらに例のため息を深くしただけだった。
 楽しげな様子のカールと裏腹にその隣では紫 征四郎(aa0076)が鼻息を荒くして気合を入れている。
「農家の方が丹精込めて作った大根を盗むなんて!」
「お、今日は偉く気合い入ってるな」
 若干からかうようなニュアンスを含めた口調でガルー・A・A(aa0076hero001)が征四郎を見やる。幸か不幸か征四郎自身はそのガルーの様子に気付いた様子はなかった。
「勿論なのです。この大根は、皆さんの子供のようなものなのでしょう?」
「そうッスよ! 農家の人が丹精込めて作った大根ば勝手に食うなんて、まんじきもやげるわ!」
 征四郎の熱意が伝染したかのように隣で齶田 米衛門(aa1482)が肩を怒らせ叫ぶ。
「……なんて?」
「本当、腹立つってさ」
 米衛門の方言を聞き取れず、ガルーが隣にいたスノー ヴェイツ(aa1482hero001)に尋ねる。
「気合が入るのは良い事だけど、肩に力入りすぎるのは良くない。ほら、飴食うか?」
「……ふぁい、ありがほうごばいます」
 気合を入れたポーズのまま固まる征四郎の口にスノーがお手製の飴を咥えさせる。征四郎も特に不満は無いようでそのまま素直に舐め始めたが。
「あのー、話進めてもいいでしょうか」
 場が和んでしまっているところに土御門 道満(aa4142)が声を上げる。彼はタブレットを受け取り動画の中の風景と現実のそれとを見比べていた。
「おそらくこちら方向へ逃げていったようですね」
「ああ、そのようだ。それらしい足跡もある」
 地面にそっと触れながらレティシア ブランシェ(aa0626hero001)が呟く。畑の柔らかい土に無数の小さな足跡が残されていた。
『追える?』
「どうだろうな。柔らかい畑の土だからはっきり残ってるが、山に入ったら獣と判別付けるのはキツそうだ」
 紙に書いて問いかけるゼノビア オルコット(aa0626)にレティシアが返す。
「とりあえずは事前の相談通りに班に分かれて行動しましょう」
「OK。それじゃあ、俺達が足跡を追おう。それでいいな?」
 昴の提案にいち早くレイが反応し、足跡を調べていたレティシアに問いかける。レティシアはにやりと笑い立ち上がった。
「ああ、いいぜ」
「よし、決まりだ。いくぞ、カール」
「はいはい、りょーかい」
『お願い、します!』
「……おう」
 レティシアの筆談に軽く返事をし、早速とばかりに4人連なって歩き出す。
「征四郎たちも行きましょう!」
 それに促されたかのように征四郎が気合を入れ直し、拳を突き出しやる気満々に叫ぶ。
「共鳴はしなくていいのか?」
「まずは目の数は多いほうが良いでしょう。このまま行くのです。ツチミカドさんもよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそお願いします」
 任務に燃えている征四郎とは対照的にクールな様子で道満が返事をする。
「俺達は共鳴しよっか」
「さすがに山道は、な」
 リュカの持つ白杖に目を向けながらオリヴィエが頷き、リュカの持つ幻想蝶に触れ共鳴する。
「さてさて、中々範囲が広くて大変だけど……」
『……取りこぼさない、ように』
「そうだね、それじゃあよろしくお願いします、お二人とも」
 珍しく共鳴状態で主導権を持ったリュカがにこやかに二人の凱に話しかける。
「よ、よろしく」
「ああ、頼むぞ。さあ行くぞ、小僧。野良仕事だ」
 真龍寺が高天原の背中を少し強めに叩き行動を促す。
「オイたちは一旦ここで待機ッスね」
「ええ、全員が散るといざという時に援軍が間に合わないかもしれませんからね」
 米衛門の言葉に昴が同意する。それを聞いて米衛門がニカっと人懐っこい笑みを浮かべた、
「それじゃ、ただ待ってても仕方ねぇッス。大樹さん、従魔に破られたっつう柵を見してもらえませんか」
「ええ、いいですよ」
「……米衛門さん、いざというときにはちゃんと動けるようにはして置いてくださいね」
 米衛門が手に持った様々な道具や材料を見て、大体何をするつもりかを察した昴が苦笑いを浮かべる。
「大丈夫大丈夫。びゃっこ手伝うだけッスよ!」
 対する米衛門の笑顔は満面の笑みだった。

●包囲網形成
「これでよし、と」
「……何をしているんです?」
 リュカが木々の間に紙テープを括り付けているのを見ながら高天原が尋ねた。
「これかい? 簡単な罠、ってところかな? 引っかかってくれたら見っけものくらいの感じだけどね」
 テープを縛り終えて立ちあがりリュカが答える。
「広い森だからね。一度通った場所は潰しておきたくてね」
「あんまり頭のよさそうな連中ではなかったからな。確かに効果はありそうだ」
 真龍寺が顎に手を置き映像にあったゴブリンの姿を思い出す。まあ、お世辞にも賢そうには見えない容姿と行動であったのは確かだった。
「引っかかってくれると話が楽でいいんだけどね」
 紙テープを結べそうな木を探しながらリュカは呟いた。

●追跡
「あんまり真っすぐ進んでる感じじゃねぇな……」
 面倒くさそうに地面に茂った草を蹴り分けながら例が呟く。草が避けられた場所には食い散らかした後と思わしき大根の葉が投げ捨てられていた。
「そうみたいだな。一応考える頭があるのか、それとも別の理由か……」
 レティシアがその大根の葉の近くで屈み、視線を地面に低くしながらそれに答えゴブリン達が通った痕跡を探す。雑多で管理の行き届いていないこの森でそれを探し出すのはなかなか骨の折れる作業だった。
「ああ、大丈夫だ。何とか追えそうだ」
 心配そうな顔で何かを訴えかけるゼノビアの様子に気付き、安心させるように答える。
「そうおう、大丈夫だって。二人とも超しっかりしてるし、任せておけば間違いないから」
 続けてカールが場を和ませる明るい声を出しながらゼノビアの頭をポンポンと叩く。
「他人事みたいにいってんじゃねぇぞ……。お前も探すんだよ」
「あ、いってぇ! 何も蹴る事はないでしょ!」
 得意げにするカールの尻にレイの蹴りが飛ぶ。
「……騒がしい奴だ」
 レティシアが呆れ気味に呟く。だがゼノビアはその様子ににこやかな笑みを向けるのだった。

●肩車
「まず、高いところから探してみるのです」
「はーいどーぞ」
 征四郎の仕草から意図を察したガルーがその場に屈みこみ、彼女を肩に担い立ち上がる。
 いわゆる肩車である。
「どーだー、なんか見えるかー」
「うーん、特に何もみえません……」
 ライヴスゴーグルを掛け、真剣そのものという表情で一帯を見渡す征四郎の姿は、彼女の意志とは裏腹にどこか可愛げのある姿だった。
「しかし、肩車といってもこれでは左程見渡せないでしょう?」
 同じく付近を警戒しながら道満が言う。
 あたりは鬱蒼とまではいかないが、それなりに背の高い木々が生えそろっていて、視界は決して良好とは言えなかった。
「むむ、確かに……。せめてもう少し高くから見れれば……。あ、そうだ!」
 眉根を寄せてしかめっ面をしていた征四郎の表情が一気にぱあっと明るくなる。
「ガルーにツチミカドを肩車してもらえばもっと上から――」
「「お断りだ!」します」
 征四郎の提案に食い気味に拒絶の意志を示す男二人。
「なんでですか。そうすればもっと効率よく見れるんですよ」
「お前な……。お前にゃわからんかもしれんけどな。成人男子にとて肩車ってのは結構プライドに関わる問題なんだぞ……」
 げっそりとしながらガルーが若干肩を落とす。
「まあ、兄さんにならするのもされるのも大歓迎ですが……ふふっ」
 妙な事を想像してるのかにやりと不気味な笑みを浮かべながら道満がポツリと呟く。
 耳には入っていたが、ガルーはその呟きに関してはあえて聞こえなかった事にした。
「とりあえず、一旦降りろ。俺様が力持ちとはいえ、この足場じゃ危ない」
「わかりました」
 ガルーの言葉に素直に従い地面に降りる征四郎。
 その時、3人の持つ通信機の呼び出し音が流れた。
「どうした」
 いち早くガルーが反応し通信を繋げる。
『見つけたよ。集団でお出ましだ』
 通信機から聞こえたのは少し強張ったリュカの声だった。

●接触
『リュカ』
「わかってる。ごめん、まかせるよ」
 敵の姿を確認したところで体の主導権をオリヴィエに渡す。荒事は戦士たる彼の担当だ。
「ひいふうみい……8匹か。割と多いな」
 既に共鳴状態になった凱が指をさして敵の数を数える。
 おおよそ十数mほど離れた場所にひどく興奮した様子でゴブリン達が屯している。少なくとも友好t京奈雰囲気ではないのは確かだ。
『場所はどこだ?』
「場所って言われてもな……」
 通信機越しのレイの声に、凱が辺りを見渡すがあるのは木々と岩ばかり。目印になるようなものは何もない。
『僕が案内します。少し待ってください』
 昴が割り込んで声をかける。
「……オレ達は待てるがよ」
「ああ、来るぞ」
 まるでオリヴィエの声をきっかけとするように、ゴブリン達の集団が一気にこちらへ駆け込んでくる。
 まず動いたのは5匹。赤い帽子をかぶったゴブリン達だった。
「オレが前だ! 援護は頼むぜ!」
「わかった」
 最低限の立ち位置の確認だけをして凱がゴブリン達を迎え撃たんと剣を担ぐ。
「はっ! かち割れやがれ!」
 愚直に真っすぐに突っ込んでくる先頭のゴブリンに肩に担いだ大剣を振り下ろす。その勢いに回避も防御もできずにあっさりと両断されるゴブリン。
「脆ぇぞ!」
「ギギッ!」
 威嚇を兼ねて吠える凱。しかし、残る4匹のゴブリン達は怯むことなく二人を包囲するように展開し、一斉に剣を構えた。
「数で圧す気か」
 当然の戦略ではある。
「単純」
 しかし、それは当然すぎた。即ち完全に予想通り。
 オリヴィエの掲げた手から出現した光球が破裂し、あたりに凄まじい閃光を発生させる。
「アギッ!?」
 もろに光を見てしまい、目を晦まされたゴブリンがめくらめっぽうに剣を振り回すが、そんな攻撃に当たるような二人ではない。すぐさまその方位を抜け出し、態勢を整える。
「次で倒す」
 オリヴィエの声が森に静かに響いた。

●鷹匠
「B班はそこから西へ向かってください。A班は……遠いな」
 目を閉じて自らの生み出した鷹と視界をリンクさせながら昴が指示を飛ばす。
『わかった。なら俺達はこのまま足跡を追跡する。うまくいけば先に本拠地を見つけられるかもしれねぇしな』
「わかりました、お願いします」
 レティシアの提案に同意し、ようやく目を開く昴。
「便利ッスなぁ。鷹の目は。オイ達はどうするッスか」
「そうですね……」
 米衛門の素直に感心した声に答えて昴が少し思案する。
「僕たちは、裏をかきましょう」


「もらった!」
 二匹目のゴブリンの体を凱の大剣が両断したところに、青白い光が数発飛来する。
「――っ、痛ぇな!」
 何とか直撃は避け、凱が剣を構えなおす。その光の正体は奥にいた3匹の青い帽子の放った魔力弾だった。
「なるほど、青い奴は遠距離担当ってわけか」
「ならあれは……」
 オリヴィエの持つ光線銃のエネルギーが充填される音が響く。
「俺の相手だ」
 敵を狙うという動作すら見せず、オリヴィエが光線を放つ。レーザーのオンオフを目にも止まらなぬ動作で素早く操作し、器用に一本の光線を三つに分割し、見事3匹のゴブリンにそれぞれ命中させる。
「アギィ……」
 レーザーに貫かれそのまま動かなくなる3匹の青い帽子のゴブリン。
「ったく、援護と言ったろうが。そりゃ援護じゃねぇ殲滅だ」
「それはスマン」
 楽し気に笑ってう凱に、無表情に返すオリヴィエ。
「ギギ……」
 残り3匹となったゴブリンが一度足を止める。
「お?」
 そして、迷うことなく彼らは一目散に逃げだした。
 それもバラバラの方向へ。
「あ、ちょっと待て! もうちょっとだけ頑張れよ!」
 もともと作戦では1匹だけ残して拠点へ帰らせる予定である。ここでバラバラに逃げられるとちょっと面倒な事になる。
「まったく、これだから下等な従魔は手に負えませんね」
「ギギィ!?」
 どこからか聞こえた道満の声と共に銃声が響く。それと同時にゴブリンの一匹が胸から血を流し倒れ伏す。
「少し遅くなりましたね」
 そして、もう一匹のゴブリンは既に紫の髪の青年の剣で刺し貫かれていた。
「征四郎……」
「それでもギリギリ間に合いました。あとは逃げたゴブリンを追えば作戦は完璧ですね」
「いえ、その必要はありません」
 ゴブリンが逃げた方向の木の陰からスッと昴と米衛門が現れる。
「マーキングしておきました。これでしばらくは追わなくても場所が分かります」
「いやー、シャドウルーカーのスキルはまんじおもしぇもんッスな。どでんしたッス!」
『……通じてないぞ、米衛門』
「あれ!? また出ちまってたッスか!」
 一同のキョトンとした顔をみて。思わず肩を落とす米衛門であった。

●ガン アンド ガン セッション
「見つけたぜ、あれが目的地だ」
 視線の先に数匹のゴブリンが屯する洞窟のような穴を見つけ、レイの唇がそう告げた。
 ゼノビアが無言のままこくりと頷く。
「周りの木が枯れてるな。ライヴスを吸われてんのか?」
『こちらでも大体場所は把握しました。もう少しでつくと思います』
「セッションもいいが……」
レイの持つライトブラスターにエネルギーが充填される。
「まずはデュオだ。いくぜ」
 ゼノビアと軽くアイコンタクトをして意志を確認してレイは銃口を拠点へを向けた。
「まずはあいさつだ!」
 開幕の銃声が三つ森に響く。
 見張りに立っていたゴブリンが三匹倒れるのを見届けて、レイはすぐさまその場を移動した。
「ギギッ!」
 襲撃に気付いたゴブリン達が続々と洞窟の中から姿を現してくる。その数はおそらく二十を超える大所帯であった。
「ギギー!」
「フン、思った以上に汚ぇ声だ。それじゃあ、ステージには上がれねぇ」
 レイの姿を確認したゴブリンがそちらの方向を指さすが、今度はレイが動いた方向とは逆に走っていたゼノビアが見張りを打ち抜く。
「アギッ!?」
 予想外の方向から銃撃を受け混乱するゴブリン達。咄嗟にどちらに動けばいいかわからなくなり、その足が止まる。
「アドリブも効かないんじゃ絶望的だな」
 その動揺を突き、さらに一体を沈める。
「退屈なライヴだ」
 このまま押し込めそうだ。そうレイとゼノビアが考え始めた頃、洞窟の中からひと際大きな声が響いた。
「ヴォォォ!」
 ヌッっと奥の陰から一回り大きな鎧を着たゴブリンが現れる。
「ヴォヴォォォ」
 出てきたホブゴブリンがこん棒を振りかざし雄たけびを上げると、洞窟の奥から大きな木の盾を持ったゴブリンが数匹現れ、今までまごついていたゴブリン達もその盾ゴブリンの元に数匹ずつのチームに纏まろうとしていた。
 そして洞窟の上の丘には青ゴブリン達がずらっと並ぶ。即席のフォーメーションといえた。
「バカなりに考えてるようだな。コンダクターってわけだ」
 盾ゴブリンを先頭にこちらに迫ろうとしているゴブリンを見て呟く。
「――!」
 ゼノビアが盾ゴブリンに対して弾丸を放つ。しかし、それは丸い盾に微妙に弾道を反らされ、うまくダメージを与えられない。どうやら見た目通りの脆い武器というわけではないらしい。
「厄介だな」
「なら、ここは……」
 レイの言葉尻を拾って大きく太い声が響く。
「オイ達の役目ッスね」
 髪を腰まで伸ばした米衛門が気合を込めてそう言った。

●決戦
「覚悟さするッスよ、もっこども!」
 レイに迫りつつあった一団に米衛門が一足に突っ込み手に持った回転のこぎりを、まるで草刈のように横薙ぎに思いっきり振りぬく。
「――ギッ!」
 これには流石に耐え切れず盾ごとひっくり返りその場に転がるゴブリン。
「隙だらけですね」
「助かるぜ」
「――」
 そこへ道満、レイ、ゼノビアの集中砲火を受け、あっという間に一つの小隊が壊滅する。
「ヴォォ!」
 そこへ再びホブゴブリンの声が響く。
 同時に飛来する魔力弾。タイミングを完璧に合わせたそれは避けるのが困難なほどの密度で押し寄せた。
「あの野郎……!」
「やるッスねぇ」
 米衛門と凱がそれぞれ前線に出て後衛の盾となり魔力弾を受け止める。
「ヴォ!」
 さらにホブゴブリンがこん棒で前方を指し指示を出す。
 それを受けて赤ゴブリンの小隊が盾を構えて一気に突撃を仕掛けてくる。
「おっと、申し訳ありませんが、あなた達はそこで少しじっとしてて下さい」
 駆け込んできたゴブリン達が急に足を止める。いや、正確には止められた、が正しい。上から飛来した昴の女郎蜘蛛が彼らの足を拘束していた。
「厄介なおもちゃは没収させてもらいますよ」
 そのまま木の上から飛び降り、手に持った刀で先頭にいた盾を持ったゴブリンを突き刺し、すぐさま後方へと下がる。
「ヴ――」
「遅い」
 場の収取を図ろうとしてこん棒を振り上げたホブゴブリンの腕を木の上の高度からオリヴィエが狙撃する。狙いはそのこん棒を持つ腕。
「ヴォォォォ!」
 オリヴィエの光線は見事ホブゴブリンの手を貫き、そのこん棒を落とすことに成功する。
「ヴォ――」
 それでもなお諦めないホブゴブリンが青ゴブリンを動かそうと上を見上げる。
「これまでです」
 しかし、ホブゴブリンの目に入ったのは頼りにする部下ではなく、彼らを掃討し剣を地面に刺し構える征四郎の姿であった。
「ヴヴォ……」
「覚悟っ!」
 剣を振りかぶりそのままホブゴブリンの元へと落下していく征四郎。
「ヴォ! ヴォ!」
「今だけお前がなんて言ってるかわかるぜ。三下のいう事は大体同じだ」
「ヴォーーーーー!」
「バカな、ってな」
 征四郎の剣がホブゴブリンを鎧ごと真っ二つに両断した。


「柵作り?」
「そッス。無理にとはいわねけど、人手はあるだけ困らんッスから」
 戦い終わって再び最初の畑。米衛門は木材を肩に担ぎながらメンバーたちに一つ提案をしてた。
「今回が特殊な状況なんは分かってるッスけども。また従魔の農作物被害が無いとは言い切れねッス」
「それはまあ確かにな」
「さっきも待ってる間に作ってましたもんね」
 近くの木に寄りかかりながらレイと昴が同意する。
「だからそれに負けねような立派な柵、作ってやりたいんッスよ。従魔の知識のあるオイ達にしかできんことッス。多分、今後の役にも立つッスよ」
「そうだね、どうせならもっと頑丈な柵にしてもよさそうだよね!」
「待ってる間、時間だけはあるしな……」
 米衛門の底抜けにお人好しな意見にリュカとオリヴィエがいち早く頷く。
 ゴブリンの拠点は潰したが、まだはずれた個体などがいる可能性はある。しばらく様子を見て見張りをしようというのがメンバーの方針だった。
 オリヴィエが空を見上げる。日はまだ高い。簡単なこの人数で取り掛かればそれなりのものを作ることも確かに可能だろう。
「賛成なのです! 私達は力持ちだからきっとお役に立てます!」
「そうだな。いっちょやってやるか!」
 文字通りもろ手を挙げて賛同する征四郎と、腕まくりまでしてやる気を見せるガルー。盛り上がる場に道満はこっそりと溜息を吐いた。
「構いませんが、どうなっても知りませんよ。私はあんまり器用な方ではないのでね」
 しかし、そう言いつつもそれでも付き合ってくれるようではあった。
『私も』
 続けて控えめに筆談用の紙を差し出すゼノビア。米衛門はそれにニコっと笑顔を返すと手話でゼノビアに話しかけた。
『ありがとッス。あとで美味しいお鍋作るッスよ』
 急に手話で話しかけられて驚くゼノビア。
「手話、できたんだな」
「言葉が通じない事も多いからな、相棒は。ほら、飴食うか?」
「そりゃねっすよ」
 スノーの言い草に不満げに返す米衛門。
「こういうのも経験だぞ、小僧」
「……うん、そうだね」
「よーし、決まりだね。じゃあ、オレは皆の為にさっきもらったこの大根で料理、作るよ!」
 二人の凱の肩を抱いてカールが楽し気に告げる。

 今日の夜は美味しい美味しい大根鍋だったという。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068

  • 九字原 昂aa0919

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • ブケパロスを識るもの
    高天原 凱aa0990
    機械|19才|男性|攻撃
  • エージェント
    真龍寺 凱aa0990hero001
    英雄|27才|男性|ドレ
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エージェント
    土御門 道満aa4142
    機械|20才|男性|命中



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