本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】暗闇の秩序

月乃一颯

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/04 01:12

掲示板

オープニング

●闇をまとめる者の不在
 東京歌舞伎町。本来この街を仕切る裏社会の最大勢力は、主に関東の勢力として、そして日本でも最大勢力のひとつでもあるという、古龍幇参加組織、亡き小泉孝蔵氏が束ねていた小泉組である。
能力者も多数有する小泉組であるが、今は香港の戦いの後であり、本拠地である関東が一時的な空白状態になっていた。
 この状況に、反小泉組のカラーギャングが暴走する。
「小泉組は終わりだ! これからは俺たちの時代だぜ!」
 黄色の腕章、黄色のバンダナ、黄色のシャツ……兎に角、黄色を取り入れた格好をした30人弱の青少年の集団、通称イエローデビル。
彼らは小泉組贔屓の料亭を、破壊して回る。
客室の座卓を踏みつけ壊すイエローデビルのリーダーの木原に、副リーダー石森は言う。
「だが、これだけやったらH.O.P.E.の奴らが出てくるんじゃないか?」
「はっ! H.O.P.E.が小泉組の肩を持つのかよ」
 吐き捨てるように言って、壊した座卓を蹴り上げ壁に叩きつける。
「まあ、俺は戦えればなんでもいいが」
 石森はこれから起こる戦闘を思い、楽しそうに縁側の柱を戦斧で叩き折った。

●治安維持――H.O.P.E.のブリーフィングルームにて
 カラーギャング、通称『イエローデビル』が、小泉組に関係が深い料亭やクラブを破壊し、小泉組の人間を見つければ襲い、歌舞伎町で大暴れしている。
「歌舞伎町は小泉組が仕切っていたのですが、ご存知の通り、香港の件で小泉組の能力者は出払っており、抑えがきかなくなっています」
 今回の依頼の目的は歌舞伎町の治安維持で、目標は上からの圧力が消えて調子に乗っているイエローデビルにお灸をすえる事らしい。
 匿名で通報があり、今イエローデビルが狙っているのは歌舞伎町にある某高級クラブと目星がついている。
今までの傾向からして、襲撃を行うのは夜ではないかと予想される。
「噂では、イエローデビルのリーダーは小泉晃氏の事が嫌らっているらしく、彼への嫌がらせの意味もあるようですよ」
 資料はこちらに、とデータカードを示してオペレータは言った。

解説

●目標
歌舞伎町で大暴れしているカラーギャング、イエローデビルにお灸をすえる
(殺人や重篤な怪我をさせるのは問題になります)

●イエローデビル
構成員27人のカラーギャング。
内、25人が非能力者であり、十代後半から二十代前半の集団。
主な活動時間は夜。
たまり場は某所の地下駐車場。
非能力者が武器としてナイフやバッドなどを持っていますがこれらはAGWではありません。
非能力者の内四人と能力者の二人はバイクに乗れます。
リーダーは無駄に戦闘センスがあり結構強く、副リーダーも戦闘狂でそれなりに強いです。
・リーダー:木原 登治・18歳
 シャドウルーカーで、武器は鉤爪で両手に装備する。その他に銃も所持。
 亡き小泉孝蔵の息子、小泉晃を個人的な理由で(逆)恨んでいる。
 (噂では数年前、好きだった女の子が小泉晃を好きで失恋したらしい)
・副リーダー:石森 竜也・18歳
 ドレッドノートで、武器は戦斧。戦闘狂。

●高級クラブ
小泉組が関係するクラブで、十一階建てビルの五階で営業しています。
イエローデビルがたまり場にしている場所からはバイクで十分程の距離にあります。

●小泉晃
現在、エージェント登録後研修により東京にいないため、基本的には登場しません。

リプレイ

●一網打尽にするために
 スマートフォンで調べた、曇りのち晴れ、という天気予報通り、太陽が雲を灰色に照らしている。
 鬼灯 佐千子(aa2526)とリタ(aa2526hero001)はイエローデビルの少年たちがたまり場にしている地下駐車場の管理会社を調べ、駐車場への出入りの許可と我々の行動時間帯のエレベーターの作動停止を求めると、緊急事態というわけでもないためエレベーターの作動停止は出来ないと断られたが、管理会社側にイエローデビルの報復を向けさせないことを条件に出入りの許可はでた。
「仕方ない。エレベーターはこっそり一階あたりで布でも噛みこませて一時的に止めておこう」
 黒猫耳の少女、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)を腕に絡みつかせた黒髪の青年、麻生 遊夜(aa0452)の意見に反対はなかった。
 一緒に依頼を受けた仲間と一緒にいる中、ユフォアリーヤの胸は明らかに麻生の腕に当たっているが、麻生に気にした様子はない。
 それは、その状態が日常化していて、麻生にとってユフォアリーヤが家族であり保護対象だからなのだが、……ユファリーヤには、それがちょっと切ない。
 そんな年頃の娘さんであるユファリーヤや、他の女性陣を前に、緊張して目が合わせられないでいる27歳。
 オシャレでシャイな英雄、濤(aa3404hero001)の横から、呉 琳(aa3404)は麻生に尊敬の眼差しを向ける。
「エレベーターは布を噛ませると止まるのか? 物知りだな!」
 経営する孤児院の子供たちを思い出させる純粋な尊敬の眼差しに、子供に犯罪の手口を教えてしまったような気まずさを覚え、麻生は呉へと曖昧な笑みで応えて、話を戻した。
「それから、警察への協力要請は、許可されなかった」
 歌舞伎町の警察は普段から多忙だが、今はイエローデビルだけではなく別口の事件も小泉組の影響力低下に反比例して増えていているため、非常に忙しく、忙しい中でも能力者がいて手に負えない事件としてH.O.P.E.に回ってきた依頼であるため、受け入れられなかったのだ。
「でも、出入り口を塞ぐ護送車の代わりになる車を運転手も一緒にH.O.P.E.に用意して貰えたのは、良かったですよね」
 黒猫の執事、クロード(aa3803hero001)を英雄にもつ若君というような雰囲気の世良 霧人(aa3803)の話し……。
「手錠は残念だけど、申請が通らなかったよ。犯罪行為をしたと実感させるために使いたかったんだけどね。代わりにって、結束バンド貰ったよ」
 妖艶な雰囲気の美女、カリオフィリア(aa3950hero001)を英雄とする落ち着いた色合いの服を着た眼鏡少女であるアガサ(aa3950)が、申請の結果を続けて報告した。
「準備はこんなところでしょうか」
 英雄である金獅(aa0086hero001)と共鳴して、目立たないように銀の髪を黒のウィッグで隠し、黒いスーツを着た女性、宇津木 明珠(aa0086)の言葉に、色々な意味で相手に変化をもたらす事、相手の中の何かを破壊する事を好む凶鳥、金獅はその心の内で不敵に笑う。
『楽しみだ……』

 そして、呉と同様に純粋な瞳を持つ子供がもう一人。
「リン! タオ! 頑張ろうね!」
 友人である呉と濤の二人に、鵜鬱鷹 武之(aa3506)の英雄であるザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)が、明るく元気に声をかけ、声をかけられた呉と濤もすぐに挨拶を返す。
「たけゆき! ルゥ! がんばろーな!!」
「が、頑張りましょう! ……って武之さん何ですかそのやる気の無い目は! ルゥさんに失礼でしょう! シャキっとしなさい!」
 呉はいつも通りに、濤もいつも通りにザフルに緊張しながら応えて、鵜鬱鷹を叱咤する。
「たけゆき……」
 濤に叱咤されても、いつも通りにやる気なく、気だるげな鵜鬱鷹に、呆然としたように名を呼んだ呉の様子に、流石に言い過ぎたかもしれないが、琳も鵜鬱鷹のクズっぷりがわかったのだろうと、濤は頷こうとして……。
「……かっこいいぜ! やっぱぶれないな! それが信念ってヤツか!」
 続いた呉の言葉に、濤は無言で頭痛を覚えた。
(琳のこの素直さは得難い才能であり、そのまま真っ直ぐに育って欲しいとは思っているのですけど……ですけど……いえ、そうです、このクズが全て悪いのです!)
 濤が諸悪の根源である鵜鬱鷹を睨みつけるが……。
「終わったら桜餅あげるぞ!」
 濤が睨みつけた先で、呉はザフルのためにもお兄さんらしい所を見せようと、鵜鬱鷹にやる気を出さるために差し入れの話をしていた。
 濤が、独り相撲をしてるような、虚脱感に襲われ、だが直ぐに立ち直って覚悟を新たにした頃……。
「琳くんが差し入れをくれると言うからやろうかね……」
差し入れに釣られて鵜鬱鷹もやっとやる気を起こしたようだ。
 そんな中、黄色い大きなぬいぐるみを肌身離さず持ち歩く少女、獅子ヶ谷 七海(aa1568)の英雄である五々六(aa1568hero001)は、今回の依頼の舞台である歌舞伎町での出来事に思いを馳せていた……。
(この地で、様々な出会いがあった……ドンペリが好きで接客業を疑う愛想の悪さだがむしろそこがクールなアカリちゃん。リシャールが好きで、相手の貯蓄と年収に並々ならぬ好奇心を見せるカオリちゃん。ロマコンのピンドン割りが好きなレイカちゃん……etc……誰もが、この騒々しくも美しい夜の世界で、精一杯に日々を生き抜いている)
「聖都カブキタウンの平穏を乱す者は……誰であろうと、許さねえ……今度アフターの約束もあるしな……」
 珍しく神妙に考え込んでいるように見えた五々六が真っ当なことを言ったと思った。だが、最後にボソっと呟いた『アフター』の意味は解からなかったが、緩んだ表情にきっとろくでもない事なのだろうと判断出来た。
 獅子ヶ谷は、普段から抱いている、暴力をさらなる暴力で制圧する五々六への畏怖と嫌悪の念に加えて、もう一つ負の念を増やすと、冷やかさが増したような瞳で五々六を見て、トラと名付けた黄色い猫のぬいぐるみを強く抱き込むのだった……。

●夜の歌舞伎町
 夜の帳が下りてしばらく経った頃。
 五々六と共鳴した獅子々谷は、ほとんどの場合でそうしているように五々六に肉体の操作を任せ、内なる意識下で、うつらうつらとして半分寝ている状態でいた。
まだ子供の獅子々谷の夜は早いのである。
 イエローデビルのたまり場である地下駐車場の出入り口近くに潜んで様子をうかがっていたアガサは、黄色い服を着たり、布を腕に巻いたりした彼らに黄巾党を思い出して、内心で呟く。
『寛恕して帰農せしめるか、京観を築き上げるか……ね』
『先週レポートに書いておったのぅ』
 カリオフィリアはその時の様子を思い出して、アガサにたずねる。
『それで、どうするかえ?』
 更生するよう説得するのか、罪を罰して屍を築くのか。
『後者よ』
『ほどほどにするのじゃぞ?』
(本能に任せて他人に迷惑をかけて……野蛮よ。吐き気がするわ)
 過去に男性愚神に襲撃された事があるアガサの意見は暴力を振るう男に対して過激だ。
 同じく、続々と集まってくるイエローデビルの少年たちを出入り口付近に潜んで見ていた世良は、アガサとは違うことを思い、クロードに語り掛ける。
『本物のヤーさんに喧嘩を売るなんて、怖い物知らずにも程があるよ……』
『まったくです。それに、個人的な恨みから街で暴れるなど、許される事ではありません! こらしめてやりましょう!』
『そうだね』
 クロードの言葉に世良は、静かに頷く。
 この時間、地下駐車場がイエローデビルのたまり場になっているのを周辺の人たちは知っているのか、少年たち以外の人通りは、ほとんどない。
これなら、一般の人を巻き込む恐れは無さそうだと、世良は少し安堵する。
『あれ? 何か様子が変? 一人、バイクに乗って……出てきた!?』
『旦那様、あちらには用意していただいたH.O.P.E.の大型車が待機しているのではありませんでしたか?』
『……もしかして、バレた?』
『麻生様に連絡を!』

●始まりの合図
『……来てないのは、残り後5人か……やれやれ、まぁガキ共の躾は大人の仕事かね』
『……ん、悪い子にはオシオキ、だね』
 麻生とユフォアリーヤ共鳴して、麻生が主導権を握ると、獣人化して麻生が20代前半まで若返った姿になる。
 彼らは手早くエレベーターへ細工をし、階段へ立ち入り禁止の黄色いテープを張り巡らせ終えた、ちょうどその時、世良からの連絡で事態は慌ただしく動き出す。
 H.O.P.E.とまでは気づかなくとも、見かけない大型車がたまり場近くに長く停留している事で警戒されてしまったのだ。
 イエローデビルは、バイクに乗れるものを偵察に出した結果、疑いがは深まったらしく、相手が誰かは判らないものの、襲撃、取り締まりのタイミングを外すために、まだたまり場に来てない者は現地集合として、本来の出発時間を早め、動き始めたのだ……。
 麻生たちの、そこからの判断は早かった。
「ドライバーに連絡する、今すぐ動こう」
 階段を駆け下り地下駐車場に到着すると、車両出入り口を封鎖するために姿を現した世良たちが横に並んだのを見て、イエローデビルの少年たちが、動きを止め、立ち止まった様子が見て取れた。
「あなたたちは住居に不法侵入しています。抵抗せず投降してください。さもなくば現行犯逮捕します!」
 鬼灯が少年たちに勧告すると、エージェントたちの後ろに大型車が出入り口を塞ぐように停まった。
 年齢も服装もバラバラで自分たちと同じ年くらいの者も参加している、見知らぬ七人、いや、階段に現れた者も含めて八人の集団を確認した木原は、先日の石森の言葉を脳内でリフレインして舌打ちし、大声で告げる。
「H.O.P.E.だ! 逃げろ!」
 リーダー木原の号令に、イエローデビルのメンバーは、一目散に逃げ出し、階段とエレベータがある方向と、大型車でもで完全には防げなかった車両出入り口へ……出入り口には木原を先頭にメンバーが続き、階段側は石森を先頭に数人が移動していく。
 出入り口の方へ向かってきた木原の前に、立ち塞ぐようにして飛び出した宇津木は、相手を挑発するような余裕のある態度で話しかける。
「初めまして。お話し合いに参りました」
「邪魔だ、どけ!」
 正拳突きを打ち込むように木原が宇津木に向かって鉤爪を振るう。
半身になって避けたのを追いかけるように斜めに追いかけ追撃するように見せかけ、宇津木の横を通り抜けようとした。
 だが、通り抜けようとした先に現れた剣先に、木原は後ろに下がる事になった。
 木原に剣先を向けた鵜鬱鷹は、出入り口から遠ざけるために、あえて追いかけるように迫ったところで、鵜鬱鷹の後ろから飛び出した宇津木と同時に攻撃を仕掛けていく。
「まず確認をいいでしょうか。失恋などという個人的な恨みで小泉組に所縁のある場所や方々を襲っていると言うのは事実でしょうか?」
 木原はH.O.P.E.の資料にも載った無駄に高い戦闘センスを発揮し、華麗に攻撃を両手に嵌めた鉤爪で捌き、鋭い反撃を返したが、前には進めず、更に出入り口から離れるように後ろに下がることになってしまう。
「小泉組の能力者が戻った後、報復されると何故考えなかったのですか?」
「さっきから、ごちゃごちゃうるせえんだよ!」
 宇津木は、卑下と嘲り、非難を込めて本人の敵対心を煽る様に、周囲の人間の彼に対するポジティブな感情をネガティヴなものに変える様に言葉を選んで使っていたが、呉たちに転がされて話を聞いているイエローデビルメンバーの反応は薄いようだ。
「はぁ……そんなんだから女の子にも振られちゃうんじゃないの? 晃くんの方が全然男前だしね……」
 鵜鬱鷹はそんな言葉を木原に向けて、馬鹿な真似を今後しない様に体に直接叩き込もうと、接近戦に強い宇津木と連携して動き、ヒット&アウェイで移動しながら攻撃していく。
「晃くんに諸々勝てないからってこんな狡い真似しか出来ないなんて……本当に幼稚だね」
「はっ! 寝ぼけたこと言ってんじゃねえ! 小泉なんかより俺の方が強いんだよ! そもそも二人係で襲ってきておいて狡いも何もあるか! そんな台詞は少なくとも達也の相手みたいにタイマンの一つも張ってから言いやがれ!」
 能力者同士の戦闘に、イエローデビルの少年たちが巻き込まれないように離れて出来た空間で、木原の反論の声を合図にして、彼らの2対1の本格的な攻防が開始された。

●一対一で
 地下駐車場の階段前に移動してきた石森との距離が近づきすぎる前に麻生が声を掛けた。
「副リーダー担当は向こうにいる五々六さんだ。一対一で戦いたいそうだ」
「あんたは相手してくれないのか?」
 強い相手と戦うことを楽しみにしている石森は、期待して待つような笑みで麻生に向けて問う。
「役割分担というものがある。そしてここは通行禁止だ」
 そう言って、イグニスで、一瞬で消える炎の壁を作り出して見せてから、再度、後ろを促した。
 麻生が促した後方から、幅広の刀身を持つ大型の剣を引きずりながら獅子ヶ谷と共鳴した五々六が挑発するようにゆったりと歩いてくるのが見えた。
「よう、副リーダー、おまえには俺の相手をして貰おうか」
 言うなり、宣戦布告にあえて大振りに攻撃を石森に向かって叩き込む。
サイドに跳んで攻撃を避けた石森は楽し気に戦斧をくるりと回した。
「なるほどな。……いいぜ、それならもう少し奥に場所を変えようか」
 二人は車がない、奥の開けたスペースまで移動して向かい合う。
「さて、じゃあお相手願おうか、H.O.P.E.の五々六さん」
「希望(HOPE)? 違ぇな。俺は欲望の街の守護者――欲望 (GREED)と呼べ」
 ある種の職務放棄宣言を堂々と行う五々六に、石森は眉をひそめる。
「中二病か?……変な奴だ……行くぜ!」
 石森が戦斧を下げて両手に持って重心を低くして駆け寄り、その勢いのままに下から戦斧を斜めに振り上げたのを、五々六は重量のある大剣を構えて防ぐ。
 すぐさま使い慣れた戦斧を弧を描くように無理なく操って石森が仕掛ける連撃を先程同様に大剣で防いだり身を反らして避けたりしながら防ぎきると、反撃に移る。
 一気呵成のスキルでニ撃目を両足や空いている腕を狙って、大剣を叩きつけた……。

●鬼ごっこ
「来なさい、宦官にしてあげるわ」
アガサの言葉の、その意味が解った少数の少年たちは、彼女の本気具合が伺える冷たい声に思わず内股になる。
「カンガンって何だ?」
 その一部の少年たちの反応から何やら恐ろしい予感を抱きながらも、一人の少年が恐いもの見たさと知的好奇心に抗えず聞いた。
「昔、中国で皇帝の奥さんたち住む後宮に仕えた男の側仕えで、出来ないように『ピーー(放送禁止音)』を『ピーー(放送禁止音)』した奴だ……」
 内股になった仲間がちょうど色んな音が止んだような瞬間に発した回答が地下駐車場に響いて……。
 一瞬の静寂の後、宦官の意味を知らなかった男たちは、知っていた者たちと同じように内股になって青ざめ、アガサの近くに居た少年の一人はへっぴり腰で後退っていき、もう一人は小さな悲鳴を上げて逃げだすなど、綺麗に彼女の周りから弧を描くように少年たちが離れいなくなった……。
 世良は、大型車両と出入り口の間を通り抜けて逃げようとする少年たちに足払いをかけると、転びそうになったあその手首掴んで引き上げて支え、をまとめると結束バンドを引き絞って拘束していく。
「一人頭四人拘束すれば終わるかな? 結束バンドだと、足も拘束出来ていいね」
 そんな感想を言いながら、視界の横へ出入り口に突っ込んで行こうとするバイクを見つけて、世良はバイクの前に苦無を投げつける。
……が、その苦無がいい具合に回転するタイヤに巻き込まれて楔となり、そのせいでバイクに乗っていた男が中空に投げ出されてしまった。
 男の身体が舞い上がり、コンクリートの床に男が叩きつけられて大惨事なる寸前、鬼灯がスライディングするように滑り込んで男を救出する。
「動くな。その場に伏せなさい。……私の手の届く範囲に居るなら、流れ弾くらいは防いであげられるから」
 そのまま逃げようとした男を鬼灯は素早く拘束して端の方へ寄せてやった。
 その様子に安堵して、残りのメンバーを捕獲するために動きながら、世良は鬼灯に礼を言った。
「鬼灯さん、ありがとうございます」
「いえ、間に合ってよかった……」
 そんな事故もある中で、呉は威嚇射撃をして、脱出ルートを潰していく。
彼は晃を友達だと思っていて、だから今回は晃の為にと参加していた。
「理由はどうあれ、晃は今、頑張ってるんだ。……晃の邪魔をするのは許さないぜ」
 誰か一人は通り抜けられるだろうと残った者たちがまとめて向かってきたところで、「いくぜ!」
 呉は、大きく合図の声を掛けてフラッシュバンのスキルを使い、閃光に目を閉じ腕や手で目元を覆う少年たちの足を、結束バンドで次々と結んでいく。
 能力者と自分たちでは相手にもならない事を、木原と石森という二人の能力者の力を間近で見てきたためよく知っているのだろう。
イエローデビルのメンバーは逃げようとして武器や物を投げつけてくることはあっても、エージェントである彼らに面と向かっては立ち合おうとはしなかった。
 階段に向かってきたイエローデビルメンバーも麻生が門番のように立ち塞がっているため、封鎖後に逃げ出せた者はいなかった。
「んなもん持ってっと怪我するぜ?」
『……ん、没収するよー』
 階段の番人のユフォアリーヤと共鳴している麻生は、器用にナイフやバットなど、武器だけを撃ち抜き、嫌がらせにマグロでぺちぺちしたり、アフロやモヒカンを被せたりしてイエローデビルたちの気力をそぎ、拘束、確保していった。

●タイマンと反省
「これはカスミちゃんの分! これはセイラちゃんの分! そしてこれは、ルイちゃんを不安にさせた分だァ!」
 五々六が、石森を殴り飛ばす。
殴られた石森は動くこともできずにいた。
「おい、やり過ぎだろ」
「あー、悪いな」
 少年たちを拘束し終えて、様子を見に来た麻生は、駐車場の床に両足を斬りつけられ転がる石森を見て顔をしかめる。
「大丈夫か?」
「腕、折れて……る、状態が、大丈、夫、て、いうなら……な」
 乱れた呼吸で途切れ途切れに呟かれた言葉に、麻生は五々六を見る。
「五々六さん、ちょっと共鳴を解いて貰えるか?」
「おう」
 ほぼ眠っているような状態の獅子ヶ谷を、ユフォアリーヤがぬいぐるみごと抱きしめて支える微笑ましい光景を確認してから、麻生は 巨体の五々六を見上げて言った。
「反省しろ」
「……は?」
 麻生の言葉に固まった五々六だったが、「もし、副リーダーに歌舞伎町で働く姉がいて、怪我した弟を見て泣いたら、泣かせたのは五々六さんだ。殴られても仕方ないよな?」と、麻生に言われて反論出来ず、片付けが終わり引き上げるまで、駐車場の隅でアフロを被って正座をすることになった……。

●決着と、少年たちの主張と希望
「警察に目をつけられるリスクもある為、料亭や高級クラブにとやくざ、暴力団の繋がりは隠蔽されていることが多いと聞きます。それを事前に知っていると言うことは誰か裏で手引きをしているのでしょう? 裏で手を引いてるのが誰かいいなさい」
 宇津木は木原の襟首を掴み、地下駐車場の太い柱に押し付けて問う。
「おい、もうその辺でいいだろ、これ以上はやり過ぎだ」
 スキルを全て使い尽くす勢いで攻撃を続ける宇津木を、鵜鬱鷹は引き離すと、木原はズルズルと柱を背に崩れ落ちた。

 ザフルは、カラーギャングが何かは知らないが、悪い事をしているのだけは理解している。
「悪い事しちゃ駄目なんだよ! メッ! なんだよ!」
「そうです! メッ! ですよ!!」
 ザフルに釣られて続けた濤とザフルを木原は白けた目で見る。
「晃さんを困らせるならルゥ怒るんだよ!」
 ザフルにとって、ダチと言ってくれた晃は友達である。
 呉は、柱に凭れて座る木原の側にしゃがみ、その目を真っ直ぐ見て木原に話しかけた。
「晃は俺達の友達なんだ……お前は恨んでるんだろうけど、俺はお前に怒ってるぜ」
 木原が呉を見て笑う。
「なら、殴り合いの喧嘩でもするか?」
 木原の言葉に反論したのはザフルだった。
「喧嘩は駄目なんだよ! 一緒に来てもらうんだから!」
ザフルは、困っているだろう晃のために、木原を無理やり連行しようとしたが、呉がそれを止めた。
「ルゥ、今の状態での移動は流石にまずいよ」
足を始め数か所を怪我をしていて、歩かせるのも大変だし、歩く方も辛いだろう。
「わかった。ごめんなさい」
俯いて謝ったザフルの頭を呉が撫でると、ちょうどいいタイミングで声が掛けられる。
「琳、メディックを呼んだ。到着したら付き添え」
「わかった」
 呉はリタに頷き、了承する。
「というか、お前ら小泉とどういう関係だよ」
 木原の疑問に、鵜鬱鷹が答える。
「俺? 俺は晃くんと裸で一夜を過ごした仲だよ」
 ※注)温泉入って旅館で一泊しただけ
「はあ!?」
 鵜鬱鷹の答えに、木原は思わず大きな声をあげて、怪我に障ったのか顔をしかめる。
「激しかったよ?」
 ※注)枕投げが
「やめなさい! それは誤解を招く言い方だ!」
 木原がドン引きし、濤は慌てて訂正という名のツッコミを入れるのだった。

 鬼灯はひと段落した様子を見て、リタと一緒に少年たちを車に乗せるために出入り口付近の様子を確認しに移動する。
「……雨?」
 鼻先を濡らした雫に続き、空から次々と落ちる雫に、リタは鬼灯の上着のフードを頭に引き上げて被せる。
「天気予報、はずれですね……」
 鬼灯は、彼らのこれからは、一つでも多く、少しでも大きな希望がある未来であればと思う。
(その為に、自分に出来ることがあれば協力できればといいのですが……)
 フードを指先で押さえ、視線を上げて見た空には、月の周りだけ輝く雨雲に、ネオンの光が反射していた。

●治安の行方
 その後、イエローデビルは一時活動を停止した。
その間に香港から歌舞伎町へ小泉組の能力者たちも帰還し、裏社会の秩序を取り戻すために動くと、歌舞伎町の騒動は収まっていき、目的だった治安の維持は成った。
 ただ、目標であったお灸は少々、肩に力が入りすぎて、熱くなりすぎだったかもしれない。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • Analyst
    宇津木 明珠aa0086
    機械|20才|女性|防御
  • ワイルドファイター
    金獅aa0086hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • やるときはやる。
    呉 琳aa3404
    獣人|17才|男性|生命
  • 堂々たるシャイボーイ
    aa3404hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 駄菓子
    鵜鬱鷹 武之aa3506
    獣人|36才|男性|回避
  • 名を持つ者
    ザフル・アル・ルゥルゥaa3506hero001
    英雄|12才|女性|シャド
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
  • ツンデレお嬢様
    アガサaa3950
    人間|21才|女性|防御
  • 星辰浮上
    カリオフィリアaa3950hero001
    英雄|32才|女性|ブレ
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