本部

偽りなき己を曝け出せ

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/24 17:45

掲示板

オープニング

●阿鼻叫喚
 普段であれば、人々が爽やかな汗を流しつつ健闘精神を育み合う交歓の箱庭は、今は人間の欲と保身を曝け出す地獄の舞台と成り果てていた。逃げ惑う者。何かを掻き消さんと必死に声を張り上げる者。我が身可愛さのためか、はたまた潰えぬ好奇のためか、哀れな隣人の腕を取り生贄とばかりに蹴り飛ばす者。彼の従魔は逞しき白磁の太ももを高々と掲げながら大地を蹴り、哀れなる供物をムッキムキの腕に捕らえた。その彫刻のごとき口元から、人間を絶望のどん底に突き落とす悪魔の数字が告げられる。
「上から92、95、110! 繰り返す、上から92、95、110!」
「いやああああ!」

●依頼
「スリーサイズを大声で連呼されたのよ!」
 そう言って、見るからにデ……もとい、ぜいに……もとい、大層ふくよか過ぎる女性は強く拳を握り締めた。何故か空気がギスギスしている。何があったのか知らないが爆発しそうな程にギスギスしている。
「あの中央で仁王立ちしているボディービルダーのマネキンみたいなヤツがいるでしょう? あいつにいきなり抱き着かれて大声でスリーサイズを連呼されたの! もうこの世に存在していたっていう証拠がなくなる程に粉々にぶっ壊してちょうだい!」
 なにそれこわい。だがエージェント達はそれを口に出す事は出来なかった。何故なら怖いから。従魔に占拠された市民体育館のただ中にて、ママさんバレーをしていたママさん達に一体何があったのか、ここではあまり関係ないので割愛する事にする。

解説

●目標
 従魔討伐

●状況
・「従魔が現れた」と言われ現場に集合。詳細は今初めて聞かされた
・怒り心頭のママさん達に囲まれている。にげられない

●マップ情報
 体育館
 10×15スクエア。手前と奥にバスケットゴールが設置されている。撤収時に従魔が出現したのでバレーの器具は片付けられている。ママさん達が入口からじっと様子を見ている。こわい

●敵情報
 スリービルダー
 ボディービルダーのマネキンみたいな外見の従魔。ビキニパンツ。ムッキムキの腕で抱き着きその者のスリーサイズを連呼する。連呼は次の生贄が捕まるまで続く。外見年齢16歳未満については20歳相当時の予測スリーサイズを連呼する。共鳴状態で抱き着かれた場合能力者・英雄のスリーサイズを交互に連呼する。めっちゃ硬い。めっちゃ素早い。攻撃されてもそのまま抱き着こうとする。まだ暴露されていない者を優先して狙う。全PCのスリーサイズを暴露した所で何故か満足げな表情を浮かべ消える
・黒い物体
 1ターンに1~2個生成。床に張り付き踏んだ者に【拘束】付与。何処から生み出されているのか気にしてはいけない。最初に10個点在している

●プレイング記入時の注意点
・能力者、英雄両方のスリーサイズを記入下さい。記入がない場合はMSが勝手に決めてしまいます
・外見年齢16歳未満の場合は20歳相当時の予測スリーサイズをお書き下さい。20歳相当でも幼児体型というのはOKです
・16歳未満は不思議な力で守られますがそれ以外は老若男女関係なく暴露対象です
・非共鳴状態では能力値が下がります
・「スリーサイズ暴露NG]というプレイングは不可です。暴露されたくない場合は死力を尽くして下さい
・コメディーです。キャラ崩壊にご注意下さい

リプレイ

●開始
 エージェント達はとりあえず、と市民体育館を入口から覗き込んだ。ママさん達の訴え通り、確かに体育館の中央ではボディービルダーのマネキンみたいなヤツが仁王立ちに立っている。カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は196cmの長身で手をかざしてマッチョ従魔に視線を向け、漂ってくる面倒の臭いに嫌そうに顔をしかめた。
「おい、マジかよ? 何だありゃ? マジマッチョじゃねーか! ガチで殴り合って負ける気はしねーけど、共鳴すると体格差で不利になりそうだな。とりあえず別々に行動してなんとか討伐に持ってく形にするか? マリ」
 カイが言いながら視線を下ろすと御童 紗希(aa0339)は硬直状態でマッチョを激しく凝視していた。スリーサイズを暴露? なにそれ殺意。紗季は大きな声では言えないが胸部が謙虚な部族なのだ。つまり貧乳なのだ。激しく気にしているのだ。ゆえに、断固暴露だけは避けるべく手を尽くさねばならないのだ。
 一方、エリーゼ・シルヴィーナ(aa1502)の反応は実に淡泊なものだった。スリーサイズを暴露? だから何? と偉大な胸にたすき掛けをしてモデル立ちしそうなぐらい淡泊だった。エリーゼはふうとため息を吐き、傍らに立つユリス・セルフィールド(aa1502hero001)に語り掛けつつ肩をすくめる。
「全く、妙な従魔もいたものよね、ねえセルフィールド高司祭。……って、セルフィールド高司祭?」
 ユリスは聖女のごとき微笑みを浮かべエリーゼの傍に立っていた。その美しくも厳かで落ち着きのある佇まいは、思わず「懺悔させて下さい」と膝をつき拝みたくなる神々しさに溢れている。普段であれば。でも今は何処となーく「なんでもしますのでどうか命だけは!」と土下座したくなるような黒いオーラが漏れている、様な気がする。
「何もありませんよ、シスター・シルヴィーナ。さあ、さっさと殺してしまいましょうか、こんな従魔」
「いや、どう見ても普段のセルフィールド高司祭らしくないんだけど……? で、スリーサイズを連呼されるって? 別にあたしは晒されて困るもんじゃないし」
「ええ、そうでしょうね。隠れて努力して居ましたものね?」
「何でそんな辛辣なのよ、今日のセルフィールド高司祭……とは言っても流石のあたしも晒されるのは良いんだけど、流石にあれに抱き付かれるのは……
 まあ、いいわ。なんか妙な殺気を感じるしさっさと共鳴して倒す事に……」
「スリーサイズも何も、そんなもの日頃の生活のせいだろう、なぁドクター?」
 その時、思わぬ方向から言葉の暴力が不特定多数を狙い撃ちした。無慈悲なる暗殺者、もとい誇り高き衛生兵クレア・マクミラン(aa1631)のその横で、リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)が珍しく顔を青ざめさせながら上擦り気味に声を上げる。
「ク、クレアちゃん!?」
「そんなものよりBMIを気にすべきだ。そんなに言われて困るなら、もっと日頃から努力すればいい」
 空気とスリーサイズを気にしないクレアの発言にママさん達のピリピリ度が5上がった。わりと気にしてる派のリリアンが「そういう問題じゃないでしょ!?」と必死で諫めの声を上げ、そこから少し離れた所では佐倉 樹(aa0340)とシルミルテ(aa0340hero001)がムキムキマッチョ従魔に半目で視線を投げ掛けていた。
「……この間大学で健康診断あったばかりだから見ようと思えば見られるもんだし……そこはいいんだけど……」
「ムぇ~……」
 なぜ、ビキニパンツなのか……マッチョはともかく、なぜビキニパンツ。いや、他人(人じゃないけど、従魔だけど)の嗜好をあまり否定するつもりはないのだけれども、しかし、なぜビキニパンツ……
 だが、ムキムキマッチョビキニパンツに若干引き気味になる者もいれば、両手を合わせてうっとりと眺める者もいるのが現実の怖い所である。マッチョビキニはもちろんの事、仲間の殿方もナイスバディが目白押し。自身も官能的なナイスバディをメイド服に包み込み、鈴音 桜花(aa1122)は濡れそぼった熱いため息を口から漏らす。
「はぁ……逞しい体ですわね」
 そんな桜花のちょっと危ない熱視線の一部を受けながら、しかし幸か不幸か気付かないまま防人 正護(aa2336)は完全に言葉を失っていた。やる気ない。どうでもいい。早くここから帰りたい。そしてそこから12cm下の地点で、アイリス・サキモリ(aa2336hero001)は何故かハァハァと息を荒げていた。
「困っている人を助けてこその防人、そーじゃろジーチャン!」
「そうだな、帰るぞ。それが困る人を助ける一番の方法だ」
「だが断るー!!」
 アイリスは言うが早いか恍惚の笑みで体育館に猛ダッシュした。速い。追えない。関わりたくない。わずか一秒でそこまで考えた正護は、桜花の熱い視線に気付かぬまま額に手を当て首を振る。
「……まぁ……害はなさそうだし……しばらく放っておくか……」
「おまかせを! アイリスちゃんは私が護るのです!」
 正護の言葉にAlice(aa1122hero001)が元気に応え同じく体育館に突入した。一応断っておくが能力者も英雄も非共鳴状態では従魔や愚神を攻撃してもダメージを与える事はほとんど出来ず、能力値もお察しになる。つまりこうなる。
「上から91、54、94! 続いて20歳相当時95、56、89!」
「きゃー、アイリスちゃんおっきー!」
「おねーちゃん20歳だとそんなになるのか! 凄いのじゃ! えーと今のカップは」
 アイリスとAliceの20歳相当時が暴露された! 二人は構わずイチャついている! ママさん達のイライラ度が10上がった! これはまずい。正護は思った。だが今回のアイリスがまともに戦ってくれるとは思えない。正護はため息を吐きつつ怒れるママさん達に向き直る。
「すいません、あの従魔は早急に対処しますので、危ないので少し離れて頂けると」
「アンタもエージェントなんでしょう!? いいガタイしてんだから突っ立ってないでとっとと参戦しなさいよ!」
「……え?」


 黄泉 呪理(aa4014)は何故か自信満々で戦場に足を踏み入れた。その盛大に張られている胸に現状張れそうな要因は見受けられない。だが、呪理はホームラン予告をする四番バッターのような表情で「上から84、60、88!」と新たな数字を連呼している従魔にびしりと指を差す。
「スリーサイズ暴露なんか怖くないで! むしろカムカムや! そこの筋肉モリモリマッチョマンな変態従魔! うちのスリーサイズ測ってみい!」
『暴露大会か……面白そうな従魔だな。いいだろう。呪理、括目しろ! 一応言っておく。私はすごいぞ』
 呪理と共鳴した状態でアナスタシア(aa4014hero001)も高らかに宣言した。一体何と戦っているか分からなくなってしまいそうだが、筋肉モリモリマッチョマンにそんな事は関係ない。お望み通り獲物に抱き付きお望み通り暴露する。
「能力者20歳相当時、上から72、54、77!」
 その言葉に、呪理の表情が満塁サヨナラホームランを打たれたピッチャーのごとく変貌した。確かに今現在自分の胸はホームランではないかもしれない。だが20歳になってもホームランを打つ事は叶わないなど……そんな事ってあるだろうか。
「……絶望しかないわ。なんでや」
「英雄20歳相当時、上から105、64、92!」
 だが、呪理の絶望はその程度では終わらなかった。顔面がニブルヘイム化している相棒の心中お察しせず、アナスタシアが共鳴したままふふんと得意気に鼻を鳴らす。
『当然の結果だ。ん? おい、呪理、やめろ! 血迷ったか!? 私は味方だ!?』
 共鳴を解いた呪理はその場にゆらりと立ち上がった。ホームランを打つ事が出来ないと宣告されたなら、相手のホームランをホームランすればいいじゃない。今、未来のホームラン王を捉えた呪理の両目がギラリと光る。


 エリーゼはグランツサーベルを構え至極真面目にライヴスフィールドを展開させた。咲魔 慧(aa1932)も至極真面目に変身ベルトの赤い宝玉に触れ、「閃き轟け!」と合言葉を唱え、電気のようなライヴスを纏った特撮系ヒーロー『電撃戦士ジュピター』に変身した。一応断っておきますが彼は至極真面目です。
「壊れやすい一輪の花のように! そして百億年の時をかけて形成される宝石のように! 大切に守られて然るべき尊くもキケンなレディの秘密を! テメーはよくもまああっけらかんと野晒しにしてくれたな! この雷戦士ジュピターが必ず裁きを下してくれる!」
『……本音は?』
「そういうのは女の子と少しずつ少しずつ仲良くなって終いにコッソリ聞きだすもんだろうが! 風情ってもんがなってねえ良い加減にしろ!」
『そんな事で熱くなりなさるなみっともない!』
 ファンブル・ダイスロール(aa1932hero001)のキレあるツッコミごと振り切るように、電撃戦士ジュピターは稲妻のごとく駆け出した。「上から72、54、77!」と叫んでいた従魔は慧の姿を認めると、まるで我が子を抱擁する母のようにたくましき白磁の腕を広げる。
「抱き付くんじゃねえ筋肉星人! せめてキレイなお姉さんの姿して来いっ!」
 己に忠実なヒーローは防御を捨てた猛攻を従魔の腹へ叩き込んだ。オーガドライブを乗せたフラメアの攻撃に従魔の体がわずかに浮いたが、筋肉星人は何事もなかったようにヒーローの肉体を包み込む。
「能力者上から90、67、95! 英雄86、64、89!」
「うん……いや、別に俺達のスリーサイズは聞かれても恥ずかしくはないが、女の子の秘密は秘密のままが良い! 早急に討伐するぞファンブル!」
 「90、67、95!」と連呼する従魔を追いジュピターは駆け出した。その陰で桜花が「90、67、95……」とメモしている事には気付かない。


「近付かないで。これから従魔退治にはいりまーす」
 カイは借りたバリケードテープで体育館を囲み一息ついた。「さてどう対処すべきかな」と考えていると「能力者上から90、67、95! 英雄86、64、89!」という従魔の声が響いてくる。
「あのヤロウ、既に犠牲者出しやがって……とりあえず殴り込み……あ、なんか黒いの踏んだ」
 かかった生贄に対してビキニパンツは速かった。カイの真横からムキムキが迫った。カイの筋肉に従魔の筋肉が布越しに密着なまあったかい。
「ギャアァア! スリーサイズを暴露されるのは問題ないけど、ビキニパンツのテカったマッチョに抱きつかれるのは俺の精神が崩壊するうう! ……ふざけんなぁ!」
 色々ブチ切れる寸前でカイは無理矢理ジャーマンスープレックスの体勢に入り、マッチョビキニの頭部を体育館へと叩き込んだ。スープレックスは決まったが、残念共鳴していないので従魔にダメージは入らない!
「上から101.9、80.4、100!」
「なんで俺だけ小数点が入ってるんだ!」


 御神 恭也(aa0127)は何とも言えぬ表情でスナイパーライフルを構えていた。暗殺術に携わる家系の生まれという事もあり、特に戦闘では敵に情報を与えるのを嫌い表情や声色の変化を極力抑える恭也であるが、今回は少々事情が違う。
「入り口からの殺気で息が詰まりそうだ……」
『さっきから叫んでる三つの数字に何の意味があるんだろ?』
 伊邪那美(aa0127hero001)が共鳴状態で無邪気に疑問を投げ掛けてきた。その意味を知る者にとってはバ○スと同意義の羅列でも、意味を知らぬ者にとっては謎の数字の羅列である。
『数字を叫んでるだけだし、慌てて倒す必要は無いんじゃない?』
「いや……下手に手を抜いて対応すると入り口のおばさん達に八つ当たりされそうで恐ろしい。とにかく何処から生み出されたか判らん上に何が起きるかも判らない物は早急に破壊しておくべきだな」
 恭也はハードボイルドに照準を定め、正しく暗殺者の眼差しで床に転がる黒い物体を撃ち抜いた。その横を通り抜けた従魔から同じ物体がころりと落ちた。


「だ、抱き付かれてスリーサイズを言われるのは怖いけど、あたしだと、どれくらいになるのかな?」
 鞠丘 麻陽(aa0307)は顔を赤らめながら和服の中のたゆんたゆんをさらにたゆんたゆんさせた。尊い犠牲となった仲間達の情報から、少なくとも14歳以下は20歳相当時のサイズが暴露される事は分かった。怖さはあるが、契約による体型への影響から現時点でのサイズも把握していないこの恐ろしい発育具合が、一体何処まで成長するのか気にせずにはいられない。
「とりあえず、周り(特に奥様方)の目が痛いから共鳴! 建物は傷付けないよう注意だよ!」
 そして麻陽は鏡宮 愛姫(aa0307hero001)と共鳴し、さらに驚異となった胸囲を揺らしながらウィザードセンスを展開させた。そして測られたくない人の盾になるべく足を踏み出した……ところでつい黒い物体を踏んづける。
「能力者20歳相当時、上から計測不能、56、110。英雄20歳相当時、上から計測不能、57、112!」
「計測不能、ってなんなんだよ!?」
「計測上限の150cmをオーバーしています」
 麻陽の問いに従魔が律儀に答えを返した。駆け出した従魔のマッスルショルダーを見送りながら麻陽と愛姫が驚きの声を上げる。
「そ、そこまで成長するんだよ!?」
『え、えぇ? そ、それは、少し恥ずかしいですねぇ』


 クレアは煙草を咥えながら戦場(不本意)に立っていた。言いたくはないがこの状況はあんまりにもあんまりである。半分でもやる気があるのがいっそ奇跡な状況である。でもまあ仕事だし、従魔だし、真面目に戦って早く帰ろう、クレアはそう思っていた。
 だがリリアンは違う。
『クレアちゃん、死守よ、死守! 今回だけは話が別!!』
「……もしかしてまた太ったのか? だからあれほど運動をして間食をやめろと言ったんだ」
 相棒の急所を的確にジャックポットしながらクレアは天雄星林冲を構えた。己の肉体に恥じる所は一切ない。迫りくる従魔に全くひるまず抱き付かれたらそのまま渾身の力で槍を突き刺し続けるのみ。
 だがリリアンは違う。
「まさに千載一遇、さっさと終わらせて帰るとしましょう」
『待って待って! クレアちゃん、これ千載一遇じゃないから!! これ諸刃の剣っていうのよ!!!』
「能力者、上から85、58、87! 英雄91、64、92!」
 任務を終えた従魔はたくましき尻をお土産に二人の元から去って行った。KO状態のリリアンへクレアは淡々と語り掛ける。
『……』
「見事に太ったな」
『……』
「ドクター、明日からメニュー組んでやるから、毎日ちゃんとやるんだぞ」
『……そうね、そうする……』


 アイリス・サキモリ。本名は防人菖蒲で正護の曾孫だと自称しているこのボンっ、きゅっ、バイーンな美少女は、しかし今回ばかりは正護仕込みの体術とか結構重いバックグラウンドとかを完全にその身に封印した。彼女の目的はただ三つ。女性陣に抱きつきスリーサイズを測りカップ数を叫ぶ事! 
 鈴音桜花。ムキムキな男性(敵味方関係なく)を見てうっとりしたり聞こえたスリーサイズを男女問わず紙にメモして保存したりをひたすら遂行したこの少女は、更なる野望をその抜群の胸の内に秘めていた。敵のトラップに引っ掛かった女性陣の隙あらばどさくさに紛れて体を触ったり色々してみたり、相手が女性英雄なら「貴方と共鳴してみたいわね……うふふ♪」と耳元で囁いて百合展開に持ち込みたい!
 そして絶望のスリーサイズ測定が終わった呪理の目的は、鈴音とイチャイチャドロドロしながら遊びたい! 何やら手がわきわきしている相棒に、なんとかホームランを守り切ったアナスタシアが諫めの声を張り上げる。
『おい! 呪理、やめろ! 神様が見てる!』
「MとSのつく神様怖くて仕事できるかー!? むしろ、この神様ならええ笑顔でサムズアップしてる! そう思うんや! 心ちゅうか、魂のレベルでな!」
 その神様とやらが何処のどなたかは存じませんが、とりあえず神の裁き的な何かが存在しない事は確かである。なのでこの場で起こった事をありのままにお伝えします。
「鈴音はんイチャイチャドロドロしながら遊ぼうかー。うちの超絶技巧テクニックで陥落させたるわ!」
「そうじゃ! 逆に捕まった人のところに来るんだから捕まった人の近くを攻めに行けばっ!!」
「貴方と共鳴してみたいわね……うふふ♪」
「鞠丘はん、鏡宮はん、何、食べたら、そんな大きくなるん?」
「ええ~、何食べたらって……限度があると思うんだよ……ひゃあっ!」
「おお! この触り心地! この弾力! このボリュームは正しく驚異のけいそくふ」


 樹は至極真面目に黒の猟兵をその手に開き、ウィザードセンスで底上げした銀の魔弾を従魔へと差し向けた。スリービルダーは真横から直撃を受けつつしかしひるまず、直線上に立つエリーゼへとアタックを試みる。
「一応抵抗を試み……ってセルフィールド高司祭!?」
『先程からずっと様子を見て居ましたが……調子に乗るなよ? 役にも立たない従魔風情が』
「……ちょ、あたしの身体……」
『女性の触れてはならぬ秘密に触れたのだ、命の一つや二つ覚悟は出来て居るのだろう?』
 ユリスは身体の支配権を強制的にエリーゼから奪い取り、グリムリーパーを従魔の首元にあてがい思いっきり振り抜いた。しかしスリービルダーはひるまず抱き付きお馴染みの羅列を体育館へ響かせる。
「能力者上から96、59、88! 英雄上から85、63、91!」
「セイクリッドスパーク!」
 扇情的な修道女がマッチョに抱き付かれているのを発見した慧はすぐさま駆け付け、怒涛乱舞で従魔と床の黒い物体を攻撃した。レディの秘密は守らねばならぬ。電撃戦士ジュピターは消音のため自慢の喉を震わせる。

(歌詞抜粋)
この世に蔓延る醜き神に
裁きの槌を下すため
金の閃光身に纏い
進めジュピター光のごとく

 電撃戦士ジュピターは『雷戦士ジュピターのテーマ』を大声で歌いながら従魔を追って走り去る。エリーゼの体を借りたままユリスは聖女のごとく微笑んだ。手に死神を冠する鎌をぎっちり握り締めながら。


「ぎえええええ」
 紗希は逃げていた。それはもう全力で逃げていた。今まではなんとか見つからずに済んでいたが、何故かビキニパンツが明らかにこちらを狙って腿を上げ上げ走ってくる。
「マリ! くっそこの離れ……あ、離れた。よっし今助け……! あ、また黒いの踏んだ」
 胸囲101.9cmは再び黒い物体に捕まった。相棒のコントを目の当たりにした紗希から絶望の声が張り上がる。
「カイのバカ~!」
 その時、油断した一瞬の隙にマッチョがついに紗希を捉えた。「マリ! 共鳴だ!」と手を伸ばしたカイを遮るように、ついに絶望が音を為してこの穢れし大地に降臨する。
「上から70、60、85!」
 この世の物とは思えぬ絶叫が紗希の喉から迸った。半分失神状態で紗希が三角絞めの体制を取り、もろに顕現し糸織物にカイが思わず首を振る。
「マリ! パンツ丸見えだ!」
「パンモロは一時の恥! 胸のサイズは一生の恥~ッ!」
 胸のサイズ、もうバレてますよ、というツッコミごと粉砕するように紗希は三角絞めを完成させた。技は見事に決まったが、残念、共鳴していないので従魔にダメージは入らない!


 恭也は今しがた述べられた数字を頭の中で反芻した。遡る事わずか5秒前。さすがにマッチョに抱き付かれたくは無いので捕まらない様に注意を払い、捕まりそうになった直前でストレートブロウを使用し引き剥がしに掛かったのだが、吹っ飛んだ後再接近され抱き付かれそして今に至る。従魔の動きはプログラムのようなものなので意志等は存在しないらしいのだが、異様なプログラムも存在したものである。
「どうやらまだ測定されていない者を優先的に狙うようだな。最悪、最後の一人になれば迎え撃つのは楽になるな」
『楽になるのは良いけど、なんか皆が悲喜交々になってるんだけど……』
 伊邪那美の言葉を聞きつつ恭也は数字を再反芻した。能力者88、65、90。英雄20歳相当時95、55、80。自分の数字はどうでもいいが、伊邪那美が95、55、80……?
「数値と現状が合っていないと思うが? ……他の人の反応を見ると間違ったとは思えんな」
『ねえねえ、何か二つ目の数字以外は高めだけどこれって凄いのかな?』
「ふむ……もしかして未来の数値か? そう言えば20歳相当時と言っていた気がするし……」
 恭也の脳内に黒板が出現した。低身長、ぷらすバスト値とヒップ値高め、いこーる縦に潰れた8の字、上下の脂肪で消える腰回り……
「……ドラム缶か?」
『ねえ? 何か凄く失礼な想像してない?』
「伊邪那美……今日からおやつは無しだ」
 真顔で放たれた衝撃に伊邪那美のハートにヒビが走った。伊邪那美にとってのバ○ス阻止に必死に抗議を張り上げる。
『!? ちょっと、恭也の中で何がどうしたらそんな結論に至るの!?』
「我慢してくれ、お前の未来をボンレスハムにする訳にはいかんのだ」
『訳が判らないよ!』


 桜花はとても晴れやかな顔で戦場に立っていた。思う存分百合百合した。ナイスバディもじっくり見た。メモ取った。あんな事もそんな事もした。あんな事やそんな事が何かってそれは(神様の砂嵐)。
「うちもめっちゃ仕事したわー。ところで測定を全員にしたら、従魔どうなるんやろなー? 満足するんやろか?」
 こちらも満ち足りた表情で従魔の現在地を確認しようとした呪理は、入口に視線を向け一瞬びしりと固まった。ママさん達のイライラ度がMAXギリギリになっている。
「これ、あれやな。フザケて終わったら、ママさん達、激おこのパターンや。一応、ママさん達が怖い顔で見とるからそろそろ頑張って戦ってますアピールしよか。スリーサイズ暴露に嫌悪してる女の子もいてると思うしな。魔法スキルを上から順に打ち込んでってみよか。これで効果なかったら、うち、基本的にお手上げやけど派手に戦ってるように見えるやろ?」
 何それズルい。だがそんなツッコミを入れている暇はすでになかった。何故ならまだスリーサイズを暴露されていない桜花目掛けて従魔が筋肉を揺らしている。
「おおっとさっそくや! 銀の魔弾! ……ってそのまま突っ込んでくる!? こいつ手強いっていうか、なんか強すぎやせんか!? 筋肉マッチョの変態なのに!」
 変態は呪理の攻撃を受けながらそのまま桜花へ突撃した。桜花は咄嗟にAliceと共鳴しようとしたが、ハグ&キスでの共鳴はそれなりに時間が掛かる。共鳴したと同時に従魔にもハグされその上黒い物体を踏んづける。
「あんな事やこんな事するのでしょう! 同人誌みたいに!」
「能力者上から92、56、91。英雄20歳相当時上から95、56、89!」
 従魔はとりあえず自分の仕事を完遂して去っていった。桜花は自分のスリーサイズが半年前より実った事に気付いたが、同時に別の事にも気が付いた。
 Aliceの将来のスタイルが自分よりもいい……?


 樹はついに最後の一人として戦場に立っていた。親密なる腐れ縁や一部の愚神に色々言われる樹であるが、実際そこまでこだわっているかと問われれば決してそんな事はない。前面はともかく側面はちゃんとくびれてる。くびれある。健康である以上身体のことは決してコンプレックスではないのだが、ビキニパンツに抱き付かれるのはやっぱり嫌だ。
「幻影蝶!」
 樹はライヴスの蝶を迫りくる従魔へ解き放った。従魔の背後から仲間達が迫ってくる。足止めさえ出来れば彼らがトドメを刺してくれるはず。
 と、従魔が急に足を止めた。そして蝶の群れに囲まれながら、何故か樹の方を見て親指を突き立てた。……なんだその反応。なんだ、その「頑張れよ」って感じの笑顔は。幻影蝶の効果が出ているのかそれとも測る価値もないって意味か。しかも何故か満足気な表情で消えかかっているように見える。
 殺す。樹は思った。先にも述べたがサイズを暴露される事に関しては全く気にはしない。ただ全面的に何かとりあえず従魔だし殺す。エージェント達の刃が一斉に従魔に襲い掛かる、その寸前でしかし従魔の姿は空中へと立ち消えた。その姿は満足気な表情を浮かべしかも光の蝶に囲まれ、無駄に荘厳な感じになっていた事を一応明記させて頂く。
「む! この感触は!」
 その時、背後がおろそかになっていた樹にアイリスの手が襲い掛かった。伏兵の手がわきわき動き、正確な測定値をお茶の間にお届けする。
「これはまさか、噂に聞くエンジェルバスト! つまりカップはトリプルえ」

●終了
「さて、アイリス……今日は何をしたか言え……」
 正護はアイリスの頭を鷲掴むと、そのままギリギリギリと効果音が出そうな感じで握り締めた。それ以外の効果音もinしそうな迫力である。
「おねーちゃん達と……イデデデデデデデ!!! ジーチャンストップ! ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!!」
「俺に謝っても仕方ないだろ……」
「ご、ごしょーじゃ~、許して~……」
 懇願の全てを拒否するように、正護の腕がアイリスの胴を捉えがっちりホールドした。黒い瞳をギラリ光らせ、防人流を操る腕を天高くへと掲げ上げる。
「防人流……炎神連撃打、仕置の型! 成敗っ!!」
「ア゛ーッ!!!」

 アイリスが後にバイーンの原因となる怒涛尻叩きを受けていた頃、アナスタシアと呪理は
「私と呪理のバストサイズの戦いの結果は、33-4ってとこか」
「なんでや! 虎の球団は関係ないやろ!?」
とキャットファイトを繰り広げていた。そこから少し離れた所で恭也は全てを聞かなかった事にしようと一人静かに頑張っていた。しかし無邪気な伊邪那美は数値について友人の女性陣に質問しに行こうとする。
「ねえ、やっぱり二番目の数値も高い方が良いのかな?」
「頼むから黙っていてくれ。俺に飛び火する」

 桜花は少々複雑な表情を見せていた。Aliceの未来のナイスバディに目をキラキラさせながらも、自分よりスタイルが良い事にちょっと嫉妬してしまう。
 一方のAliceはアイリスから引き剥がされたちょっとの寂しさと、桜花から感じるぎくしゃくした雰囲気に若干戸惑いを見せていた。だが、もちろんこのぎくしゃくを持って帰るつもりはない。傍らに立つ桜花を見上げにこりと笑みを浮かべてみせる。
「これからも、大好きな鈴音の傍で一緒に居たい」
 その言葉に、桜花の負の感情は一瞬で消え去った。共鳴状態で丸1日過ごす自信がある程に信頼し合う二人の絆が、たかがスタイルの優劣ごときで切れる事などあり得ない。桜花は自分を見つめるAliceに笑顔を浮かべて頷いた。

 慧は体育館の裏で軽く髪を整えると、まだ解散せずにたむろっているママさん達へと歩いていった。実は慧が共鳴時にわざわざ変身するのは静電気のようになったライヴスで逆立った髪を隠すためなのだ! そして今その逆立った髪を整え終え、端正な顔に爽やかな笑みでマダム達へと話し掛ける。
「大丈夫ですか、お怪我は? ……まったく、ヒドい従魔もいたものです。しかし奥さん、気にする必要はありません。そのままの体型でもあなたはこんなにお綺麗なんですから」
「あ、あら、そう?」
「やれやれ……見境のないことだ。その辺にしておきなさい」
 慧の見境ないナンパ……もとい全方位メンタルケアに、ファンブルはママさん達に聞こえないようにこっそりとため息を吐いた。

(……こうして見るとセルフィールド高司祭ってやっぱり半分魔族なのね)
 エリーゼは先程のユリスの言動を一人思い返していた。普段は爪弾き者の不良シスターのエリーゼ、清楚な雰囲気の聖女のユリス、といった二人だが、こういう事があるとユリスの持つもう一つの面も意識せざるを得なくなる。
(マムも怒ると怖かったし、あたしは甘すぎかしらね……)
「どうしました、シスター・シルヴィーナ」
 ユリスは普段の聖女の顔でエリーゼの方を振り向いた。意外に色々逞しい高司祭にエリーゼは首を振る。
「いえ、別に、何も」

 クレアは撃沈しているリリアンの腕をホールドしながらどうしたものかと考えていた。この何とも言い難い仕事の気分を持って帰りたくはない。そこに樹の姿が見えたので、リリアンを半ば引きずりながら移動して声を掛ける。
「佐倉さん、そういえば今月で二十歳でしたよね? さ、せっかくです、一杯行きましょう。貴女にはシードルやペリーが似合いそうだ」
 クレアの誘いに樹は少し戸惑った。サイズに関して反応されたらとりあえずわき腹を本で軽くごすごす擦っていたかもしれないが……親しくない相手にどう思われてもどうでもいいが、一定以上親しい人に気にされるのはやはり多少気にしてしまう。だが、クレアは何の言及もない。さすがは戦場において非常に頼りになる衛生兵。
「失礼しました。何処ぞの宿敵とは人間が違いましたね。いいですね。行きましょう」
 ちなみにシルミルテは元の世界ではC~D程度だったのだが、それが明らかになるか否かは今後の展開次第である。

 紗希は死んでいた。生物学的には生きていたが精神的に死んでいた。肉体のダメージはケアレイ出来るが精神のダメージはケアレイ出来ない。カイは紗希を片腕で抱え深々と頭を下げる。
「大変お騒がせしましたが従魔は無事(?)討伐しました。我々はHOPEに帰還しますが、またなにかありましたらご連絡下さい」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 全方位レディガーディアン
    咲魔 慧aa1932

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • さようなら故郷
    鞠丘 麻陽aa0307
    人間|12才|女性|生命
  • セクシーな蝶
    鏡宮 愛姫aa0307hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 百合姫
    鈴音 桜花aa1122
    人間|18才|女性|回避
  • great size
    Aliceaa1122hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • great size
    エリーゼ・シルヴィーナaa1502
    人間|21才|女性|生命
  • エージェント
    ユリス・セルフィールドaa1502hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • 全方位レディガーディアン
    咲魔 慧aa1932
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    ファンブル・ダイスロールaa1932hero001
    英雄|70才|男性|ドレ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • アパタイト
    黄泉 呪理aa4014
    人間|14才|女性|防御
  • クリスタルクォーツ
    アナスタシアaa4014hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
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