本部

空を自由に飛びたいな

アトリエL

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/29 14:33

掲示板

オープニング

 天高く、うっすらと筋状に伸びる雲が二つ並んで空に円を描いていた。
「なんなんだ、ここは?」
 発生したドロップゾーンの調査のために派遣された部隊は揃って首を傾げる。それと同時に世界がひっくり返るような感覚と共に視界が回転した。
「……っと、なんだか不思議な感覚だな」
 身体を傾けるように意識すれば傾き、元に戻そうと思えばあっという間に戻る。
 文字通り、地に足がつかないような感覚……それを実際に浮かんでいる彼等は体感していた。
「空を飛ぶなんて夢か何かだと思いたいところだが……」
 頬を抓ればそれが現実であることは如実に伝わる。飛び方にコツがあるのかどうかはわからないが、互いに情報交換した範囲では飛びたい方へ向かう意識さえあれば飛べるらしい。物理法則を完全に無視することはできないようだが、少なくとも重力からは解放されているように感じる。
「しかし、わかることは何もない……か」
 数時間の調査の後、部隊はドロップゾーンから無事に脱出した。

「空を自由に飛びたいと思ったことはありませんか?」
 HOPEに届いた任務にはそれが可能なものが存在していた。
「発生源不明のドロップゾーンで内部に侵入したものが自由に空を飛べるようになる。というものが見つかりました」
 具体的な情報は一切不明。それが従魔と共に自然発生したものなのか、愚神が意図的に生み出したものなのかもわからない。
「内部では空を飛ぶことができる以外に特に変化は確認されていませんが、脅威となる存在も今のところは確認されていません」
 空を飛ぶことができるドロップゾーンが愚神が生み出したものであるのなら、愚神が離れているだけという可能性もある。従魔と共に発生したものであるのならどこかに従魔が潜んでいる可能性が高い。ドロップゾーンを消滅させるには脅威の有無の確認は必要であり、どちらにしても調査は必須ということだ。
「ドロップゾーンの規模からするとそれほど脅威となるような存在ではないと思われますが、ドロップゾーンを生み出すことができる存在に対して油断は禁物です。戦闘になる可能性も十分にありますので調査が目的ですが、準備は怠らないように気を付けてください」
 そう言ってHOPEのオペレーターは通信を切った。

解説

 空を自由に飛ぶことができるようになるドロップゾーンの調査です。
 愚神か従魔かわかりませんが、最初の調査隊は特にそれらしい存在と遭遇はしていないようです。

 調査を行った部隊はドロップゾーン内の一部でしか活動していません。
 ドロップゾーンに侵入してもその周囲を飛び回っているだけでは同じ結果になるでしょう。
 何らかの限界に挑むような飛び方を推奨します。

リプレイ

●空を自由に飛んじゃった
「え? 空が飛べるの? 飛びたい、飛びたい!」
「え? きゅ、急に落ちたら危険よ?!」
 楽しみで仕方がないといった様子の真白・クルール(aa3601)に対し、シャルボヌー・クルール(aa3601hero001)は不安で仕方がないといった様子で狼狽していた。
「リンカーはAGW以外では死なないから落ちても平気なんだって!」
「……え? そ、そうなの……?」
 真白はシャルボヌーにそう説明したが、それは共鳴していればの話である。
「空を飛ぶんだって、Alice」
「落ちるよりずっとましだね、アリス」
 アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は顔を見合わせたままでそう言った。その姿は色彩を除けば鏡写しのようですらある。
「今回はドロップゾーンの調査なんだって、なんでも空を飛びまわれるらしいよ?」
「空を……? それは興味深いわね……」
「それにもんすごく広い空間みたい。いざという時の準備はしておいたけど……」
 蒼咲柚葉(aa1961)の説明に振り返ったシュヴァリエ(aa1961hero001)は差し出されていたものを受け取る。
「えっと、通信機……って、そもそも通信機、使えるのかしら?」
「……大丈夫みたい。お互い位置を見失わないよう、気を付けましょ」
 シュヴァリエの疑問に柚葉は事前調査の資料に目を通し、そう答えた。事前調査では問題なく使えた通信機だ。
「……さて、ドロップゾーンです。かなり奇妙な性質を持って居るので愚神が作った可能性は有るかと」
「そうだな。しかし、ざっと調べた限りではそれらしき存在は確認出来なかった様だが……」
 愚神の関与を疑う石井 菊次郎(aa0866)にテミス(aa0866hero001)は事前調査の結果を手に首を傾げる。
「願えば空を自在に飛べる、と言えば聞こえはいいですが……きっと良からぬ目的でこの領域が作られたのでしょう」
「目的は分からないが……それにしてもこのゾーンを作ったのはデクリオ級止まりか、それともケントゥリオ級か……。どちらにしても放置は出来んぞ」
「そうですね、気を引き締めて向かいましょう。いつでも共鳴出来るように準備していてください」
「分かった」
 月鏡 由利菜(aa0873)の言葉にリーヴスラシル(aa0873hero001)が頷いた。
「わーい!!」
「コラまて、勝手に一人で行くんじゃない!」
 それで説明が終わりだと判断し、全速力でドロップゾーンに突入するまいだ(aa0122)を獅子道 黎焔(aa0122hero001)が慌てて追いかけた。
「天使のように飛ぶのー」
「念願かなったね。ドロップゾーンなんだよね、入ったらすぐに通信できるか確認しとこうか」
 百薬(aa0843hero001)も待ちきれないとばかりに追い、餅 望月(aa0843)は苦笑しながらも続く。
「えっと……なんだか遊ぶ気まんまんな子たちが数人いるんだけど。はぐれないようにちゃんと連絡、取り合ってね」
 柚葉はそう警告しつつ、追うようにゾーンへと突入した。

●調査という名の自由時間
「今回はこの状況を利用したり全力で逆らったりしてみようか」
「何か思い付きました?」
「まだ何とも。ま、ドロップゾーンは敵地だよなって話さ」
 赤城 龍哉(aa0090)はヴァルトラウテ(aa0090hero001)にそう言うとまずは地面に降り立つ。ゾーン内の地面に降りて立つことはできるようだが、下に向かおうという意思を少しでも緩めるとすぐに浮き上がった。
「そもそも、ドロップゾーンが好き勝手に発生するような代物か判らねぇ」
「仮に無作為に発生した場合、ルーラーが居ないが故に何が起きるか判りませんものね」
「逆に、普段通りゾーンルーラーが居てルールを定めてるなら、そいつの気分一つで飛んでる所を叩き落とされないとも限らん」
 龍哉はそう考えた結果、ヴァルトラウテと共に落ちても痛くなさそうな低空を飛行することを決めた。考え過ぎなら後で笑い話にすれば良いとばかりに割り切って地面の近くを飛び続けるが、特に異変らしい異変は見つからない。少なくとも地面に何かが潜んでいるようなことはなさそうだ。
「ゾーンルーラーを引きずり出すには……この空間をもう少し調べなくては成らないのでしょうね」
「……空気を焼いても詰まらぬ。早くするのだぞ?」
「燃え方は通常と変わりなし……空気中成分も変わりなし、ですね。ではまいりましょうか」
「童子の課外授業のようなことをして何になるというのか。火気厳禁、というわけではないとわかっただけよしとするかの」
 菊次郎が体感する範囲では飛ぶこと以外に通常空間との差は感じない。テミスがブルームフレアで周囲を焼き払っても反応はなく、少なくとも今のところは飛べること以外に変化はないようだ。
「奇妙なゾーンですね……愚神が飛びたいからこんなルールがあるのでしょうか……?」
「或いは、生体のライヴスを捕食するための甘い罠か……」
「……ゾーン内でも高空に水蒸気はあるのでしょうか。意志無き物体は宙に浮くのでしょうか……?」
「やってみなければ分からないな。……物体自体は浮き上がらないようだ。意思のあるものだけに働く力なのか?」
 由利菜とリーヴスラシルが試したところ、物質には普通に重力が機能していた。リンカー達が手にしている物に関しては別として、手を放した途端に重力を思い出したかのように落下し始める。
「無重力っぽい感じからだと、重い物を運んだりするのは楽そうだな」
 振れれば重さを殆ど感じない不思議な感覚に龍哉はそんな感想を漏らした。
「つか、飛んでる俺らからライヴスをそれとなく奪ってるとか……?」
 そう思ってライヴスゴーグルをつければライヴスの流れが見える。
 わずかな量が全身を包み、それが上昇するような動きを見せていた。移動する者からはその流れが移動しようとしている方向に流れている。どうやらこのゾーン内ではライヴスを用いて飛行することが可能になっているらしい。
 物質にはライヴスがないため、重力を思い出したように落下するというのが先ほどの反応の答えのようだ。
 可能な範囲で流れを辿ってみるが、飛行に用いられているライヴスは空気中で拡散し、様々に混ざり合っており、その流れを読み取ることは難しい。
「そーらーをじゆうに!」
「うわ、やるねえあの子、もうあんなに高く飛んでる」
「ホントね、飛んでる」
 調査に専念する大人達を余所に宣言通り自由に舞うまいだにAliceとアリスは目を丸くする。
「とーびたーいなぁー!」
「うわぁ……目ぇきらっきらしてやがる……」
 まいだはとびきり元気な返事をしつつ、黎焔に向けてモミジのように小さな手を掲げた。
「いいか? 調査だからな? 調査だからな? 忘れんなよ?」
「はーーーい!!」
「……ったくガキは。だめかもしれねぇ」
 黎焔にとびきり元気な返事をしつつ飛び去るまいだ自身は調査をしているとは言い難い。だが、それだけ自由奔放に飛んでいれば他のメンツとの違いから見えてくることがある。
「……あ、あれ? いつの間に私たち追い抜かれちゃったんですか!? それもあんな小さな子に!?」
「どうやら見えてきたぞ、このゾーン。とにかく飛びたい、と強く願う力に比例して速く高く飛んでいくというわけか」
 実験しつつも上を目指していた由利菜が抜かれたことから意識を向ける総量や大きさが飛ぶ速度と高度に影響しているとリーヴスラシルは判断する。
「という事は上に何かあるのかもしれませんね。とにかく高く飛んでいけばなにか目標が……。もっと高く、もっと高く……」
「行こう」
 由利菜とリーヴスラシルは実験を後回しに、強い思いと共に上空へと向かった。より速く、より高みへ。
「わたし達も負けてられない、向かいましょう」
「ええ、向かう先はひとつ」
「ただ、上へ」
「上空何メートルかしら。ここから先は調査員が入れなかった場所」
「ワクワクするね」
「うん、ワクワクするね」
「アリスと一緒なら何があってもきっと大丈夫。行きましょう」
「うん」
 Aliceとアリスは上空を見上げ、双子のように寄り添って手を繋ぐ。すると先ほどまでよりも自由になったような不思議な感覚と共に速度と高度が上がりだした。

●空を飛ぶ願い
「うっわー! すっごい! 鳥ってこんな気分が味わえるんだね!」
「ま、真白! 此処はドロップゾーンなのだから気を付けて……こんな高いところから落ちたら、絶対死んじゃう」
「はーいママ!! 絶対に無理はしませーん!!」
 楽しくて仕方がないといった様子の真白に対し、シャルボヌーは遠くなった地上を見下ろして息を呑む。
 無理はしないと言われても真白が離れて一人で高い空を飛び回っている姿はシャルボヌーの目には小さく映り、とても不安な気持ちにさせる。
「うわああああーーーーーー!! すっげえええええーーーーー!!」
「はしゃぎすぎて後で倒れないでね?」
 GーYA(aa2289)はフェードインとフェードアウトをしながらにこにことその姿を見守るまほらま(aa2289hero001)の横を飛んでいく。
「俺飛んでる……まほらま、俺今本当に空を飛んでるんだね! 病室の窓から見上げるしかなかった空を飛べる日がくるなんて!」
「うふふ、お礼を言ってくれてもいいのよ?」
「うん、この世界を俺にくれたのはまほらまだからね、サンキュ」
「あら、世界なんて大っ嫌いだーじゃなかったの?」
 両手を広げて感謝を告げるGーYAにまほらまは苦笑を浮かべた。その目に映る姿は生きていることを楽しんでいた。
「不思議な感じだね、こんな風に飛べる日が来るなんて思っても無かったかな」
「そうねぇ、こんな事そうそう起こらないでしょうし良い経験になれば良いわね」
 不思議な感覚を堪能する柚葉にシュヴァリエは微笑む。
「これは面白い……麟殿、この空間は修行にもってこいでござるな」
「本当だな! 空中殺法の滞空中の動きをずっと練習できるぜ!」
 宍影(aa1166hero001)と向かい合い骸 麟(aa1166)は様々な技を繰り出す。
「おぉぉ!! さすが空中、なんという身の軽さ!! これだったら思い描いていたあの技も……」
「覚悟!!」
 なにやら思考中の宍影の真下から麟が仕掛けた。普段は受けるはずのない方角からの攻撃に対応が遅れ吹き飛ぶ。
「おおおおお! すげー! 自由自在だ! フライングニードロップ! 宍影覚悟!!」
「ふ、麟殿まだまだ青いでござるな? 骸居合術燕落とし!!」
 続けざまに向かってくる麟に負けじと宍影はカウンターを仕掛けた。空中で激突した二人は攻撃の威力を削ぐために互いの身体を弾き合う。
「……っと、危ない!! 実戦なら大怪我だな」
 麟は反対方向に移動する意思を込め、停止した。障害物のない空中だからこそ大丈夫だったが、地上で空中戦をしていたのなら何かにぶつかって大怪我をしていたことだろう。
「宍影、このノリは他の子にやってやるなよ? 楽しむのも良いが、周りにも気を配らないとな」
「すまないやりすぎた」
「うむ!」
 麟と宍影はそう言って笑いあうと再び激しい空中戦を繰り広げる。普段であれば飛び上がったり打ち上げるために必要な力が不要な環境だけあっていつも以上に訓練に集中していた。
「無限ムーンサルト発動! あわわわわわわわっわわ! 目が回る!!」
 麟の身体が停止できずに無制限に回転を続ける。重力の束縛から解き放たれた状態で遠心力によって三半規管が機能不全に陥っており、自力で止まれない状況になったようだ。
「ふふ、念願かなったね。ところで天使みたいな飛び方ってどんななんだろ?」
「こうやって~……両手を広げて~……ん~と~……」
 望月の前で百薬がよくわからないなりにふわふわと漂うさまは天使っぽくもありクラゲっぽくもある。
「あー、今のところ異常はなしだ。好きにしてても良いぞ」
「うん。向こうにも特に変化なくて大丈夫みたいだね。これだったら多少離れても大丈夫……でもないか」
「あふたーばーなー♪」
「なんかよくわかんないけど楽しそうだからいいか」
 黎焔の通信を受け、ほっと一息つく望月の傍を大きく縦に回りながら百薬が通り過ぎた。
「鬼だ鬼だー!!」
「……わっ!? あたしが鬼なの!?」
「逃げろ逃げろー!!」
「なんかその言い方やだな……。よーし!! 本気出して捕まえちゃうぞー!!」
 すれ違うと同時に触れたことで百薬から望月が鬼に変わったらしい。いつの間に始めたのかはわからないがやるからには全力を出す。
「鬼ごっこするのー? まいだもやるー!!」
「……え、何? 鬼ごっこ?」
「みてみてほらー!! あくロバてぃっくだよー!!」
「えーっと……、俺たち何しにここにきたんだっけなー? もしもーし?」
 まいだが反応し、黎焔の周囲を飛び回り始めた。
「こら!! あんまり遠くに行くんじゃねぇ!! こんなところで見失ったら助けられねぇぞ!!」
「うわっ……捕まっちゃった……。んむう! 今度はまいだが捕まえるー!!」
「ちょ、落ち着け……」
 しかし、黎焔の言葉をまいだは聞いてはいない。そのままカウントをはじめ、ふわふわと落ち着きなく逃げ出してくれるのを待っている。
「まあガキだからな仕方ねえなたのしめよ」
 そう言いながら黎焔は共鳴すると百薬と望月の方を指差した。身体の優先権をまいだに預け、自分は調査を継続する腹積もりだ。
「鬼が来ーたーぞー♪」
「「きゃー♪」」
 そして、まいだは百薬と望月と一緒に鬼ごっこを始める。不意を突かれ鬼となった望月からまいだが離脱。
「念のため共鳴しようか。百薬って確か落ちるの得意だったわね」
「ちがうもーん」
 対抗するために望月と百薬も共鳴し、空を駆けた。
「わわっ!? どこ行くの? 通り過ぎちゃったよー!?」
「そ、そうは言っても早すぎてうまくコントロールできない……! と、とにかくターッチ!!」
 百薬が驚くのも無理はない。共鳴した望月は先ほどまでよりも速度が増していた。
 速度が上がった分、制御は難しくなっているが先ほどまで飛び回っていた経験から墜落するような事態にはなっていない。
 ライヴスの総量が増した結果、より速くより高く飛ぶことを可能としていた。
「範囲は拠点が見える所まで! 遠くに行かない! 全力で遊ぶぞー! 俺が鬼! 皆逃げ……早いな!?」
 鬼ごっこのルールを定め、参戦を宣言したGーYAが即座にタッチされる。共鳴しなければあの速度は出せそうにない。
「おいで、まほらま!」
「待ちなさいジーヤ。ここはドロップゾーンなのよ!」
「これだって調査だよ! 混ざりたいって何か出てくるかもだろ?」
 あまりにも楽しそうなGーYAだが一応目的は忘れていないことを理解するとまほらまは共鳴する。ライヴスゴーグルをつけ、逃げているリンカー達の移動しようとする方向を確認しながらの追走劇が幕を上げた。

●頂上決戦
「本当にこれだけ?」
「ゾーンが消滅するまで、油断できない」
 その一方で共鳴したアリスとAliceが到達したのはドロップゾーンの上限。それ以上高く飛べばゾーンから離脱し、重力に束縛される地点だ。当然離脱直後に重力に捕らわれるため、ゾーン内に自動的に戻る羽目になる。
 それが高度を上げられなくなった後、通信機で得た共鳴による飛行能力の強化でやっと到達した領域だ。
「あ! 上か?? 景色良さそうだな……宍影! リンクして本気出すぜ!」
 そんなアリス達の姿を見つけ、麟も共鳴して上を目指す。
 その視界が空色に染まり、唐突に闇に包まれた。
「ねぇねぇ。あそこに誰かいない?」
「誰か……?」
 それを見ていたまいだが首を傾げ、黎焔が見上げた先に見える飛行機雲の間で空が割れていた。
「弾けよ、紅蓮の波動!」
 由利菜の声が聞こえると同時に空の色が戻る。何が起きたのかと周囲を見回せば空に巨大な咢が浮かんでいた。
「この高さにこのような物を作るメリットとは? 一体何が目的だ?」
「随分と興味深い空間です……後学の為、御身にこの空間の素晴らしさ奥深さをお聞きしたいのですが……」
 その異様な存在に問いかける真白や菊次郎だが、返事はない。知性のない従魔なのだろう。再び閉じられた口が開かれなければその居場所を察知するには飛行機雲の動きを見切るしかないが、巨体の従魔の居場所を近くで見切るのは難しい。
 共鳴しなければ到達できない上空に待機し、獲物を喰らう不可視の従魔。上空に見えていた二筋の飛行機雲の間に存在するであろうそれは、先ほど見えた咢の大きさから察するに人一人くらいならば簡単に丸呑みできるだろう。
「……引き寄せるなら、強いライヴス反応があった方が都合がいいはずです」
 由利菜は共鳴するとリンクコントロールでライヴスを高めた。それと同時に飛行機雲の動きが変わる。姿がはっきりと見えるわけではないが、その飛行機雲に挟まれた空間にそれがいるのは間違いない。
「エオローの守護を……! 対ゾーン障壁、展開!」
 リーヴスラシルが従魔の攻撃を防御したが、反撃までは手が回らない。攻撃を受けた直後は自分の向いている方向すら曖昧で狙いを定めるのが難しいこともあったが、最も大きな原因は攻撃するためにライヴスを用いた瞬間に感じた重力の束縛にある。
 共鳴によって得られた強いライヴスを空を飛ぶことに集中しなければ至れない高さ。そこで攻撃にライヴスを用いれば飛行能力に影響が出る。ここは不可視の従魔の狩場に他ならなかった。
「くそっ! 遠すぎるんだ!!」
 龍哉はヴァルトラウテと共鳴し上空を目指すが地上からでは距離があり過ぎた。戦闘に加わることは難しいだろう。
 鬼ごっこ中に急速回転して目が回ってくらくらしているまいだも同様に救援に駆け付けられない。だが、その距離だからこそできることもある。
「そっちに向かってるぞ!」
 龍哉は二筋の飛行機雲が上空にいるアリスに向かうのを確認し、通信機に向かって叫んだ。
「上からです! ライヴスの流れがそこで消えています!!」
 ライヴスゴーグルで吸い込まれているライヴスの流れから敵の位置を特定したGーYAも叫ぶ。
 その通信を聞いたアリスは身に纏った拒絶の風で不可視の従魔の攻撃を察知しかわす。直後に選んだのは雷神ノ書による速射攻撃……敵の位置が正確に把握できない状況でタイムラグのある攻撃は当たらないという冷静な判断だ。その雷撃が空中で掻き消えるとうめき声のような音が空に響いた。
「骸無月拳! オレから気を離したのが敗因だぜ!」
 麟はその雷撃が消えた地点に向かって渾身の一撃を叩き込む。正確には雷撃が命中し、若干色の変化している場所だ。不可視というよりは空の青と似た保護色による迷彩なのだろう。確実にいる場所がわかってしまえばあとはそこに攻撃を叩き込み続けるのみ。
 逃げ出すような動きを見せる飛行機雲の前方目掛けて、まいだがブーメランを投げると飛行機雲が揺らいだ。菊次郎はブルームフレアで視界を塞ぎ、その動きを封じる。
「楽しかったですよ」
 それによって生じた速度低下で追い付いた望月の姿は終焉を告げる天使の如く。上を取った望月の攻撃がその背中であろう部位に傷をつける。
「聖なる炎の剣よ、偽りの空を切り裂け!」
 由利菜のかざす剣が従魔の身体に焼け跡を作り、包囲網を築いていた菊次郎の炎が反対側を焼いた。これで従魔の姿を見失う心配はない。その巨体は想像以上であったが、見えないことが最大の利点であった従魔の巨体はある程度以上見えてしまえばもはや的にしかならない。飛行と攻撃のバランスを取りながらの慣れない戦闘ではあったが、体当たりや捕食といった直接的な攻撃手段しか持たない従魔の末路はあっけないものだった。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんやって感じだぜ!」
「何となく合っているような居ないような……」
 胸を張る麟の隣で宍影は首を傾げる。だが、そんな思考をしている余裕も消える事態が待っていた。
 従魔の消滅に伴いドロップゾーンもまた消え始める。即ち、ライヴスによる飛行ができなくなっていた。
「地面へいかに高速で突っ込む事が出来るか……これが試せる最後の機会だぜ!」
 そんな状況にありながらも麟は地面への飛び込みという試みに意識を割いていた。
「本当にやるでござるか? ……分かり申した。先にライブズが篭った物が無いか誰かに頼んで見て貰うでござる。したが、万が一有れば大惨事……」
「この白虎があればそんなもん吹き飛ばしてやる……ふふ、オレが特大のクレーターを作ってやるぜ! 地球よ、割れたらごめーん! だあああ!」
 宍影は麟の意図を察し、再度共鳴状態へ移行すると地面に目掛けて飛び込んだ。
 そして、そのまま突き刺さる。どうやら肉体的な被害はなかったらしい。掘り起こされた麟の口の中には土がたっぷり入っていたが、大口を開けて叫びながら突貫した結果がそれだけだったのは損傷軽微とみていいだろう。精神的にはどうかわからないが。
「んー、楽しいところに人を集めてライヴス吸収とかだったのかな?」
「ワタシは自力なの」
「うん、そうなるといいね」
 望月はそう言い張る百薬を撫でながら思案する。
 空を飛び回ることで空気中にライヴスを拡散させていたのはおそらく間違いない。
 高く飛ぶことができるより強いライヴスを持つ者は孤立したところを狙って直接捕食といったところだろうか。
 何にしても集めたライヴスの総量がまだ少なかったのかそれほど強くなかったことが不幸中の幸いだろうか。
「とっても不思議な体験だったね、ちょっと疲れちゃった」
「まぁ普通飛ぶなんて事はしないからね……お疲れ様、帰ってゆっくり休みましょ?」
 飛ぶだけでもライヴスを吸収されていたのだろう。疲労感を感じる柚葉にシュヴァリエはそう告げ、帰路についた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
  • 紅の炎
    アリスaa1651
  • ハートを君に
    GーYAaa2289

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御
  • まいださんの保護者の方
    獅子道 黎焔aa0122hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • しあわせの白
    蒼咲柚葉aa1961
    人間|19才|女性|回避
  • エージェント
    シュヴァリエaa1961hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • お母さんと一緒
    真白・クルールaa3601
    獣人|17才|女性|防御
  • 娘と一緒
    シャルボヌー・クルールaa3601hero001
    英雄|28才|女性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る