本部

怪談話は山小屋で

落花生

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/05/22 14:09

掲示板

オープニング

●夜中のこと
 びゅん……びぅん……。
 山小屋の外で、風の音が断末魔のように響いていた。
 冬はスキー場で親しまれる山には、噂があった。十年前にスキーにきたカップルが遭難し、助かるために女が男を食べてしまったという噂。そして、人の味が忘れられなくなった女はときよりスキー場に戻っては遭難者を食らっているらしい。
 そんな、何処にでもあるような陳腐な怪談話……。
「オニク……オニク、タベタイ」
 山の中で、女がはいずりながら進む。
 山で遭難した彼女は、知らず知らずのうちに愚神に憑かれていた。今では、もう食料となる人間のライヴスを求めて歩き回ることしかしない。
「オニク……ノ……ニオイ」
 風にまぎれて香る、人の匂い。
 女は、よだれを垂らしながら匂いのする方へと向かった。

●山小屋のなかのこと
 山中に、ひっそりとたたずむ山小屋。
 その小さな山小屋のなかで、リンカーたちは身を寄せ合っていた。山の中で女の姿をした愚神が出たと通報があったのだが、残念ながら発見できずに夜も更けたため本日はここを宿にすることにしたのであった。山小屋は無人であったが、遭難者が使う事を考慮してなのか食料やライトなどの明りは十分にあった。
「せっかくだから、怖い話しでもしない?」
 懐中電灯から蝋燭に切り変えて、わざとらしいほどに雰囲気を出す。知らず知らずのうちに輪になって、いつの間にか自分達が体験した怖い話をし始めた。
「これは……私が体験した話しです」
 リンカーたちは、誰も自分達の話しを聞いていないと思っていた。しかし、山小屋の外には女の愚神が這いつくばっていた。
「オニク……ワタシ……ノ……オニク。シヌ……マエニ……コワガラセテ……アゲル」
 女の愚神は、生臭い息を吐きだして笑った。

解説

・怪談話をしながら、愚神を退治してください。

山小屋……深い山のなかにある、小さな山小屋。毛布や証明、食料などは十分にあるが、戦闘ができるほどの広さはない。なお、外には街灯は全くなく視界はきかない。斜面はとても滑りやすい。

山……自然溢れる山。木々が生い茂っており、武器を振りまわすには邪魔である。なお、山小屋の周りは斜面であり、開けた場所は付近にない。現在は風が強く、外の気配などは察知しにくい模様。

女の愚神……リンカーたちに、殺す前の恐怖を味あわせようとする。(例――窓の外に人影を見たんだという怪談話をすると、窓に張り付いて驚かせようとする)一通り怪談話が終わると、ドアを破って山小屋に侵入してくる。
 攻撃されると、長く伸ばした髪を高質化させて防御する。髪を槍のように尖らせて攻撃手段にすることも可能。なお、髪の槍は一度に二本まで作ることができる。運動能力は高くはなく、基本的に這いずるようにしか動かない。だが、防御力は際立って高い。(PL情報……女性と愚神を引き離すことは可能)

リプレイ

●百物語の火が灯る
 びゅん……びゅん……。
 声屋の外からは、風の音が聞こえてくる。山小屋の外に明りなどはなく、唯一の光源はここでの宿泊を決めたリンカーたちが引っ張り出してきた懐中電灯や蝋燭の頼りない光だけであった。
「愚神、見つからないね。誤報だったのかな?」
 寒さをしのぐための毛布をかぶりながら、世良 霧人(aa3803)はとなりで行儀よく座るクロード(aa3803hero001)に話しかける。
『……本当に愚神だったのでしょうか? もしかすると、幽霊というものだったのでは?』
 クロードの言葉に、恐がりな人々が身震いをした。ただでさえ、この山には怪談めいた噂話があるのである。
「春先とはいえ、まだ冷えるのう。このなかで寝るのは、ちと危険かもしれぬ。気晴らしに、妾の話しでもいかがじゃろうか?」
 イン・シェン(aa0208hero001)は、自分の目の前にあった蝋燭を手に取る。その隣ではリィェン・ユー(aa0208)が酒で暖をとりつつもあぐらをかいていた。蝋燭の数は、ちょうど十本。ここに集まった英雄とリンカーのペアの数だけあった。
『そう……あれは、妾がまだ家を出奔して戦いの世界に身を投じたばかりのころじゃった。新兵を鍛える部隊に組み込まれたわけじゃが、その部隊は夜になるとくぐもった怪しい声が聞こえてくると噂があったのじゃ。天気が悪いときほど、その声はよく聞こえるのじゃ』
 ぐぅぅぅ……。
 山小屋の外から、風の音とも人の声とも取れるような声がわずかに聞こえてくる。まるで、イン・シェンの話しを再現するかのように。
 寒さをしのぐために毛布をかぶっていた紫 征四郎(aa0076)は恐怖で泣きそうになりながらも、鈴宮 夕燈(aa1480)にひっついて山小屋にあったカンパンの金平糖をぽりぽりと齧っていた。お菓子で恐怖を紛らわせる作戦に出たらしい。
『さすがに問題になり、てだれの先輩方が交代で見張りをすることになったのじゃが、一向に問題は解決しなかったのじゃ。ある夜、皆が寝静まった時に小屋で変な気配を感じたのじゃ。こう……なかを伺うように小屋の壁を叩く音と一緒に』
 話しを聞いていたアイザック ベルシュタイン(aa1578hero001)は視線で『止めね』と赤谷 鴇(aa1578)に訴えかけるが、鴇は『せっかく面白そうなのに』と止める気は全くなかった。わずかに外で、トンっと音がして、その音にすらアイザックは悲鳴を上げる。
『じゃがそれもしばらくしてなりを潜めたので、花を摘みに外へとでたのじゃが……妾はそこで背後から襲われたのじゃ。必死に抵抗したが力強い上に正気を帯びており……。もはやこれまでというところで、先輩に助けられた。その日は、生きた心地がしなかったのう』
 ふぅ、とイン・シェンは蝋燭を吹き消した。
 隣のリィェンは、どこが怖かったのかと首をかしげている。彼だけはこの話をイン・シェンから聞いた事があったのだ。そして、本当の話のオチも当然知っていた。
「このまま百物語をするなら、あたしたちの番だね。トシナリは怪談話が得意だもんね」
 須河 真里亞(aa3167)は、自分の前にあった蝋燭を愛宕 敏成(aa3167hero001)へと手渡す。揺れる蝋燭の火を見ながら、敏成はため息をついた。
『何でハードルを上げるんだ? 俺の怪談はマニアックすぎて、今一恐怖が伝わらないと評判なんだ』
 少し困ったような顔をする敏成に、真里亞が笑いながら彼の背中を叩く。
「またまた……服のセンス! 歩き方! 笑顔! ぜーんぶ、一級の怪談だぜ!」
『いるだけで怪談成立かよ。 ああ……分かった。トークだって十分恐がらせてやるよ』
 恐怖に震える面々を前に、すぅっと敏成は息を吸った。
『…突然飛来したそれは名状しがたきヒダ状の翼をたなびかせ、忌まわしい円状の頭部に冒涜的にオレンジ色に輝く膨れ上がった三つ並ぶポリープ状の器官と黒々とした虚ろで宇宙的な恐怖を呼び起こさせるまなこと思しき二つ並んだ穴、線状の割れ目としか思えぬ口を持っていた。その存在は愚鈍な子供じみた声で私の飢えの状態を確かめるといきなりその頭部の一部を黄色い菌腫状の腕で毟り取ったのだ。そのボロボロとこぼれ落ちる表皮の中には病的な黒々とした内容物、悍ましき種皮の残る脳髄の如き物質が存在した…それはその身の毛のよだつ塊を私の口に近付け…』
 話しを聞いていた面々の頭の上に、クエスチョンマークが浮かんだ。
 なにか恐ろしいものの説明をしている事はわかるのだが、話がクド過ぎて敏成が何を言っているのかよく分からない。
「……なんか形容詞がクドイね」
 話しを聞いていた真里亞が、苦笑いをした。
『……それが好きなんだよ』
 敏成は、手に持っていた蝋燭をふぅと吹き消した。
 敏成の隣に座っていた霧人は、あたりをきょろきょろと見渡す。流れからいって今度は、自分の番のようだ。
「えっ、僕も恐い話をするの?」
『ほう、旦那様の怪談ですか。ぜひ、聞いてみたいですね』
 ポーカーフェイスを気取るクロードも、夕燈の膝の上でわずかに震えていた。霧人はしかたがないと覚悟を決めて、自分の前の蝋燭を手に取る。
「ある日の夕方、仕事から帰ると家に電気が点いてなかった。妻が出掛けているのかと思ったが、靴はちゃんとある。電気をつけようとしたが、…つかない」
 電球も変えたばかりだったし、停電ということも考えられなかったと霧人は続ける。
「居間に行くと、妻の声が聞こえる。カーテンを閉め切った暗い部屋で一人、何も映っていないテレビに向かって独り言を呟いていた」
 ザーザーと音を立てるテレビの砂嵐と可愛らしい妻の声が、あまりに不似合いでぞっとしたよと霧人は言う。
「僕は妻に近づき、声を掛けた。…反応は無い。妻の肩を叩く。…反応は無い。そして、妻とテレビの間に入って声を掛けた。途端、妻はその場に倒れた。驚いて妻を抱き起していると――誰も操作していないのにテレビの画面が変わっていた」
 砂嵐の音が聞こえないことに違和感を覚え、霧人は顔をあげたという。
「画面に映っていたのは、………画面いっぱいの大きさの目。ぎょろりとした目は、僕と妻を見ていたんだ。思わず叫び声をあげて、妻を抱きかかえて家を出ようとした。玄関まで走ったところで、目を閉じたままの妻が口を開いたんだ」
 霧人は、言葉を区切る。
 そして、誰も聞いたことがないような高い声で
「ウフフ、大成功♪」
 と言った。
 今まで恐がっていた全員が、ぽかんと口を開けている。
「実は今までのは全部……妻が計画したドッキリだったんだ」
 ふぅ、と霧人は蝋燭を拭き消す。
 この場だから笑いごとだったが、ドッキリをしかけられた時は色々な意味で心臓が爆発しそうだった。妻を抱きかかえながら貧血で倒れそうになったことを、霧人は今でも覚えている。
「じゃあ、俺は犬にまつわる話をしますね」
 坂上 司(aa4178)は、視界の端っこで『なんか妙にお腹すいた。変なの。あー、もう。ご飯食べたい』と言って食料を漁りだした犬狩 じゅーどる(aa4178hero001)を呆れた目で見ていた。恐がらせてやれと思いながら、司は蝋燭を手に取る。
「だいぶ昔に、人から聞いた話です。猟師が、猟犬を連れて山の禁則地へ立ち入ったそうです。そこで化物を見ました。身体は巨大な犬のようで、顔はヒヒのよう」
 まるで妖怪のような姿の化物が、猟師の前にはいたという。
「男が咄嗟に撃った猟銃は、化物の腹を貫き、モツの一部を千切りました。男は、早々に山を降りようとしました」
 俺だってそんな妖怪とばったりあったら逃げだします、と司は言う。
「しかし、猟師は通いなれたはずの山道で迷い、山小屋に一泊しました。今の俺達みたいに。その夜聞こえたのは……『腸を返せ』の声だったそうです」
 食べものを漁っていたじゅーどるもさすがに食欲をなくしたのか、クロードを自分の腹の上に乗せていた。動物コンビが恐がる姿は見る者を癒すが、本人達は震えている。
「猟師は、抵抗しました。けど、抵抗空しく山小屋の中に化物は入り込み、猟師は気を失ったそうです……」
 朝日と共に猟師は目覚めました、と司は続ける。
「猟師は無事でしたが、猟師を守ろうとした犬は死んでいたそうです。犬の腹の中身は……残らず食べられていたらしいです」
 司は、クロードを抱きかかえるじゅーどるに向かってにこりと笑う。
「じゅーどるみたいな犬は、とくに特に食べごたえがありそうだよね?」
 じゅーどるとクロードの尻尾がぴーんと真っ直ぐに立ち、それぞれ思い思いの人間にくっついてしまった。
『び、びびっ、ビビってねーし!? 寒くて震えてるだけだし!?』
 ネコの耳を持つ稍乃 チカ(aa0046hero001)までもが、耳をぴたりとくっつけて震えている。どうやら、司の怪談話は獣の姿をしている英雄たちを震え上がらせたらしい。
 おやおやと思いながら、司が蝋燭を吹き消す。
「次は、僕の番ですよね。ありきたりですけど、学校の怪談です」
 鴇は、自分の前にある蝋燭を手に取る。
「学校に通っていたころの話です。友達と学校の七不思議の話をしたのがきっかけで、こっそり夜の学校に兄弟と入ったんです。それで、七不思議のスポットを回って行ったんですけど何もなくて」
 その頃を思い出したのか、鴇は「ふふふっ」と年相応に微笑む。なお、震えるアイザックの膝の上にはクロードが乗っていた。
「入ってすぐの職員室。ハンコが動くなんてことはなし。一つ上って理科室。標本は直立不動です。通路を通って体育館。ボールが何もないのに跳ねることはなし。戻ってきまして美術室。先輩が描いた呪いの絵?いいえ、ただの白いキャンパスです」
 暗い学校を歩くのは楽しかったが、七不思議を体験できないことで自分も少し飽き始めてもいた。
「一つ上って音楽室。ピアノも音楽家の絵も撤去されました。恥ずかしながら女子トイレ。ノックしたって誰も出ない。一つ上って開かずの間。開きもしない音もしない。で……一通り回ってから兄弟が真面目な顔で引っ張って来たのと――近くから聞こえた『誰かいるのか』って声で逃げたんですよ」
 そのときは、見回りの教師が来たのだと思ったのだ。見つかったら親や教師に怒られると思った鴇たちは必死に逃げて、家路についた。
「でもね。考えてみたら、その学校は、三階建て。上は、屋上なんですよね」
 鴇は、蝋燭に照らされながら笑んだ。
「僕はどこにいたんでしょうね? そして、今考えると其処で聞こえた声も質問と言うより助けを求めるような声でしたね」
 ふっと蝋燭を吹き消した鴇は、声色を変えて口を開く。
「――誰かいるのか」
 びくり、と面白いほどにアイザックの体が跳ねあがった。隣に座っている夕燈も「ぴゃぁぁぁぁ!」と悲鳴をあげて、征四朗に抱きつく。だが、非情にも次の怪談話は夕燈の番であった。あまりにも恐がる夕燈の代わりに、Agra・Gilgit(aa1480hero001)が蝋燭を手に取る。
「やああめえええてぇぇぇぇ! あぐやん! やめて! アカンて!」
 夕燈の懇願も虚しく、Agraの怪談話が始まった。
『まぁ、折角だしよ……』
 強面の顔が蝋燭の光に照らされ、Agraは声のトーンを落とした。小さな小屋に、男の低い声が響く。
『コレは病院の夜間にあった話だが……ちなみに、今ソコの喧しいのも住んでる家の話でよ……』
「うち、お家帰りたくなくなっるぅぅっ!! アカンて!」
 夕燈が頭を抱えて懊悩していると、Agraはふうと蝋燭に息を吹きかけた。その行動に目を点にしているのは、夕燈である。
『いや、止めただろうが。なら、言わねぇーぜ』
 悪い顔で笑みを浮かべるAgraは約一名にのみが大きなダメージを食らう怪談話を披露して、自分の番を終えた。ちなみに、大ダメージを食らった夕燈は耳をふさぎながら、獣のような悲鳴を叫んでいる。
『んじゃ、俺様からも一つな』
 ガルー・A・A(aa0076hero001)は夕燈を哀れに思いながらも、蝋燭を手に取った。征四朗は血の涙を流す夕燈から離れて、今度は木霊・C・リュカ(aa0068)にくっついている。
『この山にも人喰いの話があったが、俺の話しも人食喰いの話しだ。魔女ってぇのは、大体人喰いでな。それでか魔女の軟膏のレシピには、結構な頻度で人肉が含まれてる』
 魔女が作る軟膏はこちらの世界で売っているような滑らかなものではなく、ざらりとした触り心地のものだったとガルーは語る。
『肉は出来るだけ子供の、新鮮なのがいい。子供が一人で家にいると、魔女が調達にやってくるんだ』
 子供の肉や骨を細かく砕いて軟膏を作るから、ざらりとした質感になる。ガルーは目を細めて、思い出すように語りを続ける。
『その日、扉を何度も何度も叩く音が聞こえた。最初は居留守を決め込んだが、しつこく何度も音は続くんだ』
 どん、どん、何か物でも飛んできたのか、山小屋の外で物音が聞こえてきた。征四朗は、ぎゅっとリュカの腕に捕まった。
『漸く音が止んでほっとするんだが……そいつは眠れなかったんだな。不安のあまり誰もいないのを確認したくて、扉の鍵を外しちまったんだ』
 ドアから入って来たのは冷えた夜の空気だけではなかった、とガルーは続ける。
『その瞬間だ、伸びてきた手に腕を掴まれたそいつは、そのまま外に――』
 ドン! 
 いきなり鳴り響いた音に、恐がっていた人々が悲鳴を上げる。その悲鳴に「馬鹿征四郎いきなり殴るんじゃねぇ!」という怒声がまぎれる。怪談が恐かった征四郎は、懐中電灯でガルーを殴るという暴挙に出てしまったのであった。
「次は、俺の番か……。安心しろ。俺の話には、幽霊やら出てこない」
『女しかでてこないのだな』
 マリオン(aa1168hero001)にからかわれながら、雁間 恭一(aa1168)は消すタイミングが失われたガルーの蝋燭を受け取る。
「俺が、一番怖ええって思った話は……」
『女にまつわる話全部だな。そう、常日頃口に出して居るではないか?』
 鼻を鳴らすマリオを、恭一は睨んだ。
「いつそんな事言った!……やり憎いじゃねえか。ち、まあいい……俺と上司がタイの山奥に行った時の事だ」
 詳しくは離せないが、と恭一は前押しをする。
「地元のボス相手に、そこの特産品の取引きをしようとしたんだがボスは生憎留守でな。ボスの愛人と代わりに交渉をしたんだ。ところが、交渉の間に上司と愛人が出来ちまった」
 男女が惹かれあう有り触れた話しで終わるはずがなかった、と恭一は続ける。
「上司も愛人もガキみてえにお互い入れ込んじまってな……。俺はヤバイと思ってたんだが、案の定ボスが予定を切り上げて戻って来て捕まっちまった」
 男女の色恋沙汰はこじれやすい。どんな面倒ごとに巻き込まれるかと、恭一は思ったという。
「ボスは怒り狂って俺達全員を吊るそうとしたんだが、直前になって気が変わった。愛人が上司をすっぱり諦めるなら許すってな……。で、上司には幹部の娘を充てがいバンコクに住まわせると。……嫌なら上司と俺は銃殺だ」
 かなり良心的なことだったんだぜ、と恭一は言った。
「上司はまだトチ狂った事を言っていたが、俺は安心したぜ。決めるのは愛人だからな。ところが…」
 愛人は、上司を選んだ。
「愛人は、上司が銃殺される現場まで嬉しそうに出張って来た……」
 美しい赤に染められた唇が、三日月の形に歪んでいた。けぶる睫毛の奥にある瞳は、子供のような稚気があった。人の死が見て、楽しんでいる稚気が。
「あの目には、ガチで寒気がしたぜ」
『…結局、女の話になったな』
 マリオンの言葉に気分を害したのか、蝋燭を吹き消した恭一は立ち上る。
「へぇ……散歩に出てくるわ」
 夜の山は危険のため、さすがにマリオンも同行した。
 その背中を見送った邦衛 八宏(aa0046)は、自分の前にあった蝋燭を手に取る。葬儀屋の跡取りと知っている彼の周囲は、八宏の怪談話に期待をした。常日頃から死と近い所にいる男の話しは、さぞかし恐ろしいであろうと。
「…………では、昔聞き及んだ話を、一つ」
 八宏が、口を開く。
「むかし、あるところに小さな女の子と両親がおりました。貧乏だった家族は 一日に一度食べ物にありつけることも稀なほどでした。飢えに耐えかねた母親は仕方なく 女の子を家から追い出すことにしました……」
 小さな女の子は家の労働力にはならなかった。かといって、遊郭に売り飛ばすにも幼すぎる。家族のためにも、母親は鬼になるしかなかったのです。――と八宏は語る。
「それを父親が慌てて引き止め、 母親に黙って女の子を自分の部屋に匿いました」
 娘には、父親がさぞかし頼もしく映ったことでしょう。
 けれども、一家が貧乏であることにはかわりません。
「父親は母親に自分の食事を与え、 母親は少しずつ元気になっていきました」
 普通ならば、隠されていた女の子が出てきて話はめでたく終わるでしょう。
 ですが……、八宏は言葉を切った。
「女の子の姿は、ありません。いるのは肥え始めた母親と 母親を見て舌舐めずりをする父親だけです。女の子は、どこへといったのでしょうか?」
 八宏は、ふぅと息を蝋燭に吹きかけた。
「次は、お兄さんだね。お兄さんも鴇ちゃんと同じく、学校でのことだよ。お兄さんが、まだ中学生くらいの時のお話なんだけどね」
 木霊・C・リュカの代わりに、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が蝋燭に手を伸ばした。揺らぐ炎に照らされながら、リュカは語り始める。
「いつの頃からか、体育館の渡り廊下に大きなてるてる坊主がぶら下げられるようになったんだ。文化祭が近くて。晴れますように!って」
 廊下の窓に並んで吊るされていたてるてる坊主の影は面白いものであった、とリュカは当時を振り返る。
「効果あったのかな、当日は綺麗に晴れてたよ。後夜祭のキャンプファイヤーで、文化祭の物を全部燃やしたり」
 体中に受ける熱の感覚は新鮮で強烈であった、とリュカは語る。
「で、後夜祭の後、俺帰り遅くなっちゃって……。何も無い、誰もいない学校の中一人で歩いた。暗いし、この目だからさ。ほとんどの物がぼやけてしか見えなくて」
 響くのは、自分の足音だけ。
 それでも文化祭の後だったからか、恐怖感は全くなかったという。
「ただ、渡り廊下を通る時にてるてる坊主があってさ。燃やさなかったんだ、って思ったのは覚えてる」
 小さなてるてる坊主たちは、文化祭当日には外されていた。それに、リュカがそのときに見たてるてる坊主は――なんだか、とても大きかった。だから、そのときは「どこかのクラスの出し物を燃やし忘れたのかな?」としか思わなかったのだ。
「次の日、学校は臨時休校になったよ。……自殺者が、でたんだって」
 ――首つり自殺。
 誰かが、息を飲んだ。
 音だけで周囲の緊張が伝わって来たリュカは微笑みながら「ふふ、おしまい」と自分の物語を締めくくった。オリヴィエが、蝋燭を吹き消す。部屋にあった蝋燭の光が全て消えて、懐中電灯だけの光源となる。
 突如――窓の外に巨大な影が浮かんだ。
 人が首を括ったかのような形をした、影が。
 ほぼ全員がそれに向かって「でぇぇぇぇたぁぁぁっ!!」と声にならない悲鳴を上げる。見る事が出来ないリュカは、その悲鳴の大合唱にびくりとした。
「そんなに恐かったかな?」
 お兄さん何だか嬉しいな、と何故か照れるリュカに「うしろぉぉぉ!!」とじゅーどるが悲鳴を上げる。本物がでたぁ、と阿鼻叫喚のパニックのなかで「どん!」と扉が乱暴に開かれる。
「オニク……ワタシノ……オニク」
 現れたのは、四つん這いになった哀れな女の愚神であった。長く伸びた髪は乱れに乱れて、なにか別の生き物のようにも思われた。
「で、出たぁぁぁぁっ……ぁ……」
 あまりに衝撃的な敵の出現に、夕燈は気を失った。その夕燈を狙った愚神は、意思を持って動く髪の毛を伸ばした。
「そいつは愚神だ。俺たちが外にいるから、挟み撃ちにしろ!!」
 恭一の声が外から聞こえ、リンカーたちは一気に正気に戻る。真里亞は夕燈の前に立ち、盾を構える。この女の愚神が噂どおりに行方不明になった女性の末路だとしたら、このまま倒すのはあまりに不憫であった。
『ぐるるる……たしかに存在自体がホラー小説のボスキャラだったな』
 人狼の姿となった真里亞たちの後ろに隠れていた司が、懐中電灯と苦無を使って作った即席のボーラを作って愚神に向かって投げつけた。
「これで、暗がりでも動きがわかるはずです」
『司様、ありがとうございます。おかげで、見やすくなりました』
 クロードが、目印のついた愚神へとライヴスリッパーを仕掛ける。
「クロード! ここで戦ったら、小屋が持ちません屋外へと誘導するのです」
 征四郎は、ライトアイとフットガードを使用する。屋外で恐いのは視界の悪さと足場の悪さだが、これで少しは緩和されるであろう。
「これで、しばらくはまともに戦えるでしょうか……」
「幽霊が苦手なものを使うよ! これで消えない幽霊は、そういないと思うよ!」
 仲間全員に警告を発し、リュカはフラッシュバンを使用する。一瞬動きが止まった愚神に、真里亞はライブスブローを発動させる。それは、愚神と女性を引き離すには至らなかった。愚神の髪が二股に分かれて、その双方が真里亞に向かう。
『女性の髪を切り払うというのは、微妙に嫌なものじゃな』
 イン・シェンの苦虫を噛み殺すような声を聞きながら、リィェン・ユーは女の髪を切り払う。
「本当に、食べたのですか?」
 八宏は、暗がりのなかで戦い女に静かに問いかける。
 ぼんやりとしか明りしかない暗闇で、葬儀屋の跡取りの声は静かに響く。そのまま、彼は静かに歩みを進める。仲間が止めるとも聞かずに、攻撃を受けるのも構わずに、醜く変貌した女の側へと。
「僕も、同じです、から……あなたを否定することも、見下ろすことも、しません……」
 八宏の言葉は、風のざわめきと共に広がっていく。
「あぶねぇ!」
 恭一は、伸びてきた女の髪を切り取って八宏を庇った。
『えっとな、うん。さっきのは聞かなかったことにしてくれ。怪談の続きだったってことでさ、な?』
「今はそれどころないだろ」
 八宏から束の間だけ主導権を移したチカは、はっとして自分たちの隣を見る。
「……はぅ!? うちは一体……。あ、あぐやんなんかめっちゃ怒っとぉ……え? 戦闘……え? あ! あかんて! 頭ぐりぐりはあかんてあああああ」
 夕燈の額を拳でぐりぐりとやるAgraの姿に「たしかに、それどころではなかったのかもしれない」とチカは戦慄を覚えたい。いかつい男の拳は、ものすごく痛そうであった。
「……最終手段です」
 司は、静かに覚悟を決める。
 意を決した彼は、女の愚神に突然を試みる。黒い髪の毛の槍が、司を襲ったがそれでも彼は歩みを止めない。
「ぐっ……」
 女の髪が、司の機械化した手と腹に突き刺さる。それでも司は歩みを止めず、むしろ走る速度を速めた。握るのは、ダズルソード3.0。そこから生まれる衝撃派に、司は自分の体重と勢いを乗せた。
「その人から、離れてください!」
 司の決死の蛮行は、女と愚神を引き離した。
 愚神から引き離された女は、虚無の瞳でリンカーと自分についていた愚神をみた。そして、色をなくした唇で問うた。
「わたしが……たべちゃった人はいなくなっちゃったの?」
 その悲しみに彩られた声に、征四朗は思わず駆け寄った。
「あなたは、まだ人喰いの魔女ではないです! あなたを生かした恋人のためにも、やり直すことができるはずです」
 征四郎の言葉を、女は笑った。
 いや、征四郎を笑ったわけではなかった。
 彼女は、なにも見てはいなかった。
 真里亞は征四郎の肩をたたき、自分の手を女性の首筋に叩きつける。手刀によって気絶した女性を見ながら、真里亞は震えながら呟いた。
「……これじゃ、どうしようも」

●百物語の火が消える。
「ところで、百物語が途中で終わると本物が呼びだされるそうです。ちゃんと終わって、よかったですよね」
 鴇はアイザックの反応を見ながら、彼をからかうのを止めようとはしない。女性を山小屋まで運びこんだ一行は、彼女の手当てをしつつも朝日が昇るのを待つことにした。愚神を退治したとはいえ、やはり夜の山は危険だ。
「ほ……本当なのですか」
 征四郎も、鴇の話を聞いてびくびくしている。
 一方でオリヴィエは、リュカに「ねぇねぇ、お化けでてきた?」と尋ねられて遊ばれている。オリヴィエは気真面目に『俺にも見えないから……』と答えるばかりだ。
『そういえば、蝋燭はどうして消えたのじゃ?』
 リィェン・ユーが成人男性たちにイン・シェンの話しのオチは「幽霊ではなく同衾していた上司だった」という事を話している最中に、彼女は不思議そうに首をかしげた。
「皆で、順番に吹き消しただろう。十組いたから、十本消して終わりだ」
 リィェン・ユーの言葉に、ガルーは手を上げる。
『俺様は消してないぜ。征四朗に邪魔されたから、火がついたままで恭一に渡して……』
 そこまで言ったガルーは、口を閉ざした。
「あぐやん……最後の一本は誰が消したんや?」
 夕燈の言葉に答えるように、山の風が吹く。
 
 びゅん……びゅん……――。
 吹き荒れる風のなかで、それぞれが唾を飲み込んだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • ~トワイライトツヴァイ~
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