本部
春です、イメチェンです
掲示板
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イメチェン卓
最終発言2016/04/30 22:04:00 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/04/26 15:19:13
オープニング
●お洒落、してますか?
本部にて。
「髪、伸びたなー。いっそ髪の毛もケーブルにしちゃおうか?」
H.O.P.E.エージェント、デウスエクス・マキナ(az0001)は後ろ髪をさわさわ。
「グラデのシースで、ゴールドのピンジャックなんてステキじゃない? どう思う、アリス?」
「うんうん、いいと思うよ、やっぱりマキナはお洒落だね。うちも髪の毛綿あめとかにしよーかな……あーあ、髪を切ってくれる依頼とかあればいいのに」
「ね~。でも、ないわよねぇ、そんな依頼」
キャンディ・アリス(az0001hero001)にそう言って、マキナは依頼を探す。――目に留まったのは『美容院のマシンに従魔憑依! 髪を切られたい方募集!』の文字。
「……そんな依頼あったー!」
「え、まじで? わー……や、これはちょっと、思ってたのと違う気がするよ?」
「アリス、早速登録よ!」
「ええ~」
●という事で
「美容室に出たのはイマーゴ級と見られています。マシンに憑依し、お客さんの髪の毛をオーダーを無視して弄りまくっている状況です」
依頼を受ける他のエージェントに混じって、マキナも説明を聞いていた。ツーブロックをお願いしたら一瞬にして丸坊主にされたり、前髪カットをお願いしたら一瞬にして前髪を全部切られたりと多数の被害が出ている模様。
「従魔化したせいで、何故か毛量も増えたりするみたいですね。マッチョなお兄さんが一瞬にしてツインテールにされた例も報告されています」
「てゆーか、美容室って髪切るとこでしょ? マキナ達の世界では、機械が髪を切ってるの?」
「そっか、アリスは知らないんだ。そういう所もあるのよ。ライヴスで産業革命が起きてから、シャンプーからスタイリングまで機械でも出来る様になったの」
「わー、よくわかんないけど、なんかすごいねぇ」
アリスが資料をめくると、そこには美容室のチラシ。謳い文句は『早くて安心、全自動ヘアスタイリングマシン採用!』……嗚呼、なんだか皮肉。
解説
概要
本部から依頼を受けて美容室に来ました。もしくは、美容室に行ったらマシンが従魔に憑り付かれていました。被害は髪の毛に留まっており、施術が終わって解放された人達の健康にも悪影響はないため、大規模な避難活動は行われていません。しかし、放置するのは危険なので討伐しましょう。
従魔
推定イマーゴ級で、全自動ヘアスタイリングマシンに憑依しています。マシンはお花の様な形状で、葉の部分がキャタピラ、茎が伸縮アーム。蕾型の機械が座ったお客さんの頭を後ろからスッポリ包む設計です。施術中の一般人の頭をボーっとさせる能力がありますが、ライヴスリンカーには効果がありません。しかし、油断していると髪の毛は大変な事になる可能性があります。
特殊攻撃
・超デザインカット
斬新なヘアースタイルをご提供。大体、これは嫌だな……と思っている髪型にしてくれる。
毛量が足りなくても大丈夫! 従魔の力で一瞬にして増毛!
・超パーマ+カラー
パーマとカラーに関しては何故か普通に期待通りの仕上がりになる。
ストパーはこの事件の被害者からも「どんな癖毛もさらさらになる」と好評。
NPC
指示・絡みの無い場合、リプレイ描写は最低限となります。
備考
・この美容室は会計も機械の為、現在美容室内には従魔しかいません。
・従魔の能力は報告によって既に明らかです。
・戦闘はありますが、日常シナリオなので気楽にご参加ください。※攻撃に命中すれば大変な髪型にはなります
・どんな髪型になっても、依頼中はその髪型をお楽しみ下さい。依頼後に急いで戻すか、そのままにするかは皆さん次第です。
リプレイ
●ある昼
「参りました……散髪で開いているのが市内で此処だけとは」
「入院で外に出られ無かったからな。別の日にしたらどうだ?」
病み上がりで何時にも増して草臥れている石井 菊次郎(aa0866)は、テミス(aa0866hero001)を伴って商店街に繰り出していた。
「いえ、此処にして置きます。早く済ませて依頼を探さねば……」
こうしているとリストラリーマンにしか見えないが、彼の探し物は職ではない。傷も癒え、次なる愚神の影を求める時だ――時間を無駄にはできない。テミスはガラス扉をくぐる石井に続いて店内へ入り、その異様な静寂に凛々しい片眉を僅かに引き下げた。
「……何やら妙な雰囲気が漂って来るな」
「そうでしょうか? 復興等で人手も足りない時分ですし、何処もこんなものでは……おや、オーダーは機械ですか」
二人を出迎えたのは妙な形の機械。しかしこれを疑うには、クリエイティブイヤーの現代にそれらは身近過ぎて。
「では先端から1.5センチほど……うわー」
「きっ、菊次郎! 貴様からくりめ、我が主に何をするか!」
契約者が無理やり鏡台前の椅子に座らせられ、マシンに詰め寄るテミス。が、機械に表情の機微もない。
「大丈夫ですテミスさん、ちょっと吃驚しましたが。成程、全自動ですか? あー、あー、意図は通じて居るのでしょうか――がぼっ?」
「菊次郎ーッ」
「ごぼごぼ……ゲホッ、シャンプーエフェクターですか、これは。少し勢いがありす――かなり激しいシャンプーですね。常人なら脳味噌が攪拌されそ――」
「よく分からぬが、もしかしてこのまま退店した方が良いのでは無いか……?」
がくがく揺さぶられ、舌を噛みつつも石井は何故か平然と。
「何故ですか? かなり快調に動いていますよ? ……うん、襟の処理も完璧だ。テミスさんも如何です?」
「い、いや! 我はな……おお?!」
振り返れば、何時の間にかテミスは周囲を取り囲まれていて――
「寄るな、やめ――がぼぼ!」
「はは、そんなにはしゃいで……これもツンデレと言うのでしょうか?」
「ち! ちがごぽぽぽ……」
●店の外では
そんな一連の二人をショーウインドウから覗き、頬をヒク付かせるのはコルト スティルツ(aa1741)。
「なぁ、なんで髪切りにきたら機械が暴れてるんだよ……」
道行く人もその美貌を思わず二度見するも、口を開けば印象は粗野な男性そのもの。
「ギチギチ……?」
「ありゃぜってー従魔だぜ。今日はオフの日だったのに……これじゃ新しい髪型が試せないじゃねーか」
闘争の気配を感じて幻想蝶が出てきたアルゴス(aa1741hero001)は、召喚者の威勢弱さに不思議そうに体節の擦れる音をあげた。
「あ? 何だ、こんな闘いで血沸き肉躍る訳ねぇーだろうが。ったく、楽しい休日が一気にテンション急降下だぜ」
「ギチィ……」
「おい虫。ちゃっちゃと片づけて帰るぞ、予定変更だ」
「ギギギ、ギチギチ!」
それでも色めくアルゴス、コルトは共鳴へ。ライヴスの光の中、二人は一つに――やや矮躯の虫人間の姿へ変身を遂げる。
「わぁ、すごい! 機械の反乱ってやつかな!」
その背に聞こえたのは御代 つくし(aa0657)の声。振り返ったコルトは瞬時に猫を被った。
「あら、つくしさん。本部からの応援ですの?」
「コルトさん、こんにちは! お久しぶりですね……いえ、私達はたまたま通り掛かって、」
「そうでしたか。無理せず、頑張ってくださいまし。私もお手伝いさせて頂きますわ……メグルさんも、偶に髪を短くするのもよろしいんではなくて?」
「いえ。僕の髪は、願掛けの様なもので……それにつくしは怪我を……」
メグル(aa0657hero001)はなんだか目を輝かせている御代を前に、僅かに言い淀む。
「敵の能力、命に関わるものでは無さそうですが……従魔は従魔、迷惑は迷惑ですからね。危険性が無いとはいえ、気を付けつつ早急に対処しましょう」
「うん、ぱぱっと退治しちゃお? それから……できれば、ちょっと近付いてみたいなぁ、なんて……」
「……」
「じ、冗談だよ、メグル……そんなに怖い顔、しないで?」
御代のくりりとした瞳に懇願の色を見て、メグルはぱっと視線を逸らした。
「すみません、怒っているのではありません……でも、戦闘に参加するのは駄目です。共鳴できませんから」
「……そうだよね。じゃあ、皆が心置きなく戦えるように、お店の外で見張ってようか」
「ええ、そうしましょう」
横の御代をちらと見て、メグルは小さく息を吐く。
(早く終わらせて、つくしを病院に戻さないと……
……僕の髪も、色を黒に、とは思いますが……いえ、戯言ですね。黒髪に戻ったとして、特別嬉しく思うとも思えない)
目前、ガラス扉には透く様な銀髪の青年が映っている。その間にも、つくしはきらきらと笑顔を振り撒いて。
「コルトさんは髪長いから色々と似合いそうですね!」
「ホホホ、アルゴスの見た目で言われても何だか嬉しいですわ。
――あら、あちらは今度こそ、お仕事で来た皆さんですわね。灰堂さんまで……」
「あっ、リンくんだ! タオさんもこんにちはー!」
視線の先には呉 琳(aa3404)と濤(aa3404hero001)。鵜鬱鷹 武之(aa3506)、灰堂 焦一郎(aa0212)、デウスエクス・マキナ(az0001)組も一緒だ。
ストレイド(aa0212hero001)はあまりにもアレな敵の見た目にテンション急降下。
《何だアレは……ふざけているのか》
「独特なセンスですね」
「ごきげんよう――まあ、お二人ともいかがなさいましたの? ほとんど白目ですわよ」
《……戦闘……では、あるが》
「言いたい事は解りますが……これも仕事です、ストレイド」
「相変わらず重武装ですわねぇ。うちのアルゴスもストレイドさんを見習って重火器に慣れて欲しいですわ」
『ギギギ!?』
「自分は近辺で要請を受けて急行し……今度から小火器も持ち歩く事に致します」
《……我と同様に扱うならば先ず並列処理用インプラントを施す必要があるが》
「嗚呼つくしさん……痛々しいお姿です――けれど、その向日葵の様な笑顔は曇りを知らない。今日もお綺麗ですね!」
濤は精一杯の笑顔で御代に挨拶を。
「わぁ、嬉しいけど、照れるなぁ……何て言おう、メグル」
「はぁ、どうも、皆さん。奇遇……というわけでもありませんか。討伐チームですね?」
「みんなも、髪を切りにきたのっ?」
「いえ、ですから討伐……」
「そーよ、髪を切りに来たの♪」
「丁度良かったよね~」
「あっ、そうなんですね……」
答えたのはマキナとキャンディ・アリス(az0001hero001)。琳は少し困った様に。
「濤はルゥも来るって聞いて、凄く張り切ってたんだぜ! 家を出るときも『何をしている。靴を履け! 行くぞ!』って」
「当然だ! 友人の女子が行くとなれば、私には保護監督の義務がある。つくしさんまで来たとなれば益々だ!」
「……たけゆきとメグルもk」「早く来い! 早速討伐だ!」
「はぁ……髪なんてどうでもいいよ。皆もそう思うだろ? そんな事より、誰か俺を養ってくれ」
鵜鬱鷹は今日も今日とて死んだ魚の様な目で後ろ髪をボリボリ。
「たけゆきは今のままでもカッコイイけど……」
「琳くん……そんな気を遣わなくても、君とは1差し入れ1モフの契約があるから集らないよ。ほれほれ、尻尾モフモフー」
「そうだぞ琳、お世辞が過ぎる。だがモフモフは頂いた! もふー」
「タオ、ひどいんだよ……髪をセットしたら格好良くなるんだよ! ね! リンもそう思うでしょ!」
「そうだな、かっこよくなると思うぜ! たけゆき、一緒にガンバローぜ!」
「何を?! いえ、すみません言い過ぎました!」
ほっぺを膨らませるザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)に濤はたじたじ、手のひらくるり。
「ま、まぁ好みはありますけど……武之さん、貴方はもう少し……」
「そう思うなら、濤くんが俺を世話してくれよ」
「何を?! 養ってくれれば誰でもいいんですか!」
「うん」
「この……クズ!」
「あ、でも、未成年には養ってとは言わないよ。だって犯罪になっちゃうだろ?」
「しかも分別のあるクズ! タチ悪い!」
「ルゥルゥが張り切ってて、嫌々連れて来られてね……俺もいい迷惑だよ」
「ルゥが張り切ってるんじゃないよ! 見てよ、武之ったら、本当にだらし無い恰好しかしないんだから! リンもタオも一緒に叱って欲しいんだよ!」
「ほら、ルゥさんが困ってるじゃないですか! さぁさぁ行きますよ武之さん!」
「やっぱりタオは頼りになるんだよ! ルゥ大好き!」
「ファッフー?! うぇ、滅相も無い! 当然の事をしたまででッ」
ぐいぐい鵜鬱鷹の背中を押す腕にルゥが抱き着くので、平静を装うのに精一杯な濤――一度ルゥに『好き』といわれてから変に意識してる27歳、シャイボーイ。
(フッ、しかし聡明な私は分かっているのです――その『好き』は友達としての好きだと! 故に、変なアピールはしませんよ! 彼女は誰にでも分け隔て無く、好意を伝える事ができるのです。嗚呼ルゥさん、何と素敵な女性!)
もちろん、ルゥは濤の気持ちには1ミリたりとも気がついていない。彼女にとって、琳も濤も大好きで大事な友達だ。
「ルゥが気にしてるんじゃ、俺も手伝いたいな……養えないけど、ルゥの為に頑張ったら差し入れやるぞ! な!?」
「うーん、琳くんがそう言うなら頑張るしかないね……」
「とにかく、従魔はどうにかしなきゃだよね! って言っても、私は今怪我してて上手く動けないけど……」
「つくしは無理するなよ!」
「うん、大丈夫!」
「濤は、もう少し今時の髪形にして貰ったらいいんじゃないか? カラーとパーマはちゃんとしてるらしいし」
「私は今の髪型が最高に決まっていますから! 弄らせないし、触らせませんよ! ま、まぁ、女子(おなご)なら構いません……けど、ね……!」
「え……そうなんだ、カラーとパーマはばっちりなんだ……?」
御代はこれを聞いて少し俯き。
「あんまり危なくない感じだし、ちょっとやってみたかったな……! 能力者になってからずっと短いままだし……でも、邪魔にならないようにしなきゃいけないよね……」
「……っ」
かくも健気な契約者に、メグルはメグルは。
「髪を長く……はさすがに無理だろうけど、色を少し変えるくらいとか……どうかな?」
「いいな、つくしは他の髪色も似合うと思うぞ! 俺はくせッ毛だからなぁ……ちょうど良い機会だし、雰囲気変わったらいいよな」
「いけませんつくし……危ないですから……」
「メグルはしっかり者だなぁ。でも、いざとなったら俺が守ってやるから、大丈夫だぞ!」
「琳、早く来なさい!」
「分かったよ、濤! ホラ、つくし」
御代は差し出された琳の手とメグルの顔を交互に見たが、答えが出ない。
「……つくし。予約を確認して、来店予定が無いか確かめておきましょう。それで、きっと十分です」
「!! じゃあ……」
「ええ、琳さんと行きましょう」
喜ぶ御代にメグルは薄く笑い、現界を解いて幻想蝶に戻った。
●いざ、美容室
「……主よ。その姿で外に出るのか?」
「テミスさんこそ……しかも、それは化粧ですか?」
マシンから解放された石井とテミスは、互いにそう言い合ってから、自分の姿を鏡で見る。石井の髪型は所謂リーゼントである。
「うん? ちょっと切り過ぎな気がしますが……」
「主の年齢でその髪型はいささか――まるで売れないホストの様な……いや、あえて言うまい」
「まぁ、これはこれで……」
「良く無いぞ。しかし何だこれは? この様な悍ましい髪型が有り得るのか?」
「テミスさんの髪型はあれですね、歴史の教科書で見た事があります。確か、そう、マリー・アントワネット。すごいですね、うずたかく盛り上がっていますよ。しかもカッチカチだ」
「早く何とかせねば……ン? 何だ、この美容室はエージェントの行きつけだったのか?」
「お客さん、逃げて――え?! 石井さん?」
「おや、御代さん。何故ここに?」
「わー! 大丈夫ですかっ? これは機械に憑り付いた従魔で……」
『惨い……僕達も気を付けましょう、つくし』
店に駆け込んで来た御代達を見て、事情を理解したテミスはわなわな震え。
「成程……そういう事か。やはり侵略だったという訳だな。異界の文明、打ち壊すべし! 店ごと、いや街ごと焼き払うのだ! 怪しげなドロップポイントが生まれたら世界の終わりとなろう! 更地にして塩を撒き、この忌々しいカルタゴが二度と復活せぬ様に呪いを掛けてしまえ!」
「テミスさん、落ち着いて下さい……ん? ……えーと、マキナさん?」
「はいっ!」
年上の男性に声を掛けられ、思わず声の裏返るマキナ。
「このお店はお知り合いですか? 最近の美容室はサイバーインプラントのオペが可能なんですか?」
「ふぇ……できると思うけど、マキナ髪の毛は生身だよ!」
『ギギギ……ギギ』
「こちらの虫さんも貴方が気になると仰ってます」
「おほほォイ、アルゴス。勝手に鳴くんじゃねーでございますよ」
「あ、私も興味があります。その義肢は新型ですか?」
コルトの豹変にも、友人の灰堂は動じない。というか共鳴している為、ヘッドギアのせいで表情は見えない。
「ううん、これはカスタムボディースーツなの。灰堂さん――そういうストレイドさんの義体も、結構レアものですよね! あ~ん、ゴツカワイイ~」
「何分旧式なもので、修理用パーツにも難渋致します。そちらは非常に軽量なようで、年式は……?」
《……灰堂、仕事はどうした》
「おっと……私としたことが、歓談に興じてしまうとは。マキナさん、話の続きは任務遂行の後で」
「そうね! 楽しみにしてるわ、焦ちゃん」
「焦ちゃ……まぁ、しかし、私は仕事一辺倒でして。美容院は初めて来たのですが……成程、このような強烈なヘアースタイルを提供する場なのですね」
「感心してるとこ悪いけど、それは違いますわよ! ハッ――灰堂さん、後ろ!」
ズビーっ! マシンの繰り出す謎の光線が灰堂を襲う。間一髪これを回避し、灰堂は鵜鬱鷹の傍へ着地。鵜鬱鷹は共鳴を経て若返り、オールバックのきりりとした佇まいを得ているが、その目は相変わらず死んでいる。
「さて、内部の損害は最小限にしたいですね」
「同感だけど……え、そのナリで? 明らかに屋内戦闘に向いてないデカブツ二挺なんだけど」
灰堂の獲物は肩に担ぐ2メートルの携行砲と子供の身長ほどもあるハイレーザーライフルである。
《確かに、戦えるなら過程はどうでもと言ったが……くだらぬ。場所柄、全力も出せんではないか》
「そう言わずに。さあ、来ましたよ」
「前衛はお任せ下さい!」
「あっコルトさん、そこに飛び出したら……」
びびびー、再び迫るマシン。双銃を抜き躍り出たコルトを謎光線が襲う。
「近寄れば当たる、当然ですわね!」
「……わざとでしょうか?」
《言ってやるな》
「チッしかし何ともないですわね。ねぇアルゴス? ……アルゴス?! なんじゃこりゃぁぁ前が見えねぇぇ」
被弾した虫人間の頭部には、非常にふさふささらさらしたロンゲが踊っている。
「お前……髪無かっただろ……!」
『ギチギチ!!』
「髪生えたーって喜ぶとこじゃねーよハゲ!」
必死で髪を掻き分けていくと、目の前に現れたのは巨大なキノコ――ではない。よく見たらそれは鵜鬱鷹だった。
「ってあ゛ああああ?! 何故かとばっちりで近くに居た鵜鬱鷹さんまで食らってますわ、スゴイわっさわさのスーパーアフロにされてますわーっ」
『わぁ……ルゥ、格好良い武之になって欲しかったのに……武之の髪が爆発しちゃったんだよ……』
「はぁ……外に出ればこういう扱いか……もう誰か養ってくれよ」
「たけゆき、大丈夫か?!」
「あーまあ」
餌食となった鵜鬱鷹に琳が駆け寄って来る。
『でも、虫さんは格好良いんだよ!! 武之よりも格好良いんだよ!』
「虫に負けた……いやいいんだけどね。因みに俺のアフロはふかふかだよ」
「どれどれ……うん、ふわふわだな! 尻尾みたいに触り心地いいぞ!」
「ああー琳くん、あぶなーい」
マシンの次の標的は琳。
「くっ、かくなる上は……」
灰堂は止むを得ず、盾を持って琳のカバーリングへ。無事に被弾し、もくもく上がる煙の中を、御代が心配そうに覗き込む。
「灰堂さんーっ」
「ゴホッ大丈夫です、我々なら被害は無く……」
《【不明なユニットの接続を感知、不明なユニットの接続を感知】》
「ちょ、なんですかストレイド、うるさいですよ」
《我じゃな【不明なユニットの接続を――】》
「……まさか……」
灰堂は震える手を頭へ。
黒鉄に紅き単眼――のヘッドギアに、グラスファイバーのようなものでできたアフロヘアが装着されていた。しかもどういう仕組みか、星を得た配管工の様に七色に光り輝いている。
「灰堂さん……その、早く従魔を片づけて直しましょうね?」
『これはひどい……従魔とはいえ、腐っても最新機器ということでしょうか』
内心ドン引きしつつ、コルトは気遣う素振りを見せる。メグルは余りの惨状に目を逸らし。
「別にいいけど、アフロ被っちゃったね……」
『武之文句ばっかりなんだよ!』
「かっこいいー!」
『え……つくし、本当にそう思っているんですか……?』
「おおおスマンしょういちろー! でもなんかカッコイイぞ!」
『ま、まぁ……良いじゃないですか……』
濤は笑いを堪えるのに必死のようだ。そんなに油断しているから後ろから光線を食らうのである。余波を受け、御代も琳と共に煙に包まれてしまう。
「ぎゃー!」
「きゃーっ?!」
『つ、つくしーっ!』
「ううっ……?! こ、これは……超パーマだーっ」
起き上がった琳の天パは天空塔よりも綺麗な縦直線を描いてストーンと重力に身を任せていた。
「おお! おおお! サラサラだ!! 濤よりサラサラだ!」
『なん……だと……!? 嘘だろ!! ちょっと頭をぶんぶんしてみろ!』
「どうだ!」
『――うぐっ! さらさらじゃないか…』
「へへーさらさらだぜ!」
『リン凄いサラサラなんだよ!! ルゥよりもサラサラかもなんだよ!!』
「……琳くんおめでとー……」
「やったぜ、たけゆき、ルゥ! つくしは……?」
「う、ううん……」
『つくし、大事ありませんか? つく――』
メグルは思わず息を呑む。御代の艶やかな黒髪は、まるで共鳴時の様に腰ほどまでに長さを伸ばしていた。
「おおおおつくし! 似合ってるぞ!」
『と、とても似合っていますよ!』
「すごい………えへへ、琳くんも濤くんもありがとう! 今日、外に出て良かったなぁ」
嬉しそうな御代を横目に、従魔の前には灰堂とコルトが立ちはだかる。
「さあ、遊びはここまでです」
《……60mm砲はどう考えても使えな【不明なユニットの接続を――】》
「そうですね、ライトブラスターにしておきます」
「灰堂さん、キャタピラが弱点と見えますわ。先ずは足を削ぐと致しましょう」
「ええ、賛成です」
ぎちぎちという虫のさざめきと共に、コルトの銃が従魔に向けられる。青い銃身に刻まれたファイアパターンが、リコイルの瞬間に燃える様に震えた。二人の射手の射撃を前に、低位の従魔はなすすべ無く無限軌道を砕かれてゆく。
灰堂は後ずさり、バックヤードに腕を突っ込んだ。取り出したのは練習用のマネキン頭部。
「さぁ、斬新な髪型にして御覧なさい!」
「ってえええ何してんですの?!」
コルトのツッコミも何の、灰堂はそれを従魔に投げ付けた。従魔は思わずマネキンに向かって渾身のデザインカットを施してしまう。
「この隙に狙い撃ちです!」
「なるほど天才ですわぁ! というかこいつら本当に現世滅ぼす気あるんですのー?!」
『わぁ、楽チンなんだよ!』
「そうだねー。それより弁償ヤダからモノ壊さない様にねー」
鵜鬱鷹がやる気なさげに振るうレーヴァテインだが、名剣の切れ味は衰える事無く次々と機械を両断してゆく。
「ふむ、この仕事が全て従魔の仕業とすると……従魔にクリエイティビティが無いと言う従来の見解は改めねば成らないのでは無いでしょうか?」
『……主よ、何を言っておるのだ?』
テミスがぼそり。石井も魔法で従魔の殲滅を続けた。
一方で、傷付いた御代にもマシンの魔の手が迫る――
『いけない。つくし、隠れて……』
「大丈夫だ!」
「琳くん!」
御代の前に立ちはだかる琳。
ライヴスを集中すれば、竜爪は刃の煌きを増す――ストライクが、襲い掛かる従魔を切り伏せた。
「やったぜ!」
『見たか、私のサラサラ髪パワー!』
「悔しさパワーだろ。濤より俺の方がさらさらだぞ!」
『キーッ』
――かくして、商店街を騒がせた従魔騒動は迅速に収拾される運びとなった。
「……で、灰堂さんはそれをどうなさいますの?」
コルトに尋ねられ、灰堂は手に持った巨大なアフロを見た。
「保管します。あ、どうやら分割できるようですので、よろしかったら皆様も。祝事の際に役立つかと」
《馬鹿を言【不明なユニットの接続を――】》
「ていうかソレ、普通に外せたんですのね」
一同はストレイドのアフロを分かち合った。既に報告も終え、後は帰る算段という頃である。
「明日にでも、別の美容室へ行って元に戻さねばな……今日は散々だった」
「あぁ、テミスさん。一応、前後左右上下から撮影しておきましょ……」
「やめよ!」
カメラを構える石井は、テミスに引っ張られてその場を後にした。他の面々も、それぞれに帰り始める。
「大変な休日になったねー!」
「やれやれですね。……まぁ、気分転換にはなりましたか」
メグルは少し元気になって見える御代に薄く微笑んだ。黒髪は、長く夕風に靡いている。
コルトはロングヘアーで上機嫌のアルゴスにうんざりした様に問い掛けた。
「なぁアルゴス、それ本当にそのままで帰るのか?」
「ギチギチ! ギチ!」
「……あとで寝てる隙に切るか」
「ギチギチ!?」
●その夜
インターネット上に、とある動画がアップロードされた。
奇妙な女性が一人映っており、低い電子音で只同じフレーズを繰り返すという内容だ。
『我々は無限の特異点に突入した。我々は無限の特異点に――』
アカウント名は『DEM』。
これは言わずと知れた、インシィの犯行声明である。