本部

レール・スプリッター

月桂樹

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/10 18:05

掲示板

オープニング

●移動監獄
 地平線の果てまで主に染めた太陽がゆっくりと沈んでいく。荒野の真っただ中を横断する列車もまた、同じ色を反射させていた。
 連なる車両の中でも違和感を感じる車両がいくつかあった。例えば、カラーリングが異なっている。例えば、大きさが異なっている。例えば、窓がない。子供が間違えて違う列車をつなげてしまったかのようだ。
 太陽の光も差さないその車両の中では、人が壁に繋がれていた。襤褸切れ同然の衣服をまとい、身体は力を失い、目は輝きをなくしている。
 一方、車両には繋がれた者がいるだけではなかった。それを見張るように入り口に陣取る者がおり、壁に寄りかかるようにして繋がれた人々をぼんやりとみている。
 入り口が開く。見張り役があわてて姿勢を正し、道を空ける。
 新たに入ってきた人物は、鋭い目を持つ偉丈夫だった。その男はざっと室内を見回すと重々しく口を開く。
「聞け、お前たちの行く先についてだ。闇の闘技場の闘士として届けられることになる」
 多くの者は、自分の行く末にすら関心がないように、虚ろにうなだれている。何人かは憎悪のこもった視線を向けている。偉丈夫はそれを心地よいとばかりに笑っている。あるいは、そう見せようとしているのかもしれない。だれよりも自分のために。
「今更だな、私たちがお前たちの人間性に価値をつけるとでも? お前たちの価値は能力者であるという一点のみだ。その憎悪は戦う相手に向けるのだな。運が良ければ、生き残れるやもしれん」
 大衆を前にした政治家のように演説ぶる。
「お前たちは一欠けらのパンで争ったことがあるだろう? なら、それと同じだ。今度は相手と命を奪い合うそれだけだ。そこに違いはない。お前の奪ったパンで飢え死にした者がいるように、お前と争ったことで死ぬものができるだけだ。生きるのは殺すことだ。生きるように殺せ。忘れるな、そうすれば……」
 最期の言葉が言葉になる前に口を閉ざすと踵を返し、ドアを出ていく。その男に声をかけるものがいた。
「やあ、素晴らしい演説だった。これからコロシアムで毎日訓示でもしてもらおうかな」
 護衛に守られるようにして端正な顔立ちの男が椅子に腰かけている。表情は面白がるようにいびつに歪み、気のない拍手をしている。
「コロシアム唯一の踏破者、悪鬼とまで呼ばれた君の言葉ならでは、だ。なんだい、感傷にでもふけりたいのかな? まあいい。君は前の方の車両を守ってくれたまえ。乗客がここまで来ないようにね」
 偉丈夫は黙って頭を下げると、そのまま前の車両に移動していった。

●繋がれた人、連なる場所、結ばれた縁
 後方の車両での出来事を露とも知らず、前方の客席車両は日常の延長線上にあった。そのレールが切り替わるときは刻々と迫っていた。
 分岐器となる能力者達の携帯機器が音を鳴らす。それに出ると、間の抜けた声が聞こえてくる。
「あーテステス、聞こえていますかー。聞こえていまよね。こちらはH.O.P.E.です。あっと皆さん素知らぬ顔しててくださいね。ほらほら、友達からかかってきたとでも思ってください。こちらが手間暇かけて傍受されないように連絡を差し上げているんですからね。頼んでない? 知らない? まあそう言わずに聞いてください」
 間の抜けた声改め、テンションの高い声が言うには、その列車にヴィランがいるとのことで、それに対する依頼のようだ。
「何でも能力者をだまして、そこかしこに売りさばいてるらしいです。やっと、掴んだのがそこ、皆さんがいるその列車です。そこから先に関しては何もわかっていないので、この機を逃すと再び人の海に沈んじゃいますね。走っている間は動く孤島のようなものなので、どちらにも援軍はございません。さっさと解決お願いします」
 誰が聞いているでもなしに声を落して、もったいぶってから言う。
「何でも今回は組織のお偉いさんがいらっしゃるようなんで、そいつもお願いします。できれば生きて。死人をしゃべらせる技術があればいいんですけどねぇ」
 テンションを戻して続ける。
「敵情報をお伝えしまーす。こちらの情報では、ごろつき以上、ヤクザ未満の連中が十数人いますね。武装は下。皆さんと比べれば木と石のようなものですね。で、VIPの護衛数人。武装は中。鉄製ぐらいですかね。最後に要注意人物。いかついおっさん。情報は少ないですけど、修羅場を潜ってらっしゃるみたいですね。男女のではないですよ。武装に関しては、まあ目からレーザーでも出すんでしょう」
 ぼちぼち、説明員の頭にひまわりでも咲いてるんじゃないかなんて疑いが能力者から出でもおかしくないほどだが、それを察したのか少し落ち着いた声になって話し出す。
「次は場所ですね。見ればわかる? 戦場になるとして見るとまた変わりますよ。では、始めます。場所は荒野を横断中の列車ですね。編成は20車両で、ヴィランの貸切は最後尾の動力車から5車両分ですね。前はみなさんがいる普通の客席。境目付近はおそらく見張られているでしょうね。ヴィラン側からもこちら側からも。今ので最後ですので、通信終了しますよー。頑張ってくださいねー」
 列車は今のところ何一つ変わってはいない。ただ、今確かにレールが軋む音が鳴り始めた。
  

解説

 列車の車両での戦闘となります。
 目標は能力者の救出とVIPの確保です。
 今回ヴィラン殲滅は障害扱いとなります。
  
 車両は立体的に見ますので、上、横など車外での行動も可能です。
 ただ、車外での戦闘の場合、生命力を合計で半分以上減らされた場合、よろけて体勢を崩したとみなして判定します。生命力が半分以上減った状態である限り、攻撃を受けるたびに判定が起こります。
 [(回避/10)+1D100]≧80
 失敗した場合、車両から転落しますが、周囲4スクエア以内に味方がいる場合、味方に助けてもらえますが、次のラウンドは助けたほう、助けられた方共に行動できません。
 助ける判定は基本的には車内からすることはできません。
 車外から車内に対する攻撃や車内から車外に対する攻撃には命中に-補正がかかります。
 勿論、敵にも判定します。

 車両は全20車両。ヴィランの車両は最後尾に動力車があり、そこから五両分です。
 一つの車両は大体30メートル程度です。
 派手に車両が破損しても最後尾の動力車以外なら問題なく走行します。
 囚われた能力者とその英雄たちは別々の車両にとらわれています。
 解放したとしても余力はそれほどはないでしょう。
 
 敵は構成員が15名、護衛が6名、偉丈夫が一人。VIPは能力者ではないです。
 構成員はLV20程度ですが、武装は劣悪で-補正がかかっています。
 護衛はLV40程度、武装は人並み。守備的に立ち回ります。
 偉丈夫はLV60程度、武装は優良。攻撃的に立ち回ります。
 他に、五名ほど客席の方に紛れて、様子を報告しています。
 敵は劣勢と感じた場合、列車を停止させ、車外に逃走します。
 荒野とはいえ、隠れる場所がないわけではないので見失うと発見は困難かもしれません。
 
 

リプレイ

●ターンアウトポイント
 夕日と規則正しく訪れる震動。長時間の乗車もあって車両内は倦怠感に包まれていた。時折聞こえる話し声以外は列車の稼働音に紛れて均される。緩やかな時間は唐突に終わりを告げた。
 隣の車両の雑音が消えた。扉の開閉音のあと、しばらくの間騒がしくなっていた後には不気味な静寂だけが広がっている。様子を見に行こうと一人の構成員が立ち上がったところで、ガラッと音を立てて乱暴に扉が開けられる。視線を集めながら現れたのは和服を着た女と鎧を着こんだ男だった。
 カグヤ・アトラクア(aa0535)はふらふらとおぼつかない足取りで酒を振りまくように瓶を振りながら車両に踏み込んでくる。衣服は外からの風を受けてひらひらと揺れ、描かれた蜘蛛は生きているかのように脈打っていた。場数を踏んでいない構成員たちは、唐突な展開に思考が停止する。
「ここに酒を隠しているのはわかっておるのじゃ。早く出さねば暴れるぞ!」
(「すでに暴れてるようなものだけどね」)
 クー・ナンナ(aa0535hero001)が素っ気なくつぶやく。
 口を開いたままの状態から構成員が半ば無意識に目的を尋ねる。待ったましたとばかりに龍哉が答える。
「何しに来たかだって? 大掃除さ!」
 和服が一際大きく翻った瞬間、武器を敵から見えないようにカグヤが来ている服で隠していた赤城 龍哉(aa0090)が問いかけた敵に踏み込みざま一撃を放つ。
 人間が出せない、出してはいけないような音を立てながら、ゆっくりと倒れる。 その場にいた構成員全員の表情が呆けた状態から驚愕に変わる。表情が変わるより前に、龍哉が銃で弾幕を張る。
「狙って当てるとか無理なんだが、ばら撒けるってのはこういう時便利だな」
(「無駄撃ちが過ぎますわよ」)
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)が当たっているのが思いのほか少ないことを見て取って指摘する。
 事ここに至って、ようやく事態の把握ができた構成員達が戦闘態勢を取り始める。
 それを乱すように白と黒の矢が銃弾を縫うようにして敵に向かう。百日 紅美(aa0534)が生み出した矢は、しばらく近くで浮遊した後、白と黒の軌跡を残して飛んでいく。
 外の夕日を受けて赤で統一された装いは燃えるように見え、炎に包まれているようだった。とんがり帽子も相まってどこまでも魔的だ。
「二人じゃねぇ。後ろにちっこいのもいるぞ」
 ヴィランの言葉が聴こえるや否や紅実が声を荒げる。
「誰が、小さいって?」
(「落ち着きなさい、紅実。そんな血走った眼で探しても誰が言ったか分かりはしないわ」)
 アルテ・ローゼ(aa0534hero001)が紅実を窘める。その後に付け加える。
(「やるなら全員まとめて燃やし尽くしましょう? その方が楽しいでしょう?」)
 敵の混乱が落ち着いたと見ると、銃を剣を持ち替えた龍哉と鉄扇を構えたカグヤが前衛として通路を塞ぎ、後衛に紅実が陣取る。
 緒戦で実力差が理解できたのか、ヴィランには勢いがない。ジリジリと後退していき、一人が後部車両へのドアに背中をぶつける。そのまま、逃走するためにドアに手をかけたとき、独りでにドアが開く。
 ドアを開けた主は、見上げるほどの偉丈夫で列車の天井近くまで頭頂が及ぶ。状況を察していたのか、抜身の刀を構えたいる。そのまま、すり足でゆっくりと距離を詰める。壁が動いているかのように見える。それも何人たりとも動かすことすらかなわない鋼鉄の壁。
 その威圧感に押されるように、背中を見せる寸前だったヴィラン達も能力者の方に向き直る。先ほどまでの浮足だった様子が嘘のように消えていた。車両全体の重苦しい雰囲気一色に染まる。
 重苦しい雰囲気をかき消すように、カグヤが言葉を飛ばす。
「わらわは列車強盗じゃ! 今すぐ宝物をすべて差し出すのじゃ」
「それなら無駄足になったな。ここに宝と呼べるものなんぞ何一つない。あるのは、仕様のない商品ぐらいだ」
 紅実が言葉を続ける。
「人身売買なんて時代錯誤なことをいつまで続けるつもり?」
 自嘲するかのように口元をゆがめて答える。
「それは、私にするべきものではない。求めるものと与えるものがい限り、時代からなくなることはないのだろうさ」
 そう言い放つ様子は皮肉気でこそあるが、揺らいではいなかった。表情が薄れ、全身の筋肉が数瞬後の爆発に備え、膨れ上がっていく。
「こいつは一筋縄ではいきそうにないな」
 相手から視線を外さずに龍哉が呟く。
 それが、合図になったのか。場の一人が惹かれるように動き出すのに応じて、全員が行動を起こす。一際高く白刃がぶつかる音が響いた。
 
 衝突が始まって少し後、車上を走る一団がいた。車内の喧騒に紛れるようにして動き出した一同は、夕日を存分に受け色濃い影が列車から三つ突き出している。高速で走行する列車の上は強風と言っても差し支えないほどの風が吹き流れていた。常人なら歩くのすら苦労する中、その一団は苦も無く逆走している。
 最初の車両の半ばごろまで進んだときに、車上に新たな影が現れる、がすぐにその姿は地上に転がり落ちた。土煙を巻き上げながらあっという間に遠ざかっていく。瞬きほどの間の出来事だった。
「Dropoutだ。悪いけど、ご退場願おうか」
 古賀 佐助(aa2087)の言葉のみが車上に残る。聞くべき相手はすでにない。まだ、温かい銃身を抱えている。長身の美女が夕日を背に走る様子は、映画のワンシーンのように出来過ぎていた。
「しっかし、ますます映画みたいな展開になってきたなぁ」
(「……アクション映画?」)
 リア=サイレンス(aa2087hero001)が聞き返す。
「まぁ、そんな感じ?」
「確かに、大捕物じみてるな」
 隣を走っていた麻生 遊夜(aa0452)が同意する。会話しながら狼のような耳がピクリと反応すると何か所から同時に上ってきていた敵を撃ち落ちす。銃声が重なって一つのものかと思われるほどの早打ちだった。撃ち落とされた敵は風にさらわれ、吹き飛ばされていく。
「すまんが急いでるんでね」
(「……ん、頭出してると、危ないよ?」)
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)が楽しげに付け加える。
 一行の中で一際目を引くのは青と灰色の狼だ。毛並みは風を受けて一様に揺れている。二メートル近い巨体に大剣を構えた様はさながら生きた神話だった。
「随分、C調だな」
 愛宕 敏成(aa3167hero001)は言葉というより咆え声は風に流されずに、近くにいた遊夜に届く。
「C調ってなんだ?」
「ああ、調子がいいってことだな」
「それならきみ風に言うと、今落ちて行った連中はC調の反対ってことだね」
 側に近寄ってきて佐助が言った。
(「へえ、じゃあ、トシナリはC調の反対、逆C調だね?いっつも調子悪そうにしてるし。今は違うけど」)
 須河 真里亞(aa3167)が共鳴状態の夢見心地の状態から話す。
 敵も援護射撃を受けながら何人か車上に上がり、徐々にその数を増やしていた。自身の立てる足音と風の音以外の音が現れる。新たに耳朶を打つのは弾丸の飛来音。車両を隔てての打ち合いが始まる。
 相手は車両の椅子をバリケードのように設置し、それを盾にしながら射撃をする。遮蔽物としてこそ機能せずとも、障害として、死を運ぶ弾丸から身を隠せるものとして精神的な防壁として機能する。
 敵、味方の弾丸が飛び交う中、敏成が盾で身を隠しながら切り込んでいく。粗雑なバリケードを一撃の下で粉砕すると、そのまま手短な敵に襲い掛かる。
 敵も負けじと剣で切りかかるのに合わせて盾で受ける。絶妙な角度で傾けられた盾の上を敵の剣が滑るように流れていく。完全に体が泳いでいるがダメ押しに踏ん張ろうとしている足を払う。
 転倒した敵に対してライヴスを込めた渾身の一撃がたたきつけられる。列車の車体をへこませるほどの衝撃を受けた敵が悶絶して気を失った。
 一連の動作の最中に突出した形の敏成に周りの敵が殺到する。振り上げられた凶器が一斉に光を反射する。振り下ろされるまでのわずかな間に、差し込まれるように銃声が連続した。遊夜と佐助によるものだ。敏成を囲うようにしていた敵がよろける様に下がっていく。
 その隙間を縫うようにして遊夜と佐助が駆けていく。敏成がそれを制止しようとする敵との間に割って入って盾になる。動力車までの道筋に敵はいなくなった。
 無人荒野を進むが如く一直線に突き進む二人を背後から襲おうとする者はいなかった。自身の後ろに進む者を追うということは同時に、自身の前にいる敵に背中を向けることになる。
(「あれに背中を向ける? 冗談じゃない」)
 2メートルの巨体に背中を向けた自身の3秒後の未来が見える。装備ごと真っ二つだ。
 今までの流れで相手との実力差と何よりも装備の違いが痛いほど理解してしまっていた。自身の武器が子供の玩具に見えてくる。玩具の剣で狼と戦えるか? 答えは分かり切っている。
 戦意を失いつつあるヴィランに敵に立ち向かうことも敵に背中を向けることもできなかった。ただ目前で咆え猛る相手を前に自身の暗い予感を少しでも遠ざけるために戦うことしかできなかった。
 
 車上、車内共に戦闘が勃発している中、唯一まったく気付かれずにいた能力者がいた。人が通れる道が限られている列車という舞台は発見されずに進むのは困難だ。が、もしこの場を字面だけで見るとするならば、もう一つ隠れ場所を思いつくかもしれない。上、中があるなら下もあるはずだと。言うは安し。ただ、今回はそれを実行に起こした者がいた。
 骸 麟(aa1166)は車両の下に張り付くようにしていた。真下には猛スピードで通り過ぎていく地面が見える。常人なら、接触したら頭がい骨が粉砕されるほどの勢いだ。適当に結んでいる三つ編みが蛇のように波打っていた。ジェットコースター顔負けの状況だった。人間というものはどの過ぎたスピードには無意識にブレーキがかかるものだが。
「骸地遁術替馬腹!」
 と難解なフレーズを意気揚々と口走る程度に余裕だった。
(「くくく……何とも運の無いヴィランズですな」)
 宍影(aa1166hero001)も同じ調子で応じる。
「全くだぜ! よりによって俺達と同じ列車に乗り合わせるなんてな」
(「骸忍術の闇の恐怖……味合わせてやりますかな?」)
 和気藹々としたやりとりをしつつ鞭を後方に流す。地面と並走する形になった鞭を手首のスナップだけで、何やらよく分からない車両下部にある引っ掛かりに絡める。
 それを確認してから、何のためらいもなく手を離す。物理法則にのっとて下降し、同時に進行方向から逆に、つまり後部車両に滑るように動いていく。体が接地する直前に手と足を延ばし、車両に固定する。
 自由落下からの強制停止。この一連の動作を繰り返しながら、徐々に後部車両に迫っていく。暗闇から這い出るその瞬間まで見つかることはないだろう。
  
 舞台は遡り客席に移る。カグヤがセーフティーガスを使用し、境目の車両にいたヴィラン側も無関係な乗客もまとめて眠らされた時、その様子をヴィラン側に報告しようとする者が一人いた。用心深い彼らの雇い主は、境目の車両以外にも密偵を紛らわせていたのだった。
 見るからに堅気に見えない一団が入っていくと、しばらく騒がしいと思ったら急に静かになった。そのことから異常事態を察知し無線機を取り出しながら、席を立とうとするが、そのタイミングで声をかけるものがいた。
「それ、随分高いやつだよな。随分羽振りがいいなぁ。ちょっと、俺にも一口乗らせて貰えんですか? この怪我でよ、元の雇い主から首になっちまったんだ」 
 雁間 恭一(aa1168)がさも事情は知らぬとばかりに声をかける。
 面食らった男が静止しているとマリオン(aa1168hero001)が恭一に食って掛かる。
「こ奴、本当に情けない奴でな。ちょっとの怪我で泣き喚きおって」
「この口の悪いガキの言う事を真に受けちゃいけねえぜ? 仕事が嫌いな怠け者でね。俺がケツを叩いて仕事させますよ」
「おい! 言うにこと欠いて余を怠け者だと!」
「あ? じゃあ、他に何て呼べばいいんだ? ゴク潰しか? 新聞紙野郎か?」
 売り言葉に買い言葉。徐々にヒートアップしていく二人を他の乗客が面白そうに眺めている。今や、客席は紛争状態だった。それこそ、遠くから聞こえる銃声その他もろもろが聞こえないぐらいに。ただ、芯まで冷静さを失っていないのか、怪しいと感じた男を遮るようにしている。
「それならこの人に決めてもらおうか。俺とこいつどっちがろくでなしかな。こちとら、その手のネタはいくらでもあるんだよ」
 男を指さしながら、マリオンに向けて怒鳴りつける。
「ええ……わたしは用事が……」
 まごつく男の意を介さずにマリオンも応じる。
「せっかく傷つかないように曖昧にしておいてやったのに、いいのか? 余の正しさが証明されるだけだぞ」
 二人に迫られて、ますます挙動不審になっていく男に二人が返答を促す。男の連絡が間に合うことはないだろう。この騒動によって人数すらも不明でヴィラン側が能力者を迎え撃つことになった。
  
●レール・スプリッター
 動力車に到達した遊夜と佐助は動力車の制圧を始める。他のメンバーがよほど派手に暴れているのか、付近に敵はない。
 佐助は遊夜と共に動力車の扉までそっと近寄ると扉に手をかける。耳を澄ませて中の様子を窺うが、騒がしい機械が動く音に紛れて何も聞こえない。一息つき、ぽつりと佐助がつぶやく。
「あまり慣れた武器じゃないんだけど、ま、この状況じゃ贅沢は言えないってね!」
 その手にあるのは亡霊の名を冠するヴァイオリンだ。
 自身の呼吸音のみが聞こえる様になったタイミングで目くばせする。
 きっかり、五つ分空けてあけてから佐助が勢いよく扉を開ける。
 敵三。動力源の位置。障害物なし。伏兵なし。
 それを素早く判断し、フラッシュバンを投げ入れる。
 部屋の中を閃光が駆け回る。その光を突き破るように二人が踏み込んでいった。
 全てがスローモーションのようにゆっくりに感じる。
 一人位置が悪かった。あのままでは動力源に近すぎる。佐助はその敵に向けてヴァイオリンをかき鳴らすと、衝撃波を生み出す。動力源の近くから、吹き飛ばされた敵を見据えながら、さらに弦を振動させる。一番近い敵をよろけさせ、もう一人にぶつける。攻撃されたと勘違いしたぶつけられた敵が、仲間に向けて武器を振るう。不出来なダンスを踊っているようだった。
 隣で銃声が聞こえた。遊夜が敵に向けて発砲していた。動力源に近い順に撃ち抜いていく。見るからに重要そうな機材の隙間を縫う機械のような正確な射撃だった。
 しばらくの間、楽器と兵器の二重奏が続いた。
 秒針が一周するより速く、動力車は制圧された。
 
 影が動いていた。車両から長々出ている影から一つの塊だけ、本体からちぎれ放れていく。その影は平面から立体に移り変わる。車両下から移動していた麟だった。そのまま下を通って動力車から二両目と三両目の間の連結部に、影から這い出る様に現れた。
 人質を解放しようと、車両に踏み込む前に携帯していた双剣で三両目の方のドアのレバーを固定する。
 それを終えると、車両に勢いよく躍り込む。車両の内には鎖で繋がれた人たちとこちらを驚いた顔で見ている見張りと思わしき者が二人いた。
 敵は動力車方面から来ると判断しており、完全に不意を突いた形になった。
 驚いた顔との距離を一息で詰めるとライヴスでできた蜘蛛の巣のように張り巡らしたネットを投擲する。投擲されたネットは、見張りに覆いかぶさるようにすっぽりと包まれ、身動きを止める。蜘蛛に捕まった蝶のようにバタついている見張りから、もう一人の方に視線をやる。
 もう一人は、さっと身を引くと見せかけてから、懐からナイフを投げつける。麟はそれを薙ぎ払うようにしてはじき、そのまま疾走する。
 風切音が次々と起こり、麟にナイフが迫るが暴風のように刀を振るたびにナイフは弾けて床に転がる。
 一足一刀の間合いまで踏み込まれたヴィランが、次の踏込に合わせようとする。次の一歩に集中していたヴィランの腕に鞭が巻き付く。と、ぐっと腕が引っ張られる。よろよろと体が引きずられる。目前に突然外の景色が開ける。麟の巧みな鞭の使い方で、外に半歩足がはみ出るような状況になっていた。
 後ろを振り向くより速く背中に衝撃がはしる。ヴィランは急に地面が近くなったと感じながら落ちて行った。
 鞭をしまいながら、身動きの取れない見張りを倒して一通りの安全を確認する。周りの能力者達は固まったかのようになっている。
 向かいのドアが突然開く。一瞬身構えるが、入ってきた顔を見て構えをとく。遊夜と佐助の二人だった。二人は動力車から前部にむけてさかのぼっていた。その途中で能力者から引き離された英雄を拘束していた車両を制圧していた。
「初めに聞いたときは無謀だと思ったけど、本当に下を通ってこれるとはね」
 佐助が素直に感心したように麟に話しかけながら、鎖を断ち切っていく。
「骸忍術にかかれば、これぐらい朝飯前だぜ」 
 麟も同じように鎖を外していく。
 鎖を外された元囚われの能力者達は事態の急展開でかなり混乱している様子だ。怯える様に壁際から離れようとしない。もともと、だまされるようにして連れてこられた彼らには能力者の言葉たちを信じることは難しく、未だ疑心暗鬼にさいなまれていた。
 遊夜が元囚われの能力者達に声をかける。
「もうすぐ、家に帰れるからな。すぐに終わらせてくる」
 戦闘者としてではなく、孤児院の院長として大なり小なり様々な傷を見守ってきた労わるような笑顔が向けられる。ついで、アロマのキャンドルを置くと、心が落ち着きそうな匂いがほのかにあたりを漂う。匂いが塗り替わっていくにつれて、今までの苦しい時間を優しく膜で覆うようにして囚われの能力者達が落ち着きを取り戻していく。 
 一行は落ち着きつつあった元囚われの能力者達を後ろの車両に逃がすと、VIPの確保のためさらに前に進んでいった。
 
 前方車両では一進一退の戦いが続いていた。偉丈夫が全体の指揮をとるようになると烏合の衆だったヴィラン達の動きに組織としての属性が色濃く見られるようになった。
 そうなると、人数の差が有効に働きだす。そうして、他のヴィランに気を取られると、意識の外から偉丈夫の刃が現れる。その繰り返しだった。
 ヴィランの剣を受けていた龍哉に偉丈夫が駆け寄りざまに切りつける。ヴィランの大剣をはじくと、偉丈夫の刀を太刀受けする。と、その巨体に似合わず俊敏な動きで太刀受けしている下から龍哉を蹴りつける。咄嗟に膝で受けるが、衝撃で後退する。
 それでもひるまずに、龍哉は前進する力をそのまま乗せて切りかかる。つばぜり合いになり、お互いの太刀に火花が散る。
 その隣で紅実が放った火炎が炸裂する。小さな太陽がはじけ、辺り一帯に熱と衝撃をまき散らす。赤一色に染まった空間を白と黒の矢が通っていく。
 それにもひるまずに進もうとするヴィラン達の前を遮るように、桜色の光が軌跡を残す。カグヤが鉄扇を振るうたびに、和服が雅に揺れ動く。
 つばぜり合いが龍哉不利だと見て取った紅実が偉丈夫に幻影蝶を飛ばす。人の生気を霧散させる蝶がが偉丈夫の周りを飛び回る。
 偉丈夫は龍哉の刀を勢いよくはじくと、蝶を真っ二つに切りながら飛び退く。
 入れ替わるように、他のヴィラン達が切り込んで来ようとするが、カグヤが撃ったショットガンに進路をふさがれ遮られる。そうして、二の足を踏んだヴィランに紅実の魔法が殺到する。勢いを殺して止まったばかりのヴィランにそれは躱せず、無数の矢に貫かれ倒れた。
 一呼吸つける程度の距離で敵味方に別れる形になる。
「予想に違わずか。良いな。それでこそやり甲斐があるってもんだ」
 龍哉が偉丈夫を見据えながら言う。黄金色の刀身が鋭利な光を纏う。
「がるるるる! ここは俺様の指定席だ! チケットの無い奴は降りて頂くぜ!」
 頭上で戦闘を続けていた敏成のうなるような声がしたかと思うと、窓から敵が落ちていくのが見えた。
 それを見てカグヤが偉丈夫に話しかける。
「酔っ払いにはちとしんどい相手じゃが、そろそろ、酒のつまみを取りに行った連中が返ってくるころかのう」
 人の悪い笑顔を偉丈夫に向けながら龍哉に治癒の光を飛ばす。龍哉が無数に受けた浅手が光に包まれると、時間が巻き戻っているかのように治っていく。龍哉がカグヤに目礼する。
 頃合いとみたか、偉丈夫が踏み込もうとしたときに、新たに列車に入ってきた一団がいた。
 VIPと思しき男を取り押さえた、裕也、佐助、麟だった。
「君達の大将は捕えたよ、まだやるのかい?」
 佐助が問いかける。
 VIPが顔を赤くしながら、偉丈夫に言い立てる。
「この無能め。今すぐに私を助けろ。そうしたら、今回の失態については目をつぶってやる」
 偉丈夫は静かに答える。
「いえ、それはできません。それに、すでに義理は果たしています。餓えて死にかけていた私を商品とするためだとして救ってくれたのは、感謝しています。それが気まぐれだったとしても。それでは、おさらばです」
 VIPの顔色はすでに赤黒くなり、顔の筋肉が怒りで震えている。それから視線を切ると、度重なる戦闘でもろくなった壁を切り崩すと、車両から飛び出す。砂煙をあげながら瞬く間に遠ざかっていった。残されたのは、戦意を喪失しているヴィランと聞くに堪えない罵詈雑言を繰り返すVIPだけだった。

 連絡が入ったとき恭一とマリオンは車両の乗客全員を巻き込むほどの騒動を続けていた。その騒動のおかげで、乗客に戦闘音が聞こえて好奇心に駆り立てられることも恐怖を感じることもなかった。見張りの男もまだ、その状況に巻き込まれたままだった。
 連絡を受けると、二人は男を手早く拘束する。
「え……なんで」
 うろたえる男を前にしながら当たり前のように答える。
「あんた、ヴィランだろ?」
「目が節穴のこ奴にはわからずとも、余の目をごまかすことはできん」
 恭一とマリオンの第二ラウンドが勃発しつつある中、拘束された男は自身の不運を嘆いていた。

 ここに奴隷は解放されレールは切り替わる。すっかり暗くなった荒野を一際明るい光を放ちながら列車が横断していった。

●デブリーフィング
「いや、お疲れ様でした。やっぱり皆さんにこの依頼を託した私の目は確かでしたね。いやーさすが私。え、皆さんノリ悪いですね。ほらここは、私を称えるところじゃないですか? 速くしろ? それは残念」
「ではでは、始めましょうか。車両に捕まっていた方々は無事保護を受け、今は順調に回復されています。外から見える面ではという話ですが。人がしたことされたことはなくなりませんから。善悪を問わずっていうのがなんとも世知辛いですねー。んーゴホン。皆さんが捕まえたVIPからの情報でいくつかの違法施設の摘発することが出来ました。闇の闘技場、違法研究施設などなどですね。そこから解放された方々も同じように保護を受けています。今に皆さんにはその方々から感謝の手紙が来ると思いますよ。それこそ山盛りで」
「今回、逃走した敵のリーダー格の男については以前、情報はありません。まあ、あれほどの猛者ですから何もせず消えることはない、と思いますが」
「さて、こんなところでしょうか。皆さん今回は本当にお疲れ様でした。また、一緒に仕事をしたいものですね」
 

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
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    英雄|27才|女性|ソフィ
  • 果てなき欲望
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  • 捕獲せし者
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    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • ヴィランズ・チェイサー
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  • 桜の花弁に触れし者
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    英雄|12才|男性|ブレ
  • 厄払いヒーロー!
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    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
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  • 憧れの先輩
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  • 月の軌跡を探求せし者
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    英雄|47才|男性|ブレ
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