本部

急募! 猫ちゃん洗い隊!

gene

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/05/06 00:01

掲示板

オープニング

●もうひとつの戦い、幕を開ける?
 ここは日本。香港で大変なことが起きている時であっても、この女は能天気なものだった。
「ん〜。人手が足りないわ」
 猫たちを見回して、猫カフェ タマらんどの店主、猫崎タマ子は言う。
「こんな時には」と、タマ子は猫耳のついたパーカーのポケットからスマートフォンを取り出した。
「ホープに連絡ね♪」
 H.O.P.E.を便利屋か何かと勘違いているタマ子は気楽な調子で電話をかけた。
「あ、みーちゃん?」
 電話の相手、タマ子のいとこであるみーちゃんこと九条光(くじょう みつる)は嫌な予感を感じてすぐに電話を切った。
「さすがみーちゃん。頼みごとだってわかったのね」
「みーちゃんがダメなら……」と、タマ子はスマートフォンを操作する。
「フィリップにお願いするしかないかしら」
『はいはーい!』と能天気な返事で電話に出たフィリップにタマ子は用件を告げた。
「猫たちを洗いたいから人手を集めてちょうだい」
『今は香港の事件でみんな忙しいから、人が集まることは期待できないよ?』
「そんな時だからこそ、必要なんじゃない!」
 やけに力強いタマ子の言葉にフィリップは『え?』と聞き返す。
「大変な時だからこそ、癒しが必要なんじゃない! 猫たちのピュアな癒しが!!」

 タマ子の熱弁に負けたフィリップは早速求人チラシを作り、H.O.P.E.の職員たちに冷ややかな目を向けられながらもチラシを配った。
「猫たちに癒されたいエージェント大募集〜!」
 この時、フィリップは知らなかった。
 猫を洗う……それもまた、ひとつの戦いであるということを。


※チラシの内容は解説のとおりです。

解説

●目標
猫を洗う

●場所と時間
場所:猫カフェ タマらんど
時間:13:00〜

●状況
・猫は十数匹います。
・猫たちは毛が生えかわる季節のため、抜け毛がたくさんです。
・ほとんどの猫は水が苦手のため、洗われることが嫌いです。(稀に水が平気な猫ちゃんもいます。)
・乾かすドライヤーの音が嫌いな猫ちゃんもいます。
・抵抗する猫の爪や牙、猫パンチや猫キックなどにご注意ください。
・猫に負わされた心身への傷について、猫崎タマ子は一切の責任を負いません。

リプレイ

●Are you ready?
「おい、カール……お前、この依頼……勝手に取ってきただろう」
 レイ(aa0632)はため息をつく。
「えー……ダメ?」と、カール シェーンハイド(aa0632hero001)は可愛くない図体で可愛く小首を傾げて見せた。
「……いや、お前の犬猫好きはわかってるからな……さして驚きはしないが……」
「ヤッタ! んじゃ、思う存分ににゃんこたちを愛でようぜ?」
「俺は……直接関わらんから、な?」
「ケチー!」
 そうふてくされて見せながらも、カールは機嫌よく、そして若干の早足で猫カフェを目指す。

「猫さんの楽園で、猫さんを洗う。なんて素敵!」
 テンションを上げ、足取りの軽い北条 ゆら(aa0651)の言葉にシド(aa0651hero001)は「だな」と一応は賛同を示す。
「どんな子に会えるのかな~♪ 毛のもふもふの子かな~? ふわふわの子かな~? 美人さんかな~? キジトラちゃんもいるかしら~?」
 楽しい妄想に耽りながらゆらがうっとりと目を細めるのを見て、シドは小さなため息をひとつついた。
「依頼だってこと、絶対忘れてるだろ」

「はぁ……きゃわわ……♪」
 すでに猫カフェ タマらんどに到着していた御門 鈴音(aa0175)は猫たちの愛らしさに悶えながらブラッシングをしていた。
「この子たちみんな天使だわぁ~♪」
「わらわは鬼じゃがな……」と、ジト目の輝夜(aa0175hero001)。
「ネコちゃん……すごく飼ってみたいって思ったことあったけど……」
  養父母に遠慮して猫を飼いたいとは言い出せなかった鈴音は、膝の上で大人しくしている猫に頬を緩ませる。
「今のアパートもペットは飼えないし……普通に猫カフェに行っても、猫ちゃんたちを洗うなんて体験させてくれないもんね……こんな機会に巡り合えて嬉しい♪」
 猫たちに優しい眼差しを向ける鈴音に彼女の英雄である輝夜は拗ねる。
「おのれ鈴音め……」
 輝夜はイライラを募らせていく。
(このわらわより格下のにゃん公ごときに誑かされおって……にゃん公達よりいかにわらわが優れた英雄か鈴音に思い知らせてやるのぢゃ……)
(そして……)と、輝夜は思う。
(おやつのかすてぃらを倍にしてもらうぞ!)
 輝夜はふてくされ、ギロリと横にいた太った猫へ視線を向ける。
「にゃん公が何見とるんじゃこらぁ!?」
 別に輝夜を見ていたわけでもない太った猫にそうつっかかってみると、案の定、鈴音が輝夜に視線を向ける。
 それだけのことで、してやったりと心の中で輝夜は笑んだが、すぐに自分の血の気が引く音を聞くことになる。
「輝夜……弱いものいじめはダメよ?」
 鈴音が手のひらをぐっと丸めて拳骨を作った。
 しかし、その拳骨が輝夜の頭に降ってくる前に、ぱちんっと輝夜は頬を打たれた。太った猫の猫パンチにより。
 そこから、鬼VS猫の戦いははじまる……。
 そんなピリついた空気には気づかずに、黄昏ひりょ(aa0118)は体を丸めて寝ている猫を見つめていた。
「厳しい戦いの中だからこそ、癒しも欲しいよね」
「かわい~ね!」
 フローラ メルクリィ(aa0118hero001)もひりょの隣で猫を愛でる。
「はわぁぁぁぁ……にゃんこ……」
 亜莉香(aa3665hero001)はうっとりと猫を見つめていた。
「可愛いにゃんこさんいっぱいいるよ蒔司ちゃん!」
「亜莉香、ワシらは仕事に来ちゅうがやき……」
 十四歳という年齢よりも随分と上のような落ち着きを持って蒔司(aa3665)は言った。
「亜莉香だよぉ~! にゃんこさん達よろしくねえ♪」
 亜莉香は猫の手をそっとつかみ、握手をした。
「前回、世話になったしな。礼のつもりでやるか」
 膝の上に猫を乗せた状態で土御門 晴明(aa3499)は器用にたすきで着物の袖を上げていく。
「掃除ならば、ボクに任せて!」
 天狼(aa3499hero001)はキリッと眉を上げる。
「はりきって、お仕事するぞ~♪」
 用意してきた道具を確認し、アメリア・カーラシア(aa0505)とレティ・カーラシア(aa0505hero001)は気合を入れる。
「洗うのはこの部屋を使ってね」
 タマらんどの店主、猫崎タマ子が示した扉を見て、晴明は驚いた。
「前回、おでんを食べに来た時にはそんな扉はなかったと思うが?」
「これまでは数匹ずつ自宅に連れ帰って、お風呂場で洗ったりしていたんだけど、猫たちも増えたことだし、トリミングルームを増築したの」
 トリミングルームには四つのシンクと台があり、棚には猫用シャンプーやタオル、ブラシ、爪切りなどがあるようだった。
「シンクや台は代わり番こに使ってね。それじゃ、よろしく!」

●洗猫1
「妊娠してる猫はいる?」
 カールにそんなことを聞かれて、タマ子は「どうして?」と首を傾げた。
「濡らすと頭を振るじゃん? でも、そうすると流産の恐れがあるから……」
「そうなの? うちの子達はみんな去勢手術を済ませてあるから、妊娠している子はいないわ」
「去勢してるなら妊娠の心配はないな」
「ええ。お客様を迎える猫ちゃん達だからってのもあるけど、去勢した方が健康でいられるって言うしね……まぁ、健康で長生きして欲しいなんていうのは、人間のエゴかもしれないけど」
 猫にとっては本能に従って自らの遺伝子を残すことの方が幸せかもしれない……どちらが猫にとって最良なのか、それはきっと人間には永遠に分からないだろう。
「輝夜! 爪切り手伝って!」
 ブラッシングを終えた鈴音がそう輝夜へ視線を向けると、輝夜はまだ太った猫……首輪についた名札には『めたぼ』と書いてある……とにらみ合いを続けていた。
「ちょっと、いい加減にしなさい!」
 鈴音の声は輝夜には届いていないようだ。
「手伝うよ。俺も爪切りしようと思ってたし」
 そう言って、カールは鈴音がブラッシングしていた猫を膝に乗せた。そして、猫の動きを封じるためと、爪を切りやすくするために猫の両前足を持った。
「それじゃ、爪切りますよ」
 ハサミを見せると、爪切りだと察した猫が牙を見せて鈴音の手を噛もうとした。
「レイ。頭、抑えてあげて」
「あ? 俺もか?」
「早く終わらせないと、猫にとってはストレスだから」
 仕方なく、レイは猫の小さな頭をそっと押さえる。
 もはや何の抵抗もできないと悟った猫は、そっと猫用爪切り鋏から目をそらす。
「「~~~」」
 そんな猫のしぐさに鈴音とカールは頬を赤らめる。
「ごめんね! すぐに済ませるからね!!」
「にゃんこを傷つけるようなこと絶対にしないから! 俺たちを信用して!!」

「確か、ブッチー、虎之助、グゥがやんちゃものだったな」
 天狼はまず斑模様のブッチーを捕まえると、晴明がシャンプーの用意をしている台へと連れて行った。
「やんちゃなブッチーの暴れっぷりは覚悟が必要だな……」
 そう呟いた晴明だったが、意外にもブッチーは自分からシンクの中へと入り、お湯が出るのを待っているようだった。
「……風呂好きなのか?」
 ブッチーにシャワーをかけてやると気持ちよさそうな表情を見せた。
「これは意外だったな」
 晴明は笑い、ブッチーの毛に水気を含ませる。そうしながらも天狼に指示を出す。
「とりあえず、お前は抜け毛処理な。ちゃんと綺麗にしてやれよ」
「当然!」と天狼は胸を張る。
「ぬこ村さんたちの部屋もボクが掃除しているんだからね」
 飼い猫の毛の掃除を任されている天狼のドヤ顔に、晴明は苦笑する。天狼が掃除した後、晴明が再び掃除し直していることを天狼は知らない。

「あーん、かわゆいよ~!」
 妄想通りのキジトラの小柄の女の子を見つけたゆらは身悶える。キジトラの首輪についた名札には『ドロシー』と書かれていた。
 お湯をためていたシンクの中にドロシーをおろそうとすると、ドロシーは手足をバタバタと暴れさせた。
 しかし、ゆらは慌てず、片手で軽く押さえた状態でドロシーの背にぬるま湯をかける。
「だいじょぶ。ほら、怖くない」
 全力で暴れるドロシーの爪をかわすゆらにシドは関心する。
「お前……プロだな……」
 ゆらはすでに猫用シャンプーを背中につけて泡立てている。
「ほら~? 気持ちいいでしょ~?」
 首のあたりなどはマッサージしながら洗う。少しうっとりしてきたドロシーをマッサージに気をとらせたままお湯の中へゆっくりおろした。
 ピーンと張っていた足からも力が抜け、本当に気持ちよさそうな表情へと変化する。
 ゆらは優しい手つきでシャンプーを続ける。
「かわゆいのー。きれいきれいしましょーねー」
 優しくそう声をかけながらも、ゆらの手際はよく、あっという間にすすぎまで済ませてしまう。
 そして、シドにタオルを渡すと、「広げて!」と指示を出した。
 突然の指示に、シドは反射的に従う。すると、そのタオルの中にドロシーがポンっと入ってくる。
「シド、ドロシーちゃんお願い!」
「ん……なに!? どうしろというんだ!?」
「乾かすに決まってんじゃん。風邪ひいちゃうから、手早くよー」
「手早くと言われても……」
 シドの腕の中でドロシーは再び暴れ出す。
「こんな暴れる猫、どうしたら……」
「もう、貸して!」
 シンクからお湯を抜き、次の猫を洗う準備をしようとしていたゆらだったが、シドからドロシーを受け取ると、その体を押さえながら手早くタオルで拭いた。
「次は、ドライヤーでふんわりさせようね~」

 ゆらがドロシーの攻撃をかわしながらシャンプーを済ませた頃、ひりょは猫キックを顔面に食らっていた。
「この子、すごく暴れるね……ひりょ、大丈夫?」
 そうひりょへ視線を向けたフローラは心配そうに眉尻を下げた。
「引っかかれたりしてるのに……なんか、精神力みたいなものが逆に回復してる気がする」
 容赦なく猫パンチと猫キックを食らわす猫と、それを嬉しそうに受けるひりょ……
「なんか……すごく怖いんだけど……」
「え? 怖い? やっぱりお湯怖いか!? ごめんな~~~!!」
 ひりょがひしっと猫を抱きしめようとするが、猫は四つ足をひりょの顔にピーンと張り、全力で拒否している。
「いや、怖いのはひりょだよ……」
 引き気味のフローラの横から、鈴音が顔を出した。
「お湯が怖い子なら、ドライシャンプーもいいかもです。使ってみますか?」
 鈴音からドライシャンプーを受け取り、ひりょは鈴音の隣に輝夜がいないことに気づく。
「輝夜君は?」
「あそこでかれこれ三十分くらいにらみ合いをしてます」
 そう言って鈴音が指をさしたほうを見ると、いつの間にか輝夜はめたぼと遊んでいた。
「……もうすっかりお友達になったみたいだね」
「本当。いつの間に……」
 フローラが輝夜のところへ行き、「一緒に猫ちゃんを洗おう?」と誘うと、輝夜はめたぼの上半身をなんとか抱き上げ、シンクの所まで引きずった。
「……こっちはこっちで早く洗っちゃおうか?」
「そうですね」

●洗猫2
 猫たちを落ち着かせるために無理に猫に触れることはせずにじっくりと猫たちとの距離を詰めていたカールは、自分に気を許してくれた一匹の猫を抱きかかえると、その子を一旦レイに預けた。
「だから、俺は関わらないって……」
「大丈夫。大丈夫」と、まるで猫でもなだめるようにカールは言って、シンクがある部屋に入っていった。
 すぐに戻ってくると、レイから猫を受け取る。その際に、猫の名札を確認すると、『ひーちゃん』と書いてあった。
「ひーちゃん。シャワー出してきたから、音に慣れるようにゆっくり行こうな」
 そうひーちゃんに優しく話しかける。
 ひーちゃんをシンクに下ろすと、レイに爪切りの時のように頭を保定してもらい、まずは臭腺を絞り、溜まっているものがないか確認する。
 次に、シャワーを足先からかけてやり、徐々に体を濡らしていく。
 脂の腺がある耳前と腰、顎下を特殊なシャンプーに浸しておいたガーゼで拭い取る。
 バケツには予めお湯を張り、シャンプーを入れておいた。そこにお湯に慣れてきたひーちゃんをそっと入れる……しかし、それまでおとなしかったひーちゃんが急に暴れ出し、カールの手をひっかいた。
「っ!」
 じわりと血が滲んだ。
「おい、大丈夫か?」
 カールは一旦、ひーちゃんをバケツから出し、再びシャワーを浴びさせた。ひーちゃんが落ち着いたタイミングでそっと手を離して、安心させるために顔を撫でてやる。
「シャワーには慣れたけど、お湯が溜まってるところはまだダメだったんだな。ごめんな」
 そう謝ると、ひーちゃんのほうも悪いと思ったのか、カールの手の傷を舐めた。
「ひーちゃんにはこれをやる!」
 ひーちゃんの様子を見ていた天狼がぬいぐるみを持ってきた。
「ぬいぐるみ?」と、カールが首をかしげると、ひーちゃんはそのぬいぐるみにひしっと抱きついた。
「ひーちゃんはぬいぐるみが大好きなんだ」
 天狼が説明すると、カールは「なるほど」と納得し、レイにぬいぐるみを持たせた。
「ちょっとそれ振ってて。ひーちゃんの意識がそれている間に洗っちゃうから」

「いい子だね~」
 アメリアは子猫を褒めながら重曹入りのドライシャンプーで洗うと、毛が濡れる程度にお湯を含ませたタオルで毛を逆なでして皮膚の汚れを拭いた。
「う~ん。かわいいね~」
 次に持参したタオル用蒸し器で温められた固めに絞ったタオルで毛並みに沿って拭いていく。
「ほら~きれいになったよ~」
 アメリアはタオルを持って待っているレティに子猫を渡す。
「この子、お願いね~」
「わかった~」
 レティは大人しい子猫を驚かせないように慎重に受け取ると、優しくタオルで体を拭いた。
「いい子~いい子~」
 そう話しかけるレティに、アメリアは微笑む。
「いい感じだよ~。そんな感じで嫌がらせないようにね~」
「ちっちゃいね~」
「うん。だから、優しく、優しくね~」
 子猫を挟んで、アメリアとレティは仲の良い母娘のように笑い合った。

「濡れても大丈夫なように、Tシャツとジャージ装備完了!」
 亜莉香は髪をポニーテールにして、洗う準備を整えた。
 ちょっとぬるめのシャワーで、白く美しい猫……名札には『イト』とある……の首や背中からそっと弱い水流で濡らしていく。
「いい子、いい子♪」
 猫用シャンプーをつけると、優しくマッサージするように洗う。
 優しく、しかし手早く洗い終えると、ドライヤーを弱めで当てる……その予定だったのだが、ドライヤーの音にイトは飛び上がり、走り出した。
 その頃、掃除をするならとタマ子からもらったにゃんにゃんマスクをつけた蒔司は、猫たちの部屋をこれまたにゃんにゃんマスクをつけた天狼の後ろから掃除をしていた。タマ子からローラーテープを借り、天狼が掃除しきれなかった猫たちの抜け毛を回収する。
 掃除に集中していると、トリミングルームから亜莉香の声が聞こえてきた。
「蒔司ちゃん! 濡れたまんまの子がそっちに行っちゃったから捕まえて!!」
「お、おいこら、せっかく掃除したとこやっちゅうのに……濡れたままで走るな!」
 蒔司はタオルを持ってイトを追いかけるが、イトは身軽にキャットタワーに登っていく。
「ぬぬ……高いところに逃げるとは小癪な……」
 煮干しを餌に誘き寄せてみるかと、カバンから取り出した煮干しを振って見せると、イトは煮干しに顔を寄せようとした。
「よし、そのまま下に降りて来……」
 イトは蒔司の顔にダイブし、煮干しをしっかりと咥えて、また走り出した。
「くそ、猫がこんな厄介だとは……」
 後頭部を撫でながら起き上がろうとすると、不意に後ろに引っ張られた。
「……ワシまで猫扱いしなや……亜莉香」
 膝の上に自分の頭を押さえて、優しく撫でてくる英雄を蒔司は不満げに見上げたが、されるままにした。
「蒔司ちゃんも、にゃんこさんと似てるよ?」
 蒔司の黒豹の耳がぴくりと動く。
 そんな二人のところに鈴音がやってきて、小枝を差し出した。
「マタタビです。よかったら、使ってください」
「ありがとう」と亜莉香がそれを受け取る。
 再びキャットタワーの上に登っていたイトにそれを振って見せると、イトは再び飛びつくようにマタタビ目指して飛んできた。
 そこをすかさず蒔司が捕獲し、イトと目を合わせる。
「風邪などひかぬようにしっかり乾かしてやるからの? 覚悟せーよ?」

 カールはひーちゃんがぬいぐるみに気を取られている間に手早く洗い、泡を洗い流した姿を見て笑った。
「濡鼠だっけ、こういうの。猫なのに鼠とか面白ぇ!」
「……お前は阿呆か」
 レイは呆れたようにカールへ視線を向ける。
「俺は笑いは流す主義だからな?」
 カールの手を傷つけてしまったことを少なからず悪く思っていたひーちゃんは、カールが笑っていることに腹を立ててその手を噛んだ。しかし、その噛み方は深くない。
「あー。悪かったよ。濡れてほっそりしてても可愛いぜ?」
 そう言いながら、カールはひーちゃんをタオルで包み込む。
「レイ。オレが拭いている間に、ドライヤーの風、出しておいて」
「ああ」
 目の前でドライヤーの風を出してひーちゃんを驚かせないように、少し離れたところでドライヤーのスイッチを入れてもらうと、カールはしっかりとひーちゃんを抱っこしたまま、ドライヤーに近づいた。
「……大丈夫みたいだな」
 ひーちゃんが落ち着いていることを確認してから、少しずつ風に当てて、毛を乾かしていく。
「はぁ……やっぱにゃんこはイイよなぁ……」
 気持ちよさそうにドライヤーの風にあたりながら、ぬいぐるみをフミフミしているひーちゃんの愛らしさにカールは心臓がキュンっと縮まるのを感じた。
「もうにゃんこになら何されてもイイ!」
「ドMか、お前……」と、レイは少し引き気味になる。

 ブッチーの次に虎之助もスムーズに洗った晴明だったが、グゥはどうやらドライヤーが嫌いなようで、ドライヤーを見ただけで警戒体制に入った。
「なんだよ、お前、これが怖いのかよ。ったく、しょーがねェ奴……ん? 怖いのとは違うのか?」
 イトとは違い、グゥの場合はドライヤーが怖いというより、敵のように思っているようで……倒す気満々である。
「ソラ、ぬいぐるみ持ってきてくれ!」
 天狼がぬいぐるみを抱えてくると、グゥの意識はすぐにそちらにそらされた。
「ちょっとそれで気をそらしておいてくれ。少し離れたところから風送ってみるから」
 怖がっているなら、吸水タオルで拭くぐらいにしておこうと思っていた晴明だったが、倒そうと思う気概があるなら、意識を少しそらしておけば大丈夫だろうと判断した。
 天狼がグゥの目の前でぬいぐるみを揺らすと、グゥはぬいぐるみに猫パンチを食らわし、さらに天狼からぬいぐるみを奪い取ると、ゴロンと台の上で横になり、ぬいぐるみに連続キックを食らわせる。
 ぬいぐるみに意識が集中している間に、晴明がドライヤーをかけてみたが、グゥはそのことに気がつかないのか、気にならないのか、ぬいぐるみへの攻撃を続行している。
「ちょっと時間はかかるかもしれないが……地道に乾かしていくか」
 晴明は根気強く、台の上で転げ回るグゥにドライヤーの風をあてた。

 ひりょは毛の乾いた猫をブラッシングしていた。
「うわぁ~ふわふわだな~癒しパワー、パワーアップしてる気がするわ~」
 散々、ひりょに猫パンチや猫キックを食らわしていた猫だったが、疲れてきっているのかひりょにされるままになっている。
 そしてブラッシングで血行が良くなったこともあり……眠った。
「……やばい。ごめん寝だ。ネットの画像でしか見たことのないごめん寝がこんな間近でっ!! うわ、写真。写真」
「言う前から、連写してるじゃない……その緩みきった口元なんとかならない? すごく怖いわよ……」
 ブラッシングをしているひりょたちの隣で、アメリアはタマ子に猫のシャンプーのコツを伝授していた。
「お湯をかける時は~、弱いシャワーで直接皮膚に当てて~。洗う時は水を抜いて、自由に動けるようにしてあげてね~」
「ふむふむ」と、タマ子は相槌を打ちながらメモを取る。
「引っつかんで抑えるのはタブーだよ~。猫ちゃんを自由にして、私達はついて回って洗う感じかな~」
「なるほどね~」と頷きながら、「まぁ、でも」とタマ子はアメリアに笑顔を向ける。
「また洗うときには、猛獣使いのエージェントさん達に助けを求めるわ♪」
 本当に図々しい奴である。

●癒し癒され
 ふわふわの毛並みを取り戻したドロシーは、ゆらが手を離した途端にキャットタワーへと逃げて行った。
 そんなドロシーにゆらは手を振る。
「ふふ……次来た時はあそぼーね」
 慣れないことをやって疲れたシドは早々に帰るためにシンクの清掃を始める。
「帰ったら、鈴たんも洗ってあげよー」
 家で待っているであろう愛しい飼い猫の姿を思い浮かべ、ゆらの頬が緩む。
 そんなご機嫌なゆらの言葉に、シドの疲れは一気に増した。
「まだ、洗うのか……」

「ねぇ、ハルちゃん。また皆、拗ねるんじゃない?」
 九本の尻尾を全て出して猫たちと遊んでやっている晴明に、天狼は言った。
「あ? あぁ……」
 確かに、前回の時には家に帰ったら飼い猫たちに総スルーされたのだった。
「まぁ、でも、問題ねェよ。どうせ、飯の時間になりゃ、寄ってくる」
 それに、そのうち他の猫の匂いを付けてくることに慣れるだろうと晴明は思った。
 そう思いながら、晴明は彼の尻尾にじゃれつく猫たちを羨ましそうに見ている天狼をちらりと見た。
(むしろ、慣れるのに時間かかるのは、ソラのほうかもな)

「やすらぎの時間を作ってくれてありがとうございました。これからの励みになります」
 ひりょがタマ子にお礼を言うと、鈴音も目を輝かせながら言った。
「仕事以外でもまた来ます!」
 タマ子は両手を合わせて「わぁ~嬉しい~♪」と心から喜んだ。
「猫たちも喜ぶけど、経営的にも助かるわ~♪」
 それを近くで聞いていたカールは(だろうね……)と、先ほどまでいたトリミングルームを見た。
 調理室やあんな部屋を作っていたら、それはお金がかかるに違いない。
「あ、カール君!」
 ひりょはカールの手の傷に気が付いて、ポケットから絆創膏を取り出した。
「よかったら引っかかれたところにどうぞ」
 カールはひりょの傷だらけの顔や手に驚き、「自分の顔に貼ったほうがいいんじゃねーの?」と断ろうとしたが、絆創膏を見た途端、思わず手に取ってしまっていた。それは、猫の絵柄がついた可愛いものだった。
「やばい……これ、めちゃくちゃ可愛いじゃんか!!」
「これも可愛いですよ~」と、ひりょが今日撮った写真の数々を見せる。そこには、猫を洗うために奮闘するエージェントたちの姿と、可愛い猫たちの姿が映っていた。
「それ、送ってくれ!」
 カールが叫ぶと、ひりょは頷いた。
「任せてください。皆さんに送らせていただきますね」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
  • Sound Holic
    レイaa0632

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • エージェント
    アメリア・カーラシアaa0505
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    レティ・カーラシアaa0505hero001
    英雄|12才|女性|ジャ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • エージェント
    土御門 晴明aa3499
    獣人|27才|男性|攻撃
  • エージェント
    天狼aa3499hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 色とりどりの想いを乗せて
    蒔司aa3665
    獣人|14才|男性|防御
  • 天真爛漫
    亜莉香aa3665hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 清廉先生
    白瑛aa3754
    獣人|15才|男性|回避
  • 裏技★同時押し
    倭奏aa3754hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
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