本部
カラーボールでゲームをしましょ
掲示板
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さくせんかいぎ~
最終発言2016/04/23 21:10:56 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/04/23 21:08:37
オープニング
「我が社で作っているカラーボールの性能テストに、是非とも参加してほしいのです!」
グラマラスな美女が、HOPEの支部やってきていた。彼女は防犯のために使われるカラーボールを製造している会社の営業である。
「近頃はヴィランの犯罪も増えていますからね。我が社も、ヴィランにも通用するようなカラーボールの製造に着手し始めたんですわ」
ちなみに、カラーボールは逃げる犯人に向かって投げるものである。投げた相手の塗料はつくが、殺傷性は全くない。武器とは言い難いが、店に置いてある事で犯罪者に「この店は防犯意識が高い」と思わせることも可能だという。
「こちらとしては、下手にヴィランを刺激するよりはエージェントたちの到着を待って欲しいですが……」
「世間からニーズがあるのですから、答えなくては! それこそが、一企業の宿命なのです!!」
営業の女性は、受付嬢の話しをあまり聞いてはくれなかった。
「お客様には、確実に良いものをとどけたい。だからこそ、開発されたカラーボールを性能テストに是非とも参加してほしいのです」
「……どのようなテストなのでしょうか?」
「高校生を襲ってください」
営業の女性のあんまりな一言に、受付嬢は言葉を失った。
「我が社が取引をしている学校が、不審者侵入を想定した避難訓練をするのです。それに、是非とも強盗役として参加してほしいのです。ああ、相手は普通の高校生たちですから、手加減をお願いしますよ」
●
放課後の教室には、体格の良い男子生徒たちが集まっていた。全員が運動部の精鋭たちであり、全国大会を何度も経験している者も少なくはない。
「おーい、おまえって野球部だったよな。やっぱり、カラーボールって配られたか?」
「おまえは、アーチェリー部か。おい……その矢ってなんかの洒落なのか? なんで、先端にカラーボールがついているんだよ」
高校生たちは全校集会で配られたカラーボールを見つめながら、各々ため息をついた。どこかの企業がカラーボールの性能を試すための企画だと知らされてはいるが、学校でこんなことをやってもいいのかと尋ねたくなってくる。
「今回は、強者が弱者を守るための避難訓練らしい。ちなみに、弱者役は女子」
「マジか……。あいつら、ぜんぜん弱くねーぞ。泉の奴なんて便所コウロギを叩き潰してたぞ。というか、木村なんて柔道で全国とかいってなかったか?」
いやいや、三組の吉田も剣道で良い所まで行ったらしいと男子高校生の話題は段々とずれていく。それを方向修正したのは、高校生たちのリーダー各の少年―黛であった。
「俺たち高校生チームは変質者リンカーから校長室の旗を守りつつ、女子生徒を校庭に避難させられれば勝ち」
「逆にリンカーたちは女子生徒を五名以上体育館に誘拐して、校長室の旗を奪えば勝ちなんだな。女子たちは手首を掴まれている間は動けなくなるけど、体育館に連れていく前にリンカーが手を話したら逃げる事も可能なのか。はははっ、放課後にやるゲームらしいルールだよな」
ルールを確認した生徒たちは、ため息をつく。
開始と終了の合図は始業ベルで知らされるが、リンカーたちが何処から学校に這入り込んでくるのかは生徒たちにはわからない。正門からなのか、はたまた窓からなのか、それとも屋上か。
やはり、高校生の――しかも最上級生がやるようなことではない。
「大変だ! 女子たちがカラーボールで武装しはじめたらしいぞ。竹刀の端っこに、カラーボールをつけてる!!」
がらり、と教室に飛び込んできた生徒の報告によると女子生徒は守られる気などないようで男子と同じような武装をし始めたらしい。
「やっぱり、あいつら弱者じゃねぇ……。でも、気持ちは分かるぜ」
にやり、と生徒たちは笑った。
スポーツ強豪校――喜多野高等学校。
彼らほどに、敗北を嫌うものたちはいない。
解説
ルール
・学校に侵入し、女子生徒たちが校庭に避難するまえに5名を体育館へ移動させる。
・校長室の机の上にある旗を確保する。
以上を達成できた時点で、リンカーチームの勝ち。
・女子生徒5名を確保するまえに生徒たちが校庭に避難してしまうとタイムアウトとなる。
・また、体の一部にカラーボールの塗料がつくと失格になる(生徒側に失格はない)
・基本的にスキルと暴力、AGWは禁止。
・高校――四階建ての建物。
一階――理科室や保健室などのクラス教室以外の部屋がある。どの部屋も物が多く、身を隠すことができる。
二階――一年生のクラスがある。机や椅子が多いが生徒はいない。
三階――二年生のクラスがある。二階と同じ条件。
四階――三年生のクラスがあり、高校生チームは一番端の教室よりスタートすることになる。その他の教室に生徒はいない。
階段――二階から四階まで続いている階段が、建物の中央にある。二階から一階に続いている階段は左端にあり、正門も建て物の左端にある。
体育館――校舎より離れたところにある。
・男子高校生
護衛……女子生徒を護衛する、十名出現。野球部、サッカー部、アメフト部より選ばれている。女子を取り囲んで移動し、リンカーたちを見るとボールを投げたり蹴ったりしてくる。ボールの補充のため、一度ボールを投げると二秒ほどのロスが出る。旗より先に女子生徒を奪われると、男子生徒たちは旗の方へと向かう。
旗守り……校長室の前にいる精鋭たち、五名出現。野球部、アーチェリー部。アーチェリー部はカラーボールのついた弓を討ってくるが、五発分だけである。撃ちつくすと、ボールを投げてくる。生徒たちは旗の守りに力を入れていない。
・女子生徒……十名出現。ルール上、手首を掴まれると動けなくなる。男子に守られているが、全員がカラーボールのついた竹刀で武装している。なお、基本的に教室には立ち寄らずに、真っ直ぐに校庭を目指す。
リプレイ
●さぁ、変質者たちよ
始業ベルが、学校中に鳴り響く。
本来ならば授業の始まりを告げるための合図だが、今日ばかりは目的が違う。これは、ゲームの合図であった。
「始まったぞ、持ち場につけ! 皆、作戦通りに行くぞ。いいか、これは俺たちが普段やっている試合と同じなんだ。だから、力を出し切って戦おう。戦う敵が強いほどに、優勝した時は楽しいものだろう」
生徒たちのリーダー黛は、皆を鼓舞する。
そのとき、教室に備え付けられているスピーカーから声が聞こえてくる。
「えーマイクテステステス! 本日は、よいお日柄で。今回のゲームに参加するリンカーの木霊・C・リュカ(aa0068)でーす。高校生の若い力に負けないようにお兄さんも頑張るから、お互いに正々堂々と楽しもう!!」
『んなところで固まってて、本当に旗は守り通せんのか? これから旗を奪いに行く予定のガルー・A・A(aa0076hero001)だぜ』
「あっ、お兄さんが校長室の旗をとっちゃったら男子生徒諸君にはプリプリの衣装を来てもらうからがんばってね」
ぶつり、と放送は切れた。
「プ……プリプリってなに?」
「日曜日の朝にやってる子供用のアニメよ。ほら、魔法少女的なアレ」
ミニスカートでフリフリだったような衣装を思い出した女子生徒たちは、校長室の旗の警護に向かった仲間たちに思いをはせる。もし、着ることになったら写真撮影大会をすることにしよう。女子という生き物は、時に男子にとても残酷である。
「男子、女子を囲めよ。ゆっくりでもいいから、確実に進むぞ」
黛の指示のもとに生徒たちは、陣形を保ったままで進み始めた。そんな彼らに狙いを定める変質者――もといリンカーがいた。
「はぁ……。何が悲しくて高校生の相手なんてしないといけないんだろうね……」
『鬼ごっこやるんでしょ! ルゥ、楽しみなんだよ!!』
今回の依頼を鬼ごっこと勘違いしているザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)とそれに引きずられてやってきた鵜鬱鷹 武之(aa3506)であった。やる気の全くない武之は高校生たちを物陰から確認しながら、幼い自分の相棒を見やる。自分を養ってくれそうにもないという観点から、高校生と言う生物は武之の興味の範囲外である。できることならば、はやくゲームを終わらせてしまいたい。ところが、ルゥはやる気たっぷりだ。
武之は、にやりと笑った。
「ルゥルゥ、これは鬼ごっこなんだからな。お兄さんたちに遊んでもらいな」
『わかった! ルゥは鬼だから、おにーさんとおねーさんを捕まえてくるよ!!』
ルゥは元気いっぱいに返事をして、わくわくとしながら高校生たちの方へと向かって行く。
「確り守れよ、ボンクラ騎士たち」
武之はにやにやと笑いながら、ルゥと高校生達を観察する。
ルゥは身を隠す事もなく、正々堂々と高校生の前に現れた。突然現れた幼いルゥに、高校背たちは面喰った。ここには自分たちと敵対するリンカーしかいないはずなのに、ルゥの姿はあまりに高校生が想像するHOPEのリンカーらしくなかった。
おまけに……
『捕まえたんだよ。ルゥと一緒に行こ!!』
何故か男子生徒の腰に抱きついて叫ぶ、ルゥ。
彼女は、ゲームのルールを半分も理解していなかった。単純な鬼ごっこであると思い込んでいるルゥは、男子にも女子にも抱きつく。ちなみに、全部腰なのでセーフである。
べし。
とりあえず、と男子高校生の一人が持っていたカラーボールをルゥにぶつける。高校側は「よくわからないが、とりあえず失格になって欲しい」としか考えていなかった。だが、お気に入りの洋服についた汚れにルゥは涙目になった。
『この服……ルゥのお気に入りだったんだよ。……何で、そんな酷いことするの?』
ルゥにカラーボールをぶつけた男子生徒は、脂汗を流す。彼は、全く悪くなかった。ルール通りに行動し、ボールをぶつけただけである。むしろ、ルールを理解していなかったルゥのほうが悪い。だが、涙目の少女に高校生は罪悪感に胸が押しつぶされそうだった。
「ほい、隙有りっと」
高校生たちの意識がルゥに向けられている隙に、武之が女子高生の手首を掴んで男子たちの包囲網から引っ張り出す。
「はぁー面倒くさいな。……餓鬼は対象外なんだよな。養って貰えなさそうだし」
一人は捕まえたし、これでいいかと武之は思った。
「へ……変態だ!!」
だが、高校生の叫びに武之の動きが止まる。
「俺、別に変態らしい行動とかしてないよね?」
「いいや、こいつは『俺、興味なんだよね』とか言いながら、部屋のなかに女子高生の写真を張ってるガチなタイプの変態だ。それで、何も知らない自分の妹を囮に使って、女子高生を誘拐しはじめるんだろ!!」
「それって、想像だよね!!」
高校生が投げてくるカラーボールを避けながら、武之は内心焦っていた。高校生たちは、逞しい想像力で自分を変質者にしたててくれている。流石に訂正しないと、どんな噂が飛び交うかわからない。
「ふぁいやー!」
そのとき、桃井 咲良(aa3355)とジャック・ブギーマン(aa3355hero001)が突如として現れた。彼女たちが勝手に使った消火器はあたりを真っ白にし、武之はその隙に逃げだした。
「ガチな変質者が逃げたぞ! 一人、さらわれた!!」
背後で高校生たちが騒ぎたてていたが、武之は「そういうルールだったよね!」と叫ぶことしかできなかった。
「徹底的にやって相手に心が折れそうやと思わせるのも楽しそうだけど、どないしたもんかな」
「変態があっちいったぞぉ!」と騒ぎたてる高校生を盗み見ながら、黄泉 呪理(aa4014)は考える。その隣で「なんで私まで狩りだされなきゃならんのだ」とアナスタシア(aa4014hero001)は不満げであった。ルール上本気を出せない事もあって、アナスタシアの鬱憤はかなり溜まっていた。これはもうスカートめくりでもするしかないだろう。
「戦う前に名を名乗りやがれー、日本人(もののふ)たるもの礼儀だろぉー」
呪理が考えあぐねいているなかで、もう一組のリンカーたちが登場する。どこからか調達してきたらしいバットやらラケットやらを抱えた二人組は、高校生に向かって声を張り上げる。
「私の名は! 『太陽の子』鴉守 暁(aa0306)!」
『『災厄』キャス・ライジングサン(aa0306hero001)!』
高校生の心境が、呪理にまで伝わってくる。
――どうしよう、変質者が名乗りをあげてきた。
『挨拶デキナイ娘は、悪人にナルヨー』
悪人役はあなたたちですから、ととっ込みたくてもツッコめない高校生の心境を呪理は読み取る。
『女の子を渡してクレタラ、オネーサンとイイコトスルネー?』
キャスは、自分の悩ましいボディを男子高校生にこれでもかと見せつける。恰好はいつもと変わらないのだが、青春真っ盛りの少年達には刺激が強かった。男子達は必死にキャスの胸元を見ないようにして、視線をおかしなところにさ迷わせている。
「なによ、男子! あんなの脂肪じゃないの!! スポーツ選手ならば、脂肪よりも筋肉を愛しなさいよ!!」
後ろで守られているはずの女子生徒が、男子生徒を口で攻撃し始めた。その脂肪よりも筋肉の理論に、呪理は思わず頷いてしまう。大事なのは、大きさではない。
「あははは。ところで、女の子守っているわけだけどさー。そのなかに好きな子とかいるわけー? おねーさん気になるー」
暁が親戚のお姉さんのような馴れ馴れしい態度で、男子たちに流し目を送る。キャスと違って色っぽさは全くなく、口元は下世話な笑みで歪んでいた。
「愛の告白は、今この場でしてもいいよー?」
「だんしぃー!! なに、動揺してるのよ」
急にそわそわし始めた男子生徒たちに、女子たちは怒りだす。
「ま・じ・め・に・や・れ」
竹刀を持った女子生徒―剣道部吉田が、殺気の籠った静かな声で男子を威嚇した。その殺意に恐怖を感じた男子生徒たちは、急に静かになった。
「せっかく、いい感じにもりあがってたのになー」
残念がる暁だったが、天井にぶら下がる人影を見つけた。ボロを身にまとい、左目を不気味に光らせたソレは人間には見えなかったが――無駄に凝った従魔の恰好をしていたシエロ レミプリク(aa0575)であった。彼女は粘つく砂糖の飽和水溶液を、そっと高校生に向かってかける。まるで、害獣が垂らしたヨダレのような感触に男子も女子も天井を見やる。
「HAAA……GAAAA!!」
お前たちを食らってやるとシロエは大口を開け、彼女の頭にひっつくナト アマタ(aa0575hero001)は色々な意味で顔色を失っていた。
『……やり過ぎ』
「こんなもんで怖がるものですかっ!」
他の精鋭たちに比べれば目立った功績がない女子生徒――されど『便所コウロギ殺しの泉』という二つ名を授かった少女が、物怖じせずにシロエに向かう。彼女が振りあげた、カラーボール付きの竹刀は、シロエの頭部に貼りついていたナトに命中した。
「HAHAHA! ハァトも鍛えられているようダナァ」
『ストラーイク! キヒヒヒ!!』
咲良とジャックが、ボーリングの玉のようにマグロを生徒たちに向かって滑らせてくる。勢いよく突っ込んでくるマグロを華麗に足で止めたのは、サッカー部の主将であった。
「いっけー、サッカー部! カウンターパンチで、ノックアウトだ!!」
「サッカーでそれやったら、失格になるだろうが!!」
仲間に文句を言いながら、サッカー部主将はマグロを蹴り返す。ジャックはそれを釘バットで止めて、今度はゴルフのように勢いよく撃った。サッカー部はそのマグロも止めて、再び蹴り返そうとした。だが、何かに足を取られたサッカー部の主将は派手に転んだ。
「あ……油だと!」
『マグロが滑りやすくなるように、撒いておいたんだぜ。そうでもなきゃ、マグロがあれほど滑るわけないじゃんか。キヒヒヒ』
「……」
サッカー部の主将は無言で、マグロを掴んでジャックの元へと向かおうとする。そんな主将を仲間たちは、必死に止めた。
「ムカついたのは分かったから、カラーボールを使え! マグロじゃ失格にならないだろうがっ!!」
サッカー部の主将は、完全に我を失っていた。
そんな主将に、さらなる悲劇が襲う。
「ん、サクラがいた。美少女四次元タッグが、成立、したよ……」
全速力で校内を走っていたエミル・ハイドレンジア(aa0425)が、現れる。彼女の目的は、生徒側の戦力を削ることであった。そのために彼女は走って生徒たちをかく乱し、カラーボールの武装を削ることとに集中していた。そして、もう一つの目的は男子と女子のチームワークを崩すことである。エミルは自分に向かって投げられる、カラーボールを全力で避けた。
狙うは、一点のみ。
しゅるり、とエミルはすれ違いざまに男子のズボンからソレを抜き取った。
――エミルが抜き取ったのは、サッカー部主将のベルトだった。
ばさり、と主将のズボンが落ちた。
ギール・ガングリフ(aa0425hero001)は、同じ男として心から主将に同情した。エミルから作戦を聞いたとき『それはあんまりだろう……』と止めたのだ、これでも。
「主将……パンツ、クマ柄なのね」
「大丈夫よ、主将。こんなことで、私達の友情は揺らがないからね」
女子生徒の励ましも虚しく、サッカー部の主将は血の涙を流した。男子生徒たちは思った「どうして、今日に限ってそのパンツを履いてきちゃったんだよ」と。
「ん、本日の天気は、晴れ時々カラーボール……じゃなくてピンクのクマちゃん。残念、無念、また来週」
再び全速力で走るエミルを、サッカー部主将はズボンを押さえながら追いかけようとする。だが、女子生徒の一人がそれを羽交い絞めにして止めた」
「待ってよ、主将!」
「止めるな、柔道部木村!!」
「せめて、ベルトはしていって!」
そのもっともな意見に、女子生徒が男子の包囲網を抜けだしていたことに誰も気がつかなかった。様子をずっとみていた呪理は、チャンスだと思った。獲物が一匹、群を離れたのである。肉食獣のように、呪理は物影から飛び出す。
「とう!」
呪理は、全身全霊で柔道部木村のスカートをめくった。これで男子生徒の意識は、女子のスカートのなかに行くはずと呪理は考えていた。
「な……なんやと」
だが、呪理の思惑は外れる。
柔道部木村はスカートの下に、半ズボンのジャージを着ていた。スパッツではなく、半ズボン。ダサさが、際立つ格好である。
「あなたたちみたいな子供が考えるセクハラなんて、この鉄壁の半ズボンには効かないわよ」
『誰が子供だって……』
アナスタシアが低い声で、木村を睨みつける。木村は竹刀を構えて、呪理とアナスタシアに向かいあった。
「えーん、お姉ちゃんが怖いわー。鬼や、鬼や。鬼ババやぁ」
突然、呪理が鳴き出す。
その突然の行動に、生徒たちは驚いた。
「こんな鬼姉ちゃんの嫁も貰い手なんて、ぜったないんやー」
泣いたフリをしていた呪理に、すごい勢いでカラーボールが飛んできた。サッカー部の主将であった。ズボンを上げる事も忘れて、彼はサッカーボールを蹴る。
その情けない勇姿に、呪理は人知れず笑った。
「せっかくや。ウチが花をもたしたる」
木村に襲い掛かる振りをして、呪理は主将の姿を見る。女子のためにズボンが脱げようとも攻撃の姿勢を崩さない姿は、少しぐらいは恰好が良いではないか。
「あー、しんどかった。シャワーでも浴びて、すっきりしたわ」
蛍光ピンクに染まった髪を摘んで、呪理は愚痴をこぼす。
『だらしない奴だな。根性もっと見せろよ』
「胸がでかくて走りづらそうにしとった誰かさんよりも、働いとるわ」
呪理の嫌味を聞いていたアナスタシアだったが、急に彼女は呪理の髪を指さした。
「おまえの髪……あの男子生徒のパンツと同じ色になっているぞ」
「わーん!!」
リンカーたちから逃げることに成功した生徒たちの前に、体操服の少女アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)が現れた。今までリンカーたちとの戦いで散々な目にあってきた生徒たちは、泣いているアンジェリカを見て反射的にカラーボールを構える。
「気をつけろよ。あの子も、スカートめくりを仕掛けてくるかもしれないぞ!」
生徒たちは警戒するが、その警戒もゲームのルールからズレはじめている。
「わーん! お兄ちゃん達が虐めるよ!」
「わー、こっちくるな。ズボンのベルトに気をつけろ!!」
本当はもっと別な事を警戒しなければならないのだが男子生徒たちは利き手にカラーボールを持ち、反対の手でベルトをしっかりと押さえた。
『ああ、すまない。家の娘が迷子になってしまったようだ。学校に勝手に入ってはいけないと何度も言っているのだが……』
突然現れたマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)に、女子も男子も警戒し出す。真っ当な格好をして、あの男もHOPEの一員である。どこかに冷凍サンマやマグロを仕込んでいたとしても、まったく驚かない。
『そこの武装したレディたち。良かったら、この子を慰めるのを手伝ってくれないか。男やもめでは、中々難しくてな』
マルコは、女子生徒たちに向かって困ったような笑顔を向ける。その顔は、善良さと大人の渋さが絶妙な具合に混ざりあっていた。普段の彼女たちならば、数名はその魅力にころりといったかもしれない。けれども、生徒たちは今までの彼女たちではなかった。HOPEのリンカーと戦い、学習した彼らであった。
彼らは、それぞれ武器を持った。
『君たちのような魅力的な女性が側にいれば、あの子も落ちつくだろう。できれば、そのまま妻になってほしいぐらい……』
マルコの言葉を、殺気だった女子生徒が遮る。
「今日、私達は学んだわ。変質者を見たら、攻撃をするか逃げるかの二択だと。そうしなければ、友人のズボンのベルトが奪われてしまうと! だから、全員総攻撃だ!!」
一斉にカラーボールを投げて攻撃を始めた生徒たちを見ながら、いつのまにか嘘泣きを止めていたアンジェリカは頷く。
「不審者は、どんな手を使ってくるかわからないからね。それが、正解なんだと思うよ」
チャイムが鳴った。
高校生達は校庭にたどり着いていないので、おそらくは別のチームが校長室の旗を手に入れたのであろう。
「くそっ。変質者に負けたのか!」
「あ~、あんなに頑張ったのに」
うなだれる女子生徒に、マルコは声をかけた。
『君たちに怪我がなくてなによりだよ。さぁ、あっちで一緒に休憩しようじゃないか』
「いいかげんにしろ!」
アンジェリカの小さな拳が、マルコの腹筋に命中した。
●さぁ、変質者たちよ(少し前の話し)
「テストらしいな。今日は遊んでいいぞ」
『……ん、狩り。楽しみだよね』
くすくすと笑う英雄ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は、麻生 遊夜(aa0452)に尻尾を振って見せた。楽しそうなゲームと聞いて、わくわくとしていたのである。
『……ん、最初はこれ』
リーヤはバレッタを取り出して、髪をまとめ上げる。太股までスリットが入ったチャイナ服と相まって、普段とはだいぶ雰囲気が違って見えた。日傘までもってゆったり歩く様は、高校生などよりも遥かに歳嵩のお姉さまだ。
ゆったりと歩きながら、リーヤは校長室の前にいた男子生徒たちに声をかけた。
『ん……、見ぃつけた。……ねぇ、旗をちょうだい?』
くすくすと笑うリーヤに生徒たちは若干見惚れるものの、すぐに我に返って彼女に向かってカラーボールを投げつける。そのつれない態度に、リーヤはわずかに唇を尖らせる。
『……やん、投げてくるなんて……つれないわ』
悩ましげな流し眼に、男子生徒はぽろっとカラーボールを落としてしまった。床で潰れた蛍光イエローのボールを見て、遊夜は思わず苦笑する。
「ノリノリだな」
自分の魅力に初心な高校生がどぎまぎするのを楽しんでいるリーヤは、遊夜の目には色々な意味できらめいて見えた。
「最近は俺が居なくとも他人に混じれていたし……うむ、良い傾向だな」
ほんのり感じるこの寂しさは、親心というやつなのだろうか。
「これが勝負とあらば、負けるわけにはいかないのです!」
廊下に、紫 征四郎(aa0076)の声が響き渡たる。彼女の隣には、リュカとオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)。そして、いつもの通りにガルーがいた。そう、それはまぎれもなくガルーのはずだった。
「そ……その服は」
遊夜は、ごくりと唾を飲み込んだ。
その学校は非常に歴史ある学校で、昔から部活動に力を入れている。在学中から全国大会で活躍していた生徒も多く、ガルーがイメージプロジェクターで投影させていたのも古い学校の生徒の服装であった。
胸に校章がプリントされた、真っ白なTシャツ。シャツと同じように白い、靴下。そして、漆黒の――ブルマ。
よりにもよってガルーは、まだ女子の体操着がブルマだった時代の映像を投影していた。
「ガルー、なんてものを!!」
隣にいた征四郎は、思わず自分の英雄から離れる。実際に着ていないとわかってはいるが、直視できるものではない。しかも、映像を投影しているだけだから、体格が合わずにピチピチになるということもない。そのため、傍目にはブルマがガルーの肉体にしっかりとフィットしているようにも思える。
『他のデータが、でてこなかったんだよ!』
そのせいで、ガルーはとてもオーソドックスな変質者と化していた。
「ガルー。世のなかにはしていいことと悪いことがあるのです」
せっかくプリプリの衣装を着る事は止めたのに、と征四郎は心の底から悔しがった。
「人の学校の伝統ある旧体操着を……なに勝手に来てるんだ! 変態!!」
アーチェリー部が、弓を放つ。
その弓矢を、ガルーは学級名簿で防いだ。
「武器は使えないからな、工夫させてもらうぜ」
「油断するな。この変態は強いぞ!」
自分に向かって投げられるボールを防いだり避けたりする、ガルー。
その近くで、リーヤもとりだしてしまったアフロで応戦する。魔女の帽子のなかに、なぜか入っていたのである。アフロが。
「俺が入れといた」
こんなこともあろうか、と遊夜は満足そうだ。リーヤとしてみても、アフロはボールが割れないようにクッション代わりになってくれるので意外と使いやすい。
「あっ」
近くにいたリーヤとガルーの体が、わずかにぶつかる。運動部の精鋭たちは、その隙を見逃さずにカラーボールを投げた。
「やった、変質者にあたったぞ」
ガルーの体操着は、蛍光グリーンで汚れていた。
『そう思ったんだったら、こっちの思うつぼだぜ』
ガルーは体に巻きつけていた、カーテンを放り出す。さっきまでのブルマ姿は、あくまでも投影である。本当のガルーの姿は、いつもと同じだ。だが、生徒たちはガルーを警戒していた。
「……あの変態。絶対に、なにかしてくるぞ。あれか、今度は脱ぎ出すほうこうなのか」
「えっ、俺様は脱がないって。着ることはあっても、脱がないぜ」
それをやったら本当の変態だろう、とガルーは弁明するも生徒たちは信じなかった。
「やれる事は全部やるのです。征四朗は負けるわけにはいかない! だから……」
征四郎は、後ろからガルーを思いっきり押した。
「うわぁぁぁ。全裸になる予定の変質者がこっちに来た――!!」
『全裸にはならねぇっていってるだろ――!!』
場は、混乱していた。
『オリヴィエも学校に行ってみればいいのに。こういう皆で馬鹿するの、きっと楽しいよ』
リュカは実に楽しそうに混乱する場の空気を聞いていたが、オリヴィエは見ている限り楽しそうと思えなかった。むしろ、とても大変そうである。
「やっぱり。変質者の役だったら、プリプリを着るべ……」
『絶対に、着ない』
着るべき、と言いかけたリュカをオリヴィエは全力で拒否する。
『文化祭とかの学校行事は、男子の女装で盛り上がるものなんだよ』
リュカは力説するが、オリヴィエはその話を聞き流した。興味を抱きたくなかったし、それにもうすぐ作戦の時間である。
ブブブブッ……ガッシャーン。
どこからか、バイブの音が聞こえて何かが倒れる音が響いた。
それはリュカが事前に仕掛けておいた、罠であった。携帯と箒をバケツの中に入れて、バイブの振動で箒が倒れるようにしたのである。思った通りに音は良く響き、生徒たちの注目はバケツへと注がれた。
「しまった! 皆、変質者を見ろ!!」
高校生の一人が叫んだが、もう遅かった。
「ハーイ、油断大敵だよ!」
リュカの行動は、素早かった。
高校生の注目がバケツに注がれている内に校長室へと侵入し、旗を頂いてしまったのである。
「さて、最初に宣言した通りに男子諸君にはプリプリを着てもらうからね」
『やだ、仲間増やす? 増やしちゃう?』
リュカにアイスをおごってもらった男子生徒たちは、のちにこう語る。
わくわくしていたガルーとリュカの背後には、般若の顔をした征四郎とオリヴィエがいたのだと。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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